道流と亜樹と杏花と誠一……ワンスアゲイン サマーホリデー ~いつまでも変わらぬ性癖で~(前編)

Hatch コメントはまだありません

【前書き】

こちらのお話は、『体験談』ではなく『小説』となりますのでご注意ください。

投稿する際には『小説』を選択していますが、『体験談』として表示されるのはサイトの仕様なのでご理解ください。

ーーー

ーーー

ーーー

電話を出たとき、不思議とワクワクというか、心が躍る感覚があったんだ。

なぜだろう?別段変わりない日常で、別段変わりない友人から電話がかかって来ただけだというのに……。

道流「もしもーし」

それは昼下がり、ちょうど仕事が一区切りついたので、休憩がてら缶コーヒーを買いにオフィスの廊下を歩いているときだった。

杏花「ちゃおっ。お仕事中だったかしら?ごめんあそばせ」

その感覚に理由をつけるなら、多分杏花の声がやけに明るかったことだと思う。それはなにやら楽しげなことが始まる、感覚というよりも予感に近いものだったのかもしれない。

道流「どうしたの急に。あっ、また誰か殴ったんでしょ?懲りないねえホントに」

呆れたように言うと、

杏花「んなわけないでしょ。失礼ねっ」

一転して口調が強くなった。少し怒ってしまったらしい。

道流は仕切り直すようにして、今度は興味ありげに聞いてみた。

道流「ごめんごめん。それで、なにかいいことでもあったの?」

杏花「あっ、そうそう。そうなのよ。ちょっと聞いてよ。以前にやらかして罰を食らったでしょ?そのあと復帰したわけよ、職場にね」

うんうん。道流は相槌を打つ。

杏花「そしたら朝礼でね、これ以上俺に迷惑かけるなよって言われたの!上司に。しかもみんながいる前でだよ?デリカシーのかけらもないわこの人って思ったの」

うん……。もう一度相槌を打つ。雲行きが怪しくなってきたぞ。

杏花「私ね、プツンと来ちゃってさ、もとはといえば、あんたがセクハラ爺のところに営業行かせたのが悪いんじゃこのボケぃ!って言ってやったの」

う、うん……。戸惑いながらも相槌を打つ。あー、やっぱりね。

杏花「それから喧嘩になっちゃってさ、もうはっちゃかめっちゃかよ。あはは」

なぜか満足げに笑った。

ここで改めて、道流は日頃の行いを見つめ直すべきなんじゃないかな、と胸の奥で諭してみた。伝わればいいな、という願いも添えて。

でもやはりというか、そんなところが似てるんだよなあ、と道流は亜樹の顔を思い浮かべた。

道流「大変だったんだね。でもさ杏花ちゃん、愚痴は今度ってことにして、そろそろ本題をお願いしてもいいかな?」

杏花「おっとこれは失礼。ついつい熱が入っちゃったわ。失敬失敬」

ふうー、と興奮した身体を落ち着けるように、一度呼吸を整えた。

杏花「えっと、実はね……」

〜1〜

数日後。

都内にあるデパートの八階、フロアの窓際にはベンチが三つ並んでいる。そのうちの一つに、道流が外を眺めながら温和な表情で座っていた。

昨晩は、こんなにも気持ちのいい一日になるとは思っていなかった。連日雨が続いていたし、天気予報でも今日は雨マークが広い範囲で見られた。

けれど、その天気予報は外れた。

眺める景色は雲一つない。清々しいほどの青色が空の彼方まで続いている。そこにはまるで、一枚の塗り絵が貼り付けられているみたいだった。

道流は改めて、ホッと胸を撫でおろした。

「おまたせー」

そのとき、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

道流はゆっくりと、声のする方へ顔を向ける。

きらびやかな看板のアパレルショップから出てきたのは、妻の亜樹だった。百六十センチの小柄な身体に、ノースリーブの白のロングワンピースを着て、明るい茶色の髪は緩やかな巻き髪を肩までの長さで整えている。右手には店のロゴが入った黒い紙袋と麦わら帽子を抱えていた。

亜樹は微笑みながら、そばに寄ってきた。

道流「どっちにしたの?」

そう問いかけたあと立ち上がり、道流は紙袋に視線を落とした。

亜樹「実はね……」

と、亜樹はためるようにつぶやき、それから紙袋の口を広げて言った。

亜樹「じゃーん」

道流は紙袋を覗き込んだ。中には二枚の色鮮やかな水着が入っていた。

道流「お、僕が選んだやつもあるね。大変だったでしょ?亜樹が好きそうな水着いっぱいあったもんね」

亜樹「うん、頑張ったよー」

亜樹は疲れた表情をしつつ、手の甲で額を拭うポーズをした。

亜樹「でも、二枚に絞ってからは早かったよ?道流が選んでくれた水着は特別な感じがしたからさ、絶対買おうって思った」

道流「ありがとう。それじゃあもう一枚は?」

亜樹「お仕事頑張ったご褒美でーす」

言い終えると、亜樹は照れくさそうに笑った。道流もつられるようにはにかむと、きっと素敵な水着姿なんだろうな、と見るのを楽しみになった。

道流「最近は珍しく、亜樹のパートの方が忙しかったもんね」

亜樹「ねっ。久しぶりに頑張っちった」

道流「ははっ。そうだね、偉い!」

道流は高揚感を覚えながら、亜樹の頭を撫でてあげた。

亜樹「ねえ、ちょっと早いけどお昼にしよう。気合入れて選んでたらお腹すいちゃったよ」

腹に手を当てて言う亜樹に、仕方ないなあ、と思いながら道流は腕時計を見てみる。十一時だった。確かに少し早い気がするけれど、亜樹の瞳は、ご飯ご飯、と急かせるように輝いていた。

道流「わかった。じゃあ行こうか」

すると亜樹は、やったね、と言って、子供のように胸を高鳴らせて道流の腕を引いた。

八月の慌ただしい日々は、まるで馬に乗って山を駆け上るが如く、それはあっという間に過ぎ去っていった。

険しくて傷付く瞬間もあった。とても忘れることの出来ない時間だった。けれど、それは道流達の絆を固く、より深いものにしてくれたのも事実で、頂に登った瞬間それぞれの心の中に、大切な宝物となって、思い出となって色濃く残っていた。

そんな橋本の事件から数日、穏やかな日々に戻れるのかと思った矢先だった。珍しく亜樹の仕事が多忙を極めた。

普段は週に三日から四日で出勤しているのだけれど、どうやら社員の一人が怪我をしてしまって、仕事を休まなければならなくなったのだ。さらに、パートの一人が突然来なくなってしまったらしく、もともと働き手が少なかった職場は、同時に起こった事案に頭を悩ませた。

しかし、そこで白羽の矢が立ったのが亜樹だった。なんで社員の代わりにパートの亜樹なんだ?という疑問が道流にはあったが、それはひとまず隅に置いておいた。

そんなこんなで八月の間は亜樹が代役を務める形になり、週六日、朝から夜までの仕事をこなした。

連日疲れて帰って来る亜樹の姿は、不思議と懐かしい感じがして微笑ましかった。一緒に働いていたときのことを思い出したからだ。

あのときは連日二人で残業して、夜遅くまで会社に残り愚痴を言い合った。ときには杏花と三人で都会の夜景を臨みながら、終電が過ぎているにもかかわらず時間を忘れて語り合ったこともあった。

あれから数年たったけれど、今でも大切な思い出として、しっかり胸の中の引き出しにしまってある。

道流と亜樹は、フロアの反対側にあるエスカレーターへとやって来た。柱にはデパートの案内図があり、店の雰囲気や料理が写真と一緒に紹介されている。

亜樹「うわあ、どれも美味しそうだね」

亜樹は食い入るようにその写真を眺めた。

道流「どれが食べたい?僕は亜樹の行きたいところで大丈夫だよ」

亜樹「ほんと?えー、でも迷っちゃうなあ」

そう言って、亜樹は真剣な表情になったのだが、直後、道流は亜樹に委ねたことを後悔しはじめた。

普段はそんなことないのだが、亜樹は昔から食のことになると優柔不断になってしまうことが多々あった。

食いしん坊ゆえになかなか決められず、あれもこれも食べたいと欲張ってしまうのだろう。それにいざ店に入っても、メニューとにらめっこを延々一時間していたこともざらにある。

これは長期戦になりそうだ。道流はそう思い、窓の外に視線を移した。けれど、そんな心配とは裏腹に、

亜樹「ここがいい!」

意外にも、亜樹はすんなり指を差した。

道流は驚きつつも差された写真を見てみる。そこは洋風のレストランだった。店内は茶色が基調で、観葉植物などの緑も豊かにあり、それにソファの背もたれが高く、ゆっくりと落ち着けそうな空間となっていた。

道流「うん、凄く良さそうだね。じゃあ、ここで決まり」

するとまた、亜樹は道流の腕を掴み急かすようにエスカレーターに乗り込んだ。

十階に着くと、フロアは飲食店が数多く並んでいた。家族連れや年配の夫婦など、ちらほらと昼食目当ての客がいる。

二人はまっすぐレストランに向かった。途中学生のグループがいたのだけれど、その中の数人の男が亜樹の姿を憧れの目で追っていた。道流はその光景を横目に見ながら、密かに誇らしげな気持ちになった。

レストランに入り、店員に二人だと伝えるとすぐ席に案内された。窓際の席だった。

店内はほどよく涼しくて、日差しが心地良い。茶色いレザーのソファの上には、小さくて可愛いらしい観葉植物がいくつも置いてあった。

亜樹「道流は?何飲む?」

さっそく亜樹は、メニューを開いて見せてくれた。

A五サイズほどのメニューには、色とりどりの料理とドリンクが載っていた。料理は洋食が中心だけれど、居酒屋で出てくるような一品物も豊富に揃っていた。

道流はチラっと亜樹の顔を伺う。やっぱり、と思った。

亜樹の視線は日本酒とツマミになりそうな一品物に向いている。

まったく本当に飲兵衛だなあ、と呆れた感じと同時に、素直で相変わらずの調子だな、とも思い感心した。

しばらく道流がメニューの上で目を泳がせていると、

亜樹「もう飲んじゃう?」

悪戯っぽく言った。道流はクスッと笑って、

道流「まだ早いよ。それに、僕はもっとたくさん亜樹と過ごしたいんだ。せっかくのデートだしね。だから今飲んで、もし眠くなっちゃったらもったいないよ」

そう言うと、亜樹は恥ずかしそうに、

亜樹「もう、そういうことすんなり言う?道流って恥ずかしいとかないの?」

亜樹は、手で自分の顔を扇いだ。でも道流はまったく気にする素振りを見せず、挑発するように、

道流「嫌なの?」

そう問いかけると、亜樹も強がる感じで、

亜樹「……嫌じゃないよ?」

と返した。すると少しの間、二人の会話に沈黙が出来た。

二人は我慢するように見つめ合っていたけれど、耐えられなくなりフフッと同時に吹き出してしまった。

亜樹「なんかこの感じ久しぶりだね」

道流「本当に。けど、別に忘れてたわけじゃないんだけどね。この雰囲気かな?落ち着くっていうか、居心地がいいんだろうね、きっと」

そう言うと、亜樹は言われたことを確認するかのように店内を見回した。それから改めて、そうかもね、とつぶやいた。

そして店員を呼ぶと、コーヒーを二つとオススメと書かれている肉料理を注文した。

料理が運ばれてくるまでの間、二人は昔話しに花を咲かせた。

実はこのデパート、付き合う前の二人が始めて訪れた場所だった。あのときはたしか下着を買うとかって言ってて、なかなか売り場に近づけなかったんだよね、と道流は苦い思い出を語った。

道流にとって下着売り場なんていうのは、まるで異国、別世界に降り立つようなもの。始めての経験だったからなおさらその反応は当然のことで、誰だってあたふたとウブなリアクションになってしまう。

反対に亜樹は、そんな道流の反応が面白くてからかい甲斐があったよ、と言った。

その後も、水着を買いに来たり、なにかサプライズをしようと考えたときは、決まってこのデパートで済ませていたのだ。

亜樹「いっぱい思い出が詰まってるね」

その一言に、道流はうん、と頷いた。

ここでようやく、料理が台車に乗って運ばれて来た。

鉄板の上にステーキが乗っている。ジュー、という音が食欲をそそる。

亜樹「ではでは、いただきまーす」

二人は両の手を合わせた。

〜2〜

時刻は、ちょうど昼の十二時になった。

道流と亜樹は食後のコーヒーを飲みながら、ゆったりと落ち着いていた。店内はほどよく混んできて、あちらこちらから弾んだ会話が聞こえてくる。

亜樹は窓の外に視線を向けて、景色を眺めている。相変わらず気持ちのいい日差しが届いている。

亜樹「あ、そうそう。いきなり話変わるけど、それで杏花は他になんて言ってたの?」

亜樹は思い出したように振り向き、問いかけた。

道流「うん、あのあと島に来ないかって誘われたんだ」

島?亜樹は繰り返す。

道流「愚痴は前に話した通りなんだけど、そのあとどうしても納得出来なかった杏花ちゃんは、上司に一矢報いるために、ザックザク貯まってた有給を全部使ってやったんだって、本当にさ……。まるで、埋蔵金でも掘り当てたような言い方だったよ」

亜樹はそんな杏花の顔を思い浮かべてみる。それは鮮明に、まったくもって容易に想像が出来た。それに最後にはきっと、あっはっは!と高笑いもしていたことだろう。

道流「まあそんなこんなで、有給込み込みのスーパー大型連休にしたところで、故郷の……たしか、○○島だったかな。そこでバカンスを楽しんでるんだって」

杏花らしい。亜樹はそう思った。

亜樹「それで水着なわけね。いきなり買い物に行こうって言うから驚いちゃったよ」

道流「ははっ、ごめんごめん。僕も上司から有給を使えって言われてるから、タイミングはバッチリでいいかなって思って。それに亜樹の仕事も一段落ついたし、優衣花と美雪も大丈夫って言ってたしね……。あ、でも真琴は用事があるって言ってたな」

改めて疑問に思ったのか、道流は考えるような仕草で顔を右上に向けた。

亜樹「用事?どうしたんだろ……。また変態探求じゃない?」

道流「あー、ありえる。まあでも、それはそれで真琴らしいね」

二人は笑いあった。

それから一息つき、ふたたび落ち着いてくると、亜樹は改めて窓の外に視線を移した。

道流はそんな亜樹の横顔と、ワンピースの袖から伸びる白い腕を見つめた。

今年二十九歳になるのに、その童顔な顔つきはいつも幼い雰囲気を隠さない。中身もどこか子供のようで、一緒にいると笑いが絶えず元気を貰える。

でも、身体からは大人の女性の色香が漂っていて、真っ白い柔肌は、見ている者を触れさせたくなるほどの色気を醸し出している。

道流は密かに、股間がむくむくと大きくなっていくのを感じた。

おっと、いけないいけない。最近は忙しかったので、亜樹と身体を重ね合わせることがなかなか出来なかった。だからなのか、こんな欲求不満になってしまったのは。道流は開き直るかようにして手を伸ばし、亜樹の指先からなぞるようにして肩まで触れたあと、髪の毛を優しく撫でた。

亜樹が、どうしたの?という様子で振り向く。

道流「可愛いなって思ってさ」

そう言うと、

亜樹「エッチ、変態、バーカ」

まるで蔑むように、亜樹は目を細めてキツイ視線を送った。けれど道流は意に返さず、

道流「はははっ。それは僕にとって、最高の褒め言葉だよ」

と言って、胸を張りながら笑った。

亜樹もそれを見て可笑しく思ったのか、笑顔がこぼれた。

女性「ねえ、さっきの映画どうだった?」

すると、亜樹の後ろに座っているカップルの会話が聞こえてきた。

男性「やばかった。まさかあんな最後になるなんて思わなかったよな」

女性「ホントだよね。てかさ、喧嘩したあとに行き当たりばったりで入って感動するって、なかなかないよ?」

男性「それな!マジで俺達の午前中も映画並のストーリーだったよな!」

女性「それ……はないわ」

男性「いやいや、おいっ!」

二人の笑い声が、まるで羽根を生やしたように店内を飛び回った。道流と亜樹は、そんな笑い声に釣られたのか、自然と表情が緩む。

道流「映画館か……」

ポツリと言う。

亜樹「行ってみる?久しぶりに」

コーヒーに口を付けながら、上目遣いに聞いてくる。

道流「そういえば、二人で映画を見に行くのって始めてだっけ?」

亜樹「ううん、二度目だよ。あとは……あのときかな。デートのとき」

デート?道流はポカンとした表情で首を傾げる。

亜樹「真琴ちゃんの紹介だよ」

あっ、道流は思い出した。

あのときはたしか、真琴が入社してきてすぐだったはず。まだまだ本性を隠していて、最初はミステリアスな感じの子だと思ったよ。でもまさか、自分と同じ性癖だったなんて……。

真琴は自分の欲求を満たすために、好きになった会社の先輩の美雪を若い男達や中年のオジサンに頼んで犯してもらったんだ。

道流もその一部始終は、しっかりと見届けていた。あれは本当に興奮した瞬間だった。

道流にとって美雪は会社の後輩で、たしかに亜樹とは違い妻ではないけれど、それでも大切な友人でもあり妹のような存在でもある。

そんな大切な美雪が見ず知らずの男達に犯されていく姿は、亜樹同様に極上の嫉妬と興奮を体験させてくれた。

そして道流は、今度は真琴にそのオジサンを紹介してもらい、自分の妻とデートをしてほしいと頼んだ。でももちろん最後まで、道流の目的はデートではなく亜樹を食べてもらうこと。

