彼氏の先輩と浮気した回

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窓を開ける音がして目を覚ます。

「おはよ〜」

網戸を閉めながら、拓也がこちらに目をやる。

「おはよう、もう11時半だけど」

「うそ、ごめん」

確かにもう日が高くなっている。

「いや、俺もさっき起きたとこ」

笑って答える顔が優しくて私も笑顔になる。

開いた窓から入り込んでくる日差しと風が暖かい。暖かいというか、少し暑い。9月になったというのにまだまだ汗ばむような日が続いている。

忙しい夏休みシーズンが終わって、昨日から5日間、遅めの夏休みだ。昨日は夕方から拓也が家に遊びに来てそのまま泊まってもらった。

拓也とは付き合ってもうすぐ半年になる。

「今日、本当に大丈夫?」

「ん?うん、楽しみだよ。ご飯食べたら準備するね。」

今日は拓也の先輩の家で飲み会の予定だ。私も顔見知りの大和くんも来るみたいだし楽しみにしているが、拓也の心配そうな顔が気になる。

「先輩、怖い人なの?」

「いや、怖いっていうか、いや、楽しい人なんだけどさ、」

どうも歯切れが悪い。

「先輩、2人いるって言ったじゃん」

「うん、鴻上さんとタツさんだっけ」

「その、鴻上さんのほうがさ、あの」

「なに、何か悪いことでもしてるの」

「いや、違うよ。そうじゃないけど」

少し焦ったように言うから、こちらまで身構えた。

「なんか、あれだよ。ちょっとノリが軽すぎるっていうかさ、失礼なこと言ったりしないか心配で。」

「なんだ、そんなこと。気にしなくていいのに。」

それだけか、と安心したので朝食の支度をしようと立ち上がる。あぁ、いや、もう昼か。

「何かあったらごめん。」

「大丈夫、大丈夫。」

食パンをトースターで焼き、バターを塗って食べる。昼のニュース番組を2人で笑いながら見て、食べ終わったら歯を磨き、着替えて化粧を終えた。時計は13時12分を指している。

「何時頃に出ようって言ってたんだっけ」

「昼以降なら何時でもって事なんだけど」

「じゃあ、もう出てゆっくり向かおうか」

「うん。今から家出ますって連絡するわ」

2人で家を出て、今日これから初めて会う2人の先輩の話を聞きながら歩いて駅へ向かい、電車に乗る。

目的の駅に着くと、そこから少し歩いたところで鴻上さんの家というマンションに着いた。

「ここだよ、ここの7階。」

「えっ、ずいぶんとまた…」

「やたら金持ちなんだよな」

思っていたよりも、駅から近くて立派なマンションだったので驚いた。

エントランスにあるインターホンに、714と入力して鳴らす。

「はいよ」

「拓也です」

「おぉ、早かったな。今開ける。」

「ありがとうございます」

曇りのない自動ドアがウィーンと開いた。上品な外観に目をとられる。7階まで上がり、部屋に着いたのでまたインターホンを鳴らした。

「開いてるよ〜」

「はい」

ドアを開けて部屋に入るとスラッとした男性が歩いてきた。

細く伸びた木の先に白木蓮が花を咲かせるように、頭が乗っている。黒い髪には緩くウェーブがかかり、センターで分けられた前髪から重心を少し目尻に寄せた丸みのある目が真っ直ぐにこちらを縛るように向けられていた。

その視線に拘束されて動けなくなったのも束の間、私と目が合ってすぐに彼の口角がふわりと上がった。うっかり心臓が騒ぎ出すのを悟られないように努める。

「初めまして、鴻上蓮です。蓮でいいですよ。」

「あ…私、拓也と付き合ってます、紗季です。」

「紗季さんね。今日はありがとうございます。」

「あ、いや、こちらこそ。どうもありがとう。」

聞いていた話よりも礼儀正しいし謙虚そうで、綿花のように軽やかな笑顔にも、喉の奥をきゅんと締めつけられるような思いがした。

「ヤマはまだですか」

「うん、でも、14時くらいに着くって言ってたから、もうすぐじゃねぇの」

廊下を通り、リビングに通されると、綺麗に整ったキッチンの前に小さい机と椅子があり、その横の広いスペースにテレビに向いた形でソファとテーブルがあった。リビングの横にはパーテーションで仕切られた和室まである。通ってきた廊下を考えると、この他にも2つ部屋がありそうだった。

