道流と亜樹と杏花達……ラブレターから始まる歪んだ夏。

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【前書き】

こちらのお話は『体験談』ではなく『小説』となりますのでご注意ください。

投稿する際には、小説を選択していますが、体験談として表示されるのはサイトの仕様なのでご理解ください。

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夏の、ある休日の一時だった。

心地よい風、遮る物のない満点の晴れ空、緑が広がるのどかな公園の風景、そして、ベンチに並んで座る一組の夫婦。仲睦まじい姿だった。

しかし、その夫婦と向かい合うようにして座る中年の男が二人、昼間からビールを片手に、怪しげな視線を夫婦の妻の方に向けていた。人妻の姿は男達の視線を釘付けにするほど、濃厚な色気が甘いハチミツのように滲み出ていた。

人妻は、胸元が大きく開いたベージュのTシャツを着ているが、内側から大きな胸に押され膨れ上がり、容易にその輪郭を想像させることが出来た。それに、白のミニフレアスカートから伸びる足はきめ細かく、顔を近づけ舌を這わせたくなるほど、真夏に食べるソフトクリームのような、甘い味を連想させ舌鼓を打ってしまう。

興奮は酔いの勢いもあってまるで高波のように押し寄せていた。男達は互いに顔を見合わせると不敵な笑みを浮かべては密かに自身の肉棒を勃起させ、人妻の肉体とスカートの中に隠れているパンティに絞り出すような願望を抱いた。

しかもそのスカートは、焦らせているのか見えそうで見えないというなんともありがた迷惑な状態であり、もしその太ももが開けば、何かに気を取られ隙を見せればすぐにでも拝めそうなほどだった。本当にあと少しなのだ。

そのためか、願望はどんどん大きく募っていく。なんなら、この人妻の目の前で肉棒を取り出し一心不乱にしごいてやりたかった。お前のイヤらしい身体をオカズにしてんだよ、と言いながら。

おそらく、それを聞いた人妻は羞恥のあまり顔を赤く染めるだろう。そそられるじゃないか、と男達は思い、さらに想像を弾ませようとしたのだが、不意にもその時だった。

さきほどから額に汗を滲ませていた夫の手からハンカチがするりと離れ、人妻の足元に落ちたのだ。

人妻ははっとしてハンカチに手を伸ばす。まさにその瞬間だった。姿勢が前屈みになると、シャツが大きく膨らみ足が開いたのだった。

男達は血走った目で凝視した。視界はスローモーションとなり、願望は現実となった。

黒に縁取られたピンクのブラと、豊満な胸の谷間とお腹が見え、これまたお揃いのパンティのデルタゾーンが露になった。男達は歓喜した。勃起した肉棒も脈を打ちさらに膨張した。やがて、その憐れもないブラとパンティが見えなくなると、顔を空に向けて恍惚な表情を浮かべた。

二人は何を思ったか、再度顔を見合わせるとすぐに立ち上がった。それはなぜか……決まっている。記憶に刻み込まれた映像が鮮明なうちにオナニーしたかったのだ。すでに下着は我慢汁で溢れている。早くこの欲望をぶちまけてやりたかったのだ。

早々と男達は、その場を後にした。

だが少し遅れて、パン!という破裂音が鳴り響いた。

……ここから時間は巻き戻り。

夏の、ある休日の一時だった。

ベンチに座る夫婦が一組。仲睦まじい姿だったが、夫である道流は不敵な笑みを浮かべていた。

その理由は、向かい合うようにして座る男が二人、チラチラと隣に座る亜樹に視線を向けていたからだ。

視線の先は、亜樹の胸元と太ももに。道流は興奮していた。久しぶりに巡ってきた絶好のシチュエーションであり、亜樹の下着を見てほしいと、欲望の赴くままに虎視眈々とそのタイミングを図っていたのだった。

一方亜樹は、遠くの方にいる子供連れの夫婦に視線を合わせていて、男達のことは気にしていなかった。

道流は、そんな亜樹の太ももをチラリと覗き見る。

だが、亜樹は勘が鋭く疑い深い。その布に包まれた太ももを安易に開城するつもりはさらさらないだろう。

道流は攻めあぐねていた。やはりガードが堅いのだ。亜樹の太ももは何人たりとも、邪悪な視線達の進行を許してはいなかった。難攻不落。まさに鉄壁。

無理か……と、一度は悟りかけたものの、あきらめの悪い道流は何か別の手はないかとさらに思考を深めた。

こうなったらどうする?調略か、それとも開城交渉……もしくは、強行突破?いや、ダメだダメだ。そんなことはもってのほか。返り討ちにされるだけだ。愚策も愚策。自殺行為でしかない。

道流は悩んだ。

汗が頬を伝う。

亜樹「大丈夫?」

道流の顔色を見て、亜樹は心配そうに声をかけた。

道流「あっ、うん大丈夫だよ。ありがとう」

いつの間にか、遠くに見えていたはずの家族はいなくなっていた。亜樹はぐるりと回りを見渡し男達の方を確認してから、自然な感じで膝元に視線を落とした。

道流はそれを横目に見ながら、これでますます難しくなってしまったと弱気になった。

汗がぽとりと地面に落ちる。道流はズボンのポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭おうとしたその瞬間、一筋の光明が脳裏をよぎった。道流はある奇策を思いついたのだった。

これしかない!本能がそう感じていた。

道流はゆっくりと、何かを決意したように顔を上げた。

亜樹……ごめん。これは、僕のわがままなんだ。そして正面に座っている男達の、いや、夢と希望を乗せた、漢達のロマンなのだ!……と、道流は心の中で叫び、

道流「あっ」

と声を漏らした。

次の瞬間、道流は持っていたハンカチを亜樹の足元、左側に落とした。

亜樹は驚き、すぐに前屈みになってハンカチに手を伸ばした。

すると思惑通りに、シャツは大きく膨らみ足が少しだけ開いた。

これならどうだ!道流はそう思い、男達を一瞥する。

二人は竹を割ったかのように目を見開き、亜樹の胸元とスカートの中を凝視していた。この日身に付けていたブラとパンティは、最近購入した物で道流のお気に入りだった。

身体の内側からみなぎるものを感じる。この興奮が道流は大好きだった。愛する妻の下着が他人に見られ、もしかしたらそれがきっかけでオカズにされてしまうかもしれないという嫉妬心。自分の妻が、他人の頭の中で視姦され脱がされ犯される。これがすこぶるたまらなかった。

道流は密かに、肉棒を激しく勃起させた。

ハンカチを拾い上げた亜樹は、

亜樹「はい、気をつけてね」

そう言って、汚れを落とそうと三回ほど叩き道流に渡そうとした。

だがその時、どうしたのか、突然動きを止めた。何か不穏な気配を察したのだろうか、亜樹は今一度、正面にいる男達と自分の身体の位置を確認した。次第に、その表情は鋭く険しくなっていった。そして道流を睨みつけながら、

亜樹「……道流、謀ったね?」

その声は低く小さかったものの、重苦しい威圧感をはらんでいた。そのあまりの迫力に、道流は身体が緊張して強張ってしまう。

道流は否定した。首を何度も横に振った。全力だった。

亜樹「ねえ道流、正直に言いなさい。そしたら許してあげる」

道流は目を瞑り天を仰いだ。

あぁ、神様仏様。どうか亜樹の怒りを鎮め、僕をお救い下さい。

道流「はい、その通りです」

その瞬間、パン!という大きな破裂音が響き渡った。

季節は夏の真っ只中。あの初夏の季節から三ヶ月が過ぎていた。

流した涙の数は、もう覚えていない。道流にとっても亜樹にとっても、すでにあの時の記憶は、もう遠い遠い思い出となっていた。

そしてこの日、道流と亜樹は優衣香と一緒に都内から少し離れたアウトレットパークに来ていた。

もともとは亜樹と優衣香の二人だけで近くのデパートに買い物に行く予定だったのだけれど、忙しかった道流の仕事がちょうど一息ついたので、この機会に有給をとってもらい三人で遊びに来たのだった。

優衣香「懲りませんねえ」

涙目で赤く腫れ上がった頬を手で抑えている道流に、優衣香は呆れたように言った。

道流はそんな言葉を尻目に悲痛な声を漏らす。

道流「痛いよ……。何も本気でぶたなくていいのにさ……」

しかしそれを聞いた亜樹は、ふたたび殺気を滲ませ道流を睨み付ける。

亜樹「は?本気?もう一発と思うくらい、私は全然足りてないと思ってるけどねっ!」

さきほど空に放った願いは、儚くも叶わなかったらしい。亜樹はご立腹なようだ。

そんな二人の様子を見た優衣香は、やれやれと項垂れ、さきほど買ってきたタピオカドリンクを、これで機嫌を直して、という思いを込めて亜樹に渡した。

亜樹「サンキュー」

亜樹は受け取ると、喉が渇いていたのか勢いよくストローを咥えた。

優衣香「亜樹、とりあえず道流さんも謝ってるんだから、許してあげて」

亜樹「ふん。次はわかってるね?今回は優衣香に免じて許してあげる」

道流「ごめんなさい」

と、道流は素直に謝ったのだが、胸の奥ではまだまだ興奮が冷めていなかった。それに頭の中では、今頃男達が亜樹のパンティでオナニーしているかもしれないという妄想が弾んでいた。

道流は、亜樹が他人にオカズにされるというシチュエーションが大好きだった。でも、もちろんそれは亜樹のことを愛しているがゆえのことで、悪意はないし、決して軽はずみな考えではない。これは道流にとっての一つの愛情の表し方なのだが、そうこう考えているうちに下半身が再び大きくなってきた。道流はこっそりと、亜樹と男達を妄想しながら肉棒を勃起―――、

亜樹「この変態っ!」

その時だった。再度、強烈な一撃が道流の頬に見舞われた。

言葉に出していなかったはずなのに、なんでわかったの!?という摩訶不思議な感覚に包まれつつ、道流はベンチから崩れ落ちた。

時刻は昼の一時。少し前に昼食を食べたばかりだったけれど、亜樹は小腹が空いていたので、さきほどの罰として道流に食べ物を買ってくるように命令した。道流は渋々ショッピングモールの方に歩いて行く。そんな道流の後ろ姿に亜樹は、これで許してあげるよ、と胸の奥で声をかけた。

優衣香「ねえ亜樹、そう言えばなんでここに来ようと思ったの?」

隣に座る優衣香が、タピオカミルクティーを飲みながら思い出したように言った。

亜樹「別に来たかったわけじゃないんだけど、ここってオープンしたばかりでしょ?なんか道流は前々から来たかったみたいだよ」

優衣香「そうなんだ。道流さん何か欲しいものでもあったのかな。でも、平日なのに人いっぱいだったね。さっきタピオカドリンクを買うのに結構並んだんだ」

亜樹「ありがとう優衣香。空いてると思ったけど、やっぱり最初は混むよねえ」

優衣香「亜樹は何を買うの?私はもう買っちゃったから、よかったら一緒に選んであげるよ」

亜樹「ほんと?やったね。って言っても、少し服を見たいくらいかな」

優衣香「ねえ亜樹。ちょっと話が変わるんだけど、亜樹は髪を縛ったりはしないの?大分伸びてきたよね」

亜樹「ああ、確かにそうだね。でも……うーん、似合うかな?」

優衣香「亜樹なら絶対似合うよ!リボンとかで結んで。それに首元にチョーカーとか着けたり」

亜樹「ははっ。チョーカーって、それ真琴ちゃんじゃん」

優衣香「どうかな?」

興味津々にグイグイと聞いてくる優衣香に、亜樹はそういえば、とあらためて昔を思い出した。

道流と結婚してからというもの、自分の外見を変えたことがあまりなかった。髪の色は変えたことがあったけれど、もともとこれと決めたことにこだわる亜樹は、あまり人の意見を聞いたりするのが苦手だった。言い換えれば、頑固な一面があった。

事実、社会人になってから髪の長さはずっとショートで整えていた。でも、それだけこだわっていたはずの長さに、いつからか無頓着になっていたことを優衣香の一言で気づかされた。肩甲骨辺りまで伸びている髪を、亜樹は指先で撫でる。そのとき、一瞬だけれど、心がどんよりと重くなった気がした。

ただ、髪を縛るなんて学生の時以来だな、と昔の自分の姿も頭に浮かんだ。

ふと唐突に、道流はどう思っているんだろ?と亜樹は思った。道流はどちらかというと長い髪の方が好みだから、何年も変わらないこの外見に飽きていないだろうか。道流が好きな私は、まだ変わらずにいてくれているのだろうか、と亜樹は不安になった。

でも優衣香は、まるで見透かしているかのように微笑み、

優衣香「亜樹、道流さんはいつだって変わらないよ。絶対、喜んでくれるから」

と言ってくれた。

亜樹はそんな言葉を聞いて思わずクスっと笑ってしまった。

いつもそうだった。道流の時も美雪の時も、真琴の時もどんな時でも、優衣香はその時に必要なことを言ってくれる。

入社してからずっと亜樹は優衣香を気にしていた。おっちょこちょいでのろまで、でも真面目で、空回りする度に亜樹は優衣香に手を伸ばして来た。でもそんな優衣香は、もういなかった。

亜樹は、敵わないなあ、と思いながら、たまにはいいか、と恥ずかしさを隠すようにして、うん、と頷いた。

しばらくして道流が戻って来ると、三人は軽食で腹ごしらえを済ませショッピングモールに向かった。

ショッピングモールは広い施設の中で中央に位置している。三階建ての大型施設で、床や壁は白が基調の明るく清潔感のある空間が広がっていた。二階と三階からは、一階の中央部分が一望出来て、小さな噴水や植物がありその回りをベンチが囲んでいる。若者や家族連れの姿が目立ちなかなかに賑わいを見せていた。

三人はさっそくエスカレーターに乗って二階に行き、優衣香に促されるままに目的のお店へと入った。店内は細長く、女性用のアクセサリーなどがショーウィンドに並んでいた。そしてこのお店のブランドなのだろうか、ロゴが入った服が数着ハンガーラックにかかっている。

道流「ここは?」

道流は怪訝な表情で、前を歩く亜樹と優衣香に話かける。

優衣香が振り返り言った。

優衣香「あ、道流さんは外で待っていてください」

道流「へ?なんで?」

優衣香「お願いします」

何がなんだかわからないまま、とりあえず道流は言われた通りにお店を出た。

亜樹「なんか恥ずかしいなあ」

亜樹はそう言いながら、頬を人差し指でなぞる。

優衣香「ふふっ。私も緊張してきた」

亜樹「もう、一人で楽しんでるでしょ?」

優衣香「ごめんごめん。じゃあ、これから着けてみよ」

一方その頃、念願のブラとパンティを拝めた男達二人は、ショッピングモールの一階をそろそろと歩いていた。心なしか、二人の表情は満足気だ。

黒田「久々に興奮したな」

色黒で筋肉質の一人が言った。

白川「まあな。でもただ、ちょっと童顔なのがな。俺は前回の背の高い美人の方がよかったけど」

色白の青髭が、残念そうに返事をした。

オープンしてからというもの、二人はよくこのショッピングモールに来ていた。目的はもちろん、女性のスカートの中を覗くためだ。建物は一階から三階まで中央が吹き抜けになっていて、二階と三階の内側は腰くらいまでのガラス張りとなっていたので、運が良ければパンティを覗くことが出来る。二人は常習だった。

黒田「まあな、確かに前回の美人もよかったけど。あの童顔なツラで人妻っていうのがそそられるんだろ。お前もわかってねえな」

白川「うるせぇ。ていうかよ、なんで人妻ってわかったんだ?」

黒田「薬指にお揃いの指輪してたろ。なんだ、見てなかったのか?」

白川「俺はパンティにしか興味ないんだ。ていうかお前もだろ?」

黒田「ははは。違いねえ。ああ、また見てえなあ。俺大好きなんだよな、ああいうタイ……ん?おい、あれ」

黒田は何かに気づいたのか、二階を見上げる。それに次いで、白川も黒田の視線の先を追った。

そこには、お店の前で携帯を弄っている男が立っていた。よく見ると、さきほどのベンチに座っていた夫だった。

黒田「お、噂をすればってやつだな」

白川「あれ?……ってことは、また拝めるチャンスがあるかな」

その言葉を聞いて、黒田は腕を組み何か考える仕草をした。一つ間を置いて、

黒田「……なあ、前回みたいに、やるか?」

と、不敵な笑みを浮かべて言った。すると、白川も笑みを返し、

白川「ま、俺達パンティより好きなのがあるからな」

と言って、二人はエスカレーターに向かった。

優衣香「やっぱりだよ亜樹!似合ってて凄い可愛い!」

ショーウィンドに置いてある鏡を眺めている亜樹に、優衣香は興奮した様子で言った。

亜樹は髪の毛を水色のリボンでポニーテールに結んで、黒のチョーカーを首に巻いていた。

店員「とても素敵です!」

お店の女性スタッフも、優衣香に釣られるように声を上げた。

しかし当の本人である亜樹は、頬を赤く染めて照れているようだった。

亜樹「でも……うーん、なんか、ね」

普段とは違った自分を見て、なかなか、上手く言葉が出なかった。それに不思議と緊張してしまって、まるで自分が自分でないような感覚になった。

優衣香「ふふっ。じゃあ、道流さん呼んでみようか」

亜樹「え?……あ、うん。いい、よ」

優衣香は、亜樹の照れ隠しが面白かった。ついつい意地悪をしたくなってしまうほど可愛い反応だったけれど、早く道流に亜樹を見せてあげたかったので足早でお店を出て声をかけた。

優衣香「道流さん、おまたせしました」

道流「はぁ、やっとか。もう待ちくたびれたよ」

優衣香「ごめんなさい。でも、絶対喜びますよ」

道流「はいはい」

しかし、道流は薄々気づいていた。お店の売り物や、店内のお客を見てみれば優衣香のしようとしていることも予想がつく。きっと亜樹は、一段と可愛い姿になっているのだろう。道流は内心ワクワクしながらお店に入った。そして、まず亜樹が道流に気付き、顔を背けた。

亜樹「ど、どうかな?」

なぜか道流はうんともすんとも答えなかった。その場で固まり動かなくなってしまった。

優衣香「え?道流さん?」

亜樹「……ごめん。もしかして、ダメだった?」

二人に不安がよぎる。

だが、道流はそうではなかった。ただただ見惚れていたのだ。あまりの可愛いさに、息を呑むほどに、言葉を忘れて亜樹の姿に釘付けになっていたのだ。

道流「……いい」

亜樹「え?」

道流「いい!可愛いよ亜樹!どうしたの急に!」

亜樹「え?あ、いや、ちょっと。その……イメチェンを。うん、ありがとう」

道流の反応と亜樹のしどろもどろな返答に、後ろで眺めていた優衣香はクスクスと笑っている。でも、内心は少しホッとしていた。

優衣香「道流さん、亜樹可愛いですよね」

道流「うん!最高!」

亜樹「もう!こっちは恥ずかしいの!まったく、やめてよ」

道流「はは。ごめんごめん。でも、本当にそう思ったからさ、普段の……今までの亜樹も僕は可愛いくて好きだけど、今の亜樹はもっと……僕、なんか初めて亜樹を好きになった時を思い出したよ」

優衣香「また、恋しちゃいましたね」

うん、と道流は笑いながら頷く。

すると亜樹は、二人と目を合わさずにありがとうと返事をして、

亜樹「はい、じゃあ終わり」

リボンとチョーカーを外した。

道流と優衣香は名残惜しかった。でも、やはり恥ずかしいのだろう。

道流「ねえ亜樹、それいくら?」

亜樹「ん?二つ合わせて六千円くらいだよ」

と言うと、道流は亜樹からリボンとチョーカーを受け取り女性スタッフに声をかけた。

道流「これ、二つとも下さい」

亜樹「え、いいの?私は別に……」

道流は振り返り、

道流「いいよ。というより、僕が気に入ったからさ。また機会があったら見せてね」

くしゃりと笑った。

優衣香「良かったね、亜樹」

亜樹「まったく……今回だけだからね」

と返事をする亜樹に、優衣香は素直じゃないんだから、と思ったのだった。

お店を出ると、次は道流の買い物に付き合うことになった。前々から気になっていたというお店は、男性向けのアパレルショップだった。道流曰く、ネットで見ていた時に偶然見つけ、デザインが好みだったので是非現物をと思っていたらしい。

