バイト先の先輩の娘さんとの、波乱万丈な恋物語⑨ 翼をください

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前回の我ながら胸糞悪い体験談に多数の続編希望のお声を頂き、読者の皆様にはいつもながら大変感謝致しております。m(__)mペコリ

果たして、マー坊はせっちゃん共々、絶望の縁から這い上がれるのか?

後、今回の体験談は話の内容上、エロ要素薄めです。御了承下さい。

登場人物スペック

誠人(マー坊)→レストランでバイトをしている高校三年生。前回のお話で、DQN達に怪我を負わされる。

節子(せっちゃん)→中学二年生の二次元アニメ顔美少女。前回のお話で、DQN達に処女を奪われてしまう。

鉄さん→誠人のバイト先の先輩にして、節子の父親。厳つい強面で、仕事には滅茶苦茶厳しいが、根はいい人。

・・・

「ちょっと、誠人クン!その怪我、一体どうしたの!?」

九月一日の二学期初日。

左腕を三角巾で吊り、顎には手術の縫合跡が残る、痛々しい格好で登校してきた俺を見れば、千夏でなくてもそう言いたくなるだろう。

「・・・」

「誠人クン。何が有ったの?」

「・・・」

「ちょっと、誠人クン!」

「千夏、おはよー…って誠人!何なんだよ、その包帯!」

「…慎也、おはよう」

「一体、どうしたんだ!?おいっ!」

「…此処では、話せない。慎也、何処か三人きりで話せる場所を知らないか?」

「うーん、中庭か屋上、後は進路指導室くらいしか思い浮かばねぇなぁ…」

「なら昼休み、飯を食ったら進路指導室に来てくれ。そこで、全てを話す」

「…コレだけ聞いていい?もしかして、せっちゃんにも関わりが有るの?」

俺は無言でコックリと頷く。

「やっぱり…」

「せっちゃんって、一体…」

「夏休みの中盤くらいから、急にせっちゃんの携帯にメール送れなくなっちゃったのよ。もしかしたら、と思ったんだけど…」

「誠人…」

「・・・」

俺達三人は重苦しい空気を漂わせながら、教室へと向かって行った。

・・・

「許せない…」

「千夏…」

「何で…何であんないい娘が、こんな理不尽な目に合わなきゃいけないのよっ!冗談じゃないわっ!!!」

市民公園での一件を洗いざらい告白した俺に対し、千夏は思わず、せっちゃんを犯したDQNへの怒りをぶちまけていた。

無理もない。

同じ女性として、望まない形での処女喪失が如何に屈辱的、かつ絶望的なのかが容易に想像出来るからだろう。

「それで…それで犯人達はどうなったんだ?」

「その後…腹癒せに、ネット上にその時の動画や写真を拡散させようとしたらしいんだが…投稿したアカウントから警察に足が付いて、ソコから芋づる式に御用になったらしい。無論、そん時の動画や写真も、削除されたそうだ」

「良かった…コレで犯人が捕まらねぇ、とかなったら全く救いがねぇもんな」

「それで…せっちゃんは?まさか、妊娠とかは…」

「…膣内洗浄してからピルを投与した、って言ってたから…可能性は限りなく低い、と思うけど…コレばかりは時間が経たないと、分からない…」

「…そう、なんだ…」

「にしても、誠人。よくお巡りさんに見付けてもらったな」

「あぁ…俺との通話が途中で途切れたのを不審に思った鉄さんが、公園近くの交番に駆け込んで、お巡りさんを粘り強く説得してくれたらしい。あの防犯ブザーが無かったら…俺達は今頃、この世に居なかったかもしれないな…」

