ある日、お気に入りだった風俗嬢がボクの勤める会社に派遣としてやってきた

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「ねぇ、サキって、ホントの名前?」

本当のことなんて言う訳がないのに、馬鹿な質問だと思いながらも、何度か通って少し馴染みになっていたサキに聞いてみた。

サキは、シャワーでボクの身体を洗い流しながら微笑むと、ボクの問いに困る様子もなく答えた。

「ううん、源氏名だよ」

「ホントの名前は?」

「ゆき」

「どんな字、書くの?」

彼女はボクの手をとると、手のひらに指で”由紀”と書いて見せた。

結構リアルな答えが返ってきたので、ちょっと驚いていると、今度はボクが聞かれた。

「お客さんは?」

「え?」

「名前」

「あ、ボク?小柳」

咄嗟に聞かれて、思わず本名を答えてしまった。

ちょっと気まずくなって、話題を変えようとボクは由紀に聞いた。

「どうして、ここで働いてるの?」

「借金、あるから」

「どれくらい?」

「300万ちょっとかな」

由紀との会話はそんな風に始まった。

「ねぇ、早くしないと、時間終わっちゃうよ」

「うん、じゃ、お願いします」

由紀は、シックスナインの形になり、ボクのペニスをそのまま咥えると、ちょっと拙いフェラを始めた。

ボクも由紀の割れ目に舌を這わせ、陰核をやさしく、舌と唇で愛撫した。

いつもながら、見た目の綺麗さ以上に、由紀のそこは、鮮やかなピンクでとても綺麗だった。

しばらくすると、由紀はピクンと身体を震わせると言った。

「小柳さん、上手だね」

由紀のソコは少し濡れてきており、ボクは嬉しくなって続けた。

「ん、ん、ん」

ボクを咥えながら、由紀は徐々に気持ちよさそうな声を出し始めた。

「もう、いい?これ以上されたら、あたしがお仕事できなくなっちゃう」

由紀はそう言うと、ボクの返事を待たずに、上に跨った体制をやめて身体をボクの足の間に移すと、今度は手コキを交えたフェラを始めた。

若い子なので、テクニックは大したことはなかったけれど、一生懸命サービスしてくれているのはわかっていた。

限界に近づいてきたボクは、思わず呟いた。

「挿れたい」

そう言うと、由紀は前後に動かしていた首の動きを止めた。

「ん?」

由紀は上目遣いに、訊き返してきた。

ボクは由紀の両脇に手を入れて、ゆっくりと由紀の上体をボクの方へ引き寄せると、由紀は素直に身体を移動させてきた。

由紀の顔が目の前に来たところで、声に出さずに”いい?”と訊くと、由紀は一瞬困った表情をした。

背中に腕を回して引き寄せるようにすると、一瞬だけどボクの肩を押して突っ張ろうとしたが、由紀は直ぐに目だけで小さく頷いて、ボクの腕の中に入ってきた。

それから、ゆっくりとボクに手を伸ばし、自分の入り口に先っぽを押し当てると、ゆっくりと腰を沈めてきた。

「お店の人に言ったらダメだよ」

内緒話をするように、小声でそう言いながら、怒張しきったものが根元まで入ると、由紀は改めてボクに抱きついてきた。

女性の襞に包まれるのは、久しぶりだった。

由紀の中は柔らかくて、温かくて、ボクはそのままゆっくりと下から由紀を突き上げた。

奥に当たるたび、由紀は小さく『うっ』と声を漏らしてみせた。

久しぶりに女性の中に入ったボクは、あっという間に高まって、そのまま中に放出してしまった。

自分の中で男根が萎むのを感じ取った由紀は、『ふぅー』と深い息を吐きながら、ボクの上から降りると、ティッシュを股間に当てて、耳元で囁いた。

「ちょっと、待ってて」

それだけ言うと、シャワー室へと駆け込んでいった。

すぐに戻ってきた由紀は、タオルで手と身体を拭きながら、お絞りを一つとってボクにあてがうと、精液に塗れたボクをきれいに拭いてくれた。

「あと、10分だから、シャワー浴びてきて」

由紀はボクをシャワー室へと促し、匂いのつかない石鹸で萎えたものを洗ってくれた。

洗い終わると、バスタオルをボクに渡し、自分も改めてシャワーを浴びだした。

「先に着替えてて」

そう言われて、ボクは身繕いをしながら、枕元に心ばかりのお礼を枕に挟んでおいた。

“いい娘だよなぁ。テレビのコマーシャルか何かに出ててもおかしくない娘だよなぁ”