何故、大学4年生の男の子が私より良い家に住んでいるのか。

大学での拓也の様子を聞き、笑いあってるとチャイムが鳴った。

「ヤマかな」と、蓮くんが対応する。

少しすると大和くんが部屋に着いた。蓮くんが玄関の方に行き挨拶を済ませリビングに2人で入ってくる。

「おぉ、お久しぶりです」

「久しぶり」

「最近あんまり来てくれなくなったってあすかちゃん泣いてましたよ。薄情なんだから。」

「大袈裟な。それでも月2回くらいは行ってるんだよ。」

確かに、大和くんと話すのは懐かしい感じがする。

「紗季さん、何飲みます?」

キッチンにいる蓮くんから声がかかった。

「あ、どうしようかな。」

「種類、こんな感じなんだけど」

手招きされたのでキッチンに向かう。トコトコと歩いて行くのは少し緊張して心が弾む。が、見せてもらうとぎょっとした。ホワイトホースとダルマが1本、無くなりかけのジャックダニエルと新品がもう一本。赤ワインが2本半と白ワインがまるまる1本。見知らぬ瓶が1本。あとはダンボールに入ったウィルキンソン。この量の酒があることよりもむしろ、缶がないことの方が不気味だ。

「これなに?」

「それね、ジン。飲んでみます?」

「いいの?」

「もちろん。」

「じゃあお言葉に甘えて。」

「割りますか?炭酸水とコーラしかないんだけど。」

「炭酸水がいいかな。ありがとう。」

「いいえ」優しく応える笑顔に言葉が詰まる。

「2人は?コークハイでいい?」

「あ、じゃあコークハイで。でも飲んじゃってていいんすか、タツさんは。」

「いいよ、あいつは。来るの夕方になるって言ってたから。」

それぞれの酒を持ち4人でソファに座る。

「ちょっと早いけど、乾杯」

話は思いの外盛り上がった。新宿によく飲みに行くと言うと、蓮くんはゴールデン街の店でバイトしていると教えてくれた。今度みんなで行きたいと言い合う。

全体に酔いが回ってきた頃、ドアが開く音がしてハッとする。気づけば空が赤く染まっていた。

リビングに背の高い男の子が入ってきた。前髪を上げた短髪で、パキッとした眉に、目鼻立ちがくっきりしている。いかにも聡明そうな男の子。

「あ、拓也の彼女さん。龍本陸です。初めまして。」そう言って爽やかに笑った。

「初めまして。紗季です。」

タツくんは他の3人ともいくつか言葉を交わすと、キッチンに入り、赤ワインとジョッキを手に取り蓮くんの隣に座った。ジョッキ!?

拓也の顔を伺うが気にも留めていないようだ。ワインがあんなに置いてあったのはこの為か。

「おい、お前、ちょっとは控えめに飲めよ」

「いいだろ、いくらでも酒があるんだから」

「全部、タダってわけじゃねぇんだってば」

蓮くんが随分と楽しそうに笑った。

「紗季さん、こいつすげぇ金持ちなんすよ」

私に向かって言う。「あぁ、」と曖昧な声が出る。

「親に内緒でホストやってバカ程稼いでて」

「だから、」

蓮くんの、思わず、と言った感じで下を向いて笑うのにどきっとする。

「ホストじゃねぇよ。ずっと言ってんだろ」

「さっき話した、ただの小さいバーですよ」

人が増えたことでさらに話も弾み、みんなでポーカーをやってみたりもしてどんちゃん騒ぎだった。

「うわ、もう日付変わってんじゃん」

とタツくんが言った時、既に0:30を回っていた。

「そろそろ寝るか?」

全員が同意したので片付けに入った。

「紗季さんは廊下出て左の、奥の部屋で寝てください。拓也と一緒でいいですか。」

2人で頷く。「ありがとう」「ありがとうございます」

「あとソファに1人と」

「俺、ソファでいいよ」

「じゃあヤマが布団で」

「え、いや、じゃあ俺」

「いいから、いいから」

それぞれ歯を磨いたり、軽くシャワーを借りたりして、各々の寝る場所に向かった。拓也と一緒にベッドに入ると、お酒が入っていたこともあってすぐに眠りについた。

夜中、ふと目を覚ますとお手洗いに行きたいことに気がついた。外はまだ暗い。拓也を起こさないようにそっとベッドから出て、立ち上がる。喉も乾いている。

お手洗いで用事を済ませた後キッチンで水を飲ませてもらおうと、そっとリビングへのドアを開ける。机からパソコンの光が目に入った。見ると、蓮くんが座っている。起きてたのか。

先程と違う、部屋着に眼鏡姿の蓮くんに、心臓がサボっていた仕事を急ぐように動き出す。会釈をしてキッチンに向かうが、蓮くんが立ち上がって近づいて来た。キッチンの電気をパチっと点ける。途端に鮮明に見えた蓮くんの顔から、つい目を逸らしてしまう。

