道流と亜樹……一升瓶と後日談。

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ある初夏の一時。日射しがライムグリーンのカーテンから入り込み、部屋をほんのり明るく、しかし不快に照らしていた。

亜樹「うぅ。気持ちわるーい」

二日酔いで目を覚ました亜樹は、ベッドの上で悶えていた。

一人ぼっちになってからもう二週間。しかし、慣れてきたというには、まだまだ時期尚早だったようだ。

昨晩、いい加減寂しくなっていた亜樹は、近くの酒店で一升瓶を二本買って来ると、浴びるように飲んだ。そして、一本が空になったところで、その瓶を抱いて寝落ち。

道流がいたら、きっとたくさん怒られただろう、そんな夜を過ごした。

うっすらと汗を滲ませていた額を手で拭うと、鉛の巻き付いたような体をゆっくり起こしてキッチンに向かい、一杯の水を飲んだ。

からからだった体の隅々に、水分が行き渡る。最悪な気分も、少しは和らいだ。

亜樹は、普段からお酒は好きだった。飲み方も多少は心得ている。本来は、楽しく、ゆっくり、味わって、というのが信条のはずだったが、今回の飲み方は、弁解の余地がないほど完全なやけ酒であった。

亜樹は、テーブルの上に置いてある携帯を取ると電話をかけた。

亜樹「……もしもし、道流?早く帰って来てよー」

その悲痛な声に、道流はやれやれと呆れた様子で返事をした。

道流「はいはい。でも二週間が経ったんだから、あとは半分。もう少しだから、我慢しなさい」

亜樹「長いよー!」

道流「うん。長い。でも、仕事だからさ。ていうか、あんまり寂しいなら美雪でも誘いなよ。待ってるんじゃない?」

亜樹「うん、誘いたいのはやまやまなんだけど、なんか美雪ちゃんも仕事忙しいみたいなんだよね。道流も優衣香も真琴ちゃんもいないでしょ?だから色々やらされてるみたいだよ」

道流「あぁやっぱりね。本当は美雪も来るはずだったんだけど、急に無しになったからおかしいとは思ってたんだ。でもさ、だったらなおさら誘ってあげなよ?美雪も溜まってると思うよ?愚痴が」

亜樹「かなぁ。うん、わかった。ちょうど明日は祝日だしね。誘ってみるよ。……早く帰って来てね」

道流「わかってる。亜樹のために頑張るよ」

亜樹「早くしないと浮気するからね」

道流「ははっ。じゃあその際、セックスはちゃんと撮っておいてね」

亜樹「ばーか、変態」

道流「僕は、これがありのまま、真面目なんだよ。亜樹が好きだから」

亜樹「はぁ……私もだよ」

亜樹はため息を吐きつつ一言を添えた。今まで何人もの他人と交わった。忘れていない。感じた体も、思った心も。間違いなく、目の前の他人を感じながら道流を思った。そしてそのどれもが、二人にとって至高のセックスだった。

でも、今は一人。体が疼いても、一人で感じ、一人で喘ぎ、一人で絶頂を迎える。一人ぼっちになってからは、いつも物足りないと感じていた。

その日の夕方、亜樹はいつものお店の前で立っていた。

結局、道流の言う通りだった。電話のあと、亜樹は消極的な気持ちで美雪に連絡をした。しかし裏腹に、美雪の言葉は、まさに待っていました、と言わんばかりに誘いを受けてくれたのだった。

これは溜まってるな、と亜樹は悟った。

それまでは、寂しさを紛らわすための楽しい時間を過ごしたいと思っていたけれど、今回は先輩として、後輩の美雪の愚痴を聞いてあげようと誘い文句を変えたのだった。

少し、早かったかなあ。と美雪の申し訳なさそうな顔を浮かべながら、亜樹は沈みかかる夕陽を見ていた。

いつもそうだった。どうも飲みの席には待ち合わせの時間より早く向かってしまう。そしてその度に、相手がまず一言、待たせてしまって……と謝るのだ。自分が早く来ただけなのだからと言っても罪悪感を与えてしまう。

そのとき、道の向こうから美雪が亜樹に気付き、急ぎ足で向かって来るのが見えた。

美雪「ごめんなさい。遅れてしまって」

亜樹は、美雪のそんな言葉を聞いて、直さなきゃいけないなあと心底思った。

亜樹「ううん。いいんだよ。まだ時間になってないんだから。じゃあさっそく入ろうか」

あまり気を使わせたくなかったので、亜樹はすぐにのれんを分けてお店の戸を引いた。

店内は鰻の寝床。いつも使っている個室はその一番奥にあった。

縁側に靴を脱いで上がり、障子を開けて入ると、部屋は畳でテーブルがある。今回は二人なので広く感じる。

亜樹「いつものを二つお願いします」

さっそく店員に注文した。所謂、最初はビールで、というやつだが。ただ、二人の乾杯は日本酒だ。

美雪「誘っていただいてありがとうございました。もう飲みたくて仕方なかったんです」

亜樹には、真っ直ぐ不満を吐露する美雪が、過去にないほど珍しく感じられた。

亜樹「うん、大丈夫。今日はいっぱい聞いてあげるから、先輩の胸に、どーんと飛び込んでおいで」

両手を広げて寛大に表した。美雪は、そんな亜樹に甘えるように、満面の笑みを零して頷いた。

それから一時間ほどが経ち、テーブルには色とりどりの料理が並び、お酒もいい感じに進んでいた。

美雪「それで、誰でもできるような小さい仕事も、私に押し付けるんです。だから、一昨日なんて一人で残業して、結局会社を出たのは、日付が変わってからですよ?もう嫌になります」

頬をほんのり赤く染めながら、鬱憤を止めどなく吐いていた。

亜樹「まったく。いくら美雪ちゃんが若くて浅いからって、それは酷いね。ていうか上司は?まさか上司も?」

美雪「はい!そのまさかです。昨日なんて、美雪ちゃん、忙しいと思うけど、これもお願いね。って言ってたんですよ。私泣きそうになりました」

亜樹「まったく失礼しちゃうね。忙しいってわかってるなら、あなたがやればって感じだよね。まあでも、あの上司は昔からそんなんだからね。仕事の良し悪しより、自分かいかに定時で帰るかしか考えてないから」

亜樹は一度お猪口に口を着けて、一息ついてから、再度話しを続けた。

亜樹「本当に、美雪ちゃんは偉いよ。私だったら、すぐ反抗して怒っちゃうもん。でも、今は大変かもしれないけど、道流達が帰って来たら、少し休みをもらうといいよ。私が許可する」