そのデートの始まりが映画館だったのだ。

館内で亜樹はオジサンに弄ばれた。キスをされ、胸を揉まれて、秘部に指を入れられた。

素敵な時間だった。道流はあの日の光景を思い出し、店内にも関わらず股間を大きく勃起させた。

亜樹「ふふっ。思い出した?」

挑戦するような目つきで言った。

おそらく頬は高潮していたと思う。

道流「うん。とっても刺激的だったよ」

それは素直な感想だった。

でも、また見たいと思ってしまうのも自然だった。ただ、そんな欲を言えるか考えると、やはり躊躇してしまう。

亜樹「また見たい?」

亜樹の見透かしたような言葉に一瞬ドキッとした。それから少し間をあけて、思わず笑ってしまった。

道流「ううん。亜樹の身体は……なにかあったら嫌だからね。贅沢は言わないよ」

意外だったのか、亜樹はふーん、という声を出した。

でもそれは道流にとっても同じで、亜樹がそんなことを言うとは思ってなかったし、多分、最近は忙しくて身体を重ねる機会がなかったから、お互い欲求不満になっているのだろう、二人は共に性欲が強い方だから。

道流「じゃあ、そろそろ出ようか」

亜樹「うん。次は映画館だね」

二人は荷物を待って、席を立った。

〜3〜

外はますます気温が上がっていた。照りつける日差しはまるでアスファルトを焼いているかのようだった。

道流と亜樹は、足早に道路を渡り、デパートの斜向かいにある映画館へと入った。

入り口上部には何枚もの看板が並んでいて、上映している映画はみなジャンルがバラバラだった。二人はそれらを見上げながら、どれにしようか迷った。

道流「ホラー、サスペンス、恋愛……。色々あるね」

亜樹「これは迷っちゃうね。さっきのカップルは感動したって言ってたから、やっぱり恋愛かな?」

道流「うーん……。違うんじゃないかな。感動って言う意味ではサスペンスもラストはそういう展開が多いからね。恋愛はベタだからなあ……」

亜樹「そのベタがいいんでしょ。それか……意外とホラーとか?」

道流「うん、あり得る。でも僕はホラーにはうるさいからね」

亜樹「好きだよねえホントに。見ながらダメ出しとかしないでよ?」

亜樹が顔を覗き込むようにして言った。道流は苦笑いを浮かべながら、

道流「しないよ」

手を左右に振って否定した。

道流「じゃあ、あのカップルに習ってここは行き当たりばったり、ホラーでいってみようか」

亜樹「うん、それに賛成」

二人はチケットを購入すると、館内へと入って行った。

大きなホールだった。横に広く、席は扇状に並んでいて、後方から前方のスクリーンに向かって、緩やかな傾斜がある。

右後方から入って来た二人は、まずその雰囲気に圧倒された。以前訪れた映画館とは倍以上に規模が違ったからだ。

亜樹「大きいねえ」

周りに気を遣ったのか、亜樹の声は囁くような感じだった。でも、その表情には感動にも似た、キラキラとした驚きがあった。

道流も亜樹の一言に頷き、天井などを見回した。

亜樹「どの辺に座ろっか……?」

道流「うーん、前の方がいいかな。後ろとか真ん中だと、人の動きが気になるんだよね。それに、ホラーなら声も」

亜樹「あっ、それはちょっとわかる気がする。じゃあ……」

亜樹は顔を左右に動かして、人があまりいそうにないところを探した。

改めて見てみると、意外にも人は見当たらない。ポツポツと人の後頭部が見えるだけ。規模は大きいけれど、今日はそれに見合った客はいないようで、少し寂しい気もする。それとも、あまり人気のない映画なのだろうか。

亜樹「あそこはどう?前から二列目の左端。あそこなら道流のダメ出しがされても心配なさそうだよ」

クスクスと笑いながらふざけた感じで言った。道流は、ほっとけ、といじけたように返した。

二人は席をぐるっと回り込むようにして、前列の席に移動した。スクリーンからすぐの、左端の席だ。

外側から、空席、空席、亜樹、道流という順番で座った。道流は亜樹から麦わら帽子を受け取ると、持っていた荷物と一緒に右の席に置いた。

すると、亜樹が自分の腕を擦っていた。

道流「寒いの?」

亜樹「ううん、今は大丈夫。涼しいくらい。でも、そのうちに冷えてくるかもね。……ひざ掛けでも持ってくればよかったなあ」

残念そうに言った。けれど、道流はなぜかドヤ顔で、

道流「もし寒くなったら、僕が抱きしめて温めてあげるから大丈夫だよ」

いやらしく言った。

亜樹「あはは。なにその顔」

あまりのおかしさに、亜樹は笑ってしまった。

ホールの照明がゆっくりと暗くなった。

亜樹「そろそろだね」

そう言うと、スクリーンに映像が映し出され始めた。二人は改めて座り直した。

スクリーンにはこれから公開される予告編が次々流れた。

しばらくして、本編が始まった。しかしすぐに呆気にとられてしまった。

それは序盤も序盤。まだエピローグだというのに、濃厚なベッドシーンが映し出されたのだ。

たしかに、ホラー映画にベッドシーンは付き物だ。お約束なところがある。でも、まさかこんな最初からなんて……。

道流は思わず失笑してしまった。

隣に座っている亜樹はというと、手で顔を覆っていた。どうやら恥ずかしいらしい。けれど、しっかり指の隙間から覗いているし、興味はあるようだ。

道流はそんな亜樹を横目で眺めながら、こういうところが可愛いんだよなあ、と一人心の中で惚気けてみた。

しかし、それからも濡れ場はストーリーの間にちょくちょく挟み込まれていた。

道流は不思議に思った。これじゃあまるで……。

ここで思い出したように、道流は映画館の受付でもらったパンフレットをカバンから取り出した。見てみると、しっかりとタイトル横に、R-18と記載されていた。

あー、やっぱり。これは、ホラーはホラーであるけれど、官能ホラーだったのだ。

道流は一人納得した。

横目で亜樹を見てみる。もう顔を覆ってはいなかったけれど、スクリーンに釘付けになっていた。もしかしたら、多少なり濡れているかもしれない。亜樹はこういうシチュエーションがわりと好きだったりする。

そのとき、道流はさきほどのレストランでの会話を思い出して、ドクンと心臓が高鳴った。

あのとき男は、亜樹の身体を触った。妻である亜樹の身体を……。

触れたい……。

道流はゆっくりと、亜樹のワンピースの裾をつまみ上げていった。やがて膝が見え、そして太ももが露わになった。

裾をミニスカートのような長さにまで捲ると、道流は亜樹の太ももに手を滑り込ませた。

温かい。それに艶があってスベスベだ。本当に、触るだけでは全然足りない。舌を這わせて舐めたくなるような、まるで旬の果実のようだ。

スクリーンに映し出される男優と女優の不貞な濡れ場。身体の内側から静かに、妖艶な色をした炎が大きくなっていくのを感じる。

そのとき、あん、亜樹が官能的な声を漏らして、身体をモゾモゾと動かした。

道流は、太ももを触っているだけなのにもうそんなに感じているのか、と疑念を抱いた。

ふと亜樹の方を向いてみる。暗くてハッキリとはわからないが、亜樹の胸の辺りで不自然に何かが動いていることに気が付いた。

亜樹は身をよじらせ手を口元に添えている。それはいつもの感じているときの亜樹の仕草だった。

次の瞬間、雷が、カッ、と光った。もちろん、映画の中でのシーンなのだが、一瞬だけホール全体が明るくなった。

道流は驚愕した。

なんと、いつの間にか亜樹の隣に細くて小さい白髪頭の男性が座っていたのだ。しかも、男の左手が亜樹の左胸を揉んでいる。

その瞬間思考が止まった。しかも、身体までもが棒のように固まり動かなくなってしまった。

男は、横から亜樹の感じている顔をいやらしく、睨みつけるようにして見ていた。

こいつ、妻にいったい何をしているんだ。まるで片言のような言葉を心中で吐いた。

そしていくつかの間があったあとようやく、止めないと!道流はそう思った。

太ももに滑り込ませていた手を抜き取ると、道流は男の手に向かって腕を伸ばそうとした。けれど、なぜか亜樹がそれを拒んだ。亜樹の右手が道流の手首を掴んだのだ。

え?道流は驚きを隠せなかった。その行為がまったく理解出来なかったからだ。

どうして……。道流が胸の中で問いかけながら、亜樹の顔を伺う。止めないで。亜樹の瞳が、そう語りかけていた。声を発したわけでもないのに、ハッキリと脳裏に伝わってきた。

『また見たい?』

唐突に、レストランでの一言がフラッシュバックした。

道流は思い悩み葛藤した。たとえ亜樹がなんて言おうと、ここは止めるべきなんだ。……でも、もう一人の欲望が、もう一人の自分がそれを邪魔する。

こんな瞬間は、もうずっとこの先訪れないかもしれないんだ。こんな興奮には、出会えないかもしれないんだぞ?それでいいのか?夜な夜な想像していたんだろ?また、亜樹が悪戯される姿を見たいって。

事実、道流はすでに興奮していた。股間はジーンズを押し上げるほどに勃起していて、胸は早鐘のように高鳴っていた。

すると、男は二人のやり取りを見ていたのか、今度は両手で亜樹の両胸を揉み始めた。鷲掴みだ。ワンピースの胸元に皺が出来てしまうほど、円を描くように揉んでいる。

気持ちいいのだろう。興奮するのだろう。道流にはわかっている。感動するくらい亜樹の胸は大きくて柔らかいから。

男の顔が、どんどん、腹が立つほどに、ニヤニヤと綻んでいく。睨みつけるようにしていた細目が、徐々に強張りを解いていくように。

でも、道流と亜樹の手はまだ繋がれたままだった。一人葛藤する道流の手からその緊張が亜樹にも伝わっているはず。それでも亜樹は離さなかった。

男の手が胸から下りてきて太ももの上に乗った。そしてその手でスカートの裾を追い込むようにして太ももの付け根に迫っていた。

やかて、その手はスカートの中に消えていき、右足と左足を往復するようにしてパンティの上を行き来している。

見ず知らずの男に亜樹の大事な部分が触れられている。その光景が、道流の興奮をますます大きくしていった。

亜樹は声を我慢しているのか、さきほどからずっと口を抑えている。でも、すでに表情はとろけていた。

道流「亜樹……なんで……」

その声に、返事はない。

突然男が、亜樹の上半身を前に倒した。そして背中のファスナーをジリジリと下ろしていった。道流はその様子を固唾を呑んで見ていた。

亜樹の素肌がどんどん男の前に晒されていく。すぐにファスナーは一番下、腰の辺りまで下ろされてしまった。

男は背中全体に指を這わせ鼻を近づけた。擦り付けるようにして匂いを堪能している。亜樹の吸い付くようなその雪肌は、今まで何人もの男を虜にしてきたのだ。

やがて舌を出して、肌を下から上に向かって這わせていく。そのねっとりとした舌の動きは、毛穴から出る女性特有のエキスを舐めとっているかのようだった。

亜樹はじっと、男の行為を受け入れ委ねていた。

そして男は満足げに亜樹の身体を起き上がらせた。肩からワンピースを脱がしていく。

道流のチンポは、もう限界なほど熱く大きくなっていた。

ワンピースが、一ミリずつ徐々に下がっていく。緩やかな撫で肩。綺麗に浮き上がっている鎖骨。キュッと引き締まっているクビレ。縦に割れているヘソ。ブラに隠された豊満な胸と見事な谷間。男の瞳が、ギラギラと血走っている。

ワンピースは下腹辺りまで脱がされてしまった。亜樹の上半身は、白いレースのストラップレスブラ一枚だけになった。男は記憶に刻み込むかの如く目を見開き、亜樹の身体を熟視した。

だが、すぐに我慢出来なくなったのか、男は亜樹の身体を抱きしめるようにして、谷間に顔を押し付けた。

道流の興奮は最高潮に達していた。早くチンポを出して、しごきたかった。道流も、我慢の限界にきていた。

男は両手で背中を撫で回しながら、大きく匂いを吸い込み、舌を出してブラから出ている乳房を舐めた。

亜樹「はぁ……ん」

小さな声だったが、男をさらに刺激させた。

背中に回していた手が、今度はブラのホックを外した。そして一度顔を離したかと思いきや、男はブラを乱暴に剥ぎ取った。

Eカップの美乳が、ついに姿を現わした。

道流はもうダメだった。我慢してはいたが、こんなにも非現実的な興奮を目の当たりにしては……。道流はすぐに、ジーンズのファスナーを下ろしてペニスを取り出し、しごき始めた。

それを見ていた亜樹も、繋いでいた手をそっと離した。男は待ってましたと言わんばかりにその手を掴むと、頭の後ろで両手を組ませた。

それはまるで、亜樹が後ろ手に縛られているような格好だった。

男は改めて、無防備になった胸と乳首に我が物顔でしゃぶりついた。

亜樹「ん……ぅん……アッん」

くぐもった喘ぎ声が漏れる。亜樹の身体は、男の責めに悶ていた。

執拗に乳房を揉みしだき、乳首を摘み、ねっとりと舐め上げ吸った。亜樹はそのたびに快感のささやき声を漏らした。

たまらない。たまらないよ亜樹。もっと、もっと妻を弄んでくれ。

いつの間にか、道流の思いは願望に変わっていた。

と、ここで、ようやく男は顔を離した。そして、道流の顔を一瞥した。

とても腹が立った。でも、満足だろう。嬉しいだろう。征服した気分だろう。夫の隣で、最愛の妻を弄んでいるのだから。

ここでまた、男はニヤリと笑った。

すると、男は亜樹の足の間にしゃがむようにして腰を下ろした。

男は亜樹の腰を前に出させて、足を広げた。それから裾を捲り上げて、パンティの片側の紐を引っ張って解いた。

そこで男は、意味深に亜樹の顔を眺めた。その意味を理解したのか、亜樹はもう片方の紐を自分で解き、腰を浮かせるとパンティを脱いだ。そして、男に渡した。

男は、へへっ、と盗人のような卑劣な声を出して、ブラとパンティをポケットに押し込んだ。

ダメだよ亜樹、そんなこと……。道流は、手を休めることなく、チンポをしごき続けていたが、亜樹はそんな道流を恍惚な表情で見たあと、なんと自分から足をM字に開いたのだった。

そして、さらに自分からマンコを拡げて、男を誘った。

男は猛獣のように亜樹の秘部の中心に食い付いた。

ジュルジュル……ジュルジュル……。その音から、マンコから溢れる愛液がどれほどのものか、容易に想像がついた。

亜樹は男の頭を抑えながら、太ももで挟み込んだ。そのときの男の表情はわからないが、おそらく至極の感触を感じているだろう。

男は指を入れて、掻き出すようにしながら愛液を吸った。

亜樹「あん……はぁぁん……すご……い……気持ちいいよぉ」

あまりの激しさに、女体が仰け反った。

ヌチャ……ヌチャヌチャ……。ジュルジュル……。卑猥な音が、さらに勢いを増していく。

亜樹「もっと……もっと……道流……気持ちいいよ……」

亜樹は悲痛に顔を歪めながら、男の貪り尽くすような愛撫に悶えていた。

なんで……なんでだよ……亜樹。腸が煮えくり返っているのに、とてつもなく興奮する。

額から汗がとめどなく滴り落ちてくる。全身が、体内が燃え上がるようだ。手が……肉棒をしごく手が止まらない。頭が痺れて、もう何も考えられない。

もっと!もっと!もっと亜樹を犯してくれ!

亜樹「あっ……イク……イッちゃう」

そのときだった。男が強烈に、亜樹のマンコを吸い上げた。

亜樹「ッ……逝くッ……!」

すると、亜樹の身体が痙攣したかのように、ブルブルと震えた。

全身から力が抜けたのか、はぁはぁ、と肩で息をしていた。

男は、手の甲で口元を拭った。そして、取ったパンティをポケットから出すと、鼻に押し付けて、スゥーっと匂いを嗅いだ。

その表情には、天にも昇るような、そんな満足した様子が伺えた。

男はそっと席に戻ると、亜樹の顔を自分に寄せた。そして最後にと言わんばかりに、キスをした。

濃厚なキスだった。亜樹もそれに応えるように、舌を出して、絡ませて、まるで恋人のようなキスだった。

男はキスが終わると、足早に席を離れていった。

道流は亜樹の身体を抱き寄せた。そして持っていたウェットティッシュで、その身体を丁寧に拭いた。男の痕跡をなくすかのように。

亜樹「道流……」

何も答えなかった。

道流はさらに確かめるようにして、胸を揉み、改めて乳首を舐めて、マンコに指を入れた。

何も変わっていない。亜樹の身体には、男の匂いも、汗も、何も残っていない。ただ残っているのは、道流の中にある嫉妬だけ。

道流はワンピースを着せてあげた。

ブラもパンティも身につけていない身体は、とても妖艶で魅力的だった。もしワンピースに身体が透けていたら?乳首が見えて、恥丘の黒く生い茂った陰毛が透けていたら?卑猥な想像が広がる。

道流は気づいた。余韻が冷めない勃起した乳首が、ワンピースに薄っすらと浮き上がっていたのだ。

もう耐えられない!緊張の糸が切れたように、道流はすぐに亜樹の腕を掴みホールを出て、映画館をあとにした。

〜4〜

その足で駅まで急いだ。亜樹の腕を掴んだまま、早足で。

亜樹もわかっているのか、決して拒もうとせず、声を出すこともなかった。

駅のホームは、まだ午後になったばかりだというのに人でごった返していた。どうやら近くの路線で事故があったらしく、その影響でこちらのホームまで人が流れて来ていたのだ。

人の熱気と苛立ちで、ホームはさらに温度が上がっている。表情はみな険しい。

しかし、その中でキョロキョロと何かを物色している中年の小太りの男がいた。

最初はただ、ホームの異様さというか、いつもならありえない状況に困惑しているのかと思っていたが、見ているとどうやら女性を物色していたらしい。

綺麗な女性、可愛らしい女性、視線を止めて、薄気味悪い笑みを浮かべていた。

道流はそんな男をただじっと眺めていた。けれど、しばらくして、道流は亜樹の手を引いたまま、男の後ろに近寄って行った。

何気なく背後に立つと、男は二人を一瞥する。なんだカップルか、というような不躾な目つきで顔を逸らした。

だがすぐに、もう一度亜樹の顔を確認すると、鼻をフンと鳴らした。それはかすかに聞こえた程度の音だったけれど、道流は確信した。

この男は必ず、亜樹に触る、と。

それから電車を待つ間、二人の間に会話はなかった。

亜樹は何を思うのか、俯いている。道流はそんな亜樹に声をかけることはなかった。

だって、もう身体の中では性的欲求が暴れていて、抑え込むだけで必死だったから。もう本心では、早く亜樹とセックスしたかった。

ここでようやく、電車がホームに入ってきた。道流は男から離れないようにして電車に乗り込んだ。

案の定、車内は大変な混みようだった。道流と男には好都合かもしれないが……。

電車が動き始めると、さっそく道流は亜樹を男との間に挟むように体勢を変えた。

不審な表情をする亜樹を横目に、サンドイッチの状態になった。

道流はまるで他人事のように、顔をそっぽに向けて男が行動するのを待っていた。すでに股間は勃起している。

それから次の停車駅に着いた。混雑状況は変わらない。男もまだ動かない。二人が降りる駅まではあと五駅だった。早く、頼む。道流は胸の奥で懇願していた。

再び電車が動き出す。と、そのときだった。亜樹の身体がビクッと反応した。

亜樹は一度男の方へ顔を向けたあと、助けを求めるように道流に潤んだ瞳を向けた。

可愛らしい瞳だった。守ってあげたくなる、抱きしめてあげたくなる。

ダメだよ……。イヤだよ……。おそらく亜樹は、儚い声でそう思っているのだろう。道流にはわかる。ずっと一緒に過ごして来たのだから。

でもね亜樹、僕は怒っているんだよ?