家に帰ってからもボクは由紀との時間を思い出しながら、一人でニヤニヤしていた。

薄い唇が富士山のような形で、アーモンドアイの美人だった。

ロングの髪は染めていなくて、カールの取れかけた毛先の辺りで、真っ白な肌に小ぶりのおっぱいが小さく揺れていた。

骨盤は少し張り出しているのだけれど、ウエストのところがキュッと締まっていて、モデルさんのように格好の良い女の子だった。

元気をもらったボクは、翌朝、珍しくパワー・マックスで仕事をしていた。

そのとき、総務の島田さんに声をかけられた。

「小柳さん、ちょっといいですか?」

顔を上げてみて、ボクは度肝を抜かれた。

そこには何と、”あの”由紀が立っていた。

「今日から、ここの事務を手伝ってくれることになった島倉さんです」

ボクは驚きのあまり、挨拶すらできずにいたのに、由紀は口角をキュッと上げて白い歯を見せると、元気に挨拶をしてくれた。

「おはようございます!よろしくお願いします!」

気づかないフリをしてくれているのか、本当に覚えていないのかわからなかったが、ボクの方は完全に動揺してしまっていて、首だけで会釈をするのが精一杯だった。

ろくに挨拶もできずに頭だけを下げると、由紀は島田さんに連れられて、次の人へと挨拶に向かって言った。

そう言えば、うちの女の子がしばらく前に、一人辞めてしまっていたのだった。

朝からマックスだったエネルギーレベルが瞬く間に下がり、活動限界を迎えたボクの仕事ぶりはいつものポンコツに戻ってしまった。

昼前になって、気を取り直そうと早めのランチに出かけることにしてエレベーターに乗ると、閉まりかけた扉が開いて、由紀が乗り込んできた。

ボクを見た瞬間、由紀は入り口のところでちょっと目を大きく開いて立ち止まって、少し驚いた様子を見せた。

けれども、そのままエレベーターに乗り込んでくると、行き先ボタンの並んだパネルの前に立った。

二人だけの空間に、気まずい思いをしながらも、ボクは彼女の方を見ずに恐る恐る聞いてみた。

「由紀ちゃん、覚えてる?」

「はい」

「名前、本当だったんだね」

「小柳さんこそ」

そういうとお互いの顔を見て、ちょっと笑った。

「驚いたよ」

「私もです」

そこまで話したところで、エレベーターは地上階に着き、扉が開いた。

由紀はエレベーターの開閉ボタンを押したまま、ボクを先に出させてくれた。

「失礼しまぁす」

ボクが降りるのを見届けて、背後からそう言うと、由紀はスタスタとボクを追い抜いて受付に向かい、仕事モードに戻っていった。

由紀とは、それから言葉も交わさないまま何日かが過ぎて行った。

ボクの方が由紀を避けていたのかもしれない。

すると、週末を前にして、ランチに向かおうと乗り込んだエレベーターで、またしてもボクは、由紀と一緒になった。

今度はボクたちのほかに、男性社員がひとり、乗り合わせていた。

営業のホープの田中だった。

田中はまだ三年目だというのに、営業成績がトップの男だった。

「小柳さん、いつも何を召し上がってるんですか?」

当たり障りのない話題で、由紀が話しかけてきた。

「大抵、向かいの蕎麦屋かな」

「え?あそこ、かなりイケてないですよね?」

隣で会話を聞いていた田中が、思わず顔を反対側に向けると方が震えて笑っているのがわかった。

「そうかな?」

「そうですよ」

エレベーターが停まり、一緒に乗っていた田中が途中の階で降りていったので、ボクは再び由紀と二人になった。

二人きりの空間に戸惑いながら、エレベーターの階を示すデジタル表示を見つめていると、由紀が話しかけてきた。

「小柳さん、やりにくいですか?」

「え?いや、そんなことは無いけど・・・」

しばらく沈黙が続いて、ボクは正直に言った。

「いや・・・、やっぱり”ある”かな・・・」

「・・・私、辞めましょうか?」

自分からそんなことを言い出すとは思っていなくて、ボクは驚いてしまった。

「え?いや、いや、そんなことしなくていいよ。由紀ちゃんさえイヤじゃなければ」

「私は平気ですけど・・・」

由紀は、少し遠慮がちにそう言った。

ボクは話題を変えようと、

「また、お店に行ってもいいかな」

と聞いてしまった。

“何をバカなことを・・・”

後悔したが、後の祭りだった。

ところが、由紀の言葉は、予想を裏切るものだった。

「お店だとお金がかかるから、外で会いますか?」

ボクに断る理由はなくて、ビックリしながらも頷いていた。

午後になって、由紀がさりげなく小さく折りたたんだメモ用紙を手渡してきた。

そこには、綺麗な、否、達筆といってもいい文字で、待ち合わせ場所が書いてあった。

“土曜日、18時半”