亜樹はそう言って、昔、自分が怒りを爆発させて、部署の雰囲気を一変させたことを懐かしく感じていた。亜樹は美雪の隣に行き、まるで母親のように頭を撫でてあげた。美雪は、頭を傾けながら、

美雪「ありがとうございます。私、亜樹さんのヨシヨシ大好きです」

亜樹「ふふ。これ、優衣香も真琴ちゃんも皆好きなんだよね」

美雪「なんか、亜樹さんて包容力があるというか、匂いですかね、凄く温かい感じがして。お母さんみたいです」

亜樹「ははっ。そういえば、皆同じようなこと言ってた気がする」

亜樹はときおり、美雪の頭を撫でながら、気が済むまで不満を聞いてあげた。

美雪の愚痴も一通り落ち着いたところで、夜も更けてきた。

亜樹「道流と優衣香と真琴ちゃんの三人だけ?」

亜樹は、小鉢に入っているいかの塩辛に箸をつけながら問いかけた。

美雪「いえ、他にも何人か行ってるみたいですよ」

それにつられるように、美雪もかんぱちのお刺身に箸をつける。

亜樹「支社の立ち上げの手伝いだっけ?でもさ、そんな重要なことに、なんであの三人なの?道流はポンコツだし、優衣香はおっちょこちょいで、真琴ちゃんの専門はハメ撮りでしょ?向いてるとしたら、一番は美雪ちゃんじゃないの?」

美雪「あはは。亜樹さんから見たらそうかもしれないですけど、私にとっては、三人はとてもお仕事が出来る方々だと思いますよ。真琴は意識が向けば、ですけど。私も最初は誘われたんですけど、なぜか直前で無しになったんです。そのあと上司に理由を聞いたら、私がいなくなると仕事が回らなくなるからって言ってました。……すいません、また愚痴を話したくなってきました」

亜樹は、美雪の背中からメラメラと怒りのようなものが出てきたのを感じ取ると、すぐに話題を逸らせた。

亜樹「お兄さんとは?最近は会ってるの?」

美雪「え?はい、会ってますよ。この前は、ご飯をおごってくれました」

亜樹「魚?」

美雪「はい!もちろんです!」

思い出したのだろうか、美雪の表情がみるみる穏やかになっていくのを見て亜樹は安堵した。

美雪「亜樹さんは大丈夫ですか?道流さんがいないので、寂しくないですか?」

亜樹「うん。まあ、寂しくないって言えば嘘だけど、あと二週間だからね。それに、早く帰って来なかったら浮気するって言っといた」

美雪「道流さんのことですから、見たいんじゃないですか?」

亜樹「うん、セックスは撮っておいてね、だって。だからさ、本当にセックスして、その動画を送り付けてやろうかなって思ったよ」

美雪「それはそれで、凄く興奮して喜ぶと思います」

亜樹「ははっ。だろうね」

美雪「本当に、お二人が信頼し合っていて、愛し合ってるからこそできることですよね」

亜樹「だといいんだけどね」

美雪は、一瞬亜樹の表情が曇ったことに、思いの外気になった。

美雪「……亜樹さんは、疼いたりしないんですか?今まで、あれだけ」

亜樹はすぐに話しを被せた。

亜樹「色んな人としたのにって?」

美雪「あっいえ。ごめんなさい」

勢いで口から出てしまった言葉に、美雪は申し訳なくなりうつむいた。

亜樹「ううん。いいんだよ。事実だからね。それに、皆変態だからさ。疼きも、人一番あるかもね」

美雪は顔を上げて、亜樹と視線を重ねると、喉につっかえていたことを外したくなった。

美雪「もし、もしですよ?浮気とか、不倫ではなくて、純粋にセックスをしたくなったら、するんですか?」

亜樹は質問の意味を深く考えなかった。それは、考えたとしても、結局答えは一つだったからで、これまでさんざんセックスをしたのだ、ここで否定したら、それこそ、今までの自分が嘘になる。それに、道流に対しての気持ちにも、傷を付けてしまうような気がしたのだった。

亜樹「すると思うよ。それで、道流に見てもらう。それが、私のありのままの性癖なんだよ。よかったら、美雪ちゃんもどう?」

意地悪く言った言葉に、美雪はさらに顔を赤く染めた。

美雪「えっ?わ、私は……遠慮します」

美雪の断る仕草があたふたとしていて、妙に愛おしかった。

亜樹「ふふ。可愛い」

亜樹は再度、美雪の頭を撫でた。しかし、今度の美雪は、少し納得がいかない、そんな表情だった。

最初に店を出てきたのは亜樹だった。

亜樹は先ほどの美雪と同じように、不服、という面持ちで待っていた。

そして、がらがらっと引き戸を開けた音が聞こえると、のれんを分けて、満足気な美雪が出てきた。

亜樹「美雪ちゃん。今日は本当にありがとうございました」

亜樹は腰を深く曲げてお礼をした。

美雪「やめてください亜樹さん。これは、私が勝手にしたことですから」

美雪は、亜樹が席を立った隙にお会計を済ませていたのだ。当然亜樹は納得いかず、それならせめて割り勘で、と何度も言った。しかし、美雪は受けとらなかった。

その際、美雪は話さなかったが、楽しい時間になるはずだったお酒の席を、自分の愚痴で濁らせてしまったのだ。むしろ、お礼を言いたいのは自分の方。それに、美雪は亜樹を尊敬していた。余計な気遣いをさせたくないと思い勝手なことをしたのだった。

