シリーズ第31話となります今回のストーリーは、病院で倒れてしまって精神的に不安定とされた私こと風谷円(かざがいまどか)が、一度卒業に失敗した舞衣さんの元に経過観察という名目で戻されそうになってしまうところから始まります。
時代は平成2年。未だバブル景気に浮かれる日本という国の北東北にある小さな臨港都市が舞台です。その街にある工業大学の4年生だった私が教育実習を受けていた時、私にはマコトという彼女がいるにもかかわらずその時実習生の世話係だった舞衣先生と、深さ13センチ程度の深い仲になっていました。
そんな舞衣先生は、私の実姉の結婚により義姉になってしまうことになっています。そもそも私にはマコトという彼女もいますので、そんな舞衣先生からの卒業を試みてはいますが、どうやらそれも失敗に終わり落第・・・。
さらにはそれを知らない母さんがその義理の姉となる舞衣さんの元へ私を引き戻そうとしています。
偶然にもソレは追試ってことでしょうか?
そもそも私の母さんは、私が急に入院することになってしまった時に、マコトからの連絡により義父さんと妹を引き連れて、高速を3時間飛ばしてやって来ていました。
そんなこともあり、これからいろんなハナシが複雑に絡み合っていくような予感がする中今回のストーリーが始まります。
今回は、母さんの発案でマコトとの婚約指輪を買う事になったり、そんな母さんの闇の部分を知ることになったり、今まで謎の人だった義父さんの素性なんかを知る事となります。あと19歳離れた妹の出生のことなんかも・・・
それでは・・・
老朽化の進む住人8名の小さな豊浜下宿の1階角部屋にある私の4畳半では、どういう訳か重苦しい空気が漂っていました。
また先ほど不審者を追いかけて行った下宿の娘で、しかも元の彼女でもあるふたばも加わりその狭い4畳半は満員御礼状態です。
そこで、ベッドに腰掛ける私の脇に腰を下ろしたそのふたばが、いきなりここにいる全員が疑問としているソノことついて核心に迫りました。
「ねえ・・・アンタってなんかやったの?さっき、その窓の脇で変なオトコが聞き耳立ててたんだけど・・・」
私の部屋は窓側の壁に押し付けられるように置かれたベッドと、その前に先ほど布団が取り払われた家具調コタツが配置されています。また、その傍らに14インチのテレビ、小型冷蔵庫、その隣に雑誌や教材が入ったカラーボックスが並んだ配置となっています。
もう、これだけで部屋がいっぱいとなります。でも、今そんな部屋に総勢6名が集結していました。
そんな中、居場所のない身長165センチの私と同じく185センチのふたばが、ベッドの上からそのコタツに座る母さんと義父さんそして舞衣先生を見下ろす光景となっています。
あっ、忘れましたがふたばのお尻の後ろでは3歳児でありながら私の妹であるのどかが寝息を立てていました。そして、話は先ほど外で不審者を追いかけたふたばがなんでそんな所にいたのか?・・・というところから再開します。
「ん?・・・ところで、ふたばって何でそんなところに?」
その時私は、先ほど部屋のすぐ外にいたふたばにそんな質問をしました。
「い・・・いや・・・ちょっと外をブラブラしてたら・・・・」
「もしかして・・・ふたばも聞き耳立ててた?」
「アンタ・・・バカ?そんな訳・・・・・」
そこまで話をしたところでふたばが挙動不審になっています。
「ふたば・・・耳、真っ赤だぞ・・・」
この状況から察すると、私たちのハナシが気になったふたばが外から話を盗み聞きしようとしてその不審者と鉢合わせになった・・・ということになります。
「まっ、いいや・・・。ふたばもある意味関係者だから一緒に・・・」
そしてその不審者のことは一旦棚上げして、ことの顛末をふたばに伝えるとふたばが意外なことを言い出しました。
「それなら・・・コイツの経過観察っていうの、わたしが引き受けてもいいんですが・・・幸いにも、下宿と母屋ってことで距離も近いですし、しかも後1週間でしたら一緒に教育実習ですし・・・」
すると、それを聞いていた舞衣さんがどういう訳か焦ったような様子に・・・
「ちょっ・・・ちょっと・・・・豊浜先生(ふたばのこと)と風谷先生の若い二人が一緒にだなんて・・・・」
教育実習生はその期間中、名前の後ろに先生をつけるのが決まりになっています。本当の先生でもないのにそう呼ばれるなんて・・・どこかむず痒いですよね。
そんなことはさておいて、その時舞衣さんはそう言いながら俯いてどこかモジモジした様子になっていました。
「それもアリかもね。ふたばさんってまどかの彼女だったもんね。いっそ寄り戻してみたら?」
その時横で話を聞いていた母さんがまるで茶化すかのようにそんな横槍を入れました。
「お母さん!それはあの時アレで終わった話です。今はコイツと何でもない・・・」
そこまで言葉を返したふたばの声が徐々に小さくなっていきます。そして、話題を変えるかのようにふたばが再び口を開きました。あと、それはアレ・・・というように私とふたばの間には過去いろいろとありました。
「あっ、そういえば小林先生が預かることになってる人・・いるんですよね。わたしがこっちにいる間だけでも分担したほうが・・・。ところでその預かる人って親戚か何か?」
ここで私も疑問に思っていたそのことについてふたばがそう尋ねました。
「ううん・・・・。実は、あの小笠原さん・・・・なんだけど・・・・」
「えっ?優子ちゃんですか?お姉ちゃんの洋子ちゃんが診るってってことできないの?」
私が尋ねたこの優子ちゃんという生徒は小林先生が担任している1年6組の生徒で、先週私と同じく実習を受けていた教育実習生にレイプされてしまった女の娘です。この後、その原因の一端が私にあるとされ一晩付き添った経緯もあります。
「うん。優子ちゃんの方もしばらく付き添いが必要ということなんだけど、そのお姉ちゃんのほうも仕事が立て込んでいるらしくって・・・・」
ということは、同じバス会社の同期であるマコトも仕事が忙しいってことになります。現在母校の吹奏楽部に指導者として首を突っ込んでいますが、そんなマコトの指導時間は取れるのでしょうか?
でも、今はそんなことは置いといて優子ちゃんの対応優先です。
「でも小林先生。今、先生として優子ちゃんを預かるのはいかがなものかと・・・・」
この時私は、担任の先生と一緒に暮らしていた事が分かった後の優子ちゃんを心配していました。
「いかがなものって言うと?」
私の問い掛けに対して舞衣さんが首を傾げます。
「だって・・・1週間後には期末テストですよ。小林先生だってテストの出題考えますよね。そうしたら、一緒に住んでいる優子ちゃんがそのテスト内容を知っててもおかしくありません。もし、そうじゃなくっても疑いかけられるかも・・・・」
私はそこまで舞衣さんに問いかけました。するとその舞衣さんが私の問い掛けに答えます。
「実は、テスト問題は既に作っちゃってるんだけど・・・じゃ、テスト期間前だけでも豊浜先生に優子ちゃんお願いしちゃってもいい?」
「えっ・・・・?コイツじゃなくって・・・・優子ちゃんのほう・・・?」
それを聞いたふたばが予想外に動揺しています。
「うん。それに小笠原さんって、前に豊浜先生のこと・・・・ちょっと憧れてるって言ってた。だからちょうどいい・・・」
と、言うことで期末テストまでの間優子ちゃんはふたばの部屋に、私は舞衣さんのアパートに居候ということになりました。そして、教育実習が終了しふたばが自分の大学に戻ってしまう再来週からは舞衣先生のアパートで3人の共同生活が始まることとなります。
そのような話し合いがされた後、私と母さんとのどかはアキラの入院する病院へ舞い戻っていました。あと、先ほど明日の仕事に備えて先に帰るという義父さんのレガシイを見送っていました。
ちなみにその義父さんレガシイは、競技車両のベースモデルとして発売されていたRSタイプRAというグレードでロールバーまで付いているちょっとマニアックなクルマです。そしてソレに装着されているフジツボというメーカーの排気音が聞こえなくなるまで手を振っていました。
ちなみにアキラとは私の彼女であるマコトの姉で、私の友人である織田の子供を宿した妊婦となります。昨晩そのアキラが自らのアパートで、妹であるマコトとの夕食の際に倒れてしまって救急搬送されて今に至ります。
その救急搬送された後、遅れて駆けつけた私がその病院の処置室前の雰囲気と今は亡き元の彼女が処置されていた病院の雰囲気が被ってしまい、記憶が混乱し気がついた時には倒れてしまって一晩入院していました。その後退院はしたものの1ヶ月程度の経過観察が必要とされ現在に至ります。
そんな病院へ戻る途中、アキラのアパートへ立ち寄りアキラのクルマを母さんに運転してもらって来ていましたが、そのクルマを見た瞬間驚きました。電話でアキラから「白いカローラだよ・・・」なんて言われていたそのクルマは、カローラはカローラでも3ドアハッチバックのカローラFXというモデルで、しかもグレードがGTというホットバージョンです。
ちなみにエンジンはハチロクと同じ4AGが搭載され、後期モデルということもありその出力は当時としては高出力な140馬力を誇ります。しかも、他のFXとは違う独特の雰囲気を持っていてるどこかカッコ良いクルマでした。
でも、そのクルマのオーナーであるアキラ本人はそんなこととはつゆ知らず・・・・・
実はこのクルマ、セールスのオーダーミスで納車出来なかったクルマだったようです。本来、メーカーオプションで付くはずのサンルーフが付いておらず、調べたらオプションコードを間違えたまま発注が掛かってしまったという残念なクルマです。
しかも、それでもなんとか受け取ってもらおうとして、オプションのフルオーディオから当時珍しかった15インチのホイールまで付いていました。
でも、それでも納車叶わなかったこのクルマは、当時入社間もない、しかも母親から貰ったボロボロの軽自動車を乗っていたアキラに、あの専務が半強制的に押し付けたいう経緯があったということです。
「いや〜、あのクイックシフト・・・・クセになるね。何せ手首だけでシフトできるんだから・・・・」
そんなものまで付いていたなんて・・・なんて思いながら母さんの感想など聞きつつ病室に入ると、なぜかマコトが直立不動で母さんを出迎えました。
「お母さん、お疲れ様です。電話で聞いたとおり、これから息子様と重要な任務に行ってまいります。」
マコトは到着したばかりの母さんにそう告げると、更に今病室に着いたばかりの私の腕を引っ張って廊下へ駆け出しました。
先ほど下宿を出発する際、この怪しいアルトについて談義していた時になかなかやってこない母さんを不審に思ったのですが・・・・この時、アキラだけではなくマコトとも電話でやりとりしていたようです。
突然そんなことになってしまった私は戸惑っていました。
「マコちゃん・・・・僕は逃げないから・・・・そんな焦んなくっても・・・・・」
でも、焦っているのは私も同じでした。自分のことでありながら、事が急展開しているこの状況に焦りを感じています。
「でも・・・・急がずにはいられないよ・・・・。だって・・・・これって一生で一度の買い物なんだから・・・」
「そんな・・・・家を買うわけでもないんだから・・・・」
「違う・・・・ある意味、家より重要!」
まっ、一緒になってしまえば一生添い遂げることになります。本当に家より重要です。
そんなやりとりをしながら私とマコトがアルトのところまで来ましたが、そんな普通のアルトを見て驚いた様子です。
「エンちゃん、ハチロク壊しちゃったの?これって代車?」
マコトが驚くのも無理がありません。ソレは若者の乗るハチロクとは違って、外見的には誰がどう見て若い女性かおばさんが乗るような普通のアルトだったからです。
「でも、あちこちピンクの車内可愛い・・・」
それでも乗り込む際にそんな事を言っていますが、このクルマってロールバーも付いてますし、見た目以外はラリー用のアルトワークスです。ちなみにマコトの言ったピンク色とは、純正のバケットシートのサイドサポート部の差し色のことです。
その後、クルマが変わった事の顛末などを説明しながらそのアルトを走らせ、以前行ったことのある市内のジュエリーショップへ向かいました。
すると、助手席のピンク色でALTOーWARKSと書かれたバケットシートに小さく収まっていたマコトが思っても見ない事を喋り始めました。
「ねえ・・小林先生もこれと同じクルマ乗ってるよね。昨日のバス回送の時、国道のお城(例のラブホ)の前を通った時小林先生がそこのヒラヒラから出てきたの見ちゃったの。小林先生ってカレシいたんだね・・・」
ゲッ・・ヤッパリ見られてた・・・?
