平凡なボクの人生に割り込んできたのは、金髪の女子◯生だった

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ボクが慶子を初めて見かけたのは、朝の通学列車でだった。

夏休み前だというのに、既に気温は夏真っ盛りという水準に達していて、それでいて、その列車の冷房は効きがすこぶる悪かった。

乗客がみんなイライラし始めている中で、周囲の迷惑も考えずに、声のボリューム調節に配慮のない女子◯生のキンキン声が、背後から聞こえてきた。

アイドルの話だとか、何のテレビ番組を見たとかを話しているうちはまだ良かったが、先生はみんな馬鹿だとか、アイツは空気が読めないとかいう話を無神経にを大声で話し始めると、一気に不快指数が上がった。

“自分たち以外のことはみんなKYだとか言っているくせに、何だよ”

その電車に乗り合わせていた乗客の半分くらいは、ボクと同じことを考えていたのではないかと思うが、それを口に出して言う勇気のある者はいなかった。

ところが居たんだな、勇気のある男前なヤツが。

「少しは周りの空気を読んで、静かにしなよ」

思わず振り返ると、髪を金髪に染めた女子◯生二人と、如何にもお嬢さま風で黒髪の女子◯生二人が睨み合っていた。

“へぇ、お嬢さまなのに、言うなぁ”

そう思って成り行きを見守っていると、次に口を開いたのは、何とお嬢さま風の方のひとりだった。

「余計なお世話よ」

そう言われても、金髪が動じることはなく、更にパンチを繰り出した。

「ついでに言わせてもらうけれど、大声でそんな風に程度の低い話ばかりしていると、私らより馬鹿に見られるよ」

隣でセコンド役のもう一人の金髪が、頷くのが見えた。

一触即発の緊急事態発生で、殴り合いでも始まるのではないかとヒヤヒヤした。

そのとき電車が次の駅のホームに停まり、お嬢さま風の二人は小声で悪態を吐くと、人ごみを掻き分けるようにして、罰の悪そうな表情のまま電車を降りていった。

列車の中にいた何人かから小さな拍手がパチパチと沸き起こったが、更に乗り込んできた乗客の波に押され、金髪の女子◯生二人は、車両の奥へと流されていった。

ほんの些細な朝のラッシュ時の出来事に、偶然居合わせただけのことだった。

それなのに、その日から、ボクはどうしてだかその金髪の女子◯生のことが妙に気になって仕方がなかった。

気が付いたら毎日、その子のことを目で追うようになっていた。

毎朝、ボクと同じ時刻に同じ電車の同じ車両に乗ってくるので、学校をサボっている様子はなかった。

よく見ると、女の子は二人とも綺麗な顔立ちをしていて、見た目は少し不良っぽかったけれど、お洒落に制服を着こなしていた。

ボクは、いつも後ろから三両目の一番前の扉から列車に乗り込む。

金髪の二人は、ボクが乗車してからいくつか後の駅で、同じ扉から乗り込んで来ることもあれば、ひとつかふたつ、後ろに乗り込んでくることもあった。

電車の中でその子たちを見かけると、悟られないように、いつもそっと見守っていた。

同じ扉に乗り合わせたときは、携帯電話をいじっているふりをして、全身を耳にしてボクは二人の会話を聞いていた。

お嬢さま風の女子◯生とは違って、声のボリュームをちゃんと落として話しているので、あまり聞こえなかったけれど、そのうちに、一緒にいる女の子の方は、ワカちゃんと呼ばれていることがわかった。

ところがある日、いつもの電車に揺られて、その子が乗り込んでくる駅のホームに到着すると、珍しくワカちゃんの姿がなかった。

人の波に押されて、気になっている方の女の子がひとりで乗り込んでくると、ボクはその女の子が人の波に押しつぶされないように後ろに立って、勝手に防波堤になった気分でいた。

カーブに差し掛かった列車が大きく揺れて、女の子の身体がくるりと反転し、偶然にもボクとちょうど向かい合わせになった。

少し膨らんだ彼女の胸がボクの胸に押し付けられ、神さまの悪戯に感謝した。

ちょうどボクの鼻の下に、金髪の女子◯生の頭があって、とてもいい匂いがしていた。

ところがそのとき、ボクと女の子の間の腰の辺りで、誰かの手がもぞもぞと不審な動きをするのを感じた。

女の子が顔を上げてボクをキッと睨んできたので、ボクは周りの人への迷惑も考えず、慌てて両手を頭上に翳して万歳をしてみせた。

ボクの仕草がおかしかったのか、”ボクじゃ、ありませんよ”と必死に訴えているボクの表情がおかしかったのか、金髪の女の子はいきなり吹き出すように小さく笑った。

顎を下げた女の子の額がボクの鎖骨の辺りに押し付けられて、気がつくと、ボクらの間で不審な動きをしていた手はどこかに消えていた。

女の子の顔に険しい表情はもう残っていなくて、ボクたちは電車に揺られ続けた。

女子◯生の金髪が、ボクの鼻先でいつまでもいい香りを放ち、なんだかとても幸せな気分だった。

よく考えてみたら、その女の子のことが気になりだしてから、半年以上が経っていた。

ボクはその子を日課のように見守るのが楽しみで、結果として、学校にはきちんと通うことになっていたので、何とか落第せずに進級することができた。

春休みの間は、彼女を見ることができなくて、何だか物足りない毎日だった。

休みが終わって、久々に電車に乗ると、いつもの駅で、女の子姿を探した。

けれども、その日、金髪の女子◯生の姿は何処にも見当たらなかった。

“電車を変えたのかな”

