葉のない桜の下で出会った僕らに満開の桜が咲くまで

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もう何十年も前の冬の話。当時僕は

高校2年生の俗に言う陰キャで、教室の隅で本を読むのが似合うような奴だった。大して頭もよくなく、県内有数の数百人規模の進学校に入学したはよいものの、成績は下から数えた方が速いような落ちぶれだった。

とはいえ、高2の冬にもなれば進路はある程度決定せねばならず、冬休みにもかかわらずわざわざ学校に出向いて全員参加の冬季講習を受け、担任と進路の話を交わす日々を送っていた。うちの高校は校門を入ってすぐ横に、大きな桜の木があり、そのすぐ下に駐輪場があった。自転車通学をしていた僕はいつもその駐輪場を使っていた。

ある日、いつものように駐輪場に自転車を停めると、となりに制服を着た綺麗な女性が少し困ったような顔をして、彼女のものと思われる自転車とともに立っていた。

「どうかされましたか?」

気付けば僕は彼女に話しかけていた。

「あ、いえ…どうやら自転車の鍵が壊れてしまったようで」

確かに、彼女の自転車を見ると鍵を刺す部分が変形し、ロックできないようだ。

「それは困りましたね。良ければ僕のが余ってるので使って下さい。」

僕は心配性だったので、自転車についてる鍵の他に、ワイヤーと南京錠が一緒になったような奴も使っていた。というわけで、一個彼女に使わせることにした。

「わざわざありがとうございます」

そう言って笑顔を見せる彼女に思わずドキッとした。そこで彼女と別れ、講習を受ける大講義室へ足を運んだ。この大講義室を使うときは、なぜか先着順で前から詰めることになっており、毎回隣の席に座る人が変わる。面倒な人でなければいいけど…そんなことを頭に思い浮かべながら席につくと、

「あっ…」

「あっ…」

「さっきはありがとうございます。」

「あぁ、いえ。それより、僕ら同学年だったんですね。」

交遊関係に乏しい僕は知らなかったがどうやらか彼女は僕の隣のクラスだったようだ。世間は狭いものだなと下らないことを考えているうちにやる気のない教師のつまらない講義が終わり、下校時間となった。

「このロック、お返ししますね。」

「いや、差し上げますよ。鍵がかからなくては大変でしょう。どうせ安物ですし、使って下さい」

「そういうわけには…んー……わかりました。ありがたく使わせて頂きます」

彼女はしばらく迷っていたようだったが、結局持ち帰らせた。

そのあとはこれといって何もなく、平凡な冬休みを過ごし三学期を迎えた。僕は冬休み中のことなど忘れかけていたが、始業式が終わったあと、彼女は律儀にお礼を言いに僕のクラスにやってきた。

「この前はありがとう」

「あぁ、あの時の…わざわざお礼なんていいのに」

「いえ、あなたのお陰で助かりました。本当にありがとうございます。」

そう言って彼女は自分のクラスに戻っていった。それ以来、彼女は校内で僕と会うと会釈をしてくれるようになった。余談だが、冴えない僕に綺麗な女性が話しかけに来たことはクラスメートにとって余程驚きだったようで、僕はしばらく好奇の目で見られることになった。

1月も下旬に入った頃のとある休日、僕は新発売の小説の購入を目的に書店へ足を運んでいた。店員直筆と思われる本日発売!のポップを横目に目当ての小説に手を伸ばすと、横からも手が伸びてきた。目をやると、例の彼女だった。

「偶然だね。君もこの本を?」

「うん。この作家さん好きなんだ。」

どうやら小説の趣味が同じだったらしい。小説家の話で話が盛り上がったが、客足が増えてきたので2人で会計を済ませ、店の外へ出た。

「趣味の合う人に会えて嬉しいよ。話ができて楽しかった。またね。」

「あ、ね、ねえ!」

彼女の呼び止める声がした。

「もしよかったら、このあとお茶しない?せっかく話が合ったわけだし、もうちょっと話たいなーって」

僕にとっても嬉しい提案だった。もちろん快諾し、僕たちは駅前の喫茶店に向かった。

喫茶店での僕たちの会話は大いに盛り上がった。ただ、僕は女性と2人で過ごした経験なんて今まで1度もなかったからとても緊張していた。一口すすったホットコーヒーがその日はやけに甘酸っぱく感じたのを覚えている。

そこから僕らの仲が深まるのは難しいことではなかった。学校でもよく話すようになっていたし、休みの日は2人で本屋巡りをして喫茶店で休憩するのが日課になっていた。正直、その頃にはもう既に彼女のことが好きだったんだ。それはもう、授業中も窓の外をぼんやり眺めては彼女のことを思い浮かべ続けるくらいには。でも僕にはそれを伝える勇気なんてなかったんだ。

3月に入ったばかりだった気がする。その日は平日だったけど、新刊の発売日で、放課後に校門で待ち合わせて本屋に行く予定だった。でも、待ち合わせ時刻になっても彼女は来なくて、彼女の教室まで様子を見に行った。