この時、私の頭の中はパニックに陥っていて、青信号の発信でエンストなんてこいていました。
「エンストなんてするとお湯沸いちゃうよ・・・」
その時、首が前後に揺すられた助手席のマコトが全く関係のない話を始めました。
「お湯?」
「うん。バスがエンストするとピーって鳴るの。するといつもお湯が沸いたようですって誤魔化すんだよね・・・。」
「そう言えば、オリエンテーリングの時夏帆ちゃんも言っていたような・・・」
そのオリエンテーリングとは大学の新入生に対して行われるもので、バス5台に分乗し県内の工事現場なんかを見て回るものでした。そこにリーダー学生として乗車した私とバスガイドの夏帆が、あろうことかそんな車中で致してしまったという経緯があります。
そんな事なんて知らないマコトの話が続きます。
「その夏帆先輩もカレシ出来たことだし・・・。そう言えば、左手にシルバーリングしてたよね。」
「そっ、そうだよね。小林先生も、もういい歳なんだから早く結婚してもらわないと・・・」
この時後ろめたい私はそう言いつつ話題を逸らしました。
「あっ、義理の弟としても心配だよね。」
その時チラッと見たマコトの目が本当に心配そうです。そんな目を見てしまった私は目が泳いだまま「あははは・・・」としか返す事ができませんでした。
「マコちゃん・・ゴメン。これには深い理由が・・・」
私は心の奥で、半分言い訳がましくそう謝りながら平静を装いさらに話題を変えようとした瞬間、隣のマコトがこれまた不思議そうな顔をして尋ねて来ました。
「ねえ、エンちゃん。このクルマも調子悪いの?だって、なんでもないところでエンジン止まるし・・・それに、ギア変える時エンジンからため息みたいな音聞こえるよ」
「ん?あっ、ごめん。さっきエンジン止まったのは単に僕がこのクルマに慣れてないだけ。あと、このため息みたいな音はタービンからの吹き返しの音なんだ。」
「えっ?タービン・・・?それじゃ、このクルマってターボ・・・なの?」
「うん。このクルマって競技用のアルトワークス2台と普通のアルトを掛け合わせたサンコイチってヤツなんだよね。最終的に普通のアルトに競技用の部品集めてるから外見的には全く普通のアルトになってるって訳。」
「それじゃ、ハンドルの真ん前についてる小さいメーターって・・・ターボのヤツ?さっき、針が1のところまで振れてた・・」
「うん。ターボがどれ位効いてるかって示すメーターで、ブースト計って言うんだ。」
「ターボって、エンジンの排気圧でタービン回して空気をエンジンに詰め込んでパワー出すんでしょ?」
「えっ?マコちゃん・・・詳しい?」
「北海道で一緒に教習所通ってたクラスメイトの太田くんがいろいろ教えてくれたの。でも、ターボにはターボラグって言うのがあってレスポンスが悪いから自分はレスポンスの良いメカチューンが好きだって。それでハチロク買うって言ってた。」
「それじゃ、僕のハチロクで北海道に行ってその太田くんにハチロク見せてあげようか?」
「そんなことしたら太田くん腰抜かしちゃうかも?エンちゃんのハチロクの話したら、ヤバイハチロクって言ってたもん。」
「マコちゃん。さっき、ターボにはターボラグっていうのがあるって言ってたよね。」
そう言いながら私はあえてシフトダウンしないでアクセルを深く踏み込みました。すると一息ついてターボが「キューン・・・」と過給を始めるのがはっきりと分かります。
「これがターボラグっていうヤツ。でも、それを消す装置もあるからちょっとだけ紹介するね・・・」
そう言いながら私は、本来時計があるところに付いている禁断のスイッチをONにしました。それは、義父さんがどこからか入手した資料を元にこのアルトに搭載したアンチラグシステムというモノです。
その瞬間排気音が「バリバリバリバリ・・・」というものに変わり、アクセルを踏むと同時に頭が後ろに引っ張られる感覚となります。しかもシフトアップのたび「パンパン」という破裂音も相まって、とてもこれがクルマという乗り物であるかも分からない状況です。当然助手席のマコトの表情がひきつります。
そして3回加減速を繰り返したところでそのスイッチをOFFにしてマコちゃんに尋ねました。
「コレって、僕の義父さんが面白がって真面目に造った装置なんだ。本当はもっと違うモノにしたかったみたいなんだけど構造的にこれが限界だっても言ってたんだけど・・・とにかくこのクルマって外面以外普通のクルマじゃないんだ。」
「やっぱりそうだよね。あのハチロクといい、エンちゃんが普通のクルマ乗るはずないもんね。そのハチロクも外見は全くの普通のまま・・・その辺エンちゃんって変態だよね。」
そのハチロクとは赤黒レビンのハッチバックで、外見上は黒いバナナホイールを履いている以外は全くノーマルで純正のエアロなんかも全く付いていないクルマでした。でも、エンジンは義父さんがフルチューンした次期型レビン後期型開発用エンジンを積んだ特殊な車となっています。
ちなみにそのハチロクは、現在雑誌社の企画により舞衣さんに実家である小林車体に預けられたいます。
そんなクルマは現在で言えば変態的なクルマと言えるでしょう。でもこの時のマコちゃんは私のことをその変態と呼んでいました。
「ちょっと・・・変態って、知らない人が聞いたら誤解されるんじゃ?」
「わたしにとっては最高の褒め言葉だったんだけどな・・・」
「ごめん。その辺りになると僕って、ただの変態じゃないんだ・・」
「それじゃ・・・ド変態?」
「うん、そのとおり。なんかマコちゃんって知らない間に僕に染まっちゃってる?」
「うん。もうバッチリ。でも・・・アッチの方はまだまだだけどね。」
そうです。アッチの方はあれこれ1年以上ご無沙汰となっています。これでカレシとカノジョ?・・・・う〜ん。ちょっと悩みます。
でも・・・私はそんなマコトのための婚約指輪を買うため、今そのアルトを走らせているといった次第でした。
そして、アッチの話はさておいて本来の話題に戻します。
「そう言えばさ、婚約指輪って二人で選ぶモノなんだっけ?てっきり密かに買ってプロポーズの時に渡すものかと・・・」
私が助手席のマコトにそう尋ねると、そのマコトが左手をパーにして天を仰ぐような格好で答えました。
「さっきさ・・・・エンちゃんのお母さんが電話で言っていたんだけど、どうせ付けるんだったら好みのものがいいでしょ?って。どうせ一緒になるんでしょ?って・・・・・せっかくだから好きなの買ってもらえって。」
まっ、あの母さんなら言いかねない事ですが・・・全く先が見えてるというか・・・常識に囚われないというか・・・合理主義というか・・・
「それじゃ・・・・マコちゃん的にリングの好みってある?」
そんなマコトに対して、私は何も考えず助手席に向かってそう尋ねました。
「うん。夏帆先輩がしてるようなシルバーリング・・・・。アレって可愛くって・・・夏帆先輩すごく大事にしてたから・・・。滝沢さんの見立てなのかな?」
それを聞いた私は、運転しながら先ほどとは違ってカラダが硬直する錯覚に囚われていました。実はそのリング、今の彼氏の滝沢が買ったモノではなく、以前私がプレゼントした安物のなんちゃって婚約指輪だったからです。
それは、マコトの先輩バスガイドである夏帆と一晩過ごしたリゾートホテルでプレゼントした曰く付きのモノで、それはその後カレシになった滝沢も知っています。普通なら、前のカレシからもらった安物のリングなんてすぐに捨ててしまいそうなんですが・・・・どういうわけか夏帆は今でも大事にしているようです。
この時私は、自分ってとことん後ろめたい事ばかりしているのだと痛感していました。私のすぐそばに、そんなことなんて知らない澄んだ目の女の子が居るというのに・・・
そうしているうちに目的のジュエリーショップに到着していました。このジュエリーショップは、マコトの会社の近くにあるショッピングモール1階にあり、どこか有名な店舗の出先みたいなところでした。
そしてその店舗は、ファッション性の高いネックレスやピアスが充実していることもあり若い客層気兼ねなく立ち入ることのできるような店構えです。
でも・・・・なんか嫌な予感がします。前に来た時、その安物のリングのデザインで散々悩みました。店員も私のことを覚えていると思います。しかも今度はオンナ連れと来ています。
「いらっしゃいませ・・・・」
ロングヘアーに黒のスーツを着た2人の店員さんにそう声を掛けられながら店に入った瞬間、ひとりの店員と目が合いました。この店員さんは、以前夏帆のリングを買う時そのデザインについてアドバイスをくれたヒトです。
私は、この瞬間「この前は利用ありがとう・・・・」なんて声を掛けられるのかと思い覚悟しましたが・・・・
その直後、その店員が指輪を着けていないマコトの手を確認すると何かを察したような目をしました。
「初めてのご利用ですね。何かお探しでしょうか?」
店員は私にそう声を掛けながらアイコンタクトしています。私もアイコンタクトでそれに答えました。さすが店員です。こんなところが客商売というところでしょうか?
「あの〜・・・・・こ・・・こん・・・」
「あっ、ご婚約ですね。おめでとうございます。ではこちらに・・・・」
店員はそう言いながら、私ではなくマコトを店の奥にあるそのショーケース前に案内しました。でも、もう一人いた別の店員さんはマコトのお腹を何度も見ているようです。
まっ、無理もありません。こんな若くして婚約だなんて・・・・この時マコトは18歳です。通常、オメデタでもなければ結婚なんて・・・。
しかも今ほど案内されたショーケースは、以前私がなんちゃって婚約指輪を買いに来た時散々悩んだ店頭のショーケースとは明らかに違う「ホンモノ」が置いてある所で、値段も一桁違いました。さすが店員・・・・客の扱いが慣れています。
「お好みはありますか?石がついてるもの・・・・そうでないモノ・・・・いろいろありますのでごゆっくり・・・」
店員はそう言いながら一旦身を引いています。これも戦術なのでしょう。恐らく、何か質問した瞬間食いついて来ると思った瞬間です。
「あの・・・石ってどんなモノ・・・?」
マコトがそう言いかけた時、その店員が待ってましたと言わんばかりに食いついて来ていろんなことを説明し出しました。
「石というのは・・・ダイヤモンドが主流ですが、誕生石とかも・・・・あと大きさも・・・・0.5カラット・・・・プラチナ・・・・」
その店員は普段あまり聞かないような用語を交えながらいろんな説明をしています。しかも、話を聞いているうちにそれが段々と高価な方向に・・・。でも・・・・それを買うのはこの私です。
よ・・・予算が・・・・
そしてひととおり説明を聞いたマコトが、後ろで見守っていた私の腕を引っ張り店の端の腕時計コーナーに移動しました。
でも、そんなマコトがどこかモジモジしています。
「あのね・・・・結局わたしね・・・・エンちゃんが買ってくれるモノなら・・・・。」
この時マコトが私の懐事情を察しているものとピンと来ました。恐らく話をいくら聞いたところで、結局買えるモノは限られると・・・。
「マコちゃん。お金の心配してる?」
「うん。もちろんだよ・・・・。わたしは社会人でエンちゃんは大学生。エンちゃんってスタンドのバイトしかしてないでしょ?この前の乗務でもらったお小遣い足して買うってことも考えたけど・・・・やっぱりエンちゃんの稼いだお金で買って欲しい。」
「ん?お小遣い?」
「この前の乗務で立ち寄ったお土産屋さんから・・・」
「あっ、袖の下・・・」
観光バスでのツアーの場合、旅行代理店がお土産屋さんの指定をしない場合があります。その場合、立ち寄るお土産屋さんを運転手の裁量で決められることがあるようです。すると、どうしても袖の下が出るお土産屋さんに立ち寄るというのは自然の流れ・・・
「これ買うのにそんなお金使いたくない・・・」
マコちゃんのそういう気持ちは良く分かります。
「うん。大丈夫。こんな日が来るだろうと思ってちょっとは貯めておいたから・・・でも・・・・そこに陳列されてる中の高級ものはちょっと手が出ないかな?」
「・・・っていうと?」
「やっぱり・・・・バイトの給料3ヶ月分・・・・かな?」
実は・・・この時私は先週同じ実習生が起こしたレイプ事件後、その親から怪我の治療費として万札がたくさん入った封筒を渡されていました。その額ならそのショーケースに展示されているメインのモノは買えるでしょう。でも・・・そんなお金でこの重要な買い物はしたくありません。やっぱり・・・・自分の稼いだお金で買いたいんです。
「うん。わたし決めたのがあるの・・・・エンちゃん、これがいい。」
そう言われて一緒に見たそれは、そのショーケースの端っこの方にあったシンプルなシルバーリングでした。しかも、他の指輪が30万円クラスから上のモノであるのに対して、マコトが欲しいと言ったソレは10万円に満たないモノです。
「ご覧ください・・・・」
店員はそう言いながら白い手袋をはめてショーケースの後ろからソレを取り出し、専用の台に乗せてマコトの前に出しました。
「実はコレ、若い人向けに製作されたリングなんですが・・・・こういうブランドなんです。」
私は一緒に出された白い小箱に描かれたそのブランドのロゴマークを見て驚きました。これは、先日下宿の食堂で麻美子姉さんがふたばに見せていた試供品の化粧品ブランドと同じモノです。
「これって化粧品メーカーですよね?」
「あら・・・よくご存知ですね。これって最近入って来たばかりのもので、これから人気の出てくるモノだと思うんですよね。そのメーカーがお洋服とか、お財布とか、お化粧品とセット販売しようとしているモノなんですよ・・・」