そう思って回りをキョロキョロ見渡したが、女の子の姿はどこにもなかった。

新学期を迎え、高まっていたテンションが一気に下がった。

電車が乗換駅についてからも、キョロキョロと人の波に視線を漂わせて無意識に金髪を探していたが、やはり彼女の姿はどこにもなかった。

気落ちして歩いていると、駅の階段を登りきったところで、誰かにポンと肩を叩かれた。

「誰を探しているの?」

振り返ると、あの女子◯生が悪戯っぽい表情を顔に浮かべて立っていた。

ボクのテンションは、一気にマックスレベルに回復した。

けれども、女の子の髪はもう見慣れた金色ではなくて、真っ黒に染め直されていた。

着崩した制服も幾分まともになっていて、普通の女子◯生になっていた。

「その髪、どうしたの?」

一方的に視線を注いでいただけの相手なのに、話しかけられて、思わず知り合いのように話かけてしまった。

女の子はニッと笑ってボクの腕を取ると、駅構内の喫茶店にボクを連れ込んだ。

二人分のモーニングを勝手に注文してから、女子◯生はまっすぐにボクの目を見て言った。

「私のこと、探してたでしょ?」

ストレート、ど真ん中の質問をされて、ボクは取り繕う暇もなく、思わず頷いてしまった。

「私、ケイっていうの。お兄さんは?」

「K?」

「慶子のケイ」

「ああ・・・、ボクは、山田」

「下の名前は?」

「太郎」

「山田太郎?」

ボクが頷くと、慶子は目を少し細めて疑いの眼差しをボクに向けた。

「ねぇ、私のこと、警戒してる?」

いつものことだ。

ボクは、この名前のせいで、”書き方の見本みたいな名前だ”と言われることが、毎度のことだった。

「本当の名前だよ」

ボクは学生証を取り出して、慶子の前に差し出した。

「へぇ、お兄さん、頭いいんだ。何年生?」

慶子は、学生証に書かれた大学名を見ながら聞いてきた。

「二年だけど。ケイ・・・ちゃんは?」

「ケイでいいよ。私は、高三。なったばかりだけど」

慶子は、すぐに運ばれてきたモーニングのゆで卵の殻を剥きながら言った。

1時限目の講義の時間が少し気になったけれど、慶子と話せる機会を逃したくなくて、ボクはそのまま喫茶店に居続けた。

「学校はいいの?」

ボクが尋ねると、慶子は悪戯っぽく笑っていった。

「サボったことないから、大丈夫」

「そうなの?」

「うん、それに・・・、今日はお兄さんに会いに来たんだもん」

ボクは、一瞬唖然としたが、この展開はどうみても、”告白される・・・”と思った。

けれども、ボクはそういうシチュには慣れていない。

慣れていないどころか、高校は男子校だったので、それまでに女の子との接点なんかほとんどなくて、何だか舞い上がってしまった。

「あの、ボクはこういうの慣れてないから確認なんだけど、もしかして、ボク、ナンパされてる?」

女の子は一瞬キョトンとした顔をしてみせたが、次の瞬間、ギャハハと笑い始めた。

「やだ、お兄さんったら、そんな訳ないじゃん」

ボクは自分の耳まで赤くなっているのを感じ、火が出そうなほど顔が熱くなった。

すると慶子は、真顔に戻って、ボクに言った。

「だってお兄さん、私のこと、気になっているでしょ?」

「えっ?」

「だから、こうして私にアプローチをするきっかけをあげてるの」

“それって、どういうことだろう?”

ボクは、頭をフル回転させたが、経験値の低いボクの頭では、解は見つからなかった。

「もう一度、整理させてもらっていいかな?」

女の子は、コーヒーカップを口の高さにまで持ち上げながら、顎を少し上げて見せて、どうぞという仕草をして見せた。

ボクは、ちょっと深呼吸をすると、何処から話をしようかと考えた。

考えたが、答えは見つからず、今起こっていることを順に言葉にしてみた。

「ケイちゃんが、ボクをここへ誘ったんだよね?」

「うん、ケイでいいけどね」

「えっ?ああ、それで・・・、そのケイ・・・が何の用で・・・?」

「ああ、じれったいなぁ」

慶子は、怒った様子ではなかったけれど、彼女にそう言われてしまって、ボクは少し萎縮してしまった。

「じゃあ、私が整理するね」

「はい・・・」

「先ず、電車の中で私が痴漢にあったとき、お兄さん・・・、タロちゃんって呼ぶね」

“タロちゃんって犬みたいだ”

そう思ったけど、ボクは逆らわずに黙って頷いた。

「タロちゃん、私の前で両手を挙げて見せたでしょう?」

かなり前の話だったが、その通りだったので、ボクは頷いた。

「あの時、ずっと、タロちゃんとくっついて電車に揺られていたんだけど、いい匂いがするから、ちょっと気になっちゃって・・・」

ボクは、母親が買ってきた整髪料に感謝した。

「タロちゃん、あれから毎朝、私のこと見てたでしょう?」

厳密に言うと、それよりずっと前からだったが、見ていたのはその通りだったので、ボクは再び頷いた。

「人のこと、あんまり、ジロジロ見ない方が良いよ」

「はい・・・、すみません」

ボクは、項垂れるしかなかった。

「ずっと見てるから、一緒に居る友達に冷やかされるようになってさ・・・」

「いつも、一緒に電車に乗ってる子?」

「うん、ワカちゃんっていうんだけど」

ボクは、頷くだけで先を促した。

「あんまり言われるから・・・、そうなると、だんだんこっちも気になってくるじゃない?」

「そりゃ、どうも」

思わぬ展開に驚きながらも、悪い気はしなかった。

「それに、タロちゃん、優柔不断だし」

「どうしてわかるの?」

「見てれば、わかるよ」

「そう?」

悔しいけれど、当たっていた。

「春休み前もさ、自分の目の前の席が空いて、いつまでも動かないから厚かましいおばさんに取られちゃったじゃない」

「見てたの?」

「ワカちゃんと一緒にね」

ボクは、どうも思い切りが悪くて、空いている席には座ってしまう方なのに、椅子取りゲームの争奪戦は苦手だ。

「あんなの見せられたら、”私が何とかしなくちゃ”って、思うじゃない」

“これは、キタ”

そう思った。

「そうなの?じゃあ、ケイが、ボクとお友達に・・・」

こんなに簡単に女子◯生とお友達になれるのかと、舞い上がったところで、慶子が被せるように答えた。

「いやです!」

“え!?えぇー!?なんなの、これ?これって、巷で言う、塩対応って言うやつ?違うか?ツンデレ?”

ボクが面食らっていると、慶子はわざとらしくタメ息をついてみせて言った。

「お友達じゃなくて、カノジョになってあげるって言ってるの!」

「え、えぇー!?」

今度は、思わず声に出して言ってしまった。

「タロちゃん、嫌なの?」

「いや・・・、あの・・・、普通、こういう場合、ボクにカノジョはいるのかとか・・・、そういうのを先に聞くんじゃないの?」

「カノジョがいたら、人のこと、あんなにジロジロ見ないよ」

確かに、その通りだった。

「はい、タロちゃんには、二つの選択肢があります」

ボクは、唖然としたままだった。

「ひとつは、このまま、私とホテルに行くこと」

「もう、ひとつは?」

「ここを出て、私と動物園に行くこと」

慶子は笑っていなかったので、きっとマジだと思った。

それから、午後の講義も休む覚悟を決めた。

当時はまだ童貞だったボクに女の子とホテルに行く勇気なんかなくて、もう一つの選択肢を選んだ。

「じゃあ、動物園へ」

すると慶子は天使のような笑顔を見せて、伝票をボクの方へ押しやると、立ち上がった。

「大学生なんだから、奢ってね」

そう言うと、女子◯生はスタスタと先に喫茶店を出て行った。

駅の改札を出てしばらく歩くと、動物園へと続く広い公園があって、ボクたちはいつの間にか腕を組んで歩いていた。

「学校はいいの?」

ボクが気になって訊いてみると、慶子はまたもや悪戯っぽい目をして答えた。

「ホントはね、学校、明日からなの」

「えぇーっ!?それなら、どうして制服を着ているの?」

「私、この制服が好きで、高校を選んだから。休みの日でも結構着てるよ」

「え?え?何?そうしたら、学校サボっているの、ボクだけ?」

「私、こう見えても学校サボったことないもん」

“何だよ、それならそうと、先に言ってくれよ”