「誠人クン…」

「誠人…」

「・・・」

と、三人はしばし黙り込む。

「…誠人クン。辛いと思うけど、せっちゃんを、支えてあげて」

「あぁ。でも、支えてあげるって、何をしたら良いんだ…?」

「女の子はね、好きな男の子が側に居てくれるだけで、結構安心するの。まずは、せっちゃんに寄り添ってあげて…」

「寄り添ってあげて、か…」

「誠人クンはいつだって、せっちゃんの味方でしょ?大丈夫、誠人クンなら出来るって!」

「…すまねえ、千夏」

とそこで、ドアがノックされる。

「もしもーし、誰か部屋にいるのかー?今からこの部屋使うから、悪いけど出てってくれないかー?」

と、先生が呼び掛ける。

「すいません、今出まーす!」

との千夏の返答を合図に、俺達三人は進路指導室から退室する。

「おいっ、誠人。怪我は大丈夫か?」

「…大丈夫、と言いたいですけど…」

「何にしても、あまり無理はするなよ」

「分かってます…」

と言うと、俺達は教室へ戻って行った。

・・・

「で…誠人。バイトは、大丈夫なのか?」

「店長が見舞いに来た時、穴埋めに一人雇う、って言ってた。だからお店の方は問題無い、と思うけど…」

「後はお前の怪我の回復次第、と言う訳か…」

「…まぁな」

「…にしても、誠人。顎を骨折したって言ってたけど、その間食事はどうしてたんだ?」

「骨が完全にくっつくまでは全部流動食。もう二度と御免だぜ、あんな味気も素っ気も無い代物」

「あはは…それじゃ俺は練習に行くわ。じゃあな、誠人」

「それじゃな、慎也」

そして俺は怪我をして初めて、バイト先のレストランへと顔を出した。

「いらっしゃい…って、マー坊!怪我は大丈夫なのか?」

「先輩…この度はご迷惑をお掛けしました。どうもすいませんでした」

「何、気にするな。それより怪我はどうなんだ?」

「後二週間位すれば、肩の骨も完全にくっつくと言ってました。顎はまだ違和感は有りますが…普通に食事をする分には問題無いですね」

「そうか…それじゃマー坊、店長に顔出してこいよ」

「そうですね…分かりました」

と言うと俺は、レストランの事務所に向かった。

「すいません、誠人です…店長、いらっしゃいますか?」

「開いてますからお入りなさい」

「はい…失礼します」

俺は促されるままに事務所に入り、まるで❝スラムダンクの安西先生❞の白髪をロマンスグレーにした様な、小太りの店長が座っているデスクの前に歩み寄る。

「店長…この度はご迷惑をお掛けして、どうもすいませんでした」

と俺は、深々と頭を下げる。

「気にしないで下さい…君は愛しい彼女を守る為に、最善の行動をしたのです。気に病む事は有りません」

と店長は、穏やかな口調で俺に語り掛ける。

この様に一見、紳士的で穏やかな店長にあの鉄さんが何故、頭が上がらないのかは俺達従業員にとって❝このレストラン最大の謎❞である。

閑話休題。

「でも俺は…せっちゃんの処女を守れませんでした…」

「一対五で逃げなかっただけでも、大したものですよ…それに、誠人くんは何も悪く有りません…悪いのは、数の暴力で節子ちゃんを犯した奴等です…」

「店長…」

俺は何時の間にか、大粒の涙を流していた。

「誠人くん…男の子が泣くのは、決して恥ずかしい事では有りません…泣きたければ、泣きたいだけ、泣いて良いのですよ…」

「…店長!」

俺は右手で顔を押さえながら、ひたすら涙を流し続けた。

「せっちゃん…せっちゃん…」

「・・・」

「ぐすっ…すいません、店長…」

「誠人くん…泣いて、すっきりしましたか…?」

「ええ、はい…」

とそこで、ドアがノックされる。

「すいやせん、店長宜しいですか?」

「鉄さんですね…どうぞ」

と、鉄さんが事務所に入ってくる。

「マー坊…大丈夫なのか?」

「鉄さん…本当に、ご迷惑をお掛けしました。本当に…すいませんでした!」

「何、気にするな!オメェはやるべき事をやったんだ、何時までもクヨクヨするな!」

と言いながら、鉄さんは俺の背中を引っ叩く。

「…痛っ!」

「すっ、すまねえマー坊!大丈夫か!?」

「は、はい…」

「おうそうだ!オメェの穴埋めに雇った奴を紹介しなきゃあな!おーいノブノブ!こっち来い、こっち!」

と呼ばれたのは、ジャニーズ事務所に入所しても充分やっていけると思える程の、❝可愛い系❞の美青年。

「どうも始めまして!俺、信彦と言います。先輩、宜しくお願いします!」

「あ、どうも始めまして…誠人です。俺の穴を埋めてくれて、どうも有難う御座います!」

「いえいえ…俺なんて、まだまだっすよ。先輩、早く戻って来て下さいね!」

「鉄さんのシゴキはキツイと思うけど…俺が戻るまでの間、宜しく頼みます!」

「いやいや…大学の演劇研究会の稽古に比べりゃあ、鉄さんのシゴキなんか苦にならないっすよ!」

「え!?だ…大学生なんだ!?」

「え、えぇ、…あ、誠人さん、例え年下でもこの店では誠人さんが先輩ですから、俺の事は呼び捨てにして構いませんよ?」

「そ、それじゃあノブノブ…俺が戻るまで、宜しく頼むよ!」

「任せて下さい!そうだ誠人さん、何かご注文は有りますか?」

「あ、あぁそうだな…それじゃ、オムライスをお願いします!」

「オムライスですね?了解しました!」

と言うと、信彦は厨房に戻って行った。

「あの野郎、軟弱そうな顔に似合わず、中々根性の有る野郎でな…お前の穴埋めってのが勿体無い位だ…」

「いやいや…あんまり、せっちゃんに会わせたく無いっすね…」

「バーカ、節があの程度のイケメンに心揺れる様な尻軽だと思ってんのか?」

「いえ…そう言う意味で言ったんじゃ…」

「ホッホッホ…まぁ何にしても…この店にまた一人、強力な仲間が加わった、と言う訳ですね…そうだ、誠人くん。今回の一件で、必要な事が有れば、ウチの顧問弁護士さんを頼りなさい。必ず、誠人くんの力になってくれる筈です」

