私の名前はあき、36歳会社員。
妻1人子1人。そして奴隷1人。
奴隷とは何なのかって?
答えるならば本当の奴隷とでも言おうか。
よく見る奴隷はMの女性が縛られてとか、
大勢の男たちの陰部を咥えてにっこりとかそんなんだろ?
私の奴隷は違う。
生涯逆らうことを許されていない、
正真正銘の奴隷なのだ。
まぁそう言われてもピンとこないだろうから、
全ての始まりから話していこう。
あれは3年前のことだった。
私はとある会社の営業課長として、
自分で言うのもなんだが出世街道まっしぐらのトップ営業マンだった。
上司からの信頼も厚く、将来会社を背負って行くようにと、
よくよく言われてたもんだ。
30歳の時には結婚もし、直ぐに子供を授かり、
順風満帆の日々を送っていた。
そんなある日、1つの出来事が起こった。
常務から呼び出しを受け、会議室へと向かった私。
中に入ると常務だけではない、重役連中が勢ぞろいしており、
私を中央へ座るよう促した。
空気がおかしい。
特に大きなミスをした訳でもなく、
会社に何か不利益を与えた訳でもない。
まだ何を言われた訳でもないのに、
そんなことを考えさせるような重苦しい空気。
言われるがまま中央に立ち一礼をして着席した。
そして常務が口を開く。
「〇〇君、まだ信じられずにいるが、今から問うことに正直に答えて欲しい。いいかね?」
この時点で何らかの容疑が掛かっていることを察した。
「はい、わかりました・・・」
そう答えた私は、頭をフル回転させ必死に過去をほじくり返し、
自分のした非がありそうなことを思い出す。
が、あるといっても過剰な接待や後輩との飯を経費で精算等、
こんな仰々しく裁かれるようなことをした記憶は一切ない。
後輩との飯も相談があると呼び出されしかたなく付き合ったものだし、
1万円もいってなかったはず。ここまでされる訳はない。
そう頭の中であれこれ考えていると、
常務がある2枚紙を私に渡してきた。
見ると見積書と会社口座の履歴のようなものだった。
そして常務がこう私に問う。
「これは〇〇という会社へ提出された見積書です。見覚えはありますか?」
当然ある。
300万程の取引となった会社。
製品はとおの昔に納めているはずだ。
「はい、覚えています。これが何か?」
何の迷いもなく答える。
常務は続けた。
「この会社から60万の入金が確認されていないんだ。」
もう一枚の箇所に指を差し私に説明をした。
確かにおかしい。
この契約日なら本来入金がある時期に入っていない。
でも確実に納品を行っている。なぜだ。
「これも、これも、これも。全部納品を終えているのにも関わらず、入金がされていないのはなぜなんだ?」
私が取った契約3つ。合わせて760万の入金が行われていないとのこと。
混乱する中で私は該当の会社へ確認すると言った。すると、
「そんなことは当然もうやっているんだよ。社長さんたちは全員正常に振込みを行ったと言っている。しかし奇妙なことに、その時だけ振込み口座を変えて欲しいと君から指示があったと話しているのだよ。」
私は慌てて答える。
「ちょっと待ってください!そんな話は一切した覚えはありません!」
「先方は長い付き合いの会社さんだったから疑いもせず対応してくれたそうだ。ある女性から君の指示でそう頼まれたと言っている。」
誰だ?誰なんだ?
「そしてその女性は、この最後の見積入金日の1週間後退職をしている。これはもう君と彼女が組んで560万を横領したとしか思えないんだよ。」
1週間後に退職?
・・・・・・・・。
・・・・・・・・!