そう思ったけど、どうせ”聞かれなかったから”と切り返されるのがオチだと思って黙っていた。

それよりもっと気になっていたのは、トレードマークのようになっていた慶子の金髪が、どうして漆黒の黒髪に変身してしまったのかだった。

「あの、どうして金髪、やめたの?」

「あぁ、これ?気分よ、気分」

「気分?そうなんだ・・・」

どうも釈然としなくって、そのまま話が途切れてしまうと、慶子は再び口を開いた。

「あぁ、もう、面倒くさいなぁ・・・、タロちゃんの所為だよ」

「ボクの?」

「そう。タロちゃんと一緒に並んで歩くのに、金髪じゃ合わないでしょ?」

確かにそうだった。

電車の中で慶子のことを見て、心惹かれてはいても、イケメンでもなく、ファッションセンスにも恵まれていないボクが、金髪の彼女と一緒に居る光景には、かなり違和感があった。

「いつ染め直したの?」

「うーん、春休みに入ってしばらくしてだから、二週間ぐらい前かな」

「もう一人の子は?」

「ワカちゃん?あの子は私より先だったよ」

「染め直したのが?」

「うん。それで、どう?」

「どうって?」

「金髪の方がよかった?」

ここでさっきのお返しに塩対応の返事をしようか迷ったが、慣れないことをするのはやめようと思い直して、正直に答えた。

「今の方が、ずっと可愛いよ」

すると、慶子は唇をキュッと結んで、照れるのを隠すような表情をして見せた。

そんな、慶子を見てボクは、本当に可愛いと思った。

「ワカちゃんは、どうして金髪をやめたの?」

「あの子も金髪が合わない男(ひと)を選んじゃったみたい」

「ふぅん、そうなんだ・・・」

「あの子は前から好きだったみたいだけど」

ボクは、二人の金髪少女が、男に合わせて髪の色を変えたのが意外だった。

噴水のある池を横目に見ながら歩いて行くと、動物園の入り口だった。

券売機でチケットを二枚買って、一枚を慶子に渡すと、慶子は芝居がかった仕草でそれを恭しく受け取ると、ボクの前を歩いてゲートを潜った。

平日の園内は、人影もまばらで、ベビーカーを押しながら、小さな子供の手を引いている母親がいるぐらいだった。

慶子は、入り口付近の動物には目もくれず、、園内をどんどん歩いて進んでいった。

ゾウの檻の前に来たところで、もうひとつ気になっていたことを尋ねようと、ボクは後ろから話しかけた。

「さっきの選択肢なんだけど・・・」

「なに?」

くるりと踵を返して、慶子は振り返り、器用に後ろ歩きを始めた。

「ホテルに行くって言ってたら、ホントにホテルに行ってたの?」

「行ってたよ」

「よく行くの?」

すると、慶子はその場で歩みを止めてボクの目をまっすぐ見つめると訊き返してきた。

「どう思う?」

慶子の表情は、少し怒っているように見えた。

「わからないよ。話をするの、今日が初めてだし」

すると、慶子の表情が少し強張ったように見え、ボクに続けて訊いてきた。

「遊んでそうに見える?」

金髪の頃は、そう見えた。

けれども、今の慶子はそんな風には見えなかった。

正直にそのことを伝えると、慶子の表情がやっと少しだけ和らいだ。

「私、バージンだから」

「え?」

唐突な答えに、思わずそう応えてしまった。

「もう、恥ずかしいから訊き返さないでよ」

そういうと、慶子はボクに背中を向けるとスキップをするようにボクの前を何歩か歩くと、再び急に立ち止まってクルリと振り返った。

「タロちゃんは?」

「え?」

「エッチしたことあるの?」

ストレートすぎる質問だった。

見栄を張って、イエスと答えようか迷ったが、慶子のオープンすぎる質問に気圧されて、ボクは正直に答えてしまった。

「ないよ」

「男の人って、エッチなお店とかに行くんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、ボクは・・・」

そう言ったところで、慶子はボクの方に駆け寄ると、ボクの首に抱きついてきて言った。

「行かないで」

「え?」

「そういうところ」

「ああ、うん」

「約束だよ」

「うん」

「その代わり、タロちゃんがそういうことしたくなったら、私に言って」

「・・・」

思わず絶句ししてしまったが、よく考えてみたら、すごいことを言われたなと思った。

何の切り返しもできなかったのは、ボクには、それを茶化す経験も度胸もなかったからだ。

「私、暑いところの動物より、こういうクマさんの方が好きなんだ」

白熊の泳いでいるプールの前まで来ると、慶子が言った。

「ボクは、かき氷の方が好きだけど」

そういうと、慶子は怪訝そうな表情をして見せたが、直ぐに頭の上で電球が点ると笑い始めた。

「それ、シロクマのこと?ウケるぅw」

ちょっとは冗談が通じて、ボクはホッとした。

無邪気に笑う慶子は、もう普通の女子◯生だった。

シロクマではなかったけれど、アイスを買って二人で食べた。

バニラアイスにチョコレートのコーティングがしてあって、棒が突き刺さっているヤツだ。

同じアイスを買ったのに、慶子は途中でお互いのアイスを交換しようと言い出した。

「味は、どっちも同じだよ」

そう言ったけれど、慶子は強引にボクからアイスを奪い取ると、ひと口かじってから言った。

「うん、やっぱりこっちの方が美味しい!」

そう言って慶子が食べていた方を差し出された。

“そんな、バカな!”