「店長…有難う御座います!」

「誠人さーん!オムライス、上がりましたーっ!」

「それじゃ店長に鉄さん、すいません。俺はコレで…」

と言うと俺は、カウンター席に出されたオムライスをパクつく。

…と。

アンダーリムフレームの可愛い黒縁眼鏡をかけた瑠璃子ちゃんが入店してきた。

「あ…誠人さん!え…どうされたんですか、その左手!」

「あ…その…コレは、ちょっと…」

「あの…節が急に学校早退しちゃって…」

「そ、早退?」

「このお店に来てないかな、と思って、来てみたんですけど…」

「おう、何だ瑠璃子ちゃん!どうした、何か食ってくか?」

「あ…お父さん!節が急に学校を早退しちゃって…このお店に…来てませんか?」

「そ…早退!?いや…店には来てねぇが…ちょっと待て、今家に電話入れてみる」

と言い残すと鉄さんは厨房へと戻って行った。

「誠人さん。節…夏休みに、何か有ったんですか?」

「うん…でも、今、此処では言えない。何処か、別の場所で…」

と言うと、鉄さんが戻って来た。

「マー坊に瑠璃ちゃん!節の奴、家に帰って来てたぞ。様子を見に行ってやってくれ!」

「分かりました!」

「それじゃすいません、失礼します!」

と言うと俺は瑠璃子ちゃんを駐車場へと連れ出し、市民公園での一件を告白した。

「そんな…」

瑠璃子ちゃんにはいささか衝撃度が強過ぎたのか、顔面蒼白になっている。

「瑠璃子ちゃん。この事は、絶対誰にも口外しないって、約束してくれる?」

「…勿論です」

「それじゃ、せっちゃんのお家に行ってみよう」

「…そうですね」

俺達二人は連れ立って、せっちゃんの家の呼び鈴を鳴らす。

玄関前まで送った事は何回も有るが、お邪魔するのは意外にも、コレが初めてだ。

「はい、お待たせしました。あら、瑠璃子ちゃんに、そちらの方は…誠人さん?」

と、ちょっと神経質そうだが目鼻立ちの整った、まだまだ奇麗なおば様が顔を出す。

「あ…どうも始めまして。自分はせっちゃんの…彼氏の、誠人と言います」

「こちらこそ始めまして。ささ、こんな所で立ち話も何ですし、どうぞお上がり下さい」

「それではすいません、お邪魔します」

と俺はせっちゃんのお母様に促されるままにリビングへと案内される。

その一角には大きな仏壇と…お地蔵様を安置した、小さな仏壇。

俺は思わず、小さな仏壇に右手で祈りを捧げていた。

(季美子さん、御無沙汰しています…この度は、せっちゃんをあんな目に合わせてしまい…本当に申し訳有りませんでした)

「あの…お地蔵様は…?」

「あ…瑠璃子ちゃんは御存知無かったかしら。実は…節は双子でね、そのお姉ちゃんが、あのお地蔵様なの」

「って事は…」

「察しはつくと思うけど…節のお姉ちゃん、季美子はお地蔵様と一緒に、私達を見守っているのよ」

「そう、だったんですか…」

瑠璃子ちゃんはそれっきり、すっかり黙り込んでしまった。

無理もない。

友人は出生時に、双子の姉と永遠の別れを経験し、そして夏休み中に輪姦されて処女を奪われた…。

中学生にはどちらか一つだけでも重過ぎる話なのに、二つを同じ日に聞かされたら、頭がどうかなっても仕方が無いだろう。

「それで…せっちゃんは?」

「あ…二階の自室よ。今、案内しますから…」

と俺達は二階へと案内された。

木製のドアには「節子のお部屋」と書かれた、可愛らしい表札が下がっている。

俺は深呼吸すると、意を決してドアをノックする、が。

返事が無い。

更にもう一度ノックしてみるが…。

やはり、返事は無い。

「…せっちゃん?誠人です。入って…良いかな?」

と呼び掛けてもやはり、返事は無かった。

「すいません…お邪魔します」

と、俺は恐る恐るドアを開け、瑠璃子ちゃんと一緒に、せっちゃんの自室に足を踏み入れる。

カーテンが完全に閉め切られたせっちゃんの自室は、多少空気が澱んでいる様に感じられた。

「…節?明かり、点けるよ?」

と瑠璃子ちゃんが、❝勝手知ったる他人の家❞と言った調子で照明器具のスイッチを入れる。

やはり女の子らしいと言うか、明るい色調のカーテンやクッション、そして一際目を引くのが大小様々なキティちゃんのぬいぐるみの山。

ざっと目に入っただけでも、軽く三十個近くは有るのではないか。

「…節?瑠璃だよ。ほら、誠人さんが来てるよ、節…」

と瑠璃子ちゃんがベッドに呼び掛けると。

ベッドの掛け布団がもぞもぞと動き出し、夏用の白いセーラー服を着たままのせっちゃんが顔を出した…次の瞬間。

俺の顔面に、突然枕が飛んできた。

「うぷっ!」

「いやぁぁあーっ!」

まるで何かに取り憑かれたかの様に、せっちゃんはヒステリックに俺に物を投げつけてくる。

パジャマ、靴下、キティちゃんのぬいぐるみ、ノート、筆記具、スリッパ…

「いやぁぁーーーっ!出てって!出てって!出てって!今すぐ、此処から出てってよーーーっ!!!」

せっちゃんは手元に、俺に投げつける物が無くなると、今度は大号泣し始めた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーん!」

俺と瑠璃子ちゃんは呆然と、せっちゃんを見守るしか出来なかった。

「節…」

「瑠璃子ちゃん…これじゃあ、せっちゃんに寄り添うどころの話じゃねぇな。今日のところは…ひとまず、退散しよう…」

「…仕方ない、ですね…それじゃ、節。また、来るね…」

俺達は部屋の照明の明かりを落とすと、一階のリビングへと戻って行った。

「どうもすいません…ひとまず、お茶でもどうぞ」

「こちらこそすいません…それじゃ、お言葉に甘えて…」

と言うと俺は、来客用の湯呑み茶碗に注がれた緑茶を一口すする。

「あの…お母様。節はずっと、あんな感じなんですか…?」

「ええ…退院してからはずっとあんな感じね。一日中部屋にこもって、出て来るのは食事とトイレの時だけ。主人も自分も、どう接したら良いのか、全く分からなくて…」

「…お母様。本当に…本当にすいませんでした!」

俺は自責の念に駆られ、思わずせっちゃんのお母様に深々と、頭を下げていた。

「俺がしっかりしてさえいれば…本当に

、本当にすいませんでした!」

「誠人さん…」

「・・・」

「俺のせいで…俺のせいでせっちゃんの処女が…いや、せっちゃんの青春が…ぐっ…ううっ…」

不覚にも俺は、再び大粒の涙を流していた。

「ううっ…」

「誠人さん。キツイ事を言う様ですが、泣いて、何か解決しますか?」

「…お母様!」

「あなたが自分に責任を感じているのは、痛い程理解出来ます。…ですが。それを今更蒸し返して、時間は戻りますか?節の処女膜は、元通りになりますか?大事なのは謝罪ではなく、❝コレから何をするか❞ではないですか?」

「・・・」

「節は何時も晩御飯の時、誠人さんの事を話題にしていて…❝誠人さんは、節の自慢の彼氏だよ!❞って、何度も言っていたんですよ。自慢の彼氏だったら、節の為に何を為すべきか、お分かりですよね?」