開いてみた紙には、待ち合わせ場所と共に、それだけが書いてあった。

待ち合わせ場所は、会社からもお店からも離れた繁華街のある駅だった。

正直なところ、ちょっと怖い気もした。

由紀のような綺麗な娘が、ボクみたいにビジュアル的にもビジネス的にもイケてない男に興味を持つはずがない。

美人局みたいにイカつい男でも出てきたらどうしようか、などと思って悩んだ。

しかし、美人に会う誘惑には勝てず、当日になると、ボクは約束の場所に出かけて行ってしまった。

約束の時刻よりかなり前から半信半疑で待っていると、由紀は白いブラウスにフレアスケート姿で約束の時間より少し前にやってきた。

その姿を見て、ボクはちょっとドキドキした。

その日の由紀は、お店で会った時とも、会社で会った時とも違って見えた。

由紀は、改札口の方向を指さすと、ボクが歩き出すのを促した。

歩きながら由紀はボクに話しかけてきた。

「来ると思ってなかった?」

「うーん、正直、来なくてもガッカリしないように、心の準備はしていた」

「あたしも、”小柳さん、いないかも”って、ちょっとだけ思っちゃった」

由紀はそう言いながら、ボクの顔を見上げると笑った。

天使のような可愛い笑顔だった。

「ここでいい?」

路地の少し奥まったところにある喫茶店でボクがそう言うと、由紀は少し驚いた顔をして見せたが、素直に頷いた。

「ホテルに向かってるんだと思っちゃった」

向かい合わせに座ると、由紀はストレートな物言いでボクにそう言った。

「え?何か、話したいことがあるんだと思ってた」

そう言うと、由紀はクスリと笑った。

「小柳さんらしいなぁ」

「どういうこと?」

「だって、あの流れで言ったら、風俗嬢が”外でエッチしましょう”って言ってることにならない?」

「そうかもしれないけど・・・、そうなの?」

「小柳さんなら、”いいかなぁ”って」

「どうして?」

「普通だったら、もっと露骨に嫌がるよね?」

「由紀ちゃんが会社に来て?」

「うん」

「そうかな?」

「こんなこと初めてだからわからないけど・・・」

少し沈黙が続いた後、由紀は再び口を開いた。

「最初は、何となくいい人かな、と思っていただけだったの」

「これは、どうも」

「でも、会社で一緒に働いていて思ったの」

「何を?」

「働いている人は、みんな優秀な感じがするけれど、人間臭いの」

「それ、ボクのことを言ってる?」

由紀が頷くのを見て、ボクは少し自嘲気味に言った。

「ボクは、世捨て人みたいなものだからね」

すると、由紀は小さく首を横に振りながら言った。

「笹倉さんが部長に叱られたとき、さり気なくフォローしようとしてたよね」

由紀は、購買部の女性社員の話をしていた。

「あぁ、あの人は入社直ぐの頃世話になったから。今でも綺麗だけど、あの頃はあの人も5年目ぐらいで、面倒見のいい先輩だったんだ」

それを聞いた由紀は目を少し細めると、ボクに言った。

「そういう義理堅いところ、好きなの」

「ありがとう」

「一緒にいると何だか、ほんわかするし」

「それって、褒めてるの?」

「褒めてるよ。だから、行こっ」

由紀に促されて、ボクたちは運ばれてきた飲み物に口もつけずに喫茶店を出ると、ホテルに向かった。

由紀は、お店のときを遥かに上回るサービスをしてくれた。

濃厚なフェラで極限まで勃たせたあとで、ボクの腰の辺りに跨ると、由紀は怒張したものを自分の亀裂に押し当てて、ゆっくりと腰を落としていった。

二十歳過ぎの女の子の肉襞は柔らかく、狭くて、ボクのは直ぐに活動限界を迎えた。

雄叫びを上げるようにボクのジュニアは大きく脈打つと、由紀の膣内に白濁液を思いっきり、吐き出した。

「ごめん、出しちゃった」

由紀は、自分の身体をゆっくりと前に倒してきて、ボクにチュッとして微笑むと、枕もとの箱に手を伸ばし、ティッシュをとって自分の股間に当てた後、更に何枚かのティッシュでボクの股間を拭ってくれた。