そのお店は三階にあり、店内は広々としていた。ハンガーラックが所狭しと並んでいて、そこにかかっている服も種類が豊富に揃っていた。ただ、照明のせいだろうか内装は茶色だったので、多少暗い印象だった。

しかし道流は目を燦々と輝かせ、

道流「ちょっと行って来るね!」

と言って、二人の返事を待たずにお店へと入っていった。

亜樹と優衣香は顔を見合わせ、

優衣香「珍しいね、あんなにはしゃぐなんて」

亜樹「そうだね。優衣香はどうする?せっかくだから私もちょっと覗いてみるけど」

優衣香「うん、私もそうする。でも、先にお手洗いに行って来るね」

そう言って、優衣香はトイレへと向かった。

亜樹は道流の姿を確認してから、店内の反対側に歩みを進めた。ラックにかかっている服を軽く眺めながら、道流に似合う服はないかな、と選びながら奥へとやって来ると、そこには一際目立つワインレッドのポロシャツがあった。

似合うかな、と亜樹は足を止めて想像してみた。道流はあまり派手な色の服を持ってはいない。白であったり黒であったり、シンプルな色を着ることが多かったので、亜樹は道流の姿があまり上手く想像出来なかった。

無理かなぁ、と悩んだけれど、さきほどの自分を思い出してみた。自分ではそう思っていたとしても、周りから見れば案外似合っていた、なんてこともあるし、意外にも自分のことほど盲目で的外れだったりすることは多々ある。

道流はきっと、自分で似合わないと決めつけているはず。だったら、この機会にイメチェンをしてみるのもいいかもしれないと、亜樹は自分自身を重ね合わせてみたのだった。

しばらくすると、そこに二人の男がニヤニヤと笑いながら店内に入って来た。

黒田と白川だった。二人は客を装いながら自然な感じで近づいて来た。商品を選ぶフリをしながら。

それから亜樹と背中合わせになるようにして後ろに立った。

二人はさっそく動いた。回りを見渡してから、まずは手鏡を亜樹のスカートに差し入れて鏡に映るパンティと桃尻を眺めた。

パンティはピチッとしていたので、お尻の形が鮮明に映っていた。しかも、少し割れ目に食い込んでいたこともあり、尻肉がはみ出ていた。

二人は人目も気にせず下半身を勃起させた。無理もない。そのお尻は鷲掴みにしてしゃぶり付きたくなるほど魅力的だったからだ。

亜樹は、まだ服に夢中で気づいていない。

黒田と白川は、再び辺りを見渡し、そこからゆっくりと亜樹の太ももに手を伸ばしていった。

左右から迫る手は、まず指先が肌に触れた。

亜樹は驚き、ビクッと体を動かした。すると、その指は下からなぞるようにして、スカートの中に入ってきた。

亜樹は何がなんだかわからず固まってしまった。だがそこで、ふと回りの景色が目に入った。後ろは壁。右も壁。目の前には自分の背丈ほどのラック。そこは店内の隅で、近くにお客はいない。皆離れた所にいた。亜樹は気づいた。ここは死角だったのだ。

黒田「下を見てみな」

その低く囁くような声に、亜樹は身震いした。

そして言われた通りに下を見てみると、なんと白川が手鏡をわざと見える位置に構えていたのだ。

そこには、自分の強張った顔とパンティが映っている。

亜樹は身体の奥底から沸き上がってくる羞恥を感じた。

白川「エロい身体してんのな。ちょっと触らせてくれよ。少しだけだからさ」

そう言って、左側にいた白川は、右手で後ろからパンティの縁をなぞった。

黒田はそれを見て、正面からシャツに右手を入れた。

下から這ってくる感触に、亜樹は敏感になっていた。いつも以上に全身の神経が反応しているようで、繊細に男の体温を感じとってしまう。

そんな亜樹とは対称的に、黒田は躊躇することなく、亜樹のお腹を通り胸に手を伸ばした。ブラの上から、大きな手が胸を包む。

黒田「思った以上にデケェな」

黒田は容赦なく、胸を揉みしだいた。

亜樹はうつむきながら黒田の手の動きをただただ見つめていると、今度は黒田の左手が背中に入ってきた。

その左手は、迷うことなくブラのホックにたどり着く。

亜樹は、やめて、と心中で漏らすのだけれど、黒田は構わずにホックを外した。

ブラが緩んだ瞬間、待ってました、と言わんばかりに右手は亜樹の生の胸を揉み上げた。

白川も、いつの間にか持っていた手鏡をポケットにしまっていて、黒田同様にシャツの中に手を入れて反対の胸を揉んだ。

左右同時に胸を弄ばれて、亜樹はおかしくなりそうだった。しかも、ジワリとした感触を下半身に感じた。

さらに、白川のもう一方の手はパンティをずらしてお尻を撫で回す。

白川「すべすべでいい手触りだね。裸にして舐め回したいくらいだ」

亜樹は我慢していた。知られたくなかったから。胸が敏感な箇所だということを。だから懸命に意識を逸らそうとするのだけれど、二人の男から揉まれる度に意識は引き戻されてしまう。

やがて黒田の指先が、亜樹の乳首を責め出した。

黒田「ん?なんだ、感じてるのか?固くなってきたぞ」

クリクリと、指先がいやらしく動く。

ばれてしまうのは時間の問題だった。乳首は性感帯。亜樹の一番弱い部分。

亜樹「うっ」

その時、白川が乳首を強く摘まんだ。頭に電気が流れたような刺激を感じて、亜樹は思わず声を漏らしてしまった。

白川「はは。なら下はどうかな。もうグチョグチョになってるんじゃないか」

白川は、左手をスルスルと下ろして行きパンティの中へ突っ込んだ。

亜樹の陰毛をかき分け、すぐに秘部を探り当てる。

白川「正解」

濡れていた。それもかなり。

そこからは早かった。亜樹のマンコはすんなりと白川の中指と薬指を受け入れてしまった。

何も拒むものはない。滑らかに、まるで待っていたかのように、白川の指は上下にスムーズに動く。透明な蜜がこれでもかと溢れ、指にたっぷりと絡み付く。

亜樹「んっ」

漏れそうになる声を、亜樹は両手で抑えた。

しかし、二人は止まらなかった。手慣れた様子で、亜樹の身体を存分に弄んだ。

白川の左手はマンコを掻き回し、右手はお尻を揉みしだく。

黒田は、左手でシャツを捲り上げて抑え付け、右手で胸を揉んだ。そしてなんと、顔を近付けて亜樹の乳首を口に含んだのだ。

チューっという吸い上げる音が聞こえ、直後パッという勢いよく離す音も聞こえる。

亜樹の勃起した乳首は、黒田に吸い上げられ、そして舌で転がされた。生暖かい吐息が乳首に触れると、いわれのない電気が全身を駆けめぐる。

亜樹は、もうイキそうだった。普段ならありえないのに。でも、このおかしなシチュエーションが、そのありえないを変えてしまった。

痴漢。羞恥。人の目。薄暗い店内。わかっていても、感じてしまう。身体は反応してしまう。

亜樹「あっ……はっ……ぁん」

その喘ぎ声を聞いて、黒田と白川はピッチを上げた。

マンコに入っている白川の指は、ピチャピチャと音をたてながらさらに激しく上下に動き、黒田はピンポイントで乳首を刺激する。そして、

亜樹「んっ……あぁっ……ダメ……」

その瞬間、亜樹の全身が震えた。

イカされてしまったのだ。

亜樹は力が抜けてしまい、そのまま黒田の方に身を預けた。

そんな亜樹を黒田が優しく抱き締めると、白川は持っていたハンカチを取り出し、素早く亜樹の溢れた愛液を拭い、乱れた服装を整えた。

黒田「最高だったよ」

そう言って黒田は、別れ際の恋人のように亜樹に唇を重ねた。舌が口内に侵入してくる。黒田の唾液が容赦なく送り込まれてくる。不快な味。でも、知らない味。頭ではわかっているのだ。今からでも、早く逃げださないといけない。

しかし、それを嘲笑うかのようにして、黒田は亜樹を離さない。その小さな身体は、黒田の腕に抱かれ包まれている。

亜樹は朧気な意識の中、必死に黒田の舌を押し戻そうとした。腕に力を込めて押し返しているはずだった。けれど、そんなことはなかった。もがけばもがくほど深く暗い海の底に落ちて行くような感覚が、ただ広がっていくだけだった。

黒田「立てるか?」

黒田の一言に、亜樹ははっとする。

白川「それじゃあね」

二人は亜樹を真っ直ぐ立たせると、何事もなかったかのようにその場を離れて行った。

ものの数分。亜樹にとっては、一瞬のようなとても長い時間だった。

優衣香はトイレから戻って来ると道流と亜樹を探した。店内は広いので、なかなか見つけることが出来なかった。それに、さきほどよりお客の数が増えていた。

しばらく店内を歩いていると、隅っこの方でボーッと服を眺めている亜樹を見つけた。

優衣香「亜樹」

名前を呼ぶと、亜樹は驚いた表情で顔を向ける。ただ、優衣香はその反応が気になった。

優衣香「どうしたの?」

亜樹「ううん、別に」

でも、顔は強張っていて緊張が伝わってきた。

優衣香「亜樹、何か―――」

亜樹「優衣香この服どうかな?」

亜樹は食い気味に優衣香の言葉を遮った。

優衣香「え?この赤いシャツ?」

亜樹「うん。たまにはこんな色もいいかなって。道流は嫌がるだろうけど」

そう言って、亜樹は笑った。

でも、らしくない顔だった。優衣香はその瞬間、亜樹に何かあったのだと確信したけれど、理由を聞こうとして遮られたことの意味も同時に理解した。

優衣香「そんなことないよ。亜樹がそれに決めたなら、道流さんもきっと喜んでくれるから。今日は私が保証するから大丈夫だよ」

亜樹「ははっ。確かにね、今日の優衣香は冴えてる気がするよ。じゃあ、これにしようかな」

亜樹はハンガーラックからワインレッドのポロシャツを取り出すと、大事そうに両手で抱えた。

優衣香「亜樹」

亜樹「ん?」

優衣香「……ううん。ごめん、何でもない」

亜樹「ふふ。変なの」

そう言って、亜樹が背中を向けた時、

亜樹「……ありがとう、優衣香」

小さな声で言った。

それを聞いた優衣香は驚きつつも、うん、と同じように小さく返事をした。

でも、優衣香にはわからなかった。そのありがとうが、どちらに対してなのか……。

その後、目的の物を購入した道流はルンルン気分でやって来た。

亜樹がこれをプレゼントしてあげる、と言うと、

道流「ありがとう亜樹!これこれ、こういうのを探してたんだよ!さすが亜樹!」

と、意外にも喜んでいた。

本当は嫌々拒んでもらい、試着室に連れて行って着させて、わぁ、かっこよくなったね道流!とサプライズを期待していたのだけれど、素直に喜んでくれたので、亜樹と優衣香は何か一つ二つ飛び越えてしまった複雑な気分になりながらも、苦笑いでお会計を済ませた。

時刻は夜の八時。

電車で地元に帰って来ると、三人でいつもの個室のお店を訪れ、夕食をお酒と共に終えると、駅で優衣香と別れた。

道流と亜樹は二人仲良く手を繋ぎ、夏の夜の涼風に撫でられながらマンションに向かって歩いていた。

道流は上機嫌で終始笑っていた。まるでずっと欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のような、そんな無邪気な笑顔だった。

道流の話はとくに、やはりというか、亜樹のリボンとチョーカー姿が中心だった。道流は自分が感じたことを話してくれた。初々しくて可愛いとか、売れっ子アイドルみたいとか、見たことはないけれど、学生の時の亜樹を見ているようだよ、とか。亜樹はまた恥ずかしい気分になった。

でも、亜樹の中にはずっとくすぶる感覚があった。理由は明確、男達の悪戯が亜樹の中で灯火として残っていたからだ。

最近は道流とセックスをしていなかった。仕事が忙しかったこともあり、亜樹は気を使って我慢していた。

そんな飢えていた身体に男達の指先が触れた瞬間、奥底に眠っていた欲求を強引に掬い上げられた。意思とは関係なく、身体は男達の悪戯を求めてしまった。だから、拒むことが出来なかった。

亜樹は、静かに滾る眼差しを道流に向けた。そして、道流を急がせた。早く余韻を、灯火を消してほしかった。忘れさせてくれるほど、道流の身体を感じてイキたかった。

家に帰って来ると、亜樹は玄関ですぐに道流を求めた。

持っていた荷物はその場に落とされ、電気も付いていない暗闇の中で、亜樹は唇を重ねた。

道流は驚いていた。確かに、最近はご無沙汰だったけれど、こんなにも亜樹は溜まっていたんだなと思って、少し申し訳ない気分になった。

でもその反面、どこか嬉しく感じる自分もいた。こうやって素直に求めて来てくれたことが、道流は嬉しかったのだ。

事実を知ることはなかった道流だけれど、亜樹をほったらかしてしまったことを反省した。

道流「亜樹、ごめん。今日はいっぱいセックスしようね」

道流の言葉に、亜樹は頷いた。

―――

八月も折り返しが過ぎ、夏の太陽から放たれる日差しにもようやく馴れてきた頃のある日の夕方。

亜樹は美雪と一緒にバッティングセンターに来ていた。そこは家から程近い所にあるデパートの屋上で、亜樹はうっぷんを晴らすかのようにバットを振っていた。

亜樹「道流の……バカやろう!」

コン。

亜樹「道流の……アホんだら!」

コン。

亜樹「道流の……ボケなすぅ!」

カキーン。

快音が鳴り響いた。

直後、ボールを送り出すスクリーンが暗くなり、

亜樹「ん?終わりかな?」

そう呟くと、息を吐き出しながらヘルメットを取った。

亜樹「ふぅー。すっきりしたぜっ!」

美雪「もういいんですか?」

バックネットの裏側から見守っていた美雪が声をかけると、亜樹は振り返り言った。

亜樹「うん、バッチリだよ。……よしっ、今日のところはこれで勘弁してやるか」

亜樹はグローブを外しバットを筒に戻すと、ハツラツとした顔で出て来た。

美雪「亜樹さんてやっぱり凄いですね。十三球のうち十球もバットに当ててましたね。しかもその内の四球は的の方に飛んでましたし」

感心したように言った。

亜樹「だしょ?もっと褒めて褒めて」

美雪にそう言ってもらい嬉しかったのか、亜樹は満足気に胸を張った。

美雪「本当に羨ましいです。なにかコツがあるんですか?さっきやったとき、私は二回しかバットに当たりませんでしたから」

亜樹「うーん、どうなんだろ。コツっていうか……私の場合、最後までしっかりボールを見るようにしただけだよ。それに、自慢じゃないけど昔から運動神経がよかったから、なんかそういうバランス感覚みたいなのが今でもあるのかもね。……よっしゃ、じゃあ次はホームランでも打ってみるか」

美雪「ははっ。楽しみにしてますね」

美雪は自分の腕時計をチラリと見た。

亜樹「そろそろ?」

美雪「はい、今から出ればちょうどよさそうですね」

亜樹「よしっ。今日は飲むぞお!」

亜樹はにっこりと笑い、全身で高揚感を表した。

そして二人はそろそろとその場を離れ、エレベーターに乗り込むとバッティングセンターを後にした。

この後、亜樹と美雪はいつもの個室のお店で優衣香と真琴と合流することになっていた。けれど、そこに道流はいない。その理由こそが、亜樹が怒っていた原因でもある。

この日、本来の予定はデートだった。亜樹は前々からどこそこに行きたいと言っていて、とても楽しみにしていた。

しかし、いざデート前日になると一本の電話が道流にかかってきた。

電話の相手は職場の上司。

亜樹は道流の隣で、嫌な予感をひしひしと感じていたし、それは道流も同じだったようで、ため息を吐きながら肩を落としていた。

その後、悪い予感は当たりデートはキャンセルとなった。

デパートを出た亜樹と美雪は電車に乗っていた。

亜樹「卑怯だよ。あらかじめ皆を呼んでおいて断りにくくするってさ。何よりまずは、道流と優衣香と真琴ちゃんからでしょ、声をかけるなら。本当にあの上司のやり方は最低だよ」

すっきりしたはずの亜樹だったけれど、やはり愚痴を吐かずにはいられなかった。それだけ亜樹は、この日のデートを楽しみにしていたということなのだろう。美雪はそんな亜樹の気持ちを理解しつつ、溢れてくる愚痴を嫌な顔一つせずに、そうですねと頷きながら聞いていた。

亜樹「はぁ。でも、道流も道流だよ。いくら仕事のことだからってさ、昨日の今日で行かなくったっていいのに。道流は私と仕事どっちが……」

止めどなく溢れていた愚痴が、そこで詰まった。亜樹は後悔した。こうやっていくら愚痴をこぼしても、本心では、本当はわかっているのだ。道流の気持ちも、仕事の大切さも。

だからこそ、その先は言ってはいけない。でも、どうしても納得がいかなかった。それになぜこのタイミングなのか、ということも、その感情に拍車をかけていた。

あの時から、道流達三人が出張から帰って来てからずいぶんと時間が経っているし、亜樹はそう考えれば考えるほど、理解したい思いと納得がいかない思いが相対するように募り、胸の中で喧嘩を始める。

亜樹はうつむき暗い表情をした。

美雪が声をかける。

美雪「亜樹さん。そんな顔しないでください」

亜樹はゆっくり顔を上げた。

亜樹「美雪ちゃん……」

美雪「ダメですよ。約束を破ることになって一番辛い思いをしているのは道流さんなんですから、亜樹さんがそんな顔をしてちゃダメです。それに、今回だって急遽だったかもしれませんが、道流さんや優衣香さん、真琴が一ヶ月の間大変な仕事をこなしたことで、他の社員さん達がスムーズに会社を機能させることが出来たんです。今回はその慰労会なわけですから」

亜樹「うん、それはわかってるんだ。でも―――」

美雪は首を横に振って遮り、

美雪「亜樹さんは笑顔で、お疲れ様ですと言って、道流さんを迎えてあげてください」

と言って微笑んだ。

美雪の声と表情は、本当に魔法がかかっているようだった。とても優しくて温かくて、亜樹はまるで胸の中に陽だまりができたような心地好さを感じた。

亜樹「……うん、わかった。道流が帰って来たらそうするよ。ふふっ、まったく。本当に美雪ちゃんは自慢の後輩だよ。ありがとう」

美雪「いえいえ。でも、せっかくでしたらもっと褒めていただいてもいいですよ?」

亜樹「ははは。じゃあこうしてあげる」

亜樹は手を伸ばし、「ヨシヨシ」と言って美雪の頭を撫でた。

それからしばらくの間、美雪は満面の笑顔で頭を傾けていた。

電車に揺られること二駅、亜樹と美雪は電車を降りてお店に向かった。

すでにお店の前には、優衣香と真琴が待っていた。

亜樹「ごめんごめん。ちょいと待たせちゃったね」

優衣香「ううん。私達も今着いたところだったから」

真琴「早く入りましょう!」

そう言って急かす真琴だったけれど、よく見ると頬が赤くなっていることに美雪は気づいた。

美雪「真琴……酔ってるの?」

真琴「なんのなんの!全然酔ってませんよお!」

普段とは違い、二段階ほど声量が大きくなっていた。

優衣香「ごめんね。私が隣にいたんだけど、少し目を離したらお酒注がれちゃってて」

亜樹「ほとんど飲めないのにね」

真琴「なんのなんの!全然酔ってませんよお!」

亜樹「同じこと言ってるし」

四人の笑い声が一斉に重なった。

その後お店に入り、愉快適悦な二時間が過ぎた。

時刻は夜の八時。お酒も大分進んでいて、もうその頃には、真琴が美雪の膝枕で夢の中。

亜樹「さすがに疲れちゃったかな」

亜樹は真琴の寝顔を覗き込みながらポツリと言った。

優衣香「うん。気疲れが凄くあったんだと思う。普段はこんなことしないからね」

美雪「そもそも、職場でお酒の席なんて久しぶりですよね。亜樹さんがいた時以来ですか?」

首を傾げる亜樹に代わり、優衣香が答える。

優衣香「うん、それくらいかも。もともと職場で飲兵衛なのは亜樹と杏花さんだけだったし、幹事を率先してやる人もいなかったから」

亜樹「ちょっと優衣香。私は飲兵衛じゃないよ?」

優衣香「ふふっ。そうだね」

美雪「杏花さんて、そんなに飲まれるんですか?」

亜樹「うん、沢山。よく飲んでた頃の私とどっこいどっこいくらいだよ。だから潰れるタイミングも同じで。でもそのあとは必ず道流がね、潰れちゃった私と杏花のお守りをしてくれたんだ」

