震災の後、家に帰れない秘書のお姉さんがうちにお泊りして

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震災の後、ボクたちは自分たちの家を目指し、ひたすら歩いていた。

交通は麻痺し、通信手段も遮断されていて、できることと言えば自分の足で歩くことぐらいだった。

そのとき、ボクは会社に入って二年目で、専門が化学系だったことからラボに配属されていた。

ガタガタとテーブルの上のフラスコやビーカーが揺れ始め、次の瞬間には大きな揺れが襲ってきた。

同期の佐倉がテーブルの下に潜り込み、声も出せずにいた。

目が合うと彼女は手招きをして、ボクにも下に潜り込むようメガネの奥の少し怯えた目が告げていた。

何かが床に落ちて、ガラスの割れる音がしたかと思うと、どこかで女性社員の悲鳴のような声が聞こえた。

ボクも慌ててテーブルの下に潜り込んだ。

防災訓練は受けていたのに、結局それ以外のことは何もできなかった。

ヘルメットがどこかにあるはずなのに、どこにあるのかわからなかった。

揺れが漸く収まって、テーブルの下から這い出ると、研究室の中は荒れていた。

本棚からは、資料や本が床に落ちて散らばっていた。

塗料と混ぜて使う薬物の入ったビンだけは、扉のついたガラスケースに収められてのがせめてもの幸いだった。

「凄かったね」

佐倉がテーブルの下から這い出て来ながら言った。

ボクは、それに頷くことしかできなかった。

「おい、外へ出るぞ」

所長の誘導の下、ボクたちは階段を使って地上階に降り立つと、ラボのビルを出て駐車場へと集合した。

「怪我人はいないか?」

先輩たちが点呼を取り始め、ボクと佐倉は顔を見合わせるしかなかった。

幸いにも、怪我をした人はいなくって、ボクたちはホッと胸を撫で下ろした。

携帯を取り出して、情報を集めようとしたけれど、回線が混雑しているのか、ネットには繋がらなかった。

「森本くん、ネット繋がった?」

佐倉の問いに、ボクは力なく首を横に振った。

顔を上げるとラボのお偉いさんたちが集まって、何かを話し合っている。

情報もないままに、時間だけが過ぎていく。

やがて、お偉いさんたちの中の一人が、駐車場に集まった社員に向かってこう告げた。

「本日は、これで業務終了とします」

別の人が続けて言った。

「うちに帰りたい人は、上司に断ってから会社を出るようにしてください」

陽が落ちるまでには、まだ時間があった。

研究所に留まるか、うちに帰るか、ボクは迷っていた。

明るいうちには無理だとしても、歩いてでも今日中には家にたどり着けるかもしれない。

「佐倉さんはどうする?」

聞いてみると、佐倉はきっぱりとボクにこう言った。

「私、本社に行ってみる」

「えっ?電車が動いているかどうかもわからないのに?」

おそらく街は混乱していて、タクシーもきっと拾えないだろう。

それでも佐倉は言った。

「うん、行くだけ、行ってみる」

佐倉には、本社に好きな人がいると、誰かから聞いたことがあった。

こんなとき、自分には心配する相手がいないのは、何だか寂しい気がした。

佐倉がちょっと羨ましかった。

「森本くんは、どうするの?」

どうしようか迷ったが、ボクは漸く決断し、それを告げた。

「ボクは、うちに帰るよ」

「そう。それじゃぁ、お互い、気をつけてね」

「うん、それじゃ」

門を出ると、佐倉は本社へと続く大通りに向かって小走りで駆け出して行った。

白衣姿の佐倉は、裾が棚引いていて、何だか映画のワンシーンのようだった。

余震が続いていて、研究所のビルには戻らないように言われている。

だから、ボクたちは白衣姿のまま、それぞれの目的地へと向かうことになった。

ボクは、佐倉と反対の方角へと歩き出したが、駅へ向かう途中で、定期入れを持っていないことに気がついた。

財布もカバンの中に入れたままだった。

取りに戻ろうかとも考えたが直ぐに諦めた。

戻ってもどうせビルには入れない。

家の鍵と小銭入れだけはズボンのポケットに入っていたので、そのまま駅へと向かうことにした。

果たして、駅は人ごみでごった返していた。

電車の運行は全て止まっていて、駅員さんから状況を聞きだそうとたくさんの人が詰め掛けていた。

そのときボクは、人ごみの中に、どこかで見かけたことのある後姿を見かけた。

「田之倉さん?」

ボクの声に振り向いた女性は、紛れもなく、秘書の田之倉涼子さんだった。

「社長になると、あんな綺麗な人が秘書についてくれるんだなぁ」

入社式の後で、同期の連中とそんな会話を交わしたのを思い出した。

二十代後半だと噂で聞いたことがあったが、ボクと同じか、精々ひとつかふたつ違いにしか見えない綺麗な人だった。

「森本くん・・・」

田之倉さんが大きな目を見開いて驚いた表情をして見せて言った。

けれどもその大きな瞳は、直ぐにいつもの優しい目に戻っていた。

そんなことよりも、田之倉さんが、ボクなんかの名前を覚えていてくれたことがちょっと驚きだった。

けれども、そのような話をしている状況ではなかった。

「田之倉さんが、どうしてこんなところに?」

尋ねると、田之倉さんは事情を説明してくれた。

「社長のお使いで、ラボの所長のところに来ていたの」

ボクはそれに頷いた。

「ラボを出たところで、地震に遭ってしまって・・・」

事情は分かったが、だからといって何かをしてあげられるわけでもなかった。

顔を見合わせていても電車が動き出すわけでもなく、ボクたちは途方にくれた。

暫く様子を伺っていたけれど、電車が動き出す気配は一向になくて、ボクは決断のときを迫られた。

「ボクは、歩いて帰ろうと思いますけど、田之倉さんはどうされます?」

「私のうちは、歩いて帰れる距離ではないの。このまま待ってみるわ」

普段なら、田之倉さんと一緒にいたいと思うところだろうが、そんな余裕はなかった。

「そうですか。では、お気をつけて」

「森本くんも気をつけてね」

胸の前で小さく手を振る田之倉さんに見送られて、ボクはその場を後にした。

けれども、五分ほど歩いたところで、ボクの足は田之倉さんのもとへと引き返していた。

「田之倉さん!」

ボクが戻ってきたのを見て、田之倉さんは少し驚いていた。

でもすぐに、懐かしい人にでも再会したような優しい表情をしてくれた。

「どれだけ時間がかかるか分かりませんけど、よかったら一緒に来ませんか」

憧れの先輩と、こんなところで巡り合ったのも何かの縁だと思って、ボクは思い切ってそう言ってみた。

田之倉さんは、少し考えていたみたいだった。

けれども、すぐに頷くとこう言った。

「そうね。このまま待っていても仕方がないわね」

ボクは田之倉さんの決断を促すように頷いた。

「方角も一緒だから、ご一緒させてもらっていいかしら」

その返事を聞いて、ボクは心の中で自分の勇気を称えた。

ボクの白衣姿に対して、田之倉さんは上下とも黒のスーツ姿だった。

少し高めの黒いヒールを履いていたので、歩きにくそうだった。

けれども、靴を売っているお店など見当たらず、気遣ってあげる余裕もなくて、そのまま歩き出した。

あったとしても、買うお金は持っていなかったのだけれど。

歩きながら、ボクと田之倉さん少しずつ話をし始めた。

最初は地震の話だったけれど、線路沿いに何時間も歩いているうちに、田之倉さんは自分のことも話してくれるようになった。

「私には、妹がいるの」

当然ながら、初めて聞いた話だった。

「森本くんは?」

「ボクは一人っ子です」

「そう。彼女は?連絡がつかなくて心配じゃない?」

「そんな人いませんよ」

そう言うと、田之倉さんは、笑みが零れるのを堪えるように前歯で下唇を噛むような表情をして見せた。

そんな気がした。

けれども、ボクの思い過ごしかもしれない。

何といっても、普通の状況ではないのだから。

「田之倉さんは?」

聞き返してみると、田之倉さんの返事も同じだった。

「私、モテないから」

「そんなこと、ないでしょう?」

そう言うと田之倉さんは少し自嘲気味にこう言った。

「こういうお仕事をしているとね、誰も寄り付かないの」

「そうなんですか?」