わかった、あいつだ。
その女性は私より5つぐらい下の〇〇早紀と言う事務の女だ。
少々地味で眼鏡を掛けた物静かな子だった。
1年前ぐらいに突然退職したが、
そこまで深い関りはなかったので直ぐに思い出せなかった。
「その事務員は覚えていますが、そんな話をした覚えもなければ、連絡先すら知りません。共謀も何もないです!」
私は少々冷静さを失っており、
大きめの声で反論した。
まぁ落ち着けと言わんばかりに肩をポンポンと叩かれ、
常務がこう切り出す。
「会社として潰れる額面でもないし、君の普段の頑張りと成績を見れば、こちらとしても信じられないんだよ。ただ、君の名前が出てきていてその女性事務員がいない今、君しか情報を持っている人間はいないんだよ。」
確かにわかる。
名前を使われたことは癪だが、多くの契約を結んでいる私なら使いやすかったのもあるのかも知れない。
そして各会社は個人経営をしているような小さな会社で、
人の好さそうな社長さんばかりを狙っている。
私も関係性は深い。
見事な手口だった。
ただ今は感心している場合ではない。
「なんと言われようと私は無関係ですし、ただ名前を使われただけでそんなことを言われる筋合いはありません。」
ハッキリと告げた。
「わかった。そこまで言うのであれば一先ずは信じよう。しかし、君に非が無い訳でもないぞ?普段からコミュニケーションをしっかりと取れていれば、顔を出した時に振込み先変更の話を聞き出せたかも知れない。気付くのが今になったのは君の営業が雑になっていたことも原因としてないとは言えない。
そうだろ?」
そう言われると思い当たる節はある。
他の数千万の取引がある客先を優先したり、
直帰したいが故に実際は行かずに予定だけ名前を使った覚えもあった。
「しかし・・・」
「大丈夫、君が全て悪いと言っている訳ではない。彼女を探すのを手伝って欲しいのだよ。退職前の住所はここに書いてあるから行って手掛かりをつかんできて欲しい。」
承諾せざるを得なかった。
そして部屋を出ようとすると、最後に常務はこう言った。
「もし見つからなかった場合は、君にも責任を取ってもらうことになる。覚悟しておいてくれ。期限は切らないがなるべく早くしてくれよ。」
そう言われ再度振り返ると、重役の視線は完全に犯罪者を見る目だった。
恐ろしさと悔しさ、怒りで震えながら会議室を後にした。
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あれから数日・・・
仕事帰りに家を訪ねても既に引っ越しており、
周囲への聞き込みへと移行していた。
近所の居酒屋やコンビニと、
色々聞いて回ったが誰も彼女を覚えてはいなかった。
確かに思い返しても顔がなかなか浮かんでこないような影の薄い子だったので写真1枚がここにあるからわかるが覚えていている人も少ないかも知れない。
今日も手掛かりは無し・・・
家に帰ると妻が出迎えてくれる。
「今日も遅かったのね?最近残業多いの?無理しないでね・・・」
心配そうに私を気遣う。
そう、妻には何も言っていない。
言ったら心配を掛けるし不安な思いをさせたくはない。
何より私はプライドが高い。
こんな失敗を妻に知られたくないという、
意地があったのだ。
ソファーに腰を掛け缶ビールをプシュっと開け一口。
ふーっとため息をつき天井を見上げる。
(どこに居やがるんだあの女・・・見つけたらただじゃ置かないぞ・・・)
復讐心に燃えている。
するとジャケットを手渡した妻の声。
「あら?これ早紀ちゃんじゃない?」
しまった!聞き込みをしていた際の写真をポケットに入れたままだった!
「あぁ、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」
写真を妻から奪い取るように手に取り、
直ぐに鞄へとしまった。
そして再びソファーへと座ったが・・・
ある違和感・・・
・・・早紀ちゃん?