半信半疑に思いながら、ボクはそれを受け取って、食べようとすると、慶子がまた言った。

「それ、間接キスだから」

そう言われて口の中に広がったチョコとアイスの味は、確かにさっき食べていたヤツより甘い気がした。

もともと気になっていた女の子だったけれど、それだけでボクは慶子にメロメロになった。

ボクの口の端に着いたチョコレートを慶子はペロッと舐めてきたりして、まだ、高校生なのに何だかエロい感じがした。

園内の大きな池をぐるりと回って歩いて行くと、コウノトリのいるところへやってきた。

池の水に赤い足を浸して、時々くちばしを水に突っ込むと、何かを採っているみたいだった。

慶子はボクの隣にやってきて手を握ると、独りごとを言うようにコウノトリに話しかけた。

「私たちにも、いつか赤ちゃんを運んできてね」

ボクに言っているのか、コウノトリに言っているのかわからなかったが、経験の浅いボクは、それを聞き流すしかなかった。

動物園を出てから、ボクたちは駅前の商店街をぶらぶらした後、ラーメン屋さんに入って麺を啜った。

「これ、美味しい!」

ボクは、時々ひとりで来ていたが、女性、増してや高校生がラーメン屋のカウンターに座ってという光景はあまり見たことがなく、慶子も初めてのようだった。

「そう?気に入ってもらえたなら嬉しいけど」

そう言うと、慶子はまたしても麺を半分食べ終わったところで、勝手にボクと丼を交換すると、ボクの蓮華を使ってスープまで飲み干した。

「タロちゃん、明日も同じ電車に乗る?」

慶子は、別れ際にそう聞いてきた。

「うん、いつもの時間のいつもの車両」

それを聞いた慶子は天使のようにニッコリ笑って電車を降り、電車に乗ったままのボクの方に振り返ると、胸の前で小さく手を振った。

電車の扉が閉まり、ボクと彼女の間を遮ると列車は動き出した。

本当に明日、また会えるのか、信じられなかった。

交換したばかりの携帯電話の番号を見つめながら、直ぐにでも電話してしまいたい衝動を抑えるのが大変だった。

すると、ボクの携帯がいきなり鳴り始めた。

通知された番号を見ると慶子だった。

「もしもし」

ボクは、周りを気にしながらも、電話に出ずにはいられなかった。

「タロちゃん?わたし、ケイ」

「どうしたの?」

小声で訊くと、慶子はボクに次の駅で降りろと言う。

「タロちゃんともっと話したくって、掛けちゃった」

さっき別れたばかりだと言うのに、ボクたちはそれから三十分も電話でとりとめもない話を続けた。

無味乾燥だったボクの大学生活は、突然華やかになった。

厳密に言うと、ボクの人生そのものが、バラ色に変わった。

いつも乗り合わせている電車に乗り遅れないように、駅には早目につくようにした。

慶子が待っている駅のホームに列車が近づいて行くと、もう車両の中からホームを探し始め、慶子が乗り込んでくるのを目で探した。

尤も、慶子が電車に乗り遅れそうになったり、列車の遅れがある場合は、直ぐにLINEで連絡の遣り取りをするので、会えないことはなかった。

朝の電車で待ち合わせをするようになってから、慶子がいつも一緒だった女の子が一度も一緒に居ないことに、ふと気が付いた。

「ねぇ、ずっと一緒に通学していた子、どうしたの?」

「ワカちゃんのこと?」

「うん、色白で目元と口元に黒子のある子」

「へぇ、ワカちゃんのこと、よく見てるんだ」

“しまった。踏まないでいい、地雷を踏んじゃった・・・”

慶子はボクの心の中を見透かすように、目を細めるようにしてボクのことを見た。

「違うよ・・・。そんなのじゃないよ・・・」

しどろもどろになりながら、ボクが言うと、慶子は、

「じゃぁ、どんなのでしょうか」

そう言って、ボクを軽く抓る真似をした。

ワカちゃんは、確かに可愛らしいけれど、慶子の方が美人タイプなので目立つのは慶子だった。

それでも、二人はずっと仲良さそうに電車に乗っていたので、不思議に思っていたのだった。

「ワカちゃんは、進学校の彼氏ができて、もっと早い電車に乗っているの」

「へぇ、そうなんだ・・・」

仲良しそうだった二人が、離れ離れになっているのが、ボクの所為ではないと知って、少しほっとした。

慶子には、どうしてだか言いそびれてしまったが、聞いてみると、ワカちゃんの彼氏なる男の子の学校は奇しくもボクの母校だった。

学校帰りにも、ボクたちは待ち合わせて、会うようになった。

ボクの方が講義で遅くなる時は、慶子がボクの大学にまでやってきて、学食や図書館で待っていてくれた。

お金がないので、晴れの日は一緒に公園を散歩したり、雨の日は喫茶店でコーヒーを一杯だけ頼んで何時間も粘っておしゃべりをしていた。

尤も、慶子の方が圧倒的にしゃべっていたけど。

夏休みに入るころ、ボクは慶子にふと尋ねた。

「ケイちゃん、来年はどうするの?」

「来年って?進学とか、就職とかってこと?」

「うん」

慶子は暫く考えるようにしていたが、やがて意を決して宣言するように言った。

「私、タロちゃんと同じ大学に行く」

それまで、慶子とは学校の成績の話なんかしたことがなかったけれど、流石にそのときは気になった。

でも、慶子が通っている高校がどの程度のレベルなのかわからなくて、遠回しに聞いてみた。

「受験勉強、大丈夫?」

「うーん・・・、大丈夫じゃないカモ」

少し目を伏せながら言う慶子だった。

「あの、お節介じゃなかったら、勉強、手伝おうか?」

すると慶子の顔がパッと明るくなって、何度も頷いた。

それからは、ボクたちの待ち合わせは場所は、ファミレスになった。

最初は図書館で待ち合わせていたのだけれど、自習室で話をすると、他の人にキッと睨まれてしまう。

慶子は数学が得意だった。

「一年生のときにね、同級生にソヨンっていう女の子がいたんだけど」

「ソヨンって、日本人の名前じゃないよね?」

そう言うと、慶子は小さく頷くと話を続けた。

「うん、韓国の子で、時々苛められてたんだけど、一度庇ってあげたら、結構仲良くなって、数学の勉強の仕方を教えてくれたの」

「ふぅん・・・。そのソヨンって子は、今でも教えてくれているの?」

尋ねると、慶子は首を横に振っていった。

「ううん、ソヨンは一年生の終わりに、お父さんの仕事の関係で、韓国に帰っちゃった」

「そうなんだ」

「でもね、ワカちゃんも、昔、塾に行っていたことがあるらしくって、数学は得意なの」

「へぇ」

正直なところ、初めて会ったときには金髪だった二人が数学が得意と聞いて、人は見た目じゃないな、とつくづく思った。

その代わり、英語と理科がからっきしダメでだった。

国語と社会科は、普通程度だったけど、受験まで時間がないので、あまり手を付けないことにした。

勉強を見てあげるようになって改めて、慶子は頭の回転の速い子だとわかった。

社会科は暗記物だと思われがちだが、歴史の大きな流れを話してやると、自分で興味を持ってどんどん覚えていった。

数学は、殆ど教える必要がなかったが、まだ学校で習っていないところも、公式の導き方を教えてやると、スラスラ応用問題も解けるようになっていった。

ただ、受験までには本当に時間がなくて、冬休みに入ると結構悲壮感が漂ってきた。

普段は明るい慶子も深刻さが増してきて、会えない日が続いたりした。

LINEを送っても、なかなか返事が来なかったり、返事があっても素っ気無かった。

クリスマスイブの日、土曜日だったので、ボクは慶子を外に呼び出した。

待ち合わせ場所に現れた慶子は学校のセーラー服姿だった。

慶子はボクを待ちながら、ノートを手にブツブツ言いながら、懸命に何かを覚えようとしていた。

後ろから肩をポンと叩いて振り返った慶子の目には、少し隈ができていた。

「今日ぐらいは、勉強のこと、忘れなよ」

そう言うと、慶子はニッコリ笑ったが、ノートは自分の手に持ったままだった。

街のメインストリートは、親子連れやカップルで溢れかえっていて、ボクは慶子の空いている方の手をとると、人混みの中を歩いた。

「どこへ行くの?」

慶子の問いには応えずに、ボクは片目を瞑って先を急いだ。

勉強で疲れている慶子を癒してやりたかった。

高いビルのエレベーターに乗り込んで、慶子に向かって言った。

「もう、わかった?」

慶子は、何かを思い出そうと目を閉じてから、目をパッと開いて小声で言った。

「アクエリアム」

ボクは、思わず笑ってしまった。

慶子は、そんなときにも英単語を思い出そうとしていたのだった。

「フィッシュ、シャーク、オクトパス・・・」

慶子は水槽の前で、知っている単語を羅列し、ボクたちはゆっくり館内を歩いて回った。

「ねぇ、こんなの受験に出るかなぁ」

慶子の頭の中は、受験のことで一杯のようだった。

ボクたちは大きな水槽の前でベンチに座ると、たくさんの魚が銀色の群れを成して泳いでいるのを眺めた。

「ねぇ、あのヘンに泳いでるの、お寿司屋さんでも出てくるのかなぁ」

今の慶子の頭の中は、受験の次は食い気のようだった。

大きなサメが定期的に周遊してきて、暫くそれを眺めていると、慶子の頭がボクの肩にコツンと当たった。

首を曲げて見てみると、慶子は天使のような寝顔でスースーと寝息を立てていた。

“疲れているんだなぁ”

