シリーズ第29話である今回のストーリーは、社会勉強がしたいという舞衣さんと例のお城へ入城したところから始まります。
時代は平成2年。未だバブルに浮かれる日本という国の北東北にある小さな臨港都市が舞台となります。この時大学4年生だった私は大学の附属高校で教育実習を受けていましたが、ひょんなことからこの時の実習生担当だった29歳の舞衣先生と深い関係になっていました。
しかし、偶然にも私の姉とその先生の弟が結婚することになり、その関係は義兄妹ということになってしまいます。さらに私にはマコトという彼女がおり、私のことを好きになってしまったというその舞衣先生にもちょっとオトコの影がチラついていて、このまま関係を続けていても・・・・・という雰囲気です。
そんな折、お互いからの卒業を賭けた卒業試験が始まりました。今回はそんなベッドの上からです。それでは・・・
「それでは行かせてもらいます・・・・・」
そう言って試験開始を告げた私は、まず舞衣さんの唇にキスをしました。すると舞衣さんが私の顔を両手で掴んで一旦離しました。
「ん?・・・どうかしましたか?」
すると舞衣さん私の問いかけには答えず、私の顔をじっと見て何かを確認したかのように思いっきり唇を寄せてきました。
しかも、それがソレがだんだん激しくディープなものになってきます。
さらにその舞衣さんが私の頭を両腕で抱き抱えて自らの顔に押し付けてきました。もう、息ができません。しかも、私のベロを強く吸い立てます。
私は思わず舞衣さんの肩を叩きました。
「ま・・・舞衣さん。息・・・息が・・・・・」
「あら・・・ごめんなさい。わたしったら・・・・つい。」
「そんなに焦んなくても、時間はありますんで・・・・」
「なんか、賞味期限が切れそうで・・・・・つい。」
舞衣さんは驚いたようにそう答えます。
先ほどは私がそんな感じでした。この時お互いどこか焦っていたのかもしれません。それは・・・
恐らく、卒業というフレーズが出た瞬間にお互いこういう事をするのがこれが最後だと感じていたからだと思います。
卒業・・・・・コレって物凄くズルい表現です。
別れる・・という言葉はそのまま男女の別れを表し、文字通り今後の関係を断つといった意味合で少なからずお互いに何らかのシコリが残るものと思いますが・・・・。
卒業という言葉には、お互い認め合った中で距離を取り、更にはその距離を取る際にステップアップするような感じかと思います。
今後私はこの卒業というフレーズをいろんな場面で使うことになります。多分自分自身の人生の卒業まで・・・・でもこの時の私は、この舞衣さんという魅力的な女性から卒業できる自信なんてこれっぽっちもありませんでした。本当にズルいオトコです。
教育実習が始まって以来、ひとに自分の意図を伝えることがどんなに大変なことか身をもって感じていて、一緒に実習を受けているふたばとも散々議論を重ねていました。でも・・・・どんな言葉でも伝えきれない人の本質というモノもあることにも気づいていました。
それは、人間という哺乳類が言葉という道具を手に入れるずっと前からあるコミュニケーションツール・・・・それはセックスというモノです。
セックスというものは自分でコントロールできない部分も持ち合わせていて、そこに現れるものが人の本質であることが最近分かってきました。
そもそもセックスというものは、言わば男女の身体を使った対話です。言葉というものもそうですが、それはお互いが対等でなければ満足のいく対話とはなりません。コレから私はこの満足のいく対話ができるかも含め、自分の全身全霊をこの舞衣さんにぶつけてみようと思います。
まず私はその時、舞衣さんの全身にこれでもかってくらいキスするところから始めて、終いには足の指の間まで舐めてしまっていました。それくらいこのカラダが魅力的と言う事だったのかもしれません。
もうこの時までに、初めに考えていた小難しい身体の対話なんてことは頭からすっ飛んでいました。その時頭に浮かんでいたのは、どうすれば舞衣さんを満足させられるか・・・できれば自分も満足したい・・・ということだけです。
・・・・・これが私の本質というヤツでしょうか?
そんなことはさておいて、私はこの舞衣さんのカラダの中で胸に続いて魅力的なお尻を堪能しようとうつ伏せにしてそのお尻も舐め尽くしていました。さらにこの時、背骨と骨盤が接続するところにあるくぼみに舞衣さんの性感帯を発見します。
「んっ・・・・ダメ・・・わたしバカになりそうだから・・・・ソコはダメ。」
そう言う舞衣さんはまるで全身で呼吸をしているかのようです。また、うっすらとかいた汗からいい匂いがしています。その匂いを嗅いだ私は、自分自身の限界も感じつつ舞衣さんの膝に自分の身体を割り込ませました。
予想はしていましたが舞衣さんのアソコは大洪水状態です。
「舞衣さん・・・行きます。」
私が舞衣さんにそう声を掛けると舞衣さんがコクッと頷きます。
私がそのまま身体を進めると舞衣さんの胎内から舞衣さん自身のその熱い体温を感じました。ソコはものすごく熱く、そしてその場所は私を迎え入れてくれたのか拒否されているのか分からないくらいギュッと締め付けられています。
「まーくん・・・・。実はわたし待ち切れなかったの。もう・・・ヤリたくって、ヤリたくって・・・・だから・・・」
「だから・・・どうしたんです?」
「しあわせ・・・・」
「実は僕も・・・・です。」
そして私の動きに合わせるように揺れる乳房を堪能しながらの正常位、そして魅力的なお尻に自分の腰をぶつけるようにしたバック、また舞衣さんがせがんで乗ってきた騎乗位という体位の後、今は対面座位と言う体位になっていました。
その時舞衣さんの腰を引き寄せると舞衣さんの胎内の子宮口に私の先端が優しく触れているのが分かります。
そして焦らずゆっくり撫で回すようにその子宮口を刺激しました。すると、そこがだんだん硬くなって私の先端を逆に押し返すようになってきています。これが俗に言う「子宮が下がる」と言う事なんでしょうか?
「まーくん・・・。まーくんのがわたしの奥を押してるのか分かるよ・・・・。最初はちょっと痛かったけど今は平気。ソコってどんな感じ?」
「なんか舞衣さんの中って・・・・・すごく熱いです。そしてその一番奥に丸い何かがある感じがします。それで舞衣さんのソコがだんだん強く僕のことを押し返すようになってきました。」
「ちょっとお願い・・・・もっと強く・・・・強く刺して欲しいの。壊れるくらいに・・・」
「でも・・・本当に痛くないんですか?」
「本当はまだちょっと痛いの・・・・でも、まーくんと繋がってる実感が湧いて来て凄く幸せな感じ・・・・」
舞衣さんはそう言いながらその両腕で私をギュッと抱きしめます。私も凄く幸せな感覚です。この時、本当に抱きしめられるってこんなにも幸せだったのか?と思う瞬間でした。
すると今度は舞衣さんのアソコが何か動いたかと思うと、舞衣さんの胎内でも私のモノがキツく抱きしめられます。
この時私は困っていました。先ほどの舞衣さん子宮口の刺激で急速に射精感が高まっています。しかもその抱きしめられた状況で、その動けないまま逝ってしまうのも時間の問題です。
でも、オトコたる物、思いっきりピストンした上で一番奥で発射したいというモノがあります。この時私は抱きついている舞衣さんを押し倒そうとしました。
「ダメ・・・。わたしが上に・・・・」
そう言うと舞衣さんは逆に私の上半身を押し倒して、私の上で恥骨を押し付けるようにして腰を前後に動かし始めています。
この時ふとその部屋の鏡張りの壁を見ると、回るベッドに合わせていろんな角度の舞衣さんを見ることが出来ます。今更ながらその鏡張りの壁と回るベッドの意味が分かって来ました。この臨場感はどんなエロビデオより迫力があります。
その鏡に写る舞衣さんは私の腰に自分を押し付けるように上半身が弓なりになっていて、そして今度はその身体の動きが上下の動きに変わりました。今度は壁ではなく下から舞衣さんを直接見ると、私の目前でそのFカップが腰の動きに合わせて揺れています。その状況は天井や壁、至るところに張られている壁にいろんな角度で写し出されていました。
もうそれを見た瞬間、一瞬幽体離脱して自分自身を見下ろしているような変な感覚に囚われています。・・・・ソレはまるでスローモーションのようで、ものすごく官能的な一場面です。
これって総鏡張りの部屋の成せる技なんでしょうか?
それを見た私は思わず舞衣さんを抱き寄せそれにしゃぶり付いていました。
「あ・・・・まーくん・・・・そ・・・ソレ・・・・いい・・・」
そう言いながら今度は私の後頭部を右手で引き寄せ、その豊満なFカップを押し付けてきました。私は今度も困っています。
今、自分の顔がその豊満な乳房に埋もれて息ができません・・・・。
このまま窒息死してしまう状況を回避するため私は舞衣さんの上半身を少し押し返して、今度は両脇から包むように右手でその乳房を掴んで再び強く乳首を吸い立てました。
「んっ・・・んっ・・・・いい・・・ソレ・・・もっと強く・・・・」
そう言いながら舞衣さんは再び乳房を押し付けて私の方へ倒れ込んで来ます。
この時舞衣さんの腰が少し浮いたので私はすかさず下から腰を打ち付けました。
すでに二人の股間は舞衣さんの分泌物で濡れていて、打ち付ける度ピチャピチャピチャピチャ・・・・と言う音がしています。
「ああっ・・・来る・・・来る・・・・まあくん、まあくん・・・一緒に・・・一緒に・・ん・ん・んっ・・・ああっ・・・・あっ、あっ、あっ、んっ、んっ・・・・ああっ・・・・・」
この状況から察すると、私の上で下から突き上げられるようにされている舞衣さんが逝ってしまうのは時間の問題です。
しかし、なぜかその時冷静だった私はそんな舞衣さんに追い付こうと、左手で舞衣さんの腰を引き寄せながら更に下から打ち上げる腰のスピードを早めました。その時、腰にある性感帯も刺激してしまったようです。
「あっ・・・・ダメ・・・ダメ・・・ソレ・・・許して・・・・」
まるで熱にでもうなされるかのようにそんなことを言う舞衣さんに合わせ舞衣さんのアソコがギュッ・・・と締ります。
「舞衣さん許すも何も・・・僕の方こそ・・・・」
「ねえ・・・好きって言って。愛してるって言って・・・・一度でいいから・・・・」
「舞衣さん・・・」
「まあくん・・・」
「好きです・・・愛してます・・・」
この時も舞衣さんのアソコがギュッと締まって、今度はそれが痙攣したかのように不規則な動きとなってきました。
「わたしも・・・・・・・・・うっ・・・んっ・・・・んっ・・!」
そう言いながら舞衣さんが息を止め身体を起こして弓なりに背中を逸らせました。そんな舞衣さんは顎を上げてまるで天井を見ているかのような状態です。
その時見た壁の鏡にそんな舞さんが写っています。
「うっ・・・・」
そこでで三たび困ったことが発生しました。
舞衣さんが身体を起こしたことにより私のアレが舞衣さんの胎内奥深く突き刺さり、先ほどまで突いていた何かを押し広げて私の先端部がソレに捩じ込まれたようになってしまっています。
「ああっ・・・・ダメ・・・・ソレ・・・・舞衣さん・・・先に逝っちゃいます・・・・うっ・・・・うっ・・・・・」
ソレは一瞬でした。舞衣さんの胎内奥深くの何かをこじ開けた瞬間、その先端部がタコの吸盤のように私の先端部に吸い付いて真空状態で吸い上げる・・・・そんな感覚です。その時、私のその敏感な先端部の感覚がなくなり、まるで溶けてしまったかのような感覚に囚われたその時でした。
「あっ!・・・あっ!・・・ダメ・・・いっ・・・・逝っちゃう・・・・・んーーーーーーーーーーー・・・・・・!」
舞衣さんは、凄く色っぽい叫びに近い声でそう叫びました。そして最後の方は息が続かず声になっていません。
おまけに、私が胎内奥深く突き刺している舞衣さんソコは、その浅い部分と中間部が何か痙攣でもしたかのように振動し、さらには精液を搾り取るような動きまでしています。
ソレはもう、世界がこれで終わっても構わない・・・・そんな感覚です。
「ま・・・舞衣さん・・・い、逝きます!・・うっ・・ううっ・・うっ・・・・・・・・」
その時私は自分の中にあるありったけの精子を舞衣さんの胎内に発射しました。ソレは何発打ったか数え切れないくらいです。
そこで私の肩に崩れ落ちるようにしてもたれかかっていて、息も絶え絶えの舞衣さんが耳元で囁きました。
「わたしのお腹の中が凄く熱くなってる・・・・これってまあくんの体温だよね?。今のいままでまあ君の身体の中の奥深くにあったものが直接わたしの胎内に送り出されている・・・・・」
「はい・・・・そのとおりです。ソレって本当に舞衣さんの奥の奥に直接届けました。多分子宮の中まで・・・・」
「なんか凄く嬉しい・・・・これってオンナの喜びってやつ?」
「僕はオトコなんで分かりませんが、多分そうだと思います。」
「でも・・・・オンナの本当の幸せって、コレを子宮に宿して生むってことなんだよね・・・・しかも、わたしのお腹の中に280日も好きなオトコのモノを宿せるんだよ・・・」
「280日ですか・・・・」
「あっ、ごめん。ソレって受胎前の最終生理からの計算だから・・・・・・正確にいうとあと・・・・・265日かな?」
「えっ?それじゃ、舞衣さんの生理って半月前・・・・・・?今って一番危険な時期じゃないですか?」
「まっ、そうとも言えるわね・・・・」
「まっ・・・舞衣さん。恐ろしいこと言わないでください。僕も不用意に中に出しちゃいましたけど・・・・その僕の遺伝子ってヤツ。」
「あっ、ソレは大丈夫だから・・・・それに、コレってわたしが望んだことだし・・・気にしないで・・・」
「そう言われても・・・・気になります。・・・・舞衣さんが心配です。」
「じゃ、こうしよう・・・・。もし、コレでデキちゃったとしても、まあくんは名乗り出ないこと!それにわたしも絶対に口割らないから・・・・。」
「もし・・・・もしですよ。万が一デキちゃったとして・・・・産まないっていう選択肢は?」
「ん?そんなの決まってるじゃん・・・・全然考えてない。だって、好きなオトコの赤ちゃんだよ・・・・オンナの幸せだよ。」