「…お母様。みっともないところをお見せして、本当にすいませんでした…」

「ホラ…だから謝罪は必要ないって言いましたよね。肝心なのは❝コレから何をするか❞、でしょ?」

「は、ハイ…」

「誠人さん…瑠璃子も微力ですけど、お手伝いしますね!」

「瑠璃子ちゃん…有難う。それじゃお母様。コレからは時間の許す限り、せっちゃんに会いに来ますね」

「いえ、こちらこそ…宜しくお願いしますね、誠人さん」

・・・

「典型的な情緒不安定、って奴ね。まぁ一日、二日でどうにかなるとは思って無かったけど…想像以上の長期戦になりそうね、誠人クン」

一週間後。

放課後、俺は千夏にせっちゃんとの一部始終を話した。

その答えが、コレだ。

「こういう時、本当に男って無力だな…って感じるよ。千夏」

「何言ってるのよ、誠人クン!この間も言ったけど、女の子は好きな男の子の側に居るのが一番安心するんだから!」

「でも俺は現に、せっちゃんに拒絶された…」

アレから毎日、俺はせっちゃんの部屋を訪れては物を投げつけられ、罵倒され、そして目の前で号泣される…の繰り返し。

コレを一週間も繰り返されたら…正直、心が折れそうになる。

「だから!一日二日でどうにかならないんだったら、時間を掛けるしかないでしょ!時間を掛けて、せっちゃんとの仲を作り直す以外に、方法有る?」

「…正直、ねぇな」

「だったら!やる事は一つ!何度でも再アタック!」

「・・・」

「せっちゃんから聞いたよ?中学時代、何度も何度も女の子に振られた、って…でも、振られた女の子を見返してやりたい一心で、料理や勉強頑張ったんでしょ

!?」

「あぁ…」

「しっかりしなさいっ、誠人クンっ!」

と言いながら千夏は、俺のおでこに人差し指を突き付けて、悪戯っぽく笑う。

「あぁ、そうだ。誠人クン、まさか女の子のお家に行くのに、手ぶらって事は無いよねぇ〜?」

「・・・」

「…あら、図星?誠人クン、サイッテー…とまでは言わないけど、案外、気の利かない男子だったんだ…」

(…そうか!その手が有ったか!)

そしてせっちゃん家。

「今日は、誠人です。せっちゃん、部屋に居ますか?」

「誠人さん、いらっしゃい。ええ、どうぞごゆっくり」

俺は最早、❝勝手知ったる他人の家❞といった感じでせっちゃんのお部屋へ向かい…ドアをノックする。

「今日は、誠人です。せっちゃん、起きてる?」

「…帰って」

「せっちゃん、そんな事言わないで。今日は、お土産持って来たんだ。ホラ、初デートの時に入ったピザ屋さん、覚えてる?」

「…だから、帰って!節…もう、誰にも会いたくないのっ!」

「せっちゃん…取り敢えず、ピザは此処に置いておくね。あぁ、それと…」

と言いかけた途端。

「い…いやぁ、いやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

と言う凄まじい絶叫が、室内から聞こえてきた。

「せ…せっちゃん!どうしたの、だ、大丈夫!?」

と俺は居ても立っても居られず室内に入り、せっちゃんに駆け寄る。

「いやぁぁあぁっ!来ないで、来ないで、お願いだからこっちに来ないでーっ!」

とせっちゃんは金切り声を上げながら、手近に有ったキティちゃんのぬいぐるみを、俺に手当り次第投げつける。

「せっちゃん、落ち着いて!」

と言うと俺はせっちゃんを強く抱きしめる。

「離れて!離れて!節から早く、離れてーっ!」

とせっちゃんは、普段の非力さからは信じられない程の馬鹿力で、掌底打ちやら平手打ちやらを、俺に浴びせてくる。

「イテッ!イテテッ!痛いッ!」

「離れて…ぐすっ、お願いだから…離れて…」

「せっちゃん!泣いてばっかりじゃ、何も分からないよ!」

「嫌だ…ぐすっ、こんな汚い節、嫌…」

「汚い!?せっちゃんの一体、何処が汚いんだよ!」

「節…脅かされて、男の人達といっぱい、セックスしちゃった…誠人さんに処女をあげる約束、守れなかった…」

「せっちゃん…そんな事、気にしないで!今はせっちゃんが生きてるだけで充分、幸せだから…」

「ぐすっ、誠人さん…こんな汚れてる、傷物の女の子なんて、嫌でしょ…?」

「誰が傷物だよ!誰が汚い女の子だよ!せっちゃん、二度とそんな言葉、口にしないで!」

「誠人さん…」

「悪いのは…悪いのは全部、せっちゃんを守れなかった俺だよ!俺が非力だったばっかりに、せっちゃんを…守れなかった…」

俺は…あの時の悔しさと怒りを、思わずせっちゃんにぶちまけていた。

「あの時、俺に慎也みたいな腕力が有れば…ちくしょう!」

俺は思わずせっちゃんの部屋のフローリングを叩き、男泣きに泣き出した。

「誠人…さん…」

「せっちゃん…俺に力が無かったばっかりに…せっちゃんの処女を守れなかった…本当にゴメン…本当にゴメン!」

「誠人さん…もう、謝らないで!」

「せっちゃん…」

「あの後、お巡りさんから聞きました…誠人さんが、節の携帯の防犯ブザーを鳴らして、居場所を知らせてくれたって…あの防犯ブザーが無かったら、誠人さんを見付ける事は出来なかったかもしれない、って…」