「ヘタなことをして、社長に睨まれたら終わりだし・・・」

確かにそうだと思った。

「社長秘書なんて、肩書だけで虫よけスプレーを持って歩いているようなもんなんだから」

それを聞いたボクは、思わず笑ってしまった。

すると、田之倉さんもつられるようにして笑った。

「・・・それに、朝早くて夜も遅いから、出会いなんかなくて・・・」

スレンダーな体型がモデルみたいで、肌が白く、アーモンドアイの美人だから、彼氏がいて当然だと思っていたのに、意外だった。

田之倉さんの歩くペースに合わせながら、ボクは自分の歩調を合わせて歩き続けた。

話をしているうちに少しだけ心の余裕も出てきた。

けれども道のりは遠く、陽が落ちても半分くらいのところにまでしか来ていなかった。

その上に、腹が減ってきた。

「何か食べましょうか」

通りがかったコンビニに入ってみたものの、食料は何も残っていなかった。

品物を補給する物流も止まってしまっているのだろう。

売り物のないコンビニを見るのは初めてだった。

「何もありませんね」

顔を見合わせて空しく笑うしかなかった。

お店の人に文句を言うわけにもいかず、ボクたちは力なく店を出ると再び歩き始めた。

そんな時に開いている食べ物屋さんは、一軒もなかった。

途中、売り切れランプが並んでいる中で、あまりおいしくなさそうなジュースのランプがひとつだけ「販売中」になっている自販機を見つけた。

ボクは小銭入れから百円玉と十円玉を取り出して、投入口に滑り込ませた。

ボタンを押すと、ゴトンと音がしてペットボトルのジュースが出てきた。

同時に、唯一残っていた「販売中」のランプが「売り切れ」に切り変わった。

田之倉さんは足が痛そうだったので、ボクたちは公園のベンチに座って少し休憩をとることにした。

「何も無いよりましですよね」

そう言って田之倉さんにペットボトルを差し出した。

「私は後でいいから、森本くん、先に飲んで」

お互いに譲り合っていたのだけれど、ボクが折れて先に飲ませてもらった。

飲み口に唇が当たらないように気をつけた。

最後に残っていた一本なだけあって、そのジュースは不味かったが、喉の渇きを癒すことはできた。

三分の一ほどを飲んだところで、田之倉さんに差し出すと、田之倉さんは白い喉を見せてゴクゴクとジュースを飲んだ。

田之倉さんの唇が飲み口に当たっているのをボクは横目で見ていた。

「ありがとう。生き返ったわね」

ペットボトルをボクに返しながら言う田之倉さんは、少し元気を取り戻したようだった。

「もういいんですか?」

頷く田之倉さんを見て、ボクはペットボトルに口をつけると残りのジュースを飲み干した。

「間接キスだ・・・」

我ながら、子供じみた発想だと思ったが、それがその時の正直な気持ちだった。

悲惨な状況の中、一服の清涼剤とは、将にそういうことを言うのだろう。

お蔭で気力が少し回復し、ボクたちはベンチから腰を上げた。

しかし、ふと気がつくと、田之倉さんの表情は再び曇っていた。

「足が痛いんですか?」

尋ねると、田之倉さんは辛い表情を誤魔化すように首を横に振ると、無理に笑って見せた。

「靴を脱いでみてもらえますか」

再び田之倉さんをベンチに座らせると、田之倉さんは素直にヒールから足を抜いて見せた。

辺りが暗くなっていたのと黒いストッキングで判り難かったが、田之倉さんの足は、爪先にも踵のところにも血が滲んでいるようだった。

「これじゃ、痛いですよね」

「ううん、大丈夫」

無理に笑って見せる田之倉さんが不憫だった。

直感的に、その足で歩き続けるのは無理だとも思った。

けれどもこのままでは、公園で野宿になってしまう。

田之倉さんを誘った以上、ボクは何とかしなければと焦っていた。

田之倉さんをベンチに残して、ボクは公園を出た。

通りかかった車を止めて、ボクのうちの近くまで乗せてもらえないかと、頼みこんだ。

普段のボクなら、そんなころはできなかっただろう。

それくらいボクは切羽詰まっていて、必死だった。

「うちの近くまで乗せて言ってくれるそうです」

ベンチに座ったままの田之倉さんのところに戻ってそう言うと、田之倉さんは驚いていた。

「森本くん、勇気あるのね」

「ハハハ、何も考えて無かったです」

田之倉さんに褒められて、ボクはちょっとだけテンションが上がった。

通りかかったのは、その辺りに住んでいるというおばちゃんで、普段なら見知らぬ人を乗せてはくれないだろう。

ラッキー以外の何ものでもなかった。

それに、おばちゃんは自分たちに身に降りかかっている惨事を誰かと話したかったのかもしれない。

おばちゃんは饒舌で、ボクたちが車に乗り込むと、目的地に到着するまで、地震の時の模様を一人でしゃべっていた。

車を降りる際に、田之倉さんは千円札を何枚か取り出したティッシュペーパーに包むと、固辞するおばちゃんに渡し、連絡先を聞いていた。

秘書らしい気配りに感心している間に、気がつくと車はボクたちを置いて走り去っていた。

田之倉さんは、最初、自分のうちに帰ると言っていた。

「ここまで、ありがとう」

「田之倉さん、その足では無理ですよ」

「でも・・・」

「それに、こんな街中で遭難でもしたら、洒落にならないですよ」

「遭難って・・・」

ボクの言葉に笑ってみせると、田之倉さんは少し考えた末、うちに来るといってくれた。

「人畜無害ですから」

そう言って、ボクは田之倉さんに背を向けるとしゃがみ込んだ。

「田之倉さん、もう少しですけど、乗ってください」

「大丈夫よ」

田之倉さんは、そうは言ったものの、歩き始めるとやはり痛かったらしく、結局ボクにおんぶされることに同意した。

田之倉さんの身体はとても軽かった。

お尻や太ももにできるだけ手が触れないように、腰の後ろで手を組むようにして、ボクのアパートまで田之倉さんをおぶって歩いた。

その一方で、背中に当たる微かに柔らかい膨らみを感じると、不埒なボクは背中に全神経を集中させていた。

エレベーターは止まったままだったけれど、ボクのうちは三階だったのがせめてもの救いだった。

体力に自信のないボクが田之倉さんを背中に負って階段を上がるのは、それが限界だったからだ。

うちについてみると、思っていたほど家の中は、散らかってはいなかった。

水道やガスも通っていたし、電気も点いた。

夜の十時を回っていたので、ボクは早速お風呂にお湯を溜め始めると、台所に戻って何か食べるものが無いか探した。

インスタントラーメンの袋がふたつだけ残っているのを見つけた。

鍋に水を張って火にかけると、田之倉さんはソファベッドに座ってテレビのニュースを見ていた。

「随分ひどいことになっているみたい・・・」

テレビに視線を向けたまま、田之倉さんが言った。

そこには、日本を襲った惨事を伝える映像が、繰り返し流されていた。

「卵でも入れようかと思ったんですけど、停電していたかもしれないので」

ボクは田之倉さんの分だけラーメンを丼に取り分けて、自分は鍋のまま啜り始めた。

田之倉さんは首だけでボクに会釈をすると、自分も割り箸を割って、麺を一口すすった。

「美味しい!」

「きっとお腹が減っているからですよ」

「ううん、インスタントラーメンでも作る人によって味が違うもの」

「田之倉さんがインスタントラーメンを食べることなんてあるんですか」

「あるに決まっているでしょう。私は庶民よ、庶民」

そう言って、頬を膨らませて怒ったふりをする田之倉さんの顔は何だか可愛らしかった。

ラーメンを啜る田之倉さんの姿なんて、こんなことでもなければ絶対に見られないと思った。

気づかれないように、ボクは田之倉さんの方をチラチラと盗み見ていた。

それに、インスタントラーメンの作り方についても、麺をお湯に投入するタイミングと茹でる時間、スープの素を入れるタイミングによって美味しさが全く違うと思っていた。

そのことを、田之倉さんがわかってくれたような気がして嬉しかった。

家に着いてからも何度か余震が続き、落ち着かなかった。

そのうち、風呂が沸いたという合図の音が聞こえた。

「田之倉さん、先に入ってください」

「ううん、森本くん、先に入って」