「コレって若い人向けですよね?。」
「あら、詳しいですね。実はこの商品・・・若い人でも買えるようにって値段を抑えてはあるんですが、モノはキチンとした指輪メーカー製作ですので間違いはありません。」
「ん?OEMってことですか?」
「はい。相手先ブランドで製作してありますが、自社ブランドのものですとお値段がこちらになります。」
「えっ?この指輪も製作元は一緒・・・?」
「はい。左様でございます。」
その指輪には結構な額の値札が付いていました。やはり製作元ブランドということで、有名デザイナーによるデザインと惜しげもない素材が使われているとのことです。
「あの〜、わたし・・・・仕事でバスの洗車や掃除とか・・・・仕事先で温泉に入ったりするんですが・・・付けたままで大丈夫ですか?」
「ソレでしたら、かえって石とか付いていないシンプルなモノがいいですし、このリングのシルバーも安物のメッキじゃありませんので全く問題ありません。・・・」
このシンプルな指輪は、そのブランドお抱えデザイナーのデザインで、更にひと世代前の手法で造られているとのことです。でも、表面仕上げだけは製作会社の最新技術が用いられているお買い得なものとなっていました。
「ところでお客様ってバスガイドさんなんですか?」
私がその指輪の製作経緯などに感心していると、別の店員さんがマコトにそう尋ねました。
「はい。まだまだ新人ですが・・・・」
「ちょっと前に、バスガイドさんにプロポーズするっていう若い男の人が来店されまして・・・・同じ理由でシンプルなものをお求めになったばかりなもので・・・・いいですねバスガイドさんって職業・・・憧れます。」
「でも・・・この足見てください。」
その店員さんが遠い目をして話していたそばで、マコトが履いていたチェックの膝丈スカートをあげて生足の太ももを見せました。
「いつも全長12メーターのバスの周り走りますんで・・・・・足がこうなります。」
うん・・・・。そうです。まっ、太いわけではありませんが・・・・非常に健康的ではあります。
「あら・・・・わたしってこんなんです。」
さらにその店員さんも履いていた黒のタイトスカートの脇を捲り上げ始めました。
「エンちゃん・・・あっち見てて!」
マコトがそういうのも無理がありません・・・・でも、向いた先にあったショーケースの鏡の部分にバッチリ写っています。
その筋肉質の太ももが・・・。
「わたし・・・・こう見えても中学生から短大まで短距離の選手だったんです。ですから・・・・」
そんな事を言っていますが・・・・そのスラっとしたタイトスカートの中にそんなものが隠れていたなんて・・・人は見かけに寄りません。それからも二人の雑談が続いていました。
そして、私が以前そのデザインで散々悩んでいた懐かしいショーケースをぼんやり眺めていた時です。
「エンちゃん・・・これ見て!」
突然マコトからそう声が掛かりました。
「えっ?」
マコトは左手をパーにして私に見せています。しかもその薬指には先ほどのシルバーリングが輝いていました。
すると、その隣で先ほどの店員さんが満面の笑顔で口を開きます。
「サイズがピッタリでした。調整なしでお渡しできます。」
こ、これは・・・・何かの縁です。これで決めないとオトコじゃないという事でしょうか?。
「マコちゃん・・・・一生に一度の買い物になるけど・・・・これで良い?本当はファッションリングでお茶を濁そうだなんても考えていたけど・・・・。」
「そんな無駄な買い物しなくても良いの。わたし・・・コレ、気に入っちゃったの。でも、コレって結婚までの期間限定モノでしょ?それに・・・・」
「それに?」
「あまり高価なヤツだと・・・・付けてるの気が引けるでしょ?あと・・・」
「あと?」
「結婚指輪はお揃いのペアリングって事で・・・・その時お互いにお金を出し合うってことで、またここに来て悩めば良いし・・・・。でも、今はこのリングが分相応っていうか・・・・」
「うん・・・そうだね。今はそんなのしか買ってあげられないけど、マコちゃんのこといつまでも売約済み状態にしておかないから、その時は奮発するね。」
「その時は、お二人にお似合いのモノ準備させていただきますので、またよろしくお願いします・・・・」
その時そばにいた店員はそう言いながらニッコリしています。もし公務員になれたとすれば、そのボーナスの年間支給額がおよそ月給の4〜5ヶ月分だったような気がします。う〜ん・・・その時はボーナス一括で奮発させていただきます。
この時、マコトの金銭感覚に少し感心していました。買ってもらえるとすればもっと高価なヤツをねだっても良いモノなんですが・・・・。でも、マコトって母子家庭で経済的に苦しかったと聞いていました。それで、自分自身にはお金を掛けないという感覚が宿ったのかもしれません。
その後、そのリングを化粧箱に入れてもらい、さらにそのブランドの紙袋を提げたマコトと病院まで戻ってきました。
「どうだった?気に入ったの見つかった?」
アキラの病室に入った途端、間髪を入れずに母さんがそう切り出しました。
その側ではベットの上から身を乗り出すようにしたアキラが「見せて・・・見せて・・・」とせがんでいます。
「うん。どんなの買ってもらったのか母さんも見てみたい・・・・」
そんな母さんの話もあり、マコトは持っていた紙袋から可愛く包装された化粧箱を取り出してその蓋を開けました。
「あっ・・・可愛い・・・?」
それを見たアキラはそう言っていますが・・・なんか拍子抜けした感が否めませんでした。でも・・・
「うん・・・。コレだったら・・・・」
そのリングを一緒に見た母さんがどこかホッとした様子でそう囁きました。
「ん?・・・コレだったら・・・っていうと?」
私が母さんにそう尋ねました。この時までマコトが試されていたとはつゆ知らず・・・・。
「うん。シンプルでよろしい。コレ・・・そんなに高くないでしょ?知ってるんだよね。それの値段?」
「なんで?」
私が思いもしなかった事を言い出した母さんに向かってそう尋ねました。するとそれに応えるように母さんが自分のハンドバッグから小さなカタログみたいなものを取り出し、それを私に見せながら口を開きます。
「コレでしょ?」
それは、やはり先日麻美子姉さんがふたばに見せていた化粧品に小さく印字されていた化粧品のロゴと同じモノでした。
「今、友達の薬局からいろいろ頼まれちゃってね・・・」
「そういえば、麻美子姉さんが母さんから試供品使うように言われてるって」
「うん。とりあえず今のところ面白そうだから首突っ込んでるけど・・・。しかし、よくこんな指輪見つけてきたよね。それって新作でしかも日本市場への先駆けってことで少量生産された限定品だよ。」
「ちょっとそこまでは知りませんでしたけど、エンちゃんと相談してエンちゃんのバイトの給料3ヶ月分以下に抑えました。」
「うん。ソコ気に入った!。マコトさんいつでもお嫁においで。」
「えっ?母さん・・・・マコちゃんを試したの?」
その時母さんは今で言うドヤ顔をして私の問い掛けに答えました。
「金銭感覚・・・・コレって大事。結婚した後、色恋沙汰を除いた夫婦喧嘩の原因はお金のことだからね。だから、夫婦間の金銭感覚のズレは致命的・・・・。まっ、姑と金銭感覚がずれててもダメだけどね。」
「ちょっと待って・・・・そんな金銭感覚だなんて急に聞かせられても・・・」
「ここに戻って来た時、お金貸して・・・とか、ローンしちゃった・・・・なんて事になっていたら、母さんちょっと考えたと思うけど・・・・。だって、コレからもっともっとお金かかるんだよ・・・・」
「・・・・ってことは、今の僕たちの分相応のこの指輪が婚約内定の証ってこと?」
「まっ、そうなるかな?・・・・でも、明日マコトさんの親御さんと話しして、結納金納めてから初めて決定になると思うけど・・・・」
「ゆ・・・・結納金?」
「そうよ・・・。結納金を収めて初めて婚約ってことになるの。コレからあなたたちがやる事って、ママごとじゃ済まないんだよ。」
「そりゃ・・・ママごとじゃないのは承知の上だけど・・・・」
「それにはまずお金が必要なの。婚約という準備期間が終わった後、結婚して苗字が変わっても良いですよねっていう約束事みたいなものだからね。」
「それって必ずしなけりゃダメなの?」
「ううん。そんなことはないの。実際、結納なんて硬っ苦しいことしないで結婚しちゃうカップルなんてゴマンといるし・・・。でも、結婚って結局家どうしのモノってことでしょ?今の今まで手間暇かけて育ててくれたんだから。」
「へえ〜、母さんってそういうところにも拘るんだね。」
「アンタって本当に無知ね。コレって社会通念上常識なの。これがヒトの親ってモノなの。それに、結婚するってなると送り出す方も何かと準備が必要でしょ?それが結納金ってこと。母さんはね・・・他はどうあれ、ここまでは親として責任を持ってやってあげる決まり事だと思ってるの。」
「お母さん・・・・わたしで良いんですが?」
「うん・・・・マコトさんでいい。いや、マコトさんが良いの。それに、あなたならマドカと一緒にさせても良い・・・・わたしはマドカの母親としてそう思う。」
「ありがとうございます。わ・・・わ・・・わたし・・・嬉しいです。わたし・・・・エンちゃんのフィアンセってことで良いんですよね!」
そこまで話をしたマコトの瞳に涙が溢れています。
「うん。そうだよ。マコト・・・・おめでとう!」
ベッドの上ではアキラが自分のことのように泣いていました。その時です。
「あの・・・・お取り込み中のところ・・・・」
そう言いながら引き戸を開いて申し訳なさそうに入って来たのは、アキラの彼氏である織田でした。
「なんだ・・・織田、そんな恐縮して。」
私は病室の入り口で恐縮している織田にそう声を掛けました。
「いや・・・なんか部外者が首突っ込んじゃいけない雰囲気だったもんで・・・・」
「お前・・・忘れちゃいないか?お前って僕の義理の兄さんになるんだぞ・・・・決して部外者じゃない。」
「ドカ、ありがとう。ついでと言っちゃなんだが・・・・ここに居るみんなに立会人になってほしいことがあって・・・」
「ん?立会人って?」
「俺・・・まだ・・・アキに伝えてなかったことがあって・・・」
そう言うと織田は、持っていた手提げからどこかで見たことのあるような化粧箱を取り出すと、おもむろに片膝をついてまるでロミオとジュリエットの1シーンのようにベッドの上のアキラを見上げました。
「アキラさん・・・・こんなオトコですけど・・・・結婚してください!」
織田は半分声を震わせながらそう告げると、その小箱の蓋を開けながら高く挙げてアキラに見せました。
「ノ・・・・ノブ・・・。アンタ・・・バカじゃない?わたしが断るわけないじゃないの!でも、ちょっとこのお腹の子とも相談しないと・・・・」
そう言いながらアキラは自らのお腹をポンポンと撫でました。
「うん。ヤッパリ・・・・パパはあなたじゃないとダメだって!でも・・・無理してこんな高価なもの買って・・・・・ノブって、全くどうしようもないバカ・・・・。」
そう言いながら、ベッドの上のアキラは両手で顔を抑えて泣いてしまいました。
「ア・・アキ・・・」
そこでその格好のまま織田が固まっています。
「うん・・・。こんなわたしでよかったら・・・・ノブのお嫁さんにしてください。」
それを聞いた織田は拍子抜けしたような表情で顔を上げアキラを見つめています。
「織田・・・オマエ・・まだプロポーズしてなかったのか?」
「うん。なんか今までズルズル来ちゃって・・・今更になっちゃって言い出すタイミング失っちゃって・・」
「織田・・・・それはいいから、ほれ指輪、アキちゃんの指に・・・・」
私はそんな織田を見かねてそう声を掛けました。
「・・・・・やった・・・・・?。」
すると、織田はゆっくり立ち上がると周りを見渡しながらそう言って周りの同意を得ようとしています。
「織田・・・ここにいるみんなが立会人だ。見てみろ・・・みんなの笑顔がその証拠だ・・・・。」
私が織田にそう声を掛けました。
するとその織田が震えながら小箱から指輪を取り出してアキラの左手薬指にその指輪を嵌めています。その指輪には小さな石キラッと輝いていて、先ほどの店で散々見ていて目の肥えた私の目算から言ってもマコトのリングの倍以上はしそうな・・・
「ありがとう・・・・・ノブ。でも・・・・でも・・・・サイズが合わない!ノブ・・・わたしってこんなに指太くない!」
そう言いながらもアキラは引き寄せた織田に抱き付き泣いていました。
未婚で妊娠・・・・そりゃ不安だったでしょう。付き合っているオトコといずれは結婚するとは思っていてもその確証が得られないまま時間だけが経っていて・・・・。
この時やっと得られた結婚の確約・・・見ていたこちらも感動して涙が流れます。
その後織田を病院に残し、近くのファミレスで母さんとのどか、あとマコトを交えて夕食を摂りながらコレからのことについて話し合いました。
その時のどかはお子様用の椅子に座っていて、斜向かいに座るマコトにハンバーグを食べさせてもらっています。
すると、突然マコトがそのお子様向けのプレートを見ながら思い出し笑いをし始めました。
「ん?マコトさん・・・・どうかした?」
その時手を止めた母さんがマコトにそう声を掛けます。
「あっ・・・すいません。ちょっと思い出しまして・・・・。エンちゃんもこういうのが好きなんですよね。織田さんが言ってました・・・・学食でもいつもこういうの食べてるって。」