「喉、乾いちゃいましたか?」

「うん、お水貰おうと思って」

ソファで寝ているタツくんを起こさないようにと、小声で喋る。余計に胸が鳴る。

「起きてたんだね。」

「そう、卒論がね。」

「あぁ、大変そう。」

蓮くんが何も言葉を返さなかったので顔を見ると、目が合った。

「紗季さんってさ、」と言い、蓮くんの腕が動いたので顔を向けると、手が私の腰に伸びてくるところだった。

「え、」

何が起こるのか見当もつかなかったけれど、もしかして出番ですかと下半身がじんと疼く。蓮くんの次の言葉を待とうと目を見つめた。

ガサッ

反射的に音の鳴った方向を見ると、ソファからタツくんが起き上がってくる。口から心臓が飛び出すかと思った。

キッチンにのそのそと歩いて来てコップを2つ取り出し、冷凍庫から氷をひと掬いずつコップに入れて水を注いだ。1つを私に手渡してくる。

「どうぞ。」

「あ、ありがとう。」

動揺しながらも、なんとか応える。声が震えているのが、視点が定まらないのが、バレていないだろうか。タツくんがぐびっと水を飲み干すと、シンクにコップを置き、「蓮、お前も早く寝ろよ。」と、鋭く蓮くんを見つめた。

蓮くんは飄々と「わかってるよ。もう寝る。」と答える。タツくんが蓮くんから目を逸らして背を向ける。

「トイレ、借りるぞ」

「あぁ」

タツくんがリビングを後にし、ドアの向こうからまたドアの開閉音が聞こえた。2人きりになった緊張を隠すように水を飲む。

「俺の寝室、場所わかります?」

唐突に聞かれ、思わず頷く。まだ開けていないドアは1つしかない。

「じゃあさ、そこでちょっと待ってて」

「え、なんで」

「いいから」

「でも、」

「いいじゃん、とにかく、すぐ行くから。」

さすがにダメだ、断ろうと思い口を開こうとしたところ、髪を掻き分けて首にそっと手を添えられた。「ね?」と余裕を湛えた笑顔の蓮くんが目に入る。異論を唱えることが出来なかった。

「あ、わかっ…た…」

「うん、じゃあ先行ってて」

蓮くんは机に戻り、私はリビングを出た。廊下を歩き、初めて開けるドアを、音を立てないようにそっと開ける。

背後からザァっと音が聞こえた。叫び出しそうになるが、すぐにトイレの流れる音だと気がつく。急いで、しかし音を立てないように部屋に入りドアを閉めた。

トイレのドアの開く音が聞こえた時にはまだ、ドアノブを握っていた。必死で息を整えようとするけど、うまく息ができない。部屋の様子は暗くてわからない。

なんで私は蓮くんの寝室でぼぉっと立っているんだろう。この後、どうなるんだろう。全く予想がつかないわけではない。今自分が立っているのは、堂々と拓也に言うことができるような場所なのか?準備しましょうかと、また子宮が出しゃばる。

ガチャ。

ドアが開く。蓮くんが入ってきた。ドア横の机に置いてある間接照明を灯ける。

「お待たせ」

「いや、全然」

蚊の鳴くような声で答える。

「そう、さっきの話なんだけどさ」

さっきの話?なんだっけ。頭が混乱していて何もわからない。今も私の耳を隠していた髪の毛を、蓮くんの手がかきあげている。

「紗季さんって、」

あぁ、あの時の。思い出した。蓮くんは何か言いかけていた。

蓮くんの顔が私の右耳に近づいてくる。

「ちょっとだけ、俺の事好きでしょ」

どん、と心臓が大きく胸を打った。図星、という程でないにしても、胸を張って否定することはできなかった。顔がすぐ近くにある興奮もあって、どんな言葉を返すべきか見つからなかった。目が回る。

「え、ぁ、いや…」

冷静な思考が戻ってきたのか、何をするべきか混乱した頭でもやっと答えを出せたのか、とりあえず蓮くんの胸に手をぐいっと当てて体を離そうとした。その瞬間、ぐっと体を抱き寄せられ、抵抗しようにも力では敵いそうになかった。耳をくっと噛まれる。

「きゃ!いや、待って、蓮くん、離して?」

無理やり体を離して顔を向き合わせた。蓮くんは目を細めて微笑んでいる。

「なんで?紗季さんが部屋に来てくれたんでしょ。」

そう言われれば、そうだ。

「あと、大きな声出さないで。この家に防音室は無いから。」楽しむように言う。

今、ここにいることが誰かに知られてマズいのは私の方だと初めて気がつく。同時に、気がつくのが遅かった、とも思う。後戻りができる段階はとうに過ぎ去っているように感じた。