その時、前にあのふたばも同じようなことを言っていたことを思い出しました。自分って成長していません。この先、そんな舞衣さんにも辛い思いをさせてしまうかも・・・。自己嫌悪です。
「そんなモノなんですか?そのオトコとは一緒になれないって知ってても?」
「まあくん・・・・。あなた、女系家族で育ったのに、そういうオンナの内面は分かんなかったのね・・・・」
「すいません・・・・そのほかだったら、通常のオトコが幻滅するようなことまで色々と知ってはいるんですが・・・」
「まっ、いくらオンナに囲まれて育ったとしても・・・・・それが限界ね。」
「でも・・・・僕もオトコです。責任は取りたいので、そうなったら教えてください。舞衣さんが不幸な思いをしない方法について誠心誠意考えますから・・・・」
「ふ〜ん・・・・。それって、あの工藤さんと別れるってこと?」
「・・・・・・それもあり得ると思います。」
「まっ、考えとくね・・・・」
そう言いながら舞衣さんはキスをねだってきました。私はそれに応えながらずっと自己嫌悪に苛まれています。
自分ってなんなんだろう・・・・・・。ただのヤリチン?スケコマシ?ただのナンパ野郎?・・・でも、ヤリチンもスケコマシもいい男の代名詞だよな・・・・自分ってごく普通のオトコなんだけど・・・・
なんて考えているうちに舞衣さんを抱きしめたまま眠ってしまいました。
「プルルルル・・・・・」
私は夢の中でその聞き覚えのある電話の呼び出し音を聞いていました。そして、今一緒にいるのがふたばなのか舞衣さんなのか混乱する中、壁に付いている電話を受けました。
その電話は休憩時間終了を知らせるモノです。しかし、それを伝えるべき舞衣さんの姿がありませんでした。
この時、折り返し電話することを伝え一旦電話を切りました。でも、どことなく電話の女性の声も聞き覚えがあります。いつもの爺さんの声でないことだけははっきりと分かりましたが・・・。
実はこの時舞衣さんはシャワーを浴びていました。私が浴室のドアを開けながらそんな舞衣さんに声を掛けると、その舞衣さんの頭にはシャワーキャップが掛けられ、さらに前かがみになってシャワーを股間に当てている最中でした。
「あっ・・・ごめんね。恥ずかしいところ見せちゃった・・・。だって、まーくんのヌルヌルがいっぱい出てくるんだもん・・・・」
「すいません・・・・。あっ、今休憩時間が終わるっていう電話がありました。1時間延長でいいですか?」
「うん・・・・そうね。次に行きたい所あるからお化粧もしなきゃなんないし・・・じゃ、そうしよっか」
私は舞衣さんに言われたとおり1時間の延長を先ほどの電話の主に伝え、舞衣さんのいる浴室へ向かいました。
「舞衣さん。その椅子使いましょう。」
私は未だ股間にシャワーを当てている舞衣さんにそう提案しました。
「これ?さっき頭洗う時座ったヤツ?」
「はい。そうです。」
「もう・・・頭は・・・・。」
「頭じゃありません・・・・アソコです。」
「アソコって・・・・ここ?」
舞衣さんは不思議そうな顔をして自分の股間を指さしました。
「ソコ以外にどこがあるんですか?こんなんじゃ卒業試験落ちちゃいますよ!」
「えっ、まだ続いてんだ・・・・」
「はいそうです。でも、これは試験後の補講みたいなモノですが・・・」
そう言いながら私は舞衣さんをそのスケベ椅子に座らせて股間に指を這わせました。やはり触ったところがぬるぬるというかギシギシしていて精液の存在を伺わせる感じです。
「んんん・・・・っ。そ・・・それって・・・・なんていうか・・・変な感じ・・・・」
「そうなんですか?感じるとかそういう感じじゃ・・・・・?」
「なんかそんな感じじゃない・・・・。それじゃまーくん座ってみて?」
私はそう促されその椅子に座りました。ちなみに今ほど舞衣さんのアソコを触った時に自分のアレがカチカチになっています。
「あ〜れ〜。まーくん・・・・これはどういうことかな?お姉さんに説明してみて・・・」
そう言いながら舞衣さんが私のアレを鷲掴みにしています。しかも、触りやすいと言って面白がって玉袋まで触っています。
「まっ、舞衣さん・・・・。すいません。舞衣さんの・・その・・触ったらこんなになっちゃいました・・・・」
「まっ、健康な男子ならそうもなるよね。でも・・・・ついさっきあんなに出しておいて・・・・」
「すいません。コイツがバカなばっかりに・・・・」
そう言いながら私は自分の息子を指で弾きました。
「昔、学校でさ・・・前にわたしの胸の谷間見て鼻血出しちゃった男子生徒がいたの・・・・」
その時舞衣さんが何かを思い出したかのように話を始めました。
「鼻血・・・・ですか・・・」
「放課後昇降口で挨拶した時に・・・・ちょっと前屈みになったのね・・・・。そしたら見えちゃったみたいで。」
「多分、その生徒って舞衣先生のそんなところ狙って見ていたのかもしれませんよ。」
「男子生徒ってそんな目でわたしを見ていた訳?」
「はい。僕には分かります。だって・・・・」
「だって・・・何よ!」
「舞衣さんって・・・魅力的なんです。オトコにとってはすごくエロい存在なんです。」
「そうなの?なんか視線感じることは多々あるけど・・・・」
「第一にその胸です。いつもボタンが弾けそうなブラウスを着ています。」
「あっ、それ?なんかね・・・・売ってるものって肩幅合わせるとどうしても胸が苦しくなっちゃうんだよね・・・」
「胸に合うブラウスとかって?」
「あんまり売ってなくって・・・。その鼻血の時は、胸が苦しくってボタン外していたんだよね・・・・」
「それじゃ鼻血も出ますって・・・・」
「それでさ・・・その男子生徒の鼻を押さえながら保健室に連れて行ってベッドに横にしてあげようとしたら・・・・」
「あげたら・・・どうしたんですか?」
「いきなり・・・・ウッ!・・・・だって。」
「えっ?・・・もしかして・・・」
「うん・・・・出ちゃったんだと思う。」
「・・・・・アレ・・・・ですか?」
「多分・・・。その時、たまたまわたしの胸の谷間に顔が埋もれるような格好になっちゃって・・・・」
「その生徒・・・・災難・・・・いや、昇天しちゃったんですね。その胸の・・・・その谷間のそのいい匂いまで嗅いじゃったんですから・・・・」
「そうしたらその生徒が急に起き上がって股間押さえてトイレに走って行って個室に立て籠っちゃって・・・・」
「どうしたんですか?」
「もう大丈夫だからって言って聞かないの。そしてトイレから出て行けって。出て行かないんだったら登校拒否するって頑張るもんだから・・・・・」
「それからどうしたんですか?」
「うん。その後ずっとそのトイレの前で出てくるの待ってたの。そうしたら、出てきた途端わたしの顔見て・・・・顔真っ赤にして走って逃亡。」
「そりゃ・・・・オトコだったら恥ずかしくって・・・・」
「兵藤くん・・・・。あの頃可愛かったな・・・・」
「なんか良い思い出・・・・ですね。」
「うん。なんたって、わたしが初めてクラス受け持った時の生徒だもん。」
「舞衣さん。それって大学卒業直後ですよね・・・。舞衣さんって、ついその前まで女子大生やってたんですよね。」
「そうよ・・・だから?」
「だったら、なおさらその時の男子生徒にとっては舞衣さんのそんなボディーは目の毒です。多分、舞衣さんって多くの生徒の・・・・その・・・オカズになっていたと思います。」
「男子ってそんな目でわたしを見ていた訳?」
「今でもそうかと・・・・」
「実を言うと、今でもそんな視線は感じているんだよね・・・・・・。で、まーくんだったらこんな舞衣先生をオカズにしてご飯何杯いけるの?」
「山盛りご飯2杯はいけます!いや・・・3杯かも。」
「じゃ、まだご飯1杯しか行ってないから・・・・2杯目はアレ使って行ってみよっか?」
そういう舞衣さんが指をさしたのは、浴室奥に立てかけてあったビーチマットのようなモノでした。
「アレ・・・・ですか?アレってよく海水浴で見かけるような・・・・」
「いいから・・・・アレ持ってきて・・・・」
そう言われた私は言われたままマットを敷いて、とりあえずソレに座りました。
その時舞衣さんはシャワーの前で試供品と書かれた透明な液体を桶に垂らしてシャワーで泡立てています。
「舞衣さん。それって・・・・」
「いいから・・・・」
そう言いながらも舞衣さんが桶をジャブジャブやっています。ソレを見た瞬間私は、そのヌメっとした粘性から、ソレは泡が立つモノではないと直感的に感じ取っていました。
「コレ、参考書に書いてあったヤツだと思うの。多分使い方は間違っていないはず・・・。でも、これって泡立ち悪いわね・・・・」
恐らくこの時舞衣さんの言った参考書とは、あの没収したレディースコミックのことかと思われます。
私はそんな舞衣さんを見ながらその手に持つ液体のボトルを見ました。そこには「試供品」としか表記されていません。それはまるで数日前、麻美子姉さんがふたばに見せていた化粧品の試供品のような雰囲気です。
さらにそのボトルが置かれていた場所を見ると「マットプレイでお試しください。購入もできますのでフロントまでお問い合わせを・・・」なんて表示までしてありました。
「舞衣さん・・・・それって多分、風俗なんかで使うヤツじゃ・・・・」
私は最近、片道3時間も掛けて風俗に行ってきたヤツの話を聞いていました。ソイツの話によれば、その透明な液体を潤滑材にしてカラダを擦り合わせる行為が思いのほか気持ち良かったということです。
ソレを聞いた私は、その時自分にはまったく縁のない話題だと切り捨てていて参考程度にしか考えていませんでしたが、それが現実のものとなった瞬間、急にそのマットプレイとやらに興味が湧いてきました。
「じゃさ〜、そこにうつ伏せになってみて・・・・」
そこで私がそのエアマットにうつ伏せになろうとしました。しかし、何せツルツル滑って落ち着きません。そんなことでとりあえず顔のところにだけタオルを敷いています。
「絶対後ろ見ないでね・・・・・見ちゃダメだよ・・・・」
舞衣さんはそう言いながら私のカラダに先ほどの桶のお湯をかけ、足元からカラダを押し付けながら這い上がってきました。
その時私の太ももの裏や尻や背中に舞衣さんの柔らかいところ硬いところを感じています。
う〜ん・・・・・・その風俗に行ったヤツの話の最後に「絶対癖になる!」と力説していたのも頷けます。
そうなると私のアレはもうカチカチです。うつ伏せになっている私の股間が苦しくなって腰が浮いてきました。
そんな中、舞衣さんが自分の二つの乳房を使って私の背骨の当たりを下から上から滑らせます。その乳房の先端部が硬くなっているのも感じています。
「あ〜れ〜?これって何かな?」
そう言いながら舞衣さんは股間の下から私のその硬くなっているものを掴みました。
「だって・・・・そんなにされたら・・・・こうもなります。」
「苦しい?」
「もちろん苦しいです。」
「どうして欲しい?」
「そ・・・それは・・・」
その時私は初めて知りました。この舞衣さんの中のサディズムを・・・・。
私はどちらかというとその真逆でしたので・・・・コレ、ハマると非常にヤバいです。
私は今まで、男女の変態行為はそれをお互い認めた瞬間に離れられない仲になる。また、一般的に普通じゃないセックスだとしても、その男女がそれを認めてしまえばその瞬間に普通のセックスとなる・・・・なんて偉そうなことを言ってきました。でも・・・・
でも、そうなんです。私もコレにハマってしまったら・・・・もうこの舞衣さんから離れなれなくなる・・・・卒業どころではなくなる・・・そう感じています。
さらに・・・・この舞衣さんは自分の義姉になる人です。法的に認められたとしても世間様が・・・・・。
「舞衣・・・・舞衣さん・・・・もうダメです。もう分かりました・・・・」
そう言って私は身体を仰向けに戻して起きあがろうとしました。
「なに?コレがもうダメだって?」
しかし舞衣さんはそんな私を制してそう言いながら右手で私のモノを鷲掴みにしました。
すると舞衣さんが私の上半身を押し倒して、自らの胸の谷間に先ほどの透明な液体を垂らすと私のカラダに重なるようにしながらその全身を擦り付けてきました。
「コレ・・・・・弱いんだっけ?」
そう言いながら四つん這いの舞衣さんがその豊満な乳房で私のモノの先端をまるで回すように刺激します。
こ・・・・これは・・・もうダメです。この段階で腰が溶けそうです。
その後胸だったり太ももだったりお腹だったり・・・・そのヌルヌルの状態で身体中擦られるその感覚がもうたまりません。
するとその舞さんが上半身を起こして私のアレ目掛けて自らの腰を落としました。私はてっきり入れられると思っていましたがそうではありません。それは素股と言われるやり方で自分のアソコと私のアレを密着させ、その状態で舞衣さんが自らの腰を前後させていました。
「ま・・・舞衣さん・・・・ちょっ・・・ちょっと・・待って・・・」
耐えきなない私に舞衣さんは腰を動かしつつ意地悪そうに答えます。
「な〜に?出したい?・・・・・それともこのまま入れちゃう?」
私は苦し紛れにこう答えました。
「コレって、舞衣さんのその前のカレシにシてあげたことあったんですか?」
「ううん・・・・コレはまーくんが初めて。だって、その時こんなこと知らなかったし・・・・まだセックスもしてない男女だよ?こんな風俗みたいな・・・・」
「でも・・・でもですよ?今だったら出来ますよね。多分、そのカレシ・・・・こんなことしてもらったら舞衣さんのこと襲っちゃうかもしれません。」
「そうかな?あのフニャチンがね・・・・。で、そんなまーくんはコレからどうしたいの?」
「ソレは・・・もちろん入れたいです。思いっきり・・・・」
「え〜。ヤッパリ?それじゃ・・・・入れちゃう?」
そう言った舞衣さんが腰を浮かした瞬間、急にその身体を足元にずらしました。
「でも・・マットの上ではコレでしょ・・・・」
「舞衣さん・・・・うっ・・・・」
すると舞衣さんは何も言葉にできない私をさておいて、左手でシャワーキャップを外して髪をかき上げると、右手で私のモノを掴んでソレを飲み込むように口に頬張りました。
「ま・・舞衣さん。そ・・それは、チョット・・・」
