俺が大学1年の時の話。
その時は俺が通っていた大学で友達と雑談していたんだけど、少し離れた所で不思議な事をしている女性がいた。
何が不思議かというとその女性が近くにいる人に男女問わず片っ端から声をかけており、何かを話すとその相手は手や首を横に振っていた。
その女性は同じ大学の中国人留学生で、顔は少し前に話題になった”香港の民主の女神”とか呼ばれてる周庭って女性に似ていたと思うから名前は”テイさん”にしておく。
テイさんのそんな姿を見て
「(何してんだアリャ?)」
と思っているとついに俺達に声をかけてきた。
「スミマセン」
「はい?」
「アナタ、クルマ、モテマスカ」
「え?」
「クルマ、モテマスカ」
初めてテイさんと話したけど、けっこう聞き取りにくい日本語だった。
「車?」
「ハイ、モテマスカ?」
「いや、持ってるけど…」
「オネガイ、デス。ノセテ、クダサイ。」
話を聞いてみると、テイさんはゼミか何かで大学から少し離れた施設に行かなければいけないけど、
そこに行くバスに乗り遅れてしまい次のバスを待っていたら遅刻確定なので、大学内の誰かに車で送ってもらえないか片っ端から声をかけていたそうだ。
俺はこの日は車で来てたんだけど友達と出かける予定だったから断る気でいた。
でもテイさんはかなり困っているようで見かねた友達が
「俺はここで待ってるから送ってやれば?」
と言ってきたのでテイさんを送ってあげる事にした。
テイさんは
「アリガトゴザイマス!アリガトゴザイマス!」
と大喜びだった。
送っている車内でも感謝されまくり、聞き取りにくい日本語で色々と話してきた。
詳しい事情は分からないけど、どうやらこれから行く施設の場所に遅刻するとその単位を落としてしまうかもしれないそうだ。
「(なるほど。だからあんなに困っていたのか…)」
話をしている内に目的の施設の駐車場に到着。
時計を見るとあと10分でなんとかセーフ。
テイさんの話を聞いている内に俺も焦ってきてたから一安心した。
するとテイさんが
「オレイ。オレイ。」
と言いながらバッグから財布を取り出した。
「いやいや、金なんて…」
と言おうとしたら財布の中身が見えちゃったんだけど、札が一枚もなくて小銭入れからジャラジャラ音がしてた。
テイさんはバツの悪そうな顔してた。
「だから金はいらないよ。」
「デモ、オレイ、シナキャ…」
義理人情に厚い女性なのかテイさんは全然折れない。
でもお礼を受けようにも小銭ではお互いに何か変な感じがして困った。
こんなやり取りをしてたら残り時間もあと5分を切った。
仕方がないので俺はテイさんに頬を見せて指でチョンチョンとしてみせた。
不思議そうな顔をしたテイさんに俺は
「キスミ~」
とキスを要求した。
もちろん冗談だったし、軽いセクハラで逃げられても別に良かったし、してくれたらしてくれたでラッキーだと思ってたんだけど、テイさんは
「Oh!」
と言って
「○△×□○×□△×□×□○△×□」
と先程の日本語とは比べ物にならない程に流ちょうな英語で何かを言いながら俺の顔を両手で掴むと、正面に向けてキスを口にしてきた。
唇を離すとニコリと笑い
「○△×□○×□△×□×□○△×□」
とまた英語で何かを言って
「Thanks!」
と最後だけ何とか聞き取れた言葉を最後に車から降りて施設内へ走っていった。
俺はしばらく動けなかった…
だって俺のファーストキスだったんだもの…
中学時代は彼女出来なかったし高校は男子校だったから、これまで女っ気のない人生を送ってきた童貞なんだもの…
だから不意に訪れたファーストキスに顔が熱くなってたのが分かった…
唇に触れてたのは1秒もなかったし、感触もほとんど分からなかったけど
「(女の子とキスした!女の子とキスした!)」
と俺の頭の中はお祭り騒ぎだった。
このテンションのまま運転したら事故りそうだったから、気持ちを落ち着かせて大学に帰ると友達が俺を待っていた。
「お~間に合った?」
と聞いてきた友達にこのファーストキスの感動を伝えたかったんだけど、友達には俺は高校時代に初体験を済ませたと嘘ついてて、
この感動をそのまま伝えたら俺が童貞である事がバレそうだったから
「まぁギリだったけどな~」
と何てことない素振りだけしてキスの事は友達には黙ってた。
家に帰って1人でいるとテイさんとのキスを思い出して布団にゴロゴロしてた。
でも何でテイさんがキスを頬じゃなくて口にしてくれたのかが分からなかった。
その答えに辿り着くためのヒントはテイさんが言っていた英語だと思う。
そう思うのは俺の
「キスミ~」
なんて中学生が言うようなカタカナ英語がキッカケのように感じたからなんだけど、それがテイさんにとってどれだけの意味があったのかは分からない。
今思えばそんなワケないと思うけど、当時はもしかしたら
「実は前からあなたの事が好きだったの♡」
みたいな内容かもしれないとか思ってた。
そんな妄想をしちゃうのはテイさんの英語が理解出来なかった事からくるものだから、自分の英語力の低さを随分と嘆いたね。
でもこれがキッカケで俺は英語をイチから勉強し始めて、今ではTOEICでけっこうな点を取れるようになったし、英語バリバリの外資系企業で働いてるから人生って分からんもんだね。
今の自分の原点を作ってくれたテイさんには感謝してるけど、あの時言ってた言葉は未だに分からないんだよね。
元々そんなに見かけない人ではあったけど、あの日からテイさんを見る事はなかったからね。
もう一度言ってくれれば絶対に理解出来る自信があるんだけどな…
だから仕事で中国人女性と英語で話す事があるんだけど、その度にその時の事を思い出すんだよね。
別にテイさんとどうこうなりたいとかは思ってないんだけど、もしいつかどこかでテイさんに会えたら、あの時何て言ってたのかを教えて欲しいんだよね。
そんな思い出話でした。
これを読んでいるみんなに言っておきたいのは
「語学の勉強はちゃんとしておいた方が良いよ」
って事。
もしかしたらこの先の人生で俺みたいな事があって、その時に相手の言葉を理解出来たらその後の自分の人生を大きく変えるキッカケになるかもしれないからね。
少し時間があったから書いてみたけどこのサイトっぽくない話でごめんね。