写真を見られたことに動転していたが、
妻の言葉がすっと頭に入ってきた。
私はガバッと腰を上げ慌てて妻に問う。
「おまえこの人知ってるのか!?早紀ちゃんって!?」
私の剣幕にびっくりした妻がこう言った。
「そ、そう早紀ちゃん。私の友達なの。数か月前からよく行く隣町の〇〇カフェで働いてるのよ?」
私は嬉しさと衝撃で震えあがった。
こんな近くに手掛かりがあったとは・・・
しかし私はすぐに冷静になりこう言った。
「なんでも部下の妹さんでさ?急にいなくなったから探してくれってこの写真渡されて頼まれてたんだけど数日前に見つかったみたいだから他人の空似だろうな。」
いけしゃあしゃあとペラペラと・・・
やはり営業は天職だと思った瞬間。
「そう?でも絶対早紀ちゃんだと思ったけど・・・もう一回見せてくれる?」
「いややめておこう。その子にも兄貴が探してたとか聞くんじゃないぞ?家庭には色々あるんだ。他人の俺たちが掘り返すのも失礼だし。忘れよう。」
その言葉で妻は納得。
胸を撫でおろすと同時に沸々と湧き上がる怒り。
(見つけたぞ詐欺女・・・待ってろよ・・・)
部屋に戻るとすぐさま上司へ明日の病欠を報告。
明日、奇襲を掛けることにした。
その日の夜妻を抱いたが、
いつもより激しく乱暴だった。
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翌朝、いつもの時間、いつもの格好で仕事へ出掛ける。
「行ってらっしゃい♪」
いつものように送り出してくれる妻。
向かう方向はいつもと違う。
調べによると〇〇カフェの開店は午前7時。
今日何時から女が出勤なのか、そもその出勤の予定なのかはわからないため、
朝一から張り込むことにした。
電車で二駅余りの場所。
(800万の横領しておいて、よくもまぁこんな近くでのうのうと暮らせるな)
女の図太さに苦笑いをしながら店までの道を歩く。
10分程歩くと・・・あった!あれだ。
オシャレな今風のカフェ。
テラス席には数組の客がおり、
忙しそうという印象はない。
私はカバンからマスクと伊達メガネを取り出し変装。
客を装い店内へと入っていく。
心臓の鼓動は早く大きい。
ここで取り逃がしてはまた振り出し。
何としても捕まえなければ・・・。
「いらっしゃいませ」
カウンターで注文し商品を受け取り好きな席へ行くシステムらしい。
俯き加減でまずはカウンターの女を確認。
違う・・・
「アイスコーヒーを。」
不自然さを見せるまいと必死に普通の客を装う。
商品を受け取り席へ着く。
新聞を広げ周りを確認する。
いないなぁ・・・
あまりキョロキョロとしても不審に思われるし、
相手は横領犯、隙を見せたら気付かれて逃げられてしまうかもしれない。
冷静になれと自分に言い聞かせながら、
従業員一人一人を目で追う。
違う・・・これも違う・・・この人でもない・・・
カウンター含み4人の従業員が店内の私の視界には入っているが、
全員違うようで、それ以上の人間がいる雰囲気もない。
まさか今日はいないのか・・・
不安になってはきたがとりあえず待ってみる。
店内へ入ったのは午前8時半。
現在午前11時。
コーヒーを追加注文を2回したがそろそろ限界か・・・
怪しまれたら店で噂になって警戒され逃亡も考えられる。
あまり長居は出来ない。
そして間もなくランチ時だ。
ここのおススメはランチらしい。
特にパスタが美味しいと昨日の夜行為を終えた後、
何気ない振りでの情報収集で妻が言っていた。
ランチ時は混むはずだし従業員が増えるはず。
それを確認するまで我慢をすることにした。
待つこと10分もう限界だと席を立とうとしたその瞬間。
「おはようございます・・・」
客と同じ入り口から一人の女が俯きながら入ってきた。
・・・・・・・・・・・・。
間違いない、やつだ・・・・・・・・。
私は思わずテーブルの下で拳を握りしめた。
ダメだ、慌てるな。
今バレたら逃げられてしまうかもしてない。
冷静に冷静にと自分に言い聞かせ、
女が準備を終え出てくるのを待つ。
すると白いシャツ、黒のベストに黒のパンツ。
シックな格好の女がホールへと出てきた。
店内は既にそこそこ忙しく、
食事を運ぶウエイトレスの姿。
その中にやつもいる。
そして意を決してやつが近くにいるのを見計らって声を掛けた。
「すみません。」
少し声が震えた気がした。
「はい」
店内に入ってきた時と同じく、
少し俯き加減で私を見る。
まずは私を認識させようと言葉を発さない。
?
何も言わない私に不思議そうに顔を上げた。
!!!
