「ハハハ、やっぱり人事部さんは怖いねぇ~」
石倉部長が禿げ上がった頭を厚手のハンカチで拭う。
そうしながら、視線をボクに送ってきた。
助けを求めている。
それはわかる。
だが、部長職の人間にそんな眼で見つめられても困る。
ボクの名は、板野耕太。
人事部員ではある。
だが、ボクは一介のリクルーターだ。
然も新米。
気付かなかったことにしよう。
ボクはすっと視線を逸らした。
何も見なかったことにしよう。
スルーしようとした。
だが、部長は手強い。
つかつかとボクの傍らにやってくる。
そして、更に話しかけてきた。
「いやぁ、岩倉くんに怒られちゃったよぉ~」
『やめてくれ、この昼行灯!』
心の中でボクは叫んでいた。
何をしでかしたのかしらないが、新人を頼るのは筋が違う。
ボクは、そう思う…。
そうは思っても、相手は技術部の部長だ。
然も、何を言っても通じる相手ではない。
仕方なく顔を上げる。
精一杯の営業用のスマイルを浮かべる。
これでよし…。
そして部長のほうへと視線を戻した。
愛想笑いがきっと丸わかりだ。
けれども、そんなことで動じる相手ではない。
次の瞬間、ボクより先に口を開いた人がいた。
「お言葉ですが…」
岩倉さんだ。
音もなく、いつの間にか部長の背後に立っていた。
「うわぁ!」
驚いたときの猫のように飛び上がり、本気で驚く部長。
「い、岩倉くん、いたの?」
岩倉さんの声に驚いた部長は、振り向きざまに声を上げた。
岩倉さんは背が高い。
だから、小柄な部長が岩倉さんを見上げる形になっている。
進撃の巨人さながらの構図だ。
ちょっと盛ってしまった。
部長がボクの所にやってくるのは背が低い者同士の親近感からか。
驚く部長を尻目に、岩倉さんは最初から言い直した。
「お言葉ですが、部長…」
「…私と部長の間には人事上、5階級の開きがあります…」
「…その私が、部長に対して怒るという行為をとることなど…」
「…あり得ないことです」
意味もなく頷く部長。
禿げ上がった頭には汗が滲んでいる。
罰の悪そうな表情。
助けを求めるように、目が泳いでいる。
部長は再び視線をボクに向けた。
『だから、ボクに助けを求めるのはやめてください!』
心の声が漏れそうになった。
いくら背が低い者同士だからって、困る。
『お願いだから、新米に頼るのはやめてくれ!』
心の声は表情になって漏れていた…。
…と思う。
ボクでは助けにならない。
ようやく悟ったのだろう。
腰を引き気味にしながら、両手の掌を岩倉さんに向けている。
宥めるようにな仕草。
その両手をゆっくりと前後に動かしながら、部長は後ずさりした。
どう、どう、どう…。
まるで、トラかクマにでも出くわした時のような仕草だ。
「部長…」
岩倉さんが追撃にかかろうとする。
「いや、岩倉くん、落ち着いて…」
そんな岩倉さんの言葉をジェスチャーだけで遮る部長。
岩倉さんが歩みを止めたのを見届ける。
すると、部長は踵を返すとそそくさとその場から立ち去った。
「石倉部長ったら…」
「…人のことを、猛獣か何かみたいに…」
あまりにも美しすぎる猛獣だ。
そう思ったが、口にはしなかった。
岩倉さんはボクと同じ人事部で働いている。
年齢は七つ上。
ボクの指導員でもある。
ただ、採用担当のボクとは違って、人事や労務の仕事をしている。
その所為か、社内では怖い先輩として恐れられているようだ。
「岩倉さん、綺麗な顔してるけど、怒らせたら怖いから」
社員食堂でそんな噂話をしている社員がいた。
彼らの背後で岩倉さんと並んで食べていたボクは、ヒヤヒヤした。
岩倉さんは顔色一つ変えずにボクの横で蕎麦を啜っていた。
話は聞こえているはずだ。
その社員たちは岩倉さんの存在に気づくことなく、別の社員の噂話を始めた。
「ほら、秘書室の美人」
「うん、田之倉さんだろ?」
「おう」
「あれは、社内でもトップクラスの美人だな」
「うん」
「けど、知ってるか?」
「何を?」
「彼女、エンコだよ、エンコ」
「エンコ?」
「そう、縁故入社」
ボクは採用を担当しているが、真偽のほどはわからない。
田之倉さんもボクよりずっと先輩だ。
「社長が候補者の学生さんの面接日程を知りたいそうです」
そう言われて、採用日程と候補者のリストを渡したことがある。
そんなことがあって、田之倉さんの顔と名前だけは知っていた。
岩倉さんがスックと立ち上がった。
キター!!!