私のソレは、先ほど舞衣さんが使っていた何かの液体でヌルヌルです。しかし、そんなのは関係ないとばかりにその頭が上下しています。
「ジュボッ・・ジュボッ・・・・・」
舞衣さんの首が左右に傾きながら上下に動きます。
「ま・・・舞衣さん。コレは・・・前のカレシにも?」
「うん。」
舞衣さんは私のモノを咥えながらそう頷きました。この時、舞衣さんをモノに出来なかったその彼氏に殺意が湧いてきました。
こんな一生懸命な舞衣さんに応えてあげられないとは・・・・しかもその時舞衣さんはまだ処女でした。そんな舞衣さんにここまで・・・・・。
しかし・・・・その一生懸命な舞衣さんのフェラは一級品です。とにかくネットリとして強さ加減といい早さ加減といい申し分ありません。そんなことをされている自分は・・・・もうため息しか出ません。
そんな最中、自分のモノの先端から我慢汁が出ているのが感じられました。するとソレを感じ取った舞衣さんが「ポンッ」とソレを口から外しました。
「ねえ・・・もうそろそろ?なんかの汁出てきたんだけど・・・・」
右手で私のソレを上下にシコシコしながら舞衣さんがそう尋ねます。そんな舞衣さんの唇と私の先端部が粘性の糸で結ばれていました。
「うん・・・。」
私はもうそれしか言えません。気を許したら今にでも暴発しそうな気配を感じ取っています。
すると私がそろそろ逝ってしまうことを察した舞衣さんが私のモノを再び口に含むと、その舞衣さんの頭の動きが早くなりました。
「ジュポッ・ジュポッ・ズズ・・・」
そんないやらしいリズミカルな音だけがその浴室に反響します。
しかもそんな舞衣さんの口の中が真空状態みたいになって、私のモノがさらに刺激を受けています。
もう・・・・・ダメです。自分のアレから送られてくる情報というのが、快感を通り越してとろけそうになっています。恐らくすぐにでも・・・・なんて思った瞬間でした。
私の腰が急に痙攣でも起こしたかのように大きくビクッとしたのです。
その瞬間私のモノの先端が、舞衣さんの口の奥の何かを押し広げて入ってしまったのだけは感じることだけは出来ました。
その時舞衣さんは目を大きく見開いて私を見つめています。しかも涙目にもなっていました。
すると・・・・ゴクッっとその先端が飲み込まれたと同時に射精が始まりました。
この間1〜2秒。何が起きたのか私には分かりません。
すると舞衣さんは私のモノを口から出して咳き込んでいます。しかも、私の射精がおさまらず、そんな舞衣さんの顔面に容赦なく白っぽい液体が打ち付けられています。
四つん這いで口からいろんな液体が糸を引いて流れ落ちる中、顔を真っ赤にしながら咳き込んでいる・・・そんな今と同じような状況を、私はつい最近見たことかあります。
それは、数日前在宅で教育実習を行った優子ちゃんのアパートでのことでした。
その時優子ちゃんのお姉ちゃんから預かった合鍵で優子ちゃんのアパートへ入るとそれは優子ちゃんがまさにレイプされている現場でした。
その時もやはり四つん這いになった優子ちゃんが口を押さえて咳き込んでいて、その口からは糸を垂らすように何かの液体が流れ落ちていました。
私は、その後麻美子姉さんにブタ野郎と呼ばれていたレイプ犯と同じことを舞衣さんにしてしまったのです。
「ま・・舞衣・・さん・・・大丈夫ですか?」
私はそんな苦しそうな舞衣さんの背中をさすりながらそう声をかけました。
「だ・・大丈夫・・・。まーくんの・・・そんなに大きくないし・・・あっ!」
「そ・・それは良かったです。と・・いうことは、舞衣さん・・・コレ初めてでないんですね?」
「う・・・ん。実はそうなの。私を捨てたあのヤロウと一度だけこうなっちゃって・・・・。でも、アイツってその時私の後頭部押し付けたんだよ・・・・もう信じらんない。その時本当に窒息死するかと思ったの。アイツのって長かったのね・・・・その点・・・・」
「幸い僕のコレが短くって・・・・舞衣さんが死なずに済みました。」
「あっ、ゴメンなさい。男の人のコレって大きさだけじゃないの。それだけは本当のことだから自信持って・・・。それに今のは事故。まーくんが私の頭を押さえた訳じゃない。」
「それはそうなんですが・・・舞衣さんの・・・その・・・彼って身長高かったんですか?」
「う・・ん。184って言ってた。」
「・・・ですよね。カラダの大きさとアレの大きさって比例しますんもんね・・・。」
「で・・でもね、アレの硬さだったらまーくんに全然敵わなかったよ。いくら長くたって・・・フニャチンじゃ・・・・」
「でも・・・最近分かったんです。僕の下半身って僕とは別人格だって・・・。もしかしたら上半身と下半身の二重人格かもしれません。」
「あら・・・・面白いこと言うのね。でも良いんじゃない?そう言うのがあっても・・・わたしは嫌いじゃないけど・・・。でもさ、まーくんのアレって弾丸のように発射されるんだね。ソレって、さっきわたしの中でも・・・・」
「はい・・・・その時は濃かったと思いますので、今ほど勢いはなかったと思いますが・・・・・」
「ふ〜ん・・・・あんな勢いでわたしの奥底で発射されてたんだ・・・・」
その後再び舞衣さんをスケベ椅子に座らせてその全身を洗いました。そしてその途中、やはり私のアレがカチコチになってしまい、その洗う作業を中断してマットの上で本日3杯目のご飯をいただきました。
そして今、二人はベッドのところまで戻って来て服を着ていました。そして私の隣でブラジャーをつけている舞衣さんの後頭部には二つの三つ編みが垂れ下がっています。
コレは私が得意とするもので、つい最近優子ちゃんにもやってあげたものです。
そしてあらかた準備が整った時に私がフロントにチェックアウトの電話を入れると、間もなく料金徴収に係員が訪れました。
「あっ、ここはわたしが・・・社会勉強になったし・・・」
そういう舞衣さんが料金の支払いに玄関に向かい、何か話ごえが聞こえたその時です。
「まーくん・・・ちょっと・・・」
そう私を呼ぶ舞衣さんの声が聞こえます。
名前を呼ばれた私が玄関に向かうと、そこには見覚えのある人が料金徴収をしていました。
「あっ・・・・マドカ先生こんにちは。ここ使ってもらった感じどうだった?こういうところ使ったことないって言ってたから・・新鮮でしょ?でも・・・・白昼堂々とは・・・さすが大学生ね。」
そう言ったのは、先日銭湯の帰りに知り合いになった司法書士の遠藤さんです。ちなみにその遠藤さんは、遠山桜を所有する会社の会長秘書ということと、このラブホの経営担当ということを前回聞いていました。そして、今私と一緒にいる女性が昨日の女性と違うことに気づき話をうまく合わせてくれています。さすが・・・・オトナです。
「す・・・すいません。やっぱり来ちゃいました。社会勉強の一環として・・・・」
「ごめんなさい・・・社会勉強って言い出したのはわたしのほうなんですが・・・・」
そこで小さくなっている舞衣さんが何故かそんなふうに謝っています。
「どうでした?・・・その社会勉強。」
その遠藤さんが舞衣さんにそう問いかけます。
「は・・はい。勉強になりました・・・いろいろと・・・。」
するとその時、玄関前を作業着姿の作業員がゾロゾロ歩いて行きます。
「ごめんなさい・・・。今、道路で引っ掛かっちゃう建物の調査やってて・・・落ち着かないね・・・。」
その後舞衣さんが料金を支払い、そのラブホのガレージからクルマを出して出口のヒラヒラを潜ろうとしました。この時、舞衣さんが私のアルトを運転したいと言うのでその舞衣さんがハンドルを握っています。
「なんか・・・出る時って、入る時以上に緊張するね。ここ通る時、時々ここから出るクルマ見かけるけど、わたしその時・・・・何回ヤッたのかな?気持ちよかったのかな?緊張したのかな?なんて余計な心配してたんだよね。でも・・・今になってその時の女の子の気持ちがすごく分かる。」
「それってどんな気持ち?」
「うん・・・スッキリしたって。」
そんな舞衣さんの笑顔を見ながらそのヒラヒラを潜った時です。右側から市街地に向けすごく見覚えのある観光バスが2台連ねて走って来るのが見えました。
それはまさしく私の彼女であるマコトの乗務するふそうのエアロクイーンというバスです。私は咄嗟に目を逸らして平静を装い気づかれないようにしました。クルマがハチロクでないので恐らく気づかれてはいないと思いますが・・・・
そのバスには客が乗っておらず、どこかで客を降ろした後の回送かと思われます。そのとき、2号車を先頭にしたその2台のバスの2台目の1号車最前列のシートにマコトの姿がチラッと見えていました。
そして、次に教え子の店に行きたいという舞衣さんは市街地へ向けてクルマを走らせましたが、その舞衣さんの運転するクルマの4〜5台先にあのエアロクイーンが走っていてどうも落ち着きません。
この先道路が片側2車線になりますが決して前に出ないよう舞衣さんには伝えてあります。
「で・・・・どうなの?」
赤信号で停車した時舞衣さんが急に話を切り出しました。
「何が・・・・ですか?」
私は、排気音がうるさいので舞衣さんに顔を近づけてそう尋ねます。
「卒業試験だよ!。わたしまだ・・・結果聞いてない。」
「さっきの舞衣さんの笑顔を見て・・・・僕の中の卒業証書に判を押しました。そして、僕も舞衣さんから卒業です。」
「うん・・・そうなんだ・・・。嬉しいけど、嬉しくない。わたし・・・・ずっと留年でも良かったのに・・・・」
「ダメです。僕はともあれ舞衣さんには幸せになってもらわないと・・・・」
「えっ?どの口が言うの・・・・そんな事。わたしをこんなオンナにしておいて・・・・」
「ちょっ、ちょっと待ってください!こんなオンナって・・・・」
「何を今さら・・・・。思いっきり自分の色に染めといて・・・」
「安心してください。僕も舞衣さんに染まっちゃっいました・・・・」
「ソレじゃ、わたしたちって今おんなじ色ってこと?・・・・。」
「はい・・・・そうとも言えます。」
「ソレって・・・・・・何色?」
「・・・・・・・・真っ白だと思います。」
「なんでよ・・・・」
「だって・・・・・さっき、頭の中真っ白になっちゃいました。」
「まっ、それもそうよね・・・・あんな喘ぎ声も出ちゃうよね。」
「えっ、喘ぎ声って・・・・」
「自分じゃ分からない程だった?」
「はい・・・・・今、すっごく恥ずかしいです。僕は舞衣さんの喘ぎ声聞いて満足だったのに・・・・自分でそんな声出すなんて・・・・」
「ちょっと待った!わたしの喘ぎ声って・・・・」
「はい・・・・すごく色っぽくて可愛かったです・・・・」
その時私は、隣でハンドルを握る舞衣さんの耳が真っ赤になっていたのを私は見逃しませんでした。
その後舞衣さんはしばらく無言で運転を続けました。そして、前方を走るバスが右折したのを見ながら舞衣さんが口を開きました。
「それじゃ、次に卒業式しなきゃね。それで教育実習終わったら、つれてって欲しいところがあるの・・・・そこで、二人っきりで。」
「はい・・・・分かりました。」
その後、再び舞衣さんは無言で運転を続けます。
そして市街地に入って赤信号待ちの時でした。クルマの前の横断歩道を手を繋いだ若いカップルが仲良く歩いて行きます。新婚さんでしょうか?その彼女のお腹が少し膨らんでいるような感じもします。恐らく20代後半・・・・舞衣さんと同じくらいの年齢です。
そんな二人を目で追いながら舞衣さんがボソッと呟きました。
「まっ・・・オンナ29・・・・いろいろあるわ・・・・」
私は隣でハンドルを握る舞衣さんを見つめました。そんな舞衣さんは先ほどの二人を目で追ったまま遠くを眺めています。私はその意味が分かるような分からないような・・・・・
「舞衣さん。それって・・・あの映画のセリフ?」
「あっ、バレちゃった?」
あの映画とは、少し前に放映された若い男女がスキーに行くという話で、作中当時高嶺な花だったセリカGTーFOURがひっくり返ってしまうのも話題でした。作中、グループ交際でカレシのいる女性が、グループ内で唯一独り身だった主人公を密かに気にかけていたその彼女のセリフがそれでした。
ただ、作中では「オンナ26・・・・」だったような気がしますが・・・。
私はその時舞衣さんの言ったその意味が分かりませんでした。でも、恐らくその時の舞衣さん自身とその映画の女性の複雑な心境を重ね合わせたものだったのかもしれません・・・。
その後、舞衣さんの教え子が働いているという市内のタイヤショップにやって来ました。それは以前、実習生によるレイプ騒ぎの後、在宅で教育実習を行なった高校1年生の優子ちゃんと一緒に生理用品を買ったスーパーのすぐ後ろにあり少々驚きです。
どおりであのエアロクイーンを追いかけるように走る訳です。ここって、そのバス会社の目と鼻の先にあります。
その店は一見倉庫のように見えますが、その一角に3台入るピットと店舗が申し訳なさそうにあるような雰囲気の店でした。
そして運転する舞衣さんは、わざわざその店の裏手の民家の庭みたいなところにクルマを停めました。するとクルマを降りた舞衣さんが裏の通用口からズカズカその店に入って行きます。
心なしかそんな舞衣さんの足取りが凄く軽そうで、そのお尻なんてプリップリしています。しかも鼻歌なんて歌って上機嫌です。それに引き換え私の下半身は凄く重ったるしいのですが・・・。
あと、先程道路から入る時見たその店の看板はバイト先のスタンドと取引のある店名となっていて、いつもタイヤを持って来る幌付きハイラックスのトラックがここから来ていたことに再度驚きです。
後で聞いた話によると、その店は舞衣さんが初めて担任となったクラスの教え子の実家で、その教え子は卒業後自動車専門学校へ行き、卒業後一旦タイヤメーカーに勤めたものの、カラダを崩した父親を支えるため実家に戻り、今ではその父親と二人でタイヤショップを営んでいるとのことでした。
また、その店は主に公官庁向けのタイヤ販売が主で、店頭販売は2割くらいと聞かされました。現に今ピットに入っているのは交通機動隊の覆面クラウンです。
「兵藤く〜ん。久しぶり〜。」
舞衣さんは店に入るなり、軽やかな声でそう声をかけました。
ん?兵藤くん?・・・・あの鼻血の?
