バイト先の先輩の娘さんとの、波乱万丈な恋物語・番外編13 サイレント・ヴォイス

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マー坊とせっちゃん、「バカ夫婦」のエッチな体験談に多数の続編希望を頂き、激裏GATE-エロティカの数少ないバカ夫婦のファンの皆様には何時も心から感謝致しております。m(__)mペコリ

相変わらず読みづらい、拙い乱文では有りますがマー坊とせっちゃん、そして子供達の結婚生活物語をお楽しみ下さいませ。

尚、予め御断りしておきますが今回はマー坊とせっちゃんのエッチは無しで御座います。御了承下さいませ。

登場人物スペック

「誠人❝マー坊❞」→洋食レストランで働いている、仮性包茎でちっぱい好きなコックさん。せっちゃん命のクソ真面目な一穴主義者。

「節子❝せっちゃん❞」→20歳で3人目の赤ちゃんを妊娠した、輪姦被害経験の有るアニメ顔のちっぱい幼妻。マー坊命のちょっぴりヤキモチ妬きな一棒主義者。

「鉄さん」→誠人が働く洋食レストランの先輩コックにして、節子の父親。厳つい強面で、仕事には滅茶苦茶厳しいが孫達にはジジバカ全開の根は良い人。

「真奈美」→誠人の腹違いの妹で、巫女さんのアルバイトをしながら看護師を目指して勉強中の医大生。

・・・

午前6時。

先ず俺の携帯電話からアラームが鳴り響き、次いで電波式の目覚まし時計が俺に起床を促す。

「もう…朝かぁ…」

俺は幸せそうに熟睡している美花子と早矢斗を起こさない様に掛け布団から抜け出すと、パジャマから普段着に着替え…そしてトイレで用を足すと手を洗い、台所へと向かう。

「おぅっマー坊…お早うさん」

リビングでは何時の間に起床したのか、鉄さんがテーブルで緑茶を啜りながら朝刊に目を通している。

「鉄さん…御早う御座います」

俺は鉄さんに起床の挨拶をすると先ずリビングに設置された大きな仏壇と、お地蔵様が安置された小さな仏壇に手を合わせる。

アルコールを手に良く擦り込み…やかんでお湯を沸かすと緑茶で喉を潤す。

洋食レストランでアルバイトを始めてから約8年…立場は「先輩と後輩」から「義父と婿」に変わったが、未だに鉄さんと一対一の場面では背筋が自然にピンとする。

「それで…マー坊。節の…お腹の赤ちゃんは、どうするんだ?」

朝刊をテーブルに置いた鉄さんは…真剣な表情で、俺に語り掛ける。

「自分としては…❝産んで欲しい❞のが9割…と、せっちゃんが苦しみから解放されるのならば…その、❝堕ろして欲しい❞…が…1割、ですね…」

妊娠が判明してからのせっちゃんは…表現はあまり宜しく無いが、口に入れたものは片っ端からリバースする文字通りの❝マーライオン❞状態。

肉も魚も関係無し、水道水すら口に含んだ瞬間に胃液共々リバースする余りにも激しいつわりに…俺はせっちゃんを半ば強引に病院に連れて行ったところ。

悪性のつわりである…「妊娠悪阻」と診断され、強制的に入院と相成った。

「この際です…栄養バランスが滅茶苦茶でも構いません、インスタント食品でも冷凍食品でもお菓子でも良いので兎に角…奥様が食べられるので有れば…食べさせてあげて下さい…」

と、かかりつけの産婦人科の女医さんは俺にそう告げると。

声を潜めて…こう続けた。

「命を守る医者として…こういう事は言いたく無い、のですが…この状況が来月まで続くので有れば…最悪、❝人工妊娠中絶手術❞も考えなくては…ならなくなるかも、しれません…」

「じ…人工妊娠中絶…」

「はい…人工妊娠中絶手術が可能なのは21週目まで、なので…タイムリミットは、約1月後、ですね…」

「そんな…」

「旦那様…私も正直に言えば、こういう手段は取りたく有りません。ですが…奥様は文字通り、学術論文の具体例として報告出来る程の凄まじい妊娠悪阻です…」

「・・・」

「更に言えば…我々も18週を過ぎた胎児を中絶するのは…こういう事を言うのは何ですが…医者としてもしたく有りません…ですが、母体の危機とお腹の赤ちゃんを天秤に掛ければ…」

「あのっ!自分からすればせっちゃんの命もお腹の赤ちゃんの命も、どちらも大事なんですっ!これじゃあまるで…高倉健の❝唐獅子牡丹❞じゃあないですか!」

「…残念ながら、その通りですね」

「…え?」

「21世紀に入ってからは…つわりで死亡するケースは極めて稀ではあります…しかし先程も言いましたが、今回の奥様の妊娠はまさに文字通り、❝極めて稀なレアケース❞に当て嵌まりますね…」