その日、何度目かの譲り合いになったけれど、夜も遅くなっていたのでボクは先に入らせてもらうことにした。

田之倉さんが入ったときに、垢が浮いていたりしては嫌だったので、結局ボクは湯船には浸からずに、シャワーだけで済ませてしまった。

「お先でした」

自分の家の風呂だけど、一応、そう言って田之倉さんに声を掛けた。

「大きいタオルと小さいタオルを出しておきました。それとパジャマは無いので、よかったらボクのTシャツを使ってください。一応、洗ったばかりなので」

そう言うと、田之倉さんはニッコリ笑って、小さく会釈をするようにして言った。

「お気遣い、ありがとう。有り難く使わせてもらうわ」

そう言って、脱衣所の滑り戸をゆっくりと閉じると、中から衣服を脱ぐ衣擦れの音が漏れてきた。

ボクは慌てて、テレビのある部屋に移ってニュースを見ていたが、お風呂場の方が気になって、何も頭の中に入ってこなかった。

小さくシャワーを流す音が、漏れ聞こえていた。

その時、再び大きな余震があった。

本震に次ぐくらいの大きな揺れだった。

脱衣所で何かが床に落ちる音が聞こえたかと思うと、バスタオルを身体に巻いた田之倉さんが飛び出してきた。

髪の毛を洗っていたらしいく、頭にはシャンプーの泡が残ったままだった。

「あぁ、びっくりしたぁ」

「田之倉さぁん、床がビショビショなんですけどぉ」

揺れが収まると、緊張を和らげようと冗談ぽく言ってみせた。

それを聞いた田之倉さんは、床とボクの顔を交互にに比べたので、ボクは思わず笑ってしまった。

「あの・・・、田之倉さん、見えてますけど・・・」

ボクの向かいで尻餅をついたようになっていた田之倉さんの股間から黒い茂みが少しだけ覗いていた。

「ちょっと、森本くん、どこを見てるの!」

田之倉さんは脱兎のごとく、風呂場へと戻っていくと、再びシャワーの音が聞こえ始めた。

その間に、ボクはソファベッドにシーツを敷いて、クッションに枕カバーをかけると田之倉さんがお風呂から出てくるのを待った。

随分長風呂だと思ったが、ボクのTシャツを着て、濡れた髪をタオルで拭きながら田之倉さんが漸く出てきた。

「あの、ベッドは向こうの方が広いんですけど、ボクがいつも使っているやつだから、田之倉さんはこっちで寝てください」

本当は広い方を田之倉さんに使わせてあげたかったのだけれど、ベッドにはボクの汗とか匂いが滲み込んでいる気がして、ソファベッドを使ってもらうことにした。

「森本くん、きっちりしているのね」

シーツと枕カバーが整えられているのを見て、田之倉さんは感心してみせてくれた。

それから暫くは、一緒にテレビのニュースを見続けていた。

お風呂のお湯を流そうとバスルームに足を運んだら、ピカピカに磨いてあった。

「田之倉さん、お風呂を洗ってくれたんですか?」

尋ねると、田之倉さんは片目をつぶって見せて言った。

「そんなの女の・た・し・な・み」

流石、社長秘書を務める人は違うと思った。

田之倉さんは綺麗すぎて、高嶺の花だと思っていたが、何だか親近感が沸いた。

立ち振る舞いを見ていてもボクなんかでは到底釣り合わない相手だと思っていた。

でも、家の中のこともきちんとできる庶民的な一面を知ることができて、ボクは不謹慎にもその状況にちょっとだけ感謝した。

その晩は、一時間おきに余震が続き、その度に目が覚めていたけれど、歩き疲れていたせいか、明け方にはぐっすりと眠り込んでいた。

台所から聞こえる物音で、翌朝、ボクは目を覚ました。

歩き通しで、最後に田之倉さんをおぶったせいか、身体中に筋肉痛が走った。

キッチンを覗いてみると、田之倉さんはもう服を着替えて朝食の支度をしてくれていた。

「あ、おはよう」

ボクの顔を見て笑顔を見せてくれた田之倉さんは、天使のようだった。

「ボクのお嫁さんが、こんな人だったらどんなに幸せだろう」

そんな妄想を頭の中で巡らせていた。

「冷蔵庫の中のものは、一応、捨てておいたから」

ボクが眠っている間に、田之倉さんは冷蔵庫の中を片付けて、ゴミまで出してくれたらしい。

尤も、あんな後でゴミ収集車が回ってくるのか、甚だ疑問ではあったのだけれど。

「角のスーパーがね、臨時で朝から店を開けてくれていたの」

田之倉さんは、台所で忙しく動きながら朝の街の様子を実況してくれた。

ふと、ソファベッドを見てみると、シーツと枕カバーが丁寧に畳んであって、その上にボクのTシャツが乗っていた。

何から何まで完璧だった。

けれども朝食を食べ終わったら、この夢のような時間も終わってしまうのかと思うと何だか寂しかった。

「できたよ」

お盆に載せたサンドイッチとサラダとコーヒーを持って、田之倉さんがいつの間にかボクの背後に立っていた。

「そこのテーブル、片付けてもらっていい?」

田之倉さんに言われて、ボクは手早くテーブルにスペースを作ると二人でソファベッドに腰掛けた。

「美味しい!」

今度は、ボクが素直にサンドイッチの出来栄えを評した。

「ホント?嬉しい!」

田之倉さんは、ボクが感想を漏らすまで、自分はサンドイッチに口をつけないで、ジッとボクの口元を見つめていた。

「これ、うちのお母さんの得意料理なの」

パンの間には薄切りにした鶏肉のようなものにジャムが塗ってあって、これが抜群の味のハーモニーを醸し出していた。

「このチキン、美味いですね」

そう言うと、それはチキンではなくて、ターキーだと田之倉さんは教えてくれた。

「サラダも食べてね」

ボクは、至福の時を感じていた。

朝食を終えて、一緒に食器を洗って片付けている時に、ボクは思わず訊いてしまった。

「田之倉さん、独り暮らしですか」

少し間があったのだけれど、田之倉さんは優しい目をして頷いた。

「今日も電車は運休が多いですし、土曜日ですから、もう少しここにいませんか」

「何て大胆なことを・・・」

言ってしまってから、自分でもちょっと後悔したけれど、田之倉さんの反応は、予期に反したものだった。

「森本くんは、いいの?」

「勿論ですよ!」

少し食い気味に答えたので、田之倉さんはぷっと噴き出して笑った。

お昼を過ぎたころ、田之倉さんは漸く社長と連絡が取れて、ボクも所長に家に帰っていることを告げた。

「営業の皆さんも技術の皆さんも無事だと笹倉部長から連絡があったそうよ」

笹倉部長と聞いて、いつもタオル地のハンカチで額の汗を拭っている禿げ親父の顔を思い出した。

髪の後退が著しく、最早どこまでが額で、どこからが頭なのか判別は難しかったけれど。

「森本くん、何をにやにやしているの?」

いぶかしげな表情で田之倉さんに尋ねられて、ボクはつい頭の中で想像していたことを告げると田之倉さんは笑ってくれた。

「森本くんって、面白いのね」

何でもない賛辞が田之倉さんからだと嬉しさが込み上げてきて、ボクは一層ニヤついてしまうのだった。

もともと休日で、不用意にでかけたりすることもできずに、ボクたちはその日、二人だけで一日を過ごした。

お蔭で、田之倉さんのことをもっといろいろ聞かせてもらった。

学生時代のこと、会社でのこと、家族のこと。

本当は、昔の彼氏の話とか一番気になっていたのだけれど、意気地なしのボクは聞けずに終わってしまった。

その日の午後は、会社の人との連絡がつき始めたので、安否確認に忙しかった。

「工場の香取くんと連絡がとれて、皆さん無事のようです」

田之倉さんが、社長に電話で報告をしているのが聞こえた。

同期で営業の倉木からもボクにLINEで連絡があった。

夕方になっても、田之倉さんが利用している電車の路線は止まっていて、不謹慎にもボクは神さまに感謝してしまった。

「今日も家には辿り着けそうにないわね。今日も泊めてもらえる?」

田之倉さんのその言葉を聞いたとき、ボクは天にも昇るほど嬉しくて、何度も頷いて見せた。

ボクはその晩も田之倉さんの手料理をご馳走になり、前日と同じようにボクがお風呂に入ってから田之倉さんが入った。

田之倉さんがお風呂に入っている間、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいたら、寝室の戸口から覗くようにして田之倉さんが声をかけてきた。