「待って、でも、やっぱり……」

それでも、最後の抵抗をしようとする。

「いいじゃん。俺も結構紗季さん好きだよ。」

愛の告白とは到底思えなかったが、鼓動が早まるのは止められない。下腹部がずん、と熱を持つ。

蓮くんがブラウスのボタンに手を伸ばす。1番上のボタンが、ぷつっと外れた。咄嗟に、蓮くんの手を掴み、「やめて、」と言う。

「動かないで」

そう言い放つ彼の目が冷たくて、心臓が止まったような気がした。ここで騒いで利がないのは私だ。どうにもならない。大人しく手を退けた。

「ありがと」と、おでこにキスをされ、またボタンを外すのに取り掛かった。

ボタンが全て外れると、ブラウスを腕から抜き取り、スカートのジップを下げた。スカートがはらっと重力に従う。

キャミソールと下着だけの姿になる。

私はパンツの前に手を持っていき、ささやかな抵抗をする。

蓮くんがキャミソールに手をかけ、ずり上げた。

「バンザイ」

そう言われても踏ん切りがつかず、動けないでいると、私の目をじっと見て同じ言葉を繰り返した。

「バンザイ」

私はどうするのが正解なのかを見つけられずに、意味もなく目を逸らした。どうにか助けを求めようと、蓮くんの目をもう一度見た。蓮くんの視線は私を真っ直ぐ刺し続けたままだった。怖くなって、キャミソールにかけられたままの蓮くんの手に触れる。

その手を弾き、溜息をひとつ漏らし、瞬きをする間に私から目を逸らした。キャミソールから手は離され、体ももう私の方には向いていない。

出て行くの?なんで?ごめんなさい。

彼を怒らせたかと思うと、なぜだかこの世の終わりのように恐ろしくなった。

「まっ……」

引き留めようとした時、彼が開けたのはドアではなく机の引き出しだった。私は訳が分からないまま眺めていた。蓮くんの右手が引き出しの中に隠れて、次に出てきた時にはハサミが握られていた。「えっ」と声が出て、恐怖に身体が固まる。蓮くんが私に向き直ると同時に、シャッと金属の擦れる音がしてハサミの刃が開いた。

私の肩に近づいてきた左手がキャミソールの肩紐をそっと掴む。右手に持たれたハサミも肩紐に添えられる。冷たい金属の刃が肌に触れてヒヤッとした。その時にようやく頭が働いた。

「待って、待って、ごめんなさい。」と急いで言い両手を上にあげる。ハサミは閉じかけていた。

「うん、そうだね、その方がいいな」

彼の口角がふわりと上がり、ハサミを机の上に置いた。一気に安心して、されるがままに脱がされた。

ブラジャーのホックを外される時に肩を丸め、腕から肩紐を抜かれる時に手を前に差し出した。

パンツにも手をかけ、するりと下まで下ろすと「足上げて」と言われたのでそれも言う通りにする。

あっという間に全裸になっていて、見られたくない部分を手で隠した。下を向くことしか出来ない。無防備になったアソコを守ろうとでもしたのか、じんわりと濡れてくる。

蓮くんが私の両手を取って後ろに持っていき、右手で2本の手首を固く掴んだ。試しに逃げようとするが、抵抗にもならない。

肩にキスをされる。それから、鎖骨、首、胸と彼の口が滑っていく。

「んっ…んぅ……はぁ、ぁ、」

体が疼いて、中から溢れてくるのがわかる。

呼吸を整えようにもやり方が分からない。

口付けが乳首にも届いた時には、もうほとんど自分の足では立てなくなっていた。足の付け根がぬるぬると冷たい。息を止めているはずなのに、声が漏れる。

「キスマークだらけだね」と笑われて、我に返った。拓也への申し訳なさを思い出す。

「1つくらい増えてもバレなさそうだけど」

「いや、だめ、それはやめて、お願い」

蓮くんと目が合う。逸らさないようにと目の周りの血管をぴんと張るようにした。

「わかった。」

すぐに引き下がってくれたのでほっとする。

蓮くんの左手が私の右肩に添えられた。「紗季さん、回れ右。」

後ろで私の手首を掴む右手と、肩に添えられた左手に誘導され、私の体はベッドの方を向く。「前進」

言われるがままにベッド横まで数歩あるいたところで止まると、後ろの手にぐっと体を押され、ぼふっとベッドに倒れ込んだ。

当たり前に目の前は真っ暗闇になり、焦って体を起こそうとしたら頭を押えつけられた。指の力が強くて、また心臓がどくんと鳴った。手首を固定していた手は離され、代わりに右腕を握られる。背中や首に何ヶ所もキスをされた。