「・・・」

「この状態を放置して…母子共々天に召されるか…赤ちゃんを犠牲にして母体を救うか…」

「…先生、すいませんでした」

「いえいえ旦那様、お気になさらず…旦那様が奥様、そしてお腹の赤ちゃんを大切に思っているのは良く伝わってきましたから…ですが、妊娠悪阻は未だにその原因が不明な❝未知の病❞なんです…」

「・・・」

「旦那様…奥様の妊娠悪阻は…❝奥様を愛する思い❞だけでは、どうにもなりません…」

「・・・」

「正直、私としても非常に酷では有りますが…お腹の赤ちゃんをどうなさるのか…奥様が退院されたら良くお話をなさって下さいませ…」

「…分かりました」

…と言う訳で、せっちゃんは今も入院中。

この春から幼稚園に通い始めた美花子の送り迎え及びお弁当作りは現在、自分が担当している。

勿論、この様な状況では夫婦の営みなどもってのほか。

せっちゃんは気丈に「誠人さんが我慢出来ないなら…その、夜のお店…行って良いよ…」等と言ってはくれるものの。

俺は何だか「せっちゃんと苦しみを、等分に分かち合わなければならない」と言う厨二病的思考に陥ってしまっていた。

従って…溜まりに溜まった欲望と赤ちゃんの素はひたすら自家発電で処理する日々。

一度…通弘さん、灯里さん宅を美花子、早矢斗と訪れた際に納戸でお二人が青姦しているのを偶然見てしまった際には…自分でも信じられない位多量の赤ちゃんの素を、僅か数回のセルフ手コキで発射してしまったほどだ。

閑話休題。

「マー坊…」

「鉄さん…」

「おめぇは出来るだけ…節の事を考えてやれ。美花子ちゃん…早矢斗くんは俺と母ちゃんがおめぇのお袋さん共々、出来る限りの面倒見るからよ」

「すいません…鉄さん」

「構やしねぇよ、マー坊。❝困った時は御互い様❞、だろ?」

「は、はい…」

「鉄さん…誠人、御早う御座います」

「おぅっ…美佐代さん御早う御座います!」

「お袋…お早う」

「おとーたん…おはよーございまちゅ…」

「あ…美花子御早う御座います」

「おとーたん…おかーたん、まだびょーいん?」

「うん…まだ病院。そうだ美花子…今日、幼稚園が終わったら…お父さんと、早矢斗と一緒に御見舞いに行こうよ」

「うんっ!みかこ、おかーたんのおみまいいくっ!」

「おぅっ、マー坊。美花子ちゃんの弁当は俺が作っておくから…おめぇは美花子ちゃんの送り迎えを宜しく頼むぞ」

「鉄さん、本当にすいません…」

「構やしねぇよマー坊。マー坊だってたまの休日、ゆっくり骨休めしてぇだろ?」

「有難う御座います…」

「ねーねー、じーじー…みかこのおべんとーにうさぎさんりんごいれてー♡」

「お安い御用だ、美花子ちゃん!ほらほら美花子ちゃん、じーじがうさぎさんりんご切ってくからよーく見てろよな!」

「わーい、じーじしゅごーい♡」

・・・

「千夏先生…本当に有難う御座いました」

「…誠人クン。せっちゃんのお腹の赤ちゃん…どうするつもりなの?」

と、ひよこさんのアップリケが縫い付けられた、可愛らしいエプロンを纏った千夏先生が声を潜めて俺に話し掛ける。

「勿論…最善策を探って産んで貰おうと思ってる。けど…」

「…けど?」

「せっちゃんが❝堕ろす❞と言ったら…その時は…」

「私もさぁ…子供が大好きだからこうやって保育士、って道を選んだから出来れば堕ろして欲しくは無いけれど…」

「今回は❝妊娠悪阻❞って激レアケースらしいからな…」

「兎に角…誠人クン。せっちゃんに…寄り添ってあげて。せっちゃん…最近相当思い詰めていたみたいだから…」

「と…いうと?」

「いやね…せっちゃん、学歴コンプレックスを拗らせちゃってるみたいだったのよ。美花子ちゃんのクラスのママさん達…❝中卒乙❞とか❝出来婚乙❞とか…有る事無い事言ってるみたいなのね…」

「なん…だって…」

「まぁ…今のところは菫さんが〆てくれてはいるみたいなんだけど…これ以上せっちゃんの悪口を広める様なら…弁護士さんとかに入って貰って、法的措置を取って貰わなければならなくなるかもね…」

「許せねえな…なんで中卒ってだけで、そこまでいじめられなきゃならねぇんだよ…」

「結局…❝マウントを取れるサンドバッグを見付けた❞ってノリなんじゃないかしら…?まぁコッチとしても目に余る行為に及ぶ様ならば…園長先生と顧問弁護士の先生に入って貰うから…」