エンコ、エンコと連呼していた男性社員たち。
そこに背後から歩み寄った。
「そんな、根も葉もない噂を流布しないほうがいいですよ」
驚く男性社員たち。
ひとりは椅子から尻が浮いていた。
それを尻目に、岩倉さんは続けた。
「根拠もなく、公のスペースで他の社員を誹謗中傷するようだと…」
岩倉さんはそこで一呼吸おいて続けた。
「…”人事規定第五十三条第三項、社内の秩序を乱す行為”と看做されますよ」
そんな、大げさな…。
つい、そう思った。
だが、効果は絶大だった。
相手が岩倉さんだと認識した男性社員二人。
徐に立ち上がり、直立不動で気まずそうに目を伏せた。
それから、食べ終わった食器の乗ったトレイをそっとつかむ。
小さく頭を下げる二人。
そして、そそくさと食堂を後にした。
一撃必殺。
凄い先輩だ。
年齢はアラサー。
岩倉さんのことだ。
アラサーと言っても三十路のラインは超えているほうのアラサー。
美魔女っていうのかな。
年齢の割に見た目は若い。
だが、仕事中、特に戦闘モードに入ったときの迫力は凄まじい。
背が高くて、スラッとしている。
いつも背筋がピンと伸びている。
メガネの奥で鋭い眼光を放っている目は所謂、アーモンドアイ。
岩倉さんがボクのところに戻ってきた。
そして、何事もなかったかのように箸で残った蕎麦を口に運んだ。
業務口調に戻った岩倉さん。
「板倉くん、藤川さんに連絡入れておいてくれた?」
イタリアに駐在中の藤川さんのことを言っている。
その日の朝、岩倉さんは海外研修の説明をしていた。
相手は営業部の若手。
と言ってもボクより先輩なのだけど。
営業成績の良かった社員に対する海外派遣のご褒美だ。
うちの会社は放任主義。
だから、現地についてからは何とか一人で生き延びろ的な研修スタイルだ。
ちょっと荒っぽい。
けれども、空港での出迎えだけはすることになっていた。
せめて赴任地でいきなり躓かないようにという配慮だ。
「はい、藤川さん、快く引き受けてくださっています!」
応えると、きちんと視線を向けてひと言礼を言ってくれた。
「サンキュー!」
見ると岩倉さんが頷いてくれている。
岩倉さんのそういうところが好きだった。
先輩たちからは、怖い人だと教えられていた。
けれども、ボクにはそんな風には見えなかった。
岩倉さんに対しては、最初から好印象だった。
仕事上、言い難いこともはっきりと相手に伝えなければならないだけだ。
職業病とでもいうのかな。
それに、理詰めで話す。
だから、余計に取っ付き難いと思われてしまうのだろう。
たぶん。
うちはラボを持っているので、理系の人間も多い。
そんな中、岩倉さんは理系の人間よりずっと理系っぽい。
極めて論理的だ。
そんな岩倉さん。
実はボク…。
こっそり彼女とつきあっている。
つきあうことになった切っ掛けは、偶然だった。
美人なのでちょっとした憧れは持っていた。
でも、同じ部の先輩だし。
指導員だし。
怖いって言われてるし。
そう思ってた。
思っていたが、あるきっかけが運命を変えた。
それは、ボクが初めて任された大きな仕事だった。
うちの会社は年に一度、新卒の採用を行う。
その担当を任された。
仕事はそこそこでもリクルーターだから。
採用する人数はたかだか知れているけど。
それでも、新人のボクにとっては大役を任された気分だった。
実際の面接は、ずっと上の偉い人たちがやってくれる。
例えば、技術系の学生はくだんの石倉部長だ。
ボクの仕事というのは、採用全体の流れと段取りを取り仕切ること。
エントリーシートの整理。
学生さんへの連絡。
面接会場に集まった候補者の交通整理。
そして、社内でボランティア的にお手伝いをしてくれる人たちの割り振りと調整。
だから、そういう人たちの役割分担を決め、お願いをして回るのもボクの仕事だ。
根回しが肝心と教えられた。
季節の風物詩。
結構忙しい。
いや、メチャクチャ忙しい。
それでいて、あの学生とこの学生は鉢合わせをしないように、とか言われる。
ビミョーな調整を求められる。
それでいて、しくじるとニアミスだと言われる。
何なんだ!