ボクは、慶子を起こさないように、大きなサメが何周も目の前を泳いでいくのを黙って眺めていた。

その日は、なけなしのお金をはたいて、ボクたちにしてみれば、かなり贅沢なレストランを予約していた。

料理が運ばれてきても、慶子はあまり食欲が無いようだった。

「大分、根を詰めているみたいだけど、気分転換も大事だよ」

そう言うと、慶子は少し怒ったような視線をボクに向けると言った。

「私、絶対にタロちゃんと同じ学校に行きたいの」

「わかってるよ。でも、身体を壊したら何にもならないよ」

「わかってない。タロちゃん、わかってない」

そう言うと、慶子はレストランで泣き出してしまった。

黒服のウエイターさんが、驚いてやってきたけれど、ボクが眼で”大丈夫”と言って見せると歩みを止めてボクたちのテーブルから離れていった。

「出ようか」

優しく慶子にそう告げると、慶子は素直に頷いた。

ボクたちは、エレベーターを使わずに、防火扉を開けて、人気の無い非常階段を一段一段下りていった。

防犯カメラが無いことを確かめると、ボクは階段の踊り場で、慶子の前に回ると抱きしめた。

「同じ大学じゃなくったって、ボクたちはこうしてずっと一緒だよ」

そう言うと、慶子は今度はボクの肩をコブシで叩くようにして、泣き出した。

映画やテレビで見たように、涙でくしゃくしゃになった慶子の顎を人指し指で少し押し上げて、ボクは慶子の唇にキスをした。

ボクたちのファーストキスだった。

唇を離すと、慶子は熱い吐息を漏らした。

それからちょっと拗ねたような甘えた声で言った。

「タロちゃん、遅いよぉ」

「えっ?」

「付き合って半年以上経つのに、タロちゃん、何にもしてくれないんだもの」

本音を言うと、ボクとしては、下半身の暴走を宥めるのに随分苦労をしていた。

けれども、受験を控えた慶子のことを思って、ずっと我慢してきていた。

「もう、一回して」

慶子が、ちょっと恥ずかしそうに言った。

「大学に合格したらね」

そう言うと、慶子はボクを打つ真似をして、

「もう・・・、女が勇気を出して言ってるのにぃ」

そう言ったが、慶子の目は怒っておらず、安堵に満ちて落ち着いた目をしていた。

「デザート、食べ損ねちゃったね」

手を繋ぎながら、帰り道を歩いていると、慶子が言った。

ボクが笑うと、慶子はボクの首に抱きついてきた。

暫く抱き合って、身体を離す瞬間、慶子はボクの頬を両手で包み、引き寄せると唇を重ねてきた。

「これで、試験まで頑張れる」

そう言うと、いつか動物園で見せたときのように、スキップのような足取りでボクの前を歩いて行った。

除夜の鐘を聞きながら、”明日、初詣に行こう”とLINEで連絡すると、速攻で返事が帰ってきた。

“もう、ずっとそのつもりです”

慶子からの返信を見ながら、ボクは一人でニヤニヤしてしまった。

クリスマスイブにキスをしてから、慶子とは会っていなかったけれど、かなり精神的に落ち着いた様子だったので、少し安心した。

「あけましておめでとうございます!」

待ち合わせ場所で会うなり、ボクに深々と頭を下げてみせた慶子は元気そうだった。

「おめでとうございます」

風邪を引かないようにとお母さんに言われて重装備の防寒具を纏った慶子は、可愛らしいフワフワのイヤーマフまでしていた。

でも、着てきていたのは、相変わらず、学校の制服だった。

「ちゃんと寝てる?」

「うん、タロちゃんにおまじないをしてもらってから、よく眠れてる」

そう言いながら、慶子はボクの腕に自分の腕を絡めてきた。

「おまじない?」

「ふふっ、ク・リ・ス・マ・ス」

慶子は、イブの口づけのことを言っていた。

ボクたちは、地下鉄を乗り継いで、菅原道真公が祀られているという神社の最寄り駅へとやってきた。

エスカレーターで地上階に出たところで、冬の冷たい風がボクたちの頬を撫でた。

ボクたちは引っ付くようにして大通りを真っすぐ歩いていくと、やがて駐車場が現れて、それを横目に歩いて行くと歴史を感じさせる鳥居に辿り着いた。

「ボクも受験の時に、ここへ来たんだよ」

「タロちゃんの実績があるなら、間違いないね」

ボクたちは鳥居をくぐり、真っすぐに本殿へと向かっていった。

参拝客で境内はごった返していて、長蛇の列に並んだ挙句、漸くボクたちは賽銭箱の前に辿り着いた。

“慶子が無事に合格しますように”

ボクは、財布の中にあった小銭を全て賽銭箱に投げ入れると、手を合わせて学問の神さまにお願いした。

「タロちゃん、何をお願いしたの?」

「もちろん、ケイの合格祈願だよ」

そういうと、慶子はニッコリ微笑むと言った。

「そう思った」

「ケイも、ちゃんとお願いした?」

すると、慶子は悪戯を見つかった子供のように舌をペロッと出して見せた。

「何?」

ボクが、怪訝な顔をして見せると、慶子は少しすました顔で言った。

「合格祈願は、タロちゃんがしてくれると思ったから、私は、”タロちゃんのお嫁さんになれますように”って、お願いしちゃった」

「ここは恋愛成就じゃなくて、学業成就の神さまだよ」

そうは言ったものの、いじらしくて、ボクは人前なのに慶子を抱きしめてしまった。

「神さまが、焼きもちを焼きますよ」

ボクたちの近くにいたちょっと禿げ上がったおじさんが、冷やかすようにボクたちにこそっと告げた。

途端に、慶子はボクの腕の中から離れると、素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっと!なに?お父さんっ!こんなところで、何をしているのよぉ」