亜樹は亜樹で、可愛い後輩がした好意を無下には出来ず、渋々受け止めたのだった。

亜樹「まったく……。美雪ちゃん、でも次は絶対私が出すから!これは決定事項だからね!絶対だよ!」

並々ならぬほどの決意だった。

美雪「はい。もちろん、わかってます」

亜樹「うん、よろしい!」

そして、二人はゆっくりと駅に向かって歩き始めた。初夏の風は優しく吹いていて、火照った体の二人には、とても心地よかった。

それから数日後の昼下がり。

亜樹は、白のワイシャツと黒のパンツに、茶色のエプロンを着けて、パート先であるパン屋で精を出していた。

美雪との時間の余韻がまだ残っている。美雪は誘いを待っているかな、次はいつにしようかな、と考えながら、ベーカリーバスケットにパンを並べていった。

狭い店内だったが、香ばしい匂いでいっぱいになっている。それにつられるように、次から次へと、お客さんがひっきりなしに自動ドアをくぐり入って来る。

パン屋は、駅前の商店街にある。他のお店が軒を連ねる中、パン屋は一、ニを争う人気店であり、平日、休日、時間を問わず、お客さんに愛されている、そんなお店だった。

しかし、違う目的で来店するお客さんもいる。

橋本拓也。癖っ髪で眼鏡をかけていて、ひょろひょろっとした地味な印象の大学生だ。

拓也はパン屋の常連客で、初めて出会ったのは、亜樹が勤めてからしばらく経ってのこと。

大学の帰りだろうか、夕方時。翌朝の分のパンを数個買っていく。亜樹は、何度か拓也の姿を目にするうちに、声をかけるようになった。

最初はおどおどと、言葉に詰まったり、仕草がぎこちなかったり、どこか小動物のような雰囲気があり、亜樹は、そんな拓也が妙に可愛くもあった。

拓也が店内に入ると、亜樹の威勢の言い声が響き渡った。

亜樹「へい!いらっしゃい!」

拓也は苦笑いをして、

拓也「亜樹さん、ここは八百屋じゃないんですよ?」

亜樹「ははっ。それ、この前店長にも言われたよ。でもさ、元気がある方が気持ちよくない?」

拓也「まぁ、そうですけど……」

亜樹の押しに、拓也の言葉はつっかえてしまった。

亜樹「そうそう、それでいいんだよ。何事も前向きに捉えないと。ていうか、拓也君がこんな早く来るなんて珍しいね?いつもは夕方なのに」

すると拓也は一度店内を見渡し、誰もいないことを確認してから、

拓也「じ、実は、亜樹さんに……お話ししたいことがあって」

緊張しているのか、拓也の体は強張っていた。亜樹は、そんな拓也を気遣い、

亜樹「その感じだと、二人の方がよさそうだね。よかったら外で話す?」

拓也「あっ、は、はい。お願いします」

その言葉を聞いてから、亜樹は厨房へと入った。

レジの後ろの壁は、上部がガラス張りになっていて、厨房が見えていた。

拓也は、亜樹が店長に話しているのをじっと見つめていた。

そして、亜樹がまた戻って来た。

亜樹「それじゃあ、ちょっと近くの公園にでも行こうか」

拓也は頷いた。

二人で公園に向かう途中、亜樹は拓也が何を話そうとしているのかなんとなくわかっていた。

満を持してというのだろうか、あれだけ緊張しながら話したいことがあるなんて。こういうパターンは告白と決まっている。それかデートのお誘いだ。

亜樹は心の中で、お姉さん困っちゃうなぁ、と罪な女になりながら、丁寧な断り文句を考えていた。

単純に、夫がいるから、と言えば解決するのかもしれないが、何か一つでも次に繋がるアドバイスができたらな、とも考えていたのだ。

歩いて数分。フェンスに囲まれた、公園というにはどこか味気ない小さい広場に着いた。

亜樹は、そこにある木製のベンチに腰を下ろした。

亜樹「隣、どうぞ」

拓也は、亜樹の言葉を待っていたのか、一息吐いてから、硬い表情で座った。

こじんまりとした公園には、二人以外誰もいなかった。

静かで、初夏の日差しと涼風が、肌を優しく撫でてくれる。時間がゆっくり進んでいるような、のんびりとした雰囲気だった。

一方拓也は、なかなか話しをしようとしなかった。言葉を選んでいるのか、緊張しているのか、それとも、怖いのか。亜樹は、そんな拓也を急かすことはせず、動物が描かれているスイング遊具を眺めながら待っていた。

そのとき、拓也はすっと立ち上がり、亜樹の正面に立った。

拓也「亜樹さん、も、もし、ご迷惑じゃなかったら、ぼ、僕とデートをしていただけませんか?」

亜樹はやっぱり、と思いながら、一つ間を置いて、

亜樹「……拓也君、ありがとう。でも……」

しかし、拓也は亜樹の言葉を遮り、

拓也「わかってます。旦那さんがいるんですよね」

亜樹「じゃあ、どうして?」

拓也「……実は、東京を離れて、九州に引っ越すことになったんです。僕は、ずっと前から亜樹さんのことを見ていました。亜樹さんと会えると、不思議と元気が出て……。だから、ただ会いたくて、話しをしたくて、それだけでお店に行ったことが何度もありました。亜樹さんは、本当に僕の憧れなんです。でも、後悔したくなくて……」

言葉に詰まりながらも、拓也は続けた。

拓也「何も伝えずに離れるなんて嫌だったんです。だから今日、頑張って気持ちを話そうと思ったんです」

拓也の瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。声は掠れて上擦っていて、体の底から言葉を振り絞っていた。

そんな拓也の気持ちは、亜樹の胸を打った。先ほどまで考えていた断り文句を、そっと心の引き出しに閉まった。

亜樹「ふふっ。拓也君は卑怯だね。そんなこと言われたら、私断れないじゃん」

拓也「えっ?あ、あえ?そんな、ダメです、断ってください。え?あれ?……あぁごめんなさい。もう、何がなんだか」

拓也は髪を掻きむしりながら取り乱していた。

亜樹「落ち着いて。深呼吸深呼吸。いつ引っ越すの?」

拓也「は、はい。えっと、来週の末です」

亜樹「すぐじゃん!」

亜樹は、だったらもっと早く言ってくれればよかったのにと呆れた。

拓也「はい。だから、僕……」

亜樹「どうしよっかなー」

拓也「え?」

すっとんきょうな声を出した。

亜樹「あはは、何その声。おっかしい。……誘ってくれたのは拓也君でしょ?頑張って気持ちを伝えようとしたんでしょ?だったらさ、自信持ちなよ」

拓也「ごめんなさい。そうですよね。自分から誘ったのに、おかしいですよね。それで……」

拓也の心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。返答次第でこの恋が今ここで終わってしまうかもしれない。拓也は気が気でなかった。

反対に亜樹は、焦らしているわけではなかったが、なかなか返事を返せなかった。心では決まっている。しかし、本当にいいのだろうか?道流という存在がいるのに、他の男性とデートをしても。