まるで、空港の管制官のような気分だった。
岩倉さんは、お手伝いを申し出てくれた人たちのひとりだった。
人事部だから手伝って当然と思われがちだ。
だが、みんながみんな協力してくれるわけではない。
ましてや、岩倉さんのように何年も上の先輩が手伝ってくれることは珍しい。
ボクの指導員ということも理由だったのかもしれない。
秘書の田之倉さんも来てくれた。
そんなことでもなければ、秘書なるお仕事に携わる人とお知り合うになれるはずもない。
ましてや、美人だ。
関係ないか…。
ボクにとっての一大イベントとも言える新卒採用。
そういった人たちの助けを借りて、ボクはその大役を何とか果たすことができた。
その打ち上げの席でのこと。
ボクは岩倉さんの真向かいの席に座ることになった。
美人だけど近寄りがたい。
部内ですらそんな風に思われている。
面接会場のあと片づけがあって、ボクは少し遅れて居酒屋に到着した。
空いている席。
もう岩倉さんの向かいの席だけだった。
苦手意識はなかった。
叱られもするけど、理不尽なことで叱ったりしない。
だから、周りにヘコヘコしながらすんなりと空いている席に着いた。
岩倉さんは、ボクと違って無駄に愛想を振りまく人ではない。
ニコリともせず、目の前に座っていた。
話題が見つからない。
それで不用意にもつい、岩倉さんの身長について触れてしまった。
「岩倉さん、ホント背が高いですよね」
岩倉さんの眉毛がピクリと動く。
同時に、隣に座っていた別の先輩に脇腹を小突かれた。
当の岩倉さんは、ムスッとした表情でいた。
凍りかけた空気。
その空気を変えようと、ボクは昔の友人の話をした。
高校時代と大学時代の友達だ。
二人には共通点があった。
その何れもが、カノジョのほうが背が高かった。
「実は、高校時代のクラスメートに大柄な女子がいたんですよ」
岩倉さんは、何の話だという目をした
だが、話を遮りはしなかった。
「その子、幼馴染の男子、そいつがボクの友人なんですけど…」
「…そいつと同じ学校になりたくて…」
「…進学校でもないうちの高校にやってきたんですよ」
岩倉さんは、社員全員の出身校を覚えている。
だから、学校名は言わなくても『うちの高校』でわかっている。
「女子のほうは男子のこと、ずっと見てたんですよ」
岩倉さんは興味を持ったのか、尋ねてきた。
「男子は、背が低かったの?」
「ハイ、当時は女子の方が15センチくらい背が高くて」
「ふぅん」
「岩倉さんはどうですか?」
「どう?」
「いるじゃないですか、自分より背が高い人でないとダメな人」
すると岩倉さんは何かを言おうとして、キュッと口を結んだ。
目で促すと、今度は躊躇うことなく即答だった。
「私は、自分より高い方がいいわ」
えっ!?
撃沈!
ハイ、消えた!
思わず黙り込むと、岩倉さんは言った。
「冗談よ!」
ボクはちょっと驚いた。
岩倉さん…、冗談言うんだ…。
「背の高さなんて選り好みできる立場じゃないもの」
年齢のことを言っているのかと思ったが、黙っていた。
地雷、回避。
「別に、身長なんて気にしないわ…」
「…だって、相手と合うか合わないかだけのことだもの」
それを聞いたボクは話を続けた。
「江上さん…って、その女子もそんな子でした…」
「…子供のころから男子のほうが背が低かったらしいんですけど、それでもずっと好きだったらしいんです」
「ふぅん」
それを聞きながら、岩倉さんはロックで飲んでいた焼酎の氷を指先でクルリと回した。
「その二人が文化祭でくっついて、結局、二人は同じ大学に行ったんです」
「妬っかんだ周りの生徒たちに、ノミの夫婦なんてからかわれていたんですけど…」
ボクは岩倉さんの方を見ながら言った。
どうやら地雷は踏んでいないようだ。
「…あるときを境に、江上さんがびっくりするくらい変わったんです」
「どんな風に?」
「自信にあふれてきたって言うか」
「ふぅん…」
「たぶん、野口との間に何かあったんだと思うんですけど」
「野口って男子の方ね?」
「はい」
「男女の仲になったってこと?」
はっきりものをいう人だ。
「ええ、多分…」
「…何だか、堂々としてきて…」
「…それまで猫背だったんですけど…、」
「…こう、背筋がピーンと伸びたって言うか」
すると、グラスの氷から指を離した岩倉さんはボクのほうに視線を向けると言った。
「私も昔は猫背だったわ」
背の高いオンナあるあるだ。
「あとですね…、」
「…大学のときにも背が高いことを気にしていた女の子がいたんです」
「この子も、男と付き合いだしてから随分変わったんです」
「どんな風に?」
「『私なんて』っていうのが口癖だったんですけど、言わなくなって、シャキンと背筋も伸びて…」
何のためにそんな話をしたのか。
自分でもよくわからない。
ただ、沈黙を破りたかっただけなのか。
それとも何かのアピールをしたかったのか。
本当はわかってる。
明らかに後者だ。
わかりにくいよな…。
今だから言えること。
ボクは岩倉さんに対して指導員以上の感情を抱いていた。
いずれにせよ、それをきっかけに岩倉さんとは仕事以外の話もできるようになったのを覚えている。
いや…、ちょっと違うかな。
その後をきっかけに、かな。
話をもどそう。
宴も酣になって、お開きになった。
「岩倉さんを頼むな」
先輩にそう言われ、気がつくとボクは岩倉さんと二人だった。
取り残されてしまった。
岩倉さんを押し付けられたというほうが正しいかもしれない。
でも、ボクは嫌ではなかった。
寧ろ、嬉しい。
岩倉さんと二人で並んで歩き始めると岩倉さんが徐に言った。
「板野くん、付き合ってる人いる?」
唐突な質問に面食らった。
モテない男だと思われるはどうかと一瞬思った。
だが、嘘を吐いても仕方がないので正直に答えた。
「いないです…」
すると岩倉さんは少しだけ間をおくと、目を合わさずに言った。
「仕事がうまくいったご褒美をあげる」
流石、指導員。
「ご褒美は何ですか?」
そう言うと岩倉さんは今度はボクの方を向いて言った。
「セックスしよっか?」
これには、度肝を抜かれた。
衝撃を覚えた。
「え?え?」
何と返事をすればよいのか戸惑った。
そのうちに、手首を捕まれた。
そのまま岩倉さんに引っ張られるように連行された。
気付くとボクたちはラブホテルの自動扉を通過していた。
「板野くん、いい?」
何も言えずにいると岩倉さんは続けた。
「これは、大人の関係だから」
ボクの頭はパニクっていた。
何をしに来たかは、ストレートに告げられているので想像はついている。
でも、どうしてボクなのか?