目がばっと見開き、明らかに私に気が付いたようだ。
すかさず私は声を掛ける。
「当然覚えてるよな?」
さっきとは比べ物にならない程俯き頷いた。
「店の中で騒ぐつもりはない、まぁそれも君の出方次第だけど。」
先ずは脅しを掛ける。
こういう交渉は普段の仕事から培った経験が役に立つ。
小刻みに震えながら上目遣いで私を見る。
「まぁ仕事もあるだろうしここは早く終わらせよう。まずはこの紙に今の君の住所と携帯番号を書いてくれるかな?あ、嘘は書かないようにね?もし嘘が分かったら会社は警察には言ってないみたいだけど、僕はすぐに行くから。人生損したくないだろうし正直に書いてね。」
そういうと用意していた紙とボールペンを差し出した。
女は震えながらペンを取り書き始める。
所々止まるが、早くしないと何があったか聞かれちゃうよ?と声を掛け、
早く書くよう促した。
そしてようやく書き終えたので、
そそくさと私は立ち上がり最後に女へこう告げる。
「今日は何時に終わるの?店の外で待ってるから。いなくなったら警察ね?」
「・・・15時です・・・。」
「わかった、15時に来るから。」
そう言い残し店を出た。
店外へ出て少し離れたところで深呼吸。
(やっと捕まえた。さぁどうしてやろうか・・・)
周りから見れば完全に不審者であろう。
電柱にもたれながらほくそ笑んでいた。
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いよいよか・・・
時間は14時50分。
店の前に着いた。
この3時間ソワソワして全く落ち着かなかった。
会社へ突き出すか、警察へ連れて行くか。
これからどうしようか色々考えはしたものの、
女の出方を見てから決めようという結論に至ったのだ。
そして15時10分。
女が店外へ出てきた。
相変わらず俯き左肩のカバンの紐を、
力強く両手で握っている。
自分がどうなるか、怖いのであろう。
私の前に立つと何も言わず震えている。
「とりあえず君の家に行こうか」
彼女ははっと顔を上げ断るつもりだったらしいが、
そんな抵抗は逆効果と悟ったのであろう、
頷いて私を先導する。
早紀の家はここか20分程歩いたとことにあるアパートだった。
そんな贅沢をしているような感じでもない。
歩きながら私は色々と考えた。
証拠として押さえる物は何か。
持っているボイスレコーダーで押さえる証言は何か。
お金の回収はどうするか。
そんなことを考えていると20分なんてあっという間だった。
早紀の部屋は5階のようだ。
奥から2番目の部屋の前で立ち止まると、
カバンから鍵を出し開けた。
早紀に続いて家に入ると、
女性の一人暮らしの匂いがする。
シャンプーなのかトリートメントなのか。
香水のような作られた香りではなく、
女性の自然な香りとでも言うべきか・・・。
何だか懐かしい気分だ。
早紀は奥の部屋に入ると、ソファーの前にあるテーブルを挟み、
逆側のテレビの前に正座をした。
私をソファーへ座らせようということか。
私は遠慮なくソファーへ腰をおろし、
黙って準備を始めた。
ボイスレコーダーとノート、ペン。
そしてデジタルカメラだ。
何が始まるのかと怯えながら早紀は私を見ている。
もう既に震えていた。
準備を終えた私はボイスレコーダーの録音ボタンを押し、
早紀に話し始める。
「〇〇早紀さん、いいですか?今から話すことは全て録音、記録します。先ずはそれに同意してください。」
頷くも黙る私を見て声を出さなければならないと悟ったのであろう。
「・・・はい、わ、わかりました・・・。」
震える声でこう答えた。
これで全ての準備は整った。
ここからが勝負だな・・・
私の心臓も鼓動を早め、
冷静さを保つことが難しい状態であった。
向かい側に正座で座っている早紀。
見下ろす私。
いよいよ決着の刻。
「では始めに〇〇早紀さん、私が何でここに来たか、あなたを探していたか。その理由は分かりますか?」
数秒の沈黙。
「はい、わかります・・・。」