外は冷たい風が吹いているというのに、おじさんはタオル地のハンカチで禿げた頭をしきりに拭いていた。

「何ってご挨拶だなぁ。お前の合格祈願に決まっているじゃないか」

「やだ、もう。大学に受かったら、ちゃんと紹介するって、言ったじゃない!」

娘にそう言われて、お父さんは何だかバツの悪そうな顔をすると、ボクにだけ小さく首だけで会釈をすると、足早にボクたちのもとを離れていった。

「お父さんったら、もう・・・」

慶子は、少し憤慨して見せていたが、お父さんのことを本当に怒っている訳ではなさそうだった。

「お父さんたちには、ボクのこと、話をしているの?」

「うん、”早く、会わせろ”って、うるさかったの」

「それで、お父さん、来ちゃったんだ・・・」

そう言うと、ボクたちは顔を見合わせて笑ってしまった。

「大事にされているんだね」

「どうだろう・・・。でも、この年になっても、お父さんのこと、結構好きなんだ」

高校生で、そんなことが言える女の子がいるなんて、ちょっと驚きだった。

「お父さん、技術部か何かの部長らしいんだけど・・・」

慶子はそのまま、お父さんの話を続けた。

「去年のイブにね、会社でちょっと大変なことがあったらしくて、土曜日なのに会社に行ったの」

ボクたちのファーストキスの日だったから、ボクもイブのことはよく覚えていた。

「それなのに、帰ってみたら私が家に居なくてガッカリしてたんだって」

ボクは、そんな家族の行事の日に慶子と会っていた張本人なので、お父さんになんだか申し訳ない気がした。

「帰ってから、”キスしたよ”って言ったら、結構荒れた」

“えっ、えーっ!!!お父さんにそんなこと言っちゃうの?”

“なんてオープンな家庭なんだ・・・”

ボクが驚いて絶句していると、慶子はケロッと更に大胆なことを言った。

「でも、大丈夫。エッチの時は、言わないから」

ボクはもう、苦笑いをするしかなかった。

嬉しい反面、ボクはこのちょっと変わった女の子と、この先、どうなっていくのだろうと思った。

合格発表の日、ボクたちはいつもの通り、駅で待ち合わせた。

大学の正門に着くまでの道すがら、さすがの慶子も緊張のせいか、ずっと黙りこくっていた。

掲示板の前までやってきて、慶子は深呼吸をすると、自分の受験番号を探し始めた。

「あった!タロちゃん、あった!ほら、あそこ!」

実は、ボクは慶子が探し始める前に、慶子の番号を見つけてしまっていた。

人間は、集中すると、あんなにたくさんの番号の中から目当ての番号を瞬時に探し当てるのだと、自分でも驚いた。

でも、慶子には自分で見つける喜びを味わってもらいたくて、黙っていた。

「あったよ!タロちゃん、あったよ!」

その場で、ピョンピョン跳ねて見せる慶子の姿を見て、コイツは結構すごいヤツだと思って感心した。

「ほら、あっちへ行って、お父さんに電話しなよ」

あのお父さんのことだから、会社に行っていても仕事が手に付かないでいるに違いなかった。

「もしもし・・・、あ、お父さん?」

「うん、私」

「受かったよ」

「うん、ホント、ほんと」

「え?ご褒美?」

「何でもいいの?」

「それじゃぁ、今日はタロちゃんのところにお泊りしまぁす!」

オープンすぎる家族だった。

ボクがお父さんだったら、”ちょっと、待ちなさい!”というであろうタイミングで、慶子は一方的に電話を切っていた。

「えっ?ケイ、大丈夫?」

慶子は自分の手で自分の口を覆うと、苦痛に表情を歪めた。

「痛い?」

そう言うと、慶子は深呼吸をするように大きく息を吸い込んでから答えた。

「少し・・・、でも、大丈夫」

ボクは、慶子の表情に注意しながら、少しずつ奥へと侵入を果たし、やがて根元まで慶子の中に収まった。

ボクたちはずっとそのままで抱き合っていた。

それから少しずつ、慶子の中を往復し始めてみたのだけれど、ボクが動くたびに慶子の眉間に皺が寄るので、ボクは一旦慶子の中から撤退することにした。

身体を引いて慶子から出てきた男根が、慶子の太ももに触れると、初めての証が少しついてしまった。

ボクは、枕元のティッシュをとって、慶子の太ももを拭い、自分のモノもティッシュで包んだ。

「シーツが汚れちゃうから、私にもティッシュをとって」

慶子に言われて、二、三枚手渡してやると、慶子はそれを折り畳み、ナプキンのようにして自分の股間に当てると両足で挟み込んだ。

それから、ボクに抱きついてくると、ボクの耳元で囁くように言った。

「タロちゃんが、初めての人でよかった・・・」

ボクは、天にも昇るような気持ちになって、慶子の身体を抱きしめると、慶子の声がした。

「タロちゃん、そんなにきつくしたら苦しいよ」

ボクはそれを聞いて、やっと自分の腕の力を緩めると慶子を再びベッドに寝かしつけた。

下からボクを見上げる慶子の顔は、本当に綺麗で、ボクは再び覆いかぶさると自分の唇で慶子の唇を覆った。

興奮が高まって、唇を割って舌を入れてみると、慶子もボクに抱きつきながら、舌を絡めてきた。

もう一度、入っておいでというように、慶子の手はボクの竿をやさしく包んで、自分のほうに引き寄せた。

ボクは枕の下に隠しておいたコンドームを取り出して、素早く装着すると、再び慶子の中に入っていった。

今度は慶子の温もりも、柔らかさもじっくりと感じることができた。

慶子の眉間に皺が寄るのが気になったけれど、高まった性欲には抗えなくて、ボクは激しく腰を振ると、慶子の中で脈打った。

「すごく、気持ちよかった・・・」

慶子の耳元で、囁くと、慶子は小さな声で”嬉しい!”といってボクの首に抱きついた。

その晩、ボクは目を覚ますたびに慶子の中に入ると、射精を繰り返した。

翌朝、微かなシャワーの音で目を覚ますと、慶子の姿はベッドになかった。

布団をそっと捲ってみると、シーツのところどころに、血痕がついていて、昨夜のことは夢ではなかったのだと改めて実感した。

「タロちゃん、いいお米食べてるんだね」

ボクの目覚めに気がついた慶子が声をかけてきた。

「えっ?ご飯を炊いているの?」

昨夜の料理の腕前を目の当たりにしたボクは、慶子を厨房に立たせることに一抹の不安を感じで、顔も洗わずにキッチンへと出向いた。

「タロちゃん、私がお料理できないと思っているでしょう?」

ボクの慌てようを敏感に察知した慶子は、汚名を挽回する機会をくれといわんばかりに牽制してきた。

「朝は、ご飯?」

頷く慶子を見て、意外に思った。

ビジュアルから考えると、どう見てもボクがご飯派で慶子はパン派だ。

自分のことは兎も角、慶子が朝からガッツリとご飯と味噌汁のタイプだと知って、なんだか新鮮だった。

それよりも驚いたのは、厨房からはカツオ出汁のいい香りが漂っていた。

コトコトと煮込んでいる鍋の中は、昨日の食材と味醂と醤油の香りから、肉じゃがだと想像に難くはなかった。

「今日は、任せて」

慶子のエプロン姿に、再び”萌え〜っ”となったボクだったが、名誉挽回のチャンスを奪うわけにもいかないので、大人しく引き下がった。

洋食での昨夜のダメぶりは解消され、和朝食の腕前はなかなかのものだった。

ご飯に豆腐の味噌汁を軸に、少し甘く味付けた卵焼きとメインの肉じゃがは圧巻だった。

「美味いよ、これ!」

正直な感想を述べると、慶子は本当に嬉しそうな顔をしかけたが、照れ隠しのように口をキュッと結んで顔がニヤけるのを堪えていた。

そんな慶子の姿が、また、可愛らしくて、ボクはもう慶子にゾッコンだった。

ボクが大学を卒業するまでの間、ボクたちは毎日のようにデートした。

エッチだけの関係にならないように、帰りにファミレスでいつまでもおしゃべりをしていたり、休みに入ると、それまでにバイトで貯めたお金を奮発して、旅行に出かけたりした。