そのまま、ボクの隣に寝転んだ由紀は、仰向けのまま天井を見つめるようにして言った。

「一度、きちんとお話しておきたくて」

「うん」

「小柳さん、私が辞めた方が良かったら言ってね」

由紀は視線を天井からボクの方に移して言った。

ホテルにやってきてからは、会社に残るための”口止め料”的なエッチだと思っていたので、ボクはちょっと驚いた。

「いや、由紀ちゃんこそ、大丈夫?」

「うん、あたしは平気」

「居心地、悪くないかな?」

「うん。まだ慣れていなくて、他の部署の人とスパークしちゃうこともあるけど、あの会社、働き心地いいし」

「そうか」

「でも、あたしは派遣だから・・・」

ボクは由紀に気を遣わせているのが何だか申し訳なくて、話題を変えようと、彼女のことを聞いてみた。

「余計なお世話だけど・・・」

そう言いかけると、由紀は眉をちょっと上げて見せて、”なに?”という表情をして見せた。

「借金があるって言ってたけど、どうしてそんなにたくさんの借金をしちゃったの?」

「・・・」

「あ、ごめん。言いたくなかったらいいけど」

すると由紀は首を横に振って、

「ううん、一瞬、本当のことを言おうか、それらしい答えにしようか迷ったの」

と言って笑った。

「それで、どっちの答えを聞かせてくれるの?」

「うーん・・・、一応、ホントのこと」

ボクが目で先を促すと、由紀は少しずつ話し始めた。

由紀は訳あって父親の借金を背負わされ、もうあの店で3ヶ月ほど働いているとのことだった。

「それで・・・、それらしい答えだったら、どういう答えだったの?」

「うーん、”ブランド物を買い漁って”とか・・・」

「それって、逆じゃないの?」

すると、由紀は少し笑っていった。

「だって、小柳さん、いい人っぽいから」

「ぽいから、なに?」

「本当のことを言ったら、”会社を辞めてくれ”って言い難くなると思って」

「そうか・・・、お気遣い、ありがとう」

冗談っぽく言ったつもりだったけど、由紀は笑わなかった。

「それに・・・、同情とかされたりするの嫌だし」

その日、ラブホテルでわかったことは、由紀が北国の出身で、年齢は二十歳であること。

短大に通っていたが、父親が事業に失敗して、借金を背負う羽目になったこと。

借金返済のために、住んでいたアパートを引き払い、携帯電話も解約して、公衆電話を使っていること。

派遣会社への住所登録のために、友達の家に世話になっているが、そこももう出なければならないこと。

よくよく聞いてみると、由紀は借金の保証人になっているわけでも何でもなかった。

お人好しにも程があると思って、そう言った。

「親の借金は、子供の責任だから」

由紀はベッドから身体を起こしながら、殊勝なことを言った。

「お父さんとお母さんは、由紀ちゃんがこうなっていることを知っているの?」

由紀は、ベッドの傍らに置いたバスタオルを自分の身体に巻きつけながら、自分が天涯孤独の身であることをサラッと言ってのけた。

「どうだろう?草葉の陰から見て、知っているかな?」

由紀は、少し無理をして笑って見せた。

借金を残して、由紀の父親は、母親を道連れに、既にこの世を去っていたのだった。

それからは、会社の帰りや休みの日に、由紀とは何度か逢引のように待ち合わせては、肌を合わせた。

「ボクたちって、どういう関係なんだろう?」

気になって、由紀に訊いてみた。

その頃には、由紀のことばかりを考えるようになっていた。

由紀は、キョトンとした目をして、ボクを見上げた。

「恋人同士?」

試しにそう言ってみると、由紀は一瞬嬉しそうな表情を見せたが、直ぐに営業用の笑顔を見せると言った。

「そんなわけないじゃない」

ボクはガッカリしたが、傷つきたくなくて、それ以上は聞けなかった。

それでも、諦めの悪いボクは、それからまたしばらくして、セックスの後、二人で食事をしていたある土曜日の晩、由紀に聞いてみた。

「ねぇ、これから、うちに来る?」

由紀は、フォークの動きを止めると、少し驚いた目をボクに向けた。

「こんな得体の知れない女、家に入れちゃっていいの?」

ボクは苦笑するしかなかったけれど、

「ボクも、得体の知れない男だよ」

と言い返した。

「小柳さんは、違うよ。ちゃんとした会社で働いてるもん」

「でも、由紀ちゃんもそこへ派遣されてきて働いてるじゃん」

「それはそうだけど・・・」

そんなやり取りをすると、由紀は今度は本当におかしそうにクスリと笑った。

「ヘンな人」

その頃には、それが由紀のボクに対するある意味で、賛辞の言葉になっていた。

ボクの目から見ていても、由紀はきちんと躾を受けた普通の女の子だった。