それに、あまりにも突然だ。
「シャワー、浴びたら?」
突っ立ったままのボクに岩倉さんが促した。
言われるがままに、バスルームに入り、シャワーを浴びた。
困惑と戸惑いはあった。
だが、その一方でボディーソープで念入りに股間を洗っている自分がいた。
バスルームを出ると、入れ替わるように岩倉さんが入っていった。
シャワーの栓をキュッと捻る音がして、湯が流れる音がし始めた。
バスローブを身に纏い、ベッドに寝転がって待っていた。
すると、同じくバスローブ姿の岩倉さんが出てきた。
髪を下した岩倉さんは背中まで髪が垂れていた。
いつもヒッツメにしているのであんなに長いと思っていなかった。
それに眼鏡を外した岩倉さんは、吃驚するくらい綺麗だった。
岩倉さんがベッドの枕元にある摘みで部屋の明るさを調節する。
そして、いきなりボクの上に馬乗りになってきた。
肉食系?
「岩倉さ…」
「シッ!」
人差し指を立てて、ボクの唇にその指をそっと触れる岩倉さん。
彼女の目に隠微な炎がチラついた次の瞬間、岩倉さんはボクに覆い被さると唇を奪った。
いきなりのディープキスだった。
ヌルッと舌が入ってきて、瞬く間に舌を絡めとられた。
鼻息荒く、ボクも必死に岩倉さんの薄い唇を吸った。
唇を合わせながら、岩倉さんがボクのバスローブの紐をスルリと解いた。
前合わせを開く。
ボクの膨らんだ股間が岩倉さんの目に晒されてしまった。
岩倉さんは何も言わずに自分もバスローブを脱いだ。
形のいいおっぱいがボクの目の前に現れた。
それを堪能するまもなく、岩倉さんは再びボクに覆い被さってきた。
そして、耳たぶを甘噛みすると唇をどんどんボクの身体に這わせてきた。
「あぁ…」
あまりの気持ちの良さに声が漏れてしまった。
すると、それに刺激されたのだろうか。
指先でクルクルと小豆のようなボクの乳首を刺激しつつ、もう片方の乳首を啄ばむように唇で挟んだ。
岩倉さんの指が乳首を離れ、脇腹を通って股間へと到達した。
恍惚の表情を浮かべていたボクは、思わず仰け反ってしまった。
に、握られている!
岩倉さんはゆっくりと手を上下に動かし始めた。
き、気持ちいい…。
ボクの分身は一層硬さを増していた。
すると岩倉さんの唇がボクの股間に到達した。
来るのか?
来るのか?
キターッ!!!
怒張したボクは、ズッポリと岩倉さんのお口の中に咥え込まれていた。
ジュルジュルと音を立ててディープスロートが続く。
翻弄されるボク。
女性経験の浅いボクの限界はそこまでだった。
「ウッ!」
ボクは無残にも果てていた。
不覚にも岩倉さんのお口の中で。
岩倉さんはそれでも口を離さない。
少しずつ力を失っていくジュニア。
その大きさを唇で確かめるかのように。
そして、最後の一滴までを吸い出すように。
岩倉さんはボクをお口に含んだままでいた。
「いっぱい、出たわね」
母親のように添い寝をしながら、岩倉さんはボクをあやすような仕草をした。
「凄かったです…」
素直に感想を述べた。
すると、岩倉さんは天使のような笑顔を浮かべボクに口付けした。
甘い甘いキスだった。
最初のディープキスとは違い、愛するものを慈しむようなそんなキスだった。
最高の雰囲気。
それなのに…。
その雰囲気をぶち壊すならず者がいた。
若輩者のジュニアは、それに反応し、再び鎌首を持ち上げてしまっていた。
「元気ね」
そういうと、岩倉さんは身体の向きを入れ替えた。
そして、シックスナインになって覆い被さってきた。
岩倉さんの秘密の場所が、ボクの目の前にあった。
バクリと再び咥えられ、ボクも夢中で岩倉さんの亀裂に舌を這わせた。
「板野くん、上手…」
暫くすると、岩倉さんは今度はボクの腰の辺りに跨った。
「いい?」
尋ねられたボクが断る筈もなかった。
岩倉さんはボクに手を添えながら、そっと腰を沈めた。
ぬぷっ。
温かい…。
あぁ、何て温かいんだ。
ボクは痛いほどに屹立していた。
岩倉さんとひとつになった。
そのことだけで、ボクは心が満たされていた。
騎乗位になった岩倉さんが目の前にいる。
ゆっくりと前後に腰を動かし始める岩倉さん。
何度もジュニアが締めつけられるのを感じた。
やがて訪れる二度目の射精感…。
ヤバイ!