私がそんなことを考えていた時、その兵藤くんとやらが舞衣さんに応えました。
「あっ、いらっしゃい・・・久しぶりです。最近なんか元気ないような感じでしたが・・・。でも舞衣先生、お客のうちは裏からは入らないでくださいっていつも言ってるじゃないですか?まっ、お嫁に来てくれれば問題ないんですが・・・」
何かの事務作業をしていたその兵藤くんと言われた卒業生が店の裏口から訪れた舞衣さんに気づき、開口一番そういうとカウンター外のパイプ椅子に座るよう促しました。
「あら、そう?・・・わたしそんな元気なかった?なんか来るたびそんなこと言われると本当に押しかけちゃうよ?そしたらタイヤ使い放題じゃん・・・」
舞衣さんはそのパイプ椅子にスッと腰掛けると、どこか無邪気な雰囲気でそう答えました。その時私はそれが全くの冗談かと思っていたのですが・・・
「えっ?舞衣先生・・・ちょっと雰囲気変わりました?ちょっと可愛いって言うか・・・。そんな舞衣先生だったら好きなタイヤ使い放題っていう特典付きです。」
「まっ、冗談はさておいて・・・何?わたしが元気なかったって?最後に電話したのはいつだったかしら・・・二輪車大会に出ないって電話した時っだったかしら・・・」
この二輪車大会というのは、二輪車安全運転大会といって全国大会まである全国的な大会です。分かりやすく言えば、白バイ競技会の素人版と言うところでしょうか?
以前、舞衣さんはその大会の県予選に毎年出ていて、毎年優勝を逃していると聞いたことがありました。でも、今回出場しないというのは初耳ですが・・・。
「舞衣先生・・・もう、大会出ないんだったら選手卒業して指導員になりましょうよ・・・俺と二人で一緒に選手指導しませんか?舞衣先生と二人でだったらすごく指導に熱が入ると思うんですが・・・」
話の内容からすれば、現在この教え子が大会練習の指導員で舞衣さんが選手ということになります。どういうわけか学校の先生と生徒という立場が逆転しています。
「あら・・・わたしが選手じゃ熱が入らないってこと?」
「だって・・・舞衣先生って、いつまで経っても俺に返事くれないし・・・」
そこで会話に入れない私を見つけたその教え子が驚いたように舞衣さんに尋ねました。
「先生・・・この人って・・・・」
「あっ、ゴメンなさいね。この人は風谷先生。今、私の高校でわたしと・・・・」
そう言いながら舞衣さんは慣れた手つきで立てかけてあったパイプ椅子を開いて私をそこに座らせました。
「えっ、舞衣先生・・・こんな若いオトコと・・・・」
「ちょっと・・・わたしと、この風谷先生って今・・・・」
するとその卒業生が立ち上がってカウンター越しに舞衣さんを見つめています。
「ちょっと待った!舞衣先生・・・・それ以上言わないでください。俺・・・俺・・・心の準備が・・・。」
「ちょっと待ってはこっちのセリフだよ!なんか誤解してる?風谷先生って、今教育実習中の大学生で私の義弟になる人なの。」
「えっ・・・・・・びっくりした・・・。俺、てっきり・・・・」
その舞衣さんの教え子はそこまで言いかけると、カウンターの中から出てきて改めて自己紹介を始めました。
「お・・俺、兵藤って言います。一応この兵藤タイヤの跡取りです。あと・・・今、ピットで覆面のタイヤ入れ替えしている妹もいますが、その妹は舞衣先生のクラスでお世話になっています。」
「あっ・・僕は風谷って言います。こちらこそ・・・・」
私はその時、その自己紹介をする兵藤くんの顔を見ながら舞衣さんから聞いていた鼻血事件を思い出していました。
でも・・・・この時思いました。
私もその大学卒業直後の舞衣さんの初々しい姿を見てみたかった・・・胸の匂いを嗅いでみたかった・・・それがちょっと羨ましい・・・と。
「あっ、奏(かなで)ちゃん、家の手伝いやってるのね。えらいえらい・・・。」
舞衣さんがそう言った時に、脇の扉からから奏ちゃん本人が現れました。
「舞衣先生・・・・すいませんこんな格好で・・・テスト前でせっかく剣道部休みなのに・・・」
「ううん、いいの。で、お父さんの具合どう?」
「はい。お陰様で大分落ち着きました。ご心配おかけしまして・・・」
どうやらこの兄弟は父子家庭でその父親が入院中の現在、その息子が店を切り盛りしているようです。
「でも、そのツナギ可愛い・・・そんなピンクのツナギってあるんだね・・・」
そこで舞衣さんが急に話題を変えました。私も気にはなっていたんですか・・・。
すると、それに答えるようにその跡取りが何かの雑誌を手に取り舞衣さんに問いかけます。
「先生聞いてください。奏のヤツ・・・コレに憧れて、わざわざこの雑誌に載ってた女の子とおんなじツナギをその雑誌の通販で買ったんです。」
「なんか凄い入れ込みようね・・・・」
「なんかその雑誌でその女の子がクルマいじってて、それが格好いいって・・・」
見るとそのピンクのツナギの左肩に「RIO・FACTORY」と刺繍がなされていました。
しかも、その胸なんかにパーツメーカーのワッペンが貼り付けてあり、その数も結構あります。そのことから、その雑誌の企画が各パーツメーカーのコラボ企画ということが伺えました。
しかし、そんな雑誌の企画のど真ん中にいるその理央の人気は相当なモノです。それまでは単にコアなおじさんのアイドルという認識でいましたが・・・さらに、その雑誌で理央のツナギのレプリカを通販していたとは・・・。
私はその雑誌を借りてそれを見せてもらいました。するとその雑誌はその当時刊行されていた女の子向け走り屋雑誌で、その表紙にはリジットラックに載ったエンジンも何も付いていないトヨタAE92の黒い車体とそのピンクのツナギを着た女子の姿が映し出されていました。
「あっ、理央・・・」
さらにその中身をペラペラめくりながら読んでいくと、その特集記事の中で私のハチロクにも深く関わっている理央が車体後部の窓枠をスポット溶接している様子が掲載されています。
それは最初赤かった理央のAE92と呼ばれるカローラレビンが、当時トヨタが限定車とした少数発売したブラックレビン204というクルマと同じ塗料No204番の色になっていく・・・そんな過程も掲載されていました。
「あっ、理央のニューニー・・・」
その雑誌に掲載されていた記事には、理央が現在取り組んでいるAE92の製作についての内容が長々と綴られていました。
それは特集記事ということでしたが、その雑誌のほとんどがその記事に関連するもので、その理央本人がもはやアイドル化していることが伺えます。
「あの〜。マドカ先生・・・・。その理央さんと知り合いなんですか?」
その時、夢中になってその雑誌を読む私の前にそのピンクのツナギを割り込ませるようにして奏ちゃんがそう尋ねました。
「う・・・ん。知り合いも知り合いで・・・・僕の中学校の時の同級生で、なんって言っていいのかわかんないけど・・・・元のカノ・・・・・」
私がそこまで言った途端、そばで話を聞いていたそのピンクのツナギの手が私の胸ぐらを掴んで、私を前後に激しく揺さぶります。
「理央さんってどこの人なんですか?どういう人なんですか?なんでそんなに可愛いんですか?どうすればそんなにクルマいじれるんですか?なんでそんな雑誌で・・・・・」
私は首がムチ打ちになりそうになりながらそれに応えました。
「り・・・理央って、そもそもカーショップの一人娘で・・・・たまたま僕のハチロクのエンジンを載せ替える時、僕の義父さんの助手になってエンジン組んだのがそもそもの始まり・・・」
そこでやっと、私の胸ぐらから黒く汚れた小熊のような可愛い手が外れました。
「そうなんですね・・・・まどか先生のあの赤いハチロクって、その雑誌でたびたび出てくるヤツなんですか?。しかも、AE92のエンジンをメカチューンしてるってヤツ。それで200馬力近く絞り出してるんじゃないかって・・・・」
「ちょっと・・・200って大袈裟じゃないか?でも、AE92のスーパーチャジャーよりは速かったからいいトコはいくと思うけど・・・・でも最近、馬力測定するからって持っていかれちゃって・・・・」
「やっぱりシャーシダイナモに乗せるんですね。今月号にそんなこと書いてありました・・・」
その後私はその雑誌のバックナンバーを見せてもらいました。すると、私のハチロクに載せるエンジンを組み付けている記録写真なんかが結構掲載されていて、その写真の理央の表情がまた真剣そのものです。
それを撮影したのが私の義父であることが明白でした。何せそこは私の実家のガレージだったからです。後ろに私が製作した畳敷きの小上がりが写り込んでいたり、私の本当の父親の形見の工具棚も写っています。
しかも、その段階でその理央が既にピンクのツナギを着ていました。雑誌の企画なんてそのずっと後の話なんですが・・・・。でも、私の義父はいろんなものに拘ります。恐らく、その義父が理央の作業のために取り寄せたのでしょう。
でも、その雑誌ではそのハチロクはお兄ちゃんのモノで、しかも車庫の中に簡易的に造ったエンジン室と称するテントの場所も理央の自宅ガレージと記されています・・・。
まっ、雑誌なんてそんなもんだろうと思ってはいましたが・・・・なんか複雑です。
でも・・理央との始まりもそのガレージで、あのあおいとの出会いもまたこのガレージ、そしてそのあおいと最後にお別れしたのもまたこのガレージでした。
色んな意味でそのガレージが私の出発点になっていて、その雑誌を読みながら何か感慨深いものが込み上げて来ます。
するとその奏ちゃんが再び私に詰め寄ります。
「マドカ先生。どこに行けばその理央さんに会えるんですか?わたし・・・ひと目お逢いしてみたいんですが・・・。」
「舞衣さん・・・・どうしましょう?恐らく、この場所って非公開ですよね・・・」
私はこの時ちょっと困った顔で舞衣さんに助け船を求めました。
そうです。その雑誌には、現在作業中のその場所のことを「リオファクトリー」としか言っていません。さらに、その場所が特定できないよう入念に背景が映り込まない撮影となっています。
「いいんじゃない?・・・まっ、ここだけの話ってことで・・・」
舞衣さんは軽くそう答えました。
「えっ?舞衣先生も一枚噛んでる?」
そう答える舞衣さんをピンクのツナギを着た女子高生のキラキラ輝いた瞳で見つめます。
「一枚も何も、ここ・・・ウチの実家だし・・・・」
「えっ・・・・・?そうなんですか?」
舞衣さんの目前でそのピンクのツナギの女子が固まっています。
そもそも理央の実家のショップも公官庁向けタイヤ販売がメインで、ドレスアップと改造を少々というような小さなショップでした。ちょうど、ここの店と同じような規模だったかと思います。
「奏ちゃん。理央って、中学高校時代はクルマってものに全く興味がなくって、初めて興味を持ったのが僕のハチロクのエンジンを載せ替えるっていう義父さんの作業を手伝った時だったんだ・・・」
私はその女子高生に理央がクルマに携わることになった経緯をそう伝えました。
「そうなんですか?」
「うん。だから、高一でタイヤ入れ替えしてる奏ちゃんの方が何歩も先言っていると思うよ。」
すると今までパイプ椅子に座って寛いでいたその兵藤という教え子が時計に目をやりました。
「奏・・・今やってる作業どこまで・・・」
「最後の1本バランス取りすれば・・・」
「時間がない・・・もうすぐ覆面取りに来る時間・・・」
「舞衣先生。作業終わらせますんで、ちょっと休んでいてください・・・」
そう言い残すとその兵藤兄妹はピットに向かい、覆面パトのタイヤ交換を再開しました。
すると間もなくインパクトレンチとコンプレッサーの動く音が聞こえてきて作業が佳境を迎えたことが伝わってきます。
そんな時白黒パトカーが店の敷地に入って来て、店の入り口にパトカーを横付けして停車しました。
「ヤバッ・・・・。」
私の脇で、カウンター内の冷蔵庫を勝手に開けて缶コーヒーを取り出そうとしていた舞衣さんが小さくそう囁きました。
「舞衣さん、どうしました?」
私はそんな舞衣さんに小声でそう尋ねます。
「あれって・・・・ゼロヨンの時振り切ったパト・・・・しかも、アレに乗ってたのがアイツだったとは・・・。そういえば、埠頭の取り締まり強化するって言ってたの忘れてた。」
私はとにかく焦っていました。恐らく挙動不審で職務質問されてしまうレベルかも知れません。しかも、その時舞衣さんの言った「アイツ」とは誰を指したのか全く想像出来ないほど焦っている自分がここにいました。