「マコトさんごめんね・・・・。マドカってちょっと好き嫌いがあって生モノがダメなの。この子の父さんが亡くなってから麻美子に食事の世話させっぱなしで・・・。結局箸の持ち方もなってないし、インスタントものとか加工食品が好きになっちゃって・・・・」
「お母さんそれは大丈夫です。わたし・・・・お料理頑張って何とかして食べてもらうようにしますから・・・」
「うん・・・あとついでと言っちゃなんだけど、箸の持ち方変だからそれも頼んだよ。」
「えっ?箸の持ち方なんて治んないよ・・・」
そういう私の抗議も何のその・・・母さんが追い討ちを掛けます。
「マドカが本当にマコトさんを想っているとすれば、箸の持ち方なんてキチンと直せるから・・・」
この時、今まで散々言われながらも箸の持ち方が治らなかった私に試練を与えたと自分なりに解釈しました。そして、コレからしばらく手の甲の筋肉痛に悩まされることに・・・。
そんなことはさておいて母さんの話が続きます。
「それとさ・・・・明日の日中マコトさんのお母さんとお話ししたいんだけどさ・・それで明日の昼アンタが今教育実習でお世話になっている学校の一室貸して貰いたいと思うの。」
「どうしてまた・・・」
「うん・・・だって、明日マコトさんもその学校に呼ばられてるんだよね・・」
「ん?初耳だけど?ちょっと詳しく教えてくれない?」
「あっ、お母さん。それ秘密ってことだったじゃないですか・・・」
「あっ、これ秘密だったよね・・部活絡みで何かあるってハナシ。」
私はその時、そのマコトがどうして学校に呼ばれているのか想像もできませんでした。マコトと学校・・接点といえばマコトが学校の卒業生であると言うことだけ・・・
その後、次回のトライアル(ガイドの実地研修)に向けた予習をしなければならないというマコトを女子寮まで送って行った時のことです。
昨日から病院へ行くたび何度も往復している国道ですが、ちょうどその中間あたりに昨日タイヤ交換をした黄色い道路パトロール車を収めた役所があります。休日ということもあり駐車場にこそクルマは止まっていませんが、そのパトロール車が格納されている車庫のシャッターが通るたび開いていたり閉じていたり・・・。
そのうえ、黄色い回転灯を点灯させた見覚えのある黄色いパトロール車とその国道で何度かすれ違っています。確か役所って休日は休みだったような気がしましますが・・・。
私はそんなことをぼんやり考えながら、先ほどしていたマコトが学校に呼ばれたその理由について教えてもらおうとしましたが、その内容は詳しく教えてはもらえず「会社からも後押ししてもらっちゃった・・・・」なんて言葉でお茶を濁されています。
そして、マコトの勤めるバスガイドの女子寮に近づいた時でした。女子寮の前の道路の路肩に、例の如くクルマがズラッと駐車しています。
「ねえ・・・何、この車列?白いクルマばっかり・・・」
アルトの助手席で母さんが初めて見るその異様な光景に驚いています。それに対して、のどかを抱えながら小さな後部座席に横向きに座っているマコトが答えました。
「うん・・・。コレって、バスガイドの彼女を女子寮に迎えに来たり、送って来たりしたカレシ達のクルマなんですよね・・・。」
その時マコトは、なぜか照れながらそんな説明をしました。
「へえ・・・それはそれでいいけど、それしてもみんないいクルマ乗ってるわね〜。う〜ん、シルビアにプレリュード・・・レジェンドにレパードまで。あれっ?Y30(グロリア)にソアラもあるじゃん。コレって学生だけじゃないよね。」
マコトから説明を受けた母さんがその異様な光景に感心しています。
「はい。半分くらいは社会人だと思います。中には市営のドライバーなんかも・・・」
その市営とは市営のバス会社のことで、マコトの勤める民間のバス会社とはライバル関係にあり、仕事を奪ったり奪られたりを繰り返しています。そんな会社のドライバーまで・・・。それだけマコトの勤める会社のバスガイドが若く可愛いということになります。
「そんな中にこんな軽自動車なんかで乗り込んで大丈夫?」
「だ・・大丈夫です。・・・・多分。ちょっとは気が引けますけど・・・恐らくガイドの家族が送ってきたなんて思われると思いますが・・・・」
「う・・・うん。そうだよね。そうとしか見えないし・・・・」
「そ・・・それに、エンちゃんの赤いハチロクは逆に目立ちすぎでしたから・・・このアルトは逆に溶け込めるっていうか・・・・」
「ん?溶け込めるって・・・それって色が白いってことだけでしょ?」
「う・・・ん。」
「そうだね。早くハチロク返してもらわないとね・・・。ヤッパリ、いくら何でもこの中にアルトで割り込むなんて・・ちょっとね。」
母さんはそう言いながら同情しているようでした。でも、麻美子姉さんのブルドッグさえ壊さなければアルトじゃなかったんですが・・・
しかし自分的にはアルトでもシティーでも構いはしませんでした。でも、他のみんながハイソカーで送ってもらえるのに対してマコトだけはアルト・・・・それはちょっと可哀想です。やはり、最低でも白ナンバーが必要かと思うところです。
そんなことの後、マコトを寮の門の前に置いて逃げるように下宿まで戻って来ました。そして今、下宿の食堂で下宿のおばさんとふたばを加えた総勢5人で雑談しているところです。
その時、どう言うわけかふたばに懐いてしまったのどかがふたばの膝の上から動こうとしませんでした。そんなふたばをふたばの母さん(下宿のおばさん)が見ながら問いかけます。
「ねえ・・・ふたば。お母さんね、孫の顔が早く見たいな・・・・。早く武田さん(ふたばのフィアンセ)連れて帰っておいで・・・」
「母さんったら・・・まだそんなこと言って・・・もう!」
ふたばはいつも自分の母親が言うことに対してこんな態度を取っていました。まっ、それは仲がいいと言うことで・・・。
その後眠くなってグズリ始めたのどかを風呂に入れようとした時、そののどかがふたばと一緒に入りたいと言い出しました。そしてのどかの着替えを持たせられたふたばがのどかを抱っこというか、腕に乗せて廊下の奥にある風呂場に向かって行きます。
「ふたばさんよろしくね〜」
「任せてください。」
そんなふうに母さんとふたばのやりとりをした後しばらくした時の事です。
「キャッ・・・」
先ほどふたばが向かった先の風呂場の方からふたばの悲鳴が聞こえました。
私は咄嗟にその現場に向かい風呂場の折戸を開けてふたばとのどかの無事を確認しようとしましたが、その扉から中を覗こうとした時急にお湯をかけられました。
でも、お湯を掛けられる瞬間見た浴槽の淵に腰を掛けてのどかにおっぱいを吸われるふたばの裸体がものすごく芸術的というか、エロさを超越した神秘的なものに見えました。
まさに聖母マリアというところでしょうか?そんなマリア様が怒り口調で抗議しています。
「アンタ・・・レディーが二人でお風呂入ってるのを覗く訳?」
顔を濡らした私は、開けたばかりの折戸をすぐさま閉めてその扉を背もたれにして釈明します。
「だって・・・ふたばが悲鳴あげるもんだから・・・誰かに覗かれでもしたんじゃないかって思って・・・」
「あっ、そうだよね。日中不審者も居たことだし・・・」
「ところで、ふたばどうした?悲鳴なんてあげて」
「うん・・・のどかちゃんにおっぱい吸われちゃって、ちょっと驚いただけ。」
「なんだ、そんなことだったの?全く人騒がせな・・・。」
「アンタ、負けてるよ。流石にのどかちゃんって、つい最近まで母乳飲んでた幼児ね・・・吸い方がホンモノだわ。」
「じゃ、僕の吸い方ってニセモノ?」
「全くそのとおり・・・。幼児の足元にも及ばないね。今、初めて乳首と子宮の繋がりを感じたわ・・・」
出産後、産んだ赤ちゃんに母乳を与えることによる乳首の刺激によって、産後の子宮を収縮させると聞いた事があります。私はそんな神秘的な事との繋がりに感心しながらふたばの問い掛けに答えました。
「それって修行が必要ってこと?」
「うん。まっ、これから一生かけて修行しなさい。あの娘のためにも。」
「分かった・・・精進するよ」
「言っておくけど、ほかで修行しちゃダメだからね。あの娘であの娘のために修行するの・・・分かった?」
「うん。そんなの当たり前じゃん。ほかでなんて・・・人聞きの悪い!」
「アンタって、そんな顔してオンナ関係だらしないから・・・結婚してから、この子はあなたの子供です。なんて他のオンナが子供連れてくるようなことだけはしないでね」
「そんなスケコマシでもあるまいし。」
「まっ、健闘を祈るわ。」
その後母さんが脱衣所でふたばからのどかを受け取り、部屋に戻ったのどかの髪を乾かしていました。その間私が風呂に入り、それと入れ違いに今母さんが風呂に入っています。
そして眠いと言った途端に電池の切れてしまったのどかを自分のベッドに寝かし付けていて時のことです。
廊下の奥で母さんとオトコの会話が聞こえたと思った矢先にバタバタと誰かが廊下を走って来て、隣の部屋に入った途端ギシギシとベッドが軋む音が聞こえて来ました。こんな事って麻美子姉さんを泊めた時と状況がよく似ています。
そして、間も無くして風呂に入っていた母さんが戻ってきてドアを開けながら口を開きました。
「下宿のお風呂って湯船が大きいんだね。わざわざお湯入れ替えてもらったみたいで・・・悪いことしちゃったね。」
まっ、会ったこともないこの下宿のヤローどもがたくさん入った後のお風呂なんて・・・・私ならともかく母さんやのどかには不衛生かも・・・。でも、その風呂から帰って来た母さんの姿がとんでもないことになっていました。
風呂上がりのハダカの上半身にバスタオルを巻いていたまでは良かったのですが・・・・その股間の部分が捲れ上がっていてパイパンのワレメが見え隠れしていました。母さんは過去に全身脱毛をしており、もちろんあそこもツルツルです。
そんな母さんですが、若い頃バレーボールをやっていた頃の体型を維持しており、腰のくびれも健在です。そんな姿を隣の1年が見てしまった訳ですから・・・・ある意味仕方がないというか・・・・。
隣の部屋から盛んに聞こえるその発電中のギシギシが聞こえる中、母さんの話は続きます。
「いや〜ふたばさんって背も高いけど胸も大きいんだね・・・・何カップあんだろう?」
「ん?この前ふたばのブラジャー見たら、タグにGって書いてあっ・・・た・・・・ような・・・」
しまった・・・。この時口を滑らした私は自らを悔やんでいます。
「何?アンタたちって未だにそんな関係なの?お互い結婚相手がいるのにかい?」
「いや・・・これはたまたまっていうか・・・・ちょっと事情があって・・・・」
ちょうど隣の部屋が静かになった時、頭を掻きながらそう言い訳をする私の前に正座をしなおした母さんは、自分の髪をタオルで拭きながら話し始めました。
「前にさ・・・・お前がふたばさんを妊娠させちゃったことがあったでしょ?その時母さんね、本当にアンタたちを結婚させようかと思ったの。でも・・・・ふたばさんが今は他にやるべきことがあるって固辞するものだから・・・・」
「実はその時僕もふたばにプロポーズしてたんだ。でも、答えは母さんの時と同じ・・・」
「母さんね、今でも思うの。アンタたちって心のどこかで惹かれあってるのかなって。だって・・・・アンタたち見てると何年も連れ添った夫婦みたいなんだもん。一緒にいて心地いいでしょ?」
「うん。そうなんだよね。でも・・・・今、僕はそんなふたばを差し置いてその後出逢ったマコちゃんを選んだ。ふたばもふたばで、その妊娠騒ぎの時病院に担ぎ込んでくれた武田っていうオトコを選んだ・・・・・」
私はその時、この後に及んでふたばと一緒になれない事を悔やんでいたのかもしれません。心のどこかで、もしふたばが一人っ子ではなく故郷を離れることか出来たなら・・・なんて女々しいことを考えていたのでしょう。
でも、私もふたばも既に今後決して交わることのない運命というレールに乗っていました。
その後、テーブルの上の小さな鏡を見ながら髪を乾かしていた母さんが話題を変え私に問いかけます。
「あのさ・・・まーくんと初めてこの街に来た日の夜のこと覚えてる?」
その日のことは今でもはっきり覚えています。しかも、それにはヒトに言えない事も含まれていることも・・・。
「う、うん。ベッドや布団の配送が遅れて寝場所がなくなって、仕方なくあのお城に2トン車乗り入れて泊まったってヤツ?」
「そうだよね。その後母さんさ、コウちゃんと付き合い出していきなり妊娠しちゃって結婚した訳なんだけど・・・」
「その時話聞いてビックリしちゃったよ。その歳でできちゃった婚でしょ?」
「うん。婦人科の先生にも怒られちゃってね。その歳で何考えてんだ・・・なんて。」
「そうだよね。40半ば・・・だもんね。」
「コラ!歳のことは言わないの!でもさ、そん時先生に言われたんだ・・・この歳で自然に赤ちゃん授かるってことがどんなに奇跡的かって。でも、どう転んでも高齢出産となるといろんなリスクが伴うって。それに・・・」
「ん?それにって?」
「オトコってさ、常に新しい精子を作っているから問題ないんだけど、問題はオンナのほう」
「男女で何が違うの?」
「オンナの卵子って、オトコと違ってその素がオギャ〜って生まれた時に身体に備わって来るものなの。だからその卵子も母胎と共に歳とるのね。そうするとどうしても遺伝子情報なんかも怪しくなるみたいで・・・」
「そ、それって先天性の何かを持って生まれるってこと?」
「うん。だからたまに40過ぎて妊娠しちゃった人がいても、その人達って産むのを本当に悩むみたいなんだよね。」
「でも、母さんは産む事を選んだ・・・」
「それでさ・・・母さんさ、コウちゃんとの結婚考えた時、一応コウちゃんのこと調べたのさ。オンナ関係とか、病気とか、素性とか。」