沈黙はいたずらに苦痛な時間を長引かせるだけだと察したのか、
膝の上で拳を握り覚悟を決めた様子で早紀が答えた。
私は続ける。
「では単刀直入に聞きます。私は何であなたを探してここに来たのですか?」
「私が会社から盗ったお金を探しに来たのだと思います。」
「その額はいくらですか?」
「な、760万円です。」
「そのお金は今どこにありますか?」
「もうありません。母の手術代に使いました。」
(ん?想像していた答えじゃないな。どうせ嘘なんだろうけど・・・)
私は更に続ける。
「お母さまが病気だったとして、横領が許されると思いますか?お母さんはそれで喜ぶのですか?」
そう聞くと彼女は大粒の涙を流しながらこう言った。
「お、思って・・・いません・・・。も、も、申し訳ない・・・ことをした・・・と・・・お、思っています・・・。」
なんだ?なんなんだこれは・・・。
こんなはずじゃない。
何なんだ。
これでは私が悪いみたいじゃないか・・・。
動揺する私。
ハッと我に返り冷静になる。
騙されるな。罠かもしれないじゃないか。
女の涙は常套手段、信じるな。
そう自分を戒め質問を続けた。
「で、では、そのお母さんは今どこの病院に?」
「3週間ほど前に息を引き取りました。〇〇という病院で。」
そう答えると彼女は泣き崩れてしまった。
私は余りの衝撃に何も言えなくなってしまった。
この状況でこの涙。
嘘なのか?本当に。
本当であっても悪いことをしたことに変わりはない。
でもそれで裁くことが本当にいい事なのか・・・
もう既に善悪の範囲を超え、人間としてなど考えてしまっていた。
数分間の沈黙のあと、彼女は少し落ち着きを取り戻し、
こう話を始めた。
「母が亡くなったのは事実ですが、許されることをしたとは思っていません。今までも後ろめたい気持ちでいっぱいで、いつ謝りに行こうか迷っていました。母が亡くなった今、もう守るものも何もありません。警察へ連れて行ってください。申し訳ございませんでした。」
そう言うと、彼女は深々と頭を床につけた。
私は慌ててレコーダーのスイッチを切った。
なぜだか分からないが、頭を下げる彼女を助けたいと一瞬思ってしまったからなのか。
私は彼女に言った。
「頭を上げて。事情は分かった。でもなぜ僕の名前を使ったんだい?」
「優しそうだったからです。いつも笑顔で挨拶をしてくれてニコニコしていたから。名前を使っても許してくれるとかじゃなくて、事情を話せばわかってくれるとかでもなくて・・・上手く言えないんですけど。」
そう言って俯いた。
この子は嘘を言っていない。
その言葉でそう確信した。
嘘をついている人間は決まって言葉に詰まる。
更には落ち着きもなくなり、キョロキョロしたりする。
相手の目を出来るだけ見ないようにする。
そういった嘘つきの挙動が一切見られない。
そして今まで彼女への事情聴取に気を取られていて気付かなかったが、
奥の寝室であろう所に仏壇が置いてある。
もう疑いようがなかった。
私は彼女に話しかける。
「もういいよ、わかったから。顔を上げて?」
恐る恐る顔を上げる早紀。
「本当は金かえせーって怒鳴り込んで警察に連れて行くつもりだったんだけど、そんなこと言われたら出来ないじゃん・・・」
冗談交じりに言う。
「い、いいんです。私がやったことに変わりはないし、〇〇さんの言った通り母も望んでなかったことだと思います。ちゃんと償いますから!」
真剣に訴える早紀を見て余計にそんな気はなくなった。
騙されているなんてもはや微塵も考えてはいなかった。
「人間誰しも間違いはある!そこから何を学んで次に繋げるかが大切なんだよ!反省も必要だけど後悔しても始まらない。
ただ僕はね?後悔するような生き方をするなっていうのは間違ってると思うんだ。後悔って後から悔やむって書くでしょ?悔やむのとか失敗で落ち込むのとかは後からじゃないとできないじゃない?ってことは後悔しないイコール失敗しないよう安全な道だけを歩いていきなさいってことでしょ?