「済まねえ…千夏」

「良いって良いって!それじゃあ美花子ちゃん、また明日ねー!」

「ちなつしぇんしぇい、ばいばい!」

「それじゃあ美花子。病院に居るお母さんの御見舞いに行こうか!」

「おとーたん。おみやげ…どーする?」

「あ…御土産の事、すっかり忘れてた。それじゃあ、そこの洋菓子屋さんで御土産買って行くか!」

「うんっ!みかこ、あのおみせのいちごけーきだいしゅき〜!」

そして俺達親子は洋菓子屋さんに入店。

「いらっしゃいませ!」

「あ…すいません。ゼリーの詰め合わせセットを御願いします」

「ゼリーの詰め合わせセットですね。少々お待ち下さいませ!」

「あ…誠人さん、どうも今日は」

「あ…岳志さん、どうも御無沙汰してます」

大学時代…「自分探しの旅」で中東を訪れた岳志さんは、現地で紛争に巻き込まれつつも逞しく生きる人達と触れ合ううちに「資産防衛こそが自分のやるべき仕事」と覚醒。

猛勉強に次ぐ猛勉強で見事に志望の証券会社の内定を勝ち取り、この春から俺達バカ家族の資産運用を担当して貰っている、という次第だ。

閑話休題。

「あの…鞠子から聞いたんすけど、奥さんが酷いつわりで入院されてるん…でしたっけ?」

「…はい、そうです。今から病院に行こうと思って、御土産を買って行こうと…」

「チョコレートショートケーキのお客様、お待たせ致しました!」

「あ…すんません、これでお釣り下さい」

「ハイ…お釣りで御座います。お買い上げ有難う御座いましたー!」

「わーい、ちょこれ〜とけーきしゅっごいおいちそー♡」

「あはは…美花子ちゃん、その喋り方祥子そっくりだなぁ…」

「え…その、祥子さんって…」

「8年前に…天に召された俺の妹です。今日が命日なんで…今からお墓参りに行こうと思いまして…」

「命日…」

「ゼリーの詰め合わせセットのお客様、お待たせ致しましたー!」

「はい、これでお釣り御願いします」

「お買い上げ、有難う御座いましたー!」

俺達と岳志さんは店を出て、駐車スペースで雑談に興じる。

「そんな病気が、有るんですか…」

「ええ…祥子も最後は色んな測定機器を身体中に取り付けられて…そんな中で❝お兄ちゃん、ケーキ食べたいなー❞って…」

「・・・」

「それで…土砂降りの大雨の中、お菓子屋さんを駆けずり回って…売れ残っていたチョコレートショートケーキを買って来て、祥子に食べさせてあげたんです…」

「・・・」

「❝美味しいケーキ食べられて、幸せ…❞って…それが、俺が聞いた祥子の最後の言葉でした…」

「岳志さん…」

「まさに文字通り…ケーキを食べ終えると同時に容態が急変しまして…次の日の早朝に、祥子は…」

「そう、だったんですか…すいません、辛い事を思い出させてしまって…」

「いえいえ…誠人さんの奥様のつわりの苦しみに比べたら…」

「おとーたん…」

「あ…美花子御免ね。岳志さんすいません、長々と引き留めてしまって…」

「こちらこそ…故人のお話にお付き合い頂き、本当に有難う御座いました」

「それじゃあ…岳志さん。祥子さんに宜しく、お伝え下さいませ…」

「誠人さんこそ…奥様の一日も早い回復を御祈りします。それでは…」

・・・

「せっちゃん今日はー。すいません、お邪魔しまーす」

個室の引き戸をノックすると俺は美花子の手を引き、ベッドで眠っているせっちゃんに歩み寄って行く。

「おかーたん、みかこだよー」

「おかーさん…」

「せっちゃん…お昼寝中かな?取り敢えず…このゼリーは冷蔵庫に入れさせて貰うか…」

「あ…どうも今日は。旦那様でいらっしゃいますか?」

「あ…はいどうも。節子の旦那の誠人です」

「どうも…御見舞い御苦労様です」

「それより…妻の様子はどうなんですか?」

「相変わらず、ですね…固形食を一切、受け付けない状態で…今は点滴と経口補水液、それに流動食でどうにか、栄養を補充している状態です…」

今まで気付かなかったが…せっちゃんのチャームポイントの、ふっくらとしたほっぺたはげっそりと肉が削げ落ち、看護師さんが脈を取っている左腕はすっかり皮と骨になってしまっている。

「せっちゃん…」

「兎に角…何を食べさせても患者さんの御身体が受け付けない状態でして…このままでは、お腹の赤ちゃんにも悪影響が出かねない状況ですね…」

「本当に、どうもすいません…」

「いえいえ…我々も、患者さんの為に最善を尽くしますので…」

と、そこで個室の引き戸がノックされる。

「すいません…お邪魔します。あら…旦那様、どうも今日は」

と入室して来たのは…まさについさっき、ゼリーの詰め合わせセットを買って来た洋菓子屋さんの店長の静さん。

「どうも今日は…静さん」

「すいません…巴とローゼスの皆さんから御見舞いを御願いされたもので…」

「そうでしたか…こちらこそすいません、ローゼスの皆さんにまで気を使わせてしまって…」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。私自身…この病院の喫茶店にウチのお店のケーキを納入する事になりまして、その打ち合わせのついでに御見舞いに足を運んだだけですから…」