コンドームを着けていない。
「もうダメです…」
堪らず、そう告げると岩倉さんは腰の動きを止めた、
岩倉さんは頭の中で素早く指を折って数えているようだった。
やがて、小さく頷いた彼女は優しい目をして言った。
「いいわよ」
「え?」
岩倉さんは繰り返した。
「いいわよ…」
「…ナカで出しても」
岩倉さんの言葉を信じていいものかどうか…。
一瞬迷った。
だが、冷静に考えている余裕はなかった。
ボクは上半身を起こした。
それから岩倉さんの身体を押し倒すようにして正常位の体勢になった。
狂ったようにボクは激しく腰を振った。
太腿が岩倉さんの内腿に激しく打ち付けられる。
パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン!
岩倉さんが下からボクに抱きついてくる。
激しいベロチューをされた。
ボクは脳天が痺れていた。
マックスまで高まる興奮。
やがてそれが臨界点を迎える。
岩倉さんも白い喉を見せて仰け反った。
「あぁーっ!!!」
二人は同時に昇天し、果てていた。
ぐったりとなって、岩倉さんに体重を預けるボク。
大木に止まったセミの気分だ。
岩倉さんはボクの背中に回した腕を少し上にずらした。
そして、ボクの後頭部へと手をやった。
「男の人にイカせてもらったの、初めて…」
「そうなんですか?」
「うん、ありがとう」
そう言うと、岩倉さんは大きく深呼吸をした。
そしてボクの頬にチュッとキスをしてくれた。
岩倉さんから離れる。
すると、彼女の股間からドロッと白濁液が流れ出て、ベッドにシミが広がった。
翌日、会社で会っても岩倉さんは普段のままだった。
一夜限りのご褒美だと思っていた。
だから、ボクは割り切っていた。
ウソだ…。
本当は揺れる気持ちを押さえていた。
岩倉さんは、いつも通り厳しい。
でも、気のせいか少しだけ目が優しくなった気がした。
岩倉さんとのことは墓場まで持っていくつもりだった。
だから、翌日もその翌日も、二人の間であの晩のことを話すことはなかった。
けど、中で出してしまったことだけはちょっと気になっていた。
あの日から一週間ほど経った頃。
岩倉さんはボクの所へやってきて小声で言った。
「…ったわ」
「はい?」
よく聞こえなくて思わず声を出してしまった。
その声が思いのほか大きかった。
部内の何人かが振り返ってボクたちの方を見た。
岩倉さんは眉を顰め、少し屈んでボクの耳元で囁いた。
「生理あったわ、って言ったの!」
ボクが気にしていたのは、お見通しだった。
大人の女性は違うと思った。
ほっと胸を撫で下ろすと同時に、モヤモヤした。
その気持ちが何なのか、暫くは自分でもわからなかった。
そんなボクの様子を見てとったのか、岩倉さんが小声で言った。
「週末、会える?」
ボクは岩倉さんを見上げるようにして、大きく頷いた。
それを見た岩倉さんはちょっと嬉しそうな顔をした。
でも直ぐにいつもの厳しい表情に戻っていた。
その日、帰り際にメモを渡された。
そこには彼女の家の住所と携帯の電話番号が書いてあった。
驚いたのは待ち合わせ時間が朝の七時だったことだった。
夜の七時?
しかしメモ書きにはしっかりとAMと書いてあった。
サラリーマンの早起きは厳しい。
ましてや週末ともなると、尚更だ。
しかし、翌朝ボクは目覚ましが鳴る三十分も前に目が覚めた。
どれだけ岩倉さんに会いたいと思ってるのか、その時気付いた。
最初はセフレのような関係なのかと思っていた。
岩倉さんが何を考えているのか、伝えてくれることはなかった。
それに、ボクも言いそびれてしまった。
朝の七時に待ち合わせて、朝早くから店を開けている商店街を散歩した。
「ここを散歩するのが、結構楽しみなの」
その良さは正直わからなかった。
でも、岩倉さんが好きなことを一つ知ることができて嬉しかった。
「お豆腐って、鮮度が命なのよ」
老舗の豆腐屋だという店の前。
岩倉さんは立ち止まって教えてくれた。
「ホントはもっと早くからやってるんだけど…」
「…板野くん、もっと早いと辛いでしょう?」
岩倉さんはすべてお見通しだ。
その店で、岩倉さんは木綿豆腐を二丁買った。
「じゃぁ、家へ行こっか」
いつもと違って気さくな言葉遣いの岩倉さんがそこにはいた。
彼女の家は、商店街を抜けたちょっと先にあった
高層マンションではないけれど、岩倉さんの家はマンションの一角だった。
「失礼しまぁす」
恐る恐る足を踏み入れる。
すると岩倉さんはちょっと笑いながら言った。
「何も出ないから大丈夫よ」
お化けでも出てきそうなリアクションに見えたのだろうか。
「テレビでも見て待ってて」
ワンルームの端にあるベッドに腰掛けるのは憚られた。
だから、テレビの正面の床に敷いた座布団に腰掛けた。
待っていると、岩倉さんは手際よくキッチンで少し遅めの朝ご飯を作ってくれた。
商店街で手に入れて新鮮な豆腐を使い、湯豆腐をつくってくれた。
「私、いまこれにハマっているの」
そう言いながら、出してくれた湯豆腐は絶品だった。
朝から湯豆腐も悪くない。
ちょっとパンチが足りない気もしたが、口には出さずにいた。
温かい豆腐が胃袋に沁みる。
ちょっとだけ岩倉さんとの新婚生活を夢想してしまった。
「手伝います」
そう言って食事の後の食器を一緒に洗った。
「会社以外で会うといろいろな発見があるね」
岩倉さんにそう言われてしまったボク。
きっと家事なんて一切やらない男だと思われていたのだろう。
的外れではない。
ただ、ボクは料理をするのは好きだ。
後片付けが苦手なだけだ。
そのことを言うと、岩倉さんは笑って言った。
「じゃぁ、次はお願いするわ」
さらっと言ってのけた。
ボクは内心思った。
次があるんだ…(嬉)。
後片付けを終えて、テレビの前に戻ってくる。
不意をついて岩倉さんに後ろから抱きしめられた。
逆あすなろ抱き!?