「あっ・・・・・・。舞衣さん。とりあえず平静を装いましょう。クルマは裏に隠してありますし・・・」
そんなやりとりとしているとその交通機動隊の隊員2人のうち1人が自動ドアから店に入って来ました。すると、ピットからピンクのツナギを着た女子高生が走ってきてそれを出迎えます。
私は入り口から入ってきた水色の制服を着た交通機動隊員を見た瞬間、その高い身長が185cm前後であることが分かりました。それはあのふたばと背格好が同じだったからです。
「ご苦労様です味戸さん。今、作業終わりますので・・・・。この伝票にサインもらえますか?」
出迎えた奏ちゃんが満面の笑顔でその隊員を見上げてそう伝えました。
「奏ちゃん・・・いつも可愛いね。俺さ、ここ来るの楽しみで・・・近くに来ると奏ちゃんの顔見たくって用事もないのに寄っちゃうんだよね・・・・。今日も覆面の受け取り名乗り出ちゃったくらいで・・・・」
そう言いながら壁に立て掛けてあったパイプ椅子を開いて、ソレに座ったかと思うと作業が終わったのを確認することもなくその味戸と言われた隊員は伝票に自分の名前を書いています。その雰囲気を察すると、仕事中何かとこのショップに立ち寄っている感じがします。
「良いんです。いつでも寄ってください。でも味戸さんって若そうですけど、奥さんとか居たりするんですか?」
「うん・・・。若いって言っても奏ちゃんと干支が一緒なんだよね・・・でも、悲しいかな独り身なんだ・・・。」
「ひとまわりってことですか?結婚とかしないんですか?」
「ずっと前、結婚まで考えたちょっと年上の女性がいたんだけどね・・・・振られちゃってから立ち直れなくって。それで奏ちゃんって可愛いからついつい・・・」
「あらあら・・・でもわたし、こう見えても女子高生なんですよ。今、手を出すと犯罪になっちゃいますよ・・・でも、待っててください。今婦警さんになるために剣道頑張ってますから・・・・」
「奏ちゃん待ってるよ。俺、応援するからね。」
私はちょっと離れた商品棚の影から、隠れるようにしてピンクのツナギを着た女子高生と身長185cmの交通機動隊員のそんなやりとりを見ていました。
すると、ついさっきカウンター内の冷蔵庫を開けて中を覗いていたはずの舞衣さんの姿がどこにもありません。
そこで私はトイレにでも行くふりをして舞衣さんの姿を探しました。
すると、先程までピンクのツナギと話をしていた水色の制服が舞衣さんを呼んでいます。
その時、奏ちゃんは兄の作業を手伝うためかピットへ消えてしまっていました。
「小林先生・・・いるんでしょ?舞衣さ〜ん・・・隠れてないで・・・」
「ちぇっ、バレちゃ仕方ね〜・・・・。」
その時舞衣さんは、ピットに通じる通路を隔てるカーテンの後ろから時代劇風にそう言いながら出て来ました。
そしてその舞衣さんは、私の目の前を通過する時小さく囁きます。
「まったく・・・あのインポ野郎。」
その舞衣さんは驚く私をまったく無視して、その声の主の前に現れました。そしてカウンターの上に置いていた自分のポシェットをむんずと掴み、おもむろにパイプ椅子の角度を変えてドカッと座りました。
でも、座った向きが変です。しかも決して目を合わせないような座り方で足まで組んでいます。
「アンタ、久しぶり・・・。何?昇進したんだ・・・・」
足を組み替えながら、いきなりそう言った舞衣さんはとても不機嫌そうです。でも、何を見てそう言ったのか私には全く分かりません。
「えっ、久しぶりって?舞衣さん今日・・・・何か心当たりない?」
「知らない。」
「う〜ん。さっきさ・・・・埠頭で白昼堂々とゼロヨンやってたシルビアを検挙したんだよね。」
「うん・・・それで?」
「それでさ・・・そのシルビアが仲間に置いてかれちゃって、おまけに遅かったからすぐに捕まえたんだけど・・・・そいつが切符切られながら言い訳するのよ・・・・」
「だから?・・・それとわたしがなんの関係があるって言うわけ?」
「なんかいいオンナがスターレット乗ってたんで、それをナンパしたらしいんだよね。そしたらゼロヨンで勝ったらヤらせてあげるって言われたもんだから、悪いの知っててついゼロヨンなんかしちゃったって・・・」
「ふ〜ん。なんか悪いオンナがいたんだね・・・。でも、そのオトコ・・・多分、そのオンナに3Pしようとか言って迫っていただけなんじゃない?」
「俺さ〜、その時見ちゃったんだよね。そのいいオンナが運転するスターレット。しかもフルブーストで加速してて・・・」
「まっ、似たようなオンナたくさんいるからね。見間違いじゃないの?」
「しかも、一緒に走っていた女の子のアルトがまた速くって・・・オマケにそのクルマのバックファイヤーが凄くって。アレ、完全に整備不良だね。」
「で?」
舞衣さんはパイプ椅子に座って腕組みしながらそこまで話をしていましたが、最後にその「で?」で締めくくりました。
ちなみに外見が女性仕様車のそのアルトは、その運転手が女の子ってことになっているようです。
するとそこまで話したその味戸という交通機動隊員が、急に前屈みになってひそひそ話を始めました。
「なあ舞衣・・・・そろそろ機嫌なおしてやり直さないか?俺、舞衣のこと忘れられなくって・・・」
「ふ〜ん。それで?」
「だから・・・・」
「そう言われてもね・・・あっ、まどか出てきて。棚の後ろにいるんでしょ?」
それまで棚の後ろで話を伺っていた私は急に呼び捨てで呼び出されアタフタしてしまっていました。でも、呼ばれた以上出ないわけにもいきません。とりあえずここは平静を装います。
「あっ、舞衣さん・・・すいません。盗み聞きしちゃいました。」
そしてその舞衣さんは私の首根っこを腕で押さえて言いました。
「アンタ・・・もう遅れ。今、わたしこのオトコと付き合ってるんだ・・・」
そう言われた私は照れ臭そうに頭を掻くしかありません。
「まっ、舞衣・・・・・」
ここで3人の間に気まずい空気が流れます。
「味戸・・・いくぞ」
その時急に自動ドアが開いて、その困った本人が急に声を掛けられました。
「あっ、はい。係長・・・」
すると、その困った本人がばっと立ち上がりうなだれた様子でパイプ椅子を畳んで壁に立てかけました。
「1年待ってあげる。1年アンタの気が変わらなかったら1年後の今日・・・ここでもう一度さっきの聞かせて・・・」
するとそのうなだれた水色の制服が振り返って舞衣さんに向かって、背筋をピンと伸ばして敬礼をしました。
「何それ・・・・」
そしてその後白黒パトカーと新品タイヤを履いた紺色のクラウンが続けて店の敷地から出て行きました。
「舞衣さん。さっきの1年って・・・・」
「うん。まーくんと一緒。1年待つってどんな気持ちか分からせてあげたいの・・・それに自分への戒めも含めて・・・・」
すると今の今まで作業していた兵藤兄がピットから店内に入ってきて舞衣さんに声を掛けました。
「ちょっと役所に行って道路パト車持って来ますんで、店番いいですか?」
「うん、いいよ。行っておいで・・・。奏ちゃんの帳簿付け手伝ってあげる。」
舞衣さんは何かすっかりこの店の人のように馴染んでいます。
「舞衣さん。その道路パトって?」
私はパイプ椅子に座る舞衣さんに尋ねました。
「うん・・・あの、黄色いパトロールカーじゃないの?道路見回ってるヤツ。」
その時私は思い出しました。黄色い回転灯を回しながら低速で走行するその邪魔な存在を。
すると今さっき裏口から出て行った兵藤兄が戻って来ました。
「あの〜すいません。あのアルト移動してもらえますか?ちょっとクルマ出せないんで・・・」
思い出しました。先程、店のトラックの前にアルトを停めていた事に・・・
「あっ、すいません。今どかします・・・」
そう言いながら走ってアルトのところまで来ました。
「コレ、お母さんかお姉ちゃんのお下がり?」
私と共に店の裏口から出てきた兵藤兄が私にそう尋ねます。まっ、無理もありません。それはどこから見ても女性仕様車だからです。
「いや・・・まっ、そんなところです。」
私はちょっと心苦しい中そう答えました。
そしてそのクルマを移動させようとエンジンをかけた瞬間、トラックのドアに手をかけたその兵藤兄が飛んできました。
「コレって・・・ターボか?マフラー抜けてるだけだと思ったらタービンの音がする・・」
「いや・・・・このクルマって中身はアルトワークスなんです。」
「いや・・マジ?・・・しかもロールゲージまで付いてて・・・。コレって、つまりはエアロ無しのRSーSってヤツ?」
そのワークスのRSーSと言うグレードとは、ワークスの特徴である派手なエアロ類が一切付いてない玄人向けバージョンでした。また巷では覆面ワークスなんても呼ばれています。
しかし、私のワークスのベース車両はそんなモノではないただの女性仕様車でした
「グレードは分かりませんが、ワンメークレースでブローした車両とラリーで谷に落ちた車両と普通に調子の悪いアルトを組み合わせたヤツだって聞きました。」
私は兵藤兄の質問にそう答えながら私はボンネットを開けました。
「いや・・・信じらんね〜。コレ、ワークスの550エンジンだ。俺の丸目ワークスと一緒・・・でも、しかも前置きインタークーラーに変わって、エキマニも・・・・ん?この配管って?」
恐らくそれは失火なんとかという装置の一部かと思います。しかしその構造を知らない私からは詳しく説明はできません。
「多分・・・2次エアを送る配管・・・・」
詳しく説明のできない私は、舞衣さんの義弟である良一さんが言った言葉をそのまま使いました。
「それって、ターボラグ除去装置?」
「ちょっと分かりません。でも、ターボラグを改善する何かみたいです。」
「じゃ、ちょっとエンジン吹かしてみて。」
「はい。」
私はクルマに戻りエンジンを吹かしました。その時はただのうるさい車でしかありません。でも例のスイッチを押した瞬間・・・・
その排気音がバリバリバリバリ・・・・という音に変わり、エンジンを吹かすとバリバリ・・パンパンパン・・・というけたたましい音に・・・・
「ちょっと待った・・・・もういいから・・・」
私はその言葉を聞いてエンジンを切りました。
「コレ・・・・オレが専門学校に通っていたときに研究したヤツ・・・・。ターボラグをどうすれば消せるかって・・・・でも、これ付けて公道走ってるの、日本中探してもアンタだけじゃないか?」
「そ・・・そうですか?確かにその音って通報レベルを超えているとは思いますが・・・」
このシステムは、ミスファイヤリングとかアンチラグシステムと言う名称で、この後世界ラリー選手権(WRC)で各メーカーが導入することとなるシステムでした。それを面白半分にアルトに導入した義父さんが、どのメーカーの研究を真似たのは分かりませんが、普段から真面目にふざけている義父さんらしい仕事でした。
「あっ、そうだ。これでオレのこと役所まで送ってくれないか?それにちょっと乗せてもらいたいし・・・・」
「はい分かりました。今、舞衣さんに話してきます。」
そう言って私は店の通用口から舞衣さんに声をかけました。
「は〜い。気をつけてね〜」
私はまるで店の女将さんのような舞衣さんの言葉に送り出され、その役所とやらに道路パトロール車を引き取りに行きました。
「コレ・・・・足が良く動く・・・ラリー用ってこんなに良いのか?俺、車高高いの嫌いだけど・・・・コレならアリかも・・・」
私の隣でその兵藤兄が感心していますが・・・・。
「しかし・・・・このマフラーうるさいな・・・。まさかとは思うけど、レース用のマフラーそのまま付けてる訳・・・ないよね。」
「なんかよく分からないんですか・・・ベースはそうみたいなんです。でも、サイレンサーが後付けされていました。消音効果はあまりないようですが・・・・・」
乗っている本人も全く分かりません。このクルマのこと。
初めて行くその役所はどこかの出先機関になっていて、見上げたその建物の屋上にいろんなアンテナが建っていました。私がその建物脇の車庫の前で待っていると、そこの守衛と思われる人が車庫の脇にあるドアから中に消えました。
するとその車庫のシャッターがゆっくりと開いて、丸目4灯式ライトの黄色いクラウンバンと水色のランクル、あとちょっと分からないようなアンテナのいっぱい付いたトラックが見えて来ました。
すると、兵藤兄がその守衛に頭を下げ黄色いクラウンに乗り込みエンジンを始動させました。すると、何故かその車庫内に白い煙が立ち込めています。
そしてその黄色いクラウンを外に出すと、そのトランクにいろんな道具や資材が載っていてその重みで車体が尻下がりとなっているのが分かりました。
