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ゴールデンウィークも終わり、5月も残り僅かとなったある日。俺は突然思い立った。
「もう仕事辞めようかな……」
世間の関心がゴールデンウィークの連休から今年の梅雨入り開始の日に移り変わる様に、俺の気持ちも今の東京での生活から地元への生活に変わりつつあった。
大学を卒業し、就職してから丸3年。今となっては上京する前に感じていたワクワクと高揚感は微塵も無かった。それは多分俺が自分で東京に来ると何か変わると思い込んでいただけなのだ。
でも実際は何も変わらない。目に見える変化は免許証の住所が東京都になっているぐらいだ。もちろん田舎の地元に比べればここはたくさんのモノに溢れてはいる。
人によっては東京の方が人生を変える何かしらのチャンスが多く眠っているよ!って言うかも知れない。けどそんなの俺に言わせれば、成功した人の後付けの理由にしか思えない。
今の時代SNSで簡単に世界中と繋がれる。だからわざわざ東京に拠点を移しても、自ら行動しなくては何も変わらない。それにモノが溢れている分出費もかさむ。
簡単に言うと今の仕事は高い家賃に高い生活費を払ってまで続けたい仕事じゃなくなったという事だ。先月、地元に帰省した時に友人の大悟がBMWを乗っているのを見てそれを強く感じた。先月帰省してなかったら多分まだこの仕事を続けていたとも思う。
別に俺もBMが欲しいとかじゃなくて、俺は上京したものの給料はほとんど生活費に消え、何も人生を楽しめていない。これで俺に何か目的があれば下積みだからしかたない、と割り切って耐えられるものの、実際のところ俺には何もなかった。ただ東京で働いているだけの男だった。
それだったらとっとこ転職して地元に帰ってもいいだろう。どこで働こうが仕事に対するモチベーションも変わらないし。何なら地元だと実家暮らしが可能だから今より給料が下がっても手元に残る金は増える。仮に一人暮らしをしたとしても家賃は東京よりも安い。
気が付けば俺はネットで退職届の書き方の例文を見ていた。けど書くのが面倒だったから明日口頭で上司に伝えようと決めた。そして翌日、俺は上司に退職の意を伝えた。上司は顔色一つ変えずに俺に言った。
「なるほど。今年で何年目だっけ?」
「丸3年が経ちました」
「ふぅん。で?辞めて何するの?」
「いや、それがまだ何も…」
「あそ、まぁいいや。とにかく今日から1ヶ月はこのまま働いてね。それが規則だから。1ヶ月で引き継ぎも全て済ませるように。そうじゃなければ退職を認められないから」
上司は俺が辞める事に対して特に興味が無いようだった。俺もこの会社にはもう何も未練が無かった。
「いや、引き継ぎも何も残りは有給を消化させてよらいます」
俺が言うと上司の眉間に皺ができた。
「そんな勝手は許されない。貯まった有給分は会社が買い取ってその分給料に上乗せをする。だから君は通常通り1ヶ月出社して周りに対してなるべく負担が掛からない様にしてから退職してくれ」
「それは困ります。有給を使うのはこちらの権利ですよね?それにたしか民法では退職の意を伝えてから1ヶ月ではなくて2週間で退職できるはずですが…」
俺は大学の頃に少しだけかじった法学の知識を引っ張り出した。自分勝手ではあるが、辞めると伝えた以上なるべく会社とは関わり合いたくなかった。
「民法?そんなの関係ないよ。これはうちの規則なんだ」
「いや、それでもです。何なら直接人事に確認しに行きます」
「いい加減にしろ!」
ここで初めて上司は感情を露にした。けれど俺も引かなかった。憤怒の形相で俺を睨み付ける上司に頭を下げると、そのまま人事部へ向かった。そして退職の意を伝えて先程の上司とのやり取りも伝えた。
人事の部長は苦い顔をしていたが、渋々俺の申し入れを受け入れた。そしてその場で会社が用意した退職届に記入を済まして翌日から出社しなくてもよくなった。俺は午前中にあらかじめ整理していた私物をまとめて会社を後にした。
同期や後輩にも何も伝えなかった。長い人生のたかだか3年勤めただけの会社。そのまま振り返る事なく帰路に着いた。
とうとう辞めてしまった。これからどうしようか?