「森本くん、こっちで寝てもいい?」

ソファベッドは寝心地が悪かったのだと早合点して、ボクは答えた。

「あ、いいですよ。ボクは向こうに行きますから」

そう言って、寝転がっていたところのシーツを伸ばす仕草をして、枕を手に持つと田之倉さんが続けた。

「そうじゃないの。余震がずっと続いていて、不安だからこっちで一緒に寝てもいいかな」

ボクは、自分の耳を疑った。

「田之倉さぁん、そんなこと言っちゃっていいんですか?ボクだって、いつオオカミに変身するか、わかりませんよ」

冗談めかして、そんな風に言ってみたものの、田之倉さんは平然と言った。

「人畜無害なんでしょ、オオカミさん」

そう言うと、すでに持参の枕をベッドにポンと投げるようにして、洗面所へと戻っていった。

それからのボクは、心臓がバクバクして口から飛び出しそうだった。

雑誌は開いているものの、何も頭の中に入ってこなかった。

田之倉さんがボクのぶかぶかのTシャツを着て、寝室に戻ってきた。

「電気、消していい?」

そう言われて頷くと、田之倉さんはパチンと部屋の電気を消すと、ベッドに入ってきた。

暗がりの中、田之倉さんがボクの隣で横になったのが、気配で分かった。

「真っ暗だと、ちょっと怖いわね」

田之倉さんはそう言うと、枕元に置いてあった懐中電灯を点けた。

「電池がもったいないけど、点けておいていい?」

「ええ、どうぞ」

ボクの隣に、田之倉さんのシルエットが浮かび上がっていた。

あまりの緊張に、ボクはどうにかなってしまいそうだった。

静かな呼吸の音に合わせて、シルエットになった田之倉さんの胸がゆっくりと上下に動いているのがわかったが、ボクは身動きできずにいた。

「ねぇ、森本くん」

静寂の中から、ふいに田之倉さんの声がした。

「はい」

「私のこと、好き?」

「えっ?あっ・・・、はい・・・、今日はいろいろありがとうございます」

何を言っているのだ、と自分でも嫌になったが、ボクはそんな返事しかできなかった。

「会社の先輩とか、そんなのじゃなくて、女として好き?」

王手、詰み。

そんな感じだった。

好きだと言ってしまってよいものか、迷ったけれど、清水の舞台から飛び降りるつもりで答えた。

「はい」

すると、仰向けになっていた田之倉さんは身体を捻ってボクの方に向けると言った。

「私、ズルいわよね」

「えっ?」

何のことを言っているのか、皆目見当がつかなかった。

「昨日と今日、森本くんとずっと一緒に居させてもらって、好意を寄せてもらっているのは十分わかっているのに、聞いちゃった」

自信満々だと思っていた田之倉さんでもそんな風に思うのかと少し意外だったが黙っていた。

ボクが黙っていると、田之倉さんは続けた。

「ちょっと臆病になっているのかな」

「えっ?」

「私、若いころにね・・・」

「今だって、十分若いですよ」

何か真剣な話になりそうだったので、思わず話を混ぜっ返してしまった。

けれども、田之倉さんはそれをスルーすると続けた。

「若いころに、すごく好きな人がいたの」

そう言う人がいて当然だと思っていたけれど、田之倉さんの口からきくと、何だか心がヒリヒリした。

それでも、黙って話に耳を傾けていると、田之倉さんは続けた。

「別れて何年も経つんだけど、そのころは大好きだった」

ボクは固唾を呑んで、聞き続けるしかなかった。

「でも結局、ふられちゃった」

最後は少し自嘲気味なトーンになっていた。

「だから、男の人は、もういいかなって・・・、そう思い込もうとしてたのかな・・・」

そう言ったところで、田之倉さんがボクの方に視線を戻したので、まともに目が合ってしまった。

「私ね、森本くんのこと、ずっと見てたよ」

「ずっとって?」

「森本くんがうちの面接を受けに来た時から」

実をいうと、田之倉さんのことは、ボクも初めて面接に訪れたときから見かけて印象に残っていた。

面接の順番で、名前を呼ばれたときに返事をしたら、バッチリ目が合ってしまって、ドギマギしたのを覚えている。

二次面接のときも、三次面接のときも、それから最終面接のときも、ボクの名前を呼んでくれたのは田之倉さんだった。

その時のことを話すと、田之倉さんは少しはにかんで見せた。

「覚えていてくれたんだ、私のこと。嬉しいな」

「でも、田之倉さんは、人事部でもないのに、ずっと面接のお手伝いをしていたんですか?」

「そんなことないわよ」

「じゃあ、あれだけの面接で毎回会えたのって、凄い偶然ですよね」

そう言うと、田之倉さんの返事がそこで急に途切れた。

暫く続いた沈黙を破って、田之倉さんの声がした。

「あれって、偶然だと思う?」

「えっ?」

「私が森本君の名前を呼んだの」

「偶然じゃないんですか?」

「人事部から面接の日程を取り寄せて、森本くんが来る日だけ、お手伝いをさせてもらっていたの」

田之倉さんは悪戯っぽく舌を出して見せた。

「えっ?」

「勿論、最初の面接のときは偶然だけど」

「日程表って・・・、よくそんなものが手に入りましたね」

「私の仕事、何だと思ってるの?そんなの『社長が知りたいと言ってる』って言ったら簡単に手に入るわ」

「本当に社長は知りたいと言ったんですか?」

「言う訳ないじゃないの」

「それって、職権乱用ってヤツじゃ・・・」

田之倉さんは、一瞬、押し黙ってしまったのだけれど、次の瞬間、自分でも飽きれたように言って笑った。

「確かにそうよね」

それを聞いたボクも、つられて笑ってしまった。

「森本くんを面接会場で見かけたとき、胸がザワザワしたわ」

「でも、どうして・・・」

すると田之倉さんは、人差し指をボクの唇に縦に押し当てると黙らせた。

「それは、聞くだけ野暮でしょ」

次の瞬間、田之倉さんの人差し指と唇が入れ替わって、チュッとされた。

突然の出来事に、呆気にとられていると、田之倉さんが小声で言った。

「好きにしてくれていいよ」

それを聞いて、ボクはついに田之倉さんを抱きしめてしまった。

「柔らかい・・・」

思っていたよりも、田之倉さんの身体は柔らかで、しなやかで、思わずボクはそれを口にしてしまった。

「もっと、骨っぽい、ガリガリの女だと思っていた?」

ボクはそれに応える余裕なんてなくて、夢中で田之倉さんの唇を吸っていた。

Tシャツの上から田之倉さんの胸に手を当てると、ブラジャーをしていないおっぱいが手のひらにすっぽりと納まって、これもまた柔らかかった。

Tシャツをたくし上げようと、身体の線に沿って手を滑らせて裾を捲りあげようとしたとき、ボクの手はそこで止まった。

それに気が付いた田之倉さんは、少し言い訳をするように言った。

「下着を履き替えてないから、お風呂で洗って干しているの」

田之倉さんは、全裸の上体でボクのぶかぶかのTシャツを被っただけだったのだ。

Tシャツの裾から手を差し入れて、ぎこちなくおっぱいに触れると、ボクはもうそれだけで鼻血がでそうだった。

でも、そこから先はどうしていいのかわからなくておっぱいばかり触っていた。

その時、田之倉さんが言った。

「森本くん、もしかして、初めて?」

ボクは顔から火が出そうになったけど、懐中電灯の灯りだけだったので、田之倉さんには気づかれずに済んだのが幸いだった。

「あの・・・、違っていたら、ごめん」

田之倉さんにそこまで言われてしまうと、ボクは素直に認めざるを得なかった。

田之倉さんは天使のように微笑むとボクに聞いた。

「私でいい?」

ボクは、何度も何度も頷きながら田之倉さんの細い身体を抱きしめた。

お互いに全裸になって、いざ合体というときになって、田之倉さんが言った。

「コンドームは・・・、無いわよね・・・」

ボクが項垂れていると、田之倉さんが続けた。