ボクは身体を捻って正面に向かい合い、彼女を抱きしめた。
岩倉さんがボクの身体を押すようにして、ベッドに倒れこんだ。
肉食系の本領発揮。
服の上からおっぱいに触れ、スカートに手を入れようとした。
その時、岩倉さんはボクの手首を掴んで動きを制した。
「板野くん、ゴメン…」
「…まだ、終わってないの」
「!?」
彼女はまだ生理中だった。
肩透かしをくらった気分だった。
だが、岩倉さんはボクに抱きつきながら、耳元で続けた。
「だから、私が気持ちよくしてあげる」
萌えぇぇ!
それって…。
ボクは着ているものを一枚一枚剥ぎ取られた。
トランクス一枚になったボク。
岩倉さんもブラウスとスカートを自分で脱いで、ブラジャーも外してくれた。
すごくきれいな円錐形のおっぱい。
ビーナスの裸体がそこにはあった。
ベージュ色の下着一枚の姿になった岩倉さん。
ボクのジュニアを硬くさせるにはそれで十分だった。
「リラックスして、そこに寝て」
促されるままだった。
ボクは仰向けになってベッドに身を横たえた。
岩倉さんがボクに覆い被さってくる。
あっ…。
また、握られている。
ボクの分身はいつの間にか岩倉さんの掌の中だった。
その手がゆっくりと動き始める。
「うぅぅ!」
き、気持ち良すぎる…。
ボクの股間は正直だ。
ピクン!
これ以上反り返りようがないほど反り返っている。
痛いほどに膨らみ、屹立している。
岩倉さんが四つん這いになる。
そしてボクに重なるように覆い被さってきた。
髪を耳に描き上げる仕草。
何とも色っぽい。
唇が重なってきた。
や、やわらかい!
あぁ、何て柔らかい唇なんだ…。
それに甘い甘いキス。
大人のキスだ。
ぼうっとなるボク。
そこへ唇を割ってヌルッと舌が入ってきた。
た、堪らん…。
舌と舌が絡まりあった。
あまりの気持ちの良さに目を閉じたままでいた。
ピクン。
ジュニアは既に弾けそうだった。
岩倉さんの唇と舌がボクの首筋に移る。
何て気持ちいいんだ…。
全身リップの始まりだった。
夢のような時間。
乳首を舌先でクリクリ。
それが何ともエロい。
脇腹を唇でチュッチュッ。
あぁ、全身愛撫。
ボクの股間にどんどん血液が集中する。
そして…。
そして、遂に…。
岩倉さんの唇がボクの局部に到達した。
根元から先っぽへ舌が這って行く。
ひぇぇぇ~!
え、エロい!
気持ちいい!
ひーっ!