道流の中に滾っている興奮は、もう鎮めることは出来ない。

男が、亜樹の尻を鷲掴みにして撫で回していた。気づいただろう。さっき、亜樹の下着は映画館の男に持ち去られてしまった。だから今の亜樹は、ノーパンでありノーブラ。ワンピース越しとはいえ、その指に尻の感触が伝わっているだろう。

そこで、亜樹が道流のシャツを弱々しく摘んだ。まるで彼女が、彼氏との去り際を引き止めるような感じで。

すると、男が気づいたように目を見開いた。最初は道流と亜樹の関係に驚いたようだけれど、徐々に理解したのか、男は、いいんだな?というように顎をクッと持ち上げた。

道流は、頷いた。

そうなったらもう男に遠慮も躊躇もない。亜樹のワンピースの裾を腰の位置まで捲り上げると、後ろから尻の破れ目を通って秘部に指を突っ込んだ。

亜樹の顔が真っ赤に染まる。恥ずかしいの?それとも、嬉しいの?道流は悪戯っぽく頭を撫でた。

慣れないことはするもんじゃないと、普段はMっ気の強い道流は、日常的にそう思っている。でも、こんなときは別の顔が姿を表して、最愛の妻を辱めたいという欲情に支配されてしまう。猛々しい、淫らな悪戯心だ。

亜樹もまた、道流と結婚してから数年たつが、そのもう一つの表情には慣れてはいない。だから今この瞬間になっても、道流の興奮した顔……剥き出しの形相がにわかに信じられなかった。

男がもう片方の手で亜樹の胸をグイグイと揉み出した。

冷風が流れている車内にもかかわらず、道流と男は額に汗を滲ませていた。男はその汗を拭いもせず、目の前の女体にせっせと悪辣行為をしている。

……いや、それは僕も同罪か。道流は自分の心が、背徳感で満たされていくのを感じた。

男は、亜樹の背中のファスナーをジリジリと下ろし始めた。やはり、どうやら女性の服装にあるファスナーは、男を虜にする魔法がかかっているのかもしれない。ボタンもまた同様に。

腰までファスナーを下ろすと、男は秘部に入れていた指を抜いて、背中からワンピースの中に腕を滑り込ませていき、脇の下を通って胸を直に揉み出した。

絶景だった。悶える亜樹の表情、ワンピースの中で蠢く男の手、妻が他人に抱かれることで性の悦びを得られる道流からすれば、それは山の頂から生まれ故郷を眺めるようなもの。感動すら覚える。

男は、下から上に、下から上に、その感触を確かめるように念入りに生乳を揉み続けた。

その間にも、男は身体をさらに密着させて、まるで抱きしめるような感じで、顔を亜樹の首元に寄せた。

そして、首筋までもが舌で舐められてしまった。

亜樹「あっ……ぅん……ハァ……」

たまらない。電車の中で、見知らぬ男に痴漢される妻。ワンピースは背中のファスナーを全開にされ、あまつさえ下着を身に着けていない身体を、弄ばれ知られていく。

そう、道流は大切な人が、他人の男に知られていくという事実に熱狂するのだ。

そのとき、亜樹の身体が一瞬ビクッと動いた。男が乳首を摘んだのだ。

亜樹「……あん……ハァん」

口から妖艶なささやきが漏れる。

必死に、男の愛撫を我慢しているのか、亜樹は足に力が入らなくなっているようだった。

さらに男は片方の手を、下に運んだ。ワンピースの中で亜樹の股間がもぞもぞと動いていた。どうやら男の手が到達したらしい、亜樹のおマンコに。

クチュクチュと卑猥な音が聞こえる。次第に手の動きが速くなり、男の表情が恍惚に歪んでいく。

そろそろなのか……。亜樹の限界が近づいているようだった。

次の瞬間、

亜樹「アッ……ッッッッッ!」

亜樹は道流の腕に強くしがみつきながら、膝をガクガクと震わせた。男の手によって逝かされてしまった。

ここでタイミングよくアナウンスが流れた。電車が速度を落としていく。

ここまでか……。本音は最後まで、挿入までして欲しかった。道流と男の物足りなさでしかめた表情は、まったく同じだった。

ドアが開くと、乗客が人の塊を掻き分けながらポツポツと降りた。道流と亜樹もそれに続き、手を繋ぎながらプラットホームに降りた。

家に帰って来ると道流はすぐに荷物を置いて、亜樹を脱衣場に連れて行った。

ワンピースを脱がせて裸にすると、自分もすぐに服を脱いだ。そして風呂場でシャワーヘッドを頭より高い位置にして、ぬるい水を出した。

道流は、亜樹を壁にもたれかかせて尻を突き出させた。脈打つチンポを膣口に押し当て、焦らせるように擦る。

道流「亜樹が悪いんだよ。あんなふうに、僕を挑発するから」

亜樹「だって……だって、道流が……」

か細い少女のような声だった。

道流が尻を叩いた。パンという音が、室内に広がる。

道流「亜樹がいけないんだ。僕を何度も興奮させて」

亜樹「ごめんなさい……。でも、でも喜んでくれるかなって思ったから……」

もう一度。パンという音が鳴った。

道流「悦ぶよ。悦ぶに決まっているよ。もう、我慢するのに必死だったんだよ」

道流は、先っぽを膣内に思い切り押し込んだ。

亜樹「あぁん!」

強烈な電流が、頭めがけて身体を駆け巡った。

道流「亜樹のせいだからね!」

道流は亜樹の腰を両手で掴み、強引に前後に動かした。

亜樹「あん!……あんっ!……あっン!」

パンパンパンパン……。何度も何度も、腰を打ち付ける音が鳴る。亜樹の乳房が、そのたびに激しく揺れる。

道流はすぐに、背中に口づけをして両胸を鷲掴みにした。

道流「こんな破廉恥な身体を、僕以外の男に触らせたんだね。たくさん感じたんでしょ?こんなにグチョグチョにして」

亜樹「あぁん!……ごめんなさいっ!……気持ちよかったの!」

指が乳房に食い込み、歪に形を変える。乳首が勃起していて、道流が強く挟んだ。

亜樹「あんっ!……凄い!……凄く気持ちいいよ道流!」

道流「僕もだよ亜樹。本当は、さっきの男達に犯されてほしかった。僕の亜樹を、いっぱい汚してほしかったんだよ」

道流は亜樹の身体を振り向かせて、今度は正面から、片足を持ち上げて挿入した。

亜樹「アァん……深ぃっ……道流のおちんおちんが奥まで……あンっ!……気持ちイイよぉ!」

激しく打ち付けるピストンに、乳房は上下に弾み、尻肉は揺れ、口からは嗚咽のような声が漏れる。

道流「亜樹の蜜が、僕のチンポにたっぷりと絡みついてる。凄い量だよ。本当に亜樹は変態だね」

亜樹は首を左右に振る。否定しているつもりなのだろうが、膣内ではさらに、濃厚な蜜が溢れていた。

道流はここでラストスパートをかける。子宮まで腰を振り抜く。

亜樹「あっ!……あっ!……アっ!……道流、もう逝っちゃうよ!」

道流「僕もだよ亜樹。……あぁ!亜樹、いっぱい出すからね。いっぱい飲むんだよ」

さらにピッチを上げる。パンパンパンと叩きつける音が風呂場いっぱいに鳴り響く。

亜樹「あンっ!あンっ!っああ!」

道流「あぁぁ!……亜樹!出すよ!」

亜樹「あン!来て!いっぱい頂戴!」

道流「あぁっ!」

その瞬間、肉棒を引き抜き亜樹の口内に向けて射精した。

道流「ハァ……ハァ……ハァ」

亜樹は上目遣いにゴクリと喉を鳴らした。そして、道流はそんな亜樹を見下ろしながら、

道流「亜樹……素敵だったよ」

そう言って、キスをした。

〜5〜

五日後……。

夜のオフィス。休憩スペースの窓際で、道流は缶コーヒーを飲んでいた。

それは五時間にも終わる残業が終わり、ようやく訪れた至福のひととき。進捗はまずまずで、上司には良い報告が出来そうだった。

もともと押し付け……いや、どうしてもとお願いされた仕事だったので、最初はいやいや、乗り気でなかった残業も、峠を越えてしまえば楽しくも思える。

それに今は一人でやっているわけではなくて、昔と違って可愛い後輩が手伝ってくれる。終電近くまで会社に残っていても、まるで小学生の頃の居残り勉強のような不思議な高揚感があるから、それと相まって辛いと感じることもない。

道流は満月を見上げて、まん丸な輪郭に亜樹の笑顔を重ね合わせた。

亜樹はいつも、お酒を飲むと幸せそうな笑顔をくれる。あの満月のように可愛くて、まん丸で、眩しいくらいに僕を幸せな気分にさせてくれる。

大好きなんだよなあ……。道流は思わず、ムフッと顔をほころばせた。

しかしそこへ、背後から忍び寄って来る影が一人、

真琴「隙ありっ!」

真琴が道流の両脇を人差し指で突っついた。

道流「おふっ」

何とも言えないくすぐったさに、道流は思わず身体をよじらせ鈍い声を漏らした。

道流「こらっ」

真琴「隙を見せた道流さんが悪いんですよ。それに、その惚気顔もです」

そう言って、意地悪く笑ってみせた。

真琴「では、帰りましょう。早くしないと終電がなくなっちゃいますからね」

道流「あぁ、そうだね。よしっ、じゃあなんだっけ?真琴の家に寄ればいいんだっけ?」

真琴「はい!ぜひ今回の旅行にご同行させてください」

と言って、何か企んでいるであろう顔をした。

道流はすぐに、その企みに見当をつけた。真琴のことだからどうせ三人の……いや、四人か。四人の裸、もしくはセックスを撮影してきてほしいと言うに違いなかった。

真琴「ささっ、行きましょう!」

相変わらず、真琴の欲求には頭が下がる。

道流は呆れながらも、そんな真琴に背中を押されるようにして会社をあとにした。

人のまばらな駅で電車を待っているとき、真琴が落ち着かない様子でどこかうずうずしているように見えた。

道流「どうした?」

真琴「いえ、今回の旅行はどんなエッチな姿が見れるかなって思いまして。私は行けませんけれど、三人に加えて杏花さんもいることですし、よりムフフな展開を期待しているんですよ」

ムフフって……。道流は呆気にとられた。

道流「まったく。ていうかさ、真琴の同行させてほしい代物ってカメラだろ?」

真琴「正解ですっ!よくわかりましたね」

そりゃわかるって、同じ変態なんだから。道流はそう思った自分にどこか情けなさを感じた。

けれど本音では、少しずつ好奇心が膨らんでいた。真琴に煽られたからではないけれど、道流も今回の旅行で、また刺激的な興奮に出会えることを密かに期待していたのだ。サマーでホリデーでエブリシングな、あのときめきを思い出させてくれる季節に……。今回、道流と亜樹と優衣香と美雪は、杏花の故郷である島に招待されている。

世間的なカレンダーは連休でなかったけれども、仕事が落ち着いている頃だし有給も消化しないといけないので、この際みんなで行こうということになったのだ。……つまり、例年通りである。

けれど今回の道流は、急遽残業となってしまい船旅に同行することができなかった。

経緯はこうだ。

三日前、仕事をしていると上司が道流のもとにやって来た。それはそれは、とてもいやーな予感がした。

上司は他部署でミスがあり、その影響でこちらの仕事にも支障が出ていることを説明した。

このときの道流には、すでに予感は確信へと変わっていた。さらに、次に出てくる言葉にも予想ができた。

おそらく上司は、そのミスをこちらの部署で引き取り、まとめて解決しますと相手方に提案したのだろう。

案の定、上司は予想通りの言葉を並べた。

道流は訝しげに訊いた。なぜ僕のところに?と。上司は、誰もやりたがらないから、と返してきた。

当然でしょ、と道流は思った。

それはまるで、犬にニャーと鳴いてほしいと頼み、ワンと返事をされるようなもの。道流はなんだか哀れみの気持ちが溢れて来た。

しかも上司の目には、もう頼れる奴がいないんだ、頼む。という熱意と懇願が込められているような気がした。

当然ここは受け流してしまってもいいのだけれど、それはそれで薄情な気がしてならなかったので、道流は呆れたようにため息を吐き、わかりました、としぶしぶ頷いた。

ただ、それを聞いて激怒したのは亜樹だった。

実はその仕事の期日と、みんなで旅行に行くという計画の日が重なっていて、どうやっても出発の日に間に合わなかったのだ。亜樹が怒るのも無理はない。

そのため、道流はなんとかして説得しようとした。あとからちゃんと合流するからと言ったけれど、やはり亜樹は納得しなかった。

その際に亜樹は、道流は本当にお人好し過ぎる、と怒ったのだ。

でも仕方ない。目の前で困っている人がいるのだから、少しくらい手を差し伸べても罰は当たらないよ。それがたとえ、自分が招いたことであってもさ。

そう道流が言うと、亜樹は呆れたようにため息を吐いた。

……今回道流は後から合流する。翌日も仕事だが、それが終われば飛行機で島に向かう手筈となっている。

ただ一人、真琴は今回の旅行には参加しなかった。詳しくはわからないが、何か大事な予定があるらしい。

真琴ほどの変態の化身がそんなムフフな旅行を断るのだから、その予定とはよほどのことなのだろう。あまり深く聞いてはいけないような気がした。

道流は隣に立っているそんな真琴を眺めた。

亜樹よりも小さな身長は百五十五センチほどで、今年二十歳になったのに、中身はまだまだ子供のようだった。外見はボーイッシュな雰囲気で、最近染めたらしい黒髪はショートに整えられている。顔が童顔だからか、角度によっては少年に間違えられてもおかしくない。それくらい中性的な顔をしている。

本人は知らないようだけれど、意外にも会社ではクールな妹、という感じでファンが増えているという噂だ。

でも、その噂もわかる。真琴は変態ではあるけれど、根っこは真面目で人懐っこい性格でもある。いつも隣にいるからわかるけれど、ヨシヨシ、と頭を撫でてあげたくなるようなそんな女の子なのだ。

ここでようやく電車がホームに入って来た。車内の冷風をヒンヤリと浴びながら二人は乗り込んだ。それから車両の端に並んで座った。

道流はハンカチで額を拭い車内を見渡した。しかし自分達以外の乗客はポツリとしかいなくて、都会の平日には似つかわしくない珍しい光景だと思った。

道流「それで、カメラっていうのは?」

道流は一呼吸してから、あらためて問いかけた。

真琴「カメラというか、ビデオカメラですね。ちなみに、そのカメラには赤外線―――」

と言いかけた瞬間、道流は食い気味に遮った。

道流「やめなさい。ったく、なに考えてるんだよ」

真琴「冗談ですよ」

まったく冗談には聞こえなかった。むしろ真琴なら何気なしに、携帯で風景を撮るくらい簡単にやりそうだと思った。

道流「でもまあ、今回はありがとう真琴。真琴のおかげで船のチケットも取れたし、しかも特一等室だっけ、あんなにいい部屋まで」

真琴「いえいえ、私はなにも……偶然ですよ。以前、知り合いが船に乗るということを聞いていたんです。今回と同じ船、人数で。ですが、急遽予定が入りキャンセルになってしまったんです。でも、そのタイミングと偶然にも杏花さんからのお誘いのタイミングが重なったので、厚かましいですが、こちらの事情をお伝えしたら快く譲っていただけたというわけです」