それに、彼は恋心を抱いている。好きという感情があって誘っているのだから、それを承諾するということは……。

亜樹「ねぇ、デートって、遊びに行くだけ?」

拓也は、言葉の意味が理解できない、といった表情だった。

拓也「え?は、はい。亜樹さんと、デートを……」

亜樹「学生のデートはわからないけど、大人のデートなら、セックスもあるかもしれないよ?」

その台詞が拓也の頭の中に染み込むまで時間がかかった。そして、一気に顔を赤く染めた。

拓也「……でも」

頭の片隅ではわかっている、望んでいる、とそんな表情だった。

亜樹「したくないの?」

悪戯っぽく問いかけると、

拓也「……したいです!僕は亜樹さんが好きです。だから、出来るなら、セックスしたいです!」

亜樹「……ふぅ。じゃあ頑張って私をその気にさせてね」

拓也「え?それって?」

亜樹「私は、デートのお誘いを受けさせていただきます」

拓也「え?本当ですか!?」

亜樹「はい」

拓也「やった!ありがとうございます!」

拓也は、子供のような無邪気さで喜んだ。

その日の夜。

亜樹「……もしもし。お疲れ様」

道流「お疲れ。でも、亜樹もね。今日パートでしょ?お疲れ様です」

亜樹「うん、ありがとう。今日も疲れたよー。そっちは?優衣香と真琴ちゃんも、そろそろ疲れが溜まってるんじゃない?」

道流「いやいや、ところがどっこい。優衣香は紅茶を求めて喫茶店巡り。真琴は、可愛い同僚の子を落とそうと躍起になってるよ」

亜樹「あはは。二人共さすがだね。道流は?」

道流「ん?僕は全然大丈夫だよ。それに、早く亜樹に会いたいよ。あっ!ちゃんと性欲は溜めておくから安心して」

亜樹「本当に変態だね」

道流「うん。僕は変態だよ。でも、亜樹だって変態だからね」

そのとき、かすかに体が疼いた。

亜樹「ねぇ道流。実はね……」

亜樹は道流に、拓也からデートに誘われたことと、承諾したことを話した。

道流「……なんか、嫉妬しちゃうな」

亜樹「全然そんな感じには聞こえないけど」

道流「だって、僕はその子のことを知らないし、それに、亜樹は僕の大切な妻なんだよ?知らない男が、妻とデートなんて、それは嫉妬するよ」

亜樹「それって、私は喜んでいいのかな?」

道流「僕は複雑だけどね」

亜樹「……私ね、聞いちゃったんだ。セックスはするのって。そしたら、僕は亜樹さんが好きだから、セックスしたいですって言ったんだ。道流、嫉妬する?」

道流「たまらなく嫉妬するよ。今、少し想像しただけで勃起した。亜樹が一回りも若い男とセックスするなんて、考えただけでもたまらないよ」

亜樹「相変わらず変態だね。……見たい?」

道流「見たい!」

亜樹「じゃあ、真琴ちゃんに用意してもらわなきゃ。……私、道流のことを思いながらセックスしてくるね」

道流「僕も、そんな亜樹を想像しながらオナニーするよ」

そう言って、二人は笑い合った。

しかし不安はあった。とくに道流は、亜樹の身を案じていた。見ず知らずの男に最愛の妻を任せるということは、あの日のようなことになる可能性があると。

そのとき、道流の心配を悟ったのか、

亜樹「道流、大丈夫だよ。拓也君はか弱い子だから」

道流「いやそういう問題じゃないよ」

亜樹「はは、そうだね。ごめんなさい」

道流「何か少しでも違和感があったらすぐに連絡するんだよ」

亜樹「はい、わかりました」

そのあと一つ、何かを確かめるような間があったあと、

道流「うん。……ありがとう、亜樹」

亜樹「ふふ。ありがとうって、何か変だね」

あまりのおかしさに、亜樹は笑みが零れた。

これは二人のたしなみ。何度も間違えて、素直になれなかった二人の、愛の確認作業なのかもしれない。

亜樹はその日、久しぶりにミニスカートを履いた。シャイニーブルーのプリーツスカートで、上はホワイトのリボンカラーブラウス。

鏡の前に立つ自分を見て、亜樹はなんだかおかしく思えた。最初は道流の趣味に付き合っていたはずだったのに、それが今では、ミニスカートで自分より一回りも若い男の子を誘惑しようとしている。

亜樹は玄関のドアノブに手をかけ、呟いた。

亜樹「道流、行ってきます」

心の隙間が縁取られた。ドアを開けた途端、夏の日差しが顔を眩しく覆った。

亜樹は、待ち合わせ場所に向かう途中様々な想像をしていた。

拓也はどちらかというと、所謂、草食系男子。手を引いてあげなければいけないのは、むしろ自分の方だと思うのだけれど、ただ、どうやってエスコートしてあげればいいのか、いまいちわからなかった。

亜樹は拓也のことをお客さんという存在でしか見たことがない。何が好きで、何に対して興味を持つのかもわからない。

しばらくの間あれやこれやと思考を巡らせるが、なんで誘われた自分が心配しなくてはならないのかと開き直りにも似た気持ちになり、最後は考えるのを止めた。

でも、欲を言えば、道流のように触れて来てほしい。スカートの中を、いやらしく、欲望の眼差しで覗いてほしい。おそらく、最後にはセックスをすることになる。でも、それまでの過程で、眠ってしまった体をいつかのように昂らせてほしい。

拓也のような男の子にそんなことを求めるのは、随分と酷なことだとわかっているつもりだけれど、やはり、最初で最後の関係なのだから、拓也には自分の気持ちに正直になってもらいたい。

おもいっきり、エッチになってほしい。

そのとき、亜樹は待ち合わせ場所に着いた。

時刻は、朝の十一時前。少し早かったのか、まだ拓也の姿はなかった。

日差しが強かったこともあり、亜樹は近くの日陰で涼むことにした。

休日だけあって、駅前は人の波が途切れない。家族連れ、友達、カップル。もし、隣に拓也がいたら、自分達はどのように見られるのだろうか。友達?姉弟?それこそ、カップルとして?。

自分には、夫である道流がいる。でも、今日だけは拓也が隣にいる。そんな二人を見た人達の記憶には、おそらくカップルとして刻まれるだろう。例え誤解であっても、その間違いを正すことはできない。

亜樹は一人、難しい考えを並べては、何を言いたいの?と問いかけて、考えるのをやめる。

亜樹は、緊張していたのかもしれない。

拓也「すいません!お待たせしてしまって!」

そのとき、急に横から声をかけられ、亜樹は驚いた。

そこには、すでに汗を流しながら、呼吸を整えようとしている拓也の姿があった。

亜樹「おはよう拓也君。でも、ちょっとびっくりしたよ」

拓也「はぁはぁ……はは。ごめんなさい。亜樹さんを見たら……焦っちゃって」

またここでも、亜樹は謝らせてしまった。

亜樹「まだ時間になってないから、大丈夫だよ」

拓也「はい、ありがとうございます。でも……女性を待たせてしまうのは、ダメだと思って」

亜樹は、見たり聞いたりした知識を、手探りで当てはめていくような感じの拓也が可愛いく思えた。

亜樹「ふふ。そうだね。じゃあ暑い中待ったから、冷たい飲み物でも欲しいなあ」

意地悪く呟くと、拓也は微笑みながら、

拓也「はい!わかりました。実は、近くに美味しいカフェがあるので、そこに行きましょう」

どうやら、拓也は前もってデートプランを作っていたようだ。

亜樹は、先ほどの心配は杞憂だったかな、と思い、今日は拓也に甘えることにした。

それからは、カフェに行き、お茶をしてご飯を食べて、デパートに行き、水族館に生き、拓也とのデートは、亜樹にとって新鮮な一時になっていた。

思い返せば、道流との絆を深めていく過程は、お互いの趣味に寄り添ったものだったけれど、拓也の場合は一つ一つ、何かを確かめ、パズルをはめていくような感じがあった。

つねに、亜樹の表情や仕草を見て、自分が考えたプランは正解なのか、それとも失敗だったのかを確認しているような、探り探りの感じが初々しかった。

次のスポットに向かう並木道の途中、拓也の視線が、ちらちらと腰周りに集められていた。亜樹は、ずっとその視線に気づいていないふりをしていたけれど、ここにきて意地悪をしてみたくなった。