「ん……ぅぐ…んん…」

ぞくぞくと感じてしまう。特に、うなじの辺りをキスされた時は、大きな声が出そうになるのを抑えるのでとにかく必死だった。脚がばたばたと動くのを止められない。顔を布団に埋めていなかったら隣に聞こえてしまっていたかもしれないと、不安と安堵が入り交じる。

「ぁっ……ん、ぅ、くっ…ぁあ」

息が荒くなり呼吸を上手くコントロール出来なくなってきた頃、左肩に触れていた口がそっと離され、ぐいっと体をひっくり返される。目が合うと、蓮くんがにこりと笑ったように見えた。

腰から身体を持ち上げられて、ベッドの真ん中に横たわらせられると、蓮くんの頭が私の下腹部へと徐ろに移動した。クリトリスにぴたっと口が押し付けられる。

「ぁあっ!」

声が出たことに驚いて急いで口に手を当てたが、蓮くんからも「声出さないでって」と言われる。小さく頷いた。

蓮くんがクリトリスに口を付けるのをやり直し、私は今度こそ声を堪える。

温かく包まれたクリトリスが舌にそっと撫でられて、強烈な快感に襲われる。

「…んっ…ぁ…んぅ……」

柔らかい舌でくるくると絶え間なくなぞられる。声を抑える他に何も考えられない。

「ぁぁあ……ぅ…んっ……」

私の左脚に添えられていた蓮くんの右手が離れ、布の擦れる音がすると、蓮くんの指が私の中にぬるりと入ってきた。

「めっちゃ濡れてんじゃん」

顔を上げた蓮くんがこちらに笑いかける。慈愛ではない、優越感と嘲りの笑顔だ。

「ちがう……」

「違くないでしょ」

奥の方を指でととと、と触られる。

「あっ……ん…ぁ……」

外と中の両方から絶えず快感が押し寄せ、身体を捩る。腰を浮かせる。口に当てた手に力を入れる。隣の部屋に拓也が居なければきっと大声を出していた。

「ぅああ、、はぁ、んんっ……」

蓮くんの指の動きが変わった。奥から手前へと深く出し入れされる。

「ぁ、ぁ、ぁ、あ、あ、あ、あ、」

出ちゃいそう、とも思ったがそれを言うのは憚られた。

「まっ、て、れんくん、まって」

上手く喋れないのに加えて、声を絞ろうとしたので聞こえていたかどうかはわからない。とにかくやめてもらおうと、蓮くんの頭を押しのけようとした。

プシャ、プシャアと体から水が抜けていく感覚がある。どんどんと溢れてくる。

「やだ、ぁ、ごめんなさい、まって」

蓮くんは気にしていないのか、動きを止める気配がない。

「あ、あ、だめ、やめて、イッちゃう、まって」

蓮くんの動きがピタリと止まった。

「んぅうっ……!!!」

動きが止まったからイくことはできないのに、指を入れたまま、口もつけたままで、じわじわと快感に締め付けられる。

「んぁああっ……れん、くん……」

呼びかけると、顔を上げて指を抜いた。恥ずかしくて顔を手で覆った。

自分の腰の右側でマットレスに重さが乗り、沈んでいる感覚があった。すぐ横に蓮くんがいるんだろうが身体を動かせない。

「ごめんなさい」

目を覆っていた手を持ち上げられ、胸の上に置き直される。

「なんで?かわいいじゃん」

小動物に悪戯をして面白がるような、勝ち誇ったような顔がこちらを向いている。涙が眉間に集まってくるのがわかった。

「挿れていいよね」

私に問いかけたわけではないのか、答えを待つ素振りもなくズボンとパンツを脱ぎ始めた。

脱いだ服をベッドから床に放り投げると、足の間に座り直して「口でして」と言った。

身体を起こして、蓮くんのそれに口を近づけた。

拓也のと比べて少し小さいと思ったが、舐め始めると、それがまだ少しだけ柔らかいことに気がついた。続けていると硬さを増し、ひと回り程大きくなった。

「気持ちいいよ」と言い、私の頭を撫でた。それだけでも体が疼いた。

「咥えて」

言う通りにするために一度口を離し、彼のモノを手で支えてから口に含んだ。意外に太くて、口を精一杯に開けなければいけなかった。根元まで咥えるのはちょっと厳しいな、と判断して蓮くんの身体から頭を遠ざけようとするが、それは叶わなかった。蓮くんが私の頭を掴んで無理矢理に押さえつけたからだ。