ぺロぺロペロ…。
それからパクリ。
お口の中に吸い込まれたとき、屹立は限界を超えかけていた。
痛いほどに。
咥え込んだまま、根元から先っぽへと唇が繰り返し上下する。
愛おしそうに、やさしく…。
それからグッと奥まで呑み込まれる。
岩倉さんの唇がボクの陰毛に隠れるほどだった。
ボクの分身はディープスロートに翻弄されていた。
お口の中で何度も弾けるボク。
その度にボクの精子は岩倉さんの咽喉を通った。
全てが岩倉さんに注ぎ込まれた。
ボクはフヌケになっていた。
きっとだらしない顔になっていたと思う。
そんなボクを岩倉さんは優しく胸に抱いてくれた。
眠気が襲い、岩倉さんの身体にしがみ付くようにして微睡んだ。
夢と現の狭間で岩倉さんが言っていた。
「誰にでもこんなことする女だと思わないでね」
「男の人の呑んだの、板野くんが初めてだから」
「中で出されてもいいって思ったのも、板野くんが初めてだよ」
ボクは岩倉さんのためなら死んでもいいと思っていた。
でも、それを告げる前に、ボクは夢の中に堕ちた。
惰眠を貪っていた。
週末を迎える前に岩倉さんが訊いてくるようになった。
「今週来られる?」
ボクはいつも即座に頷いていた。
その度に少女のように嬉しそうな表情を一瞬だけ見せる。
週末を迎える度に逢瀬を重ねた。
ボクたちはそうして二人だけの秘密の関係を続けるようになった。
岩倉さんと会うのはいつも彼女の家だった。
ワンルームマンションでのひとり暮らし。
初めて呼んでもらった週末、実は恥ずかしかった。
大人のお付き合いをしているのに、手ぶらで出かけてしまった。
かろうじて豆腐の代金を払わせてもらい、自分だけ納得した。
だからそれからは岩倉さんの好きな食べ物を聞き出して、持参するようにした。
岩倉さんは、ボクの気持ちを汲んでいろいろリクエストしてくれた。
結構情報通で流行りのスイーツや人気のお店をよく知っていた。
そのことを褒めると、取引先や海外からのお客様のお土産用に情報収集しているという。
流石、岩倉さん。
食事の後は濃厚なセックス。
週末以外は会えないので、必然的に激しいものになった。
しっかりと前戯をしてあげられる余裕も出てきた。
最初は指でイカせてあげる。
ぷっくらと膨らんだ蕾を指の腹でクリクリ。
それから愛液の溢れた亀裂に指を入れてGスポットを探し当てる。
初めてGスポットを擦り上げて絶頂に導いたとき、岩倉さんは潮を吹いた。
シーツに飛沫が飛び散って、暫く放心していた。
それから全身に唇を這わせる全身リップ。
岩倉さんがしてくれるほど上手じゃない。
けど、頑張った。
岩倉さんの脚の付け根から一番遠いおでこにチュッ。
それから女性の大事なところへ向かって、徐々に近づいていく。
耳の後ろ。
うなじ。
首筋。
鎖骨。
脇の下。
乳房付近ではしっかりとチュウチュウ。
薄いピンクの乳首が綺麗だ。
コリコリに硬くなった乳首を何度か甘噛み。
そして脇腹、腰へと進み、へそ下三寸へと到着する。
「板野くん、早くぅ…」
待ちきれなくなった岩倉さんがおねだりする。
それを聞くのが嬉しくなった。
暫くは茂みを掻き分けぷっくらと膨らんだ蕾をレロレロレロ。
「あ、あ、あ…」
岩倉さんが身悶えする。
それを見てボクは唇を今度は足のつま先へ。
脹脛。
内股を膝上から脚の付け根へと。
舌を這わせて亀裂の周辺をペロペロする。
速く中心をと急かすように腰をくねらせる岩倉さん。
「板野くん、意地悪しないで…」
待ちきれなくなった岩倉さん。
遂に身体を起こそうとする。
それを見たボクは逆さまになって彼女に覆い被さる。
思いっきり膝を立てさせて股間に顔を埋める。
「あっ…」
彼女もボクのペニスを掴み、お口に頬張る。
「んごっ!」
長い長いシックスナインの攻防が続く。
「あぁ、もうダメ…」
「板野くん、お願い…」
「ねぇ、イカせて…」
「このままイキたいの…」
懇願する岩倉さんが十分に高まったのを見計らう。
そこからボクは、渾身のクンニを施していく。
「あ、あ、あ…」
「いいの…」
「それ、いいの…」
「もう、ダメ…」
「あぁー…」
「イク、イク、イク、イク、イクーッ!!!」
ベッドのシーツを握りしめ、岩倉さんは仰け反った。
股間からはビュッと飛沫が飛び散ってシーツを濡らしていた。
そこからは岩倉さんの猛反撃が始まる。
岩倉さんの全身リップは絶妙だ。
最後はお尻の穴までペロペロされる。
そして、カチカチになったところをヌプッ。
彼女の膣内で締め付けられて、そのまま果てる。
中出しはご褒美のあの時、一回だけ。
しっかりと避妊具を装着。
その日はワンワンスタイルでも繋がって、ボクは再び彼女の中でイキ果てた。
寝物語に聞かせてくれる岩倉さんの話。
高校時代のロストバージン。
お相手の話はしてくれなかったけれど、成り行きでそうなった。
そのころは男性に触れられるのが嫌だった。
「板野くんを知ってから、初めて男性に触れられたいと思ったの…」
少し間をおいた岩倉さんは恥ずかしそうに付け加えた。
「…板野くんには、触ってほしいと思えたの」
初めてのごっくん。
初めての中出し。
全部嬉しくてたまらなかったと言ってくれた。
そんな風にして3カ月ぐらいが経った。
だが、二人の関係に進展はなかった。
高嶺の花の会社の先輩。
飛び切りの美人なお姉さんとの密会。
ボクに文句など言えるはずもない。
それなのに、ボクの中ではモヤモヤが膨らむ一方だった。
何となく始まってしまった二人の関係。
下手なことをいうと全てが壊れてしまいそうで怖かった。
でも、そのままの状態も苦しい。
煮詰まったボク。
そして、ボクはとうとう切り出してしまった。
「岩倉さん…」
岩倉さんの中で二回弾けた後のことだった。
「なに?」
「ボクって…、岩倉さんの何ですか?」
「何それ?」
「週末に会って、一緒にご飯食べて、セックスする…」
岩倉さんが怪訝な表情をしてみせる。
「ボクはだたの都合のいい男ですか?」
すると岩倉さんは、ちょっと驚いた表情をして見せた。
それからベッドから起き上がるとボクと向かい合った。
「ひどい言い方するのね」
「えっ?」
「私たち、お付き合いしてないの?」
ボクはたじろいだ。
付き合ってるんっすか?