真琴は誇らしげに胸を張った。

道流「そっか。もし機会があったら、僕からもお礼を言わせてよ」

真琴「はい、覚えておきます」

それから電車で揺られることしばらく。二人は電車を降りて真琴の家にそろそろと歩いた。

途中コンビニに寄って、真琴がお弁当を買った。

終電が近くなければ作ってあげられるんだけどな。道流は隣でニコニコと笑う真琴を見ながらそう思った。

家に着くと、真琴はさっそく自室に行って例のビデオカメラを持ってきた。ところが、もう片方の手にはなにやら怪しげな瓶が握られていた。市販で売られている栄養ドリンクと同じサイズだ。

道流は嫌な予感がした。

道流「真琴、それって?」

真琴「ふっふっふ。これも旅行のお供にってやつですよ」

不気味な笑みだった。

このての笑いは間違いなくシモのネタだ。道流はそのことを重々承知だった。

道流は呆れたように首を振って答えた。

道流「わかった。精力増強剤ね」

真琴「正解です!さっすが道流さん、今日は冴えてますねえ。この前、買い物に行った日の痴漢で燃え上がったって言ってましたよね?でも、そのあとのセックスはすぐ終わってしまったとか」

真琴はカメラと一緒に、ドリンクを道流に手渡した。

真琴「そんな道流さんにはこれですっ!巨根入魂自信の一本!萎えたオチンポ、老いたオチンポ、自信をなくしたあなたのオチンポに、今必要な栄養素を全て凝縮!これを飲めばどんなオチンポもたちまちビッグフットペニスに!どうですか道流さん?セックスしたくなってきたでしょう?これは私が最近仕入れた強力な精力増強剤、その名も……息子の旅立ち、ですっ!」

真琴は抑揚をつけて、リズミカルに、まるで通販番組のように力説した。

道流「いやいや、ビッグフットのペニスが大きいかなんて誰にも……いやいや、そこじゃないな。別に精力が落ちてるわけじゃないから。そこ、勘違いだからね」

真琴「まあまあ細かいことは言わずに、これを飲んで亜樹さんとセックスしてください。感想はそのビデオカメラにお願いしますね」

そう言って、真琴は下手くそなウィンクをした。

真琴「あっ、でもビデオカメラには優衣香さんと美雪さん、それに杏花さんのセックスも映してきてくださいね。ダメなら裸で。とくに杏花さんをお願いします」

道流「はいはい」

道流は呆れ気味に返事をした。

それから来た道を戻り電車に乗り込んだのは、その日の終電だった。

〜6〜

同日。道流と真琴が残業を終わらせて会社を出た頃だった。亜樹と優衣花、美雪の三人はとある港から夜行便の大型客船へと乗り込んでいた。

亜樹「う〜気持ち悪い〜」

キャリーバッグをコロコロ転がしながらタラップを渡る亜樹は、一人悶えていた。

優衣花「また飲んでたの?」

後ろを歩いていた優衣花が、呆れた口調で問いかける。

亜樹はしたり顔で振り返り、

亜樹「だってね、聞いて。前々から欲しがってた日本酒の升を、道流がサプライズで買ってきてくれたの。もう私、嬉しくってさ。そしたら連日、じゃーぶじゃぶ飲んじゃった……うっ」

そう語る亜樹だったが、酔いを思い出したのか口元を手で抑えた。

優衣花は一つため息を吐いた。

亜樹の言いたいこともわかるけれど、二日酔いにまでなってもし旅行に支障をきたしたらそれこそ本末転倒だ。

たとえ嬉しいからといってわざわざ旅行の前日まで飲む必要はない。目的地である島に着けば、楽しいこと、嬉しいこと、ワクワクすること、色々な出会いがあるはず。お酒だって島にも当然ある。しかも美味しいと評判の地酒だ。みんなのことだからきっとたくさん飲むだろう。

優衣花は、もうすこしそんな気遣いができたらな、と思ったのだけれど、でもこうやって好きなお酒を呑んで二日酔いになって、これからきっと少しだけみんなから怒られるだろうけれど、それもそれで亜樹らしいのかな、とも思えて笑みが溢れそうになった。

優衣花は、辛そうな亜樹の背中を摩った。

亜樹「すまんの〜」

優衣花「いいえ。いつものことですからね」

ほんのりと嫌味が込められている言葉だったが、当の本人は気づいていないというか、吐き気を催してそれどころではないようだ。

そんな二人の会話を後ろから眺めていた美雪は一人、他人事のようにクスクスと笑っていた。

船内を進み客室に入ると、ホッとしたのか三人から吐息が漏れた。

客室は特一等室となっていて、上から二番目のランク。定員は四人で、十畳ほどの広さに二段ベッドが左右に二つ置いてある。清潔感があり、ゆったりとしていてとても落ち着ける空間となっていた。

三人はそれぞれ、荷物を入口付近にまとめた。

早速、亜樹がベッドに突っ伏した。

亜樹「はあ、せっかくの船旅なのに」

飲み過ぎたことを後悔しているようだった。

美雪「酔い止めの薬飲みますか?私持ってますよ」

そう言って、美雪はバッグから緑の巾着袋を取り出した。

亜樹「あ、ううん。そこまではいかないから大丈……うぷっ」

また酔いが込み上げてきて咄嗟に手で口を抑えた。

優衣花はそれを見て、

優衣花「亜樹、大人しく飲みなさい」

口調を強めた。

美雪「今出しますね」

美雪は巾着袋から錠剤を取り出して、

亜樹「いつもいつも、すまんの〜」

ベッドに近寄り渡した。

美雪「いえいえ、お安い御用です」

亜樹は受け取るとすぐに薬を飲んだ。

優衣花「島までは六時間あるから、ゆっくり寝て、ここでしっかり治すんだよ」

さすがの亜樹もそんな優衣花の言葉に自覚があるのか、はーい、と素直に返事をした。

しかしそのすぐあと、亜樹がなにか思い付いたのか急に目を輝かせて、

亜樹「ねえねえ、ここに布団並べてさ、三人で寝ようよ」

ベッドとベッドの間を指差した。

優衣花「床にってこと?」

亜樹「そうそう、修学旅行みたいにさ。もちろん私がセンターね」

その言い方に美雪が苦笑した。

美雪「なんか、アイドルグループみたいですね」

優衣花「でも、せっかく綺麗なお部屋なのに……」

優衣花は室内を見回しながら言った。

亜樹「ちゃんと元通りにするから。ね、一緒に並んで寝よ!……うっぷ」

気持ちが昂り勢い余ったのか、亜樹はふたたびえずいてしまった。

優衣花はそれを見るなり、まったく、と呆れた表情を浮かべた。

優衣花「わかった。じゃあ並べるから、亜樹はそこで座ってて」

亜樹「イェーイ」

よほど嬉しかったのか、亜樹は声を上げた。

そんな二人のやりとりを見た美雪は面白おかしくて、またクスクスと笑っていた。

それから二人は、亜樹の言った通り床に布団を並べた。敷き終えると、亜樹が待ってましたと言わんばかりにさっそくセンターに寝転んだ。

亜樹「よっしゃ、じゃあ寝るか」

そう言って、亜樹は二人に手招きをした。

楽しみなのか、亜樹の顔は目を押し上げるようにして頬が盛り上がり、口角が上がっていた。その表情と仕草は、招き猫の置物にそっくりだった。

優衣花と美雪は思わず失笑した。

亜樹「ん?なんか変?」

その反応は至極当然だった。

優衣花「あ、ごめんごめん。全然変じゃないよ」

美雪「はい。なんでもないんです。でも……」

二人は顔を見合わせる。またクスクスと声が漏れる。

美雪「道流さんが見たら、きっと発情して襲い掛かっちゃいますね」

優衣花「あっ、それすごいわかる」

美雪「ですよねー」

二人はキャッキャと盛り上がっている。

しかし、それを訝しげに眺めている亜樹は、

亜樹「いや、全然わからないから」

と呟き、顔をしかめた。

優衣花「それじゃあ、ちゃんと寝てるんだよ亜樹」

亜樹「え、寝ないの?私一人?」

美雪「船内を見てみたいんです。あと、デッキにも」

亜樹「ええっ?ずるいよ、それなら私も行く!」

納得いかない亜樹は、布団から起きあがろうとした。けれど、ここで優衣花が少し怒り気味に言った。

優衣花「ダーメ。まだ旅行は始まってもいないんだから、亜樹はまず二日酔いを治す方が先。それに、体調が悪いままだったら、せっかく招待してくれた杏花さんに申し訳ないでしょ?」

優衣花の言うことは至極真っ当で、たしかにそれはそうなのだけれど、亜樹は簡単には引き下がらない。少し駄々をこねてみた。

亜樹「嫌だよ。私だって見たいよ」

すると、優衣花と美雪から無言の視線が向けられた。

亜樹「……ダメ?」

優衣花を見る。

優衣花「ダメ」

次に美雪をチラりと見る。

亜樹「……どうしてもダメ?」

美雪「どうしてもダメです」

そう言われて、亜樹はがっくりと肩を落とし布団に戻った。

亜樹「なら、早く帰って来てね。じゃないと私、泣いちゃうからね」

その表情は早くも泣きそうになっていた。

優衣花「うん、わかったよ」

美雪「安心してください」

そう言い残し、二人は部屋をあとにした。

船内の壁は茶色を基調に統一されていて、取り付けてある灯りもすべてアンティークの洋風のランプでまとめられている。床には花の刺繍が入った赤い絨毯が敷いてあり、そこはまるで別世界のような、とてもオシャレな空間だった。

はじめは島と島を繋ぐ船ということしか聞いていなかったので、あまり期待はしていなかった。

けれどもこうやって散策してみると、内装はまるでホテルのように豪華で高級感があった。設備も様々で、案内所やラウンジ、カフェやレストラン、ジムやちょっとしたゲームセンター、シアタールームなど充実していてまったく退屈しない。

この船旅が数時間しかないのだと考えると、この上なくもったいないというか名残惜しい気がした。なんなら、二泊でも三泊でも宿泊したいと思えるほどだ。

優衣花と美雪はそんな船内を余すことなく見て回った。

途中お酒を売っている自動販売機があり、二人は苦笑いで、亜樹に見つからなくてよかったね、なんて会話をした。

ただ、肝心の乗客はまばらであまり賑わっている印象はなかった。夜ということもあるのだろうが……。

以前、と言っても数日前だが、優衣花は目的地である島について調べたことがあった。

近年、穴場観光スポットとして注目を浴びるようになった、と紹介されている島は、主にスキューバダイビングに力を入れていてそれ目当てで来島する観光客が多いらしい。

他にも、緑溢れる山々でのサイクリングや、透き通る海でのマリンスポーツ、豊富な魚介類を使った郷土料理など自然に富んでいる。

しかし一点だけ、ネットのレビューなどによれば、今のところ観光時期は四季の中で夏一色となっているため、それ以外の季節ではあまりパッとしない、とも書かれていた。

本来であれば、九月は絶好のタイミングとも言えなくはない。八月の旅行シーズンは外れているとは言え、裏を返せばそんな穴場スポットを独り占めできる可能性があるわけで……。

もっとも、今日は一般的な平日であり、挟んだ前日も翌日もさらに平日。もしこれがお盆ないし連休なら、家族連れやカップル、友人同士のグループで賑わっている姿が観れるのだろうけれど……少し寂しい気もする。

しばらくして、優衣花と美雪はデッキへと上がって来た。

雲一つない夜空には、一面に沢山の星が輝いていて、まるで天の川を見ているような、それは決して都会では味わえない極上の光景だった。

さらに、中央には真ん丸なお月様が、この夜空の主役は私、だとでも言わんばかりに神々しく光っていた。

それは感慨深い、特別な光景だった。

二人はいつの間にか、声を出すことも、息をするのも、時間がたつのも忘れて、しばしの時間、スカートの裾を優しい潮風になびかせながら、目の前の光景に魅入っていた。

〜7〜

日付は変わり、深夜の一時だった。

道流は部屋のまん中に座り、テーブルに広げた荷物をリュックサックに詰め込んでいた。

道流「これと、これと、これ……あ、あとこれか」

前もって亜樹が荷物を持って行ってくれているので、道流の荷物はそれほど多くなかった。

でも、こうやって荷作りしていると、どうやら亜樹は色々な物を忘れて行っていることに気づく。

エコバッグ、万が一の薬、折り畳み傘や日焼け止め、買っておいた虫除けスプレーなど、事前に準備しておいた物をことごとく忘れている。

道流は、本当に……と亜樹のおっちょこちょいぶりに呆れた。

でも、そんな間抜けなところが可愛らしく思えるのだから、やっぱり亜樹のことが大好きなんだな、と道流はあらためて頬を緩ませた。

ただ今回も、そんなおっちょこちょいな亜樹だけではなくて、優衣花や美雪という頼れる後輩もいるからな、と道流は胸を撫で下ろした。

優衣花。百六十五センチの身長にモデルのようなスラッとした体型は、会社でも高嶺の花だ。彼女を口説くべくして行動した男は数知れずいるが、みんな仲良く撃沈している。

顔はおっとりとした感じだが、その佇まいはクールで華がある。ただ、性格は真面目だが天然でもあり、ストレートの長い黒髪はトレードマークで、彼女の品格を表しているようだった。

そんな優衣花は、道流や亜樹と同い歳。けれど、一つ下の後輩なのだ。

美雪。背丈は優衣花と同じで、髪も真っ直ぐなロングヘヤー。色は入社当時から茶髪で、そういえば一度も変えたことはない。

性格は明るくて礼節を重んじている。誰に対しても優しく、でも時に厳しく、しっかり自分を表現出来る二十三歳だ。

最近は仕事終わりにジムに通っているらしく、そのためかモデルのような細さはなく、スポーツ選手のような健康的な体型をしている。まだまだ筋肉質というわけではないが、もともと恵まれた物をお持ちの彼女は、ここ数カ月で色気がグッと増した気がする。グラビアアイドル顔負けだ。

……そんな二人がいるんだ、なんの問題も起きないだろう。道流は改めて荷造りを始めた。

でも、そのときふと、壁に立て掛けてある木製のバットに目が止まった。

それは、バッティングが上手くなりたいと言った亜樹のために、道流が最近買ってきた物だった。

とそのとき、道流はある日の夜を思い出し、身震いした。そう、残業を亜樹に伝えた次の日だったと思う。

仕事から帰って来ると、リビングで亜樹がバットを眺めていたのだ。けれど、亜樹はただ眺めていたわけではない。目を細めて、なにか考えているのか、険しい表情をしていた。

道流はすぐに察した。もしかして、そのバットで上司を……。

あり得る話だ。たった数年だが、二人は一緒に働いていたことがある。昔から亜樹は、上司のことをよく思っていなかった。積もり積もった鬱憤があったはず。さらにここに来ての残業だ。