美雪「ははは。そうだったんですね。だから道流さんは面倒見がいいと言うか、いつも周りを気に掛けてくれるんですね」

優衣香「亜樹、今更かもしれないけどちゃんとお礼を言うんだよ?」

亜樹「は〜い」

と返事をしたその時、テーブルの上に置いてあった亜樹の携帯が鳴った。

亜樹は、「おっ、噂をすれば道流かな?」と言って携帯の画面を確認した。しかし、そこに表示されていたのはなんと杏花だった。

驚いた亜樹はすぐに携帯を耳に押し当てた。

亜樹「ぼんじゅ〜る」

その挨拶を聞いた瞬間、優衣香と美雪も電話の相手が杏花だとわかった。

二人は興味津々に亜樹の電話の一言一言に耳を傾けた。

亜樹「もう、びっくりしたよぉ。いきなりだもん……うん……それで、どうしたの?……うん……うん……えっ!?ホントに!?」

亜樹の声が大きくなった。さらに表情も、驚きと嬉しさでキラキラと輝いていた。

亜樹「うん、全然大丈夫。道流にも内緒にしておくからさ……ふふふ、そうだね。きっと道流も喜ぶよ……じゃあ着いたら連絡頂戴よ、迎えに行くから……うん、私もだよ、ははは。それじゃあね、ぼんじゅ〜る」

亜樹はニコニコと笑いながら通話を切った。

優衣香「なんだか嬉しそうだね」

亜樹「え?ふふふ……」

それから三日後。

時刻が夜の九時を回った時、会社のエントランスから出て来たのは道流だった。

道流は夏の風を思い切り感じるように、身体を大きく伸ばした。

今夜の気温は例年と比べると涼しい。疲れ切った身体にはちょうどよく、フワリと浮かせてくれそうな軽さを感じた。

この日、道流は久しぶりに残業をしていた。最近はこれほどまで遅くなるなんてことがなかったから、不思議と懐かしく感じた。

もちろん定時で帰ることに越したことはないのだけれど、なぜからしくないなあと思ってしまい、道流はクスっと笑ってしまった。

でも、言い換えるならそれだけ仕事をこなすスピードが上がったということだろう。作業量は変わっていないし、むしろ増えている物もある。けれど、こうやって久しぶりだなと余裕を持って考えられるということは、つまりそういうことだ。

それから足取り軽く、道流は電車に乗り込んだ。

先日は亜樹に申し訳ないことをしてしまった。

あれだけ楽しみにしていたデートを、慰労会のために突然キャンセルしてしまったのだ。

道流は後悔した。確かに仕事だって大事だし、職場の集まりだって疎かにすることは良くない。でも、道流にとって亜樹はそれ以上に大切な存在。だけれど、やはりわかってはいても、亜樹のために仕事を優先してしまうのは、そう考えてしまうのは、男の性(さが)なのだろうか。

だから帰って来たとき亜樹が、「お疲れ様です」と言って迎えてくれたのが余計に、本当に嬉しかったし安堵した。

道流は決意したように亜樹を抱き締めた。そして、必ずデートに行こうね、と言ってキスをしたのだった。

マンションに帰って来たときには、風が止んでいた。

夏らしいからっとした暑さが汗を滲ませる。

道流は早くお風呂に入ってシャワーを浴びたいと思い、急ぎ足で家に向かった。

そして家の前にたどり着き玄関のドアを開けた。

道流「ただいまー」

ところが、リビングから返って来た声は亜樹ではなく、

「へいらっしゃい!」

という威勢のいい声だった。

道流「……は?」

ただ道流にはその声に聞き覚えがあった。

道流は目を細め、怪訝な顔のままリビングのドアを開けた。

するとそこにはなんと、顔を真っ赤にした杏花が亜樹の肩を抱いて座っていて、亜樹は久保田ちゃんを抱えながら満面の笑みで杏花に寄り添っていた。

道流「えっ!?杏花ちゃん!?なんで?……ていうか亜樹も、なんで?」

杏花「お兄さん仕事帰り?お疲れちゃーん」

亜樹「こんな遅くまで?ご苦労ちゃーん」

道流「いやいや、なんで?説明してよ」

すると杏花は、眉間に手を添えて敬礼のポーズをしながら、

杏花「今日から、お世話になりまーす!」

それにつられるように、亜樹も同じポーズをして、

亜樹「今日から、お世話してあげまーす!」

と言った。

道流「どういうこと?」

道流は何が何だか、目の前の状況がまったく理解出来なかった。しかも、すでに二人はすこぶる酔っていて、上機嫌なのか表情は緩みっぱなしだった。目はトロンとしていて、身体をユラユラと気持ち良さげに揺らしていた。

杏花「これがね〜話せば長くなるのよ〜」

ゆったりとした口調で言うと、続けてすぐに亜樹が答える。

亜樹「やらかして二週間の義務講習で〜す」

杏花「あれ〜?一言で終わっちゃった〜?」

二人はお腹を抱えて笑った。

道流は呆れたように大きなため息を吐いてから、テーブルの前に座った。

どういうことか説明をしてほしかったけれど、この感じだと無理だと思ったので、道流はとりあえず目の前のことを聞いた。

道流「まあいいや。説明は明日で。……それで、これはなに?」

丸テーブルの上には、焼き鳥用なのか炭火焼きのコンロが置いてあり、その隣には串に刺さった鶏肉が何本もお皿に乗っていた。

亜樹「焼き鳥屋さんごっこ」

道流「わざわざ買って来たの?」

亜樹「もちのロ〜ン。デパート、特売、半額の満貫でーす!あはは」

杏花「それよりさ、お兄さんお腹減ってない?」

道流「あ、うん、すごい減ってる。じゃあ、ぼんじりとつくねと―――」

と言い終える前に、杏花が食い気味に言った。

杏花「あー悪いねお兄さん。うちはねぎましかねーだよ。あはは」

道流「……焼き鳥屋さんなのに?」

杏花「うちはねぎま一本で勝負してんのよ。ふん」

なぜか鼻を鳴らして胸を張った。

道流「はぁ。じゃあねぎまお願いします」

杏花「あいよ!……あ、塩とタレどっちにする?」

そう問いかけた瞬間亜樹が、

亜樹「いやいや杏花ちゃん、うちは塩しかないから!」

と、杏花の胸に手の甲をポンと当てた。

杏花「おっとそうだった!失敬失敬」

それから杏花は、何事もなかったようにねぎまを焼き始めた。

亜樹「お兄さんお酒はどう?今なら私が愛情『一杯』注いであげるよ?あはは」

亜樹は笑いながら、グラスに久保田ちゃんを注ごうと傾けていた。

しかし道流は、壁にかかっている時計を見て、

道流「……亜樹、お酒はいいよ。また明日もあるし、ご遠慮します」

と残念そうに言った。

すると亜樹は、テーブルに身を乗りだし、

亜樹「えー?なんでよ?そんなこと言わないでさ、うちにちょっと『酔って』行ってよ。なーんつって。あはは」

まるで渾身のダジャレを言えたといわんばかりに大笑いした。

道流はいたたまれない気分になった。けれど、結局それから、ながーい夜を過ごした。

翌朝。

道流は支度をする際に、杏花に今回のいきさつを手短に聞いた。本来の予定では、当初ホテルに滞在する予定だったらしい。でも、事前に事情を聞いていた亜樹が、「それだったら家においでよ」と提案したそうだ。

道流は思った。確かに、『やらかした』ことでの講習であり、スキルアップやキャリアアップ、はたまた後輩の育成に役立つ講習ではないのでわざわざ実費を払ってまでホテルに泊まるのもどこか歯痒い。

二週間程度なら、家に泊めてあげた方が財布に優しいのはもちろん、何より亜樹が喜んでくれるから、俄然道流には嬉しかった。そう考えると、もう断るという選択肢はなくなった。

そして道流は笑顔で、もちろん杏花ちゃんならウェルカムだよ。と杏花を迎え入れたのだった。

道流と杏花は会社に出勤するために駅のホームで電車を待っていた。

杏花は久しぶりに見るその混雑具合に、眉間に皺を寄せてうんざりしていて、あのときはよくこんな電車に乗っていたよ、という声はげんなりしていた。

本来杏花は、東京ではなく地方の営業で活躍しているのだが、出勤も営業の外回りも車なので、自由気ままな杏花にしてみればこんな満員電車は余計鬱陶しく感じるのかもしれない。

今回は、『やらかした』ということの代償。講習が義務付けられてしまったのだから、二週間は自業自得というか我慢するしかない。

ただ道流は、その理由をまだ聞いていなかったので、あとであらためて訊いてみようと思ったのだった。

それから電車が到着すると、人の波が一斉に乗り込んでいく。

杏花「もう、押さないでよ」

グイグイと押し込んでくる乗客の背中に向かって、杏花は言った。

道流「まあまあ杏花ちゃん。みんな同じなんだからさ。それに少しの辛抱だよ」

そう言って、道流は上手く杏花の正面に小さなスペースを作ってあげた。

杏花「お、さすが道流君。紳士だねえ。ありがとう」

道流「いいえ。これくらいお安いご用ですよお嬢さん」

道流が笑顔を見せると、電車が走り始めた。

それからしばらくの間、杏花は見覚えがあるのか、窓の外を眺めていた。

そして、ふと心配そうに声を出した。

杏花「……亜樹、大丈夫かな」

道流「いつものことだよ」

そんな杏花の言葉に、道流は素っ気なく答えた。

昨晩、かなりのお酒を飲んでいた亜樹は案の定二日酔いで、道流と杏花が家を出る直前まで「気持ち悪いー」と悶えながら唸っていた。

道流「でもさ、杏花ちゃんは大分お酒に強くなったね。僕ビックリしたよ。以前なら、絶対亜樹と一緒に潰れてたはずなのに」

杏花「ははっ。確かにね。でも、私が強くなったんじゃなくて、多分亜樹が弱くなったんでしょ。昨日飲んでて、私はそんな感じがしたよ」

その言葉に、道流はハッと思い出した。

道流「あー確かに。そういえば、最近……いや、飲んではいるけど、言われてみると昔ほどではなくなったね」

杏花「でしょ?亜樹も大人になったのね」

そう言って、杏花はふふっと笑った。しかし道流が、

道流「講習を食らってる杏花ちゃんがよく言うよ」

と嫌味を込めて言うと、

杏花「もう、それはほっといてよ」

少し恥ずかしかったのか、道流のお腹をトンとつついた。

しばらくして、道流は額に滲んでいた汗をハンカチで拭った。車内は乗客でひしめき合っていて暑苦しかったけれど、冷風が効いたので幾分マシだった。けれど、やはりこの圧迫感は今だに馴れない。

道流は心底、会社がなぜ車での通勤を認めていないのか理解できなかった。許可してくれれば、すぐにでも車を買うのに、と心の奥で誰に向けているのかもわからない愚痴を吐露した。

それから電車の振動に合わせてユラユラ揺れながら、道流は携帯で業務を確認している杏花を眺めた。

赤みがかった長い巻き髪。身長は道流より一つ二つ目線が低いけれど、それでも170くらいはあるスラッとした体型。でも、優衣香のように線が細いモデルみたいな印象ではなく、美雪と同様に、スポーツなどを活発にしているような健康的な身体だ。

昔一緒に仕事をしていた頃は意識していなかったけれど、よく見れば亜樹や美雪以上に色気溢れるスタイルをしている。それに胸も大きく、ピンクのブラウスシャツをこれでもかというくらい押し上げている。

道流は、EかFくらいだろうか……と目を見開き観察したけれど、いやいやそれはダメだぞ道流、と胸の奥で呟いた。

杏花は人妻で、地元に帰れば愛する旦那さんがいるのだ。そんな女性に、こんなスケベな眼差しを向けてはいけない。道流は名残惜しそうに目を逸らした。

けれどその直後。意識の風向きが変わったのか、杏花の香水が優しくスーっと鼻の奥に香ってきた。その匂いは桃色を連想させ、特別甘くなく、思わず嗅いでしまいたくなるほど絶妙な加減のいい匂いだった。

事実、回りの男達も振り返り香っているし、一度といわず二度、三度と杏花をチラチラと覗いていた。中には目を離せなくなっている者もいて、どうやらその美しさに魅力され、心を射貫かれてしまっているようだった。

あらためて道流は、こんなに近くにいたのに杏花の魅力に気づいていなかったんだな、としみじみ感じ、これから二週間同じ屋根の下で一緒に過ごすことを想像したらワクワクして興奮してしまって、道流はいつものスケベな顔になった。

と、そのとき。突然「カシャ」というシャッター音が車内に響いた。

一瞬の出来事だったけれど、乗客は何事かと慌ただしくなり、一斉に音のする方に顔を向けた。当然それは、道流も同様だった。

けれど、その先に不審な光景はなく、盗撮だと考え携帯を構えている者がいないかと思ったけれど、そんなことはなかった。

道流が、ふぅ、と息を吐くと同時に、車内にあった妙な緊張感も消えていった。

会社に着くと、杏花は優衣香や美雪、真琴と挨拶を交わした。それから匂いというのか、オフィスの雰囲気を数年ぶりに懐かしんでいた。

ときおり、杏花のことを覚えていた社員が声をかけてきて、杏花は嬉しそうに昔話に花を咲かせていた。

けれど、講習の時間がやってくると、面倒くさ、と言って、重い足取りで集合場所に向かって行った。

道流達は通常業務なので、いつも通りデスクに向かい、お昼休みに杏花がどんな顔をして戻って来るのか密かに楽しみにしていた。

そしてお昼になり、いつもの応接室……。

さっそく杏花は、昼食のサンドイッチを食べながらみんなに愚痴をこぼしていた。

杏花「はぁ。最悪〜。もう帰りたい〜」

優衣香「講習って、何をやってるんですか?」

優衣香は湯気が昇る紅茶を飲みながら問いかけた。

杏花「あれよあれ。社会的な常識とかモラルがどうのとか、社員の心得はどうのとか、第何条とか―――」

杏花はなげやりに答えた。

杏花「ともかく聞くだけ無駄よ。私みたいな問題児ならともかく、優衣香さんみたいな真面目な子なら、こんなの受けることないから」

優衣香「真面目だなんてそんな……。あ、あと杏花さん、私のことは優衣香でいいですよ」

杏花「そう?じゃあ遠慮なく。優衣香はないだろうけど、道流君はありそうだね。あと、真琴ちゃんね」

真琴「ほぇ?私ですか?」

道流「へ?なんで僕?」

二人はすっとんきょうな声を出した。

杏花「はははっ。亜樹が言ってたよ、二人とも変態だって。しかも筋金入り」

真琴「もうっ何度も言いますけど、それは心外ですっ。私は趣味なだけです!」

道流「いや真琴、それもどうかと思うぞ。それより杏花ちゃん、昨日言ってた『やらかして』ってさ……」

杏花「あーそれ?営業先の腐れジジイがセクハラしてきたから思いっきりひっぱたいてやったの。そしたらご覧の通り。まあ、上司に事情を説明したらわかってもらえて、そしたら結果的に講習で済んだわけよ」

道流「まったく。ちゃんと上司にお礼を言うんだよ」

杏花「はいはい。でも元はと言えば上司が悪いんだけどね。そのジジイは昔からセクハラで有名だったんだよ。だからそんなところに私を行かせたのが間違い。結論、私は悪くありません」

すると真琴が、

真琴「ちなみに、どんなことをされたんですか?」

と、デリカシーのない質問をした。

道流と優衣香は、なぜそんなことを訊くのかと思ったけれど、そこはつくづく真琴だった。

真琴は平静を装うように、懸命に下心を見せないよう堪えてはいるが、徐々に鼻の下は伸びていき、いつもの変態な真琴になりつつあった。かなり気持ち悪い顔だ。

杏花「どんなことって……太ももとかお尻を触られたり、スカートの中を覗かれたり……あーあと、胸に顔を埋めて来たり。まあでも、それがジジイの最後だったわね」

と、杏花が何気なしに答えた。

それを聞いた真琴は、やはりというか、興奮して鼻息が荒くなった。顔も赤くなっているし、頭の中では、杏花がセクハラせれている映像が鮮明に映し出されているのだろう。

道流はため息をついた。

優衣香「私、凄く憧れます。杏花さんみたいなカッコいい女性」

杏花「ホント?ありがとう。嬉しいなあそう言ってもらえて」

道流「そういえば昔から杏花ちゃんはモテてたよね。とくに同性に。みんなカッコいいとか、美人とか、頼れるお姉さんとか、色々言ってたよ」

杏花「でしょ?本当に罪な女なのよ、私って」

そう言い終えると、杏花は恥ずかしいそうに顔を赤くして笑った。

それからしばらくして、美雪が応接室にやって来た。けれどその手には、手紙だろうかピンク色の封筒があった。

真琴に、「ラブレターですか?」と問いかけられると、美雪は首を横に振って杏花に手渡した。

私?と杏花は疑問に思ったけれど、さきほどの話の続きではないが、さっそくその美貌に心を奪われてしまった人がいるのだろうと、道流達は納得した。

杏花「どれどれ……」

杏花は封を切り、便箋を取り出した。

そして軽く目を通したあと、

杏花「あらま、これ男からの手紙だわ。ははっ、困った困った」

杏花は苦笑いをした。

美雪「なぜですか?」

杏花「そりゃ人妻だもん。こういう気持ちは嬉しいけど、ちょっと遅かったね」

真琴「なんて書いてあるんですか?」

と、真琴が無神経に言ったので、すぐに美雪が、

美雪「真琴、それは相手の人に失礼だよ。ラブレターは特別な物なんだから、読めるのは貰った人だけだよ」

と言って止めた。

真琴「えー、だってー」

真琴は駄々をこねる。

杏花「はははっ。さすが美雪ちゃんはしっかりしてるね。でも、真琴ちゃんの気持ちもわかるよ。こういうの気になるもんね」

杏花は同情した。

真琴「はい!凄く気になります!」

杏花「で〜も、やっぱりダメぇ。確かに美雪ちゃんの言うことの方が一理あるしね。ごめんね真琴ちゃん」

すると真琴は、ガックリと肩を落とした。

そして、杏花の講習一日目は何事もなく終わった。

この日道流は、定時で仕事を終えることが出来たので、杏花と二人で会社を出た。

それから電車に乗り込み、亜樹が待つ家へと急いだのだが、電車に乗って十分ほどが経った頃、杏花が道流に質問した。

杏花「ねえ道流君てさ、ラブレターとか書いたことある?」

道流「ううん。どうして?」

杏花「実はさ、私初めてなんだよね。ラブレターの返事を書くのって。同性は何度もあるんだけどね」一度苦笑いをして「だからさ、どう書けばいいのかなって思って」

道流「あーなるほどね。ごめん、これ訊いていいのかわからないんだけど、相手って会社の人でしょ?知ってる人?」

すると杏花は、渋っているのかすぐには答えず一つ間を置いた。

道流「杏花ちゃん?」

杏花「……うん、それがさ、名前が書いてないんだよね」

道流「え?ラブレターなのに?」

杏花「だから、最初は返事を書く必要なんてないかなって思ったんだけど……。よく考えたら、この人シャイなのかなって」

道流「どうしてそう思ったの?」

杏花「あのあと美雪ちゃんに教えてもらったんだけど、このラブレターは美雪ちゃんのロッカーに入ってたそうなの。ということは、当然女性が頼まれてロッカーに入れたってことでしょ?男が女子更衣室に入るわけないからね」

