取引先の営業から紹介された新人のアシスタントが、今まで初対面では誰も読めなかった珍しい俺の名字を一発で読み当てた。
「お、凄い。これいきなり読める人なかなか居ないんですよ」
「えっと、高校の頃の知り合いに同じ名字の人がいまして…」
俺はそれが彼女との初めての会話だとずっと思ってた。
実はそうじゃなかったって事は、彼女と付き合う様になってしばらくしてから教えてもらった。
それは俺が高3、彼女が高1の頃の話。
「どしたの?パンク?」
「いえ、チェーン外れちゃったみたいで」
自転車で帰宅しようとして学校の駐輪場で困ってた彼女に、最初に声を掛けたのが実は俺だった。
恩着せがましい事を言うでもなく、手の油汚れを気にするでもなく応急処置を済ませて、
「一度自転車屋さんに見てもらってね、じゃ、気をつけて」
「あの、ありがとうございました」
そのお節介焼きな物好きが生徒会長だという事を、彼女は数日後の全校集会で知った。
「それで、実は密かに憧れてたんですよ」
でも、何の接点も無い高◯生の2年差はそれなりに大きく、結局何も出来ないまま、密かな憧れのまま生徒会長は卒業。
でも、印象に残った珍しくて面倒くさい名字は忘れられず、だから就職して初めて名刺交換した相手があの時の生徒会長だと、実は疑いもせず確信していたらしい。
「忘れられませんよ、格好良かった(過去形w)から。あの頃は」
でも、
「まさかその珍しくて面倒くさい名字を自分で名乗る事になるとはさすがに考えてなかった」
と彼女は笑った。
ほぼ外見と学校行事関係での印象しかなかった当時は格好良く思っていたが、俺の内面を知った後は「可愛い?」だそうだw
というか、そもそもの格好良かったって評価自体が嫁さんの贔屓目だな。
俺なんて、タッパあるだけのヒョロいメガネだしね。
当時も今もフツーですよフツー。
自転車の件は嫁さんに話聞くまで完全に忘れてたくらいだから、当時は勿論何とも思ってない。
大体チェーンくらいだったら相手が男でも助けてやっちゃうよ。
毎日使うものなんだし、次は自分で直せってお説教も付けるけどね。
そもそも下の名前が男女どっちでも通用する字の嫁さんなんだけど、俺の名字に代わって全体的に字面が厳(いかめ)しい感じになった結果、名前は何か凄そうなのに、本人はちょっとだけ天然入った癒し系な感じの童顔なもんだから、ギャップが効いて仕事相手に良く顔を覚えてもらえるようになったと喜んでる。
結婚当初、職場で
「散々営業に通って、売ってきたのは自分かよ」
とよくからかわれてたみたいだけどねw