とにかくまずは両親に伝えようと思い、母に電話をした。
「そういう事で俺会社辞めたから。引っ越しの準備が出来次第そっち帰るわ。親父にも伝えといて」
母は「何勝手な事してんの!それに次の仕事はどうするの?」と驚いてはいたが、やはり息子が帰ってくるのが嬉しいのだろう。電話の後半ではだいたいいつ頃帰ってくるのかと帰る日を楽しみにしていた様だった。
母と電話を終えると次は大悟に伝えた。
「マジか!いつ?てか仕事どーすんだ?」
「来週中には帰れると思う。仕事は帰ってからのんびり探すよ」
「じゃあうち来いよ!親父には俺から言っとくから」
「ああ、ありがとう。転職活動が上手くいかなかったら甘えさせてもらう。とりあえずは自力で頑張ってみるよ」
「おう!じゃあまた帰る日分かったら連絡してくれな!迎えに行くから」
「サンキュ!じゃあまた」
電話を切り、前を見るとスタンド灰皿が一つだけ寂しく置いてある喫煙所が目に入った。俺は近寄ってしばらく着る事が無いであろうスーツのジャケットから煙草とライターを取り出して煙草に火を点けた。
スマホを取り出しメッセージアプリを開いて連絡先から美幸を探した。あの日、美幸と連絡先を交換したものの、まだ一度も連絡を取っていなかった。単純に俺は婚約者がいる美幸に用も無いのに自分から連絡するのが嫌だった。
で、結局1ヶ月美幸からメッセージが来る事もなかった。迷いはしたが、とにかく美幸にも地元に帰る事を伝えておこうと思った。
「ーよっ!元気?仕事辞めたから来週ぐらいそっち帰るわー」
社会人らしくもっとかしこまった文面を考えていたが、直前に気恥ずかしくなって結局いつも通りの感じでメッセージを送信した。
すると夕方になってから美幸から返信が来た。
「―え!?そうなの?いきなりどうしたんだぁ泣―」
「―こっちで働くのつまらなくなってさ。ま、そういう事だから。また近所で会ったら宜しく―」
それから俺は引っ越しの準備と3年ぶりの無職生活を平行して満喫した。もちろん時間はあっという間に過ぎ、ついに引っ越しの日がやってきた。別に近所付き合いも無かったので俺は淡々と出発の準備を済まし、東京駅から10時40分の新幹線に乗り込んで地元へ戻った。
無事地元に到着し、改札を抜けると待っているはずの大悟の姿が見当たらなかった。
(あれ?ちゃんと到着時間伝えてたのに)
念の為大悟に送ったメッセージを確認して腕時計で現時刻を確認した。もちろん新幹線は遅れる事なく予定通り到着していた。
「ったく、どこいんだよ」
俺はため息混じりで大悟に電話をした。が、大悟は電話には出ず、音声は留守番電話サービスに切り替わった。
10分待って来なかったらもうタクシーで帰ろうと俺はその足でタクシー乗り場へと向かった。すると突然背後から何者かに両手で両目を塞がれた。
突然何者かに視界を防がれ動揺はしたものの、今ここでこんなくだらない事するのは大悟しかいない。俺は両目を塞がれたまま言った。
「何だよこれ、カップルか」
頭を振り、手を振り払うと眼前には大悟ではなく美幸がいた。
「オッス!悠ちゃんおかえり!」
「えっ…美幸ちゃん…何でいるの?」
「悠ちゃんを迎えに来たのよ。もしかして迷惑だった?」
俺はすぐそんな事はないと言った。すると美幸は「そんなの当たり前だから!」と笑った。
するとそこへ缶コーヒー片手に大悟も現れた。
「よぉ、プー太郎。お前の大好きな美幸様を連れて来てやったぞ」
「なっ…!?何言ってんだお前、別に好きじゃねぇし!」
「嘘つけ!先月帰って来た時もずっと美幸は?美幸は?って言ってたじゃねぇか」
(この野郎…余計な事言いやがって)
俺は恥ずかしさの余りその場を逃げ出したかった。すると大悟に続いて美幸も言った。
「悠ちゃんそれほんと?そんなに私の事気になってたの?何てかわいい子なの…」
オメーは黙ってろよと思った。先月俺とヤッておいてよく言うよ。俺が美幸を睨み付けると、美幸は今にも笑い出しそうな口元に手を当て必死に笑いを堪えている様だった。もちろんその姿も可愛いかった。
「別に美幸ちゃんに興味ねぇから」
俺が言うと大悟は「はいはい」と笑い、車に戻ろうと歩き出した。俺も大悟の後に続いた。すると突然美幸が歩きながら俺の股間を触り耳元で囁いた。
「コラ、生意気だぞっ」
美幸が股間をグリグリとしたせいで俺はすぐ勃起した。大悟は自分の背後で姉が友人にそんな事をしているとは知らず、振り返る事なく進んで行く。