杏花は一度頷き、続けた。

杏花「今の段階で考えられる相手像は、とてもシャイでピュアな男の子。異性の友人が多く、おそらく若い幼気な新入社員てところかしらね」

そう言ったあと、杏花は満足気に頷きドヤ顔で道流の顔を見た。

道流「ホントかなー」

道流は首を傾げる。

杏花「だってそうでしょ?顔はわからない、名前もわからない、手紙は人伝い。これは自信がないっていう証拠でしょ」

とそのとき、道流はあることに気づいた。

道流「あれ?でもさ、名前がわからないのにどうやって返事を渡すの?」

杏花「それがね、ラブレターの……うーん、そろそろめんどくさいな。手紙ね、手紙の最後に書いてあるのよ。その方法が」

しかしその瞬間、道流は何か引っ掛かるものを感じた。ただ、それを説明できるほどの明確な理由はなく、本当にただなんとなくだった。

けれど、そう感じただけに見て見ぬふりはできず、道流は駄目もとで訊いてみた。

道流「杏花ちゃん、もしよかったらその手紙見せてもらえないかな」

ところが、道流の考えとは裏腹に、杏花はあっけらかんとして、

杏花「いいよいいよ」

二つ返事で見せてくれた。

道流は手紙を受け取り拡げた。

【美倉杏花さんへ……。突然のお手紙をお許し下さい。

ですが、どうしても、僕はこの気持ちを綴らずにはいられなかったのです。僕は初めてあなたを見た瞬間から、まるでコンサートホールに鳴り響くシンバルのように、恋の音色が高鳴り続けているのです。寝ても覚めても、その音は止まらない。むしろ、あなたを瞳に映す度に、さらに大きくなってしまうのです。

そう、すさんだ日常に舞い降りた天使。そう、僕のエンジェル。どうか僕の恋を、その微笑みで包み込んで欲しいのです。もしそれが、許されるなら、あなたが僕を認めてくれるのなら、お返事をお待ちしています。

僕はしがないサラリーマンです。手紙はオフィスの十階、今は使われていない隅の部屋にある机の引き出しに入れて下さい。あなたの騎手より】

道流「……オェ」

それから家に着き……。

亜樹「……オェ」

そのあまりの気持ち悪さに、亜樹も道流と同じくえずいた。

杏花「そんなに変?」

亜樹「変も変だし痛いし見てるこっちが恥ずかしいし。それに支離滅裂で、後半やっつけみたいだし、しかも騎手ってさ、騎士の間違いでしょ。あと、興奮してるのか知らないけど、なんか圧が凄い、この手紙」

杏花「そう?」

そう言われて、杏花はもう一度手紙を広げた。

道流は帰宅すると、その気持ち悪さにすぐ手紙を亜樹に見せた。すると、やはり亜樹も道流と同じリアクションをした。

さきほど杏花はシャイだのピュアだの予想していたが、この文面からはまったくそんな感情は汲み取れない。道流は言った。杏花の価値観というか、見る目がなさ過ぎる、と。でも、そう言いたくなるのも仕方がない。

それに、亜樹も同様の思いを抱いているようで、隣に座りながら手紙を読む杏花の顔を、冗談でしょ?という面持ちで眺めている。

すると、

杏花「うーん、わかんね」

と言って、手紙を折り畳んだ。

亜樹「杏花……私の知らないところで頭を打ったのね」

杏花「いやいや打ってないから。私は正常よ」

道流「こんなふうに言うのも悪いけど、相手にしなくていいと思うよ。なんかこの相手、少し変だよ」

亜樹「うん、私もそう思う」

杏花「そう……かなぁ。まあでも、二人がそう言うならそうなのかもね。でも、とりあえずお断りの返事だけ書くよ。一言二言だけ。よし、じゃあお風呂だ」

杏花はそう言って立ち上がった。

亜樹「おっ、じゃあ私もー」

つられるように亜樹も立ち上がる。

でもなぜか、リビングでしかも道流が目の前にいるにも関わらず、亜樹と杏花は服を脱ぎ始めた。

道流「ちょちょちょっ!脱衣所で脱ぎなよ!」

杏花「え?別にいいじゃん」

道流「良くない!」

それでも杏花はお構いなく、ピンクのブラウスのボタンを外し脱いでしまった。

道流は顔を真っ赤にして目を瞑った。

亜樹「はははっ。道流もシャイなのねー」

道流「からかわないでよ」

杏花「私さ、普段家では下着一枚で過ごしてるからどうも窮屈なのよ。服着てると」

それから二人は、何か企んでいるのかお互いに顔を見合せ、

亜樹「ほら、もう大丈夫だから見ていいよ」

と亜樹が落ち着いた声で言った。

道流はふぅー、と息を吐いて、

道流「まったく」

目を開けた。だがそこには、ブラとパンティ姿になった亜樹と杏花がいた。

道流は再び、急いで目を閉じる。

道流「もうっ!」

杏花「あはは。大成功だったね」

亜樹「ねっ。ごめんね道流」

亜樹と杏花はしてやったり、パンと手を合わせた。

勘弁してくれよ、と道流は暗闇の中で嘆くのだが、目を瞑っていると逆に思い出してしまう。

鮮明に浮かんでくる亜樹の純白のブラとパンティ、そして真っ赤なブラとパンティを身に付けている杏花。しかも、二人とも綺麗な裸だった。それに、立っ派な谷間をお持ちになっていた。

Eカップの亜樹と、それよりも少し大きい杏花のおっぱい。道流は心中で呟いてしまった、挟んでほしい、と。

亜樹「もう、道流!」

道流「え?」

亜樹「しーたっ!」

目を開けた道流は、自分の股関を見て驚愕した。

道流「はっ!?」

スーツのズボンが大きく膨らんでいた。形も、向きも、一目瞭然なほどに。

杏花はクスクスと笑い、亜樹はなぜか怒っている。

亜樹「道流のエッチっ!」

道流は、なんでよ!?と納得がいなかった。本輪と言えば、そんな魅力的な身体を見せつける二人が悪いのだから。

でもよくよく考えると、見慣れた亜樹の下着姿ならここまで勃起することはない。ということは、その原因は必然的に杏花ということになる。

道流は時間差で、亜樹が怒る理由を理解した。

杏花「ふふっ。道流君もピュアなのね。ありがとう私で勃起してくれて」

杏花は意地悪く、しかもわざとらしく言った。道流は、

道流「勘弁してよ〜」

と、形上そう言ったけれど、実をいうと内心はちょっぴり嬉しかったのである。道流は密かに、二人の下着姿を、はっきり言うと杏花だけれど、今夜のオカズにしようと思ったのであった。

翌日。杏花は返事を書いた手紙を、指定された部屋の机にそっとしまった。

結局、道流と亜樹の言っていた通りで、朝あらためて手紙を読み直してみると気分が悪くなった。

前日の自分はいったいなんだったのだろうかと思うほど、もしかしたら久しぶりの手紙に、らしくなく浮かれていたのかもしれない。

そしてお昼が過ぎた頃には、すでに手紙のことは忘れていて、頭の中は仕事のことでいっぱいになっていた。

けれど、そんなあるとき。一人テラスで休憩していると、美雪がやって来た。

杏花「あれ?美雪ちゃんも休憩?お疲れちゃーん」

美雪「お疲れ様です」

しかしその手には、また封筒が握られていた。

杏花「ん?また?」

美雪は困ったように言った。

美雪「はい、ロッカーに入ってたんです」

杏花は封筒を受け取り、裏面を確認した。案の定差出人の名前はない。

杏花「困ったね。断りの返事は書いたんだけど……。あ、あれかな、やんわりとし過ぎたかな、断り文句」

美雪「そうなんですか?ただ単に、そのお断りの手紙に対する返事なんじゃないですか?」

杏花は少し考えて、

杏花「あー、なるほどね。『おやすみ』って送ったあとにまた『おやすみ』って返す感じね」

と言った。

美雪「そうです。ただ、内容は見ていないのでわかりませんけど」

杏花「うん、そうかもね、わかった。ありがとう美雪ちゃん。何度も届けてくれて」

美雪「いえいえ」

美雪はそう言うと、仕事に戻って行った。

杏花は回りを見渡し、封筒から手紙を取り出して読んでみた。

【美倉杏花さんへ……。お返事の手紙、読ませていただきました。とても残念です。引き出しに入っているあなたの手紙を見たとき、僕は心が弾み、そして身体が躍りました。でも内容は、僕が期待するものではありませんでした。

杏花さん、あなたはご結婚されていたのですね。僕は知りませんでした。あなたを妻として迎えられた旦那様を、僕はとても羨ましく思います。仕事をこなすあなたは、綺麗で優雅で勇ましい。でも、家庭で見せる顔は、いったいどんな姿なのですか?きっと、とても素敵なのでしょうね。

……ごめんなさい、僕はやはりあなたのことが大好きです。だから、これで終わりだなんて思いたくありません。もし、許されるのなら、せめてお手紙でも構わないので、お話をしませんか?僕はあなたを、いつも近くで見ています。あなたの騎手より】

杏花は手紙を封筒に戻し、そしてため息を吐いた。

これはもしかしたら、泥沼に片足を突っ込んでしまったのかもしれないと思いいぶかしんだ。

もう関わるのはやめよう。杏花は手紙を無視することにした。

また翌日。

朝、杏花が会社に着くとデスクには封筒が置かれていた。

杏花はすぐに封筒を手にするとその場を離れ、人目につかないところで手紙を開いた。

【美倉杏花さんへ……。なぜなのですか?僕はこんなにも、あなたを思っているのに、あなたを愛しているに。そんな僕の気持ちを無視するのですか?

ねえ杏花、僕は君をいつも近くで見ているんだよ?今日も、昨日も……。それに、君の友人達も……美しい方達ですね。あー、ときめいてしまいそうです。夜空を流れる星のように、一瞬の儚い気持ち。でも、そんな夜空の中心には、いつだって満天の輝きを放つ、杏花がいるのです】

とそのとき、杏花は封筒の中にもう一枚何かが入っていることに気づいた。

取り出してみると、なんとそれは道流と一緒に電車に乗っているときの写真だった。杏花の斜め後方から撮られた写真。ピンクのブラウスを着ている、講習初日の姿だった。

杏花は寒気を感じた。そして、キョロキョロと辺りを確認した。もしかしたら、今この瞬間も見ているかもしれない。そんな恐怖を感じたからだ。

でも、何度確認してもそこには自分しかいないし物音一つしない。考え過ぎだろうか……。

杏花は様子を見ることにした。それに、今は道流と亜樹にお世話になっている、だからあまり余計な心配をかけたくなかったし、何より自分のことで巻き込みたくなかった。

だから解決出来るなら、一人で何とかしてみようと思い、また返事を書くことにした。ただ、この前と同じように書いてはラチがあかない気はした。けれど、ここで相手を怒らせたり挑発したりすることは逆効果だと思い、もう一度丁寧に書いてみることにした。

そして、また翌日。

杏花は手紙を見て驚愕した。

なんと手紙に添えられていたのは、スカートの中を盗撮した写真だった。

真っ赤なパンティが、逆さ撮りされていたのだ。

なんで?杏花はわけがわからず、写真を握る手には汗が滲んだ。しかも、その写真は社内で撮られたものだった。

杏花は意を決して手紙を開いた。

【美倉杏花へ……。返事をありがとう。でも、僕はもう止まれないんだ。君が僕の前を通り過ぎる度にその邪魔な服を脱がしてしまう。

そういえば、その真っ赤なパンティ、君に似合ってると思うよ。僕は毎日、杏花のパンティでオナニーしているんだ。君にわかるかい?愛する人のパンティでオナニーする、この快感が。ちなみに、昨日のパンティは杏花の心の色を映しているような、真っ白なパンティだったね。今日は、その写真でオナニーするよ。……杏花、僕は君が欲しい。あなたの騎手より】

そしてまた。

【僕の美倉杏花へ……。ねえ杏花、もう我慢できないよ。毎日、毎日、毎日毎日毎日、僕は君を思いながら君のパンティでオナニーしているんだ。もういいだろ?僕のこの気持ちをわかってくれているだろ?なら、そろそろね、杏花の裸が見たいんだ。

それに、杏花とセックスもしたい。杏花のおっぱい、乳首、おけけ、おまんこ。食べたいよ。あぁぁぁ、食べたい食べたい食べたい!杏花、いいだろ?ね、いいよね?返事、待ってるからね】

この日、杏花は仕事が手に付かなかった。

無理もない。これは所謂ストーカーの所業。初めての経験だったから。

杏花はデスクでボーッとパソコンの画面を眺めていた。

するとそこに、優衣香がやって来た。

優衣香「おはようございます杏花さん」

杏花「ああ優衣香、おはよう」

優衣香「お疲れですか?あまり元気がないようですけど」

杏花「ううん、別に。それで?珍しいね、優衣香が、というより優衣香の部署がここに用って」

優衣香「あ、いえ、実は杏花さんに渡す物があって」

杏花「え?」

その瞬間、杏花は身構えた。また?そう思ったからだ。

それに、美雪のロッカーではなく、今度は優衣香?杏花は血の気が引いていく感覚を覚えた。

優衣香「先日真琴ちゃんが、知人からお土産をもらったそうなんです。でも一人じゃ食べきれなくて、だからそのお裾分けです」

そう言って、優衣香は袋から三つほど小袋を杏花に渡した。

杏花「お菓子?」

優衣香「はい、クッキーだそうです。さきほど美雪ちゃんが食べていましたけど、凄く美味しかったって言ってましたよ」

杏花「そうなんだ。じゃあありがたく。あとでお礼言わなきゃ」

優衣香「……」

優衣香はやはり気になった。杏花らしくない、それが気になった一番の理由だった。

杏花は亜樹と似ている。優衣香はわかっていた。普段から天真爛漫でムードメーカー、それに姉御肌の亜樹が、以前思い悩んでいたとき、親友の優衣香にはすぐにその変化が感じ取れた。

表情とか言動とか、表に出さずとも優衣香は掬い取ることができた。

今の杏花の表情も、まさにそれ。亜樹が悩み落ち込んでいるときとまったく同じ雰囲気をしていたのだった。

優衣香「杏花さん……」

とそのとき、道流がフラっと部署にやって来た。

道流「あれ?優衣香も来てたんだ?」

優衣香「道流さん」

杏花「あらあら、どうしたの?」

道流「杏花ちゃん、今日も一緒に帰れそう?」

杏花「うん、それは大丈夫だけど、そもそも残業があるとしたら道流君でしょ。人の心配?」

優衣香「あはは。それはごもっともですね」

優衣香はクスクスと笑った。

道流「ほっとけ。……ああそれで、亜樹が食べたいものがあるから帰りにデパ地下で買ってきてだってさ。だから帰りに、二人で寄って、夕食の材料も一緒に買おうかなって思って」

杏花「それくらい全然、おっけーだよ」

道流「……杏花ちゃん、なんか元気ない感じ?」

杏花「え?もう、なんで二人とも同じこと訊くのよ。私は大丈夫よ。ホント心配性ね」

優衣香と道流はお互いに顔を見合わせた。

道流は杏花の後ろに立ち、両肩をマッサージするようにして揉んだ。

道流「最近夜遅くまで亜樹に付き合ってくれてるでしょ?だから、それで疲れてるのかなってさ。ありがとう杏花ちゃん」

杏花「もう、何を言うのかと思ったら。私は亜樹が大好きだからさ、それにせっかく道流君や亜樹、みんなと一緒にいるんだから今楽しまないともったいないでしょ?だから全然、疲れるどころかむしろ刺激が足りないわよ。道流君、優衣香、サボって飲みに行く?」

優衣香「ふふっ。私は構いませんよ」

優衣香は悪戯っ子のように微笑む。

道流「こらっ、調子に乗らないの。今度は講習じゃ済まなくなるよ。だから、週末かな。みんなでね、約束だよ」

杏花「そうね。うん、約束」

道流「……」

優衣香「……」

二人は部署をあとにした。それから、優衣香は道流を誘ってテラスへと上がってきた。

優衣香「やっぱり気になりますよね」

道流「うん。実はさ、亜樹も言ってたんだよね、杏花のこと。いつもと違うって。……あ、そういえば手紙はどうなったんだろうね。一通目以来聞いてなかったからさ」

すると、優衣香は視線を足元に向けた。

道流「優衣香?」

内側の胸ポケットから、優衣香は封筒を取り出した。

道流「なんで優衣香が?」

優衣香「私のロッカーに入っていたんです。それで、私思ったんですけど、杏花さんの様子が変わったのって手紙をもらってからじゃないですか?」

道流「あーそうかも。……うん、そうだそうだ!あの気持ち悪い手紙」

優衣香「だから、この手紙を渡そうかどうか迷ってて。もちろん勝手なことをしてるのはわかってるんです」

道流「中身は?見たの?」

優衣香「いえ、まだです」

道流「見せて」

優衣香「え?いいんですか?」

道流は優衣香の問いには答えず、封筒を受け取り手紙を取り出した。

【杏花……。昨晩、僕は君を何度も抱いたんだよ。綺麗な形のおっぱいだね。くびれも美しい。おへそをねっとりと舐めたら君は可愛らしい声を出してくれたね。興奮したよ。そのあとは、長い時間、杏花のおまんこを味わった。どうだった?気持ちよかったでしょ?僕もたまらなく美味しかったよ。

でも、ちょっとやり過ぎちゃったね。おまんこの回りが赤くなっちゃって、ふふっ。ごめんね杏花。もう、誰にも僕達の中を引き裂くことはできない。これからもずっと一緒だよ杏花】

道流「……オェ」

優衣香「あれ?道流さん、封筒の中にまだなにか入ってますよ」

道流「え?」

道流は封筒を確認した。中には三枚の写真が入っていた。

一枚目は杏花の上半身を写したもの。二枚目はアップで唇を写したもの。そして三枚目は、スカートの中を逆さ撮りしたもの。青いパンティが、これでもかというほど近くから接写されている。お尻の輪郭がハッキリわかり、鼻を近付ければ杏花の匂いが香ってきそうなほど、手を伸ばせばその肌に触れられそうなほど鮮明に写っている。

道流は怒りが込み上げていた。姑息で、卑劣で、汚い。歪んでいる。

おそらく男は、かなり手馴れている。相手に気づかれず、卑猥な写真を撮影することに。

優衣香「道流さん、男はこの社内の人間です」

道流「うん、わかってる。しかも、杏花の人間関係にも詳しい人物だよ。一通目は美雪、そして優衣香。でも、なんで二人なんだろう?直接渡せば……顔を知られずに渡すことなんて、そんな難しいことじゃないと思うんだけど。優衣香、この手紙のことは……」

優衣香「はい、黙っています。道流さん、私達で捕まえましょうね」

道流「そうだね。でも、気をつけるんだよ。相手は僕達のことも知ってるからね」

優衣香「はい」

「……」しかしそのとき、二人に怪しげな視線を向ける男の姿があった。

―――

翌朝。

優衣香は満員電車に乗っていた。相変わらずの混み具合に、思わずため息を吐いてしまいそうになる。

ただ、この日の電車はいつもと違っていた。一人の男が、優衣香のすぐ後ろに立っていた。その男は頭一つ優衣香より高く、すでに鼻息を荒くして、血走った瞳を優衣香に向けていた。

そして優衣香は、ビクッと身体を硬直させた。なんと太ももを、男の手が揉んだのだ。

痴漢?優衣香はそう思った。

しかし以前にも、優衣香は何度か痴漢に遭遇したことがある。そのためか優衣香は慌てていなかった。落ち着きながら、一度男の手を払った。

すると男は何を思ったのか、優衣香の膝上丈のスカートを強引に下ろそうとしたのだ。

優衣香は突然のことに驚いた。とっさに手でスカートを抑えたけれど、穿いていたスカートはウエスト部分がゴムだった。ファスナーも、ベルトもなく、拒む物はなかった。スカートは男の力に呆気なく脱がされてしまった。

優衣香の全身に恥ずかしさが一気に広がって真っ赤になり、すぐさま回りの乗客を見渡した。

ただ、運がよかったのか悪かったのか、優衣香がいる場所は車両の隅だったので、人の目には触れていなかった。近くにいる乗客はみな背中を向けていたし、耳にはイヤホンをして携帯を触っているばかり。