「外で出せる?」

ボクは正直に答えるしかなかった。

「やったことがないので、わかりません・・・」

それに対して、田之倉さんはボクを傷つけないように、何度も頷いていた。

「そうよね、そうよね」

そう言ってフォローしてくれた。

「ねぇ、森本くん。今日は、私に任せてもらっていい?」

情けない気もしたが、一方で、どこかホッとしている自分が居て、素直に頷いた。

「そこに寝てもらっていい?」

田之倉さんは、ボクをベッドに仰向けに寝かせると、ボクに覆い被さるようにしてきた。

次の瞬間、そっと唇が覆われた。

優しいキスで、ボクは脳が蕩けだしてしまいそうだった。

田之倉さんは、ボクのパジャマを脱がせると、唇をボクの口から少しずつ胸の方へとに移して行った。

やがて唇は、ボクの股間へと近づいて行った。

田之倉さんがタマタマから竿の先まで舌で舐め上げてくれたあと、ボクのジュニアは柔らかく温かいものに包まれた。

ゆっくりと、ボクのペニスが田之倉さんの口を出たり入ったりしていた。

あまりの気持ち良さに、ボクは危機が迫っていることを田之倉さんに告げざるを得なかった。

けれども、それを聞いても田之倉さんは、ボクを口から出すどころか、一層奥深くまで呑み込んだ。

それがとどめとなって、ボクはビクビクと痙攣しながら田之倉さんのお口の中で果てた。

「気持ち良かった?」

ボクの出したものをゴクリと飲み込んでから、田之倉さんは優しい笑顔を見せた。

小さな子供に添い寝をするように、田之倉さんがボクの隣に横たわったので、ボクは田之倉さんの形のいいおっぱいに吸い付くと、子供のようにいつまでも吸い続けた。

いつの間にか、ボクのジュニアは田之倉さんの掌に包まれていて、ニギニギされているうちに完全復活を遂げた。

「凄いわね」

田之倉さんはそう言うと、今度は自分がベッドに仰向けになって膝を立てると、両腕を突き出してボクを誘った。

「来て」

田之倉さんに導かれて、ボクは無事、田之倉さんの温かくも柔らかい膣へと愚息を挿入することに成功した。

「ありがとう」

気が付くと、田之倉さんの目が潤んでいた。

「大丈夫ですか?」

心配になって訊いてみたけれど、田之倉さんは下からボクの首に抱きついてくると、長い脚がボクの腰回りに絡みついた。

「私が、初めてなんだよね」

ボクが拙いピストン運動を続ける間、田之倉さんは熱に浮かされたかのように、ボクに何度も何度もそうやって訊いてきた。

「田之倉さん、限界です・・・」

耳元でそう囁くと、田之倉さんはボクの腰に回していた足を解いて解放してくれた。

その瞬間、ボクのペニスが弾けて、田之倉さんの平らなお腹の上にボクの迸りが飛び散った。

ティッシュを取って田之倉さんのお腹を拭うと、田之倉さんは身体を起こし、ボクを押し倒すとお口で精液に塗れたボクの股間をお掃除してくれた。

「ボクだけ、すみません・・・」

田之倉さんの肩を抱きながら言うと、田之倉さんは目を細めて首を横に振りながらボクに言った。

「ううん、私もイッちゃった」

そう言うと、恥ずかしがるように両手で顔を覆うと、ボクに背中を向けてしまった。

そんな田之倉さんのことを、ボクは純粋に素直で可愛いと思った。

彼女の背後から抱きつくようにして、ボクたちは、そのまま朝まで眠った。

目を覚ますと、田之倉さんはベッドに横になったまま、ボクの顔をじっと見つめていた。

「おはよう」

「あ、おはようございます」

甘えるようにボクがキスをしようとすると、田之倉さんはスッとベッドを抜け出すと洗面所に向かった。

耳をそばだてていると、どうやら歯を磨いているようだった。

戻ってきた田之倉さんと入れ替わりに、ボクも洗面所で歯を磨いた。

それからベッドで再びイチャイチャすると、舌を絡め合うディープキスをしてもらった。

夢のような日曜日の朝だった。

唇を離したとき、ボクは田之倉さんに言った。

「ずっと憧れていました」

「うん、そんな気がしてた」

「本当は、ボク以外にそういうヤツがたくさんいるんですけど・・・」

「そう・・・。でも、私は森本くんしか、興味はなかったわ」

「どうして、ボクなんですか?」

「それはね・・・」

田之倉さんは少し間をおいてから話し始めた。

「面接に来る学生さんはたくさんいるけど、会場のスタッフにまで気遣いができる人って少ないの」

「そんなこと、ないと思いますけど」

「森本くんは、誰にでも分け隔てなくお礼が言えてたわ」

「そうですか?」

「形だけなのか、心が込もっているのか、聞いている私たちにはすぐわかるものなのよ」

流石、秘書だと改めて思ってしまった。

「本当のことを言うと、最初は私にだけかと思っていたの」

「・・・」

「あ、ごめん。これって傲慢よね」

「いいえ、そんなこと・・・」

「でも、面接のたびに見ていたからわかるの」

田之倉さんは思い出すように言った。

「受付の娘にも、ガードマンのおじさんにも、清掃のおばさんにも丁寧だった」

ボクは、ただ自分が偉そうにふるまうのが、苦手なだけだった。

物を買って袋詰めをしてもらっただけでも

「ありがとう」

を伝えないと気持ちが悪い。

それで、必要以上にへいこらしていたように見えていることもあるかもしれないと思ったりもしていた。

けれども、田之倉さんはボクの心を見透かしたように、そのことを打ち消してくれた。

「でも、卑屈な感じには見えなくて、初めてあなたを見かけたとき、あなたが返事をするまで学生さんの名前をずっとチェックしてた」

そう言うと、田之倉さんはボクのおでこにチュッとしてくれた。

ボクは田之倉さんの身体に少し覆い被さって、キスの後、形の良いおっぱいに唇を移した。

いつまでも田之倉さんのおっぱいをしゃぶっていたくって、小さな子供のように乳房に吸い付いていた。

「今日も、ここにいていい?」

ボクが促す前に、田之倉さんは自分から言ってくれた。

その日は、会社の人との連絡も少なくなって、ボクたちはテレビを見たり、話をしたりしながら一日を過ごした。

夕方になって、田之倉さんが言った。

「さっき、妹からメールが届いたの。迎えに来てくれるって」

ボクは、ガッカリしたが、翌日からはおそらく出勤しないといけないので、引き止めるのは諦めた。

それから暫くすると田之倉さんの妹さんがやってきた。

車で迎えに来るのかと思ったら、メタルグレイの大型バイクだった。

ヘルメットを脱いだ妹さんは、お姉さんに負けないくらいの美人で、ストレートの長い髪が風に揺れていた。

「ミキ、これ大きすぎない?」

受け取ったヘルメットを被りながら、田之倉さんが妹さんに言った。

「それ、ハルのだから」

どういう意味か、ボクにはわからなかったけれど、田之倉さんは納得したのか、妙に頷いていた。

「森本くん、お世話になりました」

バイクのタンデムに跨りながら、田之倉さんが言うと、バイクは低音を響かせながら発進した。

二人の姿が見えなくなる直前、ブレーキランプが五回点滅するのが見えた。

運転しているのは、妹さんなので、ボクには関係ないと思ったが、なんだか歌の文句みたいだと思った。

二人を見送って、うちに入ったところでボクは自分の愚かさを呪った。

田之倉さんの連絡先を聞きそびれてしまっていたのだ。

お互いに、明日、会社に行くといっても、田之倉さんは本社で、ボクはラボなので、偶然を装って会うこともできない。

かといって、二年目の平社員であるボクが秘書室に電話をかけるなどということは、あり得なかった。

田之倉さんがうちに泊まってくれた痕跡を探そうと、ボクは部屋中を探し回ったが、部屋の中は週末前と比べて遥かに掃除が行き届いていて、当然のことながら浴槽もピカピカだった。