「ちょ、やめろって」
俺も囁きながら抵抗したが美幸は手の動きを止めなかった。美幸は「フフッ、この前は気持ちよかったね」と言った。
俺はまた美幸を抱きたくなった。でも同時に弄ばれている気もした。
「美幸ちゃんは婚約者がいるじゃん」
「何よいきなり」
気付けば美幸の手は俺の股間から離れていた。大悟が車のキーを開けると俺は後部座席に乗り込んだ。
「悠太、前じゃなくていいのか?」
大悟は振り返りながら言ったが俺は座ってしまっていて、わざわざ移動するのが面倒だったからこのままでいいと言った。美幸も俺に続いて後ろに乗った。
「美幸ちゃん前座りなよ」俺が言うと美幸は「私は後ろの方が好きなの。それにここ来るまでも後ろだったから。充電器も差したままだし」
「ふぅん」
俺が言うと大悟は振り返ったままニヤニヤと「良かったな悠太!ハーレムじゃん」と笑った。
「だから違うって」と俺は窓の外を見ながら言った。美幸はデリヘルで働いているから自然と後部座席に座るようになっているのだと思った。もちろん大悟はまだそれを知らないだろう。
3人で車に乗っているのに助手席が空なのは少し違和感があったが、大悟と美幸は特に気にしていない様で美幸は俺の隣で何事も無いようにスマホを触っている。
(姉弟だし別にそれぐらいの事は気にならないか…)
俺は窓の外を見ながら気にしない様にした。
しばらく車を走らせて大悟がコンビニに寄ると言い、車を停めた。
「悪い、ちょっとウンコ!」
「いやもうすぐ家だろ!?」
「さっきから我慢してたけどちょっとやべーわ」
大悟は俺の制止を振り切ってコンビニへと向かった。そして車中で美幸と二人きりになった。俺は気まずさを紛らわす為に窓を開けると煙草に火を点けた。なるべく美幸の方を見ないで外に意識を向けて煙草を吸っていると美幸から俺に話しかけて来た。
「悠ちゃん早く大悟に戻って来てほしいんでしょう?」
「え?」
振り返って美幸に目をやると、美幸は半笑いで俺を見ていた。そして「二人きりだねっ」といたずらな笑みを浮かべながら俺の股間に手を当てた。これで動揺するとまた馬鹿にされると思った俺は何も言わず美幸にされるがまま股間を触らせた。もちろん俺の股間はモリモリと膨らみ始める。
嬉しいと恥ずかしいが入り交じった俺は余計な事を言ってしまった。
「待って、ちょっと今持ち合わせないよ?」
すると美幸は手を止めて俺を見た。
「それどういう意味?」
「いや、何でもない」余計な事を言ったと察した俺は話は終わりだと言わんばかりに煙草の火を携帯灰皿で押し消した。
すると美幸は勃起した俺の性器をぎゅっと掴んだ。
「いっ……!!」
「ねぇさっきのどういう意味?もしかしてこれが仕事の延長だと思ってるの?」
もちろんそうではない事は分かっていた。俺も何でそんな余計な事を言ったのか分からない。
「だから冗談だって」
美幸はしばらく眉間に皺を寄せたまま俺を見ていた。そして何か吹っ切れた様に言った。
「駄目。今日の悠ちゃんちょこちょこ生意気だし許さない」
そう言うと美幸は俺のズボンのベルトを強引に外し、ズボンを下ろした。露になった下着は目も当てられないほど見事に勃起を強調していた。
「駄目だって!大悟が帰って来るから…!」
「順番待ちしてるから大丈夫よ」
コンビニの店内に目をやると、大悟がトイレの前の雑誌コーナーで立ち読みしているのが見えた。
すると突然俺の性器がヌルッ生暖かいものに包まれた。視線を股間に落とすと美幸が俺の性器を口いっぱいに頬張っている。
「あっ…」たまらず声が漏れる。美幸は満足そうな笑みを浮かべ、顔を上下に動かしながらフェラをした。パッチリとした目を閉じながら小さな口で必死に性器を頬張る美幸を見ているとこれ以上無い興奮を覚えた。気が付くと俺は美幸の胸を揉んでいた。
美幸の感度は良く、揉むたびにビクッと身体を震わせた。フェラをする美幸の口の動きが早くなればなるほど俺の手も比例して早く、そして激しく美幸の胸を揉んだ。
美幸はきつめに胸を揉めば揉むほど感じている様だった。揉み続けると次第に美幸の口は俺の性器から離れて、代わりに喘ぎ声をあげた。
「はぁん…んっ…!んんっ」
「あれ?美幸ちゃん、お口留守にしたら駄目じゃん」