私はそのままその黄色いクルマの後に付いて走ります。そして、時折そのクラウンが吐き出す白い煙に悩まさせながら走っていますが、そのクラウンのマフラーから吐き出されるその白い煙がとにかく臭いのです。
そして兵藤タイヤまで戻ると、兵藤兄は直接そのクラウンをピットに入れました。そして、私のアルトも隣のピットに・・・。先ほど兵藤兄から私のアルトをリフトに乗せ、下から見たいという申し入れを受けていました。
「このクルマ・・・・エンジン大丈夫ですか?。」
私はリフトで上げる前のその黄色い車の運転席を覗き込んでそう尋ねます。
「じゃ、オドメーター見て・・・・何キロ走ってる?」
「ん?・・3万9千キロ・・・・ですか?。」
私がそう答えると、その兵藤兄はクルマ下部のジャッキポイントにゴムを噛ませながら答えます。
「桁が違う・・・・。よく見てみ。」
私がそのメータをよく見ると、なるほど1桁違っていました。
「えっ・・・39万キロってことすか?」
「まっ、そういうことだ・・・」
「クルマってそんなに走るもんなんですか?しかもこのクラウンってそんなに古くないような・・・・しかもワックスも効いてて外見は極上ですよね。」
39万キロ・・・・この時代のクルマは、タクシーでもない限りこんな走行距離までクルマを使うことはあまりありませんでした。でも、車がクルマです。その役所が管理する道路を管理のため毎日何百キロも走っています・・・・コレばっかりは仕方がありません。
「そうだな。でも・・・このクルマって、恐らく5年満了でもうすぐ更新されるって言ってたかな?」
「5年って・・・・年間8万キロですか・・・。しかも、もうすぐ更新されるのにタイヤは新品入れるんですね。」
「まっ、いつも重いの積んでるからすぐに減っちゃうんだよね。でも、あの役所ってウチのお得意さんで・・・値段が10万超えるやつは入札になっちゃうけど、ソレ以下の値段のヤツは見積・納品・請求書の3点セットでやらせてもらえるから、ウチみたいな小さな店はすごく助かるんだ。」
「僕の義父さんも役所勤めですが、その10万っていうのは初めて聞きました。」
「何台かまとめてると10万を超えて入札になっちゃうけど、ここの役所は1台ずつ単発で発注してくれるんだ。だからウチみたいなところでもやってられるって訳。まっ、入札となると手続きが面倒で、おまけに時間がかかるから・・・」
「でも・・・まとめてやった方が安く上がると思いますが・・・・」
「まっ、ソレが役所ってところだから・・・・。それに、運転手に好評なBS(ブリヂストン)でこの値段はウチだけだし・・。」
そんな会話をしながらそのクラウンはリフトで上げられます。
その後、兵藤兄がエアインパクトレンチで外したタイヤを私が預かりました。
「チェンジャー借りますね・・・」
私がそう声を掛けてそのタイヤのエアを抜きました。
「アンタ・・・・タイヤ入れ替えできんのか?」
「はい・・・。バイトでいつもやってるんで・・・。」
その後、私のバイト先のスタンドを教えたところ、そのスタンドは昔から贔屓にしてもらっていて付き合いが長いことと、卸値を少し安くしていることなどを教えてもらいました。
そんなやりとりをしながら2人でやった作業はすぐに終わりました。その工藤兄曰く今までで最短記録だということです。
その後、作業が終わり今度は私がリフトを降ろしている時、ピット脇の事務所へ通じるドアからピンクのツナギが慌てた様子で現れました。
「お兄ちゃん・・・パンクだって。急行できる?」
「場所は?」
「うん・・・今、地図出すから・・・・」
そんなやりとりをしながらその兵藤兄妹は店の中へ消えて行きました。
現代でしたらナビひとつで目的地までいける時代ですが、平成一桁のその時代にはそんなものはありません。
兄妹で場所を地図で調べている間、手持ちぶさたの私は隣のピットに入ってるアルトにリフトを噛ませそれを上げてみました。
この頃になると大夫日も傾いてきて、作業用照明を下から照らしながら見る義父さんのアルトは、いろんなところに義父の拘りが感じられます。
下回りは全てブラック塗装され、足回りのアーム類にも防錆塗装がなされています。しかもエンジンやミッションもオーバーホール時にサンドブラスト処理のうえ再塗装された形跡がありありと見えました。
ただマフラーだけがあちこち溶接の跡が荒く、また塗装もされていなかったことから、マフラーだけは製作途中だったようです。さらによく見るとそのマフラーの後ろの部分が千切れてなくなっていました。
昨日見た時はそこにサイレンサーが付いていたと思うのですが・・・・つまりは現在このクルマは直管・・・・ということになります。
道理でうるさい訳です。ここはワークスに乗っているという兵藤兄に相談というところでしょうか?
そんなことを考えていると事務所へ通じる通路から舞衣さんが出てきました。
「ねえ、まーくん。パンク修理ってできる?」
その時舞衣さんの姿を見るとまるで別人です。
「ま・・・ま・い・・さん?」
「何よ・・・・ちょっと帽子被ってメガネ掛けただけなのに・・・コレだからオトコって・・・・」
そんな黒縁メガネの舞衣さんは、タイヤメーカーのロゴの入ったツナギを着ていて、その頭にはそのツナギとお揃いの帽子を被っていました。
しかも胸が苦しいようで胸元のチャックが開いていて、その豊満な胸の谷間が少し見えていました。それはどこかで見たアニメ・・・・そう、タイムボカンシリーズに出てきた何かのキャラクターのようです。
そう言えば、理央のピンクのツナギもタイムボカンシーリーズのどこかに出てきたなんとか2号みたいな感じを受けていました。これは、義父を問い詰めないと分からないことですが・・・。
そんな舞衣さんの話が続きます。
「なんかさ・・・奏ちゃんと伝票の突き合わせしてたら目が疲れちゃってさ・・・。その前になんか白いモノも目に入っちゃったし・・・コンタクトゴロゴロしちゃって・・・」
私はもう何も言えません。ただ、そんな舞衣さんに対して頬笑み返しかできませんでした。しかも、黒縁メガネにツナギと帽子におさげ髪・・・・・そんな姿は全てにおいてアンバランスで、見ようによってはすごくエロっぽい感じがします。
「す、すいません・・・前の舞衣さんに見慣れていたもんで・・・・」
「で・・・わたしとヤれる?」
「えっ?コレからですか?その格好も嫌いじゃないですが、さっきヤったばかりじゃ・・・・」
「なんか勘違いしてる?わたしは一緒にパンク修理できるかって聞いてんの!」
「あっ、そっちですか・・・・」
「どっちなの?」
「もちろん出来ますよ。クルマのタイヤはスペアに交換して、パンクしたタイヤは持って帰るってことですよね?」
「違うの・・・・現場で・・・・。ハナシ聞いたら釘拾っちゃったみたいだけだから、コンプレッサーがあれば対応可能よね?」
「それならそれでOKです。」
「コレから救急車のタイヤ交換があるんだって、もうすぐその車がピットに入るから・・・・」
話を聞いたところ、そのパンクの現場は役所を通過した先にあると言うことで舞衣さんと二人で出動することになりました。
そして私は黄色いパトカーに乗り込み舞衣さんの運転する店のトラックを先導しました。
この時私は直列6気筒エンジンのクルマを運転するのは初めてです。完調で無いまでも、整備されたそのエンジンは綺麗に吹け上がります。その6気筒エンジンのスムーズな出力特性に感心させられながらその役所に到着しました。
その途中、インパネ中央に取って着けたように設置されている回転灯やサイレンのスイッチを押してみたい衝動に駆られましたがグッと我慢していました。
そして役所玄関前でその黄色いクルマのドアを開けた瞬間、後ろのトラックから苦情が寄せられます。
「クサ〜イ。そして煙い〜。そのクルマ・・・健康に悪い!」
そんな事を言いながら舞衣さんは激怒していますが・・・・仕方がありません。役所の車なんですから・・・・。
そして、守衛にシャッターを開けてもらいバックでクルマを入れようとして後ろを振り返った時です。何かどこかで見たことがあるようなものが荷台の荷物の上に載っているのを見つけました。
その後そのクルマを停車させる時、何気に覗いたその荷台にあったのは私のアルトのマフラーでした。
ソレは、路上落下物として回収されたものと思われます。
「すいません・・・お手間取らせまして・・・・」
そんなことを思いつつ舞衣さんの待つトラックの助手席に乗り込みました。
「さて現場に向かいましょう・・・」
その現場とは、隣町のショッピングモールの駐車場で片道20分くらいの場所です。
「しかしさ・・・今日って日はクラウンに縁があるよね・・・。パンダパトに覆面。しかもレアな黄色いパトカーに、今から向かうパンク車両もまたクラウン。」
結構ひどい乗り心地の中、慣れた手つきでハンドルを握る舞衣さんがそう話を切り出しました。
「いつかはクラウンってフレーズありますよね。舞衣さんってそんなクラウンに興味ってありますか?」
「全くないね。クルマが良いのは認めるけど・・・・第一それって、オッさんかヤンキーの乗るクルマでしょっ?」
「スーパーチャージャー搭載車もあるみたいですけど・・・・」
「それって無理矢理感があるよね。日産の430(セドリック・グロリア)ターボに対抗して・・・みたいな?。高級車なんだから大排気量エンジンで王道行かないと・・・・」
「そうなると僕にとってますます縁遠い車になりますね・・・」
するとハンドルを握る舞衣さんが急に話題を変えました。
「ねえ・・・あの兵藤くんってどう思う?」
「どう?って聞かれましても・・・・頑張って店を切り盛りしてるとしか・・・」
「そうじゃないの。オトコとして」
「あっ、そっちですか?う〜ん、分かりません。ソレって他人のシモの話ですよね。」
「うん。ソレもそうなんだけど・・・・・。わたしね、兵藤くんからプロポーズ受けてるの・・・・・。あっ、返事は保留だけどね。」
「舞衣さん。ソレで舞衣さんはどうなんですか?」
「うん・・・・。兵藤くんのことは高校2年生の時から知っているけど・・・・どうしてもわたしの中じゃいつまで経っても高校生の教え子なんだよね。」
「・・・・なんか分かる気がします。でも、迷ってるんですよね?」
「それで、なんて言っていいのか分かんなくって・・・・返事できないの。」
「でも・・・・舞衣さん。舞衣さんって、さっきの水色制服のことも・・・・・」
「まっ、ソレもあるんだけど・・・・・。でも、コレって自分自身の問題よね。アイツって未だにどうでもいい内容の電話してくるんだよね。今日、どこで取り締まりやる・・・とか、整備不良で捕まえたクルマがどんな改造してた・・・とか。」
「それって・・・・多分、舞衣さんの様子を伺っての事だと思います。それとも声が聞きたいとか・・・・」
「それって・・・・考えようによっては気持ち悪いよね。ストーカーみたいな?・・・・でも、そんな電話待ってる自分自身も嫌になっちゃう・・・・。もう、年も歳なんだし、コレばっかりははっきりさせないと・・・・・」
この時代の女性は20代前半で結婚、後半で出産というのが時代の流れでした。そんな中舞衣さんは30目前で独身・・・・ちょっと分かる気もします。
そんな話をしながら走ることしばらくして現場に到着しました。するとその駐車場に少し傾いた状態で止まっているクラウンに見覚えがありました。
「ゲゲッ!あのクラウン・・・・」
「ねえ・・・どうしたの?」
「は・・い。昨日、あのクラウン・・・・さっきのラブホで見かけました。」
「ん?さっきのラブホ?昨日?・・・・ん?もしかして・・・昨日、ふたば先生と・・・・」
「すいません・・・・ちょっとシルビアに絡まれちゃって・・・そこに逃げ込みました。しかもそのシルビアって・・・・あの埠頭で舞衣さんに絡んできて、最後にパトカーに捕まったヤツです。」
「なに?あのシルビアってそんな輩だったの?捕まって当然よね・・・・」
この時、昨日のラブホという話題から話が逸れて内心ほっとしていました。
そしてそのパンクしているクラウンは、屋上の駐車場のなぜか目に付きにくい場所に隠すように停まっています。
兵藤タイヤのトラックを1台分間隔を開けた隣に停めた舞衣さんがそのクラウンの持ち主に挨拶をしました。
「兵藤タイヤです。この度は御用たていただきまして有難うございます。釘が刺さってのことと聞きましたので、恐らく15分くらいで作業は終了するかと思います・・・・」