道流は、恐る恐る声をかけた。

亜樹が振り返り目が合った。背筋がゾクッとした。

なんと亜樹は、ねえ明日って上司いる?と言ったのだ。

その瞬間脳裏に上司の惨状が映し出された。戦慄した。

道流はとっさに嘘をつき、明日はいないよ、と返事をした。

これはまずい、そう感じた。

このままでは、上司の人生にピリオドが打たれてしまう。亜樹によるサヨナラ弾が、上司の人生を痛烈なコールドゲームにしてしまうだろう。

道流は翌日、仕事が終わるとデパートに直行した。

亜樹が前々から欲しがっていた日本酒の升を買うためだ。

本当はどこかの記念日でプレゼントするつもりだったのだけれど、上司の人生には代えられない。致し方ないのだ。

ついでにその升に似合うグラスも買って、道流は家路を急いだ。

亜樹「わおっ!道流、どうしたのこれ?」

亜樹は仰け反るほど驚いていた。

道流「うん。これはサプライズだよ。亜樹のために買って来たんだ。驚いた?亜樹、いつもありがとう。愛してるよ」

という言葉を言い添えると、亜樹の表情がみるみる不動明王から恵比寿様へと変わっていった。

亜樹「もう道流ったら、いや〜ね本当に。そんなこと言われたら私、照れちゃうよ〜」

亜樹は頬を両手で包みながら、恥ずかしがっていた。

亜樹「ありがとうダーリン。私も愛してるよ」

道流は亜樹の様子を見て、ひとまず胸を撫で下ろした。

これなら、上司にも危害が及ばないし、さらに自分の株も上がったことだろうから、これはこれで結果オーライかな、なんて道流は思ったのだった。

道流は微笑みながら立ち上がり、バットに歩み寄った。手を伸ばし掴み取ったその瞬間、唐突にある考えが浮かび上がった。

でも待てよ。もしこの先、僕が亜樹を怒らせるようなことがあったらどうなる……?。

自分の惨状が、まるで真っ暗な部屋を、シーリングライトの光がパッと照らし出すように鮮明に浮かび上がった。身体から、血の気がサーっと引いていった。

道流はこのあと、バットを物置に隠すようにしてしまったのだった。

〜8〜

その頃、美雪はスマホを空に向けて動画を撮っていた。

優衣花「亜樹に?」

美雪「はい。あと道流さんと真琴に。こんな綺麗でロマンチックな夜空ですよ?お裾分けしないともったいないですからね」

美雪は気分が高揚しているようだった。

とここで、優衣香は思い出したように問いかけた。

優衣香「ねえ美雪ちゃん。そういえば、なんで道流さんは残業になったの?それに、真琴ちゃんも予定があるって……」

美雪「あ、えっとですね、道流さんは残業になったというより、進んで志願したんです」

優衣香「え?」

美雪「詳しいことは省きますが、要は他部署のミスが原因で仕事に遅れが出たんですけど、その尻拭いを引き受けたというわけです」

優衣香は呆れた様子で首を振った。

優衣香「また、道流さん『らしさ』が出たんだね」

美雪「はい。それで真琴は、たしかアニメの……声優さんのライブ?だったと思いますけど、そちらに行くそうです」

優衣香「あっ、そのアニメって前に言ってた?」

美雪「そうです。ネットで知り合った女の子と二人で行くみたいですよ」

優衣香「女の子と、か。真琴ちゃんは『らしさ』が出ない方がいいかもね」

美雪「ふふっ、ですね」

二人は笑い合った。

美雪が腕時計を見る。

美雪「では、そろそろ戻りましょうか。きっと亜樹さん寂しがってますよ」

しかし、優衣花の表情が一瞬曇った。

優衣香「そうだね。……ごめん。もうちょっと私はここにいたいかな」

美雪はその表情の変化にすぐ気づいた。そして、すぐにその言葉に秘められた意味を理解した。

たしかに、波は穏やかで、風は優しい。ここは、シルクのブランケットで肩を包み込んでくれるような、そんな安心感を与えてくれる場所だった。

おそらく、優衣花は物思いにふけたいのだろう。

美雪にはその中身はわからないけれど、今この瞬間が、そういったものを整理するのに最適な場所であるような気がした。

美雪「わかりました。では、お先に戻ってますね。あ、でも長居して風邪をひかないでくださいね」

優衣香「はい、気をつけます」

そう返事をすると、美雪は階段を下りて行った。

それから優衣香は一人、膝丈のデニムスカートの中に潮風を感じながら、あの日を振り返った。

あの日、優衣香は一人で増田の家に向かった。

自分でも、もう制御できなかった。身体は激しく求めていた。いつかの自分を、いつかのセックスを。

決して忘れることなんてできない。身体にはしっかりと刻まれているのだから。

増田の家には、他に二人の男がいた。見知らぬ男達だった。

でも優衣香にとって、そんなことどうでもよかった。優衣香はただ、増田に会いたかったから。

増田は、少しも躊躇することなく男達の目の前で服を脱ぐよう指示した。

それに対して優衣香もまったく戸惑いはなかった。一枚一枚、増田の言う通りにいやらしく衣服を脱いでいった。

男達は、目の前で行われているストリップに、目をギラギラさせて見入っていた。

やがて一糸纏わぬ姿となった優衣香は、増田と男達の眼前でポーズを決めていく。

挑発するかのような笑みを見せた。卑猥に、官能的に腰を振った。見せつけるように、足を開いた。どこが見えようと、何が見えようと、構わなかった。

カメラのシャッター音が鳴るたびに、増田との記憶が甦り、興奮して、身体を高揚させた。優衣香の秘部から滾る欲求が愛液として溢れ、肌に滴った。

そしてその瞬間は、当たり前のように訪れた。

優衣香「……もう、入れてください」

焦らされる喜びは、やがて苦痛になる。快感は、やがて拷問になる。

我慢などできるわけがない。おとなしく待っているなどできるわけがない。

ここに来た理由、求める相手が目の前にいる。この身体の熱を鎮めてくれる『薬』が目の前にある。

優衣香は、自らマンコを広げて、

優衣香「お願いします」

懇願した。

そして男達二人が、待ってましたと言わんばかりに優衣香に覆い被さった。

セックスは、朝方まで続いた。

二人の男は代わる代わる優衣香を貫いた。

そのうちに、撮影に徹していた増田も裸体を味わった。

いったい何度絶頂を迎えたかわからない。それは、優衣香も増田も男達も一緒だった。

ただその異様さを、部屋に充満していたオスとメスの臭いだけが物語っていた。

裸でベッドに横たわっている優衣香に増田がこう言った。

増田「優衣香、君は僕の女になるんだ。いいね?」

カーテンから光が薄く注ぐ中、その朧気な意識の中、優衣香は答えた……。

秘部に湿り気を感じた。

あれからまだ一ヶ月もたっていない。それなのに、思い出しただけで身体は反応してしまう。

いつから、こんなに淫乱な身体になってしまったのだろう。そうやって、何度同じことを考えたのだろう。

また繰り返す。

でも、もう今は違う。開き直りかもしれないけれど、これが自分らしさなんだと気づいた。

セックスが好きでいい。少し、露出癖があるけれど、それでもいい。人に言うのは、少し恥ずかしいくらいに変態だけれど、それもまたいい。

その全部が、ありのままの私。増田さんも言っていたーーー。

『優衣香、君はもう素直になるべきだよ。セックスが好き、露出が好き、見られるのが好き。君にとって、それは天から与えられた立派なギフトだ。だから、隠す必要なんてない。君は、君らしくあるべきなんだよ』

優衣香は、思い出しながら口元を緩めた。そっとスカートの裾を捲し上げた。

心地好い潮風が、熱を帯びた下半身を優しく冷ましてくれる。

そっと中指を、秘部に当てた。

さすがにこれは怒られるかな、こんなところでオナニーするなんて……。でも、疼ちゃう。

黒のティーバックをずらして、ワレメを擦る。

ダメ……あぁ……増田さん、撮らないで。……欲情しちゃう……そんな目で見ないで……感じちゃう。

たったこれだけなのに、もう愛液がじわっと溢れ出してくる。

それでも、止まらない。

誰かに覗かれているかもしれない。見られているかもしれない。けれど、それがまた露出癖の身体をくすぐる。

もっと……見て……触れて……あん!……いい!……増田さん!……もっと激しく!……狂っちゃうくらい、かき回して!

中指をマンコに突っ込み、前後に激しく動かす。

あぁ!……もうイク!……逝っちゃう!……早く!……もっと犯して!……もっとレイプして!

頭の中で、今までの男達が歪に形を変え優衣香を犯し尽くす。

快感が全身に広がる。頭の天辺まで閃光が走り抜ける。

と、そのときだった。

優衣香「うっ……イクっ」

顔を空に仰け反らせ、膝をガクガクと震わせながら地面に座り込んだ。

優衣香「ハァ、ハァ、ハァ」

つくづく、変態。でもこれが、つくづく私。もう今は、嫌いじゃない。

優衣香はゆっくりと立ち上がり、呼吸を整えた。熱を帯びた身体を、潮風が優しく撫でる。

すると突然、背後から階段を上がってくる足音が聞こえた。

優衣香は我に返り、足音の方に顔を向けた。

そこには、サーファーのようなヤンキー風の色黒男がいた。

茶色の髪は肩甲骨まであり、胸元には金のネックレス。そして、ボタンを大きく開いたアロハシャツに、ベージュのハーフパンツ。見るからに遊び人といった風貌だった。

男はなんの躊躇いもなく、首に腕を回してきた。

「いいねぇ。月明かりに照らされて、一人オナニーかい?」

馴れ馴れしく耳元で囁く男。臭かった。男は結構なお酒を飲んでいるのだろう。優衣香は思わず鼻をつまみたくなった。

優衣香「なんですか?」

そっけなく言うと、男は優衣香の髪の毛を後ろで束ねて鼻に押し付けた。

「好きなんだよ。こういう女の匂いが」

スーっと、深く匂いを嗅いだ。

「俺さ、さっき猛烈にセックスしたい気分になっちゃったわけ、そしたらちょうど姉ちゃんを見つけてさ、ちょっと眺めてたらエッチなこと始めたから、俺もその気になっちゃったんだよね。しかも美人だし、この子となら別にしてもいいかなって思ったんだよね」

やけに偉そうな口振りだった。男は束ねていた髪を持ち上げて、首筋に舌を当てた。

下から上に、なぞるようにして舐めたあと、耳に、フッ、と息を吹きかけた。

優衣香「んっ……」

優衣香はさきほどの余韻が残っているのか、思わず声が漏れてしまった。

「ふふ。身体は正直なんだよなあ」

男の手が、膝から太もも、脇腹と体のラインに沿っていやらしく上がって来る。やがて脇の下から伸びて来ると、胸の前で抱きしめられてしまった。

すでに秘部は濡れていて、身体はウズウズしている。男もそんな優衣香の匂いを、鋭くも嗅ぎとっていた。黙っていたけれど、さきほどのオナニーを男は眺めていたのだ。

ずっと、優衣香の後ろ姿を眺めて妄想していた。あのケツはどんな形をしているんだ?どんな感触で、どんな匂いがするのか。

細身のクセにエロいケツだ。揉みしだいて、メチャクチャにしてやりてえ。男は思った。

妄想は、どんどん激しくなっていく。我慢ができなくなった男の股関はすでに臨戦態勢だった。

男は右手でシャツのボタンを外しながら、左手で優衣香の長い髪をまとめ上げた。

うなじに口を近付けると、その白い肌を舐め上げた。

優衣香「はっ……アん……」

感覚が敏感に、鋭くなっていく。たったこれだけのことで、もう秘部から、その証が滴ろうとしていた。

白シャツのボタンがゆっくり、一つ一つ男の手によって外されていく。優衣香の素肌が徐々に露わになっていく。

男は、肩から覗き込むようにして笑う。

「お前、もう開発済みだろ?身体から滲み出てんぞ?淫乱女の匂いが」

でも嫌な感じはしなかった。なぜなら当たっているから。私はもう増田という男に淫乱な身体にされてしまったのだから。

右手が、黒いブラの中に入っていく。人差し指が、勃起した乳首をクリクリと転がす。

優衣香の口から吐息が漏れる。自分でもわからないほど溺れていた。電気が頭の天辺まで走り抜ける。

これだけなのだ。ただ、乳首を転がされているだけなのに、足が震えて、男に身体を委ねてしまっている。

優衣香「アん……はぁ……」

「へへへ。たまんねえ声だなぁ」

男の声が上擦って高くなる。

「姉ちゃん、パンティ見せてくれよ」

優衣香「……はい」

言われた通りに、優衣花はスカートを捲り上げる。ヒューと、男が口笛を吹く。

優衣香は下半身を丸出しにした。それはあまりに卑猥だった。

男はしゃがみ、下から優衣花の尻を見上げる。壮観だ。

「いいねえ。細見だけど、ムチッとしたエロいケツしてんじゃねえか。それに、黒のTバックがなかなか映えてるねえ」

そう言うと、男はおもむろに優衣花の尻肉に口を付けた。

「うめえ。最高じゃねえかこの感触。お前、こんなお宝身に着けてんのかよ?そりゃ変態にもなるわな」

気疎い言葉だ。でも、今の優衣花にはその言葉が刺激となってさらに昂ぶる一つの要因となる。

もっと、もっと、乱暴にして。口には出さないが、本心ではそう思っていた。

男はさらに、片手で尻肉を揉みしだいた。柔らかくて、でも重みがあり、手に吸い付く感触は、今までのどんな女よりも絶品だった。

男は舌を出して舐め上げた。肉に食い込むように強く、押し付けながら。

優衣花「ん……ん……アン」

どんどん身体が熱くなっていく。優衣花はそっと足を開き、パンティに指をかけた。そしてズラした。

男の眼前で、秘部が丸見えになった。

「ははっ、そうこなくっちゃな」

すると男は、身体を反転させて優衣花の股下に潜り込んだ。顔を頭上に向けて、手すりにもたれかかる感じで優衣花の秘部に口を付けた。

優衣花「あっ……そこ……あん……もっと……」

男の鼻が恥丘の密林に迷い込み、口と舌は愛液でいっぱいの海に沈んでいた。

優衣花「アン……ダメ……もっと……もっと……激しく」

何も考えられないほど、快感が身体中を駆け向けていく。

不快な男、野外による羞恥、背徳感。辱められているのに、いくつものピースが快楽のパズルにはまっていく。

でも、まだ満足出来ない。

男は親指で秘部を広げた。

濃厚な蜜が、男の口に向かって、まるで自分から飛び込んでいくかのように落ちていく。

「……お前、本当にたまんねえよ。エロすぎるぜ?やっべ……裸にしてめちゃくちゃにしてやりてえ。その綺麗な顔と身体に、俺の証を刻み込んでやりてえ」

すると男はいきなり立ち上がり、優衣花にキスをした。

しかしそれは、かなり深くて乱暴なキスだった。互いの昂りを押し付けるように、頭を抱き寄せ合い舌を絡ませ合った。

その光景はしばらくの間続いた。会ったばかりの、半ば無理やりの関係。それがもう恋人のような緊密さになっていた。

それから、男の手は優衣花の尻を揉みまくり、優衣花の手は男のズボンの中に入った。

そこにはとてつもなく大きい『モノ』があった。優衣花は一瞬、これで突かれたら、という衝動に駆られ、今まで経験したことのない快感が、もしかしたら自分を壊してしまうかもしれない、そんな予感が脳裏をよぎった。

欲しい……。この滾る身体を鎮めてほしい。

優衣花「あん……あっ……ハァん……おっきい……素敵」

「だろ?百発百中ってやつよ。これで突かれたらな。お前も欲しくてたまんねえんだろ?ほら、言えよ。あなたのおちんちんくださいって」

優衣花は生唾を飲んだ。瞳を潤わせた。葛藤する時間など、一秒もなかった。

優衣花「欲しい……。あなたのおちんちんが欲しいの。私を虜にさせて」

そう言って、優衣花は男のズボンと下着を下ろした。

「へへ。長い夜になりそうだな」

男がデニムスカートをたくし上げると、優衣花は自分からパンティを下ろそうとした。しかし、

「ん?あ、やべぇ」

なんとここで、足音が二つと話声が聞こえて来た。

二人は急いで服装を直した。なんとも締まらない、白けた感じになってしまった。

男は最後に、優衣花の髪を撫でてキスをした。そして、その場を離れて行った。

なんだか強張りがなくなり、自然と大きなため息が出た。

何をやっていたんだろ、優衣花は思った。まるで期待していた映画が、呆気なく終わってしまったような、そんな残念な気持ちになった。

足音が近付いて来る。

優衣花「あっ」

そこで優衣花は気付いた。

美雪「あぁ、やっぱり。もう、全然戻って来ないんで心配しましたよ」

と、安心したように話す美雪の隣で、

亜樹「こら優衣花。私に黙ってこんなロマンチックな空を独り占めなんて許されないよ」

亜樹はプンプンと怒っていた。

優衣花「ははっ、ごめんなさい。うん、なんかあまりに綺麗だったから、ついつい」

美雪「あんまり長居すると、本当に風邪ひきますよ?」

優衣花「うん、そうだね。じゃあ、戻ろっか」

亜樹「えっ?なになに、もう戻るの?せっかく来たのに」

美雪「ダメです。亜樹さんは二日酔いを治すのが先なんですから」

そう言われて、亜樹はガックリと肩を落とした。

亜樹「はぁ……。なんか、最近の美雪ちゃんは道流みたい」

美雪「はい!亜樹さんをしっかり見ておくようにって道流さんから言われてますので」

美雪は力強く答えた。

ったく道流は余計なことを、亜樹は思った。

そんな二人のやり取りを見て、優衣花は微笑んだ。

〜9〜

島に到着したのは、すでにかんかん照りの太陽が海に浮かぶ宝石をより一層輝かせている頃だった。亜樹達三人は、すでに朝食を済ませて、下船の準備を整えていた。

亜樹「ふあ〜よく寝たぜ」

高々と両腕を上げて、あくびをした。

優衣花「起きたばかりなのに、いっぱい食べたね」

亜樹「うん。これも美雪ちゃんに貰った酔い止めのおかげだよ」

亜樹はウィンクした。

美雪「いえいえ。でも!油断は禁物ですよ。亜樹さんはすぐ無理をしますから。わかりましたか?」

いつも近くで亜樹を見ている美雪ならではの言葉だった。けれど、しっかり最後は釘も刺す。

亜樹は眉間に指先を添えて、

亜樹「はい、気をつけますっ!」

敬礼をしつつ、にかっと白い歯を見せた。

そうこうしていると、船内アナウンスが流れた。

三人はそれぞれ荷物を持ち客室を出た。それから案内に従って、順番に下船するためのタラップを降りた。

港は閑散としていた。迎えの人も車もあまりいない。港には、白い鳥達が漁師の獲って来た魚を狙って、低い空を鳴き声を上げながら飛び回っている。

それにしても、杏花の姿がない。

亜樹は腕時計を確認する。

到着時刻は予定通り。迎えに来ると言っていた杏花には、もちろん事前に伝えてあった。

亜樹「どうしたんだろ」

心配そうに言う。

亜樹は携帯を取り出した。なにか理由があって遅れているのかもしれない。

念のため、電話をかけてみようと思ったときだった。『おーい!』という声が響き渡った。

三人は一斉に声のする方へ顔を向けた。

杏花「こっちこっち!」

その声の主は、白い軽トラックの運転席から身を乗り出し、手をぶんぶんと振っていた。

すぐに亜樹達が、杏花の元に近寄る。

亜樹「おはよう杏花」

亜樹に続いて、優衣花と美雪も挨拶を交わす。

杏花「長旅ご苦労さん。身体、揺れてない?」

優衣花「少し揺れてますね」

美雪「私はなんとか、大丈夫です」

二人は失笑して答える。

杏花「亜樹は?」

と、杏花が顔を向ける。

しかし亜樹は、訝しげに軽トラックを見ている。

杏花「どうしたの?」

亜樹「……ねえ杏花。杏花っていつから軽トラックなんて運転できるようになったの?」

優衣花と美雪が同時に『え?』と声を揃えた。

四人の間に妙な空気が流れる。すると、

杏花「できないよ!」

あっさり答えた。

亜樹「え?じゃあ今日が初めてってこと?……ええっ!?」

目をまん丸と見開き動揺する亜樹に、杏花はあっけらかんと続けた。

杏花「大丈夫大丈夫!車も軽トラックも一緒一緒!違いなんてもり蕎麦とざる蕎麦みたいなもんよ、あっはっは!」

豪快な笑い声が轟くように広がった。

杏花「よし、ほら行くよ野朗共!乗った乗った」

優衣花「杏花さん、野郎ではなくて、言うなら女郎です」

優衣花が冷静に訂正をすると、美雪はクスクスと笑った。

美雪「でも杏花さん。もしかして、私達は荷台に乗るんですか?」

杏花「場所がないからね。悪いけど、二人はそっちでお願い」

そう言うと、親指を立てて荷台を差した。

杏花「亜樹は、私の隣ね」

助手席をポンポンと叩く。

亜樹は怪訝な瞳で杏花を見つめて、

亜樹「ねえ杏花。もしかしてだけど、酔ってないよね?」

問いかける。しかし杏花は、失礼ね、と前置きをして、

杏花「そんなわけないでしょ。私にだって善悪の区別くらいできます。今日は楽しみにしていたからテンションが高いだけよ」

誇らしげに言った。

けれど亜樹は、善悪の区別?よく言うよ。と思った。

一緒に働いていたとき、杏花は社内で一、二を争う問題児として上司達から疎まれていた。

でもそれもそのはずで、杏花は正義感が人一倍強いから、自分の考え方と対極にいる人間には接し方がきつかったし、厳しかった。

偏見や理不尽やパワハラ、セクハラにはもってのほかで、ときには拳で戦うこともあった。

事実、あるパワハラ上司は杏花に平手打ちをされ、頬を赤く腫らして出社して来たことがあるし、それ以外にも、偶然女性社員が男にセクハラを受けている場面に遭遇した杏花は、全速力で廊下を駆け抜け、ヒールを履いた足で飛び蹴りを食らわせた。セクハラ男はそのまま医務室に直行。それ以来セクハラをすることは二度となかったという。