親の借金のせいでああいうアルバイトをしているが、根は真面目でしっかりしていた。

仕事のオンの時とオフの時の言葉遣いも使い分けていて、うちの会社で働いていてもまったく違和感はなかった。

駅から歩ける距離のボクの家の前で、ボクたちは立ち止まった。

由紀は、ボクと家を見比べてから、ひと言聞いてきた。

「誰もいないの?」

「うん」

由紀はそれ以上のことは詮索してこずに、ボクが鍵を開けて扉を開くと、警戒する様子もなく入っていった。

玄関で靴を脱いでから、由紀はクルリと身体の向きを変えるとしゃがみ込んだ。

由紀は自分の脱いだ靴に手を伸ばすと、踵をきちんと下駄箱の方に向けて、揃えて置いた。

シャワーを浴びて、ベッドで待っていると、バスタオルを身体に巻いた由紀が髪を拭きながら、ベッドの端に座った。

スッピン顔の由紀は、何だか少し幼く見えた。

北国の女性らしく、肌は透き通るように白くて、ピンクの乳首とのコントラストが少しエロくて綺麗だった。

スタイル的には、どちらかというと貧乳だが、腰は細くくびれていて、手足は長くて格好いい。

後ろから、抱きしめようとすると、由紀はボクの腕をするりと潜り抜けて、部屋の入り口近くのスイッチを押しに行った。

パチンと音がして、部屋の電気が消えた。

それから由紀は、バスタオルをきちんと畳むと、ボクの脇に細い身体を滑り込ませてきた。

外でエッチは済ませていたので、黙ったまま由紀の胸に自分の胸をくっつけて、しばらく細い身体を抱きしめていると、由紀は無防備にもボクの腕の中で寝息を立て始めた。

ボクはひとり、苦笑いをすると、その日は彼女をそのまま寝かせた。

寝顔がとてもあどけなくて、可愛らしかった。

翌朝、目を覚ますと、由紀はもうベッドにいなかった。

トイレかバスルームにでも行ったのかと見に行ったが、どこにもいなかった。

咄嗟に、クローゼットにかけた上着の財布の中身を確認してしまったが、何も無くなっている様子はなかった。

洗面所には、由紀の使った新しい歯ブラシがコッブに立ててあったので、夢ではなかったようだ。

呆然としていると、玄関の扉が開く音がして、由紀が帰ってきた。

由紀は顔の三分の一くらいもある黒縁の眼鏡をかけていた。

ボクがジッと注いでいる視線を眼鏡の所為だと思った由紀は、言い訳をするように肩を竦めて言った。

「昨日、コンタクトを外すの忘れちゃって、目が痛いの」

少しでも由紀のことを疑った自分のことが恥ずかしかった。

ボクは、由紀の身体を引き寄せて強く抱きしめた。

「どうしたの、小柳さん。ひょっとして、この眼鏡に萌えた?」

あどけなく、そんなことを言っている由紀が愛おしかった。

由紀は朝食を作ろうと、近所のコンビニで買い物をしてきたらしかった。

「小柳さん、台所、借りるね」

ボクの腕をするりと抜けてそう言うと、由紀は、食パンをトースターに放り込み、フライパンに油を引いて、手際よくハムエッグを作ると、紅茶を淹れてくれた。

「あたし、ホントは紅茶よりコーヒーの方が好きなんだけど、この家、置いてないんだね」

「あ、ゴメン。ボクは、コーヒー、苦手なんだ」

「そっか、コンビニで買ってくればよかった」

トーストをかじりながら、由紀はそう言った。

「卵、一つ潰れちゃったから、小柳さんは、潰れてない方を食べてね」

そう言いながら、フォークを横にして、黄身が少し流れ出した卵を切って突き刺すと、大きく開けた口に運んだ。

「小柳さん、エッチせずに寝ちゃって、ゴメンね」

「いや、そんなの、いいよ」

本当は、もう一度したかったけど、がっついているように思われたくなくて、平気なふりをした。

「あたし、お店が10時からだから、9時過ぎには出るね」

食器を洗いながら、由紀がボクに言った。

前の晩に、由紀が眠ってから思いついたことがあって、ボクは由紀を押しとどめた。

「ねぇ、ちょっと調べてみたいことがあるんだけど」

「何?」

「今日はお店を休んで、借金の書類を見せてもらえないかな?」

「え、でも・・・」

「今日のバイト代、出してあげるから」

そう言ってお店に連絡を入れさせると、友達の家に置いてあるという書類を由紀に取りにいかせた。

由紀が戻ってきて書類を確認すると、それは闇金からの借り入れで、すぐに知り合いの弁護士のところに二人で駆け込んだ。

弁護士は、ボクが昔携わっていた仕事の関係で知り合った人で、休日なのにプライベートで会ってくれた。

案の定由紀に借金返済の義務はなく、これまでに肩代わりした分を取り戻すには時間が掛かるが、これ以上由紀が返済を続ける必要はないとのことで、悪徳金融には弁護士が話をつけてくれることになった。