ベッドのシーツも洗濯してくれていた。

辛うじて残っていた痕跡といえば、田之倉さんはボクの汚れた白衣を洗ってバスルームに干してくれていたことぐらいだった。

それを見たボクは、田之倉さんのことが恋しくてたまらなかった。

憧れの人がほんの数時間前まで一緒に居たなんて、何だか信じられない気持だった。

その晩、ボクは床についても、なかなか眠れなかった。

「これまでのことが、田之倉さんの気まぐれだったらどうしよう」

「次に顔を合わせたときに、冷たい目をされたらどうしよう」

そんな情けない、ネガティブなことばかり考えていた。

反芻を繰り返すように、ただひたすら田之倉さんと過ごした週末の出来事を頭の中で再生していたら、いつの間にか眠っていた。

ダイヤの乱れはあったものの、月曜の朝は何とか出社できた。

遅刻してきた社員もいたけれど、殆どが無事に出社していた。

「あれ?森本くん、何だか雰囲気が変わった・・・」

同期の佐倉に会うなり、彼女に言われた。

こんなときの勘だけは鋭い。

週末に何が起こったかなんて、佐倉には想像もつかないだろう。

ボク自身、夢ではなかったのかと思ってしまうほどだから。

佐倉の勘の良さをスルーして、ボクは質問に質問で答えた。

「金曜日、本社には無事に辿り着けたの?」

すると、佐倉は誰かに話を聞いてもらいたかったのだろう。

ここぞとばかりに話し始めた。

ボクは自分の身に起こったことを誰にも言えない代わりに、佐倉の話を聞いてやった。

一気にしゃべった後、佐倉はこう締めくくった。

「カチョーに営業車で家まで送って貰っちゃった」

嬉しそうにぺ◯リと舌を出しながら、自慢げに話す姿を見て思った。

「カチョーみたいなオジさんのどこがいいんだろう?」

けれども、浮かれている佐倉の話に水を差すのは悪いと思って黙っていた。

第一、カチョーには何の恨みも無い訳で、寧ろ社内では好きなタイプの先輩だった。

悶々としながら一日の仕事を終えて、携帯電話を見てみると、LINEのメッセージが入っていた。

「今日も会えますか?田之倉」

ボクは、自分の目を疑った。

どうして、ボクの携帯にLINEを送ってこられたのか、皆目見当もつかなかった。

その一方で、人事部を味方につけている田之倉さんに不可能はないのかもしれないと思ったりした。

「勿論です」

速攻で返すと会社からうちへの途中にあるターミナル駅で落ち合うことにした。

「お待たせして、ごめんなさい」

息を切らして待ち合わせ場所に来てくれた田之倉さんは、顔が少し上気していて、色っぽかった。

週末に来ていた黒のスーツとは打って変わって、その日の田之倉さんは赤いダウンジャケットを身に纏っていた。

三寒四温で温かくなりつつあるものの、まだまだ寒い日が続いていた。

「そういう色の服も着るんですね」

普段の田之倉さんがどんな色の服を着ているのかしらない癖に、その数日の印象だけで言ってしまった。

でもそれは、あながち間違いではなかったようだった。

「うん、妹のを借りてきたの。先週着ていたコートは、汚れちゃったから」

「妹さんって、あのバイクの?」

「ええ、それより何を食べに行く?」

聞かれて、ボクは返答に詰まった。

初体験のお相手が目の前に居て、その人との初めてのデートなのに、気の利いた店ひとつ知らなかった。

ボクは自分の経験値の低さを呪った。

「ねぇ、ラーメンと餃子はどう?美味しいところ、知ってるの」

イタリアンかフレンチのイメージで、百歩譲って和食であっても懐石料理の雰囲気の人なのに意外だった。

店構えは新しくないものの、小奇麗にしていて気持ちのいいラーメン屋のカウンターにボクたちは座った。

「あの・・・、田之倉さん、無理にボクに合わせてません?」

「もう!私は庶民だって言ってるでしょう」

わざと頬を膨らませたふりをした表情が可愛らしくて、クラクラした。

後から知ったが、田之倉さんは無類の麺類好きだった。

田之倉さんは、ラーメンと餃子を二人前ずつ注文すると、瓶ビールを一本追加した。

「あの・・・、ボクの連絡先、よくわかりましたね」

一応、ボクは聞いてみた。

「そんなの朝飯前よ」

美人な田之倉さんが、妙に男前に見えた。

それから、暫くはお互いにその日あったことを話し合って、まるで恋人同士の会話のようだった。

話が一段落したところで、ボクは田之倉さんに言った。

「あの・・・、誰にも言ってないので、安心してください」

「何を?」

「いや・・・、その・・・、ボクとこうなっちゃったこと・・・です」

すると田之倉さんは、大きくため息をついて見せると言った。

「そんなことだと思った・・・」

「どんなことですか?」

田之倉さんは、ラーメンを啜っていた丼をテーブルに置くと、ボクの方に少し身体の向きを変えると言った。

「私、もうすぐ三十路だけど、誰でもいいって女じゃないよ」

「そ、そんなこと、微塵も思っていないです」

ボクは、慌てて言った。

「うーん、どう言ったら、わかってもらえるのかなぁ・・・」

少し考えるようにしてから彼女は言った。

「森本くんが気を使って内緒にしてくれた気持ちは有り難いんだけど・・・、私は、言っちゃったよ」

「何をですか?」

「私たちのこと」

「誰にですか?」

田之倉さんは少し目を細めると言った。

「妹に自慢しちゃった」

「オープンなんだなぁ」

そうも思ったが、姉妹というのはそんなものかとも思った。

ところが、次に雷の直撃を食らった。

「あと、社長に」

ボクは啜りかけたラーメンを思わず吐き出して、持っていたお箸を思わず落としてしまった。

「えっ、えー!?しゃ、社長って、うちの社長にですか?」

田之倉さんは、さも当然と言わんばかりに頷くと、新しい割り箸を取ってボクに渡してくれた。

「いや、あの、何て言ったら・・・、えーっ!?」

田之倉さんの告白は衝撃的過ぎて、ボクは狼狽えるしかなかった。

透明のプラスチックのコップに注いだ水を一気に飲み干して、ボクは漸く口を開いた。

「な、何を、どうしたら・・・、社長とそんな話になるんですか?」

すると田之倉さんは何事もなかったかのように、ラーメンに向き合うと、麺を少しお箸にとって啜り始めた。