「ずっと好きでした。俺と付き合って下さい」

そんな男声が聞こえて、僕は思わず廊下の影に隠れて様子を窺うことにした。どうやら彼女のクラスメートのようだ。

「ごめんなさい…私、好きな人が…」

「まさか、隣のクラスのあの地味な奴のことか…?あんなのどこが…」

胸が高鳴った。彼女が言っているのは僕のことだろうか。僕は更に息を潜めて聞き耳を立てた。次の瞬間だった。

「ふざけるなっ…俺と付き合う方が絶対に良いに決まってるんだ!!そんな…許さない、そんなの絶対に…許さない!!!」

そう言って男は彼女に襲いかかった。彼女の抵抗する微かな声と服の擦れる音が聞こえた。僕は反射的に飛び出した。

「やめろ!!!!」

2人と目が合った。

「ッ!!くそ…」

男が教室を飛び出していった。

「大丈夫だった!?怪我はない?」

「うん、大丈夫ありがとう」#ピン「良かった無事で」

「ねえ、どこから聞いてたの?」

「え…付き合って下さい、の辺りからかな…」

「じゃあ、私の好きな人の話も…?」

「うん…」

「そっか…じゃあばれちゃったね君が好きだってこと」

「ねえなんで?」

「うん?」

「なんで僕のことなんか好きになったの?」

「前から気になってたんだよね。教室の隅で一人だけ本読んでてさ。どんな人なんだろう?って。だって私の好きな作家さんが書いた本ばっかり読んでるんだもん。だからね、自転車置き場で助けてくれたときは少し嬉しかった。優しいんだなぁって。」

「ほんとはね、本屋で会ったのも偶然じゃないんだ。もしかしたら来るんじゃないかと思って待ってた。そしたらほんとに来るんだもんビックリしちゃった。頑張って勇気出したんだよ、喫茶店に誘うの。ちゃんと話したらすごく優しいし面白いし、そうこうしてるうちに好きになっちゃった。」

彼女はポツリポツリと話し始めた。

「ごめんね勝手に片思いしちゃって、今のこと聞かなかったことにしていいよ。忘れて」

僕は知らなかった、そんなに僕のことを気にしてくれていたなんて。僕は知らなかった、そんなに勇気を出して誘ってくれたなんて。なら、今度は僕が勇気を出す番だ。今こそ、言うべきときなんだ。

「あのね…僕も好き…だ、だから…僕と…つ、付き合って、も、もらえませんか…?」

かなり噛んだ。つっかえた。もう泣きそうだった。そして彼女は泣いてた。でも、そのあと満面の笑みでこう言ってくれたんだ。

「はいっ…!よろしくお願いします!」

そこから僕と彼女の交際が始まった。といってもやることはほとんど変わらなかった。本屋に行って、喫茶店でブラブラ…唯一変わったこととすれば、僕が彼女の家に遊びにいったこと。

「お、お邪魔します。」

「うん、上がって上がって。そんなに緊張しなくていいよ、今日は私しかいないし。」

そんなことを言われたら余計緊張するじゃないか…最初は普通に話をしたり、ゲームしたり、映画を観たりしていた。

でも、映画を観ている途中、彼女と目が合った。どちらからともなかった。唇と唇が触れた。また目が合った。彼女は上気した頬で微笑んでくれた。何回も何回も口づけを交わした。

10分位してたかな…ベッドに移動した。お互いの服を脱がせ合って…初めて見る女性の裸は綺麗だった。真っ白ですべすべの肌に、マシュマロみたいに柔らかいおっぱい、ちょこんと乗ってる薄ピンク色の乳首、逆三角形に生えた陰毛、プリッとした丸いお尻、どこを見ても美しいと思った。彼女も、僕のそそり立ったモノを見て「大きい…」と言っていた。

初めての者同士、下手くそな前戯もほどほどに2人でひとつになった。彼女の中に入れた時のことは今でもよく覚えている。

「全部入ったよ。大丈夫、痛くない?」

「少し痛い…でも大丈夫だよ。大好きな人と繋がることができて嬉しい。」

「僕もだよ。大好き」

果てるまで時間はかからなかった。彼女のキツくて暖かくて包み込むような刺激に耐えられなかった。終わった後、コンドームにたまった精液の量の多さに2人とも驚いた。

それから、僕は毎週末は彼女の家に上がり、彼女とセックスをした。彼女は後背位が好きなようで、後ろから乳首を摘まんでやると一層気持ち良さそうにしていた。

3年の夏にもなると、志望校は決定し、受験勉強に励んでいた。僕らは同じ国立大学を目指していたが、僕は文学部、彼女は学校の先生になりたいらしく教育学部を志望していた。彼女の成績は良かったが、僕はそうもいかない。結局、いつも僕が彼女に教えてもらう羽目になっていた。

「先生になるんだもん。勉強教えるなんて朝飯前だよ。」

なんて言っていたけど、本当のところはどうなんだろう。

こうした勉強の成果もあり、無事に合格することができた。合格発表を見に行ったとき、あまりの嬉しさに人目も憚らずその場で抱き合って喜んだ。

こうして僕たの大学生活はスタートした。互いの親公認で同棲してたから大学から帰ると毎日のようにセックスをした。

「んっ…あぁ…いいっ…イキそう…あぁ潮吹いちゃううぅ」

「あぁ、僕もイキそう。あぁ…出る出る出るッ…」

「イクッ!」ピシャッ

「あぁ、出る!」ドピュッ

学生生活と性生活を両立するのはかなり難しかった。

その後、彼女は、無事に教育免許を取得し、働いている。僕も彼女の影響で大学で高校のこくごの教育免許を取得し、今は縁あって母校の高校で教鞭をとっている。今でもこの時期に葉のない桜を見ると、僕らの出会いを思い出す。

そして、彼女とは結婚し、今はお腹にいる新たな命が誕生することを心待ちにしている。女の子らしいから、さくら、と名付けようかと話し合っている。葉のない桜の下で出会っ僕たちに満開のさくらが咲こうとしている。

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