1章<出会い>
「ご指名ありがとうございました。またよろしくお願いします。」
「朋子さん、また指名するからよろしく。店、辞めないでね。」
玄関のドアを閉め、部屋に戻り、テーブルの上の名刺を眺める。表には「人妻専科〇〇朋子」、裏には「いつもありがとうございます。」とハートマーク付きで書いてあった。朋子は源氏名だろう。年齢は35歳らしい。
この店は本番禁止だが、朋子さんは「店には内緒で」ってことでいつも本番を許可してくれる。ゴミ箱には使ったばかりのコンドームがティッシュにくるまれて捨ててある。コンドームの中には僕が吐きだした精液がたっぷりとつまっていて触るとまだ暖い。部屋には女の付けていた香水の匂いが微かに漂っていた。
僕は25歳の社会人3年目。未婚で優雅な独身貴族生活を謳歌している。性癖といえば、僕は年上、しかもアラフォーの熟女系の人妻しか好きになれない。これまで何度か女性と付き合った。付き合った女は僕と同じ年か年下ばかりだったが、彼女たちとのセックスに満足したことは一度もない。僕が熟女にはまったのは、以前、住んでいた自宅の隣人の人妻と肉体関係を結んだからだ。
きっかけは長くなるので省略するが、松たか子似の彼女のセックスは本当に熟女らしく、丁寧で優しかった。性交中の振舞、喘ぐ姿、甘い吐息など彼女が身にまとう色気の完熟度は高く、それにハマれば、若い女とのセックスは熟していない果実を食べるようで美味しくない。
味の違いに敏感になってしまえば、熟女を好きになるのは当然のこととなる。彼女のことは好きだったが、彼女とは引っ越しを機に会えなくなった。
そして時は流れ、今、僕はある人妻に惹かれている。彼女の自宅は僕の自宅の近所で、少し高台にある僕の自宅の真下が彼女の自宅だ。そして、彼女の素性についてはある程度のことは知っている。
名前は大川美香(仮称)。年の頃は40前半くらいだ。彼女のご主人は開業医。子供の数は分からない。立派な門扉を構えた豪邸、自宅には幹の太い木が植わるガーデン、そして彼女の愛車の赤い外車を含めて3台の外車を所持している、いわゆるセレブ妻だ。
職場は知らないが、平日の昼間に車に乗って外出するのでどこかで働いているのだろう。少し背が高くて顔も髪型も所作もどことなく女優の木村多江に似た和風美人。物静かな喋りで、ゴミ出しや犬の散歩の時に見る普段着の多くはシャツにジーパンといった、割と地味な感じである。
僕が今の場所に引っ越してきてから彼女と初めて出会ったのは近所の神社だったが、初対面で見た彼女の美しさに一目ぼれしてしまった。それからは、彼女を羨望のまなざしで見つめるようになってしまった。彼女への思いは強くなっていく一方だったが、羨望から彼女を性交の対象として見るように変化したのが、あるふとしたことがきっかけだった。
ある夏の日の夕方、僕が何気なく外を見ていると、南向きの窓が少し開き、レースのカーテンが
全開になった大山家の2階の部屋に目が止まり釘付けになった。私の家は彼女の家より少し高い位置にあるので、レースのカーテンが開いていれば彼女の部屋の奥までが見える。部屋の中には大き目のベッドと化粧台が置いてある。おそらく夫婦の寝室なのだろう。
部屋の中にはバスタオルをまいた彼女がいて、化粧台に座って何かをしている。そして、立ち上がると、はらりとバスタオルを剥ぎ取り、彼女は僕の見ている前で全裸になった。遠目ではっきり見えなかったが、身体の線だけははっきり見えた。胸の膨らみと膨らみの上にある黒い点、細くくびれたウェスト、豊満な尻肉、そして太ももの上に茂った恥毛。
スレンダーだが全体的な肉付きの良さを感じる。彼女は全裸のまま化粧台に座り、こちらに背中を向けて何かをしている。僕の心臓は高鳴りつつ、自宅のレースのカーテンに隠れ、その隙間からその様子をしばらく覗き見していた。
彼女が裸族系の女性、つまり自宅では裸で過ごす時間が多い女性だったらラッキーと期待したが、しばらくして彼女は立ち上がると、ブラジャーとショーツを着け、ジャージ姿になると部屋の中から消えていった。私はこの時に強い高揚感を覚え、その日を境に彼女の部屋を覗き見するようになった。双眼鏡を購入し、暇さえあれば彼女の部屋をチェックした。
また別の日も彼女の裸を窓越しに見た。やはり夕方だったが、今度は双眼鏡を通して彼女の身体をじっくりと観察できた。乳房はB~Cカップぐらいか。小ぶりのお椀をひっくり返したぐらいの大きさだが、張りがあって見事なお椀形をしている。
清楚な感じの彼女にはこれぐらいが丁度いいと思った。双方の乳房の頂点にある乳首は薄茶色に着色していたが、乳房の大きさと乳輪の大きさは程よい。しっかりとしたウェストの括れの下の尻肉は逆ハート形の綺麗な形をしている。それに下の茂みはほどよい濃さで秘部の上に存在している。
彼女が全裸になるのは決まって夕方だった。おそらく、夏の夕方、風呂上がりの火照った身体を冷やすために窓を開けるのだろう。レースのカーテンを全開にするのは僕には理由こそわからないが、彼女にとっては何らかの意味のある行動なのだろう。彼女の視線から見ると、部屋の中で裸になったとしても、誰にも見られない確信があるのかもしれない。
おそらく、彼女の寝室の部屋から外を見ると、住居といえば唯一、僕の住むアパートの尖り屋根しか見えないし、僕の部屋の窓は目の前の木の枝に隠れて見えないのかも知れない。なので、誰かに覗かれるかも知れないという選択肢は彼女の中には無いのだろう。