「あ…アレはせっちゃんを、そして自分自身を助けたくてやった事なんだ…最低だよ、俺って…」

「でも誠人さんが何もしなかったら…節、今頃あの人達のオモチャにされて、無理矢理愛の無いセックスを、何回もさせられてたかもしれない…」

「愛の無いセックス…」

「節、最初は痛いだけで全然気持ち良く無かった…」

「・・・」

「変なお薬飲まされたら、だんだん気持ち良くなってきたけど…でも、それ以上に怖くて、辛くて、それに…」

俺は思わず、せっちゃんを強く抱きしめる。

「うわぁぁぁぁーん!誠人さん、誠人さん、誠人さーん!」

せっちゃんはまたも大号泣し始めた。

「節、男の人が怖いの!お父さんと誠人さん以外の、男の人がとっても怖いのー!」

「せっちゃん…」

「ぐすっ…誠人、さん…」

俺達バカップルは泣き腫らした赤い瞳で、御互いを見詰め合う。

二人共心に傷を負い、そして互いに負い目を背負っている。

それを御互い、確認出来た事が、今日、せっちゃん家を訪れた収穫だろうか…。

「あ…そうだ、せっちゃん。コレ…返しておくね」

泣くだけ泣いた俺は、せっちゃんに初デートの記念に購入した、❝合わせストラップ❞の片割れを渡した。

「あ…コレって…」

「覚えててくれたんだ…」

「忘れる訳…ないじゃん…」

「警察に出してた❝このストラップは二人の思い出の品物だから、コチラに返して下さい❞って言う申請が、やっと通ってね。携帯電話は駄目になっちゃったけど、思い出の品物が無事に帰ってきて良かったよ…」

「誠人さん…」

「それじゃ、俺は帰るから。後…ピザ、良かったら食べてね?」

「誠人さん…バイバイ」

と呟くせっちゃんが。

一瞬、笑った様に見えた。

・・・

「痛え…」

俺は、夢を見ていた。

暴行される夢だ。

一方的に殴られ、蹴られ、頭突きを食らわされ…。

俺をいたぶっている不良達を率いているのは…せっちゃんだった。

そして、せっちゃんの必殺の金的蹴りが俺の股間を蹴り上げ…たところで目が覚めた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

時計を見ると…まだ二時半だ。

「最近…こんな夢ばっか見てるな…」

全身の冷や汗を枕元のバスタオルで拭うと、俺は再び眠りについた。

「やめて!誠人さん、節に何するの!」

今度は全裸にひん剥かれて床に押し倒されたせっちゃんが、俺を恐怖に歪んだ表情で見詰めている。

「ハアハア…せ、せっちゃん…」

そんなせっちゃんに俺は覆い被さり、戦闘モードに突入したズル剥けおちんちんを無理矢理オマンコに挿入すると、せっちゃんの意志を無視して激しくピストンする。

「やめて…!誠人さん、やめてぇー!」

「せ…せっちゃん、膣内に出すぞぉっ!」

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!

…股間の痛痒い放出感は、程無く気持ち悪さに変わっていく。

「ん…?・・・ゲッ、や、やっちまった…!」

トランクスに始まってパジャマのズボン、掛け布団、果ては敷き布団カバーまで白濁液でベッタベタになっている。

そう、所謂❝夢精❞だ。

しかも、時計を見るとまだ五時前。

俺は慌ててズボンとトランクスを脱ぎ、ティッシュでベタつく白濁液を必死に拭い去る。

「そう言えば最近、エッチどころかオナニーすらしてなかったからなぁ…」

と独り言を呟きながら新しいトランクスを履くと、バスタオルを引いた敷き布団に横になる。

退院してから俺は、性的な行為をする気になれなかった。

せっちゃんへの申し訳無さと、そしてそれ以上に性的行為に嫌悪感を感じて仕方なかったのだ。

「…にしても、せっちゃんをレイプしちまう夢を見るなんて…どうかしてるな、俺…」

と呟くと、俺はまた、浅い眠りに落ちていった…。

「誠人…最近、きちんと眠れてるか?」

結局、殆ど眠れないまま登校してきた俺の顔を覗き込みながら、慎也が心配そうに声をかける。

「最近、変な夢を見るんだ…不良やDQNに殴る、蹴るされる夢…逆に、俺がせっちゃんをレイプする夢…」

「それって…俗に言う❝フラッシュバック❞って奴じゃないか?」

「フラッシュバック…トラウマやら嫌な思い出が甦る、ってアレか…」

「なぁ…一度、きちんと診察受けた方が良くないか?お前が倒れたら、誰がせっちゃんを支えてあげるんだ?」

「せっちゃんを支える…」

「そうだぜ。スクラムだって、フォワード陣全員が互いを信頼し合って初めて100パーセント、いや、それ以上の力を発揮出来るんだ。せっちゃんの為にお前が頑張るのは分かるけど、お前が体調不良とかになったら元も子もないだろう?」

「慎也…心配かけて済まない」

「…困っている時に手を差し伸べるのが、❝本当の友達❞だろ?」

「本当の友達…」

「友達は数じゃない。質だよ。苦しい時、困った時に手を差し伸べてくれる友達が一人いれば、俺はそれで充分だ」

「…慎也。借りを一つ、作っちまったな」

「あはは…ま、気長に返してくれりゃあいいさ」

「ところで慎也。お前、急に大学進学に進路変更したのって、やっぱりラクビーにまだ未練が有るのか?」

「それが三分の一。親父が経営するスポーツジムの手助けする為に、スポーツ生理学を勉強したくなったのがもう三分の一。でもってもう三分の一が…千夏だ」

と言って慎也は、顔を赤らめる。

「今回のせっちゃんの一件で、急に千夏の事が心配になってきたんだ…アレだけ美形で、しかもプロポーション抜群となれば、世の男達は絶対、放っておかないだろうからな…千夏を」