帰りに立ち寄った蕎麦屋で、由紀は居住まいを正すとボクに言った。

「借金抱えてあの仕事始めたんだけど、ホントは後悔してたんだ・・・ありがとう」

由紀はそう言いながら蕎麦と鼻を同時に啜り、目から涙がこぼれた。

「わさび、入れすぎちゃった」

そう言って、照れ隠しのように笑った。

借金の返済は無くなったので、由紀にはその日のうちにあの店を辞めるように勧め、由紀はボクの言葉に従った。

もう店に足を運ばせるのは嫌だったが、義理堅い由紀は、きちんと話をして辞めてくると言うので付き添った。

予想に違わずコワイお兄さんたちが出てきて凄まれたが、由紀がその月の給金を諦めるということで、何とか許してもらえた。

借金からも風俗からも解放された由紀に、ボクは言ってみた。

「よかったら、ボクのうちで暮らさない?」

由紀は一瞬押し黙ったが、上目遣いにボクを見ると、遠慮がちに答えた。

「・・・いいの?」

「うん、でも会社には内緒だよ」

「それはわかってるけど・・・」

「けど?」

「・・・ううん、じゃあ、お世話になります・・・」

由紀はそう言うと、改めて首だけで、頭を下げて見せた。

ボクたちは、その日も途中まで肩を並べて家までの道を歩いていたが、家に着く頃には腕を組んでいた。

由紀の小さなおっぱいが、ボクの肘に当たっているのが、嬉しかった。

家の前まで来たところで由紀が言った。

「小柳さん、ホントに小柳さんって名前だったんだね」

家の表札を見て、由紀は改めて独り言のように言った。

由紀もいろいろと聞きたいことがあるようだったが、それ以上は、何も聞かなかった。

こうして三十路をとうに過ぎた男やもめとうら若き乙女との奇妙な共同生活が始まった。

ただで居候をする代わりに、家事は由紀が全部受け持ってくれた。

一週間が経った頃、由紀は少しずつボクのことを訊き始めた。

「ねえ、小柳さんはどうしてこんな広いお家に一人で住んでるの?」

「不自然かな?」

咄嗟に聞かれて、ボクは質問に質問で答えてしまった。

「普通、こんな家に一人では住まないよ」

由紀の疑問はもっともで、一人には広すぎる家だった。

ボクには学生時代から付き合っている女の子がいた。

大学で知り合って、半年ぐらいで付き合いだして、そのままずっと一緒に居てお互いに空気のような存在だった。

お互いに初めての相手だったし、ボクは下宿をしていたので、学生時代の後半は半分同棲しているようなものだった、

就職が決まって、彼女は出張の多い仕事に就いたので会える機会が減って離れ離れになってしまったのだけど、何とか交際は細々と続いていた。

少なくともボクは、そう思っていた。

それでもボクは、彼女と結婚するものだと思っていたので、会社に入って5年が経ったとき、二人の為に一軒家を購入した。

あまり会えずにいたので、サプライズで喜んでもらおうと彼女に内緒にしていたのだが、それがいけなかった。

「ねぇ、こんなに会っていないのに、どうして家まで買っちゃうの?」

思うように会えない日々が続いていたイライラの所為か、彼女の気持ちがもうずっと前に離れてしまっていたのかは分からない。

確かなのは、ボクたちはその日を境にもっと疎遠になってしまい、別れてしまった。

ボクには一人で住むには広すぎる家と、30年のローンが残った。

それからは、ずっと荒んだ生活を続けてきた。

家を買うまでは、彼女に会えない寂しさを仕事で穴埋めするように、がむしゃらに働いていた。

会社では契約書とかの面で営業をサポートする部署にいて、これでも結構成績優秀な社員だった。

けれども、目標を失ったボクは、それまでのような仕事への拘りや粘り強さが薄れてしまって、仕事の成績はどんどん落ちて行った。

気がついたときには、もう契約関係の仕事を外されて、もっぱら庶務ばかりの閑職に追いやられていた。

ボクと女の子が数名いるだけの”何でも屋さん”のような部署だった。

由紀が派遣でやってきたのも、雑務の多い仕事に嫌気が差した女の子の一人が辞めたせいで、補充要員として雇われたのだった。

それでも、やっている仕事の内容は兎も角、それなりの会社に働いているので、由紀がやってきたときは流石に焦った。

“あぁ、ボクも終わったな”

そんな風に考えている自分に気がついて、思わず笑ってしまった。

ボクは、もうとうの昔に終わっているのに。

由紀も少しずつ、自分の話をしてくれるようになった。

学生時代に付き合っていたカレは、由紀の初めての男性で、由紀も何となくその人と一緒になると思っていたらしい。

けれども、由紀の借金の話を知ると、その男は次第に離れていったという。

フェードアウトというやつらしい。

毎日一緒に暮らしているうちに、ボクの中で由紀の存在は当たり前にそこに居てくれるものになってきた。

昔の彼女と同棲をしていた頃はそんなことはなかったのに、由紀の存在がどんどん大きくなってきた。

身体が目当てで家に預かっていると思われたくなくて、一緒のベッドに寝ていても、迂闊に手を出せなくなってしまった。

そんなボクの心情を、知ってか知らずか、由紀はボクの家にひとつしかないキングサイズのベッドにいつも裸で潜り込んでくるのだった。

由紀の身体を抱きしめて眠ることはあっても、ボクが彼女とひとつになることはだんだん少なくなっていった。

週末を前にした金曜日、ベッドに潜り込んできた由紀が、ボクに言った。

「ねぇ、小柳さん。もう、こんな女を抱くのは嫌になっちゃった?」

ボクの目を真っ直ぐに覗き込んできた由紀の眼は少し潤んでいた。

「そんなことないよ」

慌ててボクが否定してみせると、由紀が再び訊いてきた。

「じゃぁ、どうして・・・、しないの?」

そう言われてボクは、返答に窮した。

沈黙が続くと、由紀は裸の背中をボクに向けた。

少し丸まった背中に背骨のラインが浮き出ていて、エロい感じがした。

由紀の背中にピッタリと身体を寄せて、枕の下から雪の首のあたりに腕を差し込んで、由紀の身体を後ろから抱きしめた。

途端に、由紀の肩が小刻みに震え出して、ボクは戸惑った。

「ねぇ、あたしは、どうすればいいの?」

涙声になった由紀が言った。

「由紀ちゃんが、一緒に暮らしてくれているだけで、ボクは救われているんだ」

そう言うと、由紀は身体の向きを反転させて、ボクと向き合う形になった。

「こんな汚れた女が嫌になったんじゃないの?」

「うん、由紀ちゃんのお蔭で、仕事にやる気も出てきたし」

それは、本当のことだった。

由紀と一緒に暮らすようになってからのことをボクは思い返していた。

ボクはそれまでよりも30分ほど早く家を出るようにしていた。

会社の誰かに、由紀と一緒のところを見られないようにするためだった。

いつも人より早く出社して、新人の倉木さんが自分の所属する営業だけでなくて、フロア全体のデスクを拭いてくれていた。

倉木さんは身体の線の細い女性だったかが、ガッツがあって、仕事が早く、有能だと社内で評判だった。

「最近、早いですね」

そんな、倉木さんと顔を合わせるようになっていたので、倉木さんにそんな風に声をかけられたことがあった。

“早起きは、三文の得”