「えっ、調べたって?どうやって?」
「うん。悪いと思ったけど興信所使って・・・」
「ん?興信所?」
「まっ、なんでも調べてくれる探偵みたいなところ・・・」
「ふ〜ん、興信所ってそんなところなんだ・・・。それでなんか分かったの?」
「それがさ、何にも出てこないの。怪しいところが・・・。でも静岡にあるクルマ関係の研究所に勤めていて、いきなりそこ辞めて畑違いな役所に社会人経験枠で入ってるの。訳がわかんなかったわ。」
「クルマ関係?」
私は、そこでやっと義父さんがクルマに詳しい理由が分かりました。そして、どこからともなく集まってくるクルマの部品や情報の出どころも・・・
「それでもそこに唯一オンナの匂いが残っていたんだよね。早い話結婚前提で同棲してた彼女がいたらしいの。」
「えっ?それって・・・」
「でも、コウちゃんがインフルエンザに罹っちゃって高熱出したみたいで、その後当時その彼女が通院していた婦人科で診てもらったら精子が極端に少なくなっていることが分かったらしいのね。」
「それって、コドモ出来ないってこと?」
「うん・・・。全くって事じゃないみたいなんだけど、ほぼゼロに近いっていうか・・・。」
「それって、オトコにとっては一大事でしょ?」
「うん。それに加えてその彼女も婦人科系の病気抱えていて、妊娠しずらい体質みたいだったみたいなの。」
「それで?」
「そのコウちゃんの診察結果についてはその彼女のみに伝えられたみたいなんだよね。さすがに本人が知ったらショックが大きいからって。」
「それが原因で別れちゃったってこと?」
「それが違うの。そうこうしているうちにその彼女が妊娠してることが判明したみたいなの。」
「それは良かったじゃん・・・でも、それじゃどうして?」
「その彼女、勤めていた研究所の上司と不倫関係にあったんだって・・・」
「えっ?義父さん騙されていたってこと?」
「結果的にはそうなるわね。でもその彼女がコウちゃんとじゃ子供授かれないって知ってヤケになちゃったのね。それで、結局コウちゃんさ・・・どういう訳か自分のその事知ってて、その彼女責めることもできずにその研究所急に辞めちゃったの。ソレでどういう訳か畑違いな役所に入ったってこと。」
「でも・・・役所ってそんな簡単に入れるところなの?」
「静岡に叔母さんいたでしょ?」
「うん。いつか、姉さんの休暇取る時死んでもらった・・・あの叔母さん?」
そのおばさんは、以前姉さんがレイプされてしまった後、姉さんの職場である警察署に長期休暇を取るための理由として死んだ事になっていました
「うん。叔母さんってアパート経営してて、それでコウちゃんがそのアパートの住人だったのね。確か、まーくんが中学生の時、アンタの進路について色々調べた時期があってね。その時、公務員の募集要項なんて手に入れて・・・。」
「えっ?僕って高卒で公務員試験受けるってケースもあったの?」
「まっ、その時はチラッと考えたけど・・・。そんな時、たまにやる兄妹会があってその叔母が静岡から帰って来ててね。」
「あっ、母さんって兄妹多いんだよね。」
「うん。7人・・・。でもみんなオンナだけど。ちなみに、アンタの本当の父さんは一人っ子。お嫁に行った時寂しいたらありゃしない・・・」
「そのうえ、そっちの爺さんが酒乱だったんでしょ?」
「まっ、お酒飲まなきゃいい人なんだけどね。あっ、そんなことはどうでもいいの。その兄妹会の時に参考までに・・・って静岡の叔母さんに渡した公務員試験の募集要項にあったんだよね。当時珍しかった社会人経験者枠。」
「その募集要項がどう言う訳か義父さんの手に渡ったって訳?」
「うん。一緒に住んでた彼女が出て行っちゃったうえ仕事辞めて元気なかったコウちゃんが家賃払いに来た時、わたしの実家のほうだとこんなのがあるんだけどね。なんて伝えたそうだったんだけど、本当に試験受けるとは思わなかったって・・・」
「でも、公務員って全く畑違いだよね。それから義父さんが猛勉強したと・・・」
「うん。一般行政なんて職種って倍率高くってなかなかなれるモノじゃないんだけど、そこは元々研究職で頭は良いからね。過去問題の勉強だけみっちりやった結果だって。全く試験のツボ押さえてるって言うかなんていうか・・・。その時、とにかく遠くに行きたかったんだって。」
「そこで採用されて勤めていた役所に母さんが出入りして知り合った・・・と。」
「うん。でも、最初は許認可の許可基準の解釈の違いや建設業の届出資料なんかで口論したり・・・。しかも役人と業者の関係の単なる許認可担当の役人ってことで特に何にもなかったんだけど、会社畳んだ途端にアタックが始まってね。」
「義父さんって結構前から母さん狙ってた?」
「まっ、いろんな書類見りゃ個人情報なんてバレちゃっていただろうし、ダンナがいないってことも・・・」
「でも、義父さん寂しかったんだと思うよ・・・。多分、最初は話し相手が欲しかったんだと思う。それでちょくちょく役所に来る母さんに惹かれたってことかな?結局若いんだよ。」
「でもさ、いくら若いって言っても10も年上にアタックするなんて・・・すぐにおばあちゃんになっちゃうのにね。」
「おばあちゃんだなんて・・・母さん、なんか勘違いしてない?」
「何よ!」
そう言いながら、母さんが私が座るベッドのすぐ隣に腰を掛けました。その時、気が付けば先ほどギシギシ音が静かになった隣の1年生の部屋からヤローたちの談笑の声が聞こえていて酒呑みでも始まったような雰囲気が伝わって来ていました。
そんなちょっと賑やかな状況になった部屋で私は母さんに尋ねます。
「さっき・・・若いって言ったのは母さんのこと。母さんってつい最近子供産んでんだよ。それって若いってことでしょ?」
「まっ、ちょっと想定外だったけど・・・。オンナって40過ぎると自然妊娠ってなかなか出来ないって世間様の常識にはなってるらしいけど、生まれたのどかを見てそんなのどうでも良くなっちゃって。」
「でも、人のカラダって個人差も大きいから産めるんだったら産んだほうがいいと思う。」
「そうだよ。でもなんのかんの言っても、母さんってコウちゃんよりそ10も年上なんだよね。でも、そんなコウちゃんってこんなにも年上なオンナをちゃんと抱いてくれるの。それもなんか気の毒で・・・」
「そんな気の毒って・・・母さん、自分のこと知らなすぎだよ。母さんって、どこか魅力的っていうか・・・実の息子が言うのもなんだけど、未だにオンナっていう香りがプンプンしてるっていうか・・・」
そこまで話したところで母さんが急に黙ってしまいました。
「ん?母さん?どうかした?」
私はこの時母さんが黙ってしまった理由が分からなくって少し焦ってしまっています。今までの会話で母さんが気を悪くするようなことはなかったと思いますが・・・
「のどか・・・」
黙っていた母さんが口を開いて出て来た名前は、今ベッドで寝息を立てている自分の娘の名前でした。
「ん?のどかがどうしたって?」
「こんな小さいこの子が母さんの運命を変えたの。本当に、この子には感謝しなきゃ・・・」
「母さんが結婚を決心したきっかけってことでしょ?」
「うん。さっき、コウちゃんがほぼ無精子症ってことは話したよね。そして母さんも40過ぎて妊娠の確率が低いことも・・・」
「うん。さっき聞いた。それが?」
「ここで、さっき話しかけたこの街に初めて来た時の話に戻るんだけど・・・」
「う・・・ん。お城に2トン車横付けして泊まったってところでしょ?」
「その時、思いがけずそういうことになっちゃったでしょ?決してしちゃダメなことだったから後悔もしたけど凄く嬉しかったの・・・。自分から抱かれたいって思った事なんて父さん死んでから初めてのことだったから・・・」
それは3年前この下宿に引っ越して来たその日、別便で発送した寝具類の到着が遅れて宿泊先を失った私と母さんが、例のお城に宿泊した挙句思いがけず親子という関係を超えてオトコとオンナという関係なってしまったというものでした。
「母さんさ・・・アンタが小学1年生の時に父さん亡くしてるでしょ?その時、父さんの会社廃業するか続けるかすごく迷ったの。でもさ、10人いる従業員にはそれぞれ家族がいて、その従業員がみんな不安な顔をするのよね・・・。中にはもうすぐ子供が生まれるっていう若手もいてさ・・・」
「だから母さんは父さんの会社を続ける決心をしたんだ・・・」
「うん。従業員を路頭に迷わせる訳にいかなかったからね。」
「でも、現実は甘くなかったの。父さんが亡くなったなんて話が広がって、葬式も済んでいないのにいろんなところから債権の回収にいろんな人が現れて・・・。もう、それから昼から通夜に訪れる人の対応をして、その後徹夜で帳簿の整理をやって1週間全く寝ないで頑張ったの。今、挫けたら会社がなくなっちゃうって・・・」
「だから、その時僕って従兄弟の芽衣子姉さんのところに預けられてたのか・・・」
当時のことは良く覚えていませんが、夜になると白装束を身に纏った父さんが横になった側で、悲しむ間もなく麻美子姉さんと母さんが伝票と帳簿の突き合わせを永遠とやっていて、自分の入る余地など全くないなんて子供心に思っていました。
「でも、本当の試練はお葬式の後・・・。その時下請けに入っていて竣工してない現場が2箇所あって、山砂とか砕石を入れてもらっていた資材屋から、会社潰れる前に代金すぐ払って迫られて。契約では工事終わってから精算することになってたんだけど・・・」
「それ・・どうやって乗り切ったの?」
「母さんさ、それまでも会社の経理やってて支払いも滞っていないのも知ってたの。でも急にいきなりそんなこと言われても元請けからは着手金しか受け取っていないし、工事終わらないとまとまったお金なんて入らないから銀行に融資を申し込んだのね。そこって今までもお世話になってた銀行だったんだけど、コレまたそこの支店長が曲者で。」
「曲者?」
「うん。ちょっとオンナの弱みに付け込むっていうか・・・」
「それって、融資の代わりにカラダを要求して来たってこと?」
「うん・・・。もちろんそんなの断ったよ。」
「でも、そうしているうちにその資材屋とか燃料屋とか、それに乗じた関係もないような人たちも支払い迫って来て、終いには重機を現場から引き上げるって言い出したの。しかも、日が経つにつれガラの悪い輩が事務所に押しかけて・・・」
「それって、現金の代わりに重機で払ってこと?」
「うん。でもそんなことになったら仕事にならないし、従業員が路頭に迷っちゃう・・・。そこで、同業者の社長の奥さんが当座の資金を貸してくれて、持っていかれそうになっている重機も間一髪のところで預かってくれて、ソレはそれで一旦は乗り切ったんだけど・・・」
「なんか悪い予感がする・・・。」
「そうなんだよね。その時はすごく感謝したんだけど、その後色々あってその会社トン(倒産)じゃって・・。恐らくウチになんてお金融通するような状況じゃなかったと思うんだ。凄く悪いことしちゃった・・・結局ウチの重機だけが無事だったし。」
「でも、ソレも一時凌ぎ・・・だったんでしょ?」
「まっ、そうよね。するとやっぱり頼るのは銀行しかなくって・・・」
「母さん。もしかして・・・」
「うん。父さんには悪いと思ったけど、このカラダ一晩預けたの。一晩我慢すれば・・・って我慢して。そうして融資引き出してソレ乗り切ったんだよね。でも、その時仕方がなかったの。でなきゃ、会社無くなっちゃうからね。多分、従業員どころか自分の家も無くなっちゃってアンタたちのことも路頭に迷わすことになりかねないから・・・」
「母さん・・・。そんな思いしてまで・・・」
「でも、それから資金繰りのたびにちょくちょく呼び出される母さんを見て気づいちゃったんだよね・・・」
「それって、麻美子姉さん?」
「うん。その時麻美子に母さんもうやめようとか、会社処分しようなんて言われて泣かれたけど、母さん意地になって負けるもんかって歯を食いしばって頑張ったの。社長が死んで代わったオンナ社長なんて所詮この程度か・・・なんて言われたくなくって。」
「麻美子姉さんは知ってたんだ・・・」
「その時くらいからかな?・・・麻美子が将来警察官になるって言い出したのは。」
「その頃、剣道の大会で賞状もらうようになった頃だよね。」
「そうだね。そんな頃だった・・・。でも、本当の地獄はソレから。」
「ん?本当の・・・地獄?」
「今度はいつも仕事回してくれてた元請けの会社の雰囲気が、社長がオンナの会社に下請けさせるなんてことは元請けの信用に関わるっていうような感じになって来てね・・・。母さんってその頃、仕事はビジネスって割り切って元請けに対して言う事はキチンと言うことにしてたの。元請けの不手際まで下請けに処理させんなって。」
「それって当たり前のことでしょ?なんで元請けの不手際まで・・・」
「その時代、それが普通だったの。下請けは元請けのイエスマンでないといけないし、細かいことごちゃごちゃ言う下請けなんて煙たいだけだよね。それで、仕事干されそうになっちゃったんだけど・・・」
「でも、そんな普通じゃありえないことしちゃったら・・・もしかして・・・その時も?」
「うん。その時元請会社で下請けに仕事割り振るようなことしてた常務が、仕事干される前にオレに付けって言い出してね。オレ直属の工事班にしてやるからって・・・」
「それって、オレのオンナになれってこと?」
「・・・なんでオトコってそうなんだろうってつくづく思ったよ。その時母さん30半ばでさ、しかも未亡人。その辺のオトコ共が群がってきちゃってね。いっそ、誰かのオンナにでもなったほうがいいのかなってしばらくその常務のオンナになったの。」
