私には、行きつけの混浴露天風呂がある宿があります。
もう何年も通っておりますので、ここの経営者家族とは、友人のような付き合いをさせていただいておりました。
そんな冬の始まりのある日の事です。
この日は、19時半頃に仕事を終わらせたのですが、無性に温泉に浸かりたくなり、コンビニでおにぎりを買い、それを運転中に食べながら、約1時間車を走らせてこの宿へと向かいました。
冬の平日の夜。山間部にあるこの温泉、別に特段の観光地でもないために、宿泊客もいなければ、日帰り客すらいないような状況でした。
フロントにいたここのオヤジさんに挨拶すると、オヤジさんは、大きなあくびをしながら、
「ふおー、アツキ君。今日は遅かったねえ。」と声を掛けてきました。
「ああ、ごめん。こんな時間だからどうしようかと思ったのだけれど、今日はやたらとここの風呂に入りたくなってね。なるべく早く上がってくるから、ちょっと待っていてよ。」
と言ったところ、オヤジさんから意外な答えが返ってきました。
「なーに。今日はよ?宿泊客もいねえし、この後に日帰り客も来るはずないだろうから、いいよゆっくり入って来て。ほれ、これ、ここの入口の鍵だからよ?何時に帰ってもいいから、入り口に鍵かけて、この鍵を俺の家の郵便受けから中に放り込んでおいてくれよ。」
と、鈴のついた鍵を私に手渡したのでした。
ここの日帰り入浴の時間は21時までで、この時既に時刻は20時半近かったため、オヤジさんも俺に気を遣ってくれたのでしょう。
俺は、オヤジさんの気遣いに感謝しながら、その鍵を受け取りました。
「わかった。オヤジさん、有難う。じゃあ、遠慮なく入ってくるよ。」
そう言って、フロントから離れようとしたのですが、そこで再びオヤジさんに話しかけられました。
「アツキ君よ?今日は飲み物持ってきているのか?」
「ん?ああ。さっき運転しながらおにぎり食ってきたから、その時に買ったお茶がペットに半分くらい残っているけれど…」
「いや、それがあるならいいんだけれどよ?今日は泊り客もいないから、そこの自販機の電気落とそうと思っているんだよ。だから、飲み物が欲しいんだったら、今のうちに買ってくれや。」
なるほど。確かにこの宿程度の施設であれば、泊り客がいない時には電気落とすのだろうなと納得しました。
「じゃあ、2本ぐらい買わせてもらって、それ持って露天行くかな?」
といって、宣言通りその自販機で飲み物を2本買って、露天風呂へと移動しました。
母屋を一度出て、露天風呂へと続く木道を進み、男用の脱衣室に入ります。当然ながら、誰もいないので、そこは真っ暗でした。入り口傍にあるスイッチを入れて脱衣場を明るくし、そこで服を脱いで、まずは男湯へと入っていきます。でも、ここの湯船は狭いので、その先の混浴の湯舟へと移動します。
湯舟の中を歩きながらの移動ですが、冬ですから、かなり寒かったです。そして、誰もいない湯舟、横を流れるせせらぎの水音、湯船の中へと落ちる湯の音…人がいて話し声があちらこちらから聞こえてくるいつもの環境とは違う雰囲気を感じていました。人工的な音が聞こえると言ったら、時折聞こえてくる車の通過する音くらいでしょうか。
私は、湯船に浸かり、タオルを湯船の縁に置くと、それを枕のようにして四肢を伸ばし、頭上