まずは、私の親友、雪江の体験談から話します。
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私の名前は雪江。
神戸空港を降り立ったとき、季節外れの暖かな風に驚いた。私が今住んでいる東京の10月の風はもっと乾いていて寒い。
今日は高校の同級生、亜紀の結婚式に出席するために神戸にやってきた。私は某TV局で働く今の旦那と結婚して、東京住まいになってから、地元の関西に戻ってくるのは久々だった。
空港には、私の高校時代の親友の美香、そして圭司先輩と修二君が車で迎えに来てくれていた。美香がまず声をかけてくれる。
「雪、久しぶりやな。元気してたのは知ってたけどな。声だけは聞いてたけど…会うのは久々やな」
電話でちょくちょくやり取りをして、彼女の声は聞いてたけど、顔を見るのは久しぶりだった。久しぶりの再開に二人抱き合って喜ぶ。私は染まりやすい性格なので、結婚して、東京暮らしを初めて、1年ですっかり関西弁をしゃべらなくなった。なので、美香の喋る関西弁もどこか懐かしい気がする。
「雪江ちゃん、久しぶりやな…元気してた?」。修二君が声をかける。
「雪、久しぶりやな。あんまり昔と変わらへんな」。野球部の先輩だった先輩が声をかける。
実は私と先輩、高校時代は付き合ってたんです。顔を会わせるのは10数年ぶり。相変わらず、自信に溢れたその姿勢、堀の深い顔立ち、肌はすっかり白くなっているけどカッコいいと思った。付き合ってたときは「もしかしたら、この人と結婚してたかも?」と思うと、こういう形で再会したことが不思議に感じる。
4人で先輩の車に乗り、神戸ポートアイランドに向かい、結婚式場近くのホテルに車を停める。今夜、私達4人は一緒のホテルに宿泊ということになっている。
フロントでチェックインを済ませていると、
「よう、みんな、元気やったか?」と初老の男性に背中越しに声をかけられた。
「〇〇先生…お久しぶりです」
現れた初老の男性は高校時代の数学の先生。ピシッとしたスーツに白のネクタイ、そして、かつての黒髪はすっかり白くなり、顎には豊かな顎髭を蓄えている。
「式始まる前にコーヒーでも飲まへんか?」
ホテルラウンジで5人でコーヒーを飲みながら、高校時代の話に一華咲かせた後、
「ほな、また結婚式でな」と言いながら、先生は席を立ち去っていった。
私は目の前のカップに残るコーヒーに口をつけ、それを飲み干すと、
「先生、年取ったけど相変わらずおもろいな。ほな、後で」と3人に言い残して部屋へ向かう。重かった荷物を起き、お化粧直しをして、ドレスに着替えてから、ホテル前で4人でタクシーに乗り、結婚式場へと向かう。
外は晴れ渡っていて、空港を降りた時と同じく暖かい風が頬にあたって気持ちいい。今日はいい1日になりそうな予感。
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花で飾られた白い小さな階段を登り、式場へと入る。亜紀の結婚相手も同じ高校なので、今日は同校出身の人達が沢山来ると聞いている。ただ、私の高校は1学年400人以上もいるようなマンモス高校なので、同級生といえども、顔を覚えていない人達もたくさん居る。
受付を済ませると、待合室は開式を待つ人達で溢れていた。ほとんどが知らない顔の中に、かなり仲良かった友達の顔を見つける。嬉しくなって声をかける。
「今日、来てたんや。知らんかったわ」
「雪も来てたんやな。久しぶりやん。今、どこにいてんの?」
「今な、結婚して東京やわ。」
「東京に住んでるんや。積もる話もいっぱいあるな…後で一杯話しようや。テーブル、一緒かな?一緒やったらええな」
彼女以外にも何人か知り合いの顔を見つけて、順番に声をかけて回る。皆、元気そうで何よりだわ。
時間は巡り、幸せな時間は過ぎていく。亜紀の結婚式、とっても素敵だった。亜紀の幸せそうな顔、新郎新婦や友人達の笑顔と涙が溢れる素晴らしい式だった。こういうのは何回来てもいいわ。また、結婚式だけ挙げて、私が主人公になってみたいものね。
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少し時間を早送りします。
式の後、会場を移しての二次会も終わり、22時頃、4人でホテルへと帰ってきた。お酒はあまり強くないので、今はかなり酔っぱらっている。確実に飲みすぎだわ。足元がフラフラする。
・・あ~~、明日、やばい、確実に二日酔いじゃん。それに美香だって、私と同じでお酒はあんまり飲めないのに、スイッチ入ると、調子乗って飲んじゃうんだよね。
美香も足元フラフラだし、酔っぱらったときのいつものタッチ大好き・甘えモードに入っている。私とK先輩の前を修二君に腕組みしながら歩いている。
・・あ~あ、まただわ。美香、絶対、明日になったら、「えええ、嘘!覚えてない」って言うわよ。後ろから見ると、あの二人、100%カップルに見えるじゃん。
「これからどうする?4人で飲みなおすか?それか2人で飲むか?」
エレベーターを待っている間、先輩に耳元で声を掛けられる。お酒臭い息が私の鼻腔をくすぐる。K先輩はもっと飲みたそうな目で私を見つめるけど、もう私は無理。これ以上、飲んだら倒れちゃうわ。
「先輩、、私はもういいや。これ以上飲めない。飲まないけど、、、」
「飲まないけど、、何?」
「その替わりっていったら何だけど、部屋で話でもしない。私は飲まないけど、先輩は飲んでもいいよ。まだ話足りないことないの?あるでしょ、、絶対ある」
「あるよ。そうするか、、そうだったな、、雪はあんまり酒強くないもんな。耳も顔もまっかっかやん。」
「ええ、そうなの」
思わず恥ずかしくなって耳を両手で塞ぐ。
エレベーターの扉が開き、4人で部屋へ向かって歩き始める。赤の薄いマットが敷かれた廊下にカツカツと私と美香のヒールの音が響く中、私の耳にはっきりとある音が聞こえてきた。それは部屋から聞こえてくる女性のあの声。
・・・・・あああっつ、いい、いいわ
それも一部屋だけではない。私たちの部屋は20階のエレベーターを降りて奥側の部屋だったんだけど、まるでカエルの合唱のように数部屋から女性の喘ぎ声が聞こえる。しかも何を言っているのかはっきりと聞こえる。
・・・・・いい、ああああっつ、もっと
・・・・・いく~、イク~、あああ
思わずK先輩の顔を見る。先輩はまっすぐ前を向きながら歩いていたが、明らかに動揺している様子だった。美香は聞こえてるのか、聞こえていないのか、相変わらずS君にべったりと寄り添っている。
「雪、おやすみなさい」と美香。
「雪ちゃん、お休み。いい夜を」と修二君からも声を掛けられる。
美香は修二君の腕に自分の腕を絡ませたまま、二人でS君の部屋へ入っていく。
「あの二人、デキてたの?」と先輩。
「知らないわ。美香ってお酒に飲まれちゃうのよね…明日、会ったときが楽しみね」
私の部屋の前につく。その時、私は先輩に急に腕を引っ張られた。
「何?どうしたの?先輩」
「俺の部屋に来いよ」
私は美香たちに「おやすみ」という間もなく、先輩に腕を引かれて、先輩の部屋へと半ば強引に連れ込まれた。
(続)