「もしかして・・・あの・・常務?その常務のお葬式に行った記憶がある。」
「コレ、誰にも言ってないんだけど、その常務ってこの腹の上で心臓発作起こして・・・」
「ふ、腹上死?しかも母さんの上で?」
「うん。でもその時会社が軌道に乗って来た頃だったからこれで楽になれるって思ったの。」
「でも、そうなったらなったでその場は修羅場だったんでしょ?」
「その時御休憩してたモーテルのフロントに電話して救急車呼んでもらったんだけど、そこの爺さんがあまり驚かないの。しかも手際が良くって・・・」
「それって、慣れてるってこと?」
「うん。後で聞いたら膣痙攣やら何やらで結構救急車呼ぶことが多いらしくって。でも、母さんの場合は急死でしょ?その後現場検証やら、警察に連れて行かれて事情聴取されたり・・・。知ってる?救急車って死体運ばないの。」
「じゃ、どうやって?」
「警察に白いワンボックスあるでしょ?アレって鑑識のクルマなのね。それで警察まで運んだの。」
「あのクルマって、そういう使い方もあったんだ・・・」
「まっ、検死の結果事件性はないからって母さんはすぐ返してもらえたんだけど・・・まあ、事情聞かれた時に2号さんなんて呼ばれて後味が悪かったわ。」
「2号さんって・・・酷い言われようだね。」
「まっ、世間様から言わせりゃ全くその通りなんだけどね。その時、本当に母さんってオトコを食い潰すオンナだって思ったよ。今考えると、母さんがその常務を利用して仕事取ってたようだからね。」
「食い潰すって・・・。それって決して母さんが望んだことじゃない!」
「でもさ、それで全てがうまく動いていたの・・・会社も何もかも全て。このままこのオトコのオンナである限り何もかもうまく行くと思った矢先だったの。今思えば命の恩人だったのかも・・」
「母さん!それは違う!それって、母さんが全て背負って犠牲になっていたってことでしょ?」
「う〜ん・・・そうなのかな?今となっては分かんないや」
「その頃僕ってのほほ〜んとして普通に中学生やってた頃・・・なにも知らなかった。」
「でも、母さん知ってるんだ・・・その頃理央ちゃんとなんかモチャモチャやってたってこと。」
「え?」
「まっ、親としてそれには触れない事にしたんだけど、アンタがそうやってうつつを抜かしていた頃、その常務の奥さんの目がキツイったらありゃしない・・・。」
「そりゃ・・・ね。」
「それでその奥さんって、その旦那の遺体をなかなか引き取りにいかなかったんだって。警察も困り果てて説得したら、そんなの相手のオンナにくれてやるって騒いだらしくって・・・そこまで来るとなんか気の毒よね。」
「そりゃそうだよね。その奥さんからすれば母さんは魔性のオンナって事でしょ?でも、それまで仕事回す代わりに母さんを弄んだってことでしょ?自業自得だよ。」
「でもさ、後で判明したんだけど3号さんもいたの・・・お腹おっきくした若い娘。」
「えっ?」
「会社の受付嬢にも手出してたんだって・・・。しかも短大卒で、その常務の肝入りで採用したばかりの娘。不倫相手が急に死んじゃって、誰にも相談できないままお腹だけが大きくなっちゃって。」
「それじゃその常務、母さんのところで死ななくたって・・・どこかで刺されてたよ。でも、その気の毒なその娘って・・・今どうしてるの?」
「子供いなかった当時の社長が責任感じちゃってね。何せ、自分の会社の不祥事でしょ?ソレで引き取って親子共々養子に迎えて、今では幸せに暮らしてるよ。娘と孫が一緒にできたんだからね。」
「でも、その娘・・・人生狂っちゃったね。いろんな夢とかあったと思うのに。」
「ソレでさ、母さんなんだけど・・・その後、常務のオンナだったってことで親会社に就任したばかりのその女社長にひどく怒られてね。なんで相談しなかったって。」
「相談したら何か変わってたのかな?」
「ちょっと分かんない。その社長も社長を急に亡くしてなった社長だからね。」
「でもその社長って・・・その後母さんの会社があった町の町長になったあのおばさん?」
「うん。アンタも小遣いもらったことあるでしょ?本当は公職選挙法にひっかかちゃうなんて言いながら・・・」
「どこにでもいるようなおばちゃんだったんだけど・・・威圧感が凄かったのだけは覚えている。」
「そんな母さんのこのカラダ・・・そんなこんなで汚れきってるの。そんなことで何人ものオトコに抱かれはしたけど、自分から抱いて欲しいとか・・・感じたことはなかったの。まっ、その行為が早く終わるようなことはいっぱい勉強したけど・・・」
「汚れてるなんて決して・・・」
こんな会話・・・どこかでしたことがあります。ソレは今は亡きあおいが、自分の兄から受けた行為によって自分が汚れていると言ったこととよく似ています。でも、その時私はそのあおいの身体をきれいだと言って抱きしめた記憶があります。
すると母さんは背筋を伸ばして遠くを見るような表情をしながら大きく深呼吸してこちらをジッと見ています。
「この際だからアンタに全部喋るね。その社長が町長になってから、その町の規則で町長の会社では町の仕事が請け負えなくなってね。今度は、今まで下請けに入っていたウチの会社が元請けになることになったの。」
「ソレってすごいことだよね。」
「うん。その頃、アンタには早く現場に出てもらって現場任せられるようにして、母さんは経理に専念できれば・・・なんて思っていたの。だから中学生になった頃から工業高校に進学させようとしてたんだよね・・・。」
「だから勉強しなくってもうるさく言われなかったんだ・・・」
「だって、何にも言わなくたってそこそこの成績だったでしょ?それだったら大丈夫って踏んだんだよね。」
まっ、確かにそうでした。工業科のしかも土木。普通科併設の高校でしたが、学ランの詰襟に土木のバッチが付いているだけで、満席の学食でも自然に席が確保出来たものです。
そんな話はさておいて母さんの話が続きます。
「でもさ・・・そうしているうちに会社も大きくなってね。大きくなったらなったでもっと仕事受けないと会社が回らなくなってね・・・。ソレで、これから仕事が出そうな役場回って営業して歩いたの。知ってる?公共事業って民間工事より3割も儲かるの。でも、なかなか入札の指名に入れなくって・・・。そこで出て来たのが村会議員だったの。」
「そこでも母さん狙われたの?」
「うん。結果的には。この議員ってどうやって手に入れたかわかんない役場の内部資料を母さんに渡して、これ見て資料揃えれば指名に入れるからって言って・・・。その時感謝したの。これで会社回せるって。そして何度か入札に参加して仕事取ることが出来たのね。」
「入札参加業者として指名されても、結局入札しないと仕事取れないもんね・・・。えっ?母さん。もしかして入札の予定価格なんか教えてもらったの?」
「流石にそれはなかったの。でも、入札の度に落札業者の落札額を教えてくれて、その都度ウチの入札額の精度を高めて行ったの。」
「その入札額って母さんが決めてたの?」
「うん。もちろんそうだよ・・・。役所に行って金抜き設計書を一生懸命メモして、それからそれにかかる費用を入れ込んで、最後に現場経費を足してコレなら赤出さないで請け負えるっていう金額決めるの。」
「母さんそんなことできるの?」
「うん。勉強したもん。現場分かんないと費用も出せないから施工管理の資格も取ったし。でも、建設会社のテリトリーって決まっていて、そこに割り込むのは本当に大変だった。でもその議員が仲裁に入ってくれて・・・」
「テリトリーって、それ・・・談合じゃん!僕って今の今まで公共事業の入札って純粋に価格競争だって思っていたけど・・・結局入札ってカタチだけ?」
「まっ、それはそれでうまく回るシステムだったの。でも、その時本当に感謝した・・・。母さん必死だったからね、仕事取るの。そしてそんな流れで男女の関係になって・・・。でもその時思ったんだ・・オンナってオトコに抱かれないと枯れちゃうなって。その時、自分から好んで抱かれた訳じゃないけど、抱かれた瞬間そう思ったの。その時久しぶりだったからね。」
「母さん・・・。そこまでして・・・」
「まっ、その時オンナとして割り切ったのね。でも、それでやっと順番回って来てその入札でその村での初めての仕事を取ることが出来たからいいの。そこそこ大きな仕事だったし、買ったばかりで当時東北に4台しかなかったD8(大型のブルドーザー)遊ばせなくって良かったからね・・・」
「順番って・・・それも談合?」
「それはこれから役人目指すアンタは知らなくていい話。言ってみれば業界のローカルルール。」
「知らなくて良いって言うのならあまり深く考えないけど・・・。ところでそのD8って、納車前日の夜に明日代金支払うからってコタツの上に札束積み上げて見せてくれたその機械でしょ?あのV型エンジンのツインターボの・・・」
「うん。それで1日作業すると3日間耳から蝉が離れないっていう曰く付きの・・・」
その大型ブルドーザには、エンジンの両側に大きなタービンがそれぞれ1個づつ装着された巨大なディーゼルエンジンが搭載されていました。また、その機械の大きさから現場間の少しの移動でもクレーンを使った分解やトレーラも何台か用意しなければならない厄介な機械です。
そしてそのエンジンから発せられるキーンというタービン音のことをオペレーターたちが「蝉」と表現していました。
「母さん・・・もう機械の話はいいから、結局その議員もその時オレのオンナになれって迫ったんでしょ?」
「うん・・・。迫られたわけじゃないけど結局は同じことね。でも仕方ないじゃん・・・。そんな高い機械だもん。動かさないと会社やっていけないじゃん。そんな母さんってとことん汚れてるでしょ?」
「それって会社のために汚れ役やっただけだと思う。」
「でもね、この時今まで弱みだとばかり思っていたオンナって部分が使い方によっては武器にもなるんだって思ったの・・・。この時も何もかもうまく回ったんだよね。」
「それって武器とかそんなんじゃない!母さんがカラダをすり減らして会社の従業員や僕たち兄妹を守っただけ・・・。」
「うん。そうだよね・・・カラダすり減らす?・・・うまい表現ね。でも、今考えれば母さんの中のオンナって部分をすり減らして消費して来たってことかな?」
「そんなことしてたら母さんのオンナって部分が無くまっちゃうよ。それでも良かったの?」
「その時まではそれでも良かったの。オンナってモノを減価償却するまで使い切ろうって思っていたから・・・」
「減価償却って、それそのものの価値が下がるってことでしょ?しかも、女性として大事なオンナって部分・・・」
「そうだよね・・・。その頃自分が特にオトコでもオンナでも関係無く思えて来ちゃって・・・。コウちゃんに出逢うまでは。」
「それじゃ母さんも義父さんに惹かれてたって訳?」
「ううん。分かんない・・・。でも、その時コウちゃんとやり合った議論って楽しかったの。次、どうやって言いくるめてやるかって考えるとワクワクしちゃって・・・」
「でも、そこまでして守った会社廃業しちゃったよね?」
「うん。その辺りになるとウチの会社も実績と一緒に体力が付いて誰にも頼らなくても仕事が回るようになったんだけど、あちこちで不渡(約束手形として受け取った証券が換金出来ない状態)出したなんて話が聞こえてきたんだよね。」
「それって僕が高校生の頃・・・」
「そのうえ、その頃ウチで下請けに入っていた元請け会社の約束手形まで不渡になったりして・・・。」
「えっ?それって景気が傾き始めたってこと?今日、日本の景気はまだまだって言われたばかりなんだけど・・・」
「おめでたい人もいたもんだね。まっ、今のところ日本のほとんどの人がそう思ってるでしょうね。」
「もしかして・・・急に世の中が変わるとか?」
「母さんはそう踏んでる。こんな浮かれた世の中は長く続かないって・・・うまく続いたとしてもあと1、2年。」
「なんでそう読んでるの?」
「うん。土木業界って裾野が広いでしょ?だからそういうのに敏感なの。いつの頃からかついこの前まで羽振りの良かった知り合いの会社で、重機持っていかれちゃう騒ぎもあちこちで出るようになって、その時ウチでその重機預かってお金工面するようにもなってね。」
「それって、いつかの逆?」
「そうなんだよね。でも、その社長はそのまま従業員残して雲隠れしちゃってね。まっ、ウチで工面したお金で夜逃げしたってことね。結局幸いウチには預かった重機があったから、それ処分して被害は免れたんだけど・・・」
「もしかして、前に重機預かってくてれた同業者って・・・もし、母さんの会社がトンだとしても担保として重機預かってるから懐は痛まない?」
「うん。その時は向こうが先にトンじゃったけどね。その頃になると順調なウチの会社を妬んで悪徳金融なんて揶揄する輩も現れて・・・。それで思ったんだ・・・。このまま会社続けていても何もかも消耗するだけだなって。体力あるうちに会社畳めば従業員にも負担かけなくって済むって・・・」
「それで退職金がわりに重機くれてやったんでしょ?」
「うん。父さんと立ち上げた会社たたむことになるなんて心痛んだよ。でも、会社潰さず円満な形で会社終わらせることができるなんて最高じゃない?その後、あちこちの同業者から散々オトコならそこまでできないって。会社潰さず廃業できるなんて羨ましいなんて揶揄われたけどね。」
「廃業もできないって・・・もう、終わってるってこと?」
「違う。そうじゃないの。終わらすことも出来ないってことなの。負債抱えて走れるところまで走らなきゃなんないってヤツ・・・」
「それって止まると倒れちゃうなんとか?」
