ふと、目を覚ました。
部屋の中が薄暗い。レースのカーテンだけの窓から街灯の光が入っている。
あのまま寝たのか…。半分寝惚けたまま、電気を点け、枕元のスマホを取って時間を見る。
20時過ぎていた。レオから着信とLINEが入っている。すぐ折り返す。
「ごめん、俺。爆睡してたわ」
『今ちょうど出たとこなんだけど、部屋にいるなら戻るわ』
「わかった」
とりあえず顔を洗ってさっぱりする。
まだ怠いようなふわふわした感じだが、とりあえず外に出られる顔にはなった。
レオを付き合わせて飲みにでも出るか、と思っているとノックの音がした。
「悪いな、完全に寝てたわ…」
言いながらドアを開けると、顎下くらいの柔らかいものがぶつかってきた。
「うわっ」
勢いで後ろにさがり、ドアが閉まった。
見下ろすと、大きな黒目がちの目が見返してきた。
何も言えずにいると、小さな声が聞こえた。
「会いたくなって」
リッちゃんがこんな時間に俺の部屋へ来るわけがない。服も違う。丈の長いワンピースだ。
まだ寝ていて夢を見ているのかもしれない。
最近よく見る、都合のいい夢だ。
なめらかな頬のリアルな質感に、つい手を伸ばす。
頬に触れた手に、猫のように擦り付けてきた。
すべやかな柔らかい感触に、理性が切れた。
妄想でも、幻でもいい。
細い体に両腕を回して抱きしめ、肩を掴んで自分の体に押し付ける。
手を滑らせて撫で下ろし、柔らかな身体を確かめた。力を入れたら壊れそうなやわい弾力。
髪に鼻先を埋めると、控えめな甘い香りがする。
少し顔を離し、額を合わせ、口づけた。
「ん、…っ」
何度も口づけて、開いた唇に舌を押し込む。
手で首を固定して、思う様口の中を蹂躙すると苦しげに抵抗した。
その反応に凶暴な衝動が突き上げてくる。
ずっと、触れたかった。
片手で壁を探り、部屋の照明を消した。
部屋の奥へ移動しながらワンピースの背中を探り、ファスナーを全開にする。
腕を抜き腰まで下げて、そのまま掬い上げてベッドに投げ出し、自分のシャツとチノパンを乱暴に脱ぎ捨てた。
彼女は起き上がってワンピースで胸元を押さえ、顔を背けて俯いている。
俺が近づくと少し怯えたような顔で見上げた。
優しく彼女の手をとってワンピースを剥ぎ取り、下着だけにして押し倒した。
レースをあしらったブラの上から、胸に顔を埋める。もう片方は手で掴み上げた。
硬く尖った先を探し当て、歯と爪でそれぞれこね回すと、甘い声が上がって身を捩った。
可愛すぎて壊しそうだ。
ブラのホックを外し、腕から抜きとり投げ捨てる。
ベッドに押し付けるように両手で乳房を掴み、揉み上げて吸い付き、幾つも痕を残す。
強く吸われて痛んだのか、かすかに声が漏れた。
白い手が俺の顔を撫で、首から胸へと辿った。情欲を煽られた俺はその手を捕まえて引き、のけぞった白い喉にかぶりつき、肩や二の腕まで吸い立て、歯を立てる。そのまま乳房に移動し、食いつくように唇で弄う。
激しく責められて本能的に逃げる腰を掴み、脚を抱えてショーツを剥ぎ取ると引きずり寄せた。
狼狽した声が上がる。
「あっ、やっ…!」
自分を膝の間に割り込ませ、大きく開かせたまま、逆らう彼女の手を捉え、1本ずつしゃぶっていく。丁寧に舐め、指先を吸うと肩が戦慄いた。
反対の手で脇腹から撫で下ろし、隠そうと動く手を押し退け、指で割れ目をかき分けて、体液を零す濡れた入り口まで辿る。
震えながら顔を背けて目を瞑り、身を縮めて羞恥に耐えている。可愛いすぎだ。
リッちゃんの手を放し、太腿を撫でさすり押し広げた。
熱い泥濘の中心を唇で摘み、舌で捏ね、クリトリスを弾くとガクガクと震えて腰が引き攣る。手がシーツを掻いて掴み、悶えた。
「…やうっ…アッ」
指を突き入れると仰け反る。掻き出すように中をぐるりと探って、すぐ2本に増やし奥まで沈める。
ざらついた天井を押す。また逃げようとする腰を引き戻して、力ずくで太腿を押し広げた。
「ん、んんっ…!」
「…キツい」
思わず口をついて出る。2本飲み込んだ入り口へ、反対の手の指も一本、半ばほど押し込むが押し戻された。先の2本で道を広げるように突き動かし、緩んだ隙間にもう一本足して、2本まとめて押し入れると、濡れた粘膜が軋んだ音を立てて限界を訴えた。