「そうだったんですか…本当に有難う御座います…」

「その…奥様は❝妊娠悪阻❞だと、巴から聞きましたが…」

「はい…さっき看護師さんから❝固形食を受け付けない状態❞だと…このままではお腹の赤ちゃんすら危うい状況だとお伺いしました…」

「そうでしたか…」

「はい…」

「あの…誠人さん」

「はい…なんでしょうか、静さん?」

「参考になるかは分かりませんが…その、巴が妊娠した時も、やはり…母が激しいつわりに悩まされまして…」

「そう、だったんですか…」

「はい…私と巴は丁度、一回り年が離れていまして…」

「・・・」

「私自身、丁度2度目の反抗期に突入した時に巴の妊娠を知らされまして…❝そんな年の離れたきょうだいなんて恥ずかしい❞とか、今にして思えば酷い言葉を毎日の様に母に投げ掛けてまして…」

「・・・」

「今にして思えば、私、お腹の中の巴に…両親の愛情を持っていかれるじゃないかって…思っていたんでしょうね…」

「静さん…」

「それで…母は酷いつわりで家事もままならない状態に陥りまして…そんな時、アタシ…母に手作りのプリンを食べさせてあげたんです…」

「プリンを…」

「はい…言ってみれば、それが私のお菓子作りの原点、だったんでしょうね…」

「それで、お母様は…」

「お陰様で、無事に巴を出産しまして…私も…産まれたばかりの巴を見た瞬間、❝うわぁ、滅茶苦茶可愛い!❞って、今までのわだかまりも忽ち吹き飛びまして…」

「そうでしたか…」

「おねーたん、みかこねぇ、はやとだいしゅき!だからねぇ…こんどうまれてくるあかちゃんも…いっぱいかわいがってあげるんだよ!」

「うふふ…美花子ちゃん偉いねー」

「うんっ!みかこえらいっ!」

「ん…んんっ…」

「せっちゃん…せっちゃん?」

「あ…誠人さん…」

「おかーたん…おはよー♡」

「おかーさーん…」

「せっちゃん…気分はどう?」

「少し寝て…ちょっとだけ、楽になったかも…」

「節子さん…どうも今日は。静です…」

「あ…静さん、わざわざ御見舞い有難う御座います…」

「あの…巴とローゼスの皆さんから…❝御自愛下さい❞と伝えて欲しいと…」

「…有難う御座います」

「そうだせっちゃん。冷蔵庫に…静さんの洋菓子屋さんで買って来た、ゼリーの詰め合わせセットが入ってるから…良かったら食べてね?」

「誠人さん…有難う…」

「あら…?すいません皆さん、お店にお客様がいらした様なので…すいませんが失礼致します」

「静さん…御見舞い、有難う御座いました」

「節子さん…御自愛下さいませ。では、失礼します…」

と言い残して静さんは部屋から出て行き。

個室には…久し振りにバカ家族が揃い踏み。

「誠人さん…」

「せっちゃん…起きられる?」

「・・・」

せっちゃんは、無言で首を横に振る。

「せっちゃん…身体、起こすよ…」

俺はベッドのリモコンを操作して、せっちゃんの上半身がほぼ垂直になる様にベッドをリクライニングさせる。

「おかーたん…だいじょーぶ?おなかのあかちゃん…げんき?」

「うん…美花子、お腹の赤ちゃんはとっても…とは言えないけど、元気だよ…」

「よかった…みかこねぇ、おなかのあかちゃんがうまれたら、い~っぱいおなかのあかちゃんかわいがってあげるんだよ!」

「有難う…美花子…」

「せっちゃん…今、食欲は有る?」

「節…お腹ぺこぺこ…だけど、戻すのを考えると…あんまり食べたくないかも…」

美花子と早矢斗を妊娠していた時のせっちゃんはさほどつわりも大した事は無かったのだが…今回の妊娠では先述した様に食べたそばからリバースする❝マーライオン❞状態。

…とそこで、再び個室の引き戸がノックされた。

「はい、どうぞー」

「すいません、お邪魔致します…」

の声と共に、真奈美ちゃんが個室に入室してきた。

「真奈美ちゃん…今日は…」

「真奈美ちゃん、今日は…」

「お兄様、義姉様…御無沙汰致しております…」

「わーいわーい、まなみおねーたんこんにちはー♡」

「義姉様…お加減如何でしょうか?」

「まだ…しんどいかな…真奈美ちゃん…」

「義姉様…今の義姉様は、義姉様お一人の御身体では有りませんから…ゆっくりお休みになって、下さいね…」

「せっちゃん。❝妊娠は病気じゃない❞って言葉、知ってる?❝お腹の赤ちゃんを守れるのはせっちゃんだけ❞なんだから…え、せっちゃん、せっちゃん!?」

「はぁ…はぁっ…はぁ…はぁっ…」

「あ…あの、お…義姉様!?」

「せっちゃん!せっちゃん!」

と呼び掛けながら俺はベッドの枕元のナースコールボタンを連打する。

「あの…すいません、どうされましたか!?」