「要は押し掛けボディーガード、って訳か…」

「あぁ…何処からどう見ても、❝美女と野獣❞って感じで、不釣り合いだってのは百も承知、してるけどな…」

「何言ってんだ。お前も俺達、バカップルに染められたか?」

「かもしれない…な」

と、噂をすれば影がさす。

「ヤッホー!慎也クンに誠人クン、おっはよー!」

「千夏、おはよー!」

「…おはよー」

「もー、誠人クン、最近元気無いよー?」

「有る訳ねーだろ、最近ロクに眠れねーんだから」

「…誠人クン。マジで一回、お医者さんに看て貰ったら?」

「…今、慎也にも同じ事言われた。❝お前が倒れたら、誰がせっちゃんを支えるんだ❞って…」

「あー、だったら…先ずは聖羅先生に看て貰ったら?」

「…そりゃ良い考えだな(棒読み)」

・・・

「すいません、聖羅先生居ますか?」

昼飯を食べ終えた俺は、保健室のスライドドアをノックした。

「ハイ、どうぞぉ〜♡」

とドアの向こう側から、無駄に色っぽい返答が返ってくる。

「それじゃ…失礼します」

と俺はドアを開けて、聖羅先生以外誰も居ない保健室へ入室して行く。

「あ〜ら…誠人クンじゃない。どうしたの、もしかしてせっちゃんと夫婦喧嘩でもしたの?」

と、保健担当の聖羅先生が軽口を叩く。

去年の学園祭での❝愛の告白コンテスト❞以来、すっかり俺達バカップルはこの高校の有名人に祭り上げられてしまい、その一挙一動が芸能人の様に取り上げられる始末。

閑話休題。

この聖羅先生は、この高校の悩める生徒達を導く、❝頼れるお姉様❞的存在…なのだが。

何処からどう見てもキャバクラのホステスさんにしか見えないド派手な風貌と、❝酒好き、煙草好き、下ネタ好き、BL大好き❞と言う、まるでエロゲのキャラがそのまま現実世界に飛び出してきた様な、どうしようもない人格故に、他の先生方からはあまり良い目では見られていない。

しかし。

❝普通の人生では到底経験出来ない事を体験して来た❞と言う自称は伊達ではなく、時折り放つ鋭い指摘はこれまで多くの生徒の羅針盤となってきた…らしい。

「いえ…喧嘩どころの話じゃないっす。聖羅先生、今から話す事を絶対誰にも口外しない、と約束してくれますか?」

「こう見えて、アタシ、口は堅いのよ。何か有ったの?」

と、巨乳の谷間を見せ付ける様に、聖羅先生は俺の顔を覗き込んでくる。

「実は…」

と俺は夏休みの市民公園での一件、そして俺とせっちゃんの現況を包み隠さずに聖羅先生に話した。

「慎也クンの言う様に、それは間違い無くフラッシュバックね…後で紹介状書くから、一回精神科でカウンセリングを受けてみて。内に秘めた思いの丈を吐き出すだけでも、結構楽になる筈よ」

と聖羅先生は、さっきまでのおちゃらけ振りが嘘の様な真剣な表情で、俺に語り掛ける。

「それとせっちゃんだけど…誠人クンの対応は、概ね間違ってはいないわね。今のせっちゃんは多分、❝生きる意味を見失っている❞状態だと思うの。❝自分に生きる価値なんか無い❞って、文字通り自暴自棄になって…」

「ええ…」

「誠人クン、せっちゃんのする事を否定してはダメ。せっちゃんの行動を、無条件で後押ししてあげて。学校に行きたく無いのなら、行きたくなるまで引きこもっていれば良いの。見知らぬ男の人が怖いのならば、怖くない男の人が側に居てあげれば良いだけの事。そしてセックスが汚らわしく感じるのならば、❝セックスってこんなに気持ち良いものなんだ❞って、教えてあげなくっちゃ♡」

「・・・」

俺は文字通り、❝顔から火が出る❞様なこっ恥ずかしい気分になっていた。

「残念だけどレイプされた記憶は、一生消し去る事は出来ないわ。でもそれを放ったらかして置いたら、後ろ向きな考えに支配されて、ますます悪循環に陥って行くの。レイプされた女の子がリストカットに走ったり、セックス依存症になったりするのは、❝生きている実感が欲しい❞❝誰かに必要とされたい❞❝心の痛みから開放されたい❞って、心の叫びなの」