これは今でも、当時を知る女性社員の間で語り草になっている逸話だ。

けれど、実際問題そんなことをすれば杏花もただでは済まない。なにかしらの処分が課せられてもおかしくないのだが、それが何事もなかったかのように日常を過ごせたのは、波風が立たぬようにこっそり動いていた、杏花と仲良くなる前の亜樹と道流だったということを本人は現在も知らない。

亜樹「まあいいや。楽しみだったのは私も一緒だからね」

杏花「でしょ?もう会いたかったんだよ亜樹ー!」

亜樹「杏花ー!」

二人は固く抱き合った。

そんな光景を荷台から眺めていた優衣花と美雪は、

美雪「本当に仲が良いですね」

優衣花「ね。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうくらいだよ」

そう言って微笑む二人だったけれど、一転、険しい表情に変わり、

美雪「でも、大丈夫ですかね?運転……」

美雪がボソボソッと言った。

優衣花「うん……」

二人は背筋に寒気を感じた。

脳内には大破した軽トラックが、崖下に転がっている姿が浮かんだ。

優衣花「だ、大丈夫だよきっと」

そんな声が聞こえたのか、杏花は隙間からひょっこり顔を出して、

杏花「余裕余裕。安心して、ちょいと不便だけど、すぐ着くからさ」

それから杏花はマニュアル操作で軽トラックを発進させた。しかしすぐに、ガクンと車体が弾んだ。

杏花は亜樹の方を向いて、

杏花「おっと、失敬失敬」

と言って、あらためて発進させた。

徐々に速度が上がっていくが、今さっきまでニコニコと笑っていた亜樹も、さすがに不安になってきた。

冷や汗が額に滲む。

と、そのときだった。

杏花「はい、着いたよー」

はやっ!隣に座っていた亜樹はおろか、優衣花と美雪も同時に口を揃えた。

亜樹は助手席から顔を出して後方を確認する。なんと、トラックに乗った場所から数十メートルしか進んでいなかったのだ。

亜樹「杏花……」

杏花「どう亜樹?私が一晩中考えたボケは。夏らしくひんやりして面白かったでしょ。このためだけに軽トラック借りたんだよ?あはは!」

亜樹「……」

しばらくの沈黙が訪れた。海から届く潮風と潮騒が、寒々とした車内を吹き抜けていった。

〜10〜

港から軽トラックで、海沿いを東へと走った。

左には緑豊かな山々が続いていて、道路を挟んだ右側には、綺麗な砂浜と、光の粒が散りばめられた大海原が広がっている。

それに、ポツポツと水着姿の観光客も見えた。

楽しい雰囲気が伝わってくる。みな素敵な笑顔が弾けていて、自分達も早くあそこに行きたいと気持ちが逸る。

旅館は、港から数分の山の麓にあった。三階建ての、歴史を感じさせる佇まいだった。

瓦屋根の下、旅館の名前が入った暖簾を分けて、引き戸をガラガラと音を立てて開ける。

それから女将さんと挨拶を済ませ、それぞれが三階の客室に入って行った。部屋割りは道流と亜樹、優衣花と美雪。事前に夫婦だと聞かされていた女将さんが、道流と亜樹に気を利かせてくれたのだ。

杏花「亜樹〜もうごめんて。さっきのは冗談なの」

荷物を部屋の隅に置きながら、杏花が申し訳なさそうに言った。けれど亜樹は、

亜樹「悪ふざけが過ぎるよ、本当に。事故でも起こしたらどうするの?まったく。それに、思いっきりスベってたからね!」

怒っていた。

杏花「はい……ごめんなさい」

亜樹に言われたら、さすがの杏花もタジタジだ。

しばらくして、ようやく旅の緊張もほぐれてきた。気分が落ち着いてくると、

杏花「それで、道流君は?どうしてるの?」

杏花が部屋の真ん中で寝転びながら訊いてきた。

亜樹「切羽詰まってるのかもね。さっき連絡したんだけど、まだ返事が来ないの」

杏花「そっか。くうー……」

杏花が気持ち良さげに、全身を大きく伸ばした。

今日の杏花は、黒のタンクトップにジーンズのホットパンツだった。前々から思っていたけれど、やっぱり杏花は、堅苦しいスーツよりも、こういったラフな格好の方が似合っている気がするし、魅力的に見える。スタイルも良いし、色気もある。

でも本人はあまり自覚していないらしく、今もタンクトップはズルズル乱れて、お腹全体が露出して、白いブラが見えている。

異性がいないからいいものの、もう少し恥じらいを持った方がいいんじゃない?と亜樹は思った。

亜樹「ふあ〜」

大きなあくびだった。

杏花「あれ?寝てないの?」

亜樹「ううん、薬の影響。昨日は二日酔いだったからさ、美雪ちゃんに薬をもらったんだ」

杏花「あらあら、飲み過ぎってこと?それじゃあ亜樹だって人のこと言えないじゃん。せっかくの旅行なのに」

亜樹「いいの。とっても美味しいお酒だったんだから」

そう言って、亜樹は窓際に立ち、

亜樹「道流ー、早く来ーい!」

遠い彼方に届けるように、大きな声で放った。

そんな亜樹を眺めていた杏花は、いいなあ、と羨ましく思った。

杏花にも、愛する夫はいる。結婚歴だけ見れば、まだまだ亜樹達よりは新婚だ。

けれど、この一年で夫に対する愛情は熟年夫婦のように冷めてしまっていた。

問題の根本的原因は違うだろうけれど、きっかけは仕事だったと思う。

忙しい日々が続き、すれ違いが重なったのだ。そのうちに、些細なことがきっかけで喧嘩をするようになった。今までそんなことはほとんどなかったのに……。

でも、これだけなら杏花に限った話ではなく、別段珍しくもない。

なにかが足りないのだ。本人達は、そのことに気づいてはいる。でも、わからない。それがなんなのか。

それからの日々は、無機質で無色透明な生活が続いている。

なぜだろう。愛する夫に、充実した仕事、多くの友人達に囲まれていても、そのたった一つが胸にぽっかり穴を開けている。納得が出来ない。

杏花は、今回特別な思いを旅行に込めていた。それは、道流と亜樹夫婦を間近で見ること。

以前講習で、二人の元を訪れてからずっと予感を感じていた。

二人は答えを持っている。そう、思っていたのだ。

杏花「亜樹」

呼ぶと、亜樹が不思議そうに振り返る。

亜樹「なに?」

しかし杏花は、なんで呼んだのかわからなかった。

杏花「……ううん、なんでもないや」

亜樹「は?変なの」

別に新婚のときに戻ろうとは思っていない。ただ少しだけ、前に進めたら、それで構わない。

杏花は、よし!と気合を入れて立ち上がった。

と、そのとき。トントントン……ドアをノックする音が聞こえた。

優衣花と美雪がトートバッグを片手に入って来た。そのウキウキとした表情には、すでに行き先が表れていた。

美雪「海に行きましょう!」

案の定だった。

杏花「お、早速だね。じゃあ……」

チラッと亜樹を見る。亜樹は眠たそうに瞼を擦っていた。気づいた優衣花が先に言う。

優衣花「眠いの?」

亜樹「うん、落ち着いたらまた眠くなって来ちゃった。だから少し寝かせてもらおうかな。私はあとから行くよ」

杏花「そうしなよ。さすがにそれで海に入るのは危ないからね。それじゃあ行こうか。私は家に戻って水着を持ってくるから、二人は先に行ってて。集合場所は、旅館を出てすぐ目の前ね」

杏花はそう言って、部屋を出て行った。

優衣花「一人で大丈夫?」

亜樹の方を向く。

亜樹「そんな子供じゃないよ。でも、ありがとう優衣花。あとでね」

余計なお世話かと思ったけれど、亜樹は眠たそうに笑った。

優衣花と美雪は、それを見届けてから部屋をあとにした。

亜樹一人になった部屋を、夏の涼風がスッと吹き抜けていった。

亜樹は座布団を二つに折り畳んで、それを枕代わりにして横になった。

瞼を閉じると、窓から波の音が子守唄のように聞こえてきて、すぐに身体が心地良い浮遊感に包まれた。

それからまもなくして、亜樹は眠りについた。

〜11〜

砂浜に降りて来た優衣花と美雪は、まず更衣室を探した。

右側には、海に突き出すようにして小山があり、その近くは人があまりいないようだ。

反対に左の方は、ビーチパラソルが所狭しに立っていて、賑やかな様子が見えるし、海の家らしき建物もあるので、二人はまずそちらに歩き出した。

すぐに更衣室も見つけた。どうやら個室は二つしかないようで、順番を待ってから着替えた。

先に出てきたのは優衣花だった。水着はグレーのチェック柄のチューブトップタイプで、色気溢れる姿だった。

続いて美雪が個室から出てくる。美雪は、ローズピンクの鮮やかな柄で、胸元と腰にフリルが付いている可愛らしい水着だった。

二人はお互いの姿を見るなり、さっそく女子トークに花を咲かせた。

それから旅館の前辺りに戻ってきて、砂浜にシートを広げて腰を据えた。

時刻は十時になっていた。空からは、強烈な日差しが燦々と降り注いでいた。

海に入るのは杏花が来てからにしようということになり、二人はまず日焼け止めを塗ることにした。ところが、突然後ろから声をかけられた。二人は振り向く。

そこには、四人の男女が立っていたのだが、優衣花は目を大きく見開いた。

その中の一人が、昨夜交わった男だったのだ。男の方は優衣花に気付いていたようで、無言のまま口角を片方だけあげてウィンクをした。

「いきなりごめんなさいね。よかったら少しだけ取材させてもらえないかしら」

メガネをクッと上げて、女性が言った。

取材?優衣花と美雪は顔を見合わせた。

「私達、流行りの観光スポットやグルメを取材して運営サイトに掲載しているの。簡単に言うと、情報発信サイトね。それで、今年はこの島を取材してるんだけど……あなた達観光客でしょ?」

二人は頷く。

「どう?少しだけでもいいから、お願い」

女性は両手を合わせた。

杏花が来るまではどっちにしろ待っていなくてはならない。だったら、と思い、二人はその申し出を受けた。

「ありがとう。じゃあさっそく……」

それから十分ほどで、女性が言う取材は終わった。

内容は、どこから来たのか、どうやって島を知ったのか、事前に調べるのか、調べるとしたら何を重視するのか、コスパを考えるか、など平凡というかありきたりな質問ばかりだった。

優衣花と美雪は淡々と答えていった。ただ、ここに来た理由は杏花のお誘いなので、他の観光客とは多少なり認識のズレはあるから、そこはなんとなく濁すことにした。

美雪は取材を受けているとき、ずっと気になっていたことがあった。

それは、男の一人がハンディタイプのビデオカメラを回していたこと。ただの取材なのに、いちいち相手の姿を映す必要があるのだろうか……そう思ったのだ。

美雪はずっと疑問に思っていた。あと、四人の雰囲気が、なんとなくだけれど、大学生のサークルのように見えて仕方がなかった。

女性はメガネをかけた知的の美人。長い黒髪をセンターで分けている。格好は薄手の白いパーカーに、デニムのハーフパンツ。

カメラを持っていた男もメガネをかけているが、こちらは小太りで不摂生な生活を送っているのだろう、肌荒れが酷い。グレーのTシャツに、ベージュのハーフパンツ。

あと、見るからに遊び人と言った男。クチャクチャとガムを食べながら、ニヤニヤと下心丸出しで優衣花を見ていた。白いタンクトップに、同じく黒のハーフパンツ。

そして最後の細身で白髪の男は、他の若い三人と違い年齢は五十代に見えた。引率の教師?というのが第一印象だった。白いポロシャツに、ベージュのチノパンを穿いている。

みんなそれぞれ雰囲気が違い、これが会社の同僚だったらと考えると、なかなか……。でもサークルだったら……と考えたら、不思議と納得がいった。

最後に女性は名刺を一枚渡してくれた。

『情報発信サイト管理人御木薫』

みきかおる?容姿と同様に、とても綺麗な名前だと二人は思った。

裏にはサイトの名前とQRコードがあった。

「じゃあね、ありがとう」

そう言って、四人は去っていった。

姿が見えなくなると、美雪が、

美雪「そういえば私、取材受けたの人生で初めてです」

そうなことを言い出した。

優衣花「それなら私もだよ。でも、緊張とかはしなかったね。……あっ、早く日焼け止め塗らないと」

優衣花はそう言って、急いでバッグから日焼け止めをとり出し、二人はせっせと互いの身体に日焼け止めを塗った。

それから少しして、杏花がやって来た。

黒いシンプルなベーシック水着に着替えている杏花は、相変わらずのプロポーションだった。

赤みがかった緩やかなカーブを描く巻髪は、昔から変わっていない。整った目鼻立ちは、まさに島生まれといったところ。都会人にはあまり見受けられない彫りの深さもある。

身長も百七十センチと高く、歩くたびに揺れる胸はFカップはあるだろう。尻もプルンとしていて形がいい。

優衣花と美雪は、そんな杏花の身体を羨ましく思った。まさに南国美女。ダイナマイトボディという言葉をはめるなら杏花がピッタリだった。

それから三人は砂浜を駆け抜け、海に向かって飛び込んで行った。

優衣花達から遠ざかった四人は、黒いワンボックスカーの影でひそひそ話をしていた。

「今回のターゲットはなかなかの上玉じゃない。よくあんな美人見つけたわね、ジョー」

その名前に答えたのは、遊び人だった。

ジョー「でしょ?まあでも、自分もまさかと思いましたよ。昨日の姉ちゃんとこんなに早く、また会えるなんてってね。きっと運命の糸で繋がってんスよ」

「ふふっ。あなたの場合繋がってんのはペニスでしょ。でもまああれなら、一人は確実ね」

ジョー「もちろんスよ。昨日は食べる寸前でお預け食らいましたからね。……あーやべぇ、思い出したらオナニーしたくなってきた」

そう言ってスマホを取り出した。そこに映っていたのは、昨晩の優衣花の下半身だった。

ジョー「この尻、何度見てもたまんねえ。どうスか?和夫さんもそう思うでしょ?」

と言って、スマホをカメラマンの小太りに見せた。

和夫「うん、凄くいいよね。でも、僕はこっちの女の子の方が好みだな」

和夫はビデオカメラを再生した。さきほどの取材の合間に撮影した映像だった。美雪の身体がアップで映っている。

ふっくらとした唇、豊満な谷間、引き締まったクビレ、上品な足、そして水着の股間部分がいやらしく盛り上がっている。

和夫「とっても美味しそうなマン肉だよ。……ふふっ、ふふふ」

薄気味悪く声を漏らした。

そしてようやく、次に声を出したのは細身の男だった。

二階堂「まあまあ、二人共落ち着きなさい。お楽しみはちゃんととっておくものだよ」

安心感に満ちた低い声で言った。

「そういえば、もう一人いなかったかしら?船を降りるときに見かけたのは、たしか三人よね?」

薫は同意を求めるかのように顔を見回す。

二階堂「ああ、たしか茶髪の子だったね。そうだそうだ。では、その子は私が貰おうかな」

そう言って、二階堂は舌なめずりをした。

〜12〜

テーブルの上に置いていたスマホが、ブルブルと音を立てた。

亜樹はゆっくりと目を覚まして携帯に手を伸ばす。画面に表示されていた名前は道流だった。

携帯を耳に押し当て、もしもし、と言った。

道流「もしもし。その感じだと、おはようかな?」

亜樹「うん、少し寝てたんだ」

道流「みんなは?もう旅館にはいるんでしょ?」

亜樹「うん。みんなは先に海に行ってる」

道流「ん?じゃあ亜樹はどうして……あ、やっぱり二日酔いになってるんでしょ?」

亜樹はギクっとした。

亜樹「え?なんのこと?」

道流「惚けないの。おかしいと思ったんだよ。仕事から帰ったら部屋は散らかってるし、昨日用意した物は忘れてるし。これはきっと、二日酔いで寝坊したなって思ったんだ。図星でしょ?」