「看護婦さん、すいません!お兄様とお話をしていたら突然、義姉様が過呼吸気味になって…しまいまして…」

「分かりました…」

と返答すると看護師さんはリクライニングさせていたベッドを水平に戻すと…脈を取り始めた。

「患者さん…肉体的なそれだけではなく、精神的にも相当参っているみたいですね…」

「そんな…」

「兎に角。今は心も身体も穏やかにさせてあげて下さい…」

「…分かりました」

「本当に…申し訳有りません…」

「おかーたん…」

「それじゃあ…せっちゃん。俺達…ボチボチ帰るから。くれぐれも…身体を大切にしてね、せっちゃん」

「すいません…義姉様。私も…失礼致します…」

「おかーたん…ばいばい…」

・・・

「先輩…大丈夫ですか?目の下に…大きなくまが出来てますよ?」

厨房で仕込みの包丁を振るっていた俺は…辰也クンの呼び掛けに手を止め。

洗面台の鏡を覗き込むと…想像以上にどデカいくまが出来上がっていた。

「正直…大丈夫、って胸を張って言える状態じゃないな。美花子のお弁当作りに送り迎え…早矢斗のオムツ替えに寝かしつけ…」

「先輩も充分❝イクメン❞してると思いますけど…たまには❝手抜き❞しちゃっても良くないですか?頑張りすぎると奥様共々、潰れちゃいますよ…」

と、1児のパパである正樹クンが語り掛ける。

「手抜き…ねぇ…」

「誠人さんは真面目な性格ですから❝手抜きを良しとしない❞のは分かりますが…楽出来るところは楽しないと、取り返しのつかない事になりかねませんよ…」

と、シングルファザーの利章さんも正樹クンに同調する。

「皆さん…心配掛けて、本当にすいません…」

「マー坊…思いの丈を吐き出して、ちったぁ楽になったか?」

と、休憩室から出て来た鉄さんが俺に声を掛けてくる。

「鉄さん…」

「マー坊…おめぇも父親として良く頑張ってるよ。けどな…とっちゃんが言う様に❝手を抜かない❞事が❝良い事❞とは…決してイコールじゃあないんだな…」

「・・・」

「無論、結婚したら夫婦の事は基本的に、夫婦で解決しなきゃならねぇ。が…今回の様に夫婦2人じゃあ手に負えない事案はな…俺達他人に頼っていいんだよ、マー坊」

「本当にすいません、鉄さん…」

「勿論、金を出すのは最後の手段。だがな…お金以外の事だったら何でも頼ってきてくれよな、マー坊」

「…有難う御座います!」

「礼なんざ要らねえよ、マー坊。その代わり…」

と、そこで鉄さんは厳つい表情を緩め。

「3人目の孫が産まれたら…いっぱい可愛がらせてくれよなぁ、マー坊?」

「あ…は、はい…」

「鉄さん…顔、デレデレっすよ?まだ産まれてもいないのに…」

「うっせぇな、ノブノブ!まだ見ぬ孫を思い浮かべて何が悪ぃんだ、この野郎!」

「あはは…やっぱり鉄さんは、べらんめぇじゃないとなんか調子が狂っちゃいますよねー」

「ですよねー」

「おうおう、とっちゃんも言ってくれんじゃねーかよぉ!」

「すいません、今日はー!お野菜、配達に参りました〜♡」

「あ…灯里さん、どうも今日は!」

「おう…灯里ちゃん、どうも今日は!おいマッキーにタッチ、野菜厨房に運び込めやぁ!」

「了解しましたー!」

・・・

「…誠人さん」

「…せっちゃん、何?」

せっちゃんがなんとか体調を持ち直し…無事に退院した翌日。

美花子と早矢斗を寝かしつけた俺は…せっちゃんにリビングに呼び出された。

「せっちゃん…」

「もう…やだ…」

「…せっちゃん?」

「もう嫌だ、誠人さん!なんで節…完璧なお母さんになれないの!!!」

「ちょっと…せっちゃん!何言いたいのか分からないよ!」

「ぐすっ…誠人さんのお母様は…たった一人で…誠人さんを立派に育て上げたん、ですよね…」

「・・・」

「節も誠人さんのお母様みたいに…育児も家事も完璧にこなせるお母さんを目指してたのに…ううっ、ぐすんっ…」

「せっちゃん…」

「なのに、専業主婦の節は未だに…キャリアウーマンのお母様の足元にも及ばない…駄目なお母さん…」

「せっちゃん…何言ってんだよ!せっちゃんの何処が…駄目なお母さんなんだよ!」

「みんな…節の事を❝中卒の馬鹿女❞とか…❝畜生腹❞とか言ってるの…ううっ、誠人さん…こんな馬鹿な節と結婚した事…後悔してるでしょ…?」

俺は思わずリビングのテーブルを、平手でバーンと叩いていた。

「何言ってんだよ、せっちゃん!せっちゃんの何処が、馬鹿な女性なんだよ!」

「誠人さん…」

「少なくとも俺は!せっちゃんと結婚した事を、これっぽっちも後悔なんかしてねぇよ!俺がせっちゃんと結婚したのは❝せっちゃんがかわいそう❞だからじゃなくて、❝腹の底からせっちゃんが大好き❞だからだよ!」