そんな人生面白くないじゃん!だから僕は死ぬほど後悔はすればいいと思う。
ただし同じ後悔や失敗を繰り返さないよう、後悔から学びなさいって思うんだ!だから早紀ちゃんも同じことをしないようにすればいいんだよ!」
おじさんの説教。
なぜか元気づける側へ回っている。
しかし早紀ちゃんは再び涙を流す。
「そんなこと言ったって・・・犯罪なんです、わ、私のしたことは・・・。法で裁かれるべきなんです・・・」
まぁ一理ある・・・と思ってはしまったが、今更引けない。
「犯罪でもなんでも一緒さ!後悔して悔い改める期間が必要だから刑に服す訳でしょ?もう充分悔い改めてるじゃない!」
無茶苦茶な理屈だと思っているが、
とにかく今は目の前のこの子を元気づけたい一心だった。
「でも・・・でも・・・」
しくしくとまだ泣いている。
そんな彼女の頭をポンポンと撫で
「はい、もう泣くのはおしまい!これからどうするか考えよ?」
そう笑顔で言った。
数分は俯いたまま肩を上下させていたが、
次第に落ち着きを取り戻していった。
ある程度落ち着いたのを見て私も考えながら話す。
「さて、そうは言ったものの・・・会社にどう言おうね・・・」
しまった!と思ってしまった。
また彼女が落ち込んでしまう。
やっぱり私がと言わんばかりの彼女を見て、
私は咄嗟に提案をした。
「こうしよう!会社へは760万円を返そう。それで彼女には逃げられてしまったということにしてしまうってのはどう?」
彼女は不思議そうにこう言った。
「返せるのであれば当然返すんですけど・・・そもそも働いて貯めたら返すつもりだったし・・・でも今はまだそんなお金ないから・・・。」
返す刀で私は言う。
「お金は大丈夫!僕が立て替えて返しておくから!」
早紀はひっくり返りそうになるぐらい驚きながらこう言った。
「と、と、とんでもないです!!そんなことさせられるはずないじゃないですか!!冗談はやめてください!!」
怒りの感情さえ伝わりそうな剣幕。
それはそうだ。ハメた相手に助けてもらうなど本来あり得ない。
私も自分が何を言っているかわからなくなりそうだ。
でももう決めたこと。
「大丈夫だって!幸い家計は僕が握っているし貯えもある!少しづつでも返してくれるのであれば問題ないからさ!」
「そういうことを言ってるんじゃないんですよ!」
早紀の興奮は収まらない。
落ち着くよう早紀をなだめる。
少し冷静になったところで話を進めた。
「僕もね?ほんとは出世街道まっしぐらでこの会社の為に頑張っていこうとは思っていたんだ。
でも今回の一件であっさり犯人扱い。君を突き出したところで今までと同じように働けるとは思うよ?でもお咎めを受けるよりあんな連中の思い通りに動くのなんかもうごめんなんだ!
お金さえ戻れば、僕もお咎め無しは無理だろうけど会社は文句言わないと思う。君を売って手柄もらっても何にも嬉しくないしね!
君の将来を優先するよ!大丈夫、僕はトップ営業マンだよ?この先見返すことも、更にはこの会社じゃなくても力は発揮できるから!」
そう笑顔で言った。
そう、これは本心。
この母を想う一心で犯罪に走り、自分の手を汚しても母を救おうとしたこの子の将来を潰してしまうことは私には出来なかったのだ。
もはやこの子を他人と思えなくなっていたのだった。
「でも・・・でも・・・」
まだお願いしますと言うことは出来ない様子。
「じゃあこうしよう。このお金は君に貸すだけ。必ず返してもらう!借用書も書いてもらう。それに今録音した真実は僕が握っている。もし返済が滞ったり、裏切るようなことをしたら、いつでも真実を話して君を警察に突き出す!それでどう?」
数分間が開いた後、早紀は答えた。
「わかりました。その条件で大丈夫です。でもお金は良いとしても私があなたにしたことは別です。お金は会社から盗ったのは事実なので返済で済むかもしれませんが、あなたが返済する理由にはなりません。関係ないんですから。だからあなたに何か償いをさせてください。それでなくてはその提案は飲めません!」
なんだか私が悪いことをしていると錯覚するほどの剣幕で言った。
