サツキとの関係はその後も続いている。
俺はサツキが回してきた書類に目を通しながら淫らになる前のサツキを思い出していた。
そもそもサツキとこうなったきっかけは、些細なことだった。
三十過ぎで早くも閑職に追いやられた俺は、はっきり言ってくさっていた。
同期がどんどん出世していく。
そんな中で、俺は雑用ばかりを押し付けられるこの部署だ。
誰にも注目されず、毎日を過ごしていた。
異動して暫くは、挽回しようと必死で頑張ったが、徒労に終わった。
サツキは引っ込み思案で大人しく、目立たない存在だったが、何故か俺には親切だった。
周りがみんな冷たかったので、サツキは普通だっただけかもしれない。
そのうち、俺は昼休みになると会議室に籠もるようになった。
自由時間だからといって何をしてもいいわけではないが、俺はランチタイムになるとこっそりエロビデオを観賞するようになっていた。
音が漏れてはさすがに拙い。
だから、ヘッドホンを装着するようにしていた。
その日のメニューは、会社の部下が上司に手籠めにされるという内容のものだった。
俺はズボンと下着を膝まで下ろし、行為に耽っていた。
上司が部下の社員に嵌めて、ハードなピストンを繰り出した時、突然会議室の扉が開いた。
戸口には、呆然と立ち尽くすサツキがいた。
いつもは鍵をかけているのに、そのときは忘れてしまっていた。
サツキは会議室のドアをノックしたようだが、ヘッドホンをしていた俺には聞こえなかった。
そこへサツキがやってきて、ドアを開けてしまったのだった。
無防備な俺の下半身はサツキの目の前に晒された。
サツキは口元を手で覆い、ドアも締めずにその場を立ち去っていった。
気まずさだけが会議室の中に取り残されていた。
何とか取り繕わなくては。
そう思った俺は、身づくろいをするとサツキのデスクへと向かった。
「サツキ…」
後ろから声をかけると、サツキの肩がビクッとなったのがわかった。
だから、聞こえていないはずはない。
だが、サツキはデスクに向かったまま、身じろぎもせずに固まったままだった。
お昼時で、オフィス内には俺たち二人しかいない。
「サツキ」
もう一度声をかけた。
それでもサツキは返事をせず、椅子に座ったまま、振り向かなかった。
「驚かせたな…」
そう言って、サツキの肩に手をやると、手が触れた瞬間、再び身体がビクッっとした。
その震えを手に感じた瞬間、俺の中でザワザワ感を覚えた。
それまでに感じたことのなかった感覚だった。
ただやけくそだっただけかもしれない。
「サツキ…」
そう言いながらサツキの椅子の横で片膝をついて、少し下からサツキを見上げた。
サツキは、そのときやっと声を出した。
「さ、佐々木さん…」
やっと返事をしたサツキに俺は少しホッとした。
そして、どう言い訳しようか、必死に考えていた。
だがいきり立った股間を扱いているところをまともに見られている。
野球で言えば、完全にアウトだ。
いや、例えるなら、デッドボールを通り越してバックネットかもしれない。
暴投だ。
言い訳のしようがない。
やはり、やけくそになるしかなかった。
「サツキ…、見たよな?」
するとサツキは小さく首を横に振った。
あれだけモロに見ておいて、それはない。
「何をしていたか、わかっているよな?」
我ながら、愚問だと思った。
アラサーの女があの場面に遭遇して、何をしていたかわからないわけがない。
サツキはただ、ゴクリと生唾を呑み込んだ。
ダメ社員の烙印を押され、この部署に転属してきてから、サツキは唯一俺に普通に接してくる社員だ。
他のみんなは憐れむような視線を向けてきたり、用件だけ告げるとそそくさと俺から離れて行った。
サツキが俺に好意を寄せていることに賭けた。
そして、追い詰められた俺は、サツキに命令口調で言った。