この時、そのクラウンのオッサンがお辞儀をした舞衣さんの胸元を二度見したのを私は見逃しませんでした。
う〜ん・・・・オトコならやっぱり見てしまいます。そんな魅力的なモノに目が行ってしまうのは無理もありませんが・・・
今舞衣さんが説明した作業時間が15分・・・・バイト先での作業には慣れてはいましたが、この15分と言うのは結構なプレッシャーです。
その後パンクした左後ろのタイヤを外している時、聞いてもいないのにそのクラウンの持ち主が舞衣さんに話しかけています。舞衣さんの胸元を拝みたくって話しかけているのはミエミエでした。このオヤジ・・・・相当なスケベです。
「いや〜、今日、高1の娘にせがまれて化粧品買いに来たんだよね・・・。母さんだったら絶対に買ってくれないってことで、パパお願い・・・・なんてねだられて・・。」
「お父さん、お嬢さんと仲良いんですね・・・・」
「いや〜、会社の同僚なんかから娘が話もしてくれない・・・なんて聞くと、ソレ信じられないんだよね・・・・」
なんて舞衣さんに娘と仲が良いことを自慢しています。
そしてそのオッサンが、伝票を書いている舞衣さんに聞いてもいない話を続けます。
「それで・・・欲しい化粧品買ってやってクルマに戻ってきたらパンクしててさ・・・。時間かかるって言ったら、マネキュアも欲しいなんて言って今それ買いに行ってるんだよね・・・・」
「お父さんお優しいんですね・・・・」
舞衣さんがそんなオッサンの話に合わせてそう答えた時でした。
「パパー。3色で迷ったけど・・・・せっかくだからみんな買っちゃった。良いでしょ?」
という黄色いの声が聞こえてきました。
「えっ?・・・・」
私が外したタイヤを荷台に積み込みながら見たその娘は・・・・あの健康的な太ももの持ち主で、紛れもない1年6組の委員長でした。
その委員長は今、自分の父親と話をしているそのタイヤ屋の店員が自分のクラス担任だと言うことには気づいていないようです。
私はというと今被っている帽子を深く被り直し、トラックの荷台に積んだタイヤの釘を抜いていました。
すると舞衣さんが荷台の下から小声で話しかけて来ます。
「ねえ・・・由香ちゃん(委員長のこと)がパパって呼んでる人ってダレ?」
「えっ?誰って聞かれても・・・・お父さんなんでしょ?」
「それが違うの。由香ちゃんのお父さんってPTAの役員やってて、この前話したばかりなの。」
「じゃ・・・・あのオッサンは・・・・ダレ?」
「だから・・・・パパ・・なんでしょ?」
「あっ・・・えっ・そっちの・・・・?」
「うん。」
「でも、どうしましょうか?このまま知らないフリというのもアリかと思うんですが・・・・」
「そうね・・・。まーくんはいいとして、わたしがこんなツナギ着てこんなことやってるなんて学校にバレたら面倒ね・・・・」
「じゃ・・・後で何かあった場合のための手掛かりとか・・・・」
「あっ、そうだ。領収書切るとき・・・・その宛名とか・・・」
「舞衣さん。ナイスアイデアです。それでいきましょう。でも、その胸元・・・・ちょっとサービスしすぎじゃないですか?」
「いいんじゃない?いくら由香ちゃんが若くっても、わたしのコレだけは勝ってると思うから・・・・」
そして私の作業するそのパンクがすぐに補修できるものだと言うことが確認できた段階で舞衣さんがそのオッサンに作業の説明を始めました。
この時、そのオッサンの「娘」と称する委員長は、少し離れた自動販売機脇のベンチで膝をたて、それを台にしてマネキュアを塗っています。
その舞衣さんは説明のためそのオッサンと話を始めました。それはすぐに補修が完了できることと出張修理代金の支払いのことです。
さらに舞衣さんが差し出したバインダーに挟まれた伝票にそのオッサンが何か書いていました。
私はそんな状況をチラチラみながら修理を終えたタイヤにコンプレッサーでエアを入れていましたが、そこへ再び舞衣さんが現れました。でもその表情がなぜか冴えません。
「なんかあのおじさんセコイ人だね。最後に領収書の宛名を上様にしろって。こんなパンク修理・・・・会社の経費で落とすつもりだよ。たかが5千円・・・なのに。」
そして私はそのタイヤの空有気圧を測っていた時に舞衣さんに尋ねました。
「そうしたら名前とか・・・会社名とか・・・手がかりって・・・」
「うん。バッチリ書いてもらったよ!すいません・・・お手間取らせてって言って深めにお辞儀したら・・・鼻をヒクヒクさせながら名前まで書いてくれた・・・・」
「ヤッパリ舞衣さんのその胸は武器にもなり得ます・・・・」
「あら・・・そう?」
舞衣さんはそう言いながら、お茶目にベロを出しました。
そしてその後、全ての作業を終えたそのオッサンのクラウンは、助手席に委員長を乗せて駐車場出口に消えて行きました。
「舞衣さん・・・・どうしましょうか?今の件・・・・」
私は眼下に広がる光が灯り始めたネオン街を眺めながらそう尋ねました。
「うん・・・・そうだね。自分のクラスの生徒だし、コレって考えたくもないけど・・・・俗に言う援助交際だよね。」
舞衣さんは半分ため息混じりでそう答えます。
「はい・・・。自分の父親でもないオッサンに何か買ってもらって、そのオッサンをパパって呼んでるんです。世間一般的に見ればそれはスポンサーってことになります。スポンサーっていうことは、その金銭と引き換えに見返りを受けているはずです。」
「それって・・・・あの若い肉体ってこと?」
「そう見るのが妥当だと思います・・・・。」
「でもさ・・・・それって、学校に知れたら何らかの処分受けるよね。」
「その前に、噂が立って学校に居られなくなると思います。それって委員長の将来にも関わる重要な話です。」
「とにかくエンコーなんてすぐに辞めさせないと・・・・」
この時、私の中には心当たりがありました。それはこう言う事案に慣れている麻美子姉さんとあのインポ野郎です。
調べるやり方については姉さんから、クルマの所有者についてはそのインポ野郎から情報を得ようと算段していました。でも、この後この算段が本格始動する前に思わぬ方向に動き出すとは・・・
そして、この後舞衣さんと兵藤タイヤまで戻ると流石に日も落ちて暗くなっていました。この時あのピンクのツナギの姿がなく、入院しているお父さんのところに行っているということです。
そんな店のピットでは煌々と照明が点けられ、リフトで挙げられた私のアルトが兵藤兄によってマフラーが交換されていました。
「あっ、マフラーの件だったんですが・・・・この後相談しようと思っていたところなんです。」
「あっ、勝手に変えちゃってごめんな・・・。コレ?俺が前に乗ってた初期型ワークスの社外マフラーなんだけど、捨てないでとっておいてよかった・・・・。でも、よかったよ・・・」
「何がですか?」
「コレ・・・見てみ?」
そう言われた私が指されたその先を見てみると、バンパーの裏側が黒く焦げていてその一部が溶けかかっていました。
「コレって・・・・?」
「排気ガスが当たっていたところ・・・マフラーが途中で千切れて、その先がバンパー裏だったってことだな。」
「いや〜、本当助かります。このまま乗ってたらバンパー黒焦げでした・・・・。」
私がバンパー裏を覗き込むように見ながらその兵藤兄にそう伝えたところ、その本人が得意そうな顔をして腕を組んで私を見下ろしました。
「じゃっ・・・コレ、今日のバイト代ってことで・・・」
「えっ?パンク修理ってたかだか1時間くらいですよ・・・。」
「その前にタイヤ入れ替えもしてもらってるし・・・・舞衣先生にも帳簿整理手伝ってもらったし・・・」
この兵藤兄って本当にいい人です。こんな小さな店は顧客との信頼関係がなければ成り立ちません。恐らく、今入院中の彼の父親の人柄も何となく分かります。
そんな話に舞衣さんが割って入りました。
「あの外したマフラーって、わたしとゼロヨンやって抜けちゃったんだから、わたしのバイト代も込み・・・・ってことで。・・・・・ねっ?」
舞衣さんはそう言いながら満面の笑みを浮かべています。こんな顔を見せられたら誰も反論なんてできません・・・・。
その後、マフラー交換の終わったアルトを走らせ舞衣さんをアパートまで送って行きました。
そんな車中、交換してもらったマフラーがとても静かで驚いています。兵藤兄は、サイレンサーにFGKと刻印されたこのマフラーが静かすぎて物足りなかったなんて言っていましたがそんなことはありません。きちんといい音も出しています。
そして前まで聞こえなかったエンジンの音や、タービンの吸気音なんかもキチンと聞こえています。これでやっとクルマらしい乗り物に戻った感じがしました。
「いや〜、戦車からリムジンに乗り換えた感じだね」
助手席の舞衣さんがそんなことを言っていましたがなるほどその通りです。消音器を無くした直管マフラーはそれほどうるさいモノでした。
「ご飯作ってあげるから・・・・今日、泊まって行かない?」
舞衣さんのアパートに着いた時、舞衣さんが色っぽい言い方でそう言い出していました。でも・・・
「舞衣さんダメです。お互い卒業なんですから・・・・」
「ちぇっ・・・つまんないの・・・。でも、卒業式の時は覚悟しといて。足腰立たなくしてあげるから・・・」
「はい。その時は舞衣さんの思うように・・・覚悟していますのでなんなりとお申し付けください。」
「うん。それじゃ・・・とりあえず月曜日学校で・・・。」
そんなやりとりをしてそんな舞衣さんをアパートにおいてきていました。
でも・・・腹も減ったし・・・ちょっと後悔もしています。でもいいんです。コレで・・・・。
「まっ、とりあえず下宿に帰ってカップ麺でも食べるとしますか・・・・・」
私はそんな独り言を言って自分自身を納得させてました。そして下宿の駐車場に車を停め玄関まで来たとき、玄関脇のピンク電話のところにある掲示板にメッセージを発見しました。
「エンちゃん先輩へ女の人から電話がありました。帰ってきたらこの番号に電話ほしいそうです」
電話前のホワイトボードには、約1時間前の時間と共にそう記されていました。その番号はどこかで見たことのあるようなないような・・・。でも、とりあえずバスガイド寮でないことだけは分かりましたが、私は靴も脱がないままそのピンク電話に10円硬貨を入れてダイヤルを回しました。
「はい・・・・工藤です。」
私が掛けた番号は、私の彼女であるマコトのお姉さんのアパートでした。初め私はその事務的な口調にビックリしていると、突然「あっ、エンちゃん?久しぶり〜元気してた〜。マコトならここにいるよ・・・変わるね。」なんて明るい口調に変わりました。
恐らく今のは仕事で受け答えする口調から友達などに話す口調に変わった瞬間だったと感じています。
「あっ、エンちゃん・・・・」
「マコちゃん・・・。仕事お疲れ様・・・。事故の件テレビで観たんだけど・・・・大変だったね。」
優子ちゃんのアパートで見たニュース番組で知ったその事故。それは、高速道路での大型トラックの追突により前後の潰れた観光バスとその数台後ろに停車していたマコトの乗務するバス。それをヘリコプターから撮影した映像でした。
私はそれを見た瞬間から、そんな事故を間一髪逃れたマコトに労りの言葉を掛けてあげたいとずっと思っていました。
「うんそうなの・・・・お客さんと協力して怪我人手当てしたり、ドライバーやガイド引っ張り出したり・・・・非常扉ってあの位置で正解なんだね・・・・ヤッパリ、前も後ろも潰れちゃうと出口が窓しかなくって・・・でも今のバスって窓開かないでしょ・・・・」
そんな風にマコちゃんは臨場感を込めて興奮しながら話します。
「マコちゃん・・・大丈夫?」
この時私は、その事故処理を経験してバスガイドという職業に対して考え方なんかが変わってしまったのかと心配していました。
「うん。わたしは大丈夫。滅多に経験できない野戦病院みたいな経験もできたし・・・それに、地元警察から感謝状もらえるみたいで・・・・金一封あるみたいなの。」
そんな私の余計な心配は無用のようです。
「でも・・・・」
「ん?なに?」
「・・・・・・・ううん。なんでもない。」
私はマコトに、「明日は我が身かもしれないから身をつけて・・・」と言おうとしましたが、その職業柄そんなこと言われても・・・・
私はそんな興奮気味なマコトの声にすごく心癒されていました。ぶっきらぼうなふたばは置いといて、麻美子姉さんや舞衣さんの色っぽい声とは違った澄んだその声はやはり私の中での天使の囁きです。コレってやはりバスガイドっていう職業が影響しているのでしょうか?