「田之倉さん?」

田之倉さんは、視線を丼からボクに移すとサラッと言ってのけた。

「『ちゃんと帰れたのか』って、聞かれたから」

「聞かれて、どう答えたんですか?」

「ラボの森本くんちに泊まりましたって」

終わった・・・。

特に野心は抱いていなかったけど、ボクのサラリーマン人生は、そこで終わったと思った。

ボクが項垂れていると、田之倉さんが尋ねた。

「私とのこと、ただの遊びだった?」

ボクは、顔を上げて田之倉さんを見ると、何度も首を横に振った。

「そんな訳ないじゃないですか。ボクだって、遊びで童貞を捨てたりしませんよ」

言ってしまってから、周りを見渡すと、店内の全員が箸を止めてボクの方に注目していた。

恥ずかしくなったボクは、小声になって田之倉さんに言った。

「ずっと憧れてた人ですから、浮ついた気持じゃないです。でも、普通、言っちゃいます?社長に」

それを聞いた田之倉さんは、餃子をひと口頬張ったあと、説明してくれた。

「私、父の仕事の関係で海外にいて、そのときから、社長の秘書をやっているの」

聞けばこうだった。

田之倉さんが海外に住んでいたころ、当時海外の子会社の社長を務めていた今の社長の秘書になったらしい。

社長が本社の社長として帰国した時に、田之倉さんも一緒に日本に帰ってきて今の仕事に就いたのだと言う。

「妹のミキは、大学に入るために先に帰ってきていたんだけど、私と家族は向こうに残っていたの」

道理で清楚な見た目と違って、前衛的というか、日本人離れした言動がチラチラ見え隠れすると思った。

「だから、社長は第二の父親みたいなものよ」

「父親・・・」

「・・・ちょっと違うかしら・・・、距離の近い親戚のおじさんっていうか・・・、何でも話せてしまうの」

「何でもって・・・」

ボクはほとほと参ってしまった。

「こういうのをオープンっていうのだろうか・・・、それより・・・」

話の展開に、ボクはどうしても気になることがでてきてしまった。

「あの、田之倉さん・・・」

「なぁに?」

田之倉さんは、既にボクの聞きたいことを予見している目だった。

モジモジしていると、焦れた田之倉さんが言った。

「社長のお妾さんですか?」

「え?」

「そう聞きたいんでしょう?」

「いえ、そんな、ストレートには・・・」

「じゅあ、変化球でも婉曲表現でも何でもいいから、言ってごらんなさい」

「いえ、ストレートのままで、結構です」

ボクは返事が怖くて、男の癖に上目遣いになって田之倉さんの顔を盗み見た。

「違うに決まっているでしょう!」

目が合った瞬間に、そう言われた。

ボクはお皿に残った最後の餃子を口に放り込んで、ラーメンを思い切り啜った後、グラスに残ったビールを一気に喉に流し込んだ。

「これからどうする?」

店を出ると腕を組んできた田之倉さんが訊いてきた。

「こうなったら、やってやろうじゃないの」

ボクは心の中でそう呟くと、ホテル街の方向へと歩き出した。

「それで、社長は何て・・・」

ボクはホテルで田之倉さんとベッドに倒れこむと、聞いてしまった。

「まだ、社長のこと、気にしているの?」

「この状況で、気にならない人はいないと思いますけど」

すると、田之倉さんは上体を起こして、ベッドに座ると言った。

「『へぇ、ああいうのが好みなのか』って」

「『ああいうの』って、社長は、ボクのこと、知ってるんですか?」

「当たり前よ。尤も森本君のことだけじゃないけど」

少しがっかりしたような、ホッとしたような気分だった。

「それで?」

「それだけよ」

「それだけですか?」

「もう!社長の話は、おわり!」

そう言うと、田之倉さんは上体をボクに預けてくると唇を重ねてきた。

普段は清楚な田之倉さんに大胆に迫られて、ボクのエッチモードのスイッチが入った。

田之倉さんの細い身体を抱きしめて、ボクも田之倉さんの唇を吸った。

社長公認だと自分に言い聞かせて、ボクは腹を括った。

その日はホテルだったので、コンドームの備え付けてあって助かった。

別れ際に、田之倉さんはボクの耳元で囁いた。

そえから、汗に塗れた田之倉さんをベッドの上で四つん這いにさせると後ろから奥まで一気に貫いた。

「森本くん、それ、ダメぇ・・・」

「あぁ、奥に・・・、奥に当たってるぅ・・・」

「私、また、イッちゃう・・・」

「あ、もう、何もわからなかうなっちゃう・・・」

「あぅ、あーっ、もう、ダメ!」

「もう、イク!もう、イク!」

「あ゛ー、もう、イカせてぇ!、イグ、イグ、イグーっ!!!」

田之倉さんの股間から熱い愛液が迸るように流れ出て、ベッドのシーツに大きなシミが広がると、口を半開きにしたまま田之倉さんは気を失った。

究極のアヘ顔だった。

ボクは田之倉さんの中から出て、添い寝をするように彼女の隣に身を横たえると抱きしめた。

涎を啜る音をさせながら、田之倉さんはボォッとした様子で薄目を開けた。

「森本くん・・・、何が起こったの?」

小声でボクに尋ねた。

「出しちゃった・・・」

田之倉さんにそういうと、頭の中で日数を数える表情をして見せたあとで言った。

「うん、今日は大丈夫」

「気持ちよかった?」

ボクが訊いてやると、田之倉さんは何度も小さく頷いて、甘えるようにボクの首に腕を回すとキスをしてきた。

「もう、自分でも何がなんだかわからなくなっちゃった」

子猫のようにボクの胸に顔を埋めてきた田之倉さんの抱きしめると、ボクたちは眠った。

翌朝、田之倉さんはボクの腕の中で目覚めた。

「おはよう」

前の晩のことを思い出したのか、田之倉さんは少しはにかみながらボクにキスして言った。

「森本くんのプライベート秘書になりたいな・・・」

言ってから、田之倉さんは恥ずかしかったのか、ボクに背中を向けてしまった。

それが、甘いにも可愛くて、田之倉さんを背後から抱きしめるとボクは言った。

「永久就職、採用します!」

身体を捻ってボクに抱きついてきた田之倉さんの目には、涙が光っていた。

そして、涼子は今朝もボクと一緒に同じベッドで目を覚ました。

■続き[2016.08.14 21:39追記]