白い太腿ががくがく震えっぱなしだ。シーツを握りしめて喉を反らして声もなく喘いでいる。
4本の指を入れたまま、空いた指でクリトリスを押さえ、滑らせ、弾いて弄う。指を動かすたびに体液が溢れて伝い落ちる。
「あぅっ…!」
膝がぎゅうっと俺を挟み付け、背中が反る。瘧のような震えが全身に走った。
限界まで押し広げた膣の奥が指を締め付けた。
滑る体液が滴った。
指を抜いて両膝を掴み、高く押し付けるように持ち上げ、ガチガチに張り詰めた自身に体液を纏わせるように擦り付ける。
そのまま、ゆっくりと突き入れて行く。熱く締め付ける襞に包まれ、高まる欲求に息を吐いた。
先が入り口に呑まれるとすぐに押し戻される。
と、激しく身悶えて逃れようと跳ねた。白い脚が宙を蹴った。怯えた動きに煽られ、手を伸ばす。
「アッ、や!怖い、んんっ…痛…!!」
脚を掴み、狭い道に拒まれた張った部分を、強引に押し進めると悲鳴が上がった。震える唇を舐めて口づけ、慰める。
「…だから来ちゃダメだったんだ」
もう、止められない。
熱く狭い、絡みついてくる狭間に、ねじ込むように進めていく。強い締め付けに扱かれ、脳裏で火花が散り、背中を電流が走る。
勝手に突き上げそうな衝動を抑える。
抱えた脚から手探りで抱きしめる。泣いているのを感じるが、かまわず抱え直し、更に深く沈めていく。
「ここに、来るからだっ…!」
俺からも、守りたかったのに。
俺の下から逃げ出そうと身悶えする体を捕まえ、体重をかけて最後まで突き込んだ。高い声が上がる。
君は、俺のものだ。
涙混じりのうわ言のような喘ぎを聞きながら、ゆっくりと時間をかけて俺を刻みつけていった。
深く押し付けると逃げる身体を捕まえて強く腰を叩きつけ、中を押し回す。
時々白い腕や足首を掴んで舌を這わせ、味わう。
俺が動くたびに上がる喘ぎが甘くなっていく。
もはやされるままの体を抱き起こし、対面座位にする。
「アッ…アア…ッ」
一際高い声が上がったのは、奥まで呑んだ為か。
そのまま激しく突き上げると首に力の抜けた腕を絡め、縋りついてきた。抱きしめて口づけると、俺を包む襞が締め付けてくる。
脳を灼くどろどろに溶けそうな射精感に身を委ね、強く奥に押しつけて吐き出した。そのまま、彼女を抱きしめベッドに沈んだ。
空気が流れた気配がし、気がつくと朝だった。
レースのカーテンのみの窓から入った光で、室内は白々と見通せる。
俺はベッドに1人、上掛けを巻き付けていた。
脱ぎ捨てた昨日の服が床に落ちている。
「夢…?」
不埒な夢ならしょっちゅう見ている。
いつもの夢か、と何気なくベッドから降り、上掛けを押しやろうとしてギョッとした。
シーツに赤い跡が、逃げ回る軌跡を描いていた。
「…夢じゃない!」
慌てて部屋を見回し、ユニットバスを覗くも誰もいない。
服を着ながらレオに電話する。
「レオ、昨日お前、リッちゃんを俺の部屋に来させたか?!」
『あれ?連絡ないから会えたと思ってたけど?頼まれてさ、帰ってきたら教えてくれって』
「いや、来たんだ、来たんだけど、俺はまた妄想かと…いや、それより、朝起きたらいなくなってて!」
『えっ、ちょっとどういうことかわからん。昨夜一緒だったんだろ?』
「一緒…だった。ヤバい、俺、妄想と勘違いして…」
『やっちゃって、起きたらいないって?マジかよ』
話してる間に俺の部屋に来たレオは、シーツを見て目を丸くし、ついで渋い顔をする。
「とりあえず探そう。まだ7時だし、出て行った気配で起きたのかもしれん。しかしこれだと、リッちゃんまともに歩けないんじゃないか?」
「多分…そうだと思う。かなり手酷く抱いたと思う…」
シーツの血の跡はかなり広範囲に及んでいる。刷毛で軽く撫でたように動いた後がわかる。
「だよなあ。なんで1人で出て行っちゃったんだろ。心当たりは?」
「俺の妄想だと思ってたから、なんで来たんだってキツく言ったんだ」
あちゃーといった手振りで頭に手をやっている。
「それだな、原因は。とりあえず探そう。どっかで動けなくなってるかも」
「すまん」
フロントを抜け、座って時間が潰せそうな場所を探していく。
スマホのロックの件で親に言い訳をしかねていたくらいだから、回復してから帰ろうと考えるんじゃないかと思った。
