いずみ、今も忘れられない貴女へ。④(長編)

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(まぁ、これで十分だろ)

相手が日本拳法の全道1位だろうが、背後から刺せばそれで終わり。

俺の人生も終わりだけど、ケジメは取らないと。

刃渡りは20センチあればいい。どれだけ刺しても折れない程度に細く、丈夫で、両刃。

3万でお釣りが来た。

懐に忍ばせ、厨房に入る。

Aを探す。

(いきなりだ。いきなり刺すだけで会話は不要。動かなくなっても刺し続ける)

だが、姿が見えない。そういえば、ここ3日ほど見ていない気がする。

「あれ?Aさんまだ来てないんですか?」

「あー、あいつ、一昨日で辞めたわ。急にだぞ?信じらんねえ」

副料理長が答えた。

(え。辞めた?なんで?)

「どこかいい転職先見つけたんですかね?」

「いや、なんだか、実家に帰るとか行ってたな。よく分からんわ」

単なる偶然なのか、私がそう決意したことが伝わってしまったのか、今となっては確かめる術はない。言えることは、この日本で18歳で殺人犯にならなくて済んだ、ということと、奴からケジメを取るとこができなくなった、ということだけ。

まぁ、恐らくは、彼女が連絡したのだと思う。こんな偶然、そうそうあるわけもないだろう。

それから3ヶ月がたった。

ここには良い思い出はない。私には、いずみさえいれば良かった。

札幌での同棲にも2つ返事だった彼女。

私は最初小さな会社に勤め、その後20歳で自衛官に。

彼女は自動車ディーラーに勤めた後、ツアーコンダクター…添乗員となった。

そんな、まだ少し平和に見えた暮らしが、ちょっとづつおかしくなっていく。

彼女が実家から持ってきた荷物の中に、無数の音楽テープがあった。たまに私も聴かせてもらっていたのだが、その中に、混ざっていた。

一瞬たりともアダルトビデオの音声とは思わなかった。普段から耳にする喘ぎ声。聞き間違える訳がない。

青ざめる彼女。

「違うよ、これ、わたしじゃない。わたしこんな声してないし」

「ああ…もう、駄目だ…ああ…ごめん、いずみ…先に逝くよ!?」

「え、うそ、だめ!止めて、止めて!止めて!」

パンパンパンパンパンパンパン

「あああっ!わたしも、わたしも、あっ!一緒に、一緒に、一緒に…ぃ逝くう!」

無情にも流れ続ける彼女の声。

「な?」

なんだ。全然俺の方がマシなセックスじゃないか。彼女は男に合わせて声を上げているだけ。いつもの絶叫とはほど遠い。

…なんだ。ほんと、大したことない。

「ごめん。なんでこんなものが…」

普通に考えて理由は2つ。元彼が何らかの理由で…驚かせたかったのか、何かの仕返しなのか分からないが、その中に紛れ込ませた。もう1つは、プレイの一環として2人でそれを聞いて盛り上がっていた。そのどちらかだろうが、彼女の言葉を聞いたとしても本当のことかは分からないだろう。

ただ、どうやら、悲しいことに、彼女は他の男とのセックスを私に聞かせたかったし、私は彼女が他の男に犯されている様子を聞きたかったようだ。

そのすぐ後のセックスは、2人とも異常に興奮していたのだから。

終わった後、楽しそうに彼女は私に報告してきた。

「さっきみたいに、昔の男と比べてどうだ!とか言われながら責められると、めちゃくちゃ興奮するね…え?わたし変なこと言ってないよね??」

人の気も知らないで、コイツは何を言ってるんだ。

悲しくて、悔しくて、嫉妬して、苦しくて、切なくて、そんな気持ちで抱いている俺のことを、何も分かってくれない。

…いや、もしかしたら、彼女は本当の意味で分かっていたのかもしれない。自分の愛する女性が他の男に抱かれる姿を見ていたいという、そんな願望を心の奥底に私が持っていることを。

何年かたって聞いたことがある。

彼女が私とのセックスで1番興奮したのは、登別温泉ホテルの駐車場での立ちバック、らしい。次が、石狩浜海水浴場での他の車からライトで照らされながらのカーセックスだとか。

それを聞いても、(たまたま興奮していたタイミングだったのかな)くらいにしか私は思わなかった。

この時点で、彼女は普通ではないことに気付いておけば良かった。気付いて、私のまだ眠っていた性癖を開放できていれば、もっと違った結末もあったかもしれない。

…いや、気付いたとしても、彼女が他の男と作った子供の堕胎同意書に、騙されて私がサインすることになったのは、きっと変わらないと思うのだけれども。

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