マジ?
ついニヤける。
そして嬉しくて言葉に詰まる。
すると、岩倉さんが唐突に言った。
「好きよ」
「えっ?」
「だから、好き!」
嬉しくて岩倉さんに抱きつく。
ボクの肩の上に顎を乗せ、耳元で彼女は続けた。
途切れ途切れに噛みしめるように。
「板野くん…」
「…ううん、コウタのこと…」
「…愛してる」
初めて名前で、然も呼び捨てで呼んでくれた!
「”ナカで出していいよ”って言ったとき、わかってもらえたと思ってたんだけど…」
若輩者のボクにはそこまで行間が読めていなかった。
「あれは”コウタの子供、産んでもいいよ”って覚悟だったんだけど…」
それからもはっきりと何度も好きと言ってくれた。
感極まっていた。
だが、漸く落ち着いたボク。
「ボクの気持ちは、訊かないんですか?」
すると岩倉さんは少し身体を離し、ボクの目を見ながら言った。
「聞かなくてもわかってるもん…」
少し間をおいて続けた。
「でも、聞きたいからやっぱり言って」
ボクは苦笑しながらも、彼女の身体を思いっきり抱きしめた。
そのまま挿入し、繋がると岩倉さんの目を見て言った。
「胸が苦しいくらい、好きです!」
「愛してます!」
それからボクたちは、激しい愛の契りを交わした。
中イキで彼女を絶頂に導いた後、目と目を見つめ合いながら膣内射精。
ナカで出してもいいかもう尋ねなかった。
彼女が指を折って数えることもなかった。
生理があったと聞いたときのモヤモヤ。
それは安堵だけでなく、落胆もあったのだと気付いた。
ボクの子供を産んで欲しい。
生まれて初めてそんなことを想った。
「いつ、ボクの気持ちを確信したんですか?」
「ノミの夫婦の話をしてたじゃない」
あれをボクの告白と受け止めてくれたのか。
行間を読む力が凄すぎる。
だから仕事ができるのか。
人を見る目も凄い。
「石倉部長、私たちのことに気づいているわ」
「え?」
驚いて岩倉さんの顔をじっと見つめる。
岩倉さんは自分の言ったことを更に肯定するように、小さく頷いていた。
「まさか、幾らなんでも…」
「石倉部長の観察眼を侮ってはダメよ」
「どうしてわかるんですか」
岩倉さんは教えてくれた。
「部長がこの間、コウタに助けを求めてたでしょう?」
「うん」
「あの時、お見合いをしないかって話で…」
そうだ。
部長がボクに助け船を求めてきた時だ。
「あれは、私たちを試していたのよ」
「えぇぇ!?」
そうか。
それで、石倉部長は…。
助け舟を求めるフリをしてボクの反応を見に来ていたのか…。
偶々じゃなかったんだ。
石倉部長恐るべし…。
ちょっと、待てよ!?
その時、ボクは気付いた。
岩倉さんへのお見合いの話?
そんなのこれから幾らでもあるだろう。
ボクはそれでいいのか?
気持ちはわかり合えた。
通じ合っている。
ボクが解っていなかっただけかもしれないけれど。
いつまでもこんな関係でいいのか?
岩倉さんはボクのだけゴックンしてくれた。
アナルを舐めるのだって愛おしいといってくれた。
そして、ボクにだけ、中出しを許してくれた。
「岩倉さん、結婚してもらえませんか?」
思わず言ってしまった。
でも、本心だ。
岩倉さんが一瞬押し黙った。
でも、込み上げる笑みを噛み殺すように言った。
「ともみでいいわ」
う、嬉しい!!!
岩倉さんは全裸のまま、ボクの前で三つ指をついて言った。
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
岩倉さんの肩をベッドで抱きながら二人で話をした。
「私の名前、知ってるでしょう?」
「いわくらともみ?」
「私、子供のころから自分の名前が大嫌いなの」
「そうなの?」
「うん、だから、早く結婚して姓を変えたかったの」
だが、岩倉さんは気づいているのだろうか。
ボクの名前は板野だ。
三十路を過ぎた岩倉さんが、アイドルと同姓同名。
気付いているのだろうか?
果たして妻は、新しい名前を気に入ってくれるのだろうか。
☆最後に近況☆
ボクはともみと結婚した。
石倉部長が仲人を買って出てくれた。
できちゃった婚になってしまった。
授かり婚と言った方が少しは聞こえがいいかな。
どちらにしても会社ではちょっとバツが悪かった。
けど、幸せだ。
産休は妻が取るしかなかった。
だが、育休はボクが取っている。
稼ぎは圧倒的に妻の方が多い。
会社の戦力的にもその方がいい。
極めて合理的だ。
繰り返しになるが、ボクは家事はできる。
料理の後片付けがちょっと苦手なだけだ。
ただ、それも妻と一緒なら苦にならない。
克服したと言える。
人事部だから転勤はない。
…と思う。
だが、もし妻がそうなったら…。
ボクが会社を辞めてついていこうと思ってる。