亜樹「……はい」

道流「もう……。それで、調子はどうなの?」

亜樹「はい、大丈夫です。心配かけて……ごめんちゃい!」

亜樹は電話越しに正座をして、頭を下げた。

道流「いいえ。とりあえず、忘れ物は僕が持って行くから」

亜樹「お願いします。道流の方は?仕事は順調?」

道流「うん。こんなの楽勝だよ」

と、道流は胸を張って答えた。

でも亜樹は、フフっと声を漏らしてしまった。

道流「ん?やっぱり頼りない?」

亜樹「ううん、ごめん。違うの。早く会いたいなって思って」

思わず笑ってしまったのは、道流が心配かけまいと気遣っているのがわかったからだ。

二人は夫婦だが、以前は一緒に仕事をこなしていた同僚だった。道流の考え方や仕事に対する向き合い方を、亜樹は誰よりも理解している。

だからそんなふうに、楽勝なんて言葉が飛び出してくるときは、大抵進捗が遅れている証拠。

でも亜樹は、なにも言わなかった。きっと道流は……いつもそうだけれど、ここぞってとき、必ずカッコをつけるクセがある。

だからそんなときは、黙って見守ってあげるのが一番。あまり、あれこれ言うのはよくないと、亜樹はわかっていた。

道流「なにか釈然としない感じだけど……まあいっか」

一方で、道流のやる気を後押しする魔法のツボも、亜樹は知っている。

亜樹「頑張ってあなた。早くこっちに来れれば、私の水着が見られるよ」

道流「あ、それってこの前買ったやつだね」

亜樹「うん。道流はだんだん私の水着姿が見たくな〜る〜。仕事を早く終わらせたくな〜る〜」

道流「ははっ。うん、とっても見たくなった。亜樹のために頑張るよ。それで……」

どうしたのか。道流はそこで言葉を切ってしまった。

なにか考えているのだろうか、不思議な沈黙が続いた。

亜樹「どうしたの?」

いたたまれなくなり、亜樹が問いかける。すると、

道流「待てよ。その水着で、海に出掛ける。しばらくして、若い男達が亜樹を見つける。それからナンパをされて、亜樹が草むらに……」

亜樹「いやいや、道流?そういうことじゃ……」

道流「それだ!」

亜樹「え?」

道流「見たい!亜樹が男達に悪戯されて、エッチなことをされちゃう姿。すっごくいいよ亜樹。僕、興奮してきたよ」

あちゃー、そっちのツボかぁ。亜樹は額に手を当てて、軽はずみなセリフを口にしてしまったと後悔した。

道流「あっ!でもダメだよ亜樹、僕がいないときは。もしいないときにエッチなことがあったら、ちゃんと報告してね!」

でも普段の道流ならこれが起爆剤となってパワーが漲るはずなのに、なぜか引火してしまった導線は、性癖の後押しをしてしまったらしい。

道流「亜樹、僕頑張るからね!すぐに行くからね!」

亜樹「お、おう……」

あまりの道流の勢いに、亜樹は戸惑い尻込みしてしまった。

ただ結果的にやる気にはなってくれたようなので、これはこれで結果オーライ、亜樹は胸を撫で下ろした。

道流「じゃあ亜樹、気をつけてね。また夜に連絡するから」

そう言って、道流は電話を切った。

亜樹は画面を見ながら微笑む。

出会ってから数年。すでに見飽きているはずなのに、それでもまだ自分の身体に魅力を感じてくれている。少し変な『癖』だけれども……。亜樹は素直に嬉しかった。

でも、永遠にある魅力なんてないと思うし、いつかは霞んでしまうのも事実。だからこそ、今しかない時間を、道流と楽しみたい。

また機会があれば……。

亜樹「うみうみ〜う〜み〜」

リズミカルに口ずさみながら、亜樹は上機嫌で海に行くための準備を始めた。

浜辺に下りて来ると、亜樹はビーチパラソルが乱立している中ですぐに優衣花達を見つけた。

近寄って行き、

亜樹「お待た〜」

休憩している三人の背中に声をかけた。

杏花「遅ーいよ」

三人が一斉に振り向いた。

優衣花「なんかスッキリした顔だね」

亜樹「うん、もうバッチリよ。それでさ、みんなはどこで着替えたの?」

美雪「あ、それならあそこです。あそこの海の家の隣です」

美雪は立ち上がり指を差した。

亜樹「うわ、遠いなあ」

実際にはそんなに距離はない。けれど日差しが強く照りつけている光景に加えて、更衣室だろうか、何やら人の列が見える。気分が萎えてしまうのも無理はなかった。

杏花「一緒に行こうか?迷子にならない?」

意地悪い感じに言って、杏花は立ち上がった。

亜樹「なるわけないでしょ!まったく、失礼しちゃうね」

杏花「ははっ。だってえ、亜樹が可愛いんだもん」

亜樹を抱きしめて、無邪気に頭を撫でた。

亜樹「暑苦しいからやめなさい」

そう言って、杏花を引き離した。

亜樹「もう、これだけで汗かいてきたよ。まったく……。じゃあ、ちょっくら行ってくるね」

そう言い残し、亜樹は更衣室に向かった。

サンダルが砂を押し潰すたびに、足の裏には強烈な熱を感じる。思わず、あちっ、と声が出てしまいそうになるほどだ。

海の家に来たときには、更衣室へと続く人の列が少なくなっていた。どうやらタイミングがよかったらしい。

すぐに順番がやって来たので、亜樹はさっそく個室に入った。

今日のためにデパートで買った水着。それは黄色のアンダークロスビキニだった。

今年のトレンドカラーが黄色だったので、少し派手かな、とも思ったけれど、おそらく最初で最後の海なのだから、と考え直し、この色の水着に決めたのだった。

着替え終えると、すぐに亜樹は優衣花達のところへ戻った。

亜樹「またまた、お待た〜」

杏花「おっ、これまた派手な色だね。凄く似合ってるよ亜樹」

亜樹「ホントに?ありがとう杏花。みんな何話してたの?結構真剣な感じだったね」

杏花「女子三人も集まれば自然となるでしょ、恋愛トークに」

亜樹「あぁ、なるほどね」

美雪「私はまだまだ恋する乙女ですから、先輩である杏花さんや亜樹さんに色々ご助力をいただきたいんです」

美雪は目をキラキラと輝かせている。

優衣花「私もお願いします」

優衣花もそれに続いた。

杏花「そうそれでね、二人の理想はどうなのって話してたわけ。例えば、理想の男性のタイプは?とか、デートは?とか、今砂辺にいるわけだけど、どんなシチュエーションでキスされたいとかね」

亜樹「理想ねえ……」

すると、亜樹と杏花が何を思ったのか走り始めた。

杏花「あっはっは〜、亜樹〜!待てよ〜!」

亜樹「うっふっふ〜、そんなに言うなら、捕まえてごらんなさいよ〜」

優衣香と美雪は、映画のワンシーンが浮かんだ。夕日をバックに砂辺を走る男女。海は茜色に染まり、キラキラとまばゆいくらいに光を放っている光景だ。

そして、亜樹が振り返り、

亜樹「みたいな?」

二人の同意を求める。

優衣花「私はちょっと違うかな」

と、優衣香は否定。

美雪「私はそんな感じがいいです。ベタですけど」

と、美雪が恥ずかしそうに言った。

杏花「美雪ちゃんはロマンチストなのね」

意地悪っぽく笑う。

亜樹「じゃあ、優衣香はこんなのかな?」

優衣花「え?」

亜樹と杏花は抱き合い、

杏花「亜樹、俺はどんなことがあっても君を離さない」

亜樹「私もよ杏花。もうずっとずっと、永遠にあなたから離れない」

杏花「亜樹、今夜は寝かせないよ?この穏やかな海を豹変させてしまうくらい、この大海原よりも深い愛を見せてあげる」

亜樹「そうよ。でも杏花、私しょっぱいのは嫌よ。もっと、ハリケーンのように激しい刺激を頂戴。そして、この大海原より広く、深い愛であなたと漂っていたい」

杏花「ああ、愛しの亜樹」

亜樹「うん、愛しの杏花」

そう言って見つめ合いながら、二人はキスをした。

亜樹「みたいな?」

優衣香と美雪は呆れたように、二人の茶番劇を眺めていた。そして、

優衣香「そんなわけないでしょ」

少し怒り気味に答えた。

四人はあまりのおかしさに笑い合った。それから改めて、海へと入って行った。

〜13〜

旅館の夕食には、島の郷土料理が並んだ。魚料理が主で、特に美雪は瞳を輝かせて舌鼓を打っていた。

それ以外にも、肉料理や島で採れた野菜の天ぷらなど、それは多種多様で色鮮やかだった。

愉快適悦な夕食を食べ終わり、旅館を出たのは夜の七時半。亜樹と優衣花と美雪は浴衣にサンダルという格好で、十五分くらいのところにある杏花宅に海から届く涼しげな風を感じながら、そろそろと浜辺を歩いた。

杏花には事前に車で迎えに来てもらう予定だったのだけれど、夕食後であったので亜樹が運動がてら歩いて行くよ、と提案したのだ。

その甲斐もあってか杏花宅に着く頃には、さきほど食べた夕食の余韻もほどほどに冷めていた。

杏花宅は、石垣の塀で囲われている大きくて古風な二階建ての民家だった。

亜樹は門の隣にあるインターホンを押した。すぐに杏花の声で、はーい、という返事が戻って来た。

玄関の引き戸がガラガラと音を立てて開くと、トラのキャラクターがプリントされた白いTシャツに、青のジーンズ姿の杏花が出てきた。

杏花「ようこそー」

そう言って、亜樹達を招き入れた。

玄関を上がって、お邪魔します、と三人が口を揃えると、早速案内された。

玄関の正面に廊下があり、左には八畳ほどの台所と流し、さらにその先の廊下を進み左にある襖を開くと、広々とした和室があった。

どうやらニ十畳はありそうだ。

畳の匂いが、スーッと心地良く香ってくる。さらに奥には縁側があり、その先には日本庭園も見える。おそらく、杏花の先祖が大切に守ってきたのであろうか、素人でもわかるほどに、見事に整えられていた。

和室の中央には木製の座卓が置いてある。家具に疎い亜樹達でさえ、一目で高級な代物であることがわかった。

紫壇色で分厚い。それに眩いほどに光沢を放っていて、種類はわからないけれど脚には花の彫り物がある。

亜樹達が感心していると、杏花が押し入れから座布団を四枚取り出して、座卓の周りに並べて行った。

杏花「はい、どうぞ」

座卓同様に、座布団にも綺麗な模様が刺繍されていた。

杏花「よし!じゃあお酒だね。ちょっと待ってて」

杏花はそう言って、和室を出て行った。

優衣花「凄いお家だね」

美雪「広さや大きさはもちろんですけど、なぜか懐かしい気分になりますね」

優衣花「それ、凄くわかる。でも、一度もこんな立派なお家住んだことないんだけどね」

美雪「はい、私もです」

二人は笑い合う。

優衣花「亜樹は?」

問いかけるが、亜樹はある場所をじっと見つめていた。

亜樹「あ、ごめんごめん。あれのせいで二人の声が全然入って来なかったよ」

そう言って、亜樹は指差した。優衣花と美雪は床の間に視線を移す。そこには三枚の掛け軸があった。

『天下一品の、我が拳』

『押してもダメなら、我が拳』

『鳴かぬなら、泣かせてあげる、我が拳』

杏花……暴力的過ぎない?亜樹は思った。

これほどまでに、書いた人間の性格を愚直に表している言葉もなかなかないだろう。

そうこうしていると、杏花が五合瓶を二本持ってやって来た。

杏花「じゃーん」

座卓の上にドンと瓶とグラスを置いた。

杏花「みんなはどっちにする?ちなみに最初はこっちの『翠』が、フルーティーで喉越しが良くてさっぱりしてるからオススメだよ。そんで、慣れてきたらこれ。『碧』は辛口で度数も強めなんだけど、日本酒特有のしつこさもクセもないんだ」

杏花は少し興奮気味に言った。

優衣花「飲み方はどれがオススメなんですか?」

杏花「それはやっぱりストレートでいってもらいたいかな。実はこの二本て島の有名な湧き水を使ってるんだけど、それがとっても美味しいのよ。だからそのまま、本来の味で楽しんでもらえたらいいかな」

優衣花「あ、それネットのレビューで見ました」

杏花「そう、それそれ。最近は飲料水としても売られてるみたいだね」

美雪「お酒の名前がずいぶんシンプルですね」

杏花「あーそれはね、お酒自体がまだ生まれて日が浅いのよ。だから正式な名前はまだないみたいで、今は覚えやすい仮名にしてるんだって。まあ一般的に流通してないし、そもそも造られている数自体が少ないから」

杏花は亜樹の方を向く。

杏花「で、亜樹は?どっちにする?」

亜樹は瞳を輝かせながら、当然という面持ちで答えようとした。

亜樹「もちろん……」

とここで、杏花が先回りするように、

杏花「『碧』強い方ね」

遮り、断言した。

亜樹「さっすが杏花、わかってるねー」

杏花「当然でしょ。優衣花と美雪ちゃんは?」

二人は顔を見合わせて、答えた。

優衣花「私達は『翠』でお願いします」

杏花「あいよ!」

杏花の活きのいい声が和室に響き渡ると同時に、四人の飲み会が始まった。

三十分が経つ頃には、四人共いい感じに酔いが回っていた。

杏花「……でね、もうなんにもしないの。家にいてもゴーロゴロ、ゴーロゴロ。可愛くないアザラシって感じよ」

愚痴を吐いてから、杏花はグラスに入っている酒を飲み干した。

優衣花「でも、やっぱりご結婚されたわけですから、そんな旦那さんが好きなんじゃないんですか?」

亜樹「っていうかさ、杏花はなんで好きになったの?」

その質問に、杏花は一瞬目を瞑り何か思い出すような仕草をした。

杏花「みんなは知ってるだろうけど、私ってさ、こんな性格でしょ?それにこの外見もあって色んなところで偏見を受けてきたの。こいつは遊んでるとか、アバズレ女だとか……夜は身体売ってんだろ?とかね」

それを聞いてすぐに亜樹が止めようとしたが、杏花は、大丈夫、と言って続けた。

杏花「それに加えて男勝りだから、プライドが皮被って歩いてるような男共は気分悪いわけ。僻み妬み辛み、色んな感情をぶつけられたよ。まあでも、そんなことで落ち込むほどヤワじゃないから、最後には全員けちょんけちょんにしてやったよ。……あっ、もちろん仕事の出来でね」

一つ間を置いてから続けた。

杏花「だから私のことを助けてくれる人って、本当に少なくて……。異性では道流君が始めてだったかな。もちろん、亜樹もありがとね」

杏花は亜樹を見つめて微笑む。亜樹もそれに応えるようにウィンクをした。

杏花「それでね、本社から今の会社に異動して、数日後だったかな?旦那と出会ったのは。最初は全っ然っ好きでもタイプでもなくてさ。亜樹は知ってるだろうけど、私面食いだから理想がかなり高いのよ。けど、そんな旦那が好きになったのは、ほんの些細なことがきっかけ」

酒をグラスに注いで、口に運ぶ。

杏花「ある日、またいつものように馬鹿にされてさ、容姿のことでね。そしたら、朝礼の最中によ?旦那が突然、その男に向かって怒ったの。どんな容姿であろうと、どんな人柄だろうと、あなたの言動は決して許されないって。そのあと、私の方に近づいて来て、僕はあなたのような女性を、とても素敵だと思いますし、カッコよくて凄く尊敬します。て言ってくれたの」

亜樹と優衣花、美雪の三人の表情が和らぐ。

杏花「それからかな、知らない間に心の距離が近づいてて、気付いたら私が旦那のことを好きになってたの。旦那はびっくりしてたけどね。ある意味その日が、旦那と『はじめて出会った日』になったんだ」

杏花はクスッと笑った。

美雪「とっても素敵ですね」

優衣花「うん。さっきの浜辺の茶番なんかより、全然理想的で、ロマンチックだなって思います。……あっ、ごめんなさい。でも、そういう意味じゃ……」

しかし杏花は意に返さず答えた。

杏花「ふふっ。いいのよ、気にしないで。むしろ、今は感謝してる。だって、そんな偏見に揉まれて来たから、旦那と出会ったわけだし。それに、今では友達もたくさんいるしね」

杏花は改めて、三人の顔を眺めた。

すると涙目の亜樹が立ち上がり、杏花の隣に行くと強く抱きしめた。

亜樹「もう、なんで相談してくれなかったの!辛いときは何でも話してって言ったじゃん!」

杏花「ははっ、めんごめんご。だって……」

亜樹「だってじゃない!いつも言ってるでしょ?この大きな胸に飛び込んで来なさいって」

そう言うと、杏花はふざけた感じで、

杏花「うんたしかに、大きなおっぱいだよね」

と言って、胸を突っついた。

すると亜樹は、

亜樹「ちーがーうっ!懐のこと。まったく、失礼しちゃうね!」

プンプンと怒った。

和室にはみんなの笑い声が響いた。

〜14〜

それからさらに、三十分がたった……。

玄関の外にスーツ姿の男が立っていた。杏花の夫である誠一だった。

誠一はさきほどからずっと家に入れずにいた。

なぜなら誠一は、極度に緊張していたからだ。中には杏花と一緒に三人の女性が来ていると予め聞いていた。

こんなシチュエーション、今まで一度たりとも経験したことがなかった。男一人、女性の園に飛び込んで行くことなど免疫のない誠一に出来るわけがなかった。

額から大粒の汗が身体を伝う。でも、暑さによるものではない。この汗は、極度の緊張と早く帰らないとあとで杏花に怒られてしまうという焦り。

けど、どうしても足が進まないんだ。いったいどんな顔をして入っていけばいいのかわからないんだよ……。

誠一は一人うなだれた。

そのときスーツのポケットに入っているスマホが振動した。杏花からだった。

誠一「もしもし」

杏花「もしもし。もう島には帰って来てるの?みんないるから、早く来てよ」

誠一「あ、う、うん。もう目の前だから……」

杏花「え、マジ!?」

すると、ドンドンドンと足音が近づいて来た。勢いよく戸が開いた。

杏花「なんだ、もういるんじゃん!おかえり!」

酔っているのか友達が来ているからなのかはわからないけれど、普段ならこんな明るい表情は見られない。なんか、久しぶりだな。誠一は思った。

杏花「ほら、みんなに紹介するから」

誠一「えっ、あ、でもさ、先に着替えてからの方が……」

杏花「それはあとでいいわよ。さ、早く早く」

杏花はお構いなしに誠一の腕を引いた。

和室の襖を開くと、そこには三人の美女がいた。誠一の心臓の鼓動が早まった。

杏花「ほら、挨拶しな」

誠一「あ、はい。えっと、杏花の夫で……えっと、誠一と言います、はい」

声が震えた。

杏花「ちょっと、会社の面接じゃないんだからさ。もっとシャキっとして」

そう言って、背中を小突いた。

誠一「いやだってさ、緊張するよ。こんな綺麗な人達の前じゃ……あっ」

咄嗟に出た言葉に後悔して、思わず頬を赤らめた。

でも、それを聞いた亜樹達の雰囲気は明るく愉快になった。

亜樹「ありがとうございます。誠一さんは正直な方なんですね」

少し悪戯っぽく言った。誠一は、いやいやいや、と尚の事、尻込みしてしまった。

杏花「ははは。ごめんね。この人、あんまり異性に対する接し方がわからないのよ。だから手加減してあげて」

え?それってどういう意味?誠一の頭の中はすでにパニックだった。

時刻は九時を回った。

相変わらず口数は少なかったものの、その頃には誠一の緊張もほぐれていていつもの落ち着きを取り戻していた。

誠一は杏花の隣で、お茶を啜りながら四人の会話に耳を傾けていた。

誠一は下戸だった。体質なのか遺伝なのかはわからないけれど、それは昔からだった。

酒というのは少しずつ呑んで強くなっていくものだ、ということをよく耳にする。けれどそれは人それぞれ。誠一はそんなことを思い出しながら、杏花に毎晩協力してもらい少しずつ、お猪口一杯のお酒を飲み続けてみた。