「本当に…?」

「…本当だよ。俺はせっちゃんの事を…世界で一番愛しているよ」

「誠人さん…」

「・・・」

「・・・」

俺は2ちゃんねるで言うところの「パルプンテ」を唱えて…思わず赤面していた。

「それより…せっちゃん」

「…はい」

「…その、お腹の赤ちゃん…どう、するの?」

「…出来れば、産みたい…」

「・・・」

「でも…節…もう…耐えられない…」

「せっちゃん…」

「お母様にお父さん、お母さん、美花子、早矢斗…そして誠人さんに迷惑かけてばっかりで…節、節…」

「・・・」

「誠人さん…御免なさい…赤ちゃん…堕ろそうと、思う…」

「・・・」

「御免ね…赤ちゃん…せっかく、節のお腹に宿ったのに…ううっ、御免ね…本当に御免ね…ううっ…」

「せっちゃん…せっちゃんがそう決めたのなら…俺はせっちゃんの意思を尊重するよ」

「誠人さん…」

「その代わり…せっちゃん、一生をかけて堕ろした赤ちゃんに懺悔してあげて。それがお母さんとしての…せめてもの罪滅ぼしだと思う…」

「ぐすっ…分かった、誠人さん…」

「お腹の赤ちゃん…短い間だったけど、2人の赤ちゃんとして生きてくれて…本当に有難う。お父さんも…お母さんも…お腹の赤ちゃんの事は…絶対に忘れないから…」

「…誠人さん。次の健診の時に…お姉ちゃんに、謝りに行こう。❝せっかく宿った命を断ち切ってしまって、本当に御免なさい❞って…」

「…そうだね。そうしよう、せっちゃん…」

・・・

「すいません、●●寺に御願いします」

「●●寺ですね、承りました」

そして迎えた、定期健診の日。

俺達バカ夫婦は病院に行く前に、せっちゃんの家の菩提寺へタクシーで向かっていた。

「すいません…ここで宜しいでしょうか?」

「はい、有難う御座います。行くよ、せっちゃん」

「…うん」

俺達はタクシーの運ちゃんに料金を払うと、つづら折りの緩やかな坂道を登って菩提寺の山門へ向かう。

モータースポーツに詳しい方なら…富士スピードウェイの最終コーナーの道幅を思い切り狭くした様な感じと言えばイメージしやすいだろうか。

閑話休題。

俺達バカ夫婦は手を取り合い、曲がり角を曲がろうとしたところで。

突然、チャリンコが3台、しかもノーブレーキで俺達バカ夫婦目掛けて突っ込んで来たではないか。

「うわあっ!」

「きゃあっ!」

「くそっ、あぶねーなぁ!気をつけろよ、バ〜カ!」

なんとチャリンコに乗ったクソガキ共は御詫びも謝罪もせず…それどころか俺達バカ夫婦に悪態を吐き捨てて走り去って行った。

「何なんだ、あのガキ共…あっ、せっちゃん!?せっちゃん!?せっちゃん!?」

「んっ…んん…」

せっちゃんは両手でお腹の赤ちゃんを庇う格好で…坂道に倒れ伏している。

「せっちゃん!せっちゃん!せっちゃん!」

「ん…あっ、誠人さん…」

「せっちゃん!身体は大丈夫!?何処か強く打ったところは無い!?」

「取り敢えず…頭は大丈夫…」

「…そう。なら、良かった…」

「赤ちゃん…赤ちゃん…」

「…え?せっちゃん?」

「赤ちゃん…大丈夫…?」

「せっちゃん…どうしたの?」

「自転車が…突っ込んできた瞬間に…頭の中に❝危ない!❞って声がして…」

「…それで?」

「首筋を…強く引っ張られる感じがして…気が付いたら…お腹の赤ちゃんを、思わず庇ってたの…」

「…え?え?」

少なくとも…せっちゃんの右手を左手で握っていた俺が…咄嗟にせっちゃんの首筋を引っ張るのは…物理的に、且つ位置的に絶対不可能だ。

「せっちゃん…」

「誠人さん…節…やっぱり…産む」

「…え?」

「今、気付いた…咄嗟にお腹の赤ちゃんを庇ってたのは…もしかしたら…お腹の赤ちゃんが、節を守ってくれたのかもしれない、って…」

「せっちゃん…本当にいいの?」

「うん。節…なんだかんだでやっぱり…お腹の赤ちゃんを、大切に思っているんだ、って…」

「…せっちゃん。もしかしたら…守ってくれたのは、お腹の赤ちゃんだけじゃ…ないかもしれない」

「…え?」

「もしかしたら…季美子さんも…せっちゃんを守ってくれたのかもしれない…」

「…お姉ちゃんが…」

「…うん。❝自分の様な不幸な水子を…これ以上増やさないで…❞って、季美子さんからの…無言のメッセージだったのかもしれない、ね…」