旅行では、我慢できずに何度もエッチをしてしまったけど。

初めて一緒に温泉に行ったとき、着いてからは、一緒に浴衣を着て、大浴場に行ってお風呂に入っていた。

けれども、慶子を待っている間に家族風呂というのが借りられると知って、こっそり予約した。

ボクは、お酒が飲めないので、ジュースで乾杯をした後は、テーブルいっぱいに並んだご馳走に挑んだ。

「ん〜っ!これ、おいしー!!!」

新鮮な海鮮料理に舌鼓を打ち、慶子はお箸を握り締めながら、喜んでくれた。

最後の締めは、貧乏学生には無縁の吃驚するくらい美味しいお肉だった。

「タロちゃん、今夜はこれで準備万端だね」

ちょっとエッチな冗談も言い合える中になっていて、ボクは慶子に微笑みながら、小さな声で”バカ”と応じた。

「家族風呂、予約しておいたから、行く?」

言ってみると、慶子は恥ずかしそうにしながらも小さく頷いた。

脱衣所で背中を向けながら裸になると、慶子は手拭いで前を隠しながら風呂場に入った。

「身体は、さっき洗ったからいいよね?」

そう言いながら、慶子は掛け湯をすると、ゆっくりと湯船に浸かっていった。

明るい照明の下で見る慶子の裸は、格別だった。

何度も見させてもらっていたけれど、お肌が信じられないくらい真っ白で、滑々で、少しやせ気味の身体には鎖骨がはっきりと、あばら骨が薄っすらと出ていて、薄めの草むらがお湯の中で揺れていた。

湯船の中ではしゃぎながら、お互いの身体を触りっこしていると、慶子はのぼせたのか、興奮したのか赤い顔をしていて、それが妙にエロかった。

冷たいタイルの上で抱き合いながら、一度は挿入を果たしたがこれはちょっといただけなかった。

「床が硬くて膝が痛いや」

そう言うと、慶子も直ぐに答えた。

「私も背中が痛ーい」

そういう訳で、ボクたちは一旦、部屋に戻ることにした。

戻ってみると、部屋には既に布団が敷いてあって、じゃれ合って抱き合うようにボクたちは布団に倒れこんだ。

レイプ気分で、慶子の浴衣を剥ぎ取って、布団の上に組み伏せると、慶子は笑いながら小さな胸を上下させながら息を切らしていた。

ボクは、慶子の乳房に吸い付いて、身体中を舐め回した後で、脚を広げさせると股間に顔を埋めた。

「あぁ、そんなの・・・」

慶子は恥ずかしそうに顔を背けたが、敏感な突起をペロペロしてやると、身体をビクンと震わせた。

「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、タロちゃん、それいい!」

すっかり、大人の女性になっていた慶子は、布団のシーツを掴みながら身悶えした。

「タロちゃん、気持ちいい・・・」

慶子は胸を反らして、どんどん高まっていった。

「タロちゃん、すごいよ!あ、あ、あ、あ・・・」

「ケイ、イキたかったら、イッていいよ」

それを聞いた慶子は、一瞬恥ずかしがって見せたが、快楽に引き戻されて、首を左右に振りながら、昇天した。

すっかり愛液で濡れた慶子の亀裂に舌を這わせ続けると、慶子はピクリと身体を震わせながら言った。

「タロちゃん、続けてはダメだよ」

それでも、ピチャピチャと指と舌先で敏感な蕾を愛撫し続けると、慶子は再び高まってきた。

「タロちゃん、いいよぉ!凄い・・・、あぁ、いいよぉ!」

「は、は、は、は、あぁー、イッ!」

慶子の身体が少しにエビ反りになかけたところで、動きを止めると慶子の競り上がって来ていた腰が布団にストンと落ちた。

「ケイ、イキたい?」

ちょっと意地悪をして、訊いてみると、慶子は少し恨めしそうな目でボクを見たけれど、観念したように頷いて見せた。

天使がボクの忠実な僕(しもべ)になったような気分で、ボクの興奮は最高潮に達したが、ボクはクンニで再び慶子を快楽の淵へと誘った。

「もうダメ、もうダメ!あぁー、タロちゃん、イクッ、あぁ、イッちゃう、あーっ、イク、イク、イク、イク、イクっ!!!」

慶子のしなやかな身体は思いっきり仰け反ったかと思うと、次にはガックリと布団に横たわり、唇を震わせながら、荒い呼吸を続けていた。

さらに追い討ちをかけようと、濡れそぼった亀裂に指を差し込んでゆっくりと動かし始めると、慶子は身体をビクンとさせて腰を引き、ボクの指を逃れると、今度は身体をノロノロと動かして、ボクの上に逆さまに覆い被さってきた。

「今度は、私が、タロちゃんを気持ち良くさせてあげる」

そう言うと慶子はボクの屹立した肉棒の先にチロチロと舌を這わせ始めた。

パックリと目の前に開いた慶子の二枚貝を引き寄せるように、慶子の腰に手を当ててボクの顔のほうに引っ張るとヒクヒクと生き物のように動く蜜壺に舌を差し込んだ。

慶子は慌てたように、ボクを根元までパックリと呑み込むと、首を大きく上下に動かしてきた。

「ング、ング、ング・・・」

喉の奥でボクを刺激した後で、今度は頬と唇を使って慶子はボクに喜びを与えようと奉仕してくれた。

ボクが、奇跡の内定をもらった会社の名を告げると、お義父さんの顔は、ハトが豆鉄砲を食らったような表情に変わった。

「え、えぇ?」

隣で正座をして聞いていた慶子がお父さんを肘で突いて、返答を促した。

「あぁ、それは、それは・・・、おめでとう・・・」

ボクが告げたのは、お義父さんが部長を務める会社の名前だった。

「ボクがいうのもなんだが、いいところに決まったね」

そうは言ってくれたけれど、改めて”慶子さんをボクにください”と言った言葉には、最後まで返事がもらえなかった。

「お父さんね、とうとう観念したみたい」

何日か経って、慶子に会うと、彼女は自分の父親のことをボクにそう告げた。

「そうなの?」

「うん、昨日家に帰ったら、私のベッドの上にコレが置いてあった」

そう言って、慶子は茶色の紙包みをボクの前に差し出して見せたので、ボクが中を覗いてみると、そこにはコンドームがひと箱入っていた。

“オープン過ぎる・・・”