しかし誠一の身体は一向に強くならず、呑んでは顔を真っ赤に染めて、呑んでは体調を崩す、そんな日々が続いた。

本当なら、酒好きの杏花と晩酌を楽しみながら、愚痴の一つでも聞いてあげられたらと思うのに、いつも身に染みて残念に感じていた。

美雪「では、本当にダメなんですね」

誠一「はい……皆さんと楽しみたいんですけどね。すいません」

誠一は頭を下げた。

杏花「もう、そんなペコペコしない。あなた一番年上なんだから、もっと威厳を持ちなさいよ」

誠一「威厳て言ったって……。僕には僕の性格があるし、立ち位置っていうのがあるの。僕は杏花みたいに乱暴者じゃないの」

杏花「なにぃ?私のどこが乱暴者なのよ!」

二人の雰囲気がピリっとした。すぐに美雪が割って入る。

美雪「まあまあ杏花さんそう言わずに。誠一さん、たとえ相手が年下でも、優しく穏やかな雰囲気を忘れずに、謙虚な言葉で接することが出来るというのは簡単なことではないですし、だからこそ、そんな誠一さんが私はとても素敵だと思いますよ」

誠一「ホントですか?ありがとうございます」

ほれ見ろ、とばかりに誠一は杏花を一瞥する。

それにしても、この子は本当にしっかりしてるんだろうなぁと感心した。

聞いたところ、四人は七時過ぎから呑んでいると言っていたから、もうかれこれ一時間以上はたっている。けれど、彼女の浴衣はまるで乱れていなかった。常に背筋をピシッと立たせて、姿勢よく座っている。

一番年下らしいけれど、とても健気だ。もしこんな子が後輩にいたらと思うと、多少気を緩ませてもいいかなっていうか、安心出来るよなあ。それに美人だし。誠一は一瞬、そんな世界線に憧れた。

優衣花「でも、杏花さんの勝ち気な性格も本当に格好いいですよね」

ふん、どうよ?という感じで杏花も誠一を睨み返す。

誠一はなぜか悔しい気持ちになった。

この優衣花という女性も凄く美人だ。その風貌からは育ちの良さが伺える。

けれど、なんというのか……。美雪ちゃんとは違う妖艶な色気を放っている。

正面に座っている彼女の襟元は広がっていて、美しい鎖骨が覗いている。意識しなければ、その色気に吸い込まれてしまいそうだ。……おっと、いかんいかん。誠一は避けるようにして、視線を右前に向ける。

亜樹がグラスに入っている酒を、グビグビと喉の奥に流し込んでいた。

グラスをコンと置いて、顔をしかめた。

亜樹「優衣花、あんまり甘やかしちゃダメよ。杏花は何度もそれで罰を受けてるんだから」

杏花「えぇ!?亜樹は私の味方じゃないのぉ?」

亜樹「味方だよ。でも、だからこそなの。ちゃんと必要なことは言わないと!それが友達ってもんなのよ」

杏花はガックリと肩を落とした。

誠一はまた感心した。さすが亜樹ちゃんだ。

杏花の口から、頼りになる親友だよ、と以前から何度も聞かされていたけれど、その通りの口振りだった。

しかも可愛くて、無邪気な愛らしい容姿だ。でも、一つ気になることがある……。

さっきから浴衣の襟元が緩んでいて、チラチラと谷間と白いレースのブラが見えているのだ。

誠一は気が気でなかった。必死に視線を逸そうとしてはいるのだが、こんなに可愛くて色気があって……とてもじゃないが、この反則級な身体を見るなって言う方が不可能で、無理な相談だった。

誠一は開き直るようにして、亜樹の胸元をじっと見つめた。

だがしかし、そんなことをすれば杏花が黙っているはずがない。

杏花「なーに見てんのよ、この助平野郎!」

そう言って、誠一の耳を引っ張った。誠一は、痛い痛い痛い!と悲鳴にも似た声を上げる。

誠一「ち、違うよ!たまたま!たまたま!たまたま視界に入っちゃったの!」

杏花「へえ、そう?だったらなんで避けもせずそんな露骨に見てんの?見たかったからでしょ?でも、確かにそうだよね、亜樹みたいな可愛い子すっごくタイプだもんね!これで今日のおかずは豪勢になりました!おめでとう!」

杏花は語尾を強め、さらに耳を千切らんばかりに引っ張る。

痛々しい光景だった。さすがにこれ以上はと思い、優衣花と美雪が止めに入る。

それからしばらくして、ようやく杏花の怒りが落ち着いて来たところに、美雪がすかさず話題を変えた。

美雪「それで、明日の予定はどうしますか?」

優衣花「やっぱり海に来たからにはスキューバダイビングやりたいな」

杏花「あ、それは是非やってほしいな。マジで感動するよ」

亜樹「そうなんだ。楽しみだね」

そんな会話を誠一は唇を噛み締めながら聞いていた。心中では拳を握り、悔しい思いをしていた。

みんなの前で恥をかかされたままでは、やはり男として、夫として納得がいかない。どこかでやり返せるタイミングはないのか……。誠一はまるで獲物を狙う獣のように虎視眈々と伺っていた。

美雪「でも、たしか山ではサイクリングもあるんですよね?」

杏花「うんあるよ、サイクリングもなかなかのもんでね。まあ、疲れるは疲れるんだけど、山の頂に辿り着いたときはなんとも言えない感動があるのよ。スキューバも感動だけど、また違った、胸を打たれるものがあるね。しかも絶景よ。街並みや自然だったり、あと歴史的な建造物なんかも見えるよ」

建造物?そのとき、誠一の頭の中で何かが弾けた。

それだ!誠一は不気味に笑みをこぼした。

誠一「あの……もしよかったら、夜は肝試しなんてどうですか?島民しか知らない廃墟などもあるので」

それを聞いた杏花がギョッとしたように、身体が跳ね上がらせた。

こいつ何言ってんの?という感じで杏花は誠一を睨む。しかし、当の本人である誠一は満足げだった。

美雪「凄く怖そうですね」

優衣花「うん、それにムードも凄くありそうだね」

亜樹「おっ、じゃあ夜は肝試しに決定!」

杏花「はあっ!?」

亜樹「ん?どうしたの杏花」

杏花「あ、いや、あのさ……肝試しはやめない?やっぱり廃墟だしさ、危ないじゃんね」

亜樹「でも、島民の人は知ってる場所なんでしょ?」

誠一「はい。小さい頃はみんな一度は経験する、ちょっとした冒険みたいな感じなんですって。杏花も以前にそう言ってましたから。ね、杏花」

白々しく言った。

こいつ……。杏花の腸は煮えくり返っていた。

以前誠一に、杏花は廃墟のことを話したことがあった。でも、それは事実とは異なる内容で、あえて嘘をついたのにはワケがあった。しかし、それがここに来て裏目に出てしまった。

誠一「では明日の夜、みなさんを案内しますよ。杏花も一緒に」

これはみんなの前で恥をかかせた仕返し。明日の夜は、杏花の乙女な姿をみんなに見てもらいなさい。はっはっは!誠一は心中で勝ち名乗りを上げた。

夜も更けてきた頃……。

そろそろ戻りましょうか、と言ったのは美雪だった。まだ一日目であり、この島での時間はまだまだある。夜更しして、翌朝寝坊してしまっては、それこそ勿体ないという思いがあったのだ。

けれど、やはり亜樹が駄々をこねた。

亜樹「ええ、もうちょっとだけいたいよ」

優衣花「ダメ!亜樹のもうちょっとは長いから。前にそう言って、結局終わったの朝だったでしょ?道流さんに怒られたの忘れたの?」

亜樹は口を尖らせる。

優衣花「それに帰りは歩きなんだからさ……」

と言ったところで、誠一が割り込む。

誠一「大丈夫ですよ。僕が車を出しますので」

その一言に、亜樹は笑顔になる。

杏花「まあ、あんまり遅くにはならないよ。私も楽しみにしてるから。あと一時間くらいかな……そしたら誠一に送らせるよ」

亜樹「イエーイ!」

優衣花と美雪は顔を合わせて、呆れたように頷いた。

杏花「ほら誠一!二人を送って来てあげな。こんな暗い中レディーを歩かせるの?」

誠一「うるさいなぁ。わかってるよ、それくらいは」

しかし、優衣花が気を遣わせまいと拒んだ。

誠一「いえ、これは僕なりのお節介ですから気にしないでください」

その後、優衣花と美雪は誠一の車で旅館へと戻って行った。

杏花「さて、じゃあ少し気分を変えて、炭酸割りにでもしようかね。この炭酸も島の水を使ってるから美味しいんだよ」

亜樹「おっ、いいねえ」

それから誠一が帰って来るまでの間、二人は水入らずでグラスを合わせた。

〜15〜

優衣花と美雪を旅館へと送り、ニ十分ほどして家に戻って来た誠一は、襖を開けて唖然とした。

杏花と亜樹が寄り添うように肩を寄せ合い船を漕いでいたのだが、唖然とした理由は座卓の上にあった。

なんと新しい酒瓶が一本、空になって転がっていたのだ。

こんな短時間で呑みきったの……?誠一の反応は至極の当然のことだった。

誠一は呆れ果てて、何を言う気にもなれなかった。

けれど、そんな状況の中でも一つだけ呑兵衛の二人に感謝した。

亜樹の浴衣が、さきほどよりも乱れていたのだ。もう胸元はおっぴろげになっていて、覗いているとかそういうレベルではなかった。谷間やブラが、全て見えていたのだ。

まるで磁石にでも引きつけられるように、誠一は魅入ってしまった。

いったい、どんな感触なのだろうか。いったい、どんな匂いがするのだろうか。あのふわふわの谷間に肉棒を挟んだら、いったい、どんな世界が見えるのだろうか。考えれば考えるほど興味に絶えなかった。

しかも、どんどん胸の高鳴りが激しくなってきた。もし、杏花がこの場にいなかったら、誠一はすぐにでもオナニーしていただろう。それくらいの絶景を、誠一は今この瞬間に満喫していた。

ゴクリと生唾を飲む。

けれど、ここで理性が働いた。いけないいけない、と。

誠一「ほら、杏花。こんなところで寝たら風邪引くよ。ちゃんと布団の上で横になりな」

すると杏花は、う〜ん、と夢と現実を彷徨っているような声を出した。

誠一は呆れながらも、杏花を抱き上げた。そして二階の寝室に運び、布団の上に下ろした。ここでまた一階に戻り、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出すと、もう一度寝室に戻り、枕元に置いた。

誠一「喉が乾いたらこれ飲んでね。僕は亜樹ちゃんを送ってくるから」

杏花はわかっているのかわかっていないのか、曖昧な返事をした。

誠一は和室へと戻った。

誠一「亜樹ちゃん、大丈夫?これから送っていくけど、立てる?」

しかし、亜樹の返事も朧げで、立ち上がろうとする足はおぼつかない。

これは駄目かな。誠一はそう思い、肩を貸した。

亜樹の髪の匂い、フローラルな匂いが鼻にスゥーっと香ってきた。杏花ともまた違う女性の色っぽい香りに、誠一はうっとりとした。

すぐさま意識しないように顔をそっぽに向けるのだけれど、本音を言うなら、もう襲ってしまいたいほど、頭の中も理性もグラグラに揺れてウズウズしていた。

それに見れば見るほど、ふっくらとした唇が可愛らしくて、もちろん胸元は全開になっていて、さらに歩くたびに太ももの付け根が浴衣からはみ出していて、今にもパンティが見えそうでいて……いやいや!ダメだダメだ!ダメダメダメダメ!この女性は杏花の親友だぞ!旦那さんだっているんだぞ!

誠一は心中で、必死に自分を欲望を抑えつけていた。

しかしその瞬間、誠一の頭の中で閃光が走った。唐突にあのときの記憶が鮮明に蘇ってきた。

旦那さんがいる……。亜樹ちゃんは、人妻……。

誠一は亜樹をお姫様抱っこのようにして、持ち上げた。

そのまま車へと運び、助手席に座らせた。亜樹はぐっすりと眠っているようで、寝息を立てていた。

車を回り込み、誠一は運転席のドアを静かに開けて乗り込んだ。

エンジンをかけると、亜樹の姿を眺めた。すると何を思ったのか、突然誠一はハンドルに頭を打ち付けた。

ガンガン……。そのあと、誠一はボソッと呟いた。

誠一「ごめんね亜樹ちゃん、少しだけだから」

そう言って、ズボンからギンギンに勃起しきった肉棒を出して、右手でしごきはじめた。

そしてもう片方の手で、乳房を恐る恐る指で突っついたあと、優しく揉んだ。

凄く、や、柔らかい。こんなにも、柔らかいんだ。それは万感な思いだった。

誠一「もうちょっとだけ……もうちょっとだけ」

ぶつぶつと呟き、調子に乗った誠一は、さらに人差し指をカップの中に滑り込ませた。そして左右に動かして、乳首を刺激した。

誠一「これが、これが亜樹ちゃんの乳首……」

ゆっくりと、カップをめくった。そこには、綺麗なピンク色の乳首があった。

誠一はさらに右手の動きを早めた。

誠一「可愛い。こんなにも可愛いんだね」

顔を近づけて、舌で舐め上げた。

誠一「美味しい。とっても美味しいよ」

それからもしつこく、何度も何度もチロチロと舐めまくった。次第に乳首が硬くなっていくのがわかった。

誠一「亜樹ちゃん、感じてるんだね」

亜樹「ァ……ン……ハァ……ン」

すると、眠っているはずの口から、淫靡な声が漏れた。

誠一「嬉しいよ亜樹ちゃん。こんな卑劣な男の舌で感じてくれるなんて」

そう言いつつも、こんなことはするべきでないということはわかっていた。でも、止まらない。勝手に指が動いてしまう、勝手に舌が出てしまう。

そんな自制心を軽々と振り払ってしまうほど、身体は貪欲に悦んでいた。もう、どうにも出来なかったのだ。

それに、重なってしまうのだ。あのときの杏花と。もし、自分が亜樹の夫の立場なら、今頃極上の興奮を味わっていたことだろう。自分の妻が、他人の男に悪戯されているなんて、そんなこと、想像するだけでもたまらない。

そう、誠一は今の自分を他人の男として演じていたのだ。

そして、そんな他人である自分で、亜樹を杏花と重ね合わせていた。

誠一「もしこれが旦那さんだったら……」

誠一は、さらにベロベロと乳首を舐め回した。

亜樹「ァン……ャ……ハッァん……」

左手で器用に浴衣の帯を解くと、裾を左右に開いた。

誠一「す、凄い……」

思わず歓声を漏らした。

誠一の眼前に晒された雪肌は、胸元から足先まで顕になったのだ。

誠一はノロリと舌を這わせていき、へそを舐めて、白いレースのパンティに行き着いた。

誠一「ずっと見たかったんだよ、亜樹ちゃんのパンティ」

そう言って、鼻の先端を押し付けた。

誠一「少しお酒の匂いがする。でも、いい匂いだよ」

スゥーっ、ハァ……。呼吸を繰り返した。

満足すると、左手でパンティを横にめくり、鼻と口を黒い花園である恥丘に押し付けた。

すると突然、強い尿意がやって来た。

あ……もう、出る!誠一は急いでダッシュボードに置いてあったティッシュで、肉棒を包んだ。次の瞬間、ビューっと勢いよく射精した。

身体がブルブルと震え上がった。それからしばらくの間、放心状態になってしまった。やがて、身体中が疲れと喪失感でいっぱいになった。

ハア……ハア……ハア……。何をやってるんだ、本当に。

誠一は後悔の念を抱きながら、亜樹の浴衣を直した。そして、

誠一「……僕って、最低だな」

自らを蔑み、ゆっくりと車を発進させた。

ーーー

ーーー

ーーー

【あとがき】

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

もし、少しでも楽しんでいただけましたら、続編希望の評価をよろしくお願いします。

Categories
未分類
Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です