昔、おじいちゃんだったか、おばあちゃんだったか忘れたけれど、言われたのを思い出した。

人より早く出社していると、いろんな人の動きが見えてきた。

総務の島田さんも、結構朝早くから出社していて、給湯室がきれいなのは島田さんがいつも掃除をしてくれているからだった。

倉木さんは、みんなの机を拭いた後、パソコンで何かをチェックして、独楽鼠のように何かの書類の印刷を済ませると、教育係の先輩の机に置いていた。

由紀は、立場が同じ派遣さんの高倉さんと仲良しで、通勤の時間帯が同じなのか、一緒に出社してくることが多かった。

「高倉さんって、美人だよね」

台所に立って夕飯の用意をしている由紀に話しかけると、由紀はエプロンで手を拭きながら、大げさなほどに強く同意した。

「そうでしょ!」

「結婚しているの?」

「薬指の指輪、見てないの?」

「あ、気づかなかった」

「お生憎さま!」

「いや、別にそんな気はないよ・・・」

バツが悪くなってボクがそう言うと、由紀はボクの背後から首に抱きついてきて、耳の後ろから囁いた。

「冗談よ、冗談」

その頃には由紀ともそういう話もできるようになっていて、一緒にいるだけで、何だかずっと前からの知り合いのような心地よさだった。

会社の人に見られたら拙いと思って、由紀と一緒に出掛けることは殆どなかったが、クリスマス・イブには、一緒にデートをする約束をした。

由紀は家でご馳走を作ると言ってくれたけど、ボクはその日を特別なものにしたくて、ちょっと身の丈に合っていないとも思ったけれど、一番いいホテルを予約した。

朝から鼻歌を歌いながら出かける用意をしようといると、悪魔の電話が掛かってきた。

相手は、技術部の部長だった。

「小柳くん、休みのところ申し訳ないんだが・・・」

部長は、電話の向こうでいきなり切り出した。

「派遣会社に、”今日、高倉くんに出勤してもらう”と伝えておいてくれないかな」

高倉さんは技術部で働いている派遣社員で、”何でも屋”に頼むのは良いとしても訳が分からない。

「えっ?えっ?一体、何が起こっているんですか?」

「あー、いや、いや、すまん、すまん。客先とのトラブルなんだ」

受話器の向こうで部長が禿げ上がった頭をハンカチで拭いている様子が、声のトーンで伝わってきた。

イブだというのに、トラブル対応に追われる営業と技術が出勤するので、高倉さんにも応援に来て欲しいということらしい。

「でも、高倉さんは派遣さんですよ」

「それが解っているから連絡を頼んでいるんじゃないか。これでもボクは部長だよ」

事態は急を要するらしい。

「あの、派遣会社への連絡なら、総務を通した方が・・・」

「うん、でも、島田くんとまだ連絡がつかんのだよ」

島田さんは総務のベテランさんで、初日に由紀をみんなに紹介してくれた人だ。

「それに、小柳くんなら高倉くんの派遣会社の連絡先が判ると思って」

ボクは、心臓が凍るかと思った。

高倉さんの派遣元の会社と由紀の派遣元は同じ会社だったから、由紀とのことを見透かされたのかと思ったのだ。

途端に部長と長話をしていると、由紀との秘密が露呈してしまいそうな気になって、ボクは派遣会社への連絡を引き受けた。

「わかりました」

「すまんねぇ、小柳くん。ついでと言っては何だが、キミも出勤してくれないかな?」

「はぁ?」

今度は、露骨に異を唱えたつもりだった。

出世コースから外れたボクにとって、他部署の部長に遠慮はいらなかった。

けれども、部長はボクの返事を全く意に介さず、畳みかけるように言った。

「今度、埋め合わせはするから」

遠慮のいらない相手ではあったが、左遷されたボクを時々気遣ってくれるようなところもあって、憎めない相手であることが災いし、部長に押し切られた。

「どうしたの?」

電話を切って項垂れているボクの顔を、由紀が心配そうに覗き込んだ。

ボクが由紀に事情を話すと、由紀はほっと胸を撫で下ろして言った。

「なんだ、そんなこと?」

「そんなことって、今日のデートが・・・」

「あたしは、大丈夫」

「でも・・・」

「先ずは、派遣会社に電話でしょ」

そう言うと、由紀はくだんの達筆な文字で、電話番号をサラサラと書いてくれた。

「ホテルは15時からチェックインできるから、先に行って待ってて」

玄関で靴を履きながらボクは由紀に言った。

寝間着代わりにボクのワイシャツを着た由紀は、満面の笑顔でボクを送り出すと、長めの袖をボクに向かって振って見せた。

「うん、先に行って待ってる」

イブに舞い降りた天使の笑顔とはこのことで、ボクは後ろ髪を引かれる思いで会社へと向かった。

会社に着いてみると、社員の何人かはもう出社して打ち合わせをしていた。

営業の田中に、新人の神田、それに、ボクを呼び出した技術部の部長も揃いも揃ってみんな難しそうな顔をしていた。

その輪に近づいて行って、首だけで会釈をすると、技術部長が表情を和らげて、機嫌を取るように言った。

「小柳くん、悪いねぇ。うちの新庄も直に来るから、助けてやってよ」

「雑用くらいしか、お手伝いできないと思いますが」