「ついて来い」
そう言うとサツキはまるで自分が叱られでもしたかのように、項垂れたまま立ち上がった。
ほかに誰もいないのをいいことに、俺はサツキの腕をとると、オフィススペースから出た。
エレベーターホールの端にある扉を開く。
そして俺は首をくいと振って、サツキを非常階段に入らせた。
「だ、誰にも、言いませんから…」
踊り場までの階段をのぼりながら、俺の背後でサツキが言った。
「そうか」
俺が振り向くと、目を伏せたまま、サツキは小さく頷いた。
「サツキも、することあるだろう?」
「えっ?」
驚いた表情を見せ、サツキは思わず俺に視線を向けていた。
視線が合った瞬間、サツキはハッとなって顔を赤らめた。
上の前歯で軽くした唇を噛むようにしていた。
「誰にも言わない証拠がほしいんだ」
何を言っているのか訳が分からなかった。
自分でも信じられない言葉が、口をついて出ていた。
いくらどうしようもない社員でも、自分の言っていることが異常である事は自覚していた。
それだけ混乱していたのだろう。
ただ自覚とは関係なく、俺は自分の異常な言動を自制することもできなかった。
メダパニという言葉が脳裏をかすめたが、何のことだか思い出せなかった。
サツキは目を伏せて、俯き加減になった首を小さく左右に振っていた。
「一瞬しか見ていませんから…」
言い訳をするように、サツキは小声で俺に言った。
「そんなの、何の保証にもならないね」
どうしてそんなに強気になれたのか、自分でも不思議だ。
俺はそう言うと、その場でファスナーを下ろし、下着と一緒にズボンを膝まで下ろしていた。
やけくそを通り越して、もはや変態だ。
サツキが引っ込み思案で大人しいのをいいことに、俺の行動はエスカレートしていった。
「ほら」
サツキは、目を飛び込んできたものを見た瞬間、今度は両手で顔を覆った。
信じられないものを目にしたとでも言わんばかりの動きだった。
普通に考えれば、その通りだ。
俺はサツキの手首を掴み、強引に自分の股間へと引き寄せた。
そして、熱く滾ったものを、サツキに無理やり握らせたのだった。
手のひらに硬くなった男根を感じたとき、サツキは思考が停止してしまったかのようだった。
それからのサツキは、虚ろな目をしていた。
抗うこともなく、俺に促されるままに男根を扱いていた。
次の瞬間、俺はサツキの手に包まれたまま弾けた。
それは、オナニーでは感じたことのない強い快感だった。
ビューっと吐き出された精液がサツキの顔を直撃した。
一旦顔にかかった半透明の白濁液は、サツキの頬を伝って顎へと流れ落ちた。
非常階段の踊り場には、あっという間に生臭い男の匂いが充満していた。
「サツキ、俺がイクとこ、見たよな」
俺はズボンの後ろからポケットティッシュを取り出して、サツキの顔を拭ってやりながら言った。
「えっ?」
「見たよな?」
「でも…、でも…」
サツキは狼狽えていたが、俺はそのまま畳みかけた。
「ほら、サツキにも見せてもらわなきゃ、信用できないね」
そう言って、俺はサツキのブラウスのボタンを強引に外し始めた。
「え?え?」
もともと大人しいサツキだったので、強く抵抗はしない。
俺はそれをいいことに、サツキの着ているブラウスの前合わせを広げた。
ベージュのキャミソールの下にピンクのブラジャーの肩ひもが重なって見えていた。
いつ人がやってきてもおかしくない公共スペースで、俺は大胆な行為を続けた。
スカートの裾から手を入れて、一気に股間に手をやる。
ストッキングを履いていないので、ガーゼのような手触りのショーツが指先に触れた。
サツキは顔を真っ赤にし、肩をすくめるようにして目をかたく閉じていた。
だが、それでも抵抗はしなかった。
下着のクロッチ部分に指を這わせる。
あれ?