「森本くんは、おっぱいが好きなのね」

田之倉さんとの契りの後、ボクがいつまでも田之倉さんの乳房に触れたり、乳首を口に含んでいると田之倉さんはボクの頬に手を当てて言った。

ボクは田之倉さんの全部が好きだけど、少しツンと上を向いたおっぱいに触れているだけで幸せになる。

返事をする代わりに硬くなった乳首を口に含んで、甘噛みをすると田之倉さんの身体がピクンと震えた。

「もう・・・、甘えん坊さんなんだから」

田之倉さんは優しくそう言うと、ボクの股間に手を伸ばしてきて、さっきまで田之倉さんの肉襞に包まれていたものをニギニギしてきた。

それはとても優しくて、それでいてボクを再び求めるサインでもあった。

田之倉さんとお付き合いを始めてから、女の人にも男の人を求める時期があるようだと知った。

それは自然の摂理なのかもしれない。

女の人のみんながみんな、そうなのかどうかわからないけれど、田之倉さんには一定の周期でそれが訪れる。

いつもは上品で清楚さが服を着て歩いているような人だけど、その時期を迎えた田之倉さんは途轍もなくエッチだ。

その日は、そんな田之倉さんの日だった。

上品さは相変わらずだけど、目の奥に妖艶さが漂っていて、二人で一緒にご飯を食べていても、その後のことばかりを考えているみたいだった。

薄い唇の間から舌がチロッと覗いたりして、何とも艶かしいというか、エロチックなオーラが出ていた。

「田之倉さん、今日はどうする?」

食事の途中でこっそり尋ねた。

すると、田之倉さんは一瞬、顔を赤らめて、首を横に振って恥ずかしがって見せる。

ボクはわざと気がつかないふりをして、食事の後に散歩に誘い、ホテル街から離れていった。

手を繋いで一緒に並んで歩いていると、田之倉さんの掌が汗ばんできているのを感じた。

そんな手を握り締めていると、やがて田之倉さんはボクの腕を取って自分の腕に絡めてきた。

それからは、ゆっくりと歩きながら、田之倉さんはボクをホテル街の方向へと誘導していこうとする。

しばらく歩いたところで田之倉さんの足が止まり、ボクたちは立ち止まった。

田之倉さんの方に視線を移すと、彼女はボクを上目遣いで見上げていた。

ボクが黙って頷くと、少しホッとした表情をして見せた。

ホテル街のほうに向かっていくと、少女のようにテンションが上がっていくのがわかって、見ていて可愛らしかった。

普段はとても大人なのに、その日の田之倉さんは童心に帰っているようだった。

「ここにする?」

ラブホテルの前で聞いてみると、田之倉さんは回りを気にしている仕草をして見せると言った。

「こんなところで、立ち止まっていたら、恥ずかしいよ・・・」

そう言うと、田之倉さんは身体を密着させたまま肩でボクの上腕を押すように促した。

ボクらは肩を並べて自動ドアの間を通ると中に入った。

受付の人の顔が見えない低い位置の窓口で鍵を受け取ると、ボクたちはキーホルダーに記された番号の部屋へと向かった。

部屋は思っていたより広い洋室で、部屋の扉が閉まると同時に田之倉さんがボクに抱きついてきた。

ボクたちはお互いの背中に腕を回し、背中をさすり合うようにして、いつまでもお互いの唇をむさぼっていた。

息の荒くなった田之倉さんは、唇を離した途端にその場で跪くと、ボクのベルトのバックルに手をかけた。

ボクのズボンがストンと足元に落ちて、すぐにパンツも下ろされた。

ギンギンに硬くなったボクのジュニアが顔を出すと、田之倉さんは勝ち誇ったような目をして言った。

「ほら、森本くんだって、こんな風になってるじゃない」

ボクが苦笑いをすると、田之倉さんはワザと舌を出して見せると見せ付けるようにボクの亀頭の裏をペロンと舐めた。

「気持ちいいでしょ」

ボクが頷いたのを確認すると、田之倉さんは大きく口を開けてボクを一気に根元まで呑み込んだ。

付き合い始めたころは、遠慮がちだったけれど、エッチモードに入ったときの田之倉さんは、普段の雰囲気からは想像できないほどエロい。

本気モードで田之倉さんのフェラを受けてしまうと、あっという間に果ててしまうので、ボクは田之倉さんの肩をやさしく押しやると言った。

「シャワーを浴びてきなよ」

それを聞いた田之倉さんは、少し恨めしそうにボクを見上げるが、素直にボクを口から出すと、先っぽにチュッとすると立ち上がってバスルームへと向かった。

バスルームからお湯が流れる音が聞こえてくると、ボクはいつもの確認作業に入った。

避妊具の位置を確認しておかないと、合体の時に手間取って雰囲気を壊してしまう。

ボクは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、ガラスのコップとともに枕もとのランプテーブルに置いた。

「お先でした」

振り向くとバスローブを身に纏った田之倉さんが、タオルで髪を拭きながら立っていた。

「ボクもシャワーを浴びてくるね」

そう言って、ボクがバスルームに入り、シャワーの栓を捻ると、刷りガラスの扉の向こうで田之倉さんが歯を磨いているシルエットが動くのが見えた。

ボクは丹念に身体を洗ってからバスルームを出た。

脱衣所で歯を磨いていると、田之倉さんが後ろからそっと近づいてきて抱きつくと、ボクの背中におっぱいを押し付けてきた。

口を漱ぎ終えるやいなや、田之倉さんはボクを振り向かせ、少し背伸びをするようにして唇を重ねてきた。

『うん、お姉さんも強そうだもんなぁ』

いつだったか、ハルさんがボクに言った言葉を思い出した。

ボクは唇を離して、田之倉さんをお姫様抱っこした。

田之倉さんがボクの首にしがみつくようにして、ボクたちは脱衣所からベッドへと移った。

田之倉さんを腕に抱いたまま、ボクがベッドに腰を下ろすと、田之倉さんはボクの膝の上に跨って抱きついてきた。

ボクの膝に乗った田之倉さんのバスローブの紐をスルリと解くと、きれいなおっぱいがボクの目の前に現れた。

「きれいだ・・・」

そう呟くと、田之倉さんはアーモンドアイの目じりを下げて嬉しそうに微笑んでくれた。

ボクは田之倉さんの胸に唇を近づけて、コリコリに硬くなってピンと勃った乳首に唇を寄せて口に含むと、それを舌で転がした。

「んんっ・・・、いい・・・」

田之倉さんが色っぽい声を上げて、ボクの首の後ろから頭の後ろに手を移すとボクの顔を自分の胸に押し付けた。

「今度は、私ね」

小声でそう言った田之倉さんは、ボクの腰に巻いたバスタオルを開き、屹立したボクに手を添えた。

それからベッドのふちに座ったままのボクの膝を開かせると田之倉さんは床に膝をついた。

「今度は、私が気持ち良くさせてあげる」

そう言って、ボクに身体の向きを入れ替えさせると、ボクは田之倉さんに覆いかぶさったまま、シックスナインになった。

田之倉さんの唇がボクの陰毛に埋まるほど、田之倉さんはボクを喉の奥まで呑み込んで、ボクも田之倉さんの股間に顔を埋めて、乾くことを知らない蜜壺に舌を這わせた。

「うぐっ、うぐっ、うぐっ」

仰向けのまま、田之倉さんは喉の奥でボクを受け止めてくれた。

ぷっくりと膨れたクリをボクも舌先で転がした。

長い時間をかけて、ボクたちはお互いの陰部を愛撫し合っていた。

ボクはいつ弾けてもおかしくない極限まできていた。

けれども、先に絶頂を迎えたのは、田之倉さんだった。

田之倉さんの足がピーンと伸びて、ガクガクと身体が痙攣すると、田之倉さんは果てていた。

そして、ボクに促されるままに、田之倉さんがのろのろとベッドに四つん這いになったところで、ボクは後ろから挿入した。

「今日は、そのまま出して」

ボクの下腹部が田之倉さんのお尻に密着すると、田之倉さんは枕に顔を埋めながら、はっきりとそう言った。

「森本くんも気持ち良くなって・・・」

ボクを後ろから受け入れながら、田之倉さんは言った。

「ひぃーっ!!!」

田之倉さんの背中が仰け反って、狂ったように悶えた。

「あ゛ーっ、イッちゃう!」

「もう、許して・・・、おかしくなっちゃう!」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「あー、それ・・・、そこなの、そこ!」

「あー、あー、あー、い、イクっ・・・」

「あー、もうダメ・・・、イッちゃう・・・、イッちゃう・・・、あ゛ー・・・、イク、イク、イクっ!!!」

田之倉さんもオルガを向かえ、枕に顔を突っ伏した。

滑々で、大きく張り出した田之倉さんの腰を抱えながら、同時にボクも田之倉さんの熱く滾った蜜壺の中で弾けた。

「森本くんは、おっぱいが好きなのね」

田之倉さんとの契りの後、ボクがいつまでも田之倉さんの乳房に触れたり、乳首を口に含んでいると田之倉さんはボクの頬に手を当てて言った。

「森本くんの赤ちゃん、早く欲しいな」

田之倉さんがそう言うのを聞いて、硬くなった乳首を口に含んで、甘噛みをすると田之倉さんの身体がピクンと震えた。

「もう・・・、甘えん坊さんなんだから」

田之倉さんは優しくそう言うと、ボクの股間に手を伸ばしてきて、さっきまで田之倉さんの肉襞に包まれていたものをニギニギしてきた。

その日、ボクは避妊具をつけずに、田之倉さんの中で何度も放出した。

「嬉しい!」

そう言って、田之倉さんが目を潤ませながら受け入れてくれるので、自分でも信じられないくらい何度もできた。

田之倉さんが、産婦人科から朗報を持ち帰ってきたのは、一ヵ月後のことだった。

ボクたちは急いで籍を入れ、夫婦になった。

地震の後は大変だったけど、ボクたちにはそれが生涯の伴侶をみつけるきっかけになった。

神さまのいたずらに、ボクたちは今でも感謝している。

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