優衣香の異変には、誰一人気づいていなかった。

だがそんな状況をいいことに、下半身がピンクのパンティ一枚になった優衣香を男は再び触り始めた。

太ももやお尻をいやらしく揉んでくる。その際に、指先はパンティの上からおマンコを弄る。

優衣香は羞恥に耐えながら、必死にもがいた。

しかし、男はそんな優衣香に腹が立ったのか、左手で優衣香の口を抑え、

「動くな」

と言った。その声は低く、ドスの効いた鋭い声だった。

優衣香は恐怖を感じ、この痴漢は今までとは違う、そう思った。それが直感なのか本能なのかはわからなかったけれど、優衣香の身体の中にある何かが警告を発していた。

とそのときだった。「チョキ」という音がかすかに聞こえた。

優衣香は戦慄した。なんと、男は右手にハサミを持っていたのだ。

そして、わざとそれを見せつけるようにして優衣香の顔の前に運んだ。

優衣香は身体が硬直してしまった。自分の意思では指一本動かせないほどに。

男はハサミを、優衣香の肌伝いにゆっくりと下ろしていき、やがてパンティの上で止まった。

優衣香はまさかと思った。

しかし、そのまさかの予感は当たってしまう。

男はパンティの右側の腰部分を、ハサミでバッサリと切ったのだ。

パンティは無残に左側だけを残して開いてしまった。優衣香の陰毛とお尻の右側が露になる。

男は耳元に顔を近づけ、興奮しているのか、荒くなった呼吸を吹き付ける。

そして男の右手が、パンティの開いた部分からおマンコに入ってきた。

優衣香は漏れそうになる声を、必死に我慢した。

おマンコの中で、人差し指と中指が暴れる。男は濡れていようがいまいが関係なかった。上下にズボズボ、前後にジュブジュブと動かした。

次第に、感じてきてしまったのか膝に力が入らなくなった。それに乳首が勃起していた。固く卑猥に、ポツリと白いシャツに浮かび上がっている。

優衣香は何も考えられなくなっていた。男の指使いと、電車の中での痴漢。他の乗客に見られてしまうかもしれないという羞恥が、余計優衣香を感じさせる。

突如、男の手が止まった。

優衣香が、え?と思ったのも束の間、男はなんと、今度はシャツの中にハサミを入れてきた。

冷たい感触が背中を伝う。

そして次は、ブラのホックを切ってしまったのだ。

優衣香は顔を悲痛に歪めた。

でも男は、さらに切った。背中と肩の部分、脇の下の部分も。

無残になったブラは、かろうじて優衣香の身体に残っていた。

しかしそれも、男の手によってシャツの中から引き抜かれてしまう。

優衣香は、もう見たくなかった。壁にうっすらと反射する自分の姿が、とても見ていられる格好ではなかった。目を背けたくなった。

口を塞がれ、シャツには勃起した乳首がハッキリと浮かび上がっている。パンティは不自然に開かれ、陰毛は露呈し、そこには男の指が蠢いている。

早く終わってほしい。優衣香は、心の奥で悲願した。

でも、その願いは届かない。

男はハサミで、残っていたパンティの左側を切り裂いた。パンティは前後に割れるが、男はすかさず掴み取り優衣香の耳元で匂いを嗅いだ。

スーっと、大きく何度も呼吸を繰り返した。

やがて満足したのか、男はパンティをしまうと今度はシャツを捲り上げた。

ここで、優衣香はついに裸にされてしまったのだった。

首元に、慰め程度にシャツが残っているが、もう何の意味もない。

男は口を抑えていた左手を解き、胸を揉みしだいた。右手はおマンコに再び入ってきた。

すでにおマンコの中は愛液で溢れ返っている。むしろ、優衣香の思いとは裏腹に、身体は猛烈に男を求めていた。

身体は覚えているのだ。今までの、過去の恥態を。

そして、もう限界だった。

優衣香「……もう……入れて」

そこで、声を漏らしてしまった。

すると男はどこから取り出したのか、その手には紐が握られていた。男は、優衣香の顔で結び目隠しをして視界を奪った。

それから男は、優衣香を少し前屈みにさせてお尻を突き出させた。

やがて、熱くて硬い何かが優衣香のお尻に触れた。優衣香の神経が全てそこに集まる。

そして、男は腰を掴み、グイっと優衣香の身体を引き寄せた。

男の肉棒が、深く突き刺さる。

優衣香「っ!……」

声にならない声が漏れそうになったけれど、優衣香はこらえた。

男はゆっくりと、でも力強く腰を打ち付ける。

その度に、頭の天辺まで快感が電流のように流れてくる。膝はガクガクと震え、腰が抜けそうになる。

男はさらに、肉棒を突き刺しながら、優衣香の身体を舐めた。

腕を上げさせ脇をベロベロと舐め、背中も存分に味わいながら舐め尽くした。

優衣香の顔を後ろに強引に向けて、その潤んだ唇を貪った。

口の中を舌で掻き回した。唾液をたくさん飲ませた。

男は、優衣香の身体を堪能した。

ようやくここで、終わりが近づいたのか、男は腰を打ち付けるスピードを上げた。

優衣香「うっ……あっ……っ!」

優衣香は必死に口を抑え、出そうになる声を我慢した。

そして、

優衣香「っっっ!……」

突然、男の動きが止まった。

それからゆっくりと、男は肉棒を引き抜いた。白いドロッとした精子を糸引かせながら。

それからしばらくの間、優衣香は放心状態だった。ただ我に帰ったとき、すでにそこには男はいなかった。

優衣香はハっとして、すぐに紐をほどき服を整えた。

このあと、ブラとパンティを男に盗られてしまった優衣香は、胸を手で隠し、おマンコから精子を滴らせながら電車を降りた。

同日の午後。

パートを終えた亜樹は、家路についていた。

背中には小さなバッグを背負って、ラフな黒のTシャツと青のジーンズ姿だった。

家の最寄り駅に着くと、いつもの道をゆったりと歩いていた。

夏の日差しが、強烈に地面を照らしている。

亜樹はあまりの眩しさに、手で日陰を作った。

そのまま歩いていると、正面から一人の男が歩いて来た。

でも、見えているのは胸辺りまでで、顔はわからなかった。

そして、ちょうどすれ違い様に、男は突然一枚の写真を亜樹の胸に押し付けてきた。

亜樹「ちょっと!」

亜樹が振り返り声を荒らげるが、男は意に返さず足取り早く遠ざかって行った。

亜樹「いったい何なのよ」

亜樹は理解出来ないまま、ただ怒りが込み上げていた。

けれど一度深呼吸をして気分を落ち着かせると、男に押し付けられた写真を見た。

亜樹「え?」

亜樹は愕然とした。

写真には、さきほどの優衣香の犯されている姿が写っていた。

亜樹「なんで?これ……」

亜樹は写真を裏返した。

そこにはなんと、『今から○○公園の男子トイレに来い』と書かれていた。

さらに、『喋ったらわかるな?』とも書かれていて、亜樹はすぐに意味を理解した。

記載されている公園は、亜樹が住んでいるマンションからそれほど遠くはなかった。ただ、その公園は昼間でも人がいない、幽霊公園と呼ばれている場所だった。

でも、考えることも悩むこともしなかった。たとえどんな目にあっても、亜樹にとって優衣香はかけがえのない親友。こんな写真を見せつけてきた男の、せめて顔だけでも拝んでやろうという強い思いで公園に向かった。

亜樹は歩いている最中、道流の顔を思い浮かべて、申し訳ない気持ちになった。

以前、亜樹は自分勝手なことをして道流に怒られた。危険な男の元に、道流に相談することなく行ってしまったのだ。

もちろん、道流は激怒した。当然だ。自分の大事な人が危険を犯したのだから。

でも、道流は抱き締めて許してくれた。

そのとき亜樹は、もう二度と道流を裏切らないと心に決めたはずだったのに、今、その約束を破ろうとしていた。

ごめんね道流、本当にこんな馬鹿な女で。でも今回は許してよね。

亜樹は胸の奥で、そう呟いた。

公園に着くと、亜樹は緊張しながらトイレに向かった。

トイレは箱形で、男女共に四つずつ便座が備えられている。比較的大きな公衆トイレだ。ただ、幽霊公園にはその大きさが目に余る。

トイレに入ると中はシーンとしていた。聞こえるのは蝉の鳴き声だけ。本当にここは公園なのだろうかと疑ってしまうほど不気味な雰囲気だった。

しかしそのとき、亜樹は後ろに気配を感じた。振り向こうとした瞬間、男の大きな手がそれを拒んだ。

亜樹は目と口を塞がれ、強引にトイレの一番奥の個室に連れて行かれた。

そして視界が晴れると、正面の壁にはメモが張り付けてあった。

『紐で目隠しをしろ』

男は紐を渡した。さきほど優衣香を縛っていた紐と同じ物だった。

そのとき、亜樹は一瞬の隙をついて男の顔を見ようと振り返った。男は即座にその視線から逃れようと顔を逸らした。

でも亜樹は、なんとかその顔を視界に捉えた。けれど、男は帽子に眼鏡、マスクをしていて結局誰なのかまではわからなかった。

ただ男は肥満体であり、そこそこ年齢のいった中年である気がした。すると、

「いいのか?」

と、意味深な言葉を男はこぼした。

亜樹はすぐに写真のことを思い出して、顔を正面に戻した。

亜樹「……それで?私をどうするの?」

緊張を悟られまいと、亜樹は冷静を装った。

「早く目隠しをしろ」

優衣香のときと同様に、低く鋭利な声。刃物を連想させた。

亜樹は大人しく、男から紐を受け取り自分で縛った。

暗闇が広がる。

「こちらを向いて、服を脱げ」

予想通りだった。おそらく、男の目的は身体だろう。あんな卑劣な写真を見せてくるような奴なのだから明白だ。

亜樹はゆっくりと振り返り、まずはバックを下ろした。

それからシャツを、両手で下から捲り上げて脱ぎ、ジーンズのファスナーをジリジリと下ろしてボタン外し、ストンと落とした。

亜樹は白い下着姿になった。

「全部だ」

焦らす亜樹に、男は冷たく言い放つ。

亜樹は観念したように、背中に腕を回しホックを外すとブラを取った。

豊満な胸が露になる。

見えてはいないけれど、男の視線が嫌というほど突き刺さる。

亜樹は恥じらいを感じた。

そしてパンティの縁に手をかけ、ゆっくりと下ろした。

「よこせ」

男はパンティを奪い取ると、また大きく匂いを嗅いだ。

男の呼吸が、聞きたくもないのに耳に入ってくる。凄く不快だった。塞ぎたくなるほどに。

「便座に座って、足を拡げろ」

亜樹は素直に従った。言われた通りの格好になると、男はさらに言った。

「オナニーしろ」

その言葉に、心臓が一つドクンと高鳴った。

亜樹は男に、ふざけんな!と言いたかったけれど、優衣香の顔が浮かび、男に対してどうしようもなく腹が立った。でも、ここで断れば必ずこの男はやり返してくる。男の印象は、間違いなく、そう思わせることができるほどのものをはらんでいる声だった。

亜樹は、人差し指をおマンコに当てがって、上下に擦り始めた。

しかしそのときだった。

「カシャ」シャッター音がトイレに響いた。

カメラ!?亜樹は驚きのあまり、息を呑んだ。

次第に、自分が置かれている状況が頭に鮮明に浮かんできた。

オナニーしている自分を、男はカメラに収めた。ということは、また誰かを同じように脅すつもりなんじゃ?その瞬間、亜樹は悔やみ、後悔した。

浅はかだった。……また、道流に怒られかな、亜樹はそう思った。

「早くしろ」

従うしかなかった。

でも、亜樹は気づいていなかった。身体は意思に反して、感じているということを。

亜樹は足を大きく拡げ、さらにおマンコを拡げた。なんで?何をやっているの?こんなこと嫌なのに。

しかし止まらない。亜樹は左手で、乳首をクリクリと捏ね回す。徐々に、どんどん固くなっていく。

「カシャ」

おマンコから濃厚な蜜がこぼれてきた。亜樹の指が、蜜を絡ませ妖艶に光っている。

やがて、亜樹は両指でおマンコを拡げクリトリスを露出させた。

「カシャ」

そして摘まみ、捏ね回し、引っ張った。

亜樹「あっ……はっ……あん」

甘美な声が漏れる。

「カシャ」

クチュクチュと、卑猥な音が鳴り響く。もう、すでにおマンコの中は洪水になっていた。

それに、亜樹は自然とあのときの二人を思い出していた。

あのショッピングモールでの痴漢。男達の指使いを。素直に言うなら、感じていた。興奮もしていた。もっと、最後まで……。

嫌なはずなのに、その波は確実に身体の内側から喜悦の快感を運んでくる。

亜樹「あっ!……あぁ!……ダメっ……もう、逝っちゃう」

激しく指を動かした。

「カシャ」

やがて打ち寄せていた波が大波となり、その瞬間強烈に弾け飛んだ。

亜樹「あぁっ!」

亜樹は咆哮とともに、勢いよく頭を後ろへ逸らせ絶頂した。

「カシャ」

亜樹「ハァ……ハァ……」

色っぽい吐息が熱く揺らめく。

ずっとカメラを構え見つめていた男が、ここでようやくカメラを置いた。ベージュのチノパンから、ギンギンに脈打つ肉棒を取り出した。

その肉棒を挑発するかのように上下に動かしながら、亜樹の口元に近づける。

亜樹は目隠しをされていて視界は真っ暗だったけれど、それが何なのかすぐにわかった。しかも強烈な臭いで鼻がもげそうだった。いったい何日洗わなかったらこんな臭いになるのだろうか、そんなふうに考えてしまうほどだった。

でもなぜか、嫌なはずなのに、亜樹は口を開けてしまった。さらに、舌を出して肉棒の先っちょをチロチロといやらしく舐めた。

男は汗をかいているのか、身体から熱気が溢れていて、その汗臭さが、さらに鼻を刺激して、亜樹の身体を昂らせる。

それは男も同様だったのか、呼吸を荒くして、亜樹の頭を両手で掴み、肉棒を強引に口に入れた。

亜樹「うぅ……」

男は前後に腰を動かした。

その直後、

亜樹「ゴホッ……ゴホッ」

亜樹が咳き込んだ。

男は、あまりの気持ちよさに射精してしまったのだ。

男の額からは、大粒の汗が滴っている。トイレの中は、異常に暑くなっていた。それに汗の臭い、精子の臭い、蜜の臭い、そこにはオスとメスの臭いが入り交じり、その臭いが亜樹の思考を鈍らせ身体を熱くさせる。

男は亜樹を立たせると、今度は便座に座った。そして、亜樹の身体を自分の方に向かせて跨がらせた。

亜樹はもう、何も考えられなくなっていた。ただ、かすかに残っている道流の顔が、さらに亜樹の性癖を刺激する。こんな汚ならしい男に犯される私を、道流は喜んでくれるだろうか?でも、きっと怒る。でも、でも、道流が喜んでくれるなら、私は……。

「入れろ」

亜樹は、肉棒の上からゆっくりと腰を下ろした。

亜樹「あっ……はぁっ……」

「動け」

男の命令には抗えない。

亜樹は、裸体を晒しながら男の目の前で対面座位の格好で、上下に身体を弾ませた。

亜樹「あん……あん……あん」

さらに、男は亜樹の脇腹を掴んで強引に揺さぶる。亜樹の甘くて卑猥な声は、どんどん大きくなった。

亜樹「あっ!……ダメっ!……そんなに……ダメ!……あぁっ!」

しかも、亜樹の胸が男の目の前で大きくバウンドしていた。男はそんな胸を目の当たりにして、正常でいられるわけがなかった。

すぐに男は、亜樹の胸にかぶり付いた。

そして、乳首を思い切り吸い上げ、濃厚に舐め回した。乳房も下から上に舐め上げ、その重みと柔らかさに、さらに肉棒を勃起させた。

亜樹「はぁん!……ん!……あん!……あん!……あぁん!」

止まらない。男も亜樹も。無我夢中で胸に食らいつく男と、一心不乱に腰を上下に弾ませる亜樹。異様な光景だった。

しかし、ここで男ももう限界だった。

男は何を思ったのか、左手でお尻を持ち上げ、右手の人差し指を一度口に入れしゃぶり、それから亜樹のアナルに詰めたのだ。

亜樹「うぅっ!」

亜樹は、思わず唸った。

底知れぬ快感が、頭の先まで届いたのだ。

男は亜樹のリズムに合わせて、指を突っ込み捻り回した。

亜樹「ダメっ……あっ……もう……ダメ逝っちゃう」

男は指の動きを早めた。

亜樹「あぁぁ!……ダメぇ!」

その瞬間、二人はピタリと動きが止まった。トイレ内には、二人の呼吸する音だけが聞こえている。

やがて、蝉の声も聞こえてきた。今の今まで、まったく耳に入って来なかったのだ。

男は、ゆっくりと亜樹の身体を持ち上げて、便座に座らせた。

そして、名残惜しいのか、その裸体に舌を這わせた。

唇、首、肩、脇、胸、お腹、おへそ、恥丘、太もも、膝、脛、足の指。唾液が、男の舌の通り道に残っている。

男は最後に亜樹にキスをして、その場から去っていった。

―――

もう外は日が沈みかかり、綺麗な茜色になっていた。もうすぐ定時になり帰宅する時間となるのだが、道流はデスクで頭を悩ませていた。

杏花に手紙を渡したのは社内にいる人物。でも、これだけではまったく……道流は頭を抱えた。

道流は再度、手紙を読み返した。自己中心的な文章だ。杏花の気持ちなんてこれっぽっちも考えていない。この男の目的は身体だ。ただセックスをすることしか考えていない、男の皮を被った欲の塊。

道流はまた怒りが込み上げてきた。

道流「……はぁ」

大きくため息をついた。しかし、犯人に繋がる手がかりが少な過ぎる。

上司「おーい、相沢!」

とそのとき、上司の声が室内の大きく響いた。

相沢という道流の同僚が、上司のデスクに歩み寄る。

相沢「はい、なんでしょう?」

上司「これ、頼むな」

相沢「え?なんで僕なんですか?これは橋本さんの仕事でしょ?」

上司「仕方がないだろ?今日欠勤なんだから」

すると、また別の同僚が二人の会話に割り込んだ。

安達「あれ?さっき見ましたよ、橋本さん。三階で」

上司「は?見間違いじゃないか?あいつは病欠だぞ?」

安達「いえ、たしかに橋本さんでしたよ。というより、あの人を見間違えることなんてあります?」

上司「まあ、たしかにそれもそうだが……。ったく、あいつ何年目だよこの会社に勤めて。本当に使えねえ」

橋本……道流の同僚で、長年この部署で働いている社員だ。年齢も四十代で、もうベテランの域に達している。

しかし仕事の出来は悪く、いつも回りの社員から陰口を叩かれている。その際に、十倍だの、万年窓際だの、ハゲデブクサイのHDKと称されたり印象は良くなかった。

ちなみに十倍は、彼に仕事を渡すと通常の十倍になって返ってくるということからそう呼ばれるようになったのだ。

道流はボーッと橋本のデスクを眺めた。そういえばいつだったか、橋本はカメラが趣味だと聞いたことがあった。

カメラか、と道流はふと思い出した。

カメラといえば増田だ。本当にあのときは大変だったな、と道流はまたため息を吐いた。

美雪が入社してきて、優衣香と増田に嫉妬して、亜樹と破局して恋人になって……。増田は三人のスカートの中をよく盗撮していた。それに、ヌード撮影をしたりセックスをしたり。

そういえば、美雪とのセックスはそのときが初めてだったな、と道流は思わずニヤけた。

美雪「道流さん!」

隣のデスクに座っていた美雪が、その気持ち悪い表情の道流にいたたまれなくなり声をかけた。

道流「えっ!?あ、ああ美雪、どうしたの?」

美雪「またあの顔してますよ。本当にエッチですね」

道流「え?なんでわかったの?」

美雪「わかりますよそれくらい。亜樹さんからいつも聞かされていましたからね」

真琴「道流さん、何を考えていたんですか?よければご相談に乗りますよ。ふっふっふっ」

美雪「ちなみに、道流さんの顔は今の真琴と同じ顔でした」

道流は真琴をジーっと見つめた。

口角が上がって頬が迫り上がり、そのまま目は細く引き潰すような感じでニンマリと笑っている。

実に気持ち悪い。

そして、この真琴と同じだったのかと思うと、さらに気持ち悪くなった。

道流「……オェ」

そのとき、時計の針が定時を示した。

美雪「道流さん、帰りましょう」

美雪はカバンを持ち立ち上がる。

と、真琴が美雪の腕を取り言った。

真琴「美雪さん、どっかでご飯食べませんか?」

美雪「うんいいよ。何か食べたいものがあるの?」

真琴「はい。私はうなぎが食べたいので、駅前のお店に行きましょう!」

すると、美雪は瞳を輝かせた。

美雪「うなぎ!?行こう行こう!私も食べたい」

真琴「ホントですか?やったー」

道流「二人は本当に仲がいいね。食べ過ぎてお腹壊さないようにするんだよ。僕も、杏花を連れて早く家に帰らないと。亜樹がお腹空かせてるだろうから」

美雪「またお時間があったら皆さんで行きましょうね」

道流「もちろん」

そして、美雪と真琴は道流に挨拶をして部署を出て行った。

道流はデスクを綺麗に片付けるとカバンを持って杏花を迎えに行った。

ふと部署を出たときに、道流は優衣香のことが気になった。忙しいのか、今日は一度も顔を合わせていなかったのだ。

道流は腕時計をチラリと見て、優衣香の部署に向かった。

部屋の中を覗いてみるが、そこに優衣香の姿はなかった。不思議に思った道流は、すぐ近くにいた女性社員に訊いてみた。

道流「え?休み?」

道流は耳を疑った。昨日はあれほど元気な姿を見せていたのに。しかも優衣香は決まって会社を休むとき、必ず道流にメッセージを入れる。それは心配させたくないという優衣香の思いから、今まで、仲良くなってからずっとしてきたことだった。