わかったよと答え飯を奢ってと言ったら真剣に怒られた・・・。
結果、償いは彼女に任せるからまた教えてということで決着。
取り合えず連絡先の交換と担保として免許証のコピーをもらい、
その日は帰ることに。
時間は19時を回っていた。
帰り道で上司へ連絡をし、明日は通院ということで、
午後からの出勤ということにした。
当然お金を下ろしていくためだ。
ああは言ったものの残高を携帯で確認したところ824万。
殆ど明日無くなるのか・・・と今更少しブルーになった。
いや、自分が助けるって決めたんだ!と奮い立たせ、
何事もなかったかのように家路についた。
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翌朝、いつもの時間に家を出る。
向かうは銀行。
横領疑惑の掛かる760万円を下ろし会社へ向かった。
そして出勤後すぐに常務へと内線を繋げる。
お話があります。と。
指定の時間に会議室へ行き、
常務と副社長のみ座っていた。
直ぐに事の顛末を話し始めた。
「昨日、例の彼女を探し当てました。とある人の情報で〇〇付近のスーパーに買い物で来る彼女を見たという話を聞き待ち伏せをしました。
数時間後彼女が現れ捕まえました。取り合えずお金を返すよう説得をし、銀行まで一緒に行きました。
お金を受け取った私は中身を改めようと視線を落とした際、走って逃げられてしまい、追いかけましたが見失いました。
しかしお金はここに受け取って参りましたので、お収めください。」
ほぼ一息で話し切った。
息切れをしている。
お金を受け取った常務はこう言った。
「これが彼女から回収したお金だという証拠は?」
明らかにお前の金だろうと疑いの眼差し。
私は怯まずこう答える。
「証拠はありません。しかし会社としてお金が戻ってくれば問題ないと思われますがいかがでしょうか。」
二人が小声で話し「わかった。ご苦労様。下がりなさい。」と三言。
一礼をした私は晴れ晴れとした気分だった。
ここ数日のもやもやしていたことが片付いたこと、
上司の、しかも常務という役職者に自分の金を叩き返したこと。
後のことなど考える間もなく、達成感で一杯だったのだ。
その日は終業時間を迎え即退勤。
向かうは早紀の家だ。
この喜びを早く伝えたい。
自由にしてあげられた自分を誉めて欲しかったのかもしれない。
理由ははっきりとは分からないが、
とにかく急いで早紀の家へと向かった。
到着してインターホンを鳴らす。
ガチャっと鍵が開き早紀が出てきた。
早く言いたい衝動を抑え上がりこみ、
昨日のソファーへと腰を下ろす。
早紀が淹れてくれたコーヒーを一口啜ると、
私は話し始めた。
「今日、会社へは760万円全額を弁済してきた!もう早紀ちゃんは怯えながら生活する必要も責任を感じながら生きていく必要もないんだ!だから自由に伸び伸び生きて行ってね!」
今までの人生でこんな達成感と喜びに満ち溢れた瞬間はない。
それぐらい私は嬉しかった。
しかし・・・
早紀の様子に喜びは一切感じられなかった。
喜んでもらえるとばかり思っていた私はとても切ない気持ちになり、
一気にテンションが下がる。
思わず早紀に問う。
「どうしたの?嬉しくない?」
俯く早紀が顔を上げて答えた。
「嬉しいです、嬉しいんですけど・・・。やっぱり私はお金を借りただけだし〇〇さんを犠牲にしただけというか・・・。自分の力ではなにもしていないので喜べないというか・・・。」
確かに私は浮かれていたのかもしれない。
自分自身の正義のヒーロー具合に酔ってしまい、
早紀の気持ちを考えてはいなかった。
しかも他人が見れば本来あり得ない行動であり、
そんなヒーローになりたくもなければ、
詐欺を受けた加害者の気持ちなんか考える必要ないと
思うのかもしれない。
でも私はそれでもいいと思ったし、
早紀に喜んで欲しいと心から思っていた。
「ごめんね、早紀ちゃんの気持ちを考えずはしゃいでしまって・・・」
そう素直にへこむ私を見て、早紀は慌ててこう言った。