そういう玩具を使うように、私の喉の奥に自分のモノを押し込み、引き抜く、それを繰り返した。

蓮くんの息が少し乱れているのが聞こえる。私の方は息ができそうにもない。

考えが甘かった、としか言いようがないけれど、こんな強引なやり方をされるとは思っていなかったので焦って蓮くんの太ももを強く叩く。それに意味が無いとわかると、次は力を入れて蓮くんの腰を押した。

これもだめか。さらに力を強めた。脚を伸ばしてみる。頭の位置は変わらず、ただ腰が持ち上がるだけだ。顔が熱くなってくる。

頭を押えている、この腕が諸悪の根源なんじゃないかと思った。急いで腕を掴む。なんとか頭から離そうとする。それができりゃ苦労しないだろうなと、笑われているような気分になる。掴んだ手で腕を握り潰してやろうと試みる。無理に決まっているだろうと、また頭の中で声が響く。

蓮くんの腰を押す左手に、さっきまでの手応えがなくなってきた。最初は大岩を動かすような気持ちだったのに、今のこの力じゃ枕を動かすのがやっとだろう。腕を握り潰すはずの右手は、今や振り落とされないようになんとかぶら下がっているだけだ。

身体がだんだんと軽くなっていく。目を開けていられない。家で留守番しているぬいぐるみや、使いかけの白菜、もうすぐシーズンが来るお気に入りのコートが頭によぎった。山を見下ろして、波を見上げるような景色を見た。

「あっ、」

ふわふわと薄れた意識の中で、蓮くんが息を飲むような、声にならない声を聞いたような気がする。頭にあった手が、気がつくと両肩を掴み、私の上体を起こしていた。

なすがままに正座を崩したような姿勢になるが、突然肺に空気が入ってきたものだから、またすぐに腰を丸めて咳き込んだ。一瞬だけ見えた、酷く焦って目を見開いた蓮くんの顔が腹立たしい。

蓮くんが深く息を吐き出すのが聞こえる。こっちはずっと息を吸うことも許されなかったいうのに呑気なものだ。

正常な呼吸を取り戻し始めて文句を言おうと正面を向くと、蓮くんはバツが悪そうに左目を少し細めて眉を歪めていた。「ごめん、」

素直に謝られるとは予想していなかったので拍子抜けする。「いや、まぁ、大丈夫だよ」もごもごと返す。

「うん、よかった」

「じゃあ、横になって」

「え、」

「え、」

いつの間にか、もう拓也が寝ている部屋に帰る気でいたのでつい驚きの声をあげてしまった。

蓮くんの目が何かおかしなこと言った?と喋っている。

「あ〜、じゃあ、あっち向いて」と蓮くんの人差し指が私に向けられる。

「え、いや……」

どういう方針の転換?別にどっちでもいいよ。いや、どっちもだめなんだけど。ていうか口でしてあげたんだからいいじゃん。これ以上は誰かが起きても困るし。そもそも、ここでこんな格好をしてること自体、おかしいんだって。もう拓也がいる部屋に戻るよ。

言いたいことは山程あるのに、頭を巡るだけで口からは出てきてはくれなかった。

「なに?挿れるから。早く」

蓮くんが眉をしかめるのを見ると、ひゅっと息が苦しくなった。従わないと自分が消えて無くなるような気がした。それに、いざ挿れると言われるとさっきまでの疼きが倍になって体にのしかかった。仕方なく、言われるがまま体の向きを変えた。

向きを変えるために立てていた右膝を倒そうとしていた時、蓮くんの手が私の首を後ろから掴んで押し、どさっとうつ伏せにさせられた。

立ち上がろうと肘を立てて腰を浮かせたが、首がベッドに押し付けられているからおしりを突き出したような姿勢になった。抵抗しようと腕に力を込めた時、私の穴に蓮くんのが突き立てられて一気に奥まで入ってきた。

「んんっ!!!」

声が漏れないように枕に口と鼻を押し付ける。

「………はぁっ、はっ、んっ…」

まだ入っただけで動いてもいないのに、その圧迫感だけで感じてしまう。快感を逃がすように、息を吐いた。

「ふぅう…んんっ、うっっ……」

腰を掴む蓮くんの手に力が入り、更に奥をぐいっと押し込まれる。

「ぁあっ……っ!はぁ、ぁぁ、ふぅっ…」

「紗希さん、可愛い…」

言葉に混じる吐息に思わずどきっとして、お腹の奥に快感として届いた。

「んっ…。なか締めるのだめ。」

蓮くんがふっと笑った。閉じた歯を少しだけ見せて、左よりも右の口角を上げて、目を細めて笑っている。顔を見なくても、何故だか手に取るようにわかった。

「ぁ…ごめ…ん…」

締めるなと言われると、それはそれで難しい。快感の逃げ場が無くなって、どんどん押し寄せてくる。

「んっ……ぐ…っ、んぁあ、うっ……」

唇を噛み締めて、その辺にあるものを片っ端から握りしめた。枕の端、シーツの皺、そしてベッドの枠に手を伸ばしたところで蓮くんが1歩前に膝をずらした。当然、どんと奥を突かれる。いつの間にか腰を逃がしていたことに、その時気がついた。