亜樹「ふふ。そんなに気になる?」

そのときの拓也の表情は、あっ!バレた!と、まさにそんな驚きの顔をしていた。

拓也「あっご、ごめんなさい!……何か、いつもの亜樹さんとは印象が違うので、どうしても気になっちゃって」

亜樹「ふーん。本当に拓也君は正直だよね。否定しないんだもん」

拓也「え?違います!違います!そんなつもりじゃ……」

亜樹「あはは。ううん。こっちこそごめんね、からかうようなことしちゃって」

拓也「何か、亜樹さんと話していると、ペースが狂っちゃいますよ」

亜樹「ん?それは私のせいじゃないよ、失礼しちゃうね」

そう言って、亜樹は笑った。

拓也「でも、いつもは、亜樹さんの制服姿を見ているので、今日の亜樹さんは凄く可愛いらしくて……セクシーというか……」

亜樹「本当に?ありがとう。でもね、私のダーリンなら、言葉だけじゃなくて、ちゃんと身振り手振り表現してくれるよ」

拓也「……それってどういう意味ですか?」

亜樹「言うことは素直でも、心は素直になってる?拓也君にとって、最初で最後の私とのデートなんだよ?私が見たいのは、カッコよく着飾る拓也君じゃない。もちろん、男の子がカッコつけたいっていうのはわかるけど、私は、ありのままの拓也君を感じてみたい」

拓也は、目を凝らす、というより、心を凝らしているような真剣な面持ちで耳を傾けていた。

しかし反対に亜樹は、そんな拓也を見て、軽はずみなことを言ってしまったかもしれないとすぐに反省した。

これでは、自分の好きな色に染まってほしいと言っているようなものだ。

拓也には、拓也の良さがある。夜な夜なイメージをして、デートコースを練って、この日のために予習復習を繰り返したはず。

純粋に、自分とのデートを楽しみたいと願ったそんな青年の欲望を煽ってしまったのだ。

拓也「亜樹さん?」

亜樹「……ごめん、偉そうなこと言っちゃって。今のことは忘れて」

亜樹は一つ、急かす気分を落ち着かせるように、大きなため息をついた。らしくない。矛盾している気持ちが、胸の奥で居場所を探していた。

最後のスポットに着いたのは、夕陽が街を茜色に染めている頃だった。拓也にとって、亜樹と一緒に来たかった一番の場所。そこは有名な大観覧車があり、カップルには欠かせない人気のデートスポットだった。

好きな人と観覧車は男なら誰もが憧れる。そんな夢を、拓也も見ていたのだった。

亜樹「うわぁ、おっきい」

亜樹はその大きさに、ただただ圧倒された。

拓也「本当ですよね。ちなみに、一周十五分くらいかかるみたいです」

亜樹「え?そんなに?凄ーい」

拓也「それと、頂上から見える景色も圧巻なんで、ぜひ見てみてください」

亜樹「ん?来たことあるの?」

拓也「あ、いえ、違います。乗るのは初めてなんですけど、前にテレビで見たことがあって。僕そのときに、亜樹さんと、乗りたいなって思ったんです」

亜樹「そうなんだ。拓也君、ありがとう」

しかしこのとき。拓也は迷っていた。今までの手応えでは、亜樹さんを楽しませることはできていたとしても、その気には出来ていないんじゃないかと感じていた。

このままでは、観覧車が最後になってしまう。どうすればいいのか、拓也は乗車の順番が来るまでの間、必死に思考を巡らせた。

やがて、順番が回ってきた。

乗降口が開き乗り込むと、亜樹が左に、拓也が右の椅子に座った。従業員の合図で、扉が大きな音をたてて閉まる。

亜樹「中も広いね」

拓也「そうですね。しかも、かなりゆっくりですね。これなら頂上に着いても焦らず見れますね」

亜樹「ね!楽しみー!」

亜樹は子供のように笑って壁際に移動した。拓也も、それなら僕も、と亜樹を真似て移動した。

そして数分もすると、ゴンドラがかなり高くなってきた。

目の前に座る亜樹は、もう外の景色に夢中だった。しかし拓也は、亜樹の太もも。スカートの中を見つめながら葛藤していた。

本当にこれでいいのか?見たいんだろ?触りたいんだろ?拓也は、さきほどの台詞を聞いたときから、亜樹が誘っていると解釈していた。

でも万が一それが違ったら僕は嫌われる。嫌われたまま弁明も釈明も出来ずに二度と会うことはなくなる。

拓也の体に、選択が重くのしかかる。綺麗なデートが僕のしたかったことじゃない。

今日しかない、たった一度のデート。身も心も全てで、亜樹に想いを伝えたかった。想像の中で、何度も亜樹とデートをした。何度も亜樹を脱がせてオナニーをした。

本当に、これで終わっていいのか?

