雪江です。
神戸に来て、先輩と会ってから、なんとなくこうなる予感はしていた。今日ぐらいいいかな…今日だけは旦那もしがらみも忘れます。私もいい大人。怖い気持ちもあるけど、踏み出すことにする。一晩だけ楽しもう。一晩だけなら…いいわよね、パパ。
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「雪、分かってる?…今の状況。酔って覚えてないってのと、途中で目が覚めたみたいに拒否されるのだけはいやだから。」
「うん…分かってるよ…記憶飛ぶぐらい酔ってないし…大丈夫」。
酔い醒ましに熱いシャワーを浴びる。廊下で聞いたあの声のことは私も先輩も敢えて口にしなかった。そんなことはもうどうでも良かったの。だんだんと酔いが覚めてくる中、「これで良かったのかな?」と自問自答したが、結局はK先輩の待つベッドへと身体を滑り込ませた。
「いいのか?雪。」
「迷わせないで…いいの…私が決めたことだから。」
そのとき壁がドンドンと鳴り、隣の部屋、つまりS君の部屋から美香の喘ぎ声がはっきりと聞こえてきた。
「あっ、あああん、あっ、あああん、、いい、いい、もっと、もっと、いいわ、いきそう、イク~」。
壁はドンドンと何かを打ち付けるような音が鳴り、ベッドのギシギシと刻む音すら聞こえてくる。壁際にセッティングされたベッドが壁を打ち付けているのだろう。一瞬、声が止まり静かになったが、すぐに快感に喘ぐ美香の悦びの声が壁を伝わって聞こえてくる。
「あっ、だめ、あああん、いいわ、いい~」。
K先輩はその声をじっと聞いているようだった。
「美香と修二はもうお楽しみ中なんだな。それにしても美香っていい声出すんだな…いい女だよな、美香って。」
そう言った後で先輩は気まずそうに一つ咳払いをして、
「それにしても、ここのホテルどうなってんだよ。壁といい、ドアといい。薄いな~丸聞こえやん」。
「先輩…美香と寝たでしょ。」。
私は先輩の目をまっすぐ見つめながら呟いた。先輩の目が泳ぐのが分かった。
「雪…どこまで知って…る?」
「美香から聞いてます。先輩と食事に行ったこと、そして自然と成り行きでセックスしたこと、そしてある時に関係を切ったこと。美香と私は親友です。全部、聞いてます。美香って、どことなく抜けているように見えて、実はとっても頭が良くて、自制心のある子なんです。美香はいつもこう言うんです。」
続けさまに、
「恋愛はどちらかが嫌いになったらもう終わり。たとえ私が好きな人にふられたとしたら私はもうその時点で諦める。絶対に追っかけてはダメって自分に強く言い聞かせるの」って。
美香が今日もこうして、無理なお酒を飲んで、記憶飛ぶぐらい酔って、S君とエッチしてるのも、多分、先輩への一つの当て付けだと思います。気丈な振りしてますが、美香はまだ先輩のこと、心のどこかに引っ掛かってます。」
再度、私は言葉を続ける。
「先輩、知ってますか?美香、来年あたり、結婚します。相手はお見合いで知り合ったお医者さんらしいです。もう今となっては、先輩と美香との関係に嫉妬心なんて一ミリもありません。これは本心です。私が結婚してからの話なんですから。]
大事なのは未来です。過去は振り替えっても仕方ないことです。これからは、私は美香の結婚を心から祝福するつもりです。だから、先輩も美香の幸せを祈ってあげてくださいと心の中で願った。
そういうと、何だか涙が出てきた。美香の気持ちを思ってのことだろうけど、何の気持ちか分からないまま、なぜか私は肩を震わせて泣いていた。
(続)