砂上に沈むさざ波を横目に見て、周囲の時間がただ過ぎる中、少女の時間は止まっていた。
「私は、何で辛い道しか選べないのだろう」
時は遡り、5年前。
「トーカ!これからどうするの??」
親友のチカが話しかけてきた。
私の名前はトーカ。
ちょうど地元の高校で就職活動を終えた頃だった。
「この前言ってたさぁ、アパレル会社内定もらったんだよね!内緒にしてたけど。しかも系列店からスタートだから地元離れなきゃ」
「なにー??そんな大事なことチカに隠して行くつもりだったの??マジさみしー・・・」
「チカが決まってから一緒にお祝いしようと思ってただけ!」
「そっか。じゃあカズキとも別れるの??」
私には同い年の彼氏「カズキ」がいた。
「んー、あいつまだ決まってないしなー。一応あいつも私の就職先近い大学2校ほど受けてるらしいし、まだわかんないな・・・」
「会社と大学近かったらいいね!」
「私らのこと気にしてないでチカこそ頑張りなよ!!」
「はーい、じゃあまたね!」
チカと離れるのは嫌だったけど、私は3ヶ月に1回くらいは地元に帰ろうと思ってたので泣くことはなかった。
時は流れて春。
卒業式もそつなくこなし、チカともお盆には帰る約束をして、私は金沢の地に一人降り立った。
電車で見た景色は地元と変わらない田舎で、すごい親近感が湧いた。
ちなみに、カズキも金沢の大学に合格したため二人で1Kのアパートを契約した。
知らない街でいきなり一人ぼっちになるよりはマシかと思い、新生活を楽しむ気持ちだった。
私の就職先は、金沢では誰もが知ってるような専門店街に入ってる某アパレル店。
ギャルめな服を扱っていて、服に合わせるようにヘソピを開けてみたりもした。
気を使ってしまう私は、楽しみながらも初めて上司がいる生活に少し嫌気が差してきた秋。
ひとつ転機があった。
店長の退職。
その店は社員が店長と私しかいないので、必然的に仮にも店長という役職に就かなければいけない。
「トーカちゃんには申し訳ないけど、私も19歳から店長を任せられたからきっとできるよ!」
「え・・・、でもすごい自信なくて、まだ売上げを管理できるなんて思えないです」
「トーカちゃんかわいいから大丈夫だよ!」
辞める身の人は結構他人行儀で困る。
私にできるわけない。
私も辞めよう。
ただ、今から仕事を探しても新卒扱いはしてもらえない。
若さだけが売りの私に何ができるんだろう?
店長の送別会で少しほろ酔い気味で帰宅した。
カズキも起きて待っていてくれた。
「カズキ、仕事辞めようと思うんだけど」
「いきなりどうしたん??」
「うちの店の店長辞めるんだ。そしたら私、店長にならなきゃいけなくて。責任なんて私が取れるわけない」
私は少し笑ってたかもしれない。
「俺はトーカの決めたことには文句言わないつもりだけど、後悔だけはするなよ」
「大丈夫、アパレルもずっと働けるわけじゃないし、給料も低いし」
「で、何するの??」
「夜しようかなって思ってる・・・」
「夜ってキャバ嬢ってこと?」
カズキの目が真剣になった。
「だめ?」
「ほんとは嫌。でもトーカが擦れてしまいそうで怖い」
カズキが言うのも分かる。
私は結構流されやすい。
「男は作らない!約束する!」
「まあトーカがちゃんと帰ってくるならいいよ」
カズキとしては難しい判断だったと思う。
でも私は次の日に面接に行った。
面接は二つ返事で採用。
夜なんてそんなもんか。
会社に辞表を出し、その日の夜から出勤した。
北陸では有名な歓楽街「片町」。
アパレルに働いていた時は、打ち上げくらいしか使ったことがなかったからビルのエレベーターに乗るだけで緊張した。
そのお店は片町で人気なお店らしい。
女の子の年齢は私と近く、10代の子ばっかりで話しやすかった。
その中でもレイとアンリは親友になれた。
レイはお酒が好きで、私の横でフォローしてくれる。
「トーカ!飲んでる??トーカのあのお客さん酒強すぎてレイでもムーリー・・・」
「大丈夫!?いつも手伝ってもらってごめんね」
「じゃあ終わったら一軒付き合ってね!」
「まだ飲むの??やばー!」
「アンリと約束したし!あのボーイズバーの子、アンリ、ゾッコンだし!」
「リョウくんとこね!わかったよ!」
夜してる女の子に男がいないってことは本当に無いと思う。
誰もが誰かにすがりついて、そしてまた頑張れるんだと。
夜の仕事は楽しかったし、給料が上がった分使う金額も大きくなった。
いわゆる同業の人達とも仲良くなって飲み歩いたりもした。
カズキとのいさかいは私が生んでしまった。
なんとなく毎日酔ってなんとなく朝に帰る。
カズキはいつも学校に行ってしまった後だった。
だんだん会う時間が無くなっていっていた。
日曜はお互いに友達と遊ぶ予定が入っていたため、1ヶ月のうち会うのは3日くらいになっていた。
その3日は、カズキも若い男だし昼夜問わずに体を求められた。
しかし、私は特別そういう行為が好きなわけではない。
私も段々、愛というよりは作業にしか思えなくなっていった。
ある日、カズキには悪いと思ったが、カズキからの誘いを断ってしまった。
カズキはその日から私の体を求めなくなっていた。
私はわかっていた、他に女がいることを。
ケンカはよくしていたが、携帯を私に見せないようにしていた。
ある意味しょうがないと心に決め、生活を続けていた。
だけど、私は心の奥底では悔しかったのだと思う。
初めて私も浮気をしてしまった。
何の感情もなく、仕事終わりで酔ってたせいもあるかもしれない。
よく行っていたバーの仲良しな男性とホテルに行ってしまった。
昼に帰ってもカズキは何も言わない。
多分一日帰らなくてもカズキは何も言わないと思う。
「カズキ、話があるんだけど」
「なに?別れ話?」
「違うけど、今の生活どう思うの??」
「トーカはどう思ってるの??」
「私は一緒に住んでる意味あるのかなって思う」
「トーカの仕事が忙しいからじゃん?」
「私のことは好きなの??」
「そりゃあいなくなると寂しいかな」
「そうなんだ。他に女いるのに?」
カズキは少しムッとした顔になった。
「トーカだって何してるか分かんないよね」
「そうだけど、家に帰っては来てるよ??」
「昼まで飲み屋さんやってんの??」
「そりゃアフターとかもあるし、何時になるか分かんないよ」
「じゃあわかった。何時からどのお店に行ったかだけ連絡して」
「うん、わかった」
とりあえずの同棲。
自分でもどうしたいのか答えが出なかった。
変わったのは、今どこの店にいるか伝えるだけ。
私はカズキを裏切り続けているのかもしれない。
私は最低だ。