「ち、違うんです!嬉しいんですよ本当に。でも申し訳なく思う気持ちが大きくてというか・・・本当に有難うございます!感謝してもしきれないぐらい感謝していますから!」
「有難う。そう言ってくれると僕も嬉しいよ。」
さっきまでのテンション程ではないが、喜びを噛み締めた。
そこから暫くはお酒を飲みながら雑談タイム。
会社でのことやその後のことなど色々話をした。
改めて彼女、早紀は29歳独身。
母親と二人暮らしだった。
子供の頃から地味で目立ず、
いじめを受けたこともしばしば。
自分を表現することが下手で、
中々出会いも無く唯一の彼氏は24歳の時に別れ、
そこから一切男っ気無し。
肩ぐらいまである綺麗な黒髪。
黒縁眼鏡で奥には猫の様な瞳。
口元に黒子のあるぷっくりとした唇。
ピアスなど開けていない綺麗な耳。
身長152の小柄でな少しぽっちゃり気味のDカップ。
足は少し太めだが好みの肉付き。
そんなこんなで時間が経つのも忘れて話し込んでいた。
時計を確認すると23時を回っていた。
「あっ、ごめんごめん。つい長話しちゃったね・・・そろそろ帰るね!」
慌てて準備をする私を見て早紀が言う。
「いえいえ、こちらこそ遅くまで有難うございました。」
さぁ帰ろうと腰を上げた時、早紀が唐突にこう言った。
「あきさんってエッチなんですか?」
私はビクッとなり振り返る。
「な、なんだよ急に・・・」
「いや、さっきも色々話していましたけど、胸の大きさとか経験人数とか色々聞かれたから・・・」
しまった・・・。酔っぱらってとんでもないことを・・・。
そんな気はさらさら無かったが、これが本性というやつか。
恥ずかしさと情けなさで一杯の私に早紀はこう続ける。
「私もあきさんに償いはしなきゃいけないと思っていたし、あきさんさえ良ければ私を好きなように使ってくれませんか?奥様がいらっしゃるので無理にちは言いませんが、そういうことで償いになるのであれば、せめてお金を返し終えるまではそうさせて欲しいんです・・・。」
口元に手を当て、恥ずかしがりながらこちらを見ている。
可愛い・・・。
「す、好きなようにって・・・ど、どういうこと?」
私は焦っているのと興奮で生唾を飲みながら問う。
「ホント、好きなようにでいいんです。抱きたい時に抱いてくれればいいし、いじめたい時にいじめてくれればいいし。要は家を持ってる”奴隷”だと思ってくれれば♪」
彼女もお酒は飲んでいる。
しかしそんな判断能力が無くなる程は飲んでいない。
私は結構飲んでいるが接待などで飲み慣れてはいる。
今の言動が正気なのかそうでないのかの判断ぐらい出来る。
頭がフル回転する。
でもあまりの衝撃に言葉が出ない。
そんな私を見た早紀はこう言った。
「ご、ごめんなさい。変なこと言って・・・話を聞いている限り喜んでくれるかなって思っただけで・・・私に出来ることってあんまり思いつかなくて・・・お金もないし・・・。いいんです、忘れてください。」
切なそうな彼女がまた可愛い。
一瞬我を忘れて飛び掛かりそうになったが、
そんなことより終電がと我に返る。
「有難う、考えておくよ!じ、じゃあ今日はこれで!」
慌てて靴を履き玄関を出て駅へと急いだ。
駅へ向かい走っていたが、時間的に余裕があることに気付き、
上がった息を整えながら考える。
(好きにしていいってどういうことだ・・・奴隷ってなんなんだ・・・確かに助けたがそんなこと望んでもいなかった・・・急に言われてもな・・・妻もいるし・・・)
頭の中を駆け巡る思考。
もはやどうやって電車に乗ったか、
家に着いたか全く覚えていない。
家に帰ると電気は消えており、
テーブルに”お帰りなさい”と置手紙とラップの掛かった夕食。
ソファーへ腰を下ろし携帯を見ると、
”今日は有難うございました。本当に感謝しています。”と早紀からのメッセージ。
缶ビールを1本冷蔵庫から取り出し、
これからの生活、これからの奴隷との2重生活を、
既に考え息子は天を仰いでいた。
※申し訳ありません、書き始めると長くなってしまって・・・。
沢山のご評価有難うございます。
続きは出来るだけ早く書きますので、
楽しみに待っていただけると幸いです。
宜しくお願い致します。