その優衣香が何の連絡もなく休むというのは、道流にとって看過出来ず、何かあったのではと心配になってしまった。

するとそのとき、ポケットに入れていた携帯が振動した。

亜樹からだった。

道流「もしもし、お疲れ様。今仕事終わったよ」

亜樹「そっか、よかった。……道流、早く帰って来てね。杏花と一緒に」

いつもと変わらない亜樹の言葉……でも、道流は亜樹の声を聞いて違和感を覚えた。

道流は知っていた。この感覚は、今までも何度かあったからだ。亜樹が僕を求めている。近くにいてほしいと願っているときの亜樹だとわかった。

道流「亜樹、どうしたの?何かあったの?」

亜樹「ううん。でも……ただ、なんとなく早く帰ってほしいなってさ」

道流「わかった。すぐに杏花ちゃんを連れて帰る、だから家にいるんだよ?絶対に」

亜樹「うん」

そう言って電話を切ると、道流は走って杏花の元に向かった。

道流が三階のフロアに下りて来ると、ちょうど目の前を杏花が歩いていた。けれどその表情は虚ろげで、とても道流が知っている杏花ではなかった。あんな表情は今まで一度も見たことがない。

道流は駆け寄り声をかけた。

道流「杏花ちゃん!」

その声に驚いたのか、杏花は目を見開いた。

杏花「ああ、なんだ道流君か、どうしたの?」

道流「どうしたのって、それは僕の台詞だよ。本当に、最近の杏花ちゃんは元気がないし、何て言うか……覇気がないっていうか」

杏花「嘘、そんなの嘘よ。まったく道流君は心配性なんだから」

道流「でもさ―――」

杏花「道流君、し・つ・こ・い。何度も言わせないで」

そう言われ、道流は黙ってしまった。

けれど、納得がいかない。なんで話してくれないの?道流は胸が苦しくなった。

杏花「……あ、それでね。私これから用事があるんだ。だからまだ帰れないんだよね。だから道流君は先に帰っててよ。ねっ」

そう言われたが、はいそうですか。とは道流には素直に言えなかった。

それから一つ二つ間があり、ようやく道流は声を出した。

道流「……わかったよ。でも、早く帰って来るんだよ?僕も亜樹も……凄く!心配するから」

杏花「ふふっ。あいよ」

それから道流は、後ろ髪を引くようにエレベーターに乗り込んだ。

杏花は、その閉まる扉に、「ありがとう」そっと呟いた。

このとき、杏花のポケットには封筒が入っていた。中身は、手紙と二枚の写真。

それは、亜樹と優衣香が犯されている写真だった。そして手紙には、時間と場所が書かれていた。

さきほど道流に言った用事とは、この場所に向かうためだった。

ただ、杏花の腸は煮えくり返っていた。あのセクハラジジイのときとは比べものにならないくらいに。

杏花「ふぅ」

でも、道流と話してよかった。

今は少し、落ち着いてきた。

『早く帰って来るんだよ』か。そういえば、最近は夫からそんな言葉を聞くことはなくなっていた。

おかえりとか、ただいまとか、そんな挨拶ですら疎かになっていて、もう結婚したときの、あの甘くて深い気持ちは、いつの間にか冷めてしまっていた。

結婚した当初は、毎日が幸せだった。寝ても覚めても、そこには夢みたいな生活があった。でも、やっぱり時が経つにつれて、心の中には錆びがこびり付いてしまった。

あれだけ愛した相手なのに、もうその炎は、灯火程度まで小さくなっていて、このまま消えてしまうんだろうな、なんてどこかなげやりにも思ってしまう。

これが倦怠期ってやつなのかな?いやそんなことないか、倦怠期は付き合いたてのカップルに……まあ、どうでもいいや。

杏花はめんどくさくなったので、自分の考えを軽く一蹴した。

そうこう考えているうちに、杏花は指示された部屋の前にやって来た。そこは十階の、もう使われていない部屋だった。

杏花はゆっくりドアを開けた。

中は十二畳ほどの空間で、デスクが二つとパイプ椅子が一脚置いてあった。

杏花が部屋に入ると、まず目についたのが、デスクの上に置かれた紐とA4サイズの用紙で、それにはこう書いてあった。

『紐で目隠しをしろ。これからは何があっても、絶対目隠しを取るな。破ったら、わかるな?』

つくづく予想通り。杏花にはわかっていた。

というより、あんな手紙に写真を寄こし、そして場所を指定してきたのだ、よほどのバカでなければ相手の目的なんて簡単に予想出来る。

それでも誘いに乗ったのは、終わりにしたかったから。結局、巻き込んでしまった。亜樹と優衣香を。

杏花は悔やんだ。始めから、しっかりと自分が相手をしていればこんなことにはならなかったはず。相手の要求通り、さっさとセックスをしていれば。

杏花は、あとでいっぱい謝って、いっぱい償おうと思った。だからこれで終わりにする。

―――出来る奴はさ、ちゃんと頼れるんだよ。

突然、あの日の言葉と優衣香の泣き顔が浮かんだ。

これじゃあカッコつかないな、と杏花はため息をついた。

そして、目隠しをすると、椅子に腰掛けた。

真っ暗な世界が広がる。聞こえるのは、車の走る音、クラクションの音、あと少しだけ、通りを行き交う人の声が聞こえた。

それに心臓の音。緊張しているのか、自分でもらしくないと思った。

と、そのとき。ガチャっというドアが開く音が聞こえた。

杏花は身体を強張らせた。

「やっと」

こいつね。杏花はそう思った。

「やっっっとだよ。長かった」

すでに男は興奮していた。ハァハァと荒い呼吸を繰り返していた。

男は杏花に近づき、後ろに立つと、杏花の両肩をマッサージするように揉んだ。

「少し緊張しているのか?まあでも、無理もないよね。好きな相手がこんなに近くにいるんだもの」

杏花は男の話にいちいち付き合うつもりはなかった。どうせ理解出来ない。そう高を括っていた。

杏花「ねえ、あんたはさ、私のことが好きなんでしょ?だったら大人しく言うことを聞いてあげるから、あの二人にはもう手を出さないでよ」

杏花は冷静に、落ち着いた声で言った。

すると男は、杏花の首元に鼻を擦り付けながら、

「あぁ、いい匂い。杏花はどんな香水をつけてるの?今度僕がプレゼントするね。きっと似合うと思うんだ」

と言った。

杏花「人の話聞いてる?手を出すなって言ってんの」

「杏花の肌、凄く白いね。こんなに白いと夏は大変でしょ?これは日焼け止めのクリームも塗らないといけないか……。週末行こうか。調べとかないと」

まったく話が噛み合わない。杏花はイライラして、口調を強めた。

杏花「人の話っ……」

と、そのときだった。

男は杏花の足を強引に開き、パンティの横から指をスルりと入れて来たのだ。

杏花は驚きすぐに抵抗しようとしたけれど、男の力が強くなす術がなかった。しかも、男は杏花のおマンコに何かを塗りつけたのだ。

それは冷たくひんやりとしていた。けれど、すぐにジンジンと熱を帯びて、全身に広がっていった。

杏花「あんた……何を塗ったの?」

「ふふっ。ふふふっ。ふふふふふっ」

いかれていた。男はすでに、正常ではなくなっていた。

杏花は、熱くなっていく身体を必死に抑え込んでいた。おそらく、これは即効性の媚薬。しかし、初めての感覚に杏花は徐々に堕ちて行った。

杏花「あっ……くっ……」

疼く。たまらなく疼いてしまう。もう、掻き回したい。早くオナニーをしたい。次第に自分の意思とは関係なく、指が茶色のスカートの中に入っていく。

そのとき男は、すでに傍観していた。杏花の正面に回り、カメラを三脚で固定し、その一部始終を収めていた。

杏花の足が、大きく開く。黒いレースのパンティが男の眼前に、カメラに写される。

「カシャ」

「いや、やっぱりやめよう。とても我慢出来そうもない」

男は一人でぶつぶつと喋ったあと、ふたたび杏花の後ろに立った。

そして、スカートとお揃いのジャケットのボタンを外し脱がした。それから白いカットソーの襟元から手を入れた。

男の手は、ブラの上から胸を大きく揉んだ。

「大きなおっぱいだね。でも、うーん、これは予想通りかな。ちょっと僕の過大評価だったな。でも、やっぱり杏花の匂いはいいね。シャンプーは何を使ってるの?」

男は胸を揉みながら、杏花の頭に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。

杏花「ふざ……けんな……」

杏花は懸命に抵抗していた。けれど、すでに自分の指すら満足に動かせない。指はおマンコを弄くり回す。

クチュクチュ、部屋にはいやらしい音と、杏花の愛液の匂いが充満していた。

「あーあー。そんなに溢れさせて、もったいない」

男は杏花の正面に回り膝をついて、おマンコに口を付けた。そして、ジュルジュルと大きな音をたてて吸い上げた。

杏花「ああぁ!」

身体が後ろに反り返るほど、強烈な快感が全身を駆け巡った。

男はそれを見てニヤニヤと笑い、また吸い上げた。

杏花「ああっ!……ああっ!……あああっ!」

杏花の悲鳴にも似た喘ぎ声と、男が奏でるジュルジュルという音が重なり響き渡る。その旋律はかぎりなく淫らだった。

「ふぅ。美味しい。まるで熟成させたワインを飲んでいるようだ。クラっとくるよ。ははは」

陽気な笑い声だった。

「さて、お次は」

すると男は、馴れた様子で杏花の服を脱がせていった。杏花はあっという間に黒の下着姿になった。

さらに、男はもう一本紐を取り出し、杏花の手首を後ろで縛った。

男は杏花の姿を見ながら、卑劣な笑みを浮かべている。

「どうだい杏花?疼くだろう?でも、動けないだろう?どんな気分だい?嬉しいかい?楽しいかい?それとも、やっぱり嬉しいかい?あはは!」

狂ったような笑い声だった。

しかしそのとき、

杏花「早く!」

杏花が叫ぶ。

「ん?」

杏花「もう、早くしてよ!」

「ん?聞こえなーい」

杏花「お願い!入れてよ!もう、逝かせて!」

杏花のおマンコからは大量の愛液が滴っていた。全身からは汗が滲み、その姿は艶やかなフェロモンを纏っていて、口から吐かれる吐息は甘く、唇は妖艶に輝き、脇からは濃厚な淫臭を放つ、それはそれは我慢ならないほど、壊してしまいたくなるほど、たまらなく女であった。

男は息を呑んだ。素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!何度も身体の内側で男は歓喜した。

比じゃない!あいつも、あいつも、あいつも。今まで何人もの女体を食らってきた。それでも、別格だ。杏花は素晴らしい!

すると男は、杏花の身体を抱き起こすと、無理やり窓際に押し付けた。

そしてブラを引き裂き、パンティを引きちぎった。全裸になった杏花を、男はさらにグイグイと窓に押し付ける。

部屋はカーテンなどしていないので、外からは杏花の裸が丸見えだった。けれど、目隠しをされている杏花はそのことに気づいていない。

赤い夕日が、官能的に杏花の裸体と男の滾る顔を照らす。

「杏花!杏花!杏花!」

もうそのときには、男は理性すらなくなっていた。

ただ男は狂ったように、服を脱いで、血走った肉棒を杏花のおマンコにバックの体勢で当てがった。

「いいい、いくからね。いくからね!」

杏花「早く!入れてぇ!!」

直後、肉棒が杏花の体内にぬるっと入った。

杏花「ああぁ!」

咆哮にも似た声が飛び出ると同時に、杏花は最初の絶頂を迎えた。

膝がガクガクと震える。しかし、男は杏花が逝ったことすら気付かず、腰を掴み打ち付けた。

初動にも関わらず、男の腰つきは全力だった。

パンパンパンパンパンパンパンパン……。

杏花の尻肉が、リズミカルに弾む。いやらしく、男の興奮を掻き立てながら。

杏花「あん!……あん!……あん!……あぁ凄い!……壊れちゃう!」

「愛してる愛してる愛してる」

そう連呼しながら、男は杏花のお尻を叩いた。まるで競走馬を叩くように。

杏花「はぁん!……あっあん!……ダメぇ!……おかしくなる!もっとお!もっと突いてぇ!」

男はブルンブルンに弾む胸を、肉棒を突き刺しながら強く揉みしだいた。両手いっぱいに胸を掴み、離して、掴み、揉んで、離して、指を食い込ませる。

「杏花、こっち向いて向いて」

杏花は顔を向ける。男は待ってましたと言わんばかりに、杏花の甘美な唇に吸い付いた。

もうそれはキスなどという生易しいものではなかった。舌が絡み合い、唾液が行き交い、唇はおろか頬までべっとりと男のヨダレが付き、男に貪られていた。

頭の中の空白が広がる。杏花は自分が何をやっているのか、どんな姿をしているのか、もうどうでもよかった。でもかすかに、道流の言葉が後悔の念となって、胸の中を彷徨っていた。

杏花「もうイク!……いやぁっ!逝っちゃう!」

男は突く速度を上げた。

パンパンパンパンパンパンパンパン。

「杏花!」

杏花「あん!あん!あん!あん!」

「杏花!……あああ!」

杏花「あああぁ!」

そのときだった。

杏花「あっイクぅぅ!」

杏花は弓なりに身体を逸らせ全身を痙攣させながら、膝からがっくりと崩れ落ちた。

杏花「ハァハァ……」

男は自分の精子が、杏花のおマンコから滴る光景を見て、ニヤニヤとご満悦な表情を滲ませた。

あれだけ杏花のことを思っていたのに勝手に僕から離れ、あまつさえ結婚など、僕は絶対認めない、許さない。この身体は僕だけのものなんだから。

そこに愛情はない。あるのは、復讐と欲望が絡み合った歪で身勝手な感情だけ。

「杏花、今夜はいっぱい愛してあげるからね」

男は満身創痍の杏花を、すぐに、今度は正常位で犯した。

きめ細かい雪肌、豊満な胸、美しいデコルテ、きゅっとしまったクビレ、長くてほどよく筋肉がある足。男は額から大粒の汗を流しながら、杏花の身体を舐めるように観察した。まるで脳の細胞一つ一つに刻み込むように。

杏花はあまりの気持ちよさに、頭を逸らせ、首を横にはちきれんばかりに振った。

杏花は身も心もとろけて、快楽の渦に堕ちていった。

「ふふっ。杏花って本当に美しいね。今気づいたけど、杏花の顔、イーラインって言うのかな?とても綺麗だよ」

杏花「あん!……あん!……あっ……もっと!もっと強くしてぇ!」

「ふふふっ。ははは!わかったよ!わかったよ杏花。欲しいんだね?もっと僕のオチンポが」

そして、次は騎乗位。

杏花は男の上で腰を弾ませた。腰を前後左右に振り回した。

杏花は自分から男の乳首を舐めた。自分からキスを求めた。

杏花「ああぁ!……また、イクぅ!」

終わらない。次は対面座位。

杏花は突かれながらも、一時も抱き付いて離れなかった。男の汗が杏花の身体を濡らし、そしてテカらせ妖艶な輝きを放っていた。

杏花は喜悦な声を上げ続けた。

最後は、デスクに寝かされ再び正常位の体勢となった。

男はまだ勢いを落とさなかった。杏花を貫くスピードはさらに上がる。

杏花も両手を男の首に、そして両足を腰に巻き付け離さなかった。

杏花「……あぁ!凄いぃ!……気持ちいい!……こんなの初めてぇ」

「そうだろ杏花。他のどんな男より気持ちいいだろ。だから、これからもずっと、ずっと、ずっとしようね」

杏花「ああぁ!……また……もうダメ……壊れちゃう」

「ふふふっ。僕も限界だよ。杏花、いっぱい出すからね。いっぱい愛してるからね」

杏花「ああっ……はあぁっ……イクっ」

「一緒に!杏花!イクよ!」

杏花「っ!……あああぁ!」

杏花は腰を浮かび上がらせ、そのまま全身を痙攣させた。直後、力がふっと抜けたのか、バタンと腰が落ちた。

杏花はもうピクリとも動かず、ただ荒々しく呼吸を繰り返すだけだった。

男はそんか杏花を眺めながらゆっくりと肉棒を抜いた。

それから男は、杏花の身体を舐め回し堪能した。まるでデザートのアイスクリームを舐めるように。執拗に。

道流がマンションに帰って来たとき、すでに夕日は沈み辺りは暗くなっていた。

エレベーターに乗る道流は足取りが重く落ち着かなかった。亜樹の声、優衣香の欠勤、杏花の悲しげな表情……。

あのラブレターから始まった日々は、どんどん暗く淀みを増していく。そんな感じがした。

道流は家の前に着くと、一度深呼吸した。平静ではなかったからだ。

道流は、自分がしっかりしないといけない、そう思った。

道流「ただい―――」

しかし、道流は驚き声を途切れさせた。

なんと、亜樹が玄関の廊下で膝を抱えて座っていたのだ。

道流「亜樹!」

道流はすぐに亜樹を抱き締めた。

亜樹も、道流の顔を見たらホッとしたのか、笑顔になった。

それからしばらくして、リビングに行きことの顛末を亜樹から聞いた。

優衣香の写真、男から受けたレイプ、そしてそれをネタにまた誰かを襲うとしているであろうこと。

亜樹「ごめんね道流。私、約束破っちゃった」

道流「え?」

亜樹「私この前、道流に怒られたでしょ?危険なところには行かないでって。でも、行っちゃったから」

道流「亜樹……」

亜樹「道流……嫌いにならないでね」

亜樹の頬を一筋の涙が伝う。

道流はすぐに、その涙を指で拭った。そしてニコっと笑った。

道流「なるわけないだろ。だって、亜樹は約束を破っていないんだから」

亜樹「道流……」

道流「亜樹、おいで」

亜樹は道流の胸に身体を寄せた。

道流「亜樹は偉いよ。優衣香を守ろうとしたんだから。そうでしょ?」

亜樹は頷く。

道流「本当に亜樹は友達思いで、優衣香のことが好きなんだね」

亜樹は頷く。

道流「亜樹……よく頑張ったね」

亜樹は、頷いた。

道流はここで、腕時計を確認した。

まだ杏花は帰って来ない。

亜樹「道流。杏花を……お願い」

どうやら、亜樹も心配だったようだ。

道流「わかってる。でも、亜樹の身体―――」

道流が言い終える前に、亜樹は言った。

亜樹「ううん、今日は大丈夫。それにね、すぐに―――」

でも道流は、亜樹にその先を言わすまいと口に指を当てがった。

道流「それ以上は言わなくていいよ。わかったから」

亜樹「道流……うん」

道流「よしっ!じゃあちょっと会社に行って来るね。亜樹、また焼き鳥屋さん、開いてよね」

亜樹は、微笑みながら頷いた。

それから道流はすぐに電車に飛び乗り、帰って来た道を会社へと戻った。

さきほどからずっと、胸騒ぎが収まらなかった。

杏花のことだから無茶はしないだろうし、亜樹達と違ってすぐ人を殴るから、大事にはならないと思うけれど、それでも道流は知っていた。

昔から正義感が強くて、困っている人を見ると放っておけなくて、どうしようもなく優しい。

だからおそらく、今回のことも責任を感じているはず。道流はため息をついた。

友達なんだからさ、まったく……。道流は心中で、そう呟いた。

会社に着くと、まず道流は杏花の部署に向かった。しかし空振り。次は杏花が訪れるであろう部署に向かう。また空振り。

道流はすれ違う社員に聞いてもみた。けれど、やはり駄目だった。

道流はいったんテラスに上がってきた。そして、夏の涼風が心地好く吹く中で、頭を冷やしもう一度考えてみた。

杏花の用事……それは十中八九手紙の送り主のことだろう。それはわかる。社内なのもわかる。

でもどこに……と、そのときだった。

道流は一通目の手紙の内容を思い出した。たしか、手紙の中に使われていない部屋のことが書かれていたはず。そこが手紙の受け渡し場所。

道流は確信した。すぐに十階へ向かった。

そして、勢いよくドアを開ける。

道流「杏花ちゃん!」

そこには、椅子に座りながらボーッと外を眺めている裸の杏花がいた。部屋は真っ暗で、ただ目の前にあるビルの明かりだけが、杏花を照らしていた。

道流はすぐに近寄り、自分のジャケットを肩にかけてあげた。

道流「……やっぱりさ、僕は心配だよ。杏花ちゃんのことが」

杏花は、道流の顔を見上げて頷いた。

道流「本当に杏花ちゃんは昔のままだよね。無鉄砲だし、猪突猛進だし、鹿を追う者は山を見ずって感じだし」

すると杏花は、ふふっと笑って、

杏花「道流君、それほとんど同じ意味だよ」

そう言った。

道流は姿勢を低くして顔の位置を揃えると、窓の外のビル群の明かりを、杏花の隣で一緒に眺めた。

道流「綺麗だよね。そういえば、この景色も全然変わらないね」

杏花「うん。私、好きだったんだ。この建物から眺める夜景」

道流「僕もだよ。それに、よく三人で見たよね」

杏花「ふふっ。でもそれってさ、道流君が残業になったからだよね。そのついで」

道流「それはいいの!でも、僕だってやれば出来るんだよ?最近は残業もほとんどしなくなったし。後輩の面倒もしっかり見てるし」

杏花「そうなの!?それは意外だわ。……道流君、カッコよくなったよね」

道流「でしょ?もっと褒めて」

杏花「ははは。それ亜樹のやつ」

道流「でもさ、今日久しぶりに残業なんだ」

杏花「え?」

道流「今日ね、ちょっと出来の悪い同僚がいてさ、本当にどうしようもないんだよ。僕っていう頼れるカッコいい男がいるのに、一人で突っ走っちゃってさ……まったく大変だよ」