驚いたことにサツキのソコは湿り気を帯びていた。
「お前、濡れているのか?」
驚きを口にする。
反射的に顔を上げ、サツキはいきなり両手でスカートの上から股間を押さえた。
耳まで真っ赤だった。
けれども、サツキは二、三歩後ずさりをすると言った。
「ち、違うんです…」
俺は黙ったまま、サツキの目を覗き込んだ。
サツキはうろたえた様子で目を逸らす。
「誰にも言いませんから」
それだけ言うと、サツキは俺を振り切って、非常階段からエレベーターホールへと小走りに出ていった。
俺から迸り出た液体が床を濡らしていた。
ポケットティッシュだけでは零れた白濁液を拭いきれなかった。
妙に冷静になった俺は、トイレに向かった。
ペーパータオルを手にし、非常階段に戻ってサツキとの間に起こった出来事の痕跡を消した。
オフィスに戻っても、まだ誰もランチから戻っていなかった。
サツキの姿も見えない。
自分のデスクに戻り、パソコンを開いてさっきまで見ていたエロビデオの履歴を削除していった。
暫くすると、乱れた服装をトイレかどこかで整えたサツキが戻ってきた。
サツキにのところへ行こうと腰を浮かしかけたとき、昼食を終えた社員たちがゾロゾロと戻ってきた。
サツキは何事もなかったように、午後の仕事を再開していた。
「お前、昼飯、食ってないだろう?」
夕方になって、サツキの周りに誰もいないタイミングを見計らって、声をかけた。
「私、仕事が遅いので…」
応えたサツキの声は普段のままの消え入りそうな小さな声だった。
「晩飯、食わせてやる」
「…」
「早めに終えて、隣の駅の改札で待ってろ」
サツキは驚いた様子だったが、俺は返事を待たずに自分の席へと戻った。
サツキはその日の俺の言動をどう受け止めているのだろう。
気にはなったが、やはりやけくそだった。
サツキがその日の仕事を終えて、俺のデスクの前に立ったとき、オフィス内の人はまばらだった。
「お先に失礼します」
いつもどおり、お腹の前で手を重ね、丁寧に俺に頭を下げるサツキがいた。
誰にもわからないようにサツキの目を見て小さく頷く。
サツキは下唇を噛むと、首だけで会釈をして足早にオフィスを出て行った。
それから10分ほど経ってから、俺は自分のカバンを手にすると、オフィスを出た。
サツキが隣の駅にいるかどうか、確信はなかった。
だが、直感的にいると思った。
サツキは引っ込み思案で大人しいが、約束を違える人間ではない。
行かないなら「行かない」とはっきり意思表示をしていたはずだ。
とんでもないことをしておきながら、俺は自分に都合の良い信頼をサツキに寄せている。
そんな身勝手さはさておき、待ち合わせ馬車へと向かった。
サツキは、隣駅の改札で言われたとおりに待っていた。
「食いたいものあるか?」
何事もなかったかのように話しかける。
「いいえ、佐々木さんの召し上がりたいもので」
サツキも普通に俺の言葉に応じた。
あれこれ注文をつけられても困るので、俺は行きつけの定食屋にサツキを案内した。
おとなしそうなイメージから、焼き魚か刺身でも注文するのかと思っていた。
けれども、サツキが選んだのはガッツリ系のトンカツ定食だった。
食事はすぐに運ばれてきて、定食屋では普通に仕事の話をした。
サツキも何事もなかったように俺と接している。
傍から見れば会社帰りの普通の上司と部下だっただろう。
「この後、カラオケに行って帰るか?」
食事を終えてサツキに言った。
サツキは、嫌とは言わなかった。
そこで半ば強引に、俺はサツキを定食屋の近くのカラオケ店に誘った。
個室に通されて、直角に配置されたソファに俺たちは腰を下ろした。
角を挟んで座っているので、正面からサツキの顔を見ずにすんだ。
曲を入れるでもなく、ドリンクを持ってきたウェイターが出て行くと俺は昼間の話を切り出した。
「お前、あんなことがあったのに俺とこんなところで二人きりで、平気なのか?」
「…」
サツキが押し黙ったままなので、俺は言った。
「立って」
言われるとサツキは素直にソファから立ち上がった。
俺はテーブルを押しのけて続けた。
「俺の前に立って」
おずおずとしながらも、サツキは素直に俺に従った。
ブラウスのボタンに俺が掛けると、サツキは両腕を胸の前にクロスさせて少し抗って見せた。
「サツキ、俺がイクとこ、見たよな」
そう言うと、サツキはまるで自分が悪いことでもしたかのように再び項垂れた。
そして、胸にやっていた腕がだらんと下がった。
サツキのブラウスの前をはだけると、俺は言った。
「ほら、見せろよ」
俺が言うとサツキは下唇を噛んで見せた。