そのマコトの話は続きます。
「あのさ・・・今回のツアーって南東北の名勝地を回るってモノだったんだけど、結構お土産買う機会があって・・・」
「南東北って・・・?」
「会津だよ・・・磐梯山だよ・・・・白虎隊に赤ベコだよ・・・。もしかして、エンちゃんの実家って近い?」
「う・・ん。比較的近い・・・・かな?」
「今度連れてって・・・」
「うん。近いうちに・・・・母さんに紹介したいし。あと姉さんや、妹ののどかにも。」
「近いうちに・・・わたし楽しみにしてるから。あっ・・・わたし、エンちゃんに赤べこのお土産も買ったんだけど・・・・地元だったんだね。」
「まっ、近いっていうだけで地元じゃないんだけど・・・でもマコちゃん。そんなにお土産買っちゃったの?」
「ううん違うの。チョットは買ったけど・・・・本題はここから。」
「ん?・・・本題って?」
「その・・・行ったお店屋さんって旅行会社が指定したお土産屋さんじゃなくって、私たちが指定できるやつだったの。」
「うん・・・・それは分かったけど・・・。」
「もう・・・・エンちゃんって鈍いわね。お小遣いたくさん貯めたってこと!」
「ん?お土産とお小遣いって?」
「今回組んだドライバーの松田さんってその辺詳しくって・・・チップはずんでくれるお店ばかり回ったの。」
「それって・・・・袖の下?」
「まっ、そうとも言うけど・・・でね、・・・・えっ、えっ・・・・お姉ちゃんどうしたの?お姉ちゃん?・・・・お姉ちゃ〜ん・・」
その直前、マコトの電話口で何か茶碗でも割れるような音がしていたような気がしていました。
「マコちゃん・・・マコちゃん・・・どうしたの?」
私の問いかけにマコトは何も答えません。恐らく電話を離れているのだと思います。
すると何かバタバタした様子がした後ようやくマコトが電話に出ました。
「お・・お姉ちゃん・・が・・・倒れた・・・また後でブツッ。」
その後聞こえたのがツー・ツー・ツーという音だけでした。
えっ?・・・・・・この時の私は何がどうなっているのか理解できません。ただ、マコトと一緒にいたはずのアキラに何かあったのには間違いはありませんが・・・。
私は、この直後咄嗟にアキラのカレシである友人の織田に電話をしました。この織田という男は、今ほど話を交わしたマコトの姉であるアキラのお腹に宿っている子供の父親になる男でもあります。
すると、その電話に織田が呑気な声で出ました。
「なんだドカか?どうした〜?飯でもどうかって?」
「織田・・・落ち着いて聞いてくれ。アキちゃんが・・・・倒れたみたいだ。」
「えっ?・・・・・」
するとその電話も直後にツー・ツー・ツーと鳴ったきりその後音信不通となってしまいました。
私はその電話を置くと、そのまま今さっき停めたばかりのアルトに飛び乗り、アキラのアパートへクルマを走らせました。
走ること10分足らずで到着したそのアパートには既に救急車が到着しており、以前織田が土下座をしていた玄関からストレッチャーに乗せられたアキラとそれに付き添うようにしたマコトが出て来たところでした。
この時私の脳裏に最悪な事態が浮かびます。それは、あのふたばが流産してしまったということがあったからです。そのふたばは学校に行く途中急にお腹が痛くなって・・・・と聞いていました。
そこで私はそのストレッチャーが載せられた救急車の後ろへ駆け付けました。
「あっ、エンちゃんごめんね。久しぶりにゆっくり話せると思ったのに・・・・」
その時マコトは救急車から中から出て来て申し訳なさそうに言いました。
「いいよ・・・話なんてコレからたくさんできるんだから。それより・・・」
「うん・・・多分貧血だと思うんだけど、倒れた時どこかぶつけたみたいで怪我もしてるし・・・それに、救急隊員に妊娠してるって伝えたら・・・」
「伝えたら・・・・?」
「調整するからちょっと待っててって・・・」
その後、その救急車は赤い回転等を回したままアパートの駐車場から動きません。その救急車の中では、自動車電話を使ってひっきりなしにやりとりがなされているようでした。
そんな状況下、私とマコトがヤキモキしていると、その駐車場に見覚えのあるアコードエアロデッキが入ってきました。すると、それから降りた織田がクルマのドアも閉めずに救急車へ駆け寄り救急隊員に詰め寄っています。
「妹さんいたよね・・・・妹さ〜ん・・・・妹さ〜ん・・・・」
なぜか救急隊員に食ってかかっているそんな織田の姿を見ていた時、救急車の中からそんな声が聞こえて来ました。
「マコちゃん・・・呼んでる。」
「うん・・・・。」
するとマコトが救急車に乗り込んでなんらかの説明を受けています。その時部外者である私と織田は救急車の外からそれを見守るしかありませんでした。この間約1〜2分。物凄く長く感じます。
すると説明を受けたマコトが私たちに説明を始めました。
それは市内の総合病院の婦人科の先生が不在なことと、検診に通っている産科の先生がお産中で手が離せないこと。そいうことで隣町の病院まで搬送する・・・・ということでした。
「マコちゃん。戸締りはやっておくから一緒に行って・・・・」
私はマコトにそう伝えるとその救急車はマコトを乗せてアパートから出て行きました。
それを見送る私と織田には、そのサイレンが色々な建物に反響して四方八方から聞こえています。
「織田、お前も一緒に行って・・・今は血の繋がった妹がそばにいるのが一番いいけど、落ち着いたらきっとお前のそのブサイクな顔を見たくなるはず・・・」
「うん・・・そうだよな。ちょっとブサイクは余計だが・・・。でも、俺はアキちゃんと血の繋がりはないけど・・・・お腹の子とは繋がっているから・・・」
「じゃっ・・・・気をつけて。パパ。」
「言っておくけど、オレは決してお前のパパじゃないからな。」
そう言いつつ、織田は自分のアコードに飛び乗って救急車の後を追いかけて行きました。
ん?隣町の病院・・・・?そういえば、ついさっきショッピングセンターの屋上から見下ろしたところにありました。・・・・・その病院。
その後私はアキラの部屋に戻って家宅捜索を始めようとしました。それは、入院すると必ず必要となるパジャマと下着と洗面用具を探すためでした。でも・・・・
そうです。いくらこの先義理の兄妹になるとはいえ、他人に物色されたくないはずです。
その時私は、つい最近自分の姉に自分の部屋を勝手に捜索されて嫌な思いをしたことを思い出していました。
そんなことを思いながら入ったその部屋の台所が大変なことになっています。
割れた茶碗やこぼれた食材・・・・。ある程度ビニール袋に詰められていて片付けてはありましたが、その状況から結構な修羅場が展開されていたモノだと容易に想像が付きました。
そこで私はある程度の片付けだけを行い、病院からすぐに戻ってその続きをやろうと考えてベッド脇に畳んであったパジャマと洗面所にあった歯ブラシとタオル類だけを紙袋に詰めました。あと、マコトのお泊まり道具の入ったバッグを手に取っています。
仮に入院が長引くとしても、着替えなんてマコトに探して貰えばいいんです。今は、とりあえず一晩分さえ間に合えば・・・・。
でも、そんな部屋にカレシである織田のモノは一切なく、通常はあると思われる織田の歯ブラシすらありません。織田というオトコはその見かけによらず、節度を持った交際をするオトコでした。
ただ、自分の彼女を妊娠させてしまうという大失態を演じてはいますが・・・・。
そんな中、部屋にあるテレビの前に見覚えのある赤いモノを見つけました。
それは見かけによらず非常に軽い・・・・・昔から疫病除けとして珍重されている赤ベコというモノです。
しかもその首がユラユラと揺れているそれの色が通常のモノとは異なりオリジナルのものです。多分、絵付け体験で創ったモノなのでしょう。その赤ベコは下半分が黒くなっていて、足のところにタイヤらしき模様が描いてありました。しかも、窓やライトまで苦労して描いた形跡もあります。
「ん?・・・コレって、ハチロク?」
見ようによっては私の赤黒ハチロクに見えないこともありません。しかも、交通安全なんても書いてあります。
今、思わず私の目に涙が込み上げています。これを創ったのは恐らく事故に遭遇した後だと思います。そんな修羅場を経験したマコトの想い・・・・。
その時誓いました。もう、バカみたいにアクセル踏みません。大事な人を泣かせることはしません・・・・と。
その後私は、今日何度も走ったあの役所前の道路を使ってアキラが搬送された病院まで安全運転で来ていました。その病院はやはりショッピングセンターにほど近く、お昼に弁当でも買いに行けそうな距離です。
そして受付で教えてもらった処置室へ向かうとその処置室の前の長椅子に腰掛けたマコトと織田が私の姿を見つけ立ち上がりました。
「あれ?・・・・この雰囲気・・・どこかで・・・・」
私はどこかそう感じた瞬間目の前が暗くなってしまい、おまけに何かに躓いて転んでしまいました。でも、どういうわけか身体の痛みは感じられません。
そして、ようやく起き上がって見たその処置室の鉄の扉にはなぜか集中治療室と書かれていました。そしてその扉から水色の術着を着た先生が出てきて俯いた表情で首を横に振っています。
私の全身の血液が頭に登るのが分かりました。そしてそこからの記憶がブツっと途絶えます。でも・・・・その時自分が「あおい・・・あおい・・・」と連呼していたような夢を見ていたような・・・・
その後気がつくと私は自暴自棄になって愛車のCBX400に跨り高速道路をすっ飛ばしていました。もう、自分が何をしたいのかどこへ向かっているのかさえ分からない状況です。
その時です。私の後ろのタンデムシートに急に誰かが座って私にしがみ付いて来ました。そもそも高速道路は二人乗りが禁止されてますし・・・・誰かが乗ってるなんて・・・・
「エンちゃん・・・ねえ、エンチャン。そんなに飛ばすと事故って死んじゃうぞ・・・・」
その時、その物凄い風圧に耐えながら見たスピードメーターの針が180Kmあたりを行ったり来たりしています。そんな中、相当な風切り音で聞こえるはずのないあおいの声が私の背中から鮮明に聞こえました。
「おいちゃん・・・・もしかして、僕って既においちゃんの方に(あの世)行っちゃってる?」
「エンちゃんってバカ?絶対に来ちゃダメって言ってるのに・・・・・」
そんな時、再び私を呼ぶ声が聞こえてきました。
「エンちゃん・・・・エンちゃん・・・・」
次に私を呼ぶその心地よい声がまるで天使の囁きに聞こえてきました。
「天使にも呼ばれてる・・・。ヤッパリ、僕ってってあおいを追いかけてるんだ・・・・それって天国かな・・・?」
私はその時、もう・・・どうでもいい胸中になっていました。その時です。
「ドカ・・・ドカ・・・いつまで寝てんだよ。起きねえとぶっ飛ばすぞ・・・・」
なんて、聞き覚えのあるオトコの声が聞こえて来ました。
「ん?・・・織田?・・・なんで織田が?」
その織田の声で引き戻されるように目を覚ました私の目に飛び込んだのは、見覚えのない天井の蛍光灯とその左右に私を見下ろすマコトと織田の顔でした。
「エンちゃん・・・・よかった・・・」
「えっ、なんで・・・・なんで、マコちゃん?」
「ドカ・・・お前、処置室前でぶっ倒れて、その後暴れて大変だったんだからな・・・・」
「えっ?」
「エンちゃん・・・やっぱり覚えてないよね。今日、運良く心療内科の先生が宿直で残ってて、その先生が言っていたの。」
「なんて?」
「PTSDかもしれないって・・・・」
「ん?・・・・そのPDなんとかって?」
「わたしも良く分かんないんだけど・・・前に受けた精神的なショックがトラウマになって、何かの拍子にそれが症状となって現れるって・・・・」
「そういえば・・・・処置室の扉見た瞬間・・・・」
「エンちゃん。こうなっちゃったのって初めてじゃないよね・・・先生が言ってた。前にも何度かあったはずだって・・・・」
「うん。そういえば・・・・バイクで転んだ後搬送された病院でも暴れたって聞かされた・・・・」
それは私が自暴自棄になった挙句、猛スピードで走っていた高速道路で覆面パトカーに追尾を受けた後転倒し、救急車で病院に搬送された後の話です。
その時、偶然にも従姉妹の芽衣子姉さんと行方不明になっていた麻美子姉さんがその病院に勤めていて、精神的なケアーをしてもらっていました。
その後、姉さんたちにお世話になりながらその病院の精神科でカウンセリングを受けたりしてそのあおいの不幸を受け入れたはずでしたが・・・・・
私はその時改めて気づきました。
自分というオトコが舞衣さんから卒業するということ以前に、未だそのあおいからの卒業も出来ていないことに・・・・
最後までお読みいただきましてありがとうございました。今回のストーリーはここまでとなります。
コレまで度々登場してきた元カノの「あおい」という女の子は、私が大学2年生の時事故に巻き込まれて亡くなっていました。そんな彼女は、例の忌々しい事件後なかなか地元に帰れない私を健気に待ち続けていた中学生です。
そんなあおいが私の中に登場するときは、決まって私の中の何らかの葛藤と絡んだタイミングとなっていて、それが私への戒めとなっているとさえ思えてきました。そんな亡きあおいとはその後一生付き合っていく事になります。
そのときの私は、自分がその後どのように転がっていくのか想像さえできていません。今後そのあたりを描いていきたいと思います。それでは・・・・
まことまどか