「…その悪循環からせっちゃんを開放するには、どうすれば…良いんですか?」

「楽しい記憶を、上書きして行くしか方法は無いわ。❝今日はこんな楽しい事が有った❞って前向きな気持ちを少しずつ蓄積して行く事で、辛い思いを打ち消して行くの…」

「ええ…千夏にも言われました。❝長期戦になっても、焦っちゃ駄目❞だって…」

「フフフ…あの娘も分かってるじゃない」

「…今回の一件では本当に、アイツに助けられましたね。アイツが居なかったら今頃、どうなっていたか…」

「ウフフ…もしかして、千夏ちゃんに乗り換える気になった?」

「聖羅先生…。例え冗談でも、そんな事、言わないで下さい!」

と俺はガチで、聖羅先生を睨み付ける。

「アラアラ、そんな怖い表情しちゃって…でもその一言で、誠人クンが本当にせっちゃんの事を大切に思ってるって…再確認出来たわ」

「当然っすよ。だってせっちゃんは、俺みたいな男を本気で好きになってくれた、❝世界で一番、素敵な彼女❞ですから…」

「はいはい、ごちそうさまでした♡それじゃ誠人クン、下校する時に紹介状取りに来てね?」

「分かりました。それじゃ聖羅先生、失礼しました」

・・・

此処は、バイト先のレストランの休憩室。

「あ、先輩…宜しかったら、どうぞ」

と言いながら、信彦がウォーターサーバーのミネラルウォーターを、俺に差し出す。

「ノブノブ、有難う」

と俺は、久々のアルバイトでお疲れ気味の身体に水分を補給する。

基本的に厨房で働く俺達調理スタッフは、微妙に味覚が変化する為、勤務中のジュース類の摂取はNG。

鉄さんに至っては仕事の前日は絶対に、酒類は飲まない程だ。

必然的に、勤務中は無味無臭な真水以外飲めない事になる。

「しかし先輩…大変な事に巻き込まれちゃいましたね…」

「聞いたのか…みんなに…」

「ええ…分かるんです、自分も、元カノが、レイプ被害者だったんで…」

「え…」

「お付き合いを初めて半年位経った頃に告られたんです、❝私は昔、レイプされた❞って…」

「・・・」

「❝中学、そして高校、二回も男性に襲われて、滅茶苦茶に犯された❞、って…俺、それ聞いて、頭が真っ白になりました。なんて声かけて良いか分かんなくって…」

「それで…」

「今にして思えば、すっげー失礼な言い草なんですけど、❝被害者面うぜー❞ってなって…兎に角❝私にかまって❞って心の叫びを、受け止めてやれなかったんです…」

「そう、だったんだ…」

「だから、今回の誠人さんの一件、決して他人事と思えなくて…」

「それで、その彼女さんは…今?」

「分かりません…今、何処で何を、しているのかも…」

「そう、なんだ…」

「本当に、猛烈に後悔しています…なんであの時、❝そんな事気にすんな、俺が付いている❞って言えなかったのかって…」

「若さ故の過ち、と呼ぶにはあまりにも高過ぎる授業料だった、かな…」

「その通り、ですね…でも誠人さんは偉いですよ、そんな事が有っても彼女さんを好きでい続けられるなんて、中々出来ないですよ…」

「こんな俺を、腹の底から好きになってくれた❝素敵な彼女❞を裏切るなんて、俺には到底考えられないからね…」

「マジ格好良いっすよ、誠人さん!今だから言えますけど、❝二人で幸せになる事がレイプ犯に対する最大の仕返し❞じゃないすか!?」

「幸せになる事が一番の仕返し…」

「そおっすよ!」

「でも最近は、何だか❝せっちゃんの心に寄り添うのが、こんなに大変な事なのか❞、って思えてきちゃって、ね…クラスメートや保健の先生も協力してくれてはいるんだけど…」

「誠人さん…って、え?なんだろう?」

耳を澄ますまでもなく、厨房から先輩の皆さんが騒ぐ声がハッキリと聞こえてくる。

俺達がヒョイと厨房を覗き込んで見ると、揚げ物鍋から上がっていた火柱が消火剤を放り込まれて小さくなり、そして…鎮火した。

「鉄さん…大丈夫ですか!?」

「ああ、何とか…な」

と鉄さんは、呆然とした表情で呟く。

その表情には、❝鬼の鉄さん❞と恐れられた威厳は微塵も無い。

「おいマー坊!カニクリームコロッケ作り直すから、揚げる準備しておいてくれ!それとノブノブは、付け合わせ頼む!」

「…分かりました!」

と返答すると俺は揚げ物鍋にサラダ油を注ぎ直す。

すると。

厨房内の電話が鳴り響く。

「ハイもしもし、コチラ○☓です。…ハイ、ハイ…少々お待ち下さい。…鉄さん、奥様からお電話ですよ!」

「…おう」

と鉄さんは虚ろな表情で受話器を取る。

「もしもし…え?い、今…なんつった!?おいっ!」

その表情はお母様の通話内容と共に、みるみる驚愕した表情になっていく。

「分かった!何処の病院だ!?…おう、すぐ行く!」

と言うと鉄さんは、受話器を置いた。

そして。

「みんな、済まねえ…節が、俺の睡眠薬を大量に飲んで、自殺を図ったらしい…今から、病院に行ってくる!」

俺は思わず。

「鉄さん、すいません!俺も、付いて行って良いですか!」

と、鉄さんに叫んでいた。

「…頼む!」

俺達は二人して着替えるとタクシーを拾い、病院へ急行する。

そして。

俺達二人は、せっちゃんが眠っている病室へと案内された。

「しかしせっちゃん…なんで、自殺なんか…」

「瑠璃子ちゃんの話だと…節が久し振りに学校に行ったら、クラスメートに携帯で、明らかに節と思われる卑猥な画像を見せ付けられたらしいの…中には、ハッキリ表情や性器が分かる画像も有ったとか…」

「せっちゃんをレイプした連中がネット上にバラ撒いた写真を、クラスメートがダウンロードして…って事ですか!?冗談じゃないっすよ!」

「誠人さん…此処は、病院ですよ」

「あ…こ、興奮しちゃって、すいません」

「しかし…こんなイジメが許される様では二度と、あの学校には行かせられません、ね…」

「…当然ですよ」

…と俺は、両手を怒りで固く、握り締めていた。

「…マー坊」

「…鉄さん」

「済まねえが、節に付き添ってやってくれないか?オメェの方が、節が安心するだろうからな…」

「…勿論です」

「…お袋さんには、コッチから話しておく。頼んだぞ、マー坊」

「…分かりました」

「それじゃ、誠人さん。申し訳有りませんが…節を、お願いします」

と言い残すと、鉄さん夫婦は病室から出て行き。

俺達バカップルが、病室に残された。

(せっちゃん…どうして…)

俺は白雪姫の様にベッドで眠るせっちゃんの可愛い寝顔を眺めながら、考えを巡らせていた。

(なんでせっちゃんにばっかり、こんな不幸が次々と…季美子さん、なんでこうなるんですか…)