ボクが、そう言うと、部長はおや?という表情を見せたが、それ以上は何も言わなかった。

営業部隊が客先に出て行ってから、午前中は暇だった。

技術部には矢継ぎ早に電話が掛かってきて、新庄と高倉さんはてんやわんやだった。

それでも、昼時を回った頃から電話も少なくなって、手持無沙汰なボクの腹の虫が鳴き始めた頃、高倉さんがボクのところへやってきた。

「お昼のお弁当、買ってきました」

「あぁ、丁度腹が減ってきたところだった。助かるよ」

ボクは財布を取り出して弁当を買い取ると、ボクの大好きな唐揚げ弁当だった。

「あぁ、ボク、これ好きなんだよ」

感動して言うと高倉さんは舌をペロッと出して見せて、意味あり気な表情をして見せた。

「由紀ちゃんから、聞いたことありますから」

そうだ、由紀と高倉さんは仲良しだったんだ。

由紀は、ボクの好みまで覚えてくれているのだと、何だかしみじみした。

弁当を食べ終わって、暫くすると、新庄が困った顔をしてボクのところにやってきた。

「小柳さん、この件なんですけど、うちの補償問題に発展するんじゃないですかね」

「契約書はないの?」

そう言うと、新庄は申し訳なさそうに契約書の束を差し出して見せた。

契約書の類は、読み慣れていないと、どこに何が書いているか分かりづらい。

電話に追われている新庄に代わって、ボクは契約書を見てやることにした。

うちの会社に責任が全く無い訳ではなかったが、技術部が負うべき責任は何も無さそうだった。

非を認めるべきところはきちんと認めて、他の部分での責任がないことをアドバイスしてやると、新庄はボクに頭を下げると言った。

「契約内容や法律の関係で困ったら、”小柳さんに助けてもらえ”って、部長が言ってたんです」

新庄はそう言うと、自分のデスクに戻っていった。

しばらくして新庄の方を窺うと、高倉さんと何だかいい雰囲気で話をしていた。

お似合いだな、と思いながらも高倉さんが既婚者だったことを思い出した。

由紀とのディナーを予約をしていた時刻には間に合わなくて、会社を出たのは結構遅い時刻だった。

それでも、営業の田中はまだ帰ってきていなくて、待とうかどうしようか迷っていたら、技術部の二人がやってきた。

「さっきは、ありがとうございました。お陰で助かりました」

新庄に礼を言われてボクが少し照れて手を振ると、高倉さんがボクに囁くように言った。

「お先に失礼します。由紀ちゃんのこと、お願いします」

ボクが驚いた表情にクスリと笑い、高倉さんは踵を返すと新庄と一緒にオフィスを後にした。

営業部には申し訳なく思ったが、それからしばらくして、ボクもお先に失礼させてもらった。

ホテルに駆け付けると、由紀は部屋の扉を開けるなり、ボクの首に抱きついてきた。

「折角、レストランを予約してたのに、こんなのでゴメン」

ボクたちは、牛丼屋のカウンターに座って、トン汁を啜っていた。

「小柳さんと一緒なら、なんだって美味しいよ」

由紀はボクの顔を見つめながら、そう言ってくれた。

その日の晩、ボクは隣に寝転んでいる由紀の細い身体を引き寄せた。

由紀の耳元で、ボクは囁いていた。

「あんなことしてたあたしだよ?」

「由紀の所為じゃ無いよ」

「あたし・・・、あたし・・・」

「ボクも自分が知っている由紀ちゃんだけを信じるよ」

クリスマスイブの夜、ボクたちはいつまでも愛し合った。

年末に差し掛かったある日、ボクは由紀から高倉さんが会社を辞めたと聞かされた。

それでという訳ではないけれど、ボクは、由紀に仕事を辞めさせた。

「新庄といい感じだったんだけど、高倉さん、結婚しているんだよね」

そう言うと、由紀は何だか複雑な表情をして見せた。

高倉さんには、良くしてもらっていたようなので、寂しかったのかもしれない。

年が明けてしばらくして、ボクは技術部長に呼ばれた。

高倉さんの補充はないが、技術部に契約関係の専担者を置くという。

「暮れには世話になったね。小柳くんに来てもらうから、よろしく頼むよ」

部長は、休日出勤を頼んできたときのように、ボクに言った。

部長が言っていた埋め合わせとは、どうやらこのことのようだった。

出世コースに戻ったわけではないけれど、ボクは左遷コースからは復帰したらしかった。

「キミもそろそろ、身を固めたらどうだ?」

技術部長は、何だか意味深なことをボクに言った。

一緒に由紀の故郷に帰って、ご両親のお墓も立てた。

天使のような微笑みを湛えた幸運の女神が、ボクの傍にいる。

会社の誰にも言っていないけど、由紀は今もボクと一緒に暮らしている。

大したことではないけれど、唯一の問題は、由紀の名前がどこかの歌手みたいになってしまったことだけだ。

新庄くんと高倉さんの話(人妻とは一度きりと)
倉木さんと先輩の話(最初はなんとも思っていなかったのに)
笹倉さんと田中くんの話(会社の先輩に成り行きでハメたら)
島田さんと神田くんの話(「ありがとう」を心を込めて言ってみたら)

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