「うん。自転車操業って上手いこと言ったもんだね。」」
「その後待ってるのは、倒・・産・・?」
「まっ、いつまでも走り続けることは出来ないからね。でも母さん偉いでしょ?そうなる前に会社畳んだんだから。でも、本当に会社たたむ決心したのは麻美子があんなことになってから・・・。」
「うん。思い出したくもないけど、姉さんに酷いことしたあのオトコって母さんの会社の元従業員・・・」
「全く、散々砂利喰って(横領)おいて・・・手切金に退職金までくれてやったのにね。恩を仇で返すって、このことだよ。それがあってから母さんの周りの全ての運命が変わっちゃったんだよね・・・ごめんね。まーくん」
その時母さんは立ち上がって蛍光灯の紐を引っ張り電気を消しました。そして、そのカラダからバスタオルが落ちて全裸となっています。
「まーくん。これがあなたの母さんなの・・・。麻美子のカラダが汚れちゃったそもそもの原因も母さん。そしてその犯人を病院送りにしちゃって、留置所入ることになったアンタの経歴を汚した原因も母さん。」
「いや・・・僕も姉さんも決して母さんに汚された訳じゃない。全てはあの犯人が・・・」
「母さんその頃感じてたんだ・・・。自分がそれまでして来た決して綺麗じゃない行いのツケが回って来たのかなって」
「でも、そのやって来たことは決して母さんの本望ではないし、僕たち兄妹を守るために仕方なく・・・」
その時の私は物凄く動揺していました。自分たちを守るために母さんが掻い潜ってきたそんな闇の部分なんて今の今まで少しも分かりませんでした。いつも姉さんと母さんの遅い帰りを待っていた時、姉さんから現場予算の整理とか何かの申請期限が迫っているから事務所に缶詰になってる・・・なんて説明を受けてそれを少しも疑問に思いませんでした。
でも、麻美子姉さんはそれを知っていました。でも、弟である私を不安にさせるようなことは何ひとつ言わず、友達たちが遊び呆けている中、警察官目指して真っ直ぐに生きていました。でも・・・そんな姉さんもその闇に足を引っ張られてしまった結果となっています。
当時の母さんは帰りが遅いのは当たり前。しかも帰って来ない日も多くありました。そんな時にそんなことになっていたなんて・・。そんな動揺の隠せない私に母さんは語り続けます。
「いくらアンタがそうは言ったところで、このカラダは決してきれいじゃないしあなたの知らないモノもいっぱい刻まれているの。あなたはこれからマコトさんっていう女の娘と一緒になって添い遂げることになるけど、そんなマコトさんと違って母さんなんてもう出がらし状態。これで子供産めたなんて本当に奇跡的よね。」
そう言う母さんの全裸を改めて隅々まで見ても本人が言うほどの歳は感じられず、それに加えてとてもグラマラスなスタイルでした。
今では結婚こそしていますが、カラダを張って仕事をしていた当時は未亡人・・・周りのオトコが放っておかなかった訳です。でも、文字通りこの身体を張って会社を従業員をそして家族を護って・・・。私は、その時自然にそんな母さんの身体をきつく抱きしめていました。
するとそんな母さんの瞳から涙が溢れています。
「ねえ。まーくんを置いて帰ったあの日、家に着いてから大泣きしちゃったの。その時ほどあの家が大きく感じたことはなかったわ・・・。」
「うん。無駄に広かったよね、あの家。」
「家の話じゃないの!若くして結婚した父さん。そしてその父さんと苦労して創った会社。それに麻美子やアンタまでいなくなっちゃって、その広い家の中でたったひとりになった瞬間、何もかも失った実感が湧いて来ていてもたってもいられなくなってね。そして、その時初めて知ったの。」
「母さん・・・もういい。何も言わなくても分かったから。」
私は母さんをさらにきつく抱きしめてそう伝えました。
「まーくん。これって親として最低なことだから言わないでおこうと思っていたんだけど・・・」
「だから、もういいって・・・」
その時母さんは私が制止するのも聞かず話を続けました。
「最後にこれだけは言わせて。あなたのことが・・・好きだった・・の」
「それは親として?」
「それは違う・・・最低よね。それはオンナとして好きになっちゃってたってこと。」
「それって・・・いつから?」
「それは分からない。でも、あのジジイどもに抱かれている時アンタのこと思っていたような気がする。」
「それって、それだけ辛かったってことでしょ?」
「でもさ・・・あの日家に帰って泣きながらその事に初めて気づいて自分自身を軽蔑もしたの。自分の息子のことを一人のオトコとして好きになってしまう最低な親だって。」
「いや・・・最低だなんて。むしろ・・・」
「でも、母さんも結局はオンナだったんだよね。親である前にオンナなの。使い果たしたと思ってたオンナってものがちょっとは残ってたのね。あなたに恋してたことにその時気づいて・・・。」
「でも、僕たち親・・・子だよね。」
「うん。だから、死んだ父さんにそっくりだから好きになっちゃったってことにしておいて・・・」
「母さん、ごめん。初めてこの下宿に来た日そんな事になっちゃったから母さんにそんな思いさせる事になっちゃって。」
「あの日帰りにふたばさん乗せて高速走って、その後ふたばさんのアパートで荷物卸して・・・それまで気が紛れていた分もあって急にそう思っちゃったんだね。」
「うん。ふたばの大学が僕の高校の隣りだったなんて驚いたよね。」
「でも、嬉しいこともあったの。泣きながらまーくんのモノがお腹にいっぱい入ってるって思うと、ちょっとだけ一人じゃないって感じになってね。」
「それってあの時僕母さんの中でいっぱい出した・・・アレ?」
「うん。ウチに帰ってからそれがなくならないように、アソコをギュッと締めて大事に大事に取っておいたんだけど・・・」
「でもアノ後、ソレが逆流してパンツ汚れたって怒られたんだっけ?」
「その時コンビニで替えのパンツ買って着替えたんだけど・・・」
「ん?なんかあったの?」
「家帰った時、ビニール袋に入ったその汚れたパンツがバックから出てきてね、捨てようと思ってその袋開けてみたの。」
「なんかすごい事になってそうな・・・」
「うん。すごい事になってた・・・その匂いが。すごい栗の花の匂いでその生臭さから若さを感じたの。それは、中学生だった頃のアンタのゴミ箱のモノともジジイどもの匂いとは全然違う・・・若く生命力に溢れた匂い。」
「なんか想像するのも嫌なんだけど・・・」
「それでさ、その匂い嗅いだら母さんのカラダにスイッチ入っちゃって、自分でしちゃったの。それって高校生の時以来だったわ・・・」
「でも、それから義父さんと付き合う事になったんだよね?」
「そうなんだよね。広い家に一人っきりって耐えきれなくなっちゃってね。やっぱり話し相手が欲しくなっちゃったんだよね。結局寂しかったのね。」
「それって、母さんが交際申し込んだの?」
「それがさ・・・話し相手が欲しくなって耐えきれなくなった時、コウちゃんの職場に電話しちゃって・・・そしたら今晩話しようってことになって居酒屋で呑んだの。」
「職場に電話って・・・そこ、役所でしょ?」
「だって仕方ないでしょ。電話番号そこしから知らないんだから・・・」
「その時、初めはお互いぎこちなかったんだけど、酔いが回った頃どう言う訳か死んだ父さんの話になってさ・・・。その時、コウちゃんが死んだ旦那さんの代わりにはなれないけど、これから死ぬまで一生ハナシ相手になりたい。朝起きた瞬間から寝る時まで・・・いや、死ぬまで君の声を聴いていたいから一緒になりたいって言い出したの。」
「それってプロポーズ?」
「そうだよね。でも、母さんはこんな汚れたカラダだし・・・呑み友達になってくれて時々愚痴効聴いてくれれば良いからって、やんわり断ったんだよね。」
「義父さん引き下がったの?」
「それがさ、なかなか引き下がらなくってね。最後に、死んだ父さんに未だ片想いしてるからってゴメンなさいしたの。」
「そしてどうなったの?」
「そうしたらね。コウちゃんが、そんな想いもひっくるめて好きだからって。そんな君が好きだからって。今まで苦労した分一緒に幸せになろうって言い出してね。」
「へえ〜。義父さんって結構情熱家なんだね。」
「うん。それからタクシーでコウちゃんの家に行って・・・もう一晩中情熱的だったわ。」
「それで、のどかが出来たってことだね。」
「まっ、そう言いたいところなんだけどね・・・」
「ん?何か引っかかることが?」
「その後は例の興信所の話になるんだけど」
「あっ、義父さんって無精子・・・」
「全くってことはないんだけどね。ただ、高齢の女性を妊娠させるにはそれなりの量は必要ってこと。」
「それじゃ・・・のどかの父親って・・・?えっ?えっ?」
その時私は傍で寝息を立てているのどかの髪を確認しました。母さんも義父さんも直毛・・・。でも、電気が消されたその部屋では暗くてぼんやりとしか見えません。
先ほど母さんがのどかの髪を乾かしていた時、ドライヤーを当ててた髪は癖っ毛というかナチュラルパーマっぽい感じだったような気もします。
その時母さんは深呼吸してから話を始めました。
「うん。今、まーくんが思っていることも否定できない。でも・・・あくまでのどかの父親はコウちゃん。恐らく、生まれたのどかの顔見て自分に何一つ似ているところがなくっても疑ったりしない。それがコウちゃん。もしかすると何か知っているのかもしれないけど・・・」
「母さん。僕ってどうすればいい?」
「アンタ、何考えてんの?何もしなくっていいに決まってるでしょ?母子手帳の父親欄の名前もコウちゃんだし、しかもアンタとコウちゃんは同じO型。こればっかりは遺伝子レベルで調べないと分かんない・・・」
「で、でも・・・」
その時私は本当にどうして良いものか分かりませんでした。母さんが言うように真実は遺伝子レベルでないと分かりませんが、今そこに眠っているのどかが全く義父さんに似ていないと言うのも紛れもない事実です。
「じゃ、リセットしようか?初めてここ来た日の夜から・・・。」
どうして良いのか分からず頭を抱える私に母さんがそう尋ねました。
「母さん。いくらなんでも・・・」
この時私は、再度過ちを犯してしまうような不安に駆られています。
「それじゃ、せめて母さんを卒業させてよ・・・アンタから。思い残すことのないように・・・。それで、母親の責任としてアンタがきちんとオンナ抱けるかって見極めてあげる。結婚したら死ぬまで一生やる事になるんだよそのセックスってヤツ。間違った事したらバンバン指導入れるから覚悟して・・・」
「そんなこと言ったって・・・」
そうです。通常こんな事・・・母親が指導するものでもなんでもありません。
「それじゃあさ、母さんカラダ冷えちゃったからとりあえず温めてよ・・・アンタの肌で。」
そこで母さんは押し入れを開けて、日中仕舞ったばかりのこたつ布団を取り出し、さらに部屋中央にあったテーブルを部屋の入り口に押し付けて、ベッド脇にその布団を敷き始めました。
暗がりの中ぼんやり見えるそれはやはり親子です。先日泊まりに来た麻美子姉さんと姿形が被ります。本当にその動きとか仕草がよく似ていました。
その時私は、背後からカーテンを通して差し込む街路灯の明かりに白く浮かび上がるその締まったお尻とパイパンのワレメ。それに前屈みになるたびにゆさゆさ揺れる乳房に興奮を覚えています。
「いいですね・・・いいですね・・・」
その時、隣の1年生の部屋からそんな音声が聞こえて来ました。何かのビデオか何かを見始めた様です。
すると、続けて若い女性の喘ぎ声と、それに被るような若い男の響めきまで伝わって来ました。結局はエロビデオの鑑賞会が始まったようですが、いつものことなのでさして気にもしません。
こちらの部屋でも同じようなことが起ころうとしてますので丁度いいというか・・・。
そして布団を敷き終えた母さんがベッドに座っていた私を立たせて服を脱がせようとしました。
「ん?あれ?まーくん。これは?母さんのハダカで興奮しちゃった?」
「そ・そりゃ、僕もオトコ・・・だし。」
「じゃ、隣の部屋のエロビデオみたいなこと・・・してみる?」
「母さん。そのエロビデオって観たことあんの?」
「えっ?普通でしょ?・・・っていうか、アレはオトコの妄想の最たるもので全くのフィクション・・・。でも、どうやればオトコが喜ぶか勉強にはなるわ・・・。」
「オトコが悦ぶって・・・」
「でもソレはオトコが満足するモノであって、女にとっては最悪な事ばかり。いきなり指突っ込まれたり、顔に精子かけられたり・・・。そんなの気持ちいい訳ないじゃん。あと、あの電動コケシって何?あんなの突っ込まれたら痛いだけよね。」
「そ、その電動コケシの経験も・・・?」
「そんなのあるに決まってるでしょ?全くあの動きといい、あのイボイボといい・・・」
そういいながら母さんはその電動コケシとやらの動きをゼスチャーしています。
「分かった・・・もう、その話は・・・」
「でも、外とかでヤるって言うのだけは共感できたの。母さんだっていろんなことやって来たけど、アナルとSM以外だったらなんでも経験済みってこと。」
「外で・・・って、ソレ青姦ってこと?」
「うん。機会があったらやってみたらいいわ・・・開放的でクセになるから。夜景もいいけど、青い珊瑚礁っていう映画みたいに海でヤった開放感は忘れられないね」
「母さんって、結構変態?」
「あら・・・まーくん。あなたもでしょ?誰しもどこか変態だって聞いたことあるよ」
「いや、僕は断じてそんなこと・・・」
本日2回目です。その変態って言われる事。マコトに言われてたソレは褒め言葉でしたが、コレについてはどう解釈して良いのでしょうか?