慶子の家庭環境に、ボクは改めて驚いた。

卒業式のあった日の週末、お義父さんを含めて、ボクたちは皆、教会にいた。

控え室で、偶々お義父さんと二人きりになってしまって、何を話そうかと困っていたら、お義父さんのほうから話しかけてくれた。

「押しかけ女房みたいな始まりだったと聞いているんだが、慶子のことをよろしく頼むよ」

“どこまで、ぶっちゃけトークをしているのだろう・・・”

この親子には、かなわないと思った。

それでもやっと、お義父さんがボクを認めてくれた気がして、何だか嬉しかった。

「そう言えば、キミの同期に、なかなか見所のある男がいると人事が言っていたぞ」

「何て名前の人ですか?」

「確か、田中・・・って、言っていたかな」

“面接の後で、握手をしたヤツだ”

「キミとは姻戚になるから、ボクとは違う部署になるけれど、会社で何か困ったら、総務の島田くんに相談するといい」

会社の内情やアドバイスまでしてくれるお義父さんは、漸くボクを身内と認めてくれたようだった。

結婚式には、ワカちゃんと彼氏は勿論のこと、昔、慶子に数学を教えてくれたというソヨンと日本人のオッパーも参列してくれた。

ワカちゃんが中学生のころから思いを寄せていたという彼を見て、どこかで会ったような気がしたが、思い出せなかった。

正直なところ、その日は自分のことで精一杯だった。

誓いのキスの後、慶子はボクに囁くように言った。

「あの神社の御利益、すごいね」

「えっ?」

「タロちゃんのお願いは、二年前に叶えてもらえたし、私のお願いは、今日叶えてもらった」

上目遣いに潤んだ目でボクを見上げる慶子を見て、ボクは人目も憚らず、ウエディングドレスを纏った慶子を強く抱きしめてしまった。

ライスシャワーの中を通って、慶子が投げたブーケが落ちたのは、ワカちゃんの手の中だった。

「次は、ワカちゃんだよ」

慶子はそう言いながら、ワカちゃんに胸の前で小さく手を振っていた。

社会人になったばかりで、まだ大学生の嫁を貰っての生活は苦しかったが、ボクたちは仲睦まじく、楽しい毎日を送っていた。

同期の田中くんは、数年後には、会社で営業成績トップになっていた。

お祝いに、田中くんを飲みに誘った時のことだった。

「面接のときからすごい奴だと思っていたけど、おめでとう!」

「あの時の面接のグループで、通るのは山田とボクだけだと思っていたよ」

「こりゃ、どうも・・・。それにしても、やっぱりすごいな」

「いや、実を言うと、ボクだけの力じゃないんだ」

田中くんは、意味深な目をして見せた。

「どういうこと?」

「本当はさ、お客さんが何を求めているか、アドバイスを貰っているんだ」

「誰に?」

田中くんは、一瞬間を置いたが、最初からボクには話してくれるつもりだったのだろう、即答で返事が返ってきた。

「笹倉さん」

「えっ?笹倉さんって、購買の?」

「うん」

「どうして笹倉さんが?」

「うん、いろいろあって、ちょっとだけ気に入ってもらえたらしいんだ」

「へぇ!?すごい人に気に入られたものだね」

笹倉さんは美人だけど仕事に厳しい人として有名だったから、ボクも名前を聞いて直ぐに分かった。

杯を重ねていくうちに、田中くんと笹倉さんはデキているのではないか、と思い始めた。

その矢先に、思いもよらぬ人の名前が田中くんの口から出てきた。

「それよりさ、ワカちゃんって知ってるだろ?」

ボクがワカちゃんのフルーネームを答えると、田中くんは少し酔った目で頷いた。

「うちのカミさんの友達だけど、どうして知っているんだい?」

「実はさ、そのワカちゃんと付き合っているのが、うちの弟なんだ」

結婚式で、ワカちゃんの彼氏を見かけたとき、どこかで会った気がしたのは、そういうことだったのだ。

ワカちゃんの彼氏と田中くん(尤もどちらも田中くんだけど)は、顔立ちのよく似た兄弟だった。

「今度、結婚するんじゃないの?確か、招待状が来てたと思うけど」

尋ねると田中くんは、訳あり気に頷くと弟の話をしてくれた。

家に帰って、慶子にそのことを報告すると、慶子も世間の狭さに驚いていた。

「それとさぁ、ワカちゃん、デキちゃったらしいよ」

「そうなの?」

「うん、女の子らしくって、もう、名前まで決めているんだって」

「何ていうの?」

「ナツミって、言ってたかなぁ・・・」

ボクがそう答えると、慶子は何故かひとりで頷いていた。

その晩、ベッドに入ってから、慶子は横になったボクの背中に抱きついてきた。

「私も欲しいな・・・、赤ちゃん」

そう言って、後ろから回してきた手はパジャマのズボンのゴムを潜り抜けると、ボクをニギニギしてきた。

「ボクみたいな、頼りないのでいいの?」

「うん、私がしっかりしているからいいよ」

「何だ、否定してくれないんだ・・・」

ワザと拗ねて見せると、慶子は後ろからボクの方を甘噛みするように少し歯を立ててきた。

ボクが身体を捻って慶子の方を向くと、慶子はボクに覆い被さるようにしてきてきた。

慶子の舌が、ヌルリとボクの唇を割って入り、ボクはそれに応えるかのように舌を絡めた。

慶子の髪からシャンプーのいい匂いが香り、ボクは慶子の細い身体を強く抱きしめた。

「タロちゃん、大好きだよ」

慶子はそう言いながら、ボクに跨ると、ボクのパジャマの上着のボタンを外していった。

パジャマの前が開いたところで、慶子は上半身を前に倒してくるとボクの胸に唇を寄せた。

慶子の舌が、豆粒のようなボクの乳首をクリクリし、唇はやがて胸からお腹の上を通ってヘソのところまで降りてきた。

「タロちゃん、少し腰を上げて」

そう言われて腰を少し浮かせると、慶子はボクのパジャマのズボンを下着ごと膝まで下ろした。

「元気でちゅねぇ」

赤ちゃん言葉でボクのジュニアに話しかけると、慶子はビックリするほどエッチな目をボクに向けると、舌先を尖らせて、チロチロと亀頭に舌を這わせ始めた。

「はぁ〜」

気持ち良すぎてタメ息が出ると、ボクのジュニアはピクピクと上下した。

次の瞬間、パクリとジュニアは慶子の口に吸いこまれ、猛烈なフェラが始まった。

「そんなにしたら、もう出ちゃうよ」

ボクは慶子の身体を押しやって上体を起こし、慶子のネグリジェを脱がせて裸にすると、シックスナインになるよう慶子を促した。

ボクの目の前に晒された慶子の亀裂はベッド脇のランプの光に照らされて、愛液でテラテラと光っていた。

内腿に舌を這わせた後で、亀裂に沿って舐め、敏感な蕾を舌先で転がすと、慶子も負けじとボクのジュニアに吸い付いてきた。

「もう、ダメ・・・」

先に音を上げたのは慶子で、慶子は身体の向きを入れ替えてボクの腰の辺りに跨ると、ジュニアに手を添えながら腰を落としてきた。

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