いつもと変わらない日常。私は普通に生活をし、普通に仕事をしていた。
ん…?職場にいる時間帯に岸本から電話だ。
岸本は前回の体験談で書いた、アナルセックスをお互い初めて同士で経験した仲だ。その当時、よく一緒にいて、よく一緒に笑い、よく一緒にセックスをしていた。
(めずらしいな)
電話に出られない職場ではない。通話ボタンを押す。
「もしもし。岸本か?どうした?」
「あ、椎名さん。お仕事中でしたよね。すいません」
心なしか声が震えている…?
「いや、大丈夫。なにかあったのか?」
「いやー…あたし、ガンになっちゃいました…ははは」
こんなことを冗談で言うはずがない。
「そうか。仕事が終わったらすぐそっちに向かう。家にいるんだよな」
「はい。待ってます」
…
岸本は26歳になったばかり。
本当にガンだとしたら、5年生存率は絶望的なはずだ。
「間違いであって欲しい」
そんな思いで小樽から札幌まで車を走らせたことを覚えている。
…
岸本の部屋に着き、詳しく聞いた。
病名は悪性リンパ腫。
最近は治りやすいガンのうちの1つだが、当時の5年生存率は20-30%と言われていた。
「こんなに元気ですもん。大丈夫ですよ」
気丈に振る舞う岸本を思わず抱き寄せ、力いっぱい抱き締めた。
その場で崩れ落ち、わんわんと泣き出す岸本。
俺は泣いちゃいけない…いけないのに、声を出さずに泣いていた。
突然のガン告知。怖くないわけがない。
すぐに2人は専門の病院を探す。知り合い、知り合いの知り合い、コネ、使えるものは全部使って、治療をお願いする病院を決めた。
薬物治療と放射線治療が主な治療となるようだ。
今後の彼女が経験するであろうことを、2人で勉強しておく。
「なかなかつらそうだねぇ」
「大丈夫。ずっと傍にいるから」
…
治療が始まった。
最初は元気だった岸本だが、抗がん剤投与が続くにつれ、副作用が顔を出し始める。
食欲がない。吐き気、めまい、下痢、どんどん状態が悪くなっていく。
抗がん剤は人体に毒なのだから、こうなるのは仕方がない。
だが、あらかじめそういうものだと理解していても、体が言うことを聞かないようだ。
心も折れかけていた。
「苦しいです。起きていても、横になっていても苦しいです…」
「そうか。代わってあげられなくて、ごめんな」
「髪もずいぶん抜けちゃいましたよ。本当に抜けるんですね…びっくりです」
「そうか。今度、似合いそうな帽子、買ってくるよ」
「待ってます」
「ああ」
「椎名さん?」
「なんだ?」
「あたし、やっぱり死んじゃうんでしょうか…ね」
「大丈夫だ」
「椎名さん?どうしてあたしなんでしょうね…」
「知りたいか?」
「はい」
気休めはいくらでも言えた。でも、そんなものを彼女は求めていない。
俺の、出来ること。俺の、言えること。俺にしか、言えないこと。
…
「神様がいるとしたら、神様の、気まぐれ…だろうな」
「ひどい神様だ」
「そうだな。神様から見たら、俺たちなんか雑草みたいなモンだ」
「雑草…」
「ああ。そんなもんだ。だから、増え過ぎたら適当に抜かれて、間引かれる」
「あはは…あたし、雑草かぁ…」
「そうだ。だけどな、間引きされた雑草だって、また根を張って生き続けるやつもいるだろ」
「間引かれたからって、だからって、それで諦める必要なんてない。でもな、諦めたら本当に終わるぞ…!」
誰もいない病院の受付ロビーで、泣きながら抱き合った2人。
「あたし、諦めない!諦めないで生きる…!」
「ああ。ああ!」
…
一度、お前は雑草だと落として、そこから持ち上げて、最後に安西先生。
そんな決死のフルコンボ。
当時は安西先生だなんて思わなかったけど、よく見たらそうだったというね…。
…
「椎名さん…椎名さんのお相手できなくてごめんなさい」
「なーに言ってんだ。退院したらその分頼むからさ」
「椎名さん?あの…触っていいですか…?」
「ん?いいに決まってるだろ」
ここで勃たせなきゃ男じゃない。彼女を抱きしめ、渾身の力を込めて勃起させた。
「ああ…すごい。やっぱり凄い…。あたしでこうなってくれてるんですよね?ああ…すごいなぁ…これが、命、ですね」
力の入らない手で上下にさすってくれる岸本。
「そうだ。元気になったらいくらでもブチ込んでやるからな」
「はい。お願いします。後ろも…いいですよね?」
やっと、岸本も俺も笑顔になった。
…
すべての治療が終わり、岸本は退院した。2人の関係はその後も続き、再発に怯えながらも数年が経過。無事に5年を乗り越えた岸本。ドクターからも大丈夫だとお墨付きをもらった。
…
本当によかった。
本当によかった、が、岸本は、どういうわけか俺の親友と結婚してしまう。
なぜか結婚式にも呼ばれなかったんだけど、え…?どういうこと…?
…
どういうことなの…?っていう、今回はそんなお話。