―――ありのままの拓也君を感じてみたい。

亜樹「……凄く綺麗」

拓也はその言葉にはっとした。いつの間にかゴンドラは頂上に着いていたのだ。

そこでは、夕陽が海を、街を、全てを照らしていて、現実とは思えないほど壮大な眺望だった。

しばらくの間、二人はその絶景に心を奪われていた。

亜樹「……道流」

拓也「え?」

無意識に零れてしまった声を、拓也は聞き逃さなかった。

亜樹は、あっ、と口を手で覆った。

そして、驚いている拓也の顔に気付くと、

亜樹「ごめん。ダメだよね。拓也君と一緒にいるのに……気分を悪くさせちゃったら、ごめんなさい」

そのとき、亜樹の横顔を夕陽が包み込んだ。

何かが弾けた。拓也の体は、本能で動き出していた。

拓也は亜樹の隣に座ると、無言のまま横から肩を抱きしめた。

亜樹「拓也君……」

拓也「そんな儚い声で呼ばないでください。もう、わからないんです」

スカートの上に置いてあった手に、拓也は自分の右手を重ねて、その手を退かした。

拓也「亜樹さん、僕は、ずっと亜樹さんのことが好きでした。でもその気持ちも、今日で最後です。だから後悔したくないんです。僕は亜樹さんの全てを見たい」

拓也は、亜樹の瞳を見つめる。

拓也「いいですか?」

問いかける拓也に対して、亜樹はただ、うつむくだけだった。緊張なのか、それとも恥ずかしいのか、亜樹の顔は紅潮していた。その理由が、夕陽の仕業なのかはわからなかった。