「んぁっ!」

思わずお腹に力が入る。

「っ!ちょっと、締めないでってば」

それどころじゃない。

「ぁあ……ああぁっ…うっ…はぁっ、」

謝る余裕もなかった。言葉を発することができないという以前に、蓮くんの言葉を聞いて、それを理解し、反応するということができなかった。

「じゃあ、動くよ」

「あっ、えっ、」

抗議する暇もなく蓮くんの腰が離れて、また近づいた。ガンガンと奥を突かれる。

「んんぅぅうううっ!!!」

歯を食いしばって、喉を閉じて、息を止めて、枕に顔を押し付けた。

動く度に中が擦れて、広げられて、奥を突かれる度に重い快感が脳に届いた。

「ああぁっ!んっ、ん!!ぃやああ!」

休みなく深いピストンで、頭がショートしそうだった。なにも考えられなくても、絶頂が近づいて来たのはわかった。

「ぁ、ぃゃ、んぁっ!まって、い、いっ…」

その時、ギリギリ奥に届かないような所で蓮くんの動きが止まった。

「ぁぁあっ…!え、んっ……なん、で……」

「いや、待ってって言ってたし。痛かったかなって思って。激しくしてごめんね?」

「あ、いや……えっと、だいじょぶ…ありがとう」

「そ?続けていーい?」

「ぅん……」

さっきまで抵抗していたことなんてとうに忘れて頷いた。とにかくイってしまいたかった。蓮くんがゆっくりと腰を引いたから、再開してくれるものだと疑わなかった。

「んっ……」

しかし、蓮くんのはそのまま完全に中から出て行った。

「え、なんで?どしたの?」

「仰向けになって。今度は優しくするから。」

言うことを聞く以外の選択肢はもう頭になかった。体をひっくり返すと、曲げた膝の下を蓮くんが持ち上げてゆっくりと入ってきた。

「はぁああっ……」

もう少しで奥に届くというところでゆっくりと引き返し、またゆっくり入ってくる。その繰り返しで、到底イクことはできなかった。

「あぁっ…あっ…いやぁああっ………」

快感の波は押し寄せるのに、何かに塞き止められているようだった。

「あぁぁ……ねぇ…れんくん……」

「ん?」

「んっ……やだ……」

「いや?」

「……」

イキたい。でも、悔しいとか、拓也に申し訳ないとか、これ以上は声を抑えられないかもとか、どうするべきかという答えは明らかだった。それと同時に、どうしたいかという答えもまた明らかだった。

葛藤している間にも、蓮くんは動きを変えない。

ゆっくりと入ってくる。

「ぁぁぁぁ……んぅっ……う…」

奥に届くようにと腰を動かすが、蓮くんが引き返す方が早い。

「んんっ……はぁ……」

ゆっくりと抜けていく。

「いやあああああぁぁぁ……」

入ってくるにしても抜けていくにしても、蓮くんのいちばん太くなっている所がGスポットの辺りをずっと擦り続けた。入り口が押し広げられたまま、何度も何度も行ったり来たりを繰り返した。