俺はそう言いながら美幸の白く細い首筋にゆっくりと舌を伝わせた。そして空いた手を美幸の股へ移動させ、ジーンズの上から美幸の陰部に指を当てて前後になぞった。
「あぁんっ、悠ちゃんだめぇ…我慢出来なくなっちゃうっ…」
「我慢しなくていーじゃん」
「大悟がいるからぁ…んんっ…」
俺はたまらず美幸に口づけをした。美幸の口は唾液と俺の我慢汁でベトベトだったがそんなのかまいやしない。舌を入れると美幸も舌を絡めてきた。
そして互いに舌を絡め合いながら俺は一層指に力を入れて美幸の陰部をグリグリと前後にこすった。
「ああんっ…!もうっ…イクッ!イクイクッ……!ああっ!!」
美幸は数回強くこすっただけでイッた。ジーンズの上からでも美幸の陰部がぐっしょりと濡れているのを感じられた。
肩で息をしながらぐったりとしている美幸を抱きしめながら俺はコンビニの店内に目をやった。さっきまで立ち読みしていた大悟の姿が無かった。恐らくもうトイレに入っているから後数分で戻ってくるだろう。
美幸は髪をかき上げながら自身の股辺りを触り湿り気を感じ取ると「うわ、すごい濡れてる……もうっ!汚れちゃったじゃない」と膨れっ面で言った。
「美幸ちゃんは淫乱だな」と俺は笑った。
「ん?悠ちゃん?今何て言った?」
美幸は俺の勃起した性器を握った。
「ちょ、駄目だって。もう終わり。大悟が戻ってくる」
「1分あれば充分よ」美幸はそういうと俺の性器を再び咥えた。そして数回舌をぐるりと回して亀頭をなぞると、激しく顔を前後に振り始めた。これは本当に1分ももたないと思った。
「あ~ごめん…もう出そう」
俺が言うと美幸は性器を掴んでいる手をスコスコと動かし始め、結局俺は1分もたず射精した。美幸の口内には何週間分もの濃い精液が流れ込んだ。
「んんっ…!!けほっ!悠ちゃん溜めすぎ!」
美幸は精液を受け止めると上を向いてこぼさないよう飲み込んだ。そして「苦っ」と言って笑った。
「あ、大悟が戻って来た」
美幸の声で俺も外を見ると大悟がお腹をさすりながら車へ小走りで向かって来るのが見えた。俺と美幸は咄嗟にスマホを取り出してお互いに自分の世界に入っている様に見せかけた。
「あっつ!何か車内暑くね?熱気やべー」
第一声に大悟はそう言った。俺と美幸は笑いそうだったが、スマホで顔を隠して「そう?」ととぼけた。
「外より暑いぞこれ」大悟はまだブツブツ言っていた。そしてエンジンを掛けると「悠太!とりあえず家で飯でも食ってけよ!姉ちゃんが作ってくれるって」と言った。
「ほんと?」俺は横にいる美幸を見た。
「そんなの聞いてないわよ。でもまぁいいよ、簡単なモノ限定ね」と言った。
「良かったな悠太!」と大悟が笑ったので、俺は反射的に「別に」と言いそうになった。しかし横で美幸が俺を睨み付けているのが視界に入り、慌てて「お、おう。楽しみ」と言い直した。俺を見て美幸はうんうん、と頷いた。
賢者タイムと長旅の疲れが押し寄せて来て俺は今にも眠りそうだった。するとスマホからメッセージアプリの通知音が鳴った。メッセージの相手は隣に座る美幸からだった。
「―今晩空いてる?―」
唐突な誘いに驚いた俺は美幸を見た。しかし美幸は俺の方に目もくれず黙ってスマホを見ていた。
「―別に空いてるけど、どうかした?―」
美幸は通知オフにしている様で俺が送信したメッセージが届いているのか分からなかった。もちろんメッセージは普通に届いているのだが。
「―ちょっと話したい事があるから会おうよ。19時に悠ちゃんの実家まで迎えに行くね―」
「―うん、分かった。けど俺と会って彼氏とか大丈夫なの?変に疑われたりしても困るだろ?―」
「―それは気にしなくて大丈夫よ。じゃあ今晩ね―」
美幸はメッセージを送るとスマホをバッグにしまった。相変わらず俺の方を見る事はなく、停車するたびに振り向いて話し掛けてくる大悟の相手をしていた。正直俺は美幸が何を考えているのか分からなかった。
しばらくして大悟の実家に到着した。外に出るとこれがお茶の匂いかどうかは分からなかったが、嗅ぎ慣れた大悟の家の匂いが鼻を抜けた。
先を歩く大悟に遅れを取らぬ様付いて歩く。すると俺の後ろを歩いていた美幸が近寄ってきて耳元で言った。
「ちゃんとゴム持っておいでよ」
「えっ?」
振り返るとそこにもう美幸はおらず、気が付けば俺を抜かして大悟と並んで前を歩いていた。
美幸には悪いが、この後作ってくれた焼飯の味が感じないほどドキドキしたのは言うまでもない。