拓也「亜樹さん……」

―――だったらさ、自信持ちなよ。

拓也は、亜樹の膝の上に手を置くと、太ももの奥に向かって撫でていった。

やがて、スカートの中へと入っていく。

指から亜樹の体温が伝わってくる。

拓也「ずっと、触れたかった。亜樹さんの肌に。僕は、亜樹さんで、何度もオナニーしました。このスカートの中も、想像しました」

そして、指がパンティに触れる。

拓也「温かい」

肩に回していた左手を下げていき、スカートの裾をつまむと、

拓也「亜樹さんのパンティ……」

囁き、スカートを捲った。

そこには、純白のレースのパンティがあった。

拓也は、じっとそのパンティを見つめた。まるで、記憶の中枢に刻み込むように。

絶対忘れない。その目には、強烈にそう表れていた。

拓也「はぁはぁ……」

拓也の呼吸が、興奮とともに荒くなる。

拓也「もっと、亜樹さんの恥ずかしい姿が見たいです」

亜樹はまだうつむいたままだった。しかし、拒むことはしない。拓也の行為を受け入れて身を委ねていた。

拓也は、右手でブラウスのボタンを上から外していった。

首のつけね、鎖骨、徐々に亜樹の肌が露出していく。そして、ついに谷間が見え、こちらも純白のブラが、拓也の眼前に晒された。

拓也「凄く……綺麗な谷間。それに、亜樹さんのおっぱい、大きいですね」

拓也は一つ、心を落ち着かせるように深呼吸をすると、右手で、下から胸を揉み上げた。

拓也「あ、はは。柔らかい。亜樹さんのおっぱい柔らかい」

若気の至りか。拓也はもうゴンドラの中にいるということを忘れていた。視界にあるのは、亜樹の谷間とブラとパンティ。

さらに、欲望の勢いに乗った拓也は止まらなかった。

ブラの縁から人差し指を入れて、上部を下に捲るようにずらした。

拓也「乳首……」

そのピンク色の乳首はすでに硬くなっていて、甘美な匂いを放っていた。

拓也は、亜樹を自分の方に向かせると、谷間に顔を埋めた。さらに、乳首をねっとりと舐め上げた。

亜樹「あん……」

甘い吐息が漏れる。亜樹にとって、乳首は性感帯。舐められたことで、脳天まで快感が走っていった。

拓也「ここが感じるんですね」

拓也は乳首を舐め、しゃぶり、吸った。室内には、チュパチュパと卑猥な音が響く。

亜樹「あん……はぁ……いやん」

拓也「僕の愛撫気持ちいいですか?」

拓也は上目遣いで、亜樹の表情を探る。さきほどまでの緊張や重圧は、すでに消え去っていた。

亜樹「……気持ち、いい……」

拓也は安堵した。

続けて、お腹の方から、パンティの中に手を侵入させた。ゆっくり、そこに何があるのか、確かめるように。拓也の指は、いやらしかった。

拓也「陰毛……意外と薄いんですね……熱い。パンティの中、凄く湿ってる。……あ、やっと……亜樹さんのマンコに、僕の指が触れてます」

そのとき、亜樹が初めて拓也の腕を掴んだ。

亜樹「拓也君……ここじゃダメ」

その言葉は、拓也を現実の世界に引き戻した。拓也は、キョロキョロと周りを見渡し。

拓也「あっ!……ご、ごめんなさい。こんな場所で」

しかし、夕陽を背に映る亜樹の表情は、形容し難いほど美しかった。

拓也は、理性が弾け飛びそうになるのを全身で抑えたが、でも、すでに顔を近づけていた。

無意識に抱きしめたその腕から伝わってくる感触は、とても華奢で可愛いらしい体だということだった。

そして、亜樹を押し倒すように唇を奪った。

舌が絡み合う。拓也の手は、亜樹の背中全体を撫でる。

止めなければいけないのに、理性が、体が言うことを聞かない。

その替わりに、このまま時間が止まればいいのにと、拓也は胸の奥で、叶わない願いを呟いた。

亜樹「拓也君」

名前を呼ばれると、拓也はすっと体を離した。

亜樹「変えよ」

拓也「え?」

亜樹「ここはダメだから、場所を変えよ」

拓也「……じゃあ、続きを?」

亜樹は無言で頷いた。

その仕草に、拓也は心の中で、大きなガッツポーズをした。

まだ終わらない。まだ、亜樹と一緒にいられる。そう思うと、興奮は冷めやまなかった。

観覧車をあとにすると、外はすっかりと日が落ちて夜になっていた。気温のせいか、それともさきほどの余韻のせいなのか、二人の体は熱く滾っていた。

二人が向かった先は、真琴が借りているマンションの一室だった。

そこは前に、優衣香と袴田がセックスをするために利用した場所である。

エントランスに入りエレベーターに乗り込んだ。ここまで来るのに一時間ほどが経っていた。

拓也にとって、本当に長い焦らしのようであったが、ついに、いい加減我慢できなくなり、亜樹を抱きしめてキスをした。

その姿は、もうあのか弱くて地味な拓也ではなかった。女を食らう獣のような、そんな男になっていた。

それでも、亜樹は拓也を制止した。

拓也「亜樹さん、もう僕……したい!」

亜樹「すぐだから。ね、待って」

エレベーターから降りると、廊下を通り部屋の前に着いた。

後ろに立っている拓也の呼吸は荒々しかった。

亜樹は鍵を取り出してドアを開けた。その鍵は、元々エントランスにある郵便受けに入っていた物で、前もって真琴に聞いていたのだった。

玄関に入ると、拓也はすぐに亜樹を壁に押し付けた。

亜樹「あ、ダメ。待って、シャワー浴びさせて」

しかし、拓也は離さなかった。

拓也「嫌だ。シャワーなんて浴びさせない」

亜樹「でも、汚いよ。汗だって……」

拓也「いい。構わない!亜樹さんの汗も、匂いも、全部知りたいから」

拓也は意に介さなかった。これ以上の焦らしは拷問に等しい行為。もう止められない。

拓也は唇を強く押し当てると、亜樹の口内に舌を入れて掻き回した。

亜樹の口の中から唾液が奪われていく。拓也は無我夢中で味わった。

拓也「はぁはぁ……あぁ、美味しい。もっと」

亜樹の両腕は壁に張り付けられたように抑えられていた。抵抗したくても身動きが取れなかった。

拓也はそれを良いことにキスを緩めない。

拓也「亜樹さんて、ドMなんですね。なんで、拒まないんですか?こういうのが好きなんですか?」

亜樹は何も答えない。

拓也は腕を離すと、亜樹の尻を鷲掴みにして揉みしだいた。

亜樹「あ……あん……」

拓也は強引にスカートを床に落とした。

下半身がパンティ一枚になった亜樹の姿は、破廉恥で、いやらしく、拓也のモノを猛烈に刺激した。

拓也「亜樹さんのアソコは、どんな味がするんですか?」

その場で跪くと、拓也はパンティ越しに亜樹のアソコを舐めた。

筋に沿って、アソコの輪郭を確かめるように。亜樹は恥ずかしさのあまり手で顔を覆っていた。

拓也「いやらしい匂いと味ですね。亜樹さんの汗が染み付いてる。僕、この匂い好きです」

パンティをずらし、拓也はまるで宝物でも見つけたように、目を大きく開き、その光景に見入っていた。

拓也「淡いピンク色。綺麗です」

そして、口を付けて一気にマンコを貪った。

亜樹「あっ!……あぁ!」

喘ぎ声が、一層大きくなった。

亜樹「あん!……ダメっ!そんな……あぁん!」

拓也「美味しい。それに、その喘ぎ声、可愛いです。もっと聞かせてください」

舌が、マンコの中で暴れる。亜樹は、拓也の舌技に愛液を溢れさせていた。

拓也「はぁはぁ……いっぱい出てきましたね」

そのときの亜樹は、すでに立っているのがやっとだった。拓也は、亜樹のブラウスを脱がせ、ブラを剥いだ。

亜樹を壁に向かせると、後ろから胸を揉み、背中に舌を這わせた。

観覧車のときは片手だったが、今回は両手で両胸を存分に堪能した。

ときおり、指で勃起した乳首をクリクリと捏ね回したり、弾いたりすると、亜樹は卑猥な声を上げた。壊してあげたくなるような、儚くて、繊細な、粉雪のような声だった。

亜樹「あん……気持ちいい……拓也君の、指……気持ちいい」

拓也「僕もです。亜樹さんの体が凄くエッチで、気持ちよくて、止まらないです」

拓也は、残り一枚となっていたパンティも、ゆっくり下ろしていった。

パンティが踝から離れ、ついに拓也の目の前に、憧れの女性の裸があった。

いったい何度、この光景を想像しただろうか。夢にまで見た亜樹の裸。服も下着も身に付けていない、一糸纏わぬ姿。

声が出なかった。息を飲んで見とれた。

拓也は今一度、指を這わせた。首から背中へ、お尻から太ももへ。滑らかで、きめ細かい肌を。

拓也「もっとお尻を突き出してください」

その要求に、亜樹は顔を赤く染めながら従った。

壁に両手を付いて、上半身を屈ませ、おそらく拓也には、アナルとマンコが同時に見えているだろうと思うと、亜樹はさらに、羞恥に溺れた。

拓也はお尻の割れ目に顔を埋めた。

それから、長い時間が経ったように感じられた。一回りも若い男に、自分の恥ずかしいところに顔を押し込まれているのだ。亜樹は、顔から火が出そうなほどの辱しめを受けている感覚に陥っていた。