自分の中のヒダひとつひとつも、蓮くんのに刻まれた段差も鮮明に感じるくらい敏感になっていた。

「もう…むり………」

蓮くんが動きを止めて、親指で私の右目を拭った。涙が出ている事に気が付かなかった。

イかせてくれと目で訴えた。何をどう受け取ったのか、私の頭を撫でて「かわいいね」とだけ言った。

「おねがい……」やっとの思いで口にした。

「なに?イキたいの?」

肯定することは拓也を裏切ることと分かっていた。でももう、頭がおかしくなりそうだった。藁にもすがる思いで頷いてしまった。

「声、我慢できる?」

質問の意味を理解するよりも先に頷いた。自信や確証なんてあるわけがなかったが、そんなことは問題じゃなかった。後からどうにでもなるように思えた。

蓮くんが腰を丸めて私の胸に顔を近づけた。何かと思っているうちに、先端を口に含んだ。

「っっ!!」

舌でそっとなぞられる。歯で軽く挟まれる。これくらいなら…なんとか。息を止めていれば、声を出さずに済む。

暫くして蓮くんが顔を上げた。

胸への刺激が急になくなって、中をみちみちと圧迫されるのが余計に鮮明に感じられる。

少なくとも今、緩い快感は快楽とは程遠いものだった。

息を吐き出す。意識せずとも、肺は勝手に広がった。また吐き出す。

「はぁっ……っふぅ…」

声を抑えることに必死で、イキたいと思っていた事も忘れていた。いや、もしかして、

「大丈夫?」蓮くんの嘲笑が目に入る。

やっぱり、わざとか。完全に弄ばれている。

でも、”もういい、部屋に戻る”と言い残して出ていくことができる程の冷静さなんて残っていなかった。できるのは懇願だけ。

「イキたい……」

「ん?いいよ」

あっさりと言葉を返して、キスをされた。

「声、我慢してね。」と言うと、グリっと奥を擦られるようにめり込んできた。また擦るようにして元の位置に戻る。また入ってくる。その繰り返しはだんだんペースを早めて行った。

「あっ、あっ…んんっ……あ、いく…!いっちゃう…!!」

蓮くんの手が、私の口を抑えた。声を出さないように気をつけなければならないことを思い出すが、それどころじゃない。

「んっ…んんんんっ………!!!」

体全体が脈打って、一気に力が抜けた。呼吸が整えられない。口を抑えていた手で頭を撫でられる。

「はぁっ…あっ……」

「あっ、あっ、まって、まってれんくん、」

余韻に浸る間もなく、蓮くんが奥から手前と深いピストンを始めた。

動きを止めることなく、蓮くんが人差し指を口に当てる。慌てて自分の口を塞いだ。精一杯の理性と意地で声を抑えた。それでも、今にも叫び出しそうだった。

「あっ、まって、またいっちゃう、まって」

当然、蓮くんが動きを止めることはなかった。

「あっ、あっ、あっ、んっ、……!!!」

頭がチカチカして、体のどこにも力が入らなくて、呼吸もできない。

「大丈夫?俺もそろそろいきそう…」

声も出なくなった私を心配したのか蓮くんに声をかけられる。この不貞行為がもうすぐ終わることについて、寂しさも安心もなかった。何も考えられなかった。

蓮くんがピストンを早めた。苦しいのと気持ちいいのがごっちゃになって、時間が止まったように感じた。眠りにつく瞬間を何時間も過ごしているようだった。

蓮くんの動きは突然、ガンと奥を打ったところで止まった。

蓮くんが長く息を吐いた。ひゅうっと肺に空気が入ってくる。吐き出し方が分からなくて咳き込んだ。暫くして深呼吸ができるようになった。体はまだ痙攣して、頭もぼおっとしている。蓮くんが机の引き出しを開けるのが見えた。近づいてくる。蓮くんの手が私の頬をぺちぺちと叩いた。目の前の景色が現実として戻ってきた。自分の呼吸が正常に戻っていることに気がつく。

「これ、あげる」

手渡されたのは錠剤だった。酔いが冷めたように頭がハッキリする。背筋が凍った。急いで体を起こす。

「これ…」

「アフターピル。一応飲んどきな。」

こんなものが普通の男子大学生の部屋の引き出しから出てくるとは思えなかった。ということは、蓮くんは普通の男子大学生じゃない。とんでもないことをしてしまったんじゃないかと後悔した。

「ありがとう」と言って何故か受け取ってしまう。

他人から処方薬をもらっていいのか。なぜ蓮くんが持っていたのか。これは本当に緊急避妊薬か。そうじゃないとしたら何か。本物だとしたら副作用は?避妊率は?酒を飲んだ後に飲んでもいいの?

冷静に頭を働かせた。

偽物だとして第一に、睡眠薬の類であるはずはない。もう事は済んでいるのだから飲ませる必要はない。

第二に、人を殺せるような薬が1錠の形になって簡単に世に出回るはずはない。フィクションによくある服毒自殺も、大抵は毒薬を仕入れるか大量の薬を飲むかどちらかだ。

第三に、悪戯や嫌がらせで下剤等である可能性。これもほとんどない。そんなことをするメリットがない。

今回のことは蓮くんにとっても知られたくないことであるはずだから、信じることにした。

ぷちっと薬包から薬を取りだし、えぇいと飲み込んだ。

「じゃあ、来てくれてありがとうね。また明日。」と言ってドアを開けた。促されるまま部屋を出る。お手洗いに行ってから、拓也の眠る部屋に戻った。考えることが多すぎて寝付けないと思ったが、泥のように眠って昼を迎えた。

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