「お姉ちゃん…」

「…取り敢えずせっちゃん。お地蔵様に…手を合わせに行こう。❝お腹の赤ちゃんが…無事に産まれます様に❞って…」

「…うん」

・・・

…そして、時は過ぎ。

しとしとと小雨が降りしきる6月。

二人三脚で妊娠悪阻を乗り越え…いよいよ3人目の赤ちゃんの出産…と相成った、のだが。

スピード安産だった早矢斗、少々手こずりはしたものの無事に産まれた美花子とは相反し…実に丸2日を要する、超の字が付く大難産となった。

「うう〜ん、ぐうぅんっ、ひゃうんっ…」

「せっちゃん…頑張って!俺はずっと…せっちゃんの側に居るからね!」

「おかーたん…ふぁいと…」

「おかあさん…」

「節!節!大丈夫かぁ!?節!」

「節!しっかりしなさい、節!」

「ひいっ…ふぅっ、ひぁうっ、はぁぁ…」

「母体の脈拍は!?」

「現在は正常値です」

「出血は?」

「産道から、微量ですが…」

「陣痛促進剤、用意して!」

「分かりました!」

「お母さんが赤ちゃんを産むって…文字通り、命懸けなんですね…」

初めてせっちゃんの出産に立ち会う看護師の卵の真奈美ちゃんは…出産を担当する産婦人科医達の言動に目を配りつつ、産みの苦しみに苦悶するせっちゃんを励ましていた。

「義姉様、義姉様…大丈夫ですよ、義姉様。義姉様には…お兄様と言う、素敵な旦那様が居るんですから…」

「ぐわうぉおおおおおおおおおおおおん…ぎゃあああああああああああああああ…」

「申し訳有りません、旦那様…妊婦さんの腰を優しく擦って頂けますか!?」

「擦るというと…こんな感じですか?」

「そうそう、その調子です!」

「それでは陣痛促進剤…投与します!」

「了解しました!」

「あんぎゃあおおおおおおおおお~ん…びぎゃああああああああああああ…」

せっちゃんは分娩台の上で…まるでウルトラマンに出てくる怪獣の様な凄まじい叫び声を挙げてもがき苦しんでいる。

「おかーたん…こわいよぉ…(;∀;)」

「おかあさん…(TT)」

「節子さん、いきんでいきんで…そうそう、その調子その調子!」

「ぐううっ…ぐうっ、ぐううぅぅぅ〜ん…」

「せっちゃん、頑張って…頑張って!」

「節!後一息だぁ、気合いと根性で頑張れぇ!」

「ぐううぅぅぅ…ひいいぃぃぃぃぃぃ…うううぅぅぅうううぅぅぅ…」

「あ…赤ちゃんの頭が見えました、もう一息、もう一息ですよお母さん!」

「義姉様!」

「せっちゃん!」

「んぁ、んぁ、んぁ…ぎゃあ、ぎゃあ、おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」

「あかちゃん…うまれた…」

「はい、お母様、お父様…それにお祖父様、お祖母様にお姉ちゃん、お兄ちゃん…と〜っても可愛らしい女の子ですよ〜」

と年配の助産師さんはへその緒を切断した3人目の我が子を俺達馬鹿家族と鉄さん御夫妻、それに真奈美ちゃんに披露する。

「せっちゃん…頑張ったね、せっちゃん…」

「節…良く頑張ったなぁ、節!」

「義姉様…」

「あ…誠人さん…」

「せっちゃん…赤ちゃん…」

「赤ちゃん…私…お母さんの節子だよ…これから、宜しくね…赤ちゃん…」

「あかちゃん…あたし…おねーたんのみかこだよ…これからいっぱいなかよくちようね…あかちゃん…」

「お兄様…赤ちゃん、凄く可愛いです…」

「誠人さん…あの時…赤ちゃん、堕ろさないで…本当に良かった…」

「え…」

「妊娠している時の苦痛に耐えかねて…赤ちゃん堕ろそうって、考えもしたけど…でも、赤ちゃんが産まれてきてくれて…本当に良かった…」

「節…お手柄だぞうっ!節っ!」

「あ…すいません、お祖父様すいません!産まれたばかりの赤ちゃんは極めて無防備なんです、抱っこしたいのは分かりますが抱っこは退院まで待って頂けますか!?」

「あ…あぁ申し訳ねぇ看護師さん!」

「それでは皆様…お母様の後処置を致しますので申し訳有りませんが退室して頂けますでしょうか?」

「…分かりました。それじゃせっちゃん…また後でね…」

・・・

「ねぇ…誠人さん…」

「せっちゃん…どうしたの?」

「あのね…節、妊娠している時に不思議な夢を、何回か見たの…」

「不思議な夢って…どんな夢なの?」