歩道のベンチがあるスペースや植え込み、近くの小さな公園なんかをひたすら当たっていく。
レオから着信があった。
「どうした?」
『いたよ、交番で保護されてた!やっぱり歩けなくなってたって!』
交番をみつけて飛び込むと、レオが奥の開いたドアの前に立っていた。
「エイト、こっち。無事だよ。ただお巡りさんがね…」
言いかけるのを押し退けて部屋に入ると、奥のソファにリッちゃんが座っていた。
昨日の妄想だと思っていた白いワンピースを着ている。
「リッちゃん、良かった…」
困ったような表情をしている。目元が腫れて赤いのは俺が昨夜泣かせたせいだろう。
近寄ろうとしたら、リッちゃんとテーブル挟んだ対面に座っていた警官と、リッちゃんの座るソファの横に立っていた警官が手を伸ばして遮ってきた。
「すみませんね、事情を確認させてもらうまで控えて頂けますかね」
「あ、はい」
立っていた方の年配の警官が俺を受付のカウンター席の方へ誘導する。
レオを見るとなんとも言えない気まずそうな顔で鼻の頭を掻いていた。
先になんか聞いてるんだろう。
「まず、あのお嬢さんなんだけど、あなたはどういう関係の方なんですかね」
「…付き合ってる恋人です」
噛みそうになるが言い切る。こうなったからには俺はもう手放す気はない。
「えー、昨夜から今朝まで、一緒におられたのは間違いないですか?」
「…はい」
人の良さそうな警官は、ふむ、と少し考えたそぶりで頬を掻いた。
「あのお嬢さん、そこのバス停のベンチまで来て、座ってバスを待つつもりだったみたいなんだけどね、座り損ねて転んだまま震えて立てなくなっててね。それで我々が呼ばれましてね、だいぶ嫌がられたんだけど、救急車よりは、と言って運んで保護させてもらったんですよ」
「それは…どうもお手数お掛けしました」
「それで、お嬢さんにどうしたのか、何があったのかと聞いても何でもない、と言い張られる。誰と今までいたのかと言うと、好きな人と朝までいたと言うんだが、連絡先は言わないし恋人とも言ってなくてね」
警官は意味ありげな表情でさっきの部屋の方を指して、続けた。
「さっきいた若いの、アレが抱えて運んだんだが、嫌がる割にかなり消耗してるようだと言ってましてね。…あんたと昨晩一緒に過ごしたのはわかったんですが、あのお嬢さんにあんた、何をしたんです?」
「いや、あの、それは…」
なんか変な薬とか、泣いた跡見て暴力とか疑われているのか。
本当のことを言うしかないが、それはそれでまた…。
俺は探し回ったせいじゃない汗を大量にかきながら、初めての相手にやりすぎてしまったことをしどろもどろで説明した。
レオが笑いそうなのを誤魔化しながらわざとらしく天井を見ている。
痴話喧嘩ということになり、年配の警官から説教を食らった。
「じゃあちょっとお嬢さんに確認して、合っていたらそのままお帰り頂けるんで待って貰えますかね」
聞くのか、彼女に。
汗を拭いながらため息ついてると、レオがニヤニヤ笑いながらこっちを見てくる。
言いたいことはわかるから今は追及するな。
戻ってきた年配の警官に調書にサインをさせられる。
ドアが開いて、奥にいたガタイのいい若い警官とリッちゃんが出てきた。
若い警官がリッちゃんの腰を支え、その反対の腕にリッちゃんが両手で捕まってふらつきながら歩いてくる。警官がやけに近い。
カチンときた俺は近寄り、若い警官からリッちゃんを奪いとった。
「あっ、エイトさん、ごめんなさい。私、帰るくらい大丈夫だと思ったんですけど…」
支えながら抱きしめると体を離そうとしてくる。
「リッちゃん、ごめん。俺が悪い、逃げないで」
色々ここで言うわけにもいかず、顔を覗き込むと俯いてしまった。
「なんなら我々が送りますよ。遠慮しなくて大丈夫ですから送りましょうか」
若い警官が割り込んできた。こいつは入った時は気付かなかったが、ずっと俺を睨みつけてくる。
「酷い扱いするような人じゃ怖くて言えないんじゃないですか?我々がいるから正直に言っていいんですよ」
と、リッちゃんを心配そうに覗き込んでいる。言葉尻が刺々しいのは気のせいじゃない。
俺は害毒認定されているらしい。まあ否定はしきれないが腹は立つ。リッちゃんに近づくな!