杏花は無言のまま、じっと耳を傾けた。

道流「だからさ、僕が助けに飛んで来たんだ。でもあれだよ?家に帰ったのに、わざわざまた出社して来たんだからね?それで、その同僚を見つけてさ。そしたらね、同僚の子は責任を感じていたんだ。自分のせいで周りに迷惑かけちゃったってね。だからそのあと、カッコいい僕はその同僚にこう言ったんだ―――」

道流は、杏花を抱き締めた。

道流「もう、自分を責めなくていい。だから杏花ちゃん、一緒に帰ろう。亜樹も待ってる」

道流のその温かい言葉に、杏花は緊張の糸が途切れたのか、大粒の涙を流した。

家に帰宅すると、亜樹がすぐに杏花の元に駆け寄り抱きついた。

亜樹もずっと心配していたのか、杏花の顔を見ると泣き出した。それを見た杏花ももらい泣き。

道流はその光景をしばらく眺めてから、二人の頭を「ヨシヨシ」と言って撫でてあげた。

しかし、道流はここでまた家を出た。時刻はすでに二十二時を回っていたけれど、電車に再び乗り込んだ。向かった先は優衣香のマンションだった。

道流は優衣香のマンションに着くと階段を駆け上り、家の前で呼吸を整えベルを鳴らした。

中から暗い表情をした優衣香が顔を見せると、道流はすかさず抱き締めて、優衣香の心に暖かい火を灯してあげた。

そして優衣香にも魔法の言葉、「ヨシヨシ」と言って頭を撫でてあげた。それから、「不安だったら、カッコいい僕が朝まで添い寝してあげるよ?」と聞いたところ、「結構です」と即答で断られたので、道流は少しがっかりしたけれど、屈託ない笑顔を残して、また来た道を帰って行った。

―――

翌朝。

道流と美雪と真琴は、いつもの応接室にいた。

道流「……ということなんだよ」

道流は簡潔にこれまでの経緯、三人の様子を説明した。

美雪「それで今日はお休みなんですね」

道流「うん。少し気分転換してもらいたかったからね、だから三人は買い物に行ってるよ」

真琴「犯人はわかってるんですか?」

道流「僕達と同じ部署の橋本だよ」

真琴「えっ!?マジですか?……きもっ」

美雪「でも、なぜわかったんですか?」

道流「僕なりにちょっと調べてみたんだ。そうしたら色々出てきてね。まず、橋本は入社当時から杏花ちゃんのことが好きだったらしい。そのあと、杏花ちゃんが東京を離れるって聞いて、かなり荒れたんだ。遅刻したり欠勤したり、はたまたお酒を飲んで出勤して来たり、かなり酒臭かったってさ」

道流は間を置かず続けた。

道流「でもそんな橋本も、時間が経つにつれて次第に落ち着いていったんだけど、あるとき一人の男と出会ったんだ」

真琴「ん?誰ですか?」

道流「真琴は知らないと思うけど、増田っていう男さ」

その名前を聞いた瞬間、美雪はハッと顔を上げて道流を見た。

道流「社内でも、増田と橋本が親しく話しているのを見たっていう人が何人かいたよ。ここからは推測なんだけど……おそらくそこで増田からカメラのことで色々聞いたんじゃないかな。お互いに趣味だったからね」

美雪「……もしかして増田に?」

道流「うん。実はさ、増田は一度更衣室にカメラを仕掛けて盗撮したことがあったんだ。だから橋本はその方法を聞いて侵入し、手紙をロッカーに入れた。橋本は女性社員からかなり毛嫌いされていたから、結局自分でやるしかなかったはずだ」

道流は美雪と真琴の顔を順番に見て、また続けた。

道流「そして、昨日橋本が病欠にも関わらず会社に現れたことで、僕の中のパズルが当てはまったんだ。ちなみに橋本がいたのは三階。そこは杏花ちゃんがいるフロアだから、まず間違いない」

美雪「……そうかもしれないですけど、証拠がないですよね?」

美雪の言葉に、道流は声に力が入った。

道流「そう!それっ!そこが問題!杏花も亜樹も優衣香も顔は見ていないし、橋本に繋がる物がないんだよ。わざわざ盗撮写真なんて持ち歩くわけもないから、ここからどうすればいいのかわからないんだ」

道流と美雪は頭を悩ませた。しかしそのとき、室内に不穏な声が響き渡る。

「ふっふっふ」

それは低くこもった、

「ひっひっひ」

不吉でゾッとする、

「あっはっは」

悪魔の声だった。

真琴「み・ち・る・さん」

真琴はそう言って意味深な笑みを見せる。

道流「真琴……また何か企んでるの?」

真琴「企むなんて、そんな人聞きの悪い。ここは私に任せてください。それに、目には目を、歯には歯を、蛇の道は蛇ってやつですよ。多分橋本はまた杏花さんに近づいて来ますよ。そのときを狙うんです」

道流「……真琴の勘?」

真琴「はい!虫酸が走りますけど、その増田って人と橋本、そして私は同じ穴の狢です。だから考えることはわかります。橋本は危険を犯してまで杏花さんを執拗に狙ったんですから、たった一度で終わりなんてことには絶対なりませんよ」

美雪「真琴も同じやり方で橋本を盗撮するってこと?」

真琴は頷き、

真琴「設置場所は美雪さんのロッカーと、優衣香さんのロッカー。そして、杏花さんのデスクです」

と答えた。

美雪「道流さん、杏花さんの部署の方は橋本さんを見ていなかったんですか?……封筒が置いてあったんですよね?」

道流は首を横に振った。

美雪「そうですか」

真琴「……続けちゃいますよ?ただ、私一人だけじゃ手が足りないので、その増田って人に私を会わせてもらえませんか?」

道流「は?なんで?」

真琴「協力してもらうんですよ。昨日の敵は今日の友ってやつです。あと、更衣室の入り方を聞かないと」

しかしすぐには答えられなかった。

それもそのはずで、道流は増田にさんざん大変な目に合わされたのだ。うんそうしよう、なんて簡単に言えるわけがない。道流は憤りを感じた。

道流「……真琴。悪いんだけど」

と、道流が言いかけたとき、美雪が割り込んだ。

美雪「私が会いに行ってきます」

突然の言葉に道流は驚いた。けれど、美雪の表情からは何か強い意志が感じられた。

道流「え?でも美雪」

美雪「私だけじゃないですか」

道流「え?」

美雪「何も……いつも助けてもらってばかりで、私はいつだって何も出来ない。亜樹さんみたいな大きな背中もないし、優衣香さんのように寄り添うことも出来ず、真琴みたいに頼れるわけでもない。だから、この件は私にやらせてください。お願いします!」

美雪はソファーから立ち上がると、二人に向かって深々と頭を下げた。

真琴「美雪さん……」

道流「美雪、頭を上げて」

美雪が頭を上げると、その瞳には涙が滲んでいた。

道流はすぐに美雪の気持ちを汲み取った。そう、この子はこういう子だ。優しくて、誰よりも友達思いで先輩思い。それに、妹(真琴)思い。

何も出来ないなんてことはない。美雪は誰よりも人を温かい気持ちにさせてくれる。君には、そんな力がある。

ただ道流は、その言葉を口には出さず胸の中の引き出しにそっとしまったのだった。

道流「わかった。でも、無茶はしないでよ。といっても、きっと増田は―――」

そう言いかけたとき、美雪は遮った。

美雪「道流さん、構いません」

美雪のその覚悟は、何をどう言ったとしても折れることはないと道流は思った。

道流「案外、美雪も頑固だよね。本当に亜樹にそっくり」

美雪「ふふっ。鍛えられてますから」

その様子を、真琴は心配そうに眺めていた。

美雪「真琴、しっかりバトン繋ぐからね。最後は決めてよ」

美雪の言葉に、真琴は笑顔で大きく「はい!」と頷いた。

それは土曜日の昼下がり、駅の改札をくぐる美雪の姿があった。花の刺繍が入った白のブラウスシャツと、花柄ピンクのミニブルームスカートを着ていた。

日差しが燦々と照らす中、美雪は木陰に移動して腕時計をちらりと見る。

まだ待ち合わせの時間には早いけれど、気持ちが急がせる。

そのとき、一陣の風がふらっと美雪のスカートの中に入ってきた。スカートはふわりと膨らみ、美雪はとっさに手で抑えた。

しかし、後ろにいた若い男が二人、ニヤニヤと笑った。

美雪は気づいていない。でも、しゃがんでいた男達の目にはしっかりと白のティーバックが見えた。

普段の美雪なら、テイーバックなど穿かないだろう。でも、美雪は事前に聞いていたのだ。増田の好みがティーバックであることを。

だから恥を忍んで、今回は勝負下着を身に付けてきたのだった。

それから数分後、一人の男が改札をくぐり近づいて来た。

背の高いひょろひょろっとした細身の癖毛男、

増田「こんにちは」

増田は久しぶりだというのに、ずいぶんと他人行儀で軽い挨拶をしてきた。

美雪「こんにちは」

美雪もそれに合わせる。

増田「ふふっ。本当に驚きましたよ。突然の連絡だったんですから」

美雪「すみません。ですが、お話を―――」

増田は手の平を向けて、

増田「みなまで言う必要はありません」

そう言った。

増田「橋本さん……久しぶりですね、その名前を聞いたのは」

美雪「なら、すぐにでも教えてください」

すると増田は、美雪の隣に並ぶようにして立ち、なんと右手をスカートの中に入れてきた。

美雪はとっさにその手を振り払おうとしたけれど、グッと我慢した。

増田はそのままお尻を撫で回し、さりげなくスカートの裾をずり上げた。美雪のお尻とティーバックが丸見えになる。

増田は、後ろにいた若い男二人に、見せつけたのだ。

美雪は顔を真っ赤にさせ、その羞恥に耐えた。

増田「素晴らしい手触りだ。それに、このティーバックも僕の好みですよ」

美雪「もう、満足ですか?」

増田「ふふふっ。そう怒らないでください。これはただの挨拶。そのときのハグみたいなものです」

美雪は込み上げてくる気持ちを抑えた。この男は、以前もそうだった。今に始まったことではない。

美雪はそう開き直り、目的を達成するためなのだからと、本心に蓋をした。

増田「さて、行きましょうか」

そう言って、増田は歩き始めた。

美雪は増田の後ろをただ黙ってついていった。しばらくして着いたのは、とある高級マンションだった。

エントランスでオートロックを解除して中に入る。美雪はてっきり以前使ったマンションに来るのだと思っていたけれど、違った。二人はエレベーターに乗り込む。

増田が九階のボタンを押してドアを閉めた。すると突然、増田は振り返り美雪を壁に押し付け、そして抱き付きキスをしてきたのだ。

美雪は驚き息が止まった。しかし、増田の舌が口内に侵入してくると、すぐに美雪も舌を絡めた。

美雪は増田の首に腕を回す。それは、まるで恋人のようなキスだった。

それに気分を良くしたのか、増田の腕にも力が入る。美雪の身体をより強く抱き締め引き寄せた。

エレベーターが九階に着きドアが開くと、二人は糸を引きながら唇を離した。

増田「ずいぶん素直になりましたね」

増田の一言に、美雪は何も答えなかった。

あのときは、増田のことが大嫌いだった。亜樹をたぶらかし、優衣香を利用し、自分の欲望を満たすために二人を弄んだ。

でも、一つだけ……道流とのあの一夜だけは、今でも鮮明に浮かんでくる。

増田「さあ、着きましたよ」

それはフロアの一番奥の部屋だった。

増田がドアを開け、右手で入るよう促す。美雪は軽く頭を下げ玄関に入った。

まず目に入ったのは、大理石調の白い床。それがリビングまで続いていた。外観と同じく、内装もオシャレで高級感があった。

増田が、辺りを見回している美雪の横を通り靴を脱いだ。それからスリッパを美雪の前に置いて、

増田「どうぞ」

と言った。

美雪は素直にサンダルを脱いでそのスリッパに足を通した。

増田「さて、ではリビングで始めましょうか」

始める……美雪は一つ、心臓が高鳴った。

そして廊下の突き当たり、ドアを開けたとき美雪は目を疑った。

なんとそこには、二人の男が裸で茶色のソファーに座っていたのだ。

増田「すいません、お待たせしました。黒田さん、白川さん」

白川「ホントだよ増田さん、焦らし過ぎだよ」

黒田「もう少しで、風邪を引くとこだったぞ?」

増田「はははっ。すいませんね。……でももう、準備はいいみたいですね」

黒田「おぅ。ばっちりよ」

黒田と白川の肉棒はすでに勃起していて、臨戦態勢だった。

美雪「増田さん……これは?どういうことですか?」

増田「ん?何か困ることが?」

美雪「……いえ」

増田「なら、いいですね」

すると、増田は美雪の背中をドンと押した。美雪は勢いよく、黒田と白川が座るソファーに倒れ込んだ。

黒田「じゃあ遠慮なく。お嬢ちゃん、俺達もう我慢できねえんだよ」

二人は美雪を挟み込んで、両側から服を脱がせ始めた。

シャツが脱がされ、スカートを下ろされ、白のブラとパンティは盗られた。

男達は、獣のように美雪の身体を食らう。一方増田は、ソファーの正面にカメラを設置した。

黒田は美雪の身体を四つん這いの体勢にして、お尻を指で拡げると顔を割れ目に埋めてアナルを舐めた。

白川はギンギンになった肉棒を美雪の口に入れて、腰を前後に振った。

美雪は理解が追い付いていなかった。予想とは違っていたから。最初は増田との一対一のセックスだと思っていた。そう高を括っていたのだ。

増田「さて、では私も」

美雪は耳を疑った。すでに二人の男に辱しめを受けているというのに、増田まで……。

増田は美雪の隣に来ると、四つん這いになっている身体の横から頭を胸の下に潜り込ませてきた。

増田「相変わらず壮観ですね。この巨乳は」

増田は垂れている乳首を下から摘まんだ。

美雪「うぅ……」

この部屋に入ってから、まだ二、三分しか経っていないのに美雪の身体には三人の男が群がっている。口では肉棒を咥え、アナルには舌が入り、両胸は弄られ、美雪はただただ受け入れるしかなかった。

でも、美雪の身体は男達の愛撫に反応していた。自分でもわかってはいたけれど、つくづくMなのだ。

増田「いやらしい乳首だ。こんなに勃起させて」

黒田「こっちもすげーよ。アナルはヒクついて、マンコは濡れ濡れ。俺の指に喜んでるみたいだぜ。白川、お前の方はどんな具合だ?お嬢ちゃんの口は」

白川「たまんねえよ、俺のチンポを舌で転がしやがる。……あぁ!すげーよ。もう出そうだ」

と、そのときだった。

白川は身体はビクビクと震わせ射精した。

美雪「ゴホッ……ゴホッ」

白川「おぅ、悪い悪い。思わず出しちまった」

黒田「おい、次はこっちを頼むぜ」

それから三人は変わる変わる、フェラ、クンニ、全身舐めと美雪の身体を存分に堪能する。

美雪はどうにかなってしまいそうだった。全身が敏感に反応して、男達を求めている。

最近はずっと一人で鎮めていた。昂る身体に嘘をつき、自分は求めていないフリをしていた。けれど、実際はこんなにも飢えていた。身体はセックスを求めていたのだった。

美雪「あぁん……あっはぁん……そこ、いい……感じます……あん……もっと……ください」

増田「ふふっ。可愛い声ですね。思い出しますよ。父との3Pを」

白川「ズルいなぁ増田さんは、そんなことしてたんですか」

黒田「ははは。ならせっかくの機会だからな、俺たちも楽しまないと」

増田「では一人ずつ交代で」

そして増田は、美雪をソファーから下ろして床のカーペットに寝かせた。

美雪「……お願いします。中には出さないでください」

増田「ふふっ。その顔いいですね、そそられますよ。……まあ、いいでしょう。僕はそんな卑劣な人間ではありませんのでね」

増田がそう言うと、黒田と白川は「はいはい」と渋々頷いた。

美雪「あん!……あん!……あん!」

黒田「なかなかの締まりだな。もっとガバガバだと思ってたんだが」

白川「いい眺めだな。胸がボインボイン弾んでやがる」

美雪は、正常位で黒田に突かれていた。

美雪「あん!……あん!……はあん!」

黒田「ふん!ふん!ふん!……あぁ、中がぬるぬるで、お嬢ちゃんの汁がねっとりと絡んでくるぞ」

白川「おい黒田、早く替わってくれよ」

黒田「ははっ。そう慌てんなよ。まだまだ時間はたっぷりあるんだからよ。ほら!ほら!」

美雪「あん!……あん!……あん!」

黒田「よし、まずは一発目だ。イクぞ!」

黒田は打ち付ける速度を上げた。そして、

黒田「ああぁっ!っつ!……ハァハァ。これはいい。すげー締まりだ。お嬢ちゃん名器だな」

白川「おい、早くしろよ。もう我慢できねぇんだからよ」

そして、次は白川が美雪のおマンコに挿入した。

さらに黒田、白川、黒田、白川と二人は止まることなく、交互に美雪の身体を貫いた。

それから二時間が経った。

美雪は黒田に抱き抱えられながら挿入され、白川にはアナルを犯されていた。二穴同時だ。

美雪「ああぁぁぁ!」

そのあまりの快感に、美雪の声は愉悦に悶えながらいつからか咆哮へと変わっていた。

眠っていた美雪の欲求が叩き起こされ、二人によってどんどん満たされていく。

増田「素晴らしい画が撮れていますよ。美雪ちゃん」

増田が憎々しく言った。

黒田「増田さん、あとでくださいよその映像」

増田「もちろん。なんなら、以前楽しんだ映像もあげますよ」

白川「ははは。そりゃいい」

すると二人は、ピッチを上げた。

美雪「あん!……あん!……あん!」

黒田「おおぉ!イクぞお嬢ちゃん」

白川「こっちもだ」

美雪「あん!あん!あん!」

パンパンパンパンパンパンパンパン……。

次の瞬間、

美雪「イクぅぅ!」

美雪の声が部屋中の響き渡ると、三人の動きが止まった。

ハァハァ、という呼吸が重なる。

増田「皆さん最高でしたよ。おかげで、久しぶりに興奮する映像が撮れました」

美雪は疲れきった身体で、増田の顔を見上げる。

増田「ふふっ。わかってますよ美雪ちゃん。とりあえず休憩してください。話しはそのあとで」

美雪は不思議に思った。結局増田は一度も挿入することなくただ傍観していたのだ。それに意外にもあっけなく、このあと増田は橋本のことを話してくれた。

ただそのあと、シャワーを浴びに行った際に、再び黒田と白川は

美雪に挿入したのであった。

それから日曜日を過ぎて、また新しい一週間が始まった。

それは、火曜日のことだった。

やはり橋本は動いたのだ。この日の朝、杏花のデスクに一枚の封筒が置かれていた。

もちろん内容はいつもと同じ。でも、すでに橋本は杏花のことを自分の物とでも思っているかのような文章だった。

ただ、今回の場所は違っていた。なんと、指定した場所は道流達がよく使っている応接室だった。

たしかに、応接室もほとんど人には使われていない。だから、別段おかしいことではなかった。

でもむしろ、道流達には好都合だった。

さっそく真琴は、事前に考えていた場所に増田と協力して小型カメラを仕掛けた。月曜日から張り込んでいたので、橋本が杏花のデスクに封筒を置いた瞬間は、バッチリカメラが捉えていた。