「顔が良くわからない…可愛らしいワンピースを着た小さい女の子が、節に話し掛けてくるの…❝止まない雨はないよ、明けない夜はないよ❞とか…」

「・・・」

「❝アナタには頼りになる人達がついているわ、頼れる人達は何物にも代えられない宝物だよ❞とかって…」

「それで…」

「産まれる前の日にも、その女の子が夢に出て来たの…❝苦しみを乗り越えられた人はより強くなれるから❞って…それで節、思わず聞いてみたの、❝あなたの名前は…?❞って…」

「それで…その女の子は?」

「たった一言…❝さちこ❞って…」

「(さちこってまさか…亡くなった岳志さんの…)」

「どうしたの?誠人さん?」

「あ…御免せっちゃん…」

「あの…節ね。産まれた赤ちゃんに…❝さちこ❞って名付けたいんだけど…駄目かな?」

「駄目な理由なんて有る訳無いじゃん。寧ろ❝さちこ❞って名付ける事で…その女の子への恩返しになるんだったら…」

「誠人さん…有難う…」

「それじゃ…どんな漢字を当てるか、2人で考えよっか」

「うんっ♡」

・・・

「それでは、ハイチーズ!」

スタジオ全体が派手なフラッシュ光に包まれると同時に…カシャッ!と業務用カメラのシャッターが切られる。

此処はローゼスのギタリスト、光さんの御実家の写真屋さん。

市役所に出生届を提出し…その足で春に花見をしているあの神社でお宮参りをしてきた俺達バカ夫婦は、光さんから誕生祝いとして手渡された「記念写真撮影割引券」を使って早速、記念写真を撮影している次第と言う訳だ。

閑話休題。

「それにしてもこの娘…中々の大物ですねぇ。アレだけ眩いフラッシュ浴びてたじろぎもしないなんて…」

「そうなんですか…」

「そうしましたら…1週間後位には現像上がりますので、その時に改めて御連絡致します…」

「それじゃ…すいません。コレ…」

「あぁ…ウチの娘がプレゼントしたアレですね」

「ハイ…巴ちゃんからは洋菓子屋さんの割引クーポンを、明日香さんからはビール券を、慶子さんからはゲーセンのメダルのサービスチケットを、そして美波さんからはお魚の下拵えのサービス券を、それぞれ頂きまして…」

ローゼスのメンバーは巴さん以外、皆御両親が商店街の関係者と言う間柄。

皆小さい頃からの幼馴染で、「ガールズバンドやろうよ!」「でもベースどうする?」「あたしベース出来るよ!」みたいなノリでローゼス結成に至った…と言う訳らしい。

またまた閑話休題。

「えーとすいません。赤ちゃんの名前は…」

「沙知子です。❝さんずいに少ない❞に、知ると書いて沙知子です…」

「沙知子さん…ですね。ハイ、承りました…」

「ばぶー、ばぶー」

「沙知子…沙知子…」

「あぁー、あぁー…」

「沙知子…可愛子ちゃんに写ってると、いいね…」

「はっはっはっ、そりゃあ間違いないですぜ!コレだけ素材がいい赤ちゃんなんだ、将来はお母さん似の別嬪さん間違い無しですよ!」

「・・・」

「あ…有難う御座います…」

「あぶー、あぶー…」

「それじゃせっちゃん。今日は久し振りに外食して帰ろうか?」

「良いんですか?誠人さん?」

「せっちゃん…たまには手抜きしたって良いと思うよ。月に一度の手抜きで、せっちゃんの心がリフレッシュされるんだったら…」

「誠人さん…有難う」

「それじゃ今日は…正樹クンのお父さんが板前さんやってる割烹に行こうか。あのお店で千鶴子さんが…仲居さんとして働いているらしいんだ」

「そうなんですか…」

「何でも割烹の女将さんが千鶴子さんを偉く気に入ったらしくて…凸して来た毒親を、口と実力で何度も追い返したって…」

「うわぁ…凄いですね…」

「それに俺自身…正樹クンのお父さんとの料理談義が楽しみでね。和食と洋食の調理法の違いや旬の食材の捌き方なんかの話を聞くと…俺自身、❝もっと頑張らないと❞ってやる気スイッチが入るんだよね…」

「うふふ…誠人さん、❝根っからの料理人❞なんですね…」

「そう…なのかもしれないなぁ…」

「あ…誠人さん、あのお店ですね?」

「うん、そう。…っとその前に…せっちゃん、ネクタイ曲がってない?」

「大丈夫ですよ、誠人さん♡」

・・・

…こうして。

俺達バカ家族にまた一人、新たな家族が加わったのであった。

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