「あの、大丈夫です。そんなことないです…一緒に帰りますので。ありがとうございました」
警官アピールか、リッちゃんが体を預けてきたので抱え込み、出口へ向かいながら礼を言う。
「お世話なりました。ありがとうございました」
「ほどほどにしてくださいよ」
年配の警官の言葉に赤面しながら頭を下げて、急いで外へ出た。
若い警官は外まで出てきて憎々しげな顔で見送っていた。
リッちゃんを歩かせるのは厳しい感じだったので、近場ではあるがとりあえずタクシーを止め、ホテルに戻った。シーツは買い取りで交換してもらい、リッちゃんを寝かせ、横に跪いて俺はひたすら懇願した。
「ごめん、リッちゃん。また俺の妄想だと思ったんだ。だから止まらなくて、君が目の前に来るからだって、あんな言い方になって…」
リッちゃん、首を傾げてる。
男のファンタジーなんて理解できないよなあ。
俺のは病気の域だし。
「妄想…?私が勝手に会いに来たから怒ってたんじゃないんですか?」
探るような目つきで見てくる。…まだ疑ってるな。
「全然怒ってない。君が来てくれたのは嬉しい。来るなんて思わなかったから…本物の君だってわかってたらあんな風にしてない。…本当にごめん。謝ることばっかりだ」
手元に視線を落として考えている。
その手を握って更に上から手で包んだ。
「その…今更なんだけど、君が俺の部屋に来てくれたのは、俺はこのまま自惚れてもいいってことだよね?」
じっと顔を見ていると、驚いたように顔を上げたリッちゃんと目が合う。
「あの、私、昨日、エイトさんに会いたくて…。今日、帰っちゃうから…」
「帰るのは明日の夜にする」
即座に断言する。今決めた。
「えっ」
目を丸くするリッちゃんに笑いかけてからレオの方を向く。
そう、俺はテーブルセットにいるレオを無視してリッちゃんを口説いていたのだ。
「はいはーい。もう時間ないからフロント行ってくるわ〜」
「すまん、頼んだ」
ひらひらと後ろ手に手を振ってレオが出て行く。
俺はリッちゃんに向き直った。
「リッちゃん、酷い抱き方してごめん。もう絶対あんなことしない。ずっと優しくする。だから結婚を前提として俺と付き合って欲しい。できればすぐ結婚したい」
一気に捲し立てる。
「え、…ええっ!」
目がまん丸になってる。
「好きだ。結婚してくれ」
「あ、あの、エイトさん、私たちまだ全然お付き合いもしてないです。こ、恋人同士もまだです…」
困惑、と顔に書いてある。俺は前のめりに畳み掛ける。
「交際してからなら結婚してくれる?」
シーツを握ったり放したり忙しない。
だいぶ混乱してきてるな。
「えっと、そういうことになると、思います…」
ああ、肝心なこと忘れてた。
「大事なこと聞くの忘れてた。…君は、俺を好き?」
握った手に口づけて、見つめる。
リッちゃんはしばらくポカンとし…花が咲いたように笑った。
「それ、今ですか…!好きじゃなかったら、会いに行ったりしません!」
俺は思いっきり抱きしめた。
「…結婚してくれるよね?」
俺のものになって。
うなじに顔を埋める。あの時と同じ、甘い花のような香りがする。
「結婚…は、すぐでなければ」
俺の肩に顔を擦り付けてくる。
「すぐはダメか…」
「お父さんが倒れちゃいます」
思わず身を離して顔を見ると、大真面目な顔をしている。そういえば箱入り娘、かなり過保護な父親だった。
「わかった、我慢する」
「でも私が会いに行くので。…今度は優しくして下さい…」
下を向いてしまった。耳も首も赤くなってる。
抱え直して、もちろん、と返事をした。
今回はここまで。