ある日、彼女がベッドの上で全裸になり、スマホを片手にオナニーっぽいことをしているとこを見たこともある。自分の秘所を指でいじりながら、スマホを耳に当てて喋ったり、指で弄られる股間にスマホを近づけたりしている。スマホで喋る相手に自分のオナニーシーンを見せ付けていることは明らかだった。
おそらく相手は御主人だろう、と勝手に想像しながら、僕はその光景を見ながら手を名一杯動かして激しい自慰をした。彼女がベッドの上で遊びながら悶えている間、僕は2回ほど射精した。
それからは、用事もない土日は夕方から夜にかけて、自宅の窓際で過ごす時間が多くなった。夕方、彼女の全裸を見ることには飽きてきたが、深夜の寝室を覗き見することにも興奮した。覗いても何か特別なモノは見えることはなかったが、レースのカーテンの向こうで旦那と彼女がセックスしていることを妄想すると、下半身に血液が逆流し、何度も自慰をした。
僕のこうした日課の覗き見も、寒くなるにつれて終わりを迎えた。結局、彼女の裸が見れたのは夏だけで、寒くなった今は窓に四六時中、厚いカーテンがかかっていて、部屋の中の様子も伺い知ることができなくなった。
********************************
話は過去に戻る。
土曜日。早起きして朝のランニングに行くのは僕の日課となっていた。少し前までは半袖に短パンでも寒くなかったが、10月に暦が変わり急に朝の空気が冷たくなった。なので、今日は少し厚着をして家を出た。吐く息はまだ白くはないが、強い風が吹くと服を通して肌寒さを感じるようになってきた。気づけば、夏も終わり確実に秋の足音が近づいている。
今週末、雨さえ降らなければ近所の神社での例大祭が執り行われることになっている。ランニングのゴール地点の神社に到着すると、提灯を吊り下げる木枠と盆踊りのステージが既に設置されていた。朝早いというのに、近所の顔見知りの老人夫婦に出会い、軽く挨拶を交わす。
僕は神社にお参りした後、本殿の縁側の端に座り、ある女性が来るのを期待しながら待った。しばらくして、ワンっと犬の鳴き声が聞こえ、階段からイヌのリードを引きながら彼女が現れた。ここで彼女と会うのはもう何回目だろうか・・階段をかけあがり、少し息を切らしながら本殿の前で手を合わす。そして、彼女は私に気づくと、「おはようございます。」といつも声をかけてくれた。
彼女は犬のリードを神社の柱に繋ぐと、縁側に座る僕の側にちょこんと座る。
「よくここでお会いしますね。ランニングですか?」。薄化粧した彼女は笑いながら僕に告げた。
「そうです。毎朝、走った後、ここで休憩するんです。」
彼女は「そうなんですね」と言いながら前を向いた。境内には僕たち以外に誰もいない。静かになった境内で彼女と向き合い、意味もなく思わず笑ってしまった。
彼女は笑いながら、「お茶でもどうですか?」というので、「いただきます。」と相づちをうった。
小さなワインレッド色の魔法瓶から注がれたお茶の入ったコップを渡された。僕は彼女と向き合いながら、湯気の立つお茶をすすった。暖かいお茶が喉を通りすぎ、暫くしてから冷えた身体がポカポカと暖かくなってきた。
「お名前とお年を聞いてもいいかしら?」
「鞍田智樹です。25歳です。」
「鞍田くんね。よろしくね。大川美香です。年齢は内緒だけど、干支一回り以上離れてるわね。」と言いながら、魔法瓶から湯飲みにお茶をそそぎ、ふぅーと一息吹き掛けると、お茶を一口飲んだ。
「もう秋祭りか…今週末、晴れるといいな。」
「天気予報では晴れになってますけど。」
彼女は、よかった、と笑ってお茶を飲んでから、一呼吸置いて、
「鞍田くんの自宅はこの辺り?」と話題を変えた。
「○○に住んでます。」と答えると、
「私の家に近いわ。同じ町内なのね。じゃあさ、K会館で土曜日、秋祭りの前夜祭するから来たら?いわゆる、町内会ってやつ。私も行くし、この辺の人に顔覚えてもらういい機会だと思うわ。」
僕は反射的に、はい、と答えてしまったことを後悔した。しかし、その答えを強く拒否する気持ちは無かった。そこに行けば、彼女と会えるという気持ちの方が自分の中に強く芽生えていることに驚いた。
彼女を意識し始めてからは半ば上の空のまま、彼女と並んで座りながら、色々と話をした。
「急に寒くなったわね。お茶、飲む?」と促され、はい、と答えると、「これ最後の一杯」と言いながら湯飲みを渡された。熱いお茶をぐっと飲むと、胃の辺りが暖かくなった。
「そろそろ帰んなきゃ。それじゃあ、またね。」。彼女は縁側からぽいっと降りると、犬を連れて神社の階段を半ば駆け足で降りていった。僕の目の前で一辻のつむじ風が吹いた気がした。
************
帰宅し、シャワーを浴びてから、そういえばと思いテーブルの上のわら半紙のチラシを手に取った。この前、回ってきた回覧板の中に入っていたチラシで、「前夜祭と例大祭」の日時が書かれていた。僕はそのチラシを手に、「行くか、行かないか#ブルーという下らない2択にたくさんの時間を使ったが、結局、行かないことにした。
そもそもお酒は飲めないし、近所の人に顔を知ってもらう意義をあまり感じなかった。チラシをテーブルに置くと僕はベッドに潜り込み、二度寝を楽しむために目を閉じた。
(続)