橋本は早朝の会社にやって来て、誰もいない部署に入り杏花のデスクに封筒を置いていたのだ。

結局、なんてことはない。単純な方法だったのだ。

それから真琴は、杏花と話を合わせて応接室で橋本を待ち構えていた。

しかし、部屋で隠れる真琴の隣にはなぜか増田がいた。

真琴「情報を教えていただいたことには感謝していますけど、なんでここにいるんですか?」

二人は部屋の隅に設置した白いパーテーションと壁の間に隠れていた。

増田「いやなに。久しぶりに橋本さんの顔を拝みに来ただけですよ。それに、真琴さんにも興味があったんで……よろしければ仲良くしてください」

真琴「ふふっ。嫌でーす。あなたのことは事前に聞いていますので、仲良くするつもりはありません」

増田「そうですか。それはとても残念です」

とそのとき。応接室のドアが開いた。そこにはなんと橋本がいた。

バーコード頭で、眼鏡をかけていて、だらしないお腹を揺らしながら額の汗をハンカチで拭っている。腕は毛むくじゃらで、清潔感をまったく感じない。不潔だった。

たしかに、これでは女性社員に文字通り毛嫌いされてしまうのも仕方ない。

真琴は時計を確認する。

杏花に伝えた時間は、夕方の十八時。でも、まだその時間には三十分ほど早い。

いったい何を?真琴がそう思ったとき、橋本はポケットから紐を取り出してテーブルに置いた。

なるほど。これが例の目隠しですか。真琴は思った。

用が済んだのか、橋本は辺りを見回し、そして一度あらためて外に出た。

真琴「ふぅ。もう決定的ですね」

しかし、真琴の顔はどこか曇っていた。

増田「真琴さんはなぜそんな顔をしてるんです?もうあとは些細なことなのに」

真琴「簡単過ぎただけですよ。これなら、私一人で全然余裕でした。あなたの手を借りなくてもよかった」

真琴は背負っていたカバンを床に下ろした。

増田「相当準備したようですね」

真琴「もちろんです。皆さんの期待を背負ってますから。とくに、私の大好きな美雪さんがバトンを渡してくれたんですから、失敗は出来ません」

増田「最年少なのに、しっかりしてますね」

真琴「よく言われます」

真琴は胸を張った。

真琴「でもやはり、少し冒険心というか、刺激が足りませんでしたね。せっかくスタンガンとか結束バンドとか持ってきたのに。……まあ、何事もなく終われそうですからよしとしましょう」

刺激ね……そのとき増田は、薄気味悪い表情を見せた。

それからしばらくして、再び橋本がやって来た。

時間は十分前だった。

すると橋本は何を思ったのか、ドアの横に姿勢を正して息を殺し立ったのだ。そこはちょうど、ドアが開くと隠れる具合になる。

真琴は薄ら笑った。

真琴「浅はかですね」

真琴はコソコソと呟いた。

と、そのときだった。

増田「そう、浅はかですよ」

増田は真琴の耳元でそう囁くと、なんと真琴の太ももを撫で始めた。

真琴は突然のことに、目を大きく開き増田を睨み付けた。

増田「期待に応えないとね」

そして増田は、真琴のタイトスカートを捲り上げた。

真琴の生足と黒いパンティが晒される。

増田は利用したのだ。真琴が拒めないこと、そして声を出せないことを。

それから真琴の顎を掴むと、自分の方に向かせて頬を舐めた。

生温くて、気持ち悪い感触が全身に広がる。

真琴は、握り拳を作り懸命にこらえた。本来なら、カバンの中にある護身用のスタンガンで増田を痛めつけることが出来る。でも、使ってしまえば橋本に逃げられてしまう。

まだ橋本を捕まえるには、あの封筒だけでは不十分なのだ。だから現場を抑えなくてはならない。

真琴は屈辱的だったけれど、耐えることを選んだ。

しかし、増田はそんな真琴の考えを察したのか、今度はスーツの下に着ているブラウスのボタンを外していった。

どんどん、真琴の肌が晒されていく。

そしてそこから手を入れて、胸を揉んだ。

増田「小さくて可愛らしいおっぱいだね。でも、肌はピチピチだ。若いだけあってね」

増田は淡々と、真琴を脱がし触れていく。

真琴は手で自分の口を抑えていた。怒りで声が出てしまいそうだったから。

でも、増田は止まらない。ブラウスのボタンを外してしまうと、デコルテを舐め回した。

真琴の肌が赤みを帯びる。

増田「やはり、初めての女性はいいですね。美味しい」

次に増田は、腹が立つ笑みを見せつけながら真琴のパンティをゆっくり静かに下ろしていった。

屈辱的だった。真琴はそれをわかっていても、ただ眺めることしか出来ない。ここで橋本にバレるわけにはいかない。皆が繋いだバトンを今は真琴が持っているのだから。

やがてパンティが足首まで落ちると、増田は真琴を後ろに向かせた。

まさか!?そう思った真琴だったけれど、増田は躊躇せず肉棒をズボンから取り出して、スカートを捲り上げてお尻を出した。

増田「小ぶりで綺麗なお尻ですね。ふふっ。これは虐めたくなりますよ」

すると、増田は肉棒を真琴のおマンコに押し込んだ。

真琴「っ!」

漏れそうになる声を、咄嗟に止めた。

増田は徐々に腰を前後させた。

そして、後ろから真琴の襟元を掴み引き下ろして、背中の上の方に舌を這わせた。

真琴「っ!……っ!……っ!」

増田「キツイなぁ。まるで子供みたいだ。まあでも、たまにはこういうのもいいですね」

真琴「っ!」

増田「これはこれは、真琴さん。ずいぶん締め付けてくるじゃないですか。好きなんですか、こういう状況が」

増田は、真琴の気持ちを逆撫でするかのように挑発を繰り返す。

増田「真琴さん、どうですか?その可愛いお口から喘ぎ声を出してみては?気持ちよくなれますよ?」

真琴「うるさいんですよさっきから。もう、出すなら早く出してください」

増田「ふふっ。なら、遠慮なく」

増田は鼻唄でも歌うかのように、胸に手を当てて優雅に腰を振った。

直後、真琴のお尻に増田の精子が放たれた。

増田「ふぅ。ご馳走さまでした」

すると、ここで応接室のドアが開いた。

増田は予定の時間であることを確認した。

杏花が暗い面持ちで入ってきた。それから真っ先にテーブルに近付き、紐を手にする。一度パーテーションの方を一瞥するけれど、すぐに目を逸らした。

そして目隠しをすると、ソファーに腰かける。

橋本はそれを合図にするかのようにして、杏花に近寄り肩に両手を置いた。

橋本「杏花、ありがとうまた来てくれて。僕は嬉しいよ」

杏花「……私は全然嬉しくないけどね」

橋本「嬉しくないだなんて。本当に杏花は素直じゃないんだから」

橋本はそう言って、顔を近付ける。

杏花「ねえ、顔近付けないでくれる。臭いんだよね。この前も思ったけど、口臭のケアくらいしたら?マジで、キモっ!」

橋本「は……ははは。何言ってるの?杏花……」

杏花「それに、あんたのチンポカビ生えてない?臭いしイボイボだし、顔隠す前にその腐れチンポ隠した方がいいよ。肝っ玉ミクロサイズの変態ストーカーさん」

杏花の言葉は、かなりキツイ口調だった。しかし、橋本はその挑発に乗ってしまったのか、みるみる顔を紅潮させ、身を震わせている。

橋本「ふ、ふざけんなよ。お前だって、さんざん僕のチンポで喘ぎ声を上げていたじゃないか!」

杏花「あー、あれは媚薬が気持ち良かったからね。っじゃなきゃ、あんたのクロカビチンポで感じるわけないでしょ」

橋本「黙れっ!お、お前自分の立場わかってるのか?僕の言うことを聞かなかったらどうなるのか」

杏花「ん?どうなるの?私、あんたみたいなバカな人の考えわかんないんだよね。あーあ、頭が良すぎて困っちゃう〜」

橋本「くっ!わかったよ。ならやってやるよ!お前と亜樹と優衣香の写真をばら蒔いてやるからな!」

「カシャ」

そのとき、室内にシャッター音が響いた。

橋本「な、なんだ?」

すると、パーテーションから増田がカメラを構えて出て来た。

橋本「えっ?な、ま、増田さん!?」

橋本は驚愕の表情で固まった。

増田「お久しぶりですね橋本さん。お元気でしたか?」

橋本「なんで……増田さんが?」

増田「いやなに、近くを通ったものですから友人にでも会っていこうと思いましてね」

橋本「友人?」

増田「さて、橋本さん。もう、みなまで言わなくてもわかりますね?この女性にしたこと、そして亜樹さんや優衣香さんにしたこと、謝罪してもらいましょうか」

橋本「は、ははっ。な、なんのことだか」

増田「惚けても無駄ですよ。あなたがこの方のデスクに封筒を置いたのも、美雪さんのロッカーに封筒を入れたことも。そして、写真をばら蒔く?とはなんのことですかね?」

橋本は顔面蒼白で、冷や汗を流している。

増田「……橋本さん。僕もあなたと同じで女性を撮影するのは大好きです。ですが、最低限マナーというものがあるんですよ。決して脅したり、暴力に利用することはあってはならない。私がここに来たのは、あなたがそれを破ったからです」

橋本はうつむいている。

増田「さて、ではここから本題です。まずカメラを出してください。データは消去します。もちろん、携帯もです。それから、警察に行くか辞表を提出するか、今この場で決めてください。あ、ちなみに、この部屋は映像として残していますので、言い逃れは出来ませんよ」

その言葉が決めてとなったのか、橋本はその場に崩れ落ちた。

増田はそんな橋本に、哀れみを抱いているのか、軽蔑の瞳で見下ろしたあと、

増田「さ、帰りますか」

と言って、ドアノブの手をかけた。

杏花「……ねえ、真琴ちゃんはどうしたの?」

増田「あー、多分お手洗いじゃないですか」

杏花「とりあえず、お礼は言っておくね、ありがとう」

増田「どういたしまして。でも、それでしたら言葉ではなくて……あなたなら、ぜひヌードを撮らせていただきたいですね」

杏花はその言葉に対して、鼻で笑い答えた。

杏花「なら、ありがとうございました。お言葉で伝えさせていただきます」

増田「ふふっ。まあいいでしょう。では、さようなら」

増田はそう言って、部屋を後にした。

杏花は増田の背中が見えなくなると、緊張していた身体がふっと軽くなり、安堵の息を吐いた。

真琴「杏花さん……」

するとパーテーションの方から、真琴の声がした。

杏花は慌ててそちらに近寄る。

杏花「真琴ちゃんっ!?」

そこには、服装が乱れた真琴がぐったりとしていた。

杏花はすぐに抱き起こした。

杏花「どうしたの!?」

真琴「増田にやられました」

杏花「え?」

真琴「っっもうぉ!腹が立ちますぅ!あいつ絶っっ対許しません!いつか必ずぅ!」

顔を真っ赤にして、怒りを爆発させた。

その後、橋本は大人しく写真のデータを全て削除して、辞表を提出することになった。

ただ皮肉だったのは、その辞表を誰よりも喜んでいたのは上司だったことだ。橋本が辞表を提出すると、上司は満面の笑みで受け取り、すぐさま手続きを進めていった。これによって、橋本は辞表提出から二日後という異例のスピードで会社を去ることになった。

純粋だったはずの恋心が、いったいどこで歪んでしまったのか、黒く汚れていってしまったのか……。

道流は後日、疑問に思っていたことを橋本に聞いてみた。なぜ杏花だけでなく亜樹や優衣香を狙ったのか。そしてなぜ、美雪のロッカーだったのか。

まず優衣香の場合は、ただ手紙を杏花に渡さなかったから、というくだらない理由だった。でも、それが結果的に杏花に繋がることになるのだが、優衣香を犯して写真を撮ったことにより、手紙に書いた願望が夢物語ではなく、現実に実行出来ることを知った。

だから亜樹を写真で脅して撮ったのは僕への当て付けで、理由は優衣香と同じだったはずなのに、その撮った写真がダシとなり、杏花を脅す材料になったということだ。

なんとも行き当たりばったりな感じだけれど、もう橋本にとっては引き返せなかったのだろう。

美雪に関しては、やはり以前に増田から盗撮写真を見せてもらっていて、侵入方法を知っていたからだそうだ。

ただその方法を道流は聞こうとは思わなかった。なぜかはわからないけれど、それを知ってしまったら、橋本と同じになってしまうと感じたからだ。

でも、今にして思えば美雪や優衣香のロッカーに入れるなんてリスクを負わずに、最初から杏花のデスクに置けばよかったのではないか?道流はそう疑問に思った。

けれど、橋本の考えなど誰にもわからないし、道流もそれ以上は知ろうとしなかった。

それから道流は、ただ無言のまま去っていく橋本の背中を眺めていた。

―――

そして数日が経った。

嵐が過ぎ去ったあとのような、雲間から覗き込む太陽に照らされているように、みんなの表情は晴れやかだった。

それから道流達は、この日も各々仕事を片付けて三々五々会社をあとにした。

美雪と真琴は駅に向かって歩いていた。

美雪「真琴、今日時間ある?おごってあげるから、いつものお店に行こうよ」

唐突な誘いに、真琴は驚いた。

真琴「ほぇ?珍しいですね、美雪さんからのお誘いなんて」

美雪「いいの、理由はわかるでしょ?それで、どうなの?」

真琴「ふふふ。もちろんいいですよ。……でも美雪さん、私は何もしてませんよ?最後は増田に持っていかれてしまいましたし」ため息を吐いて「ふぅ……まったく思い出すと腹が立ってきます」

でも美雪は首を横に振ってから微笑んで言った。

美雪「ううん。私はいつも真琴に助けてもらってるよ。だからさ、今夜はいっぱいご馳走してあげる。それに、たくさん文句も愚痴も聞いてあげるよ」

真琴「ふふっ。今夜の私は大変ですよぉ?ちゃんと家まで送ってくれますか?」

美雪「もちろん。なんなら、添い寝までしてあげる」

すると真琴は、幼さの残る顔で満面な笑みを見せた。

一人電車に乗っていた優衣香は、とある駅に降りた。

ホームは会社帰りのサラリーマンや学生がたくさんいた。優衣香もその中に交じり改札を出た。

さきほどは綺麗な茜色の空だったのが、もう辺りは暗くなっていた。

そこへ、一人の男が近付いて来た。

増田「お疲れ様、優衣香」

優衣香「すいません。突然ご連絡してしまって」

増田「構わないよ。君の声を聞いた瞬間に、僕は求めているものがわかったからね。それじゃあ、行こうか」

そこは、美雪が増田に会うために降りた駅だった。

優衣香は密かに募らせていた。いや、思い出していた。あのときのセックスを、増田との日々を。脱がされ、撮られ、犯された。その日々が、増田の名前を聞いた瞬間溢れ返ってきたのだ。

優衣香は考えるよりも早く身体が反応した。すぐに連絡をすると、会いたいと伝えた。結局、忘れたくても忘れられなかったのだ。

そして、着いた場所は美雪が招かれたマンション。

エレベーターに乗り込むと、二人は熱い抱擁を交わしキスをした。濃厚な口づけだった。

部屋に入ると、玄関には二足の靴が置いてあった。優衣香が増田に問うと、「友人」とだけ答えた。

疑問に思う優衣香だったけれど、もうこの際気にすることはなかった。リビングに入り、黒田と白川の姿を見ても、特別驚くこともなく、優衣香は淡々としていた。

増田「彼等はね、あるときに知り合ったんだ。なかなかいい趣味をしていてね、優衣香みたいな女性のパンティを覗いたり、痴漢したり、この前はアウトレットパークにいたそうだよ。可愛い女性がいたらしくてね、とても美味しかったってさ」

その言葉を聞いた瞬間、優衣香の心臓が高鳴った。

アウトレットパーク?あの日、少しの間だけれど亜樹の様子がおかしかった。そのときは何かあったのだろうか、その程度でしか考えられなかった。でも、今の一言が妙に引っ掛かった。もしかして、この二人に?……いやでも、そんなはずない。偶然にもほどがある。優衣香はそれ以上深く考えなかった。首を横に振って、否定した。

しかし、二人はニヤニヤと意味深な笑みを見せていた。覚えていたのだ。亜樹と一緒にいた女。見た瞬間に思い出した。

それから黒田と白川は、白々しく自己紹介をした。

増田「さあ優衣香、じゃあさっそくだけれど、裸になってくれるかい?セックスは撮影をしたあとだ」

優衣香は「はい」と答え、スーツのジャケットを脱いだ。

一方道流と杏花は、駅からマンションに向かってそろそろと歩いていた。

杏花「本当にありがとう道流君。なんか、色々助けてもらっちゃったね」

道流「だからもういいって。杏花ちゃんの気持ちはわかってるよ」

杏花「でもさ―――」

すると、道流は杏花の言葉を遮り、

道流「杏花ちゃん、し・つ・こ・い。何度も言わせない」

杏花の真似をした。

道流「杏花ちゃんは、二週間の間だけかもしれないけれど、今は僕と亜樹の家族なんだから、その大きな胸を張って帰って来ればいいんだよ。それに、なんか杏花ちゃんに謝られると調子狂うんだよね」

道流は嫌味ったらしく言った。

杏花「は?いや、それはヒドイでしょ。それじゃあ私がいつも謝ってないみたいじゃん」

道流「え?そうでしょ。だって杏花ちゃんの謝罪は言葉じゃなくて拳なんだから」

そう言うと、杏花は頬を膨らませた。

杏花「もうっ!道流君嫌い!」

それを見て、道流は大きな声で笑った。

そして家に帰って来ると、道流はドア開けた。

亜樹「ただいま!」

道流「おかえり!……って逆だから」

杏花「はははっ。もう、いつもやってるよね」

亜樹「楽しいからいいのよ。ほら、早く来て来て!今日から焼き鳥屋さん、あき、がオープンしたんだからさ!」

亜樹はそう言って、ポニーテールに縛った髪を揺らした。

リビングの方からはジューという音と、香ばしい匂いが漂ってきた。

道流と杏花はお互いに顔を見合せ笑い、それから二人はテーブルの前に座ると、お店イチオシである一品、ねぎまを頼んだのだった。

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【あとがき】

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

久しぶりの投稿だったので、また懲りずに長々と書いてしまいました。申し訳ありません。

ただもう少し短く出来たのかな、とか、わかりやすく出来たかもしれないと思うと、自分の文章力のなさや語彙力のなさを痛感しています。もっともっと勉強して精進したいと思います。

次回は、サマーホリデーな感じのお話を書きたいと思っています。

ただ投稿がいつになるのかは決まっていません。一ヶ月後か二ヶ月後か……そのときはまた、事前にコメント欄に記載させていただきますので、よろしくお願いします。

重ねてになりますが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。「」

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