早くやめてほしい。でも、もっとしてほしい。その欲求が心の天秤で揺れていると感じたとき、つくづく変態なんだと、亜樹は痛感した。

拓也はゆっくり顔を離すと、服を脱ぎ始めた。

それに気づくと振り返り、今度は亜樹が跪いた。

拓也がトランクスを床に落とすと、そこにはギンギンに勃起したモノが、高く反り返っていた。

亜樹は、そのモノを包み込むように口に咥えてフェラをした。

口内で、モノの先端を舌で刺激する。拓也は、その度に深い息を吐き、天井を仰いだ。

上目遣いで、モノの裏側を丹念に舐めたり、袋を手で転がしたり、亜樹は、自分ができる最高のフェラを、拓也に施した。

しばらくして、

拓也「亜樹さん、いいですよね?」

唐突に拓也が口を開いた。もう何度目だろうか、我慢ができなかったのだ。

そんな拓也の様子に、亜樹は黙って頷いた。

もう言葉はいらない。亜樹はすでに、今日という日が決まったときに準備はできていた。

拓也は亜樹を立たせると、また先ほどと同様に壁に向けて両手を付けさせた。

拓也は鞄からコンドームを取り出した。

それを見て、亜樹はクスっと笑ったが、拓也は気づいていなかった。

コンドームを付け終わると、亜樹のクビレを掴みゆっくり自分の腰に引き寄せた。

拓也「行きます」

モノが体の中に入っていく。先端から根元まで到達するまでに、拓也はじっくりと亜樹のマンコの感触を確かめた。

亜樹「はぁん……あん」

拓也は徐々にスピードを上げて腰を振った。

亜樹「あん……あん……あん」

リズミカルに肉と肉がぶつかり合う。そして、それに呼応するように、亜樹の喘ぎ声も重なる。

拓也はあまりの気持ちよさにどうにかなってしまいそうだった。

拓也「熱くて、キツくて、ぬるぬるで。亜樹さんのマンコ、たまらない」

パンパンパンと、とても初めてとは思えないほど軽快な腰使いだった。

亜樹「あぁ、いい!……拓也君気持ちいいよ」

拓也「もっと、もっと聞かせてください」

亜樹「拓也君のおチンポいいよぉ!」

拓也「僕もです!亜樹さんのおマンコ、最高です!」

亜樹「あん!あん!あん!」

さらにピッチが上がる。

尻肉が腰を打ち付けられるたびに波打つ。

パンパン、パンパン。緩むことなく打ち続けた。

拓也「ああ!もう!亜樹さんイキそうです!」

亜樹「私も!イッて!私の中で!」

拓也「あっああぁ!」

亜樹「あぁぁ!」

拓也は咆哮のような声を出して、全身を硬直させた。

亜樹はガクッと膝が抜けて、繋がったまま床に両手を付いた。

亜樹「はぁはぁ……」

肩で息をしている亜樹を見て、拓也はモノを抜いた。そして間髪いれずに、亜樹を抱き上げるとそのまま寝室に連れて行き、ダブルサイズのベッドに下ろした。

亜樹「……もう……立ってるの?」

拓也のモノは、ついさっき果てたばかりだというのに、すでに硬く太く、まるで、これから初めて挿入するんだと言わんばかりに膨張していた。

拓也「一回だけなんて、そんな勿体ないことしません。今夜は、亜樹さんとたくさん繋がりますから」

拓也は自信満々に笑った。

亜樹「あん!あん!あん!」

拓也「いい眺め。凄くエッチだ。亜樹さんの豊満なおっぱいが気持ち良さそうに弾んでる。それに顔も、なんていやらしいんだ」

拓也は、正常位で亜樹を貫いた。

亜樹は両手でシーツを握りしめ、拓也のリズムに合わせてよがり、喘いだ。

亜樹「あぁ!あん!……うっ、あん!」

拓也「亜樹さん!いい!いいですよ!もっとほしい!」

腰を前後に動かしながら、拓也は上半身を倒し、キスをした。両手は両胸を鷲掴みにして激しく揉んだ。亜樹も、拓也の首に腕を絡ませまるで恋人のように求めた。

亜樹「もっと……ちょうだい」

拓也は唾液を滴らせながら、舌を濃厚に密接させた。

拓也「はぁはぁ……もう、イキそうです」

亜樹「あん……あん……来て!」

その瞬間、拓也は二度目の絶頂を迎えた。

それからも、拓也は体位を変えて、幾度となく亜樹の体を突いた。

正常位、バック、騎乗位、対面座位。二人は全身に汗を滲ませ、最初で最後の恋人になっていた。

拓也「はぁはぁ……亜樹さん、好きです!もっともっと感じたい!欲しい!全部!」

亜樹「あぁ……あん!あん!……私も!もっと、いっぱい突いて!」

部屋には、汗の匂い、精子の匂い、愛液の匂いが混ざり合い理性を狂わせていた。

パンパンパン……パンパンパン。

無我夢中で突き続けた。そして、

亜樹「あぁ!……もうイク!イッちゃう!」

拓也「僕もです!亜樹さん!一緒に!」

亜樹「あっ……イク……」

拓也「亜樹さん!」

亜樹「ああぁぁ!」

二人の咆哮にも似た声が同時に響き渡ると、拓也は倒れ込んだ。

亜樹は、拓也を受け止め、抱きしめた。

しばらくして、二人の鼓動も徐々に落ち着いてきた。ベッドに並んで寝ていると、

亜樹「拓也君て、初めてじゃなかったんだね。ゴムを着けるのも手慣れてたし。ごめんね。私勘違いしてた」

拓也「……初めてだったんですけどね」

拓也はばつが悪そうに苦笑いをした。

拓也「本当につい最近まで童貞でした。でも、それじゃあ亜樹さんのためにならないと思って」

亜樹「どういうこと?」

拓也「僕、こう考えたんです。童貞なんていう何の役にも立たない物を残しているくらいなら、風俗に行って経験をつむべきだと。それで、本当に好きな人ができたときのために、等身大の愛撫や、その人に喜んでもらえるような思いやりのセックスを学ぶべきだと思ったんです。無知だと、反対に好きな人を傷付けてしまうこともあるんじゃないかって」

亜樹「じゃあ拓也君は、私で卒業したくなかったの?」

拓也「え?……いや、もちろん亜樹さんがよかったです。でも、こんなこと……本来なら、あり得ないじゃないですか。僕は自分のエゴより亜樹さんに、一番好きな人に気持ちよくなってもらいたから。これっておかしいですか?」

亜樹「全然おかしくないよ。それに、私は凄く嬉しい。でも……あり得ないかあー」

亜樹は天井の一点を見つめながら、遠くへ呟いた。

拓也「何か?」

亜樹「ううん、何でもない」

亜樹はそう言って、ベッドから起き上がると、

亜樹「一緒にシャワー浴びる?」

拓也「はい!是非!」

亜樹は言わなかったけれど、心の中で密かにアドバイスをしていた。

あり得ない。そんな言葉から始まる恋もあるんだよ、と。

その後浴室から、パンパンパンという何かを叩き付ける音と、甘くて、欲情をそそるような声が聞こえてきたのだったが、その音はしばらくの間続いた。

次の日の夜。

亜樹は美雪に電話をかけていた。

美雪「え、でもそれって、拓也君……ごめんなさい、なんか可哀想じゃないですか?」

亜樹「うん、だから別れたあと凄く罪悪感を感じたよ。結果的に、私達の性癖に利用しちゃったわけだからさ。今思えば、ただ寂しかっただけなんだなって思ったよ」

美雪「それが、体に出ちゃったってことですか?」

亜樹「恥ずかしい話しだけどね。だからさっき、とりあえず、一言だけ拓也君に謝ったよ。もちろん、拓也君は何のことかわからなかったみたいだけど」

美雪「それはそうですよ。私だって拓也君の立場なら、はて?ってなりますもん」

亜樹「ははっ。そうだね。でも、一言伝えられたから、少しは気が楽になったよ」

美雪「ちなみに、道流さんは何て?」

亜樹「道流は物凄く興奮してた。帰ったら、いっぱいセックスしようってさ」

美雪「全部話したんですか?」

亜樹「ううん話してないよ。優衣香から連絡がきて、真琴ちゃんが光の速さで出張先から帰って来て、私のセックスの映像を持ってまた戻ったんだって。それで、その映像を道流と一緒にホテルで見たらしいんだよね」

美雪「はぁ……真琴らしいですね」

亜樹「亜樹さん!最高でした!っていうメッセージをもらったよ」

美雪「まったく。帰って来たら言っておきます。もっと仕事に集中しなさいって」

亜樹「素直に聞く子じゃないよ」

美雪「そう思います」

二人は笑い合った。

美雪「早く帰って来てほしいですね」

亜樹「うん。本当にね」

亜樹は、道流が帰って来たらたくさんエッチな話しをしようと思っている。

拓也の指使いを、舌のいやらしさを、乳首を吸われ舐めたことを、何度も絶頂したことを。そして、拓也のモノが、寂しさを忘れさせてくれて、夢中にさせてくれたことを。

きっと道流は、そんな話しを興奮しながら聞いてくれる。

あと一週間。

亜樹は、そんな道流の変態顔を思い浮かべながら、今夜も一升瓶を抱いて、帰りを待っている。

―――

―――

―――

【あとがき】

最後まで読んでいただきありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

一度は終わった話しですが、これからも機会があれば、と思っていますので、次回も投稿した際には、是非よろしくお願いします。

重ねて、本当にありがとうございました。

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