俺は思わず、せっちゃんの右手を固く握り締めた。

すると。

「う…ううん…」

せっちゃんが、意識を取り戻した。

「…せっちゃん!」

「…アレ?何で…何で、誠人さんが居るの?」

「良かった…生きてて…」

「じゃあ此処は…天国じゃないんだ…」

「うん。此処は病院だよ」

「嫌だ…」

「…せっちゃん!」

「もう嫌だ!節、生きていたって仕方がないもん!もう死にたい!死にたい!死にたいよぉー!」

俺は思わず、反射的にせっちゃんに平手打ちを浴びせていた。

「…誠人さん…」

「ふざけんなよ!もしせっちゃんが死んだら、俺はコレから、何を支えに生きて行ったらいいんだ、えぇ!?」

「だって節、もう生きる価値なんか無いもん!こんな嫌な事ばかり起きる世の中で、生きてなんかいたくない!早く死なせて!お願い!」

「分かったよ!その代わり…死ぬ時は、俺も一緒だ!」

「え…?」

「せっちゃんの居ない世界で生きて行くなんて、俺には到底耐えられない…せっちゃん、どうやって死にたい!?」

「誠人さん…」

とそこへ、騒ぎを聞き付けた看護婦さんが駆け付けてきた。

「ちょっと…一体、どうしたんですか!?」

「ああ、看護婦さんすいません…意識を取り戻した途端に、❝早く死にたい❞って言い出したもので、つい…」

すると看護婦さんは。

「自殺が未遂に終わった患者さんには良く有る事ですから…今から婦長さん、呼んできますね」

と言うと、ナースセンターへ早足で戻って行った。

「せっちゃん…どうやって死にたい?首吊り?入水?飛び降り?それとも…包丁でブスリが良い?」

「どれも嫌だ…節、苦しまずに楽に死にたい…」

「だから鉄さんの睡眠薬を持ち出した訳か…」

と、そこへ。

でっぷりした、迫力満点の婦長さんが入室して来た。

「一体、何事ですか?」

「実は…」

と俺は、コレまでの経緯を話す。

「節子ちゃん。生きたくても生きられない人の事を、考えた事は有りますか?」

「節、もう死にたい!生きていたくない!」

…と、話は完全に平行線。

業を煮やした俺は。

「すいません…二人きりで、腹を割って話をさせてくれませんか?」

「…良いでしょう。ただし、万が一の為に、外で待機はさせて貰いますよ」

と言い残すと、婦長さんは看護婦さんを伴って部屋から出て行った。

「…せっちゃん。さっき、❝一緒に死のう❞って言ったのは、半分以上本気だ。俺はせっちゃんにどれだけ癒やされ、慰められ、そして励まされてきたか…」

「それは、節だって同じだよ…誠人さんに励まされたお陰で、おっぱいちっちゃい事にコンプレックス、あんまり感じなくなったもん…」

「だったら、何故…」

「節のあんな恥ずかしい姿…日本中、いや、世界中の人達に晒されちゃったかと思うと、節、恥ずかしくて、怖くて、悲しくって…う、ううっ…うわぁぁぁぁぁぁぁーん!」

とせっちゃんは号泣し始めた。

俺はせっちゃんが泣き止むのを、ひたすら待ち続ける。

「ううっ…誠人さん…節、もう、学校にいられない…どうしたら、どうしたら良いの…」

「そんな学校、行く必要なんかねぇよ」

「え…?」

「そんなせっちゃんを大切に出来ない学校になんか、二度と行かなくて良いよ。嫌な事から逃げるのは、決して恥でも何でも無いよ」

「でも節のせいで、お父さんやお母さん、それに瑠璃や誠人さんに迷惑かかっちゃう…」

「何が迷惑なの?❝腹の底から好きな女の子を守りたい❞って考える事は、そんなに迷惑なの!?」

「だって誠人さん…節のせいで、変な人って思われちゃったら、節のせいだもん…」

「あのさ、せっちゃん!去年の学園祭の❝愛の告白コンテスト❞で、俺がせっちゃんに叫んだ言葉、覚えてる!?❝変態とかロリコンとか言われても、俺はせっちゃんの事が大好きだ❞って!!!」

「あの…此処は病院ですよ?あまり大きな声を出すのは、遠慮して貰えますか?」

と婦長さんが、ドアの向こう側から苦言を呈する。

「あ…す、すいません…」

「誠人さん…でも、節…」

「あのさ…せっちゃん。❝愛の有るセックス❞を経験しないで死ぬのって…勿体無いと、思わない…?」

「あ…愛の有る、セックス…」

「勿論、今の俺にせっちゃんを満足させられる自信はねぇよ…でも、❝愛の無い、気持ち良くないセックス❞しか知らずに死んじゃうなんて…本当に勿体無いと思わない?」

と俺は、穏やかな口調でせっちゃんに語り掛ける。

「でも、節…誠人さんに処女をあげる約束、守れなかった…」

「気にすんな…とは言えねぇよ。でもあの状況下で…他に選択肢が有ったと思う?もしせっちゃんが頑なに性交渉を拒否していたら…俺は早々に、死体になっていたかもしれないんだよ?もし俺がせっちゃんの立場だったら、彼氏を守る為にやっぱり、身体を捧げていただろうな…」

「・・・」

「せっちゃん。もし俺がDQN達に殺されていたら、どうなったと思う?」

「考えたくない…そんな事、考えたくない!」

とせっちゃんは、ヒステリックに叫ぶ。

「でしょ?せっちゃん、今の俺の気持ちが、ちょっとだけ分かったかな?」

「誠人さん…ぐすっ、御免なさい…本当に、本当に御免なさい…」

「せっちゃん…」

と俺達バカップルは、強く抱き合った。

婦長さんが、ドアの隙間から見守っている事にも気付かず。

「んっ、んつっ!」

と言う婦長さんの咳払いで、バカップルは我に返り、慌てて離れる。

「そこの彼氏さん…大したものですね。そこまでこの娘を深く愛するなんて、そうは出来ませんよ?」

「そりゃ、当然でしょう。だってせっちゃんは、俺の事を本気で好きになってくれた、❝世界一素敵な彼女❞ですから…」

「はいはい、ごちそうさまでした。この調子なら、明日か明後日には退院出来るかしら?あぁ、節子ちゃん。こんな素敵な彼氏を、裏切っちゃ駄目よ?」

「分かってます…だって誠人さんは…❝節の自慢の彼氏❞ですから…」

・・・

そんなこんなで。

俺達バカップルはひとまず、当座の危機を、どうにか乗り切ったので有った。

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