そんなことなんてどうでも良い母さんの話は続きます。
「麻美子があんな事になって落ち着いた頃、アンタの学校から進学のことで呼び出し受けてさ・・・。」
「それって大学推薦取り消しの?」
「うん。その時、成績のことで偶然呼び出されていたあおいちゃんのお母さんって言うか高校のクラスメイトのアベ君のお母さんと話する機会があってね。」
「あのお母さん?」
「うん。帰り道一緒だからちょっとお茶したの。そしたらビックリ・・・。あおいちゃんのあ母さんってV6の430(セドリック)乗ってて、しかもシャコタンでさ・・・。母さんのレオーネが4駆だから背が高いでしょ?その2台連ねて走るのがなんか面白くって・・・。それで最後にファミレス入る時、腹つかえてカメになっちゃって。」
「多分そのクルマってアベちゃんの・・・」
当時クラスメイトだったアベちゃんは、高3の夏休みには既に430を乗り回していました。流石に学校には乗って来ませんでしたが、日中家に置いてあるそのクルマをアベちゃんの母親が自由に使っていたようです。
「その時ファミレスで聞いちゃったんだよね。あおいちゃんがアンタに初めてをあげちゃったみたいだって・・・」
「えっ?なんで?」
「あなたとバイクで出かけた次の日、洗濯するとき見つけちゃったんだって。」
「何を?」
「栗の花の匂いのするあおいちゃんのパンツ。」
「えっ?」
「しかもアソコの部分にべっちょりと・・・しかも血混じりのヤツ。」
「そ・・・それで、おいちゃんのお母さん怒ってた?」
「ちょっと怒ってた。相手がいくら小学生だからって避妊しないってどういうことだろうって。6年生なんだから生理来ててもおかしくないでしょって。」
「うん・・・でも、おいちゃんが理央から大丈夫な日だって教えられていたみたいで・・・」
「えっ?あの理央ちゃんが絡んでるの?」
「うん。なんかアドバイスがあったみたいで・・・」
「それじゃ仕方ないか・・・。その時あおいちゃんのお母さんが言ってたの。わたしも小6で初体験済ませたからヤッパリ親娘なんだねって。でも、その相手がチャラチャラしたオトコだったら半殺しだって・・・アンタ、変態のロリコンだけど真面目で助かったね。」
「いや、それは何とも・・・」
その変態のロリコンっていうのは絶対に誉め言葉ではありません。むしろホンモノの変態に近いような・・・
「ソレで、アンタってあおいちゃんとそういうことした時からアソコがツルツルなのが好きになっちゃったんでしょ?だからこんな母さんのこんなカラダにでも反応しちゃって。」
「アソコがツルツルって・・・その言い方・・・」
「アンタ・・・ロリコンっていうか、そもそもツルツルが好きなの?でも、最初は従姉妹の芽衣ちゃんのこと好きだったでしょ?そして次は理央ちゃん。その二人は雰囲気が似てたから分かるんだけど、次はあおいちゃん。」
「えっ?理央はともかく、なんで芽衣子姉さんのことまで?」
「アンタってさ、小学生の頃よく芽衣ちゃん(従姉妹の芽衣子姉さんのことで、3姉妹の長女)のところに預けられていたよね。」
「うん。母さんの仕事が忙しい時、結構な頻度で・・・」
私は、母さんお言うとおり何かと言えば従姉妹のところに預けられていました。そして、泊まる部屋はいつも面倒を見ていてくれた芽衣子姉さんの部屋・・・
そんなこんなで、私はその当時高校生だった芽衣子姉さんの手の中に精通の精子を受けて貰いましたし、最後には童貞も捧げていました。
「芽衣ちゃんと理央ちゃんはボーイッシュでお姉さん肌。でも、あおいちゃんってどちらかというと清楚系・・・ん?マコトさんのそんな感じ?そういえば舞衣さんも・・・。ん?ふたばさんってどっち?」
その時母さんはちょっと不思議そうに頭を傾げています。
「あのマコトさんって・・・どうなの?」
「何が?」
「アソコよ!」
「う・・・うん。一本も生えてない。」
「えっ?全身脱毛?」
「違う。生まれ付き・・・お姉ちゃんのアキちゃんも。」
「それじゃ、アンタの周りのオンナってツルツルだらけ?」
「まっ、そういうことになるけど。でもそのツルツルっていい方やめなよ・・・」
「無毛症ってさ、良くヨタ話には出てくるけどそんな多く無いからね。アンタ・・・よく運命の人良く見つけたよ・・。芽衣ちゃんに報告しちゃおうかな?」
「ちょっとそれは・・・。でも、なんで僕が芽衣子姉さんのこと好きだったの知ってたの?」
「そんなこと分かるよ・・・。実家(従姉妹の家)に預けに行くときのアンタの目。そりゃ、恋人にでも逢いに行くような目だったもん。」
「そりゃ、オトコって年上に憧れる時期ってあるでしょ?」
「でも知ってる?実家の3姉妹の結婚相手ってみんな年下だったの。それって大方アンタの影響ね。」
「えっ?僕ってそんなところに影響を与えていたの?」
「だってそうでしょ?従姉妹親戚で唯一の男子だよ。それに芽衣ちゃんのところに泊まりに行った時、従姉妹たちのおもちゃになってたのも知ってるんだから・・・」
それは私の幼少期の記憶の中でも触れてほしくない黒歴史の一つです。小さい頃から普通だと思っていた「ソレ」は、今で言う性的虐待に近いものがありました。目隠しをされて受けていた得体の知れないその行為は腰が抜けるほど気持ちが良かった記憶があります。
それはビクビクするカラダを押さえつけられながらされることも多く、その拷問のようなそんなことが小さいながらもいけない行為であることも知っていました。
そのことは今まで誰にも打ち明けていませんし、これからも誰にも打ち明けず墓場まで持って行くつもりでいます。
「でもね。小さい頃からおもちゃにしちゃった責任感じて長女の芽衣ちゃんが最後まで面倒見てたのよね。妹二人がカレシ作ってアンタになんか興味がなくなっちゃった後でもずっとアンタの相手してくれたでしょ?」
「うん。最後まで一緒にお風呂入ってたのは芽衣子姉さんだった・・・」
「でも、そんな年上路線から好みが一変して次は小学6年生・・・どうして?」
「なんか自分でも分からないんだよね。でも、いつもガレージでやってた果てしないCBXの修理の作業中隣においちゃんがいて、それが心地よかったような・・・」
「心地いいって重要よ・・・。会話なんてなくたって全然へっちゃら。よく空気みたいな存在なんて最悪ってことが聞くけど、その空気だってなくなったら生きていけないんだよ。」
「いや・・空気って言うより泣いたり笑ったり一緒にしてたっていうか・・・。でも、黙々とやってる僕の作業を黙って見ていることが多かったかな?」
「アンタの良いところは、女の娘の扱いが自然なところなんだよ。」
「だって・・・小さい頃から周りがオンナだらけだったでしょ?だからそんな扱いなんて意識したことなんてない。」
「アンタってそうやって自然に接して、あおいちゃんのことをオレのオンナだ・・・みたいに縛らなかったよね。」
「そんなこと意識したことすらないんだけど・・・」
「母さんさ・・・その前からあおいちゃんがちょくちょくガレージに出入りしてるのも知ってたし、その後大学卒業したら改めて告白するって約束していたことも。中学校の頃付き合ってた理央ちゃんがアベ君の彼女になってたのもお見通し・・・。」
「なんでそこまで知ってるの?」
「だって、親・・・だから。」
このとき私の全身からチカラが抜けていくような感じを受けていました。いろいろ自分なりに考えて悩んで行動していたことは全て母さんにお見通しだったってことです。
「あと・・・もうすぐあおいちゃんの3回忌だから、その時は帰って来なさいね。」
母さんは最後にそう言葉を付け足しました。そうです、もうすぐあおいの命日でした。
「3回忌ってどんな意味合いがあるの?」
「う〜ん・・・。3回忌には来世が決まるって聞いたことがあるんだよね。この世の中のどこかに生まれ変わるかそうでないか・・・」
「おいちゃんだったらどこかで生まれ変わって絶対に幸せになると思う」
「うん。そうだといいね・・・」
ん?この時私の胸の奥に何か引っかかるものが・・・。いつかの夢の中でそのあおいが言っていたような記憶が蘇りました。
「行き先が決まった」・・・と。
今回のストーリーはここまでとなります。ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。また、こんな長編をお読みいただいたうえ評価をしていただいている読者の皆様に感謝申し上げます。
作中、建設業の闇の部分として「談合」というフレーズが出て参りましたが、その後の入札制度改革にて非常に談合しずらい環境となったうえ、しばらくの間「公共事業は悪」というような世論となって行きます。そして民主党政権時に実施された事業評価によりいろんな事業が凍結され建設業は瀕死の状態となり、談合をやろうにも業者自体が激減しその談合する相手すらいない状況となります。
しかし、平成23年に発生した東日本大震災による震災復興で建設業特需の時代を迎えますが、首切りに規模縮小または企業合併を繰り返しながら倒産だけは何とか避けて来たような建設業にとってそんな特需に応ずることができるはずもありませんでした。
ましてや建設業が3K等と揶揄されさらにその人口が激減する中、作中のマドカがそんな激動の世界に入ろうとしています。その辺までこの物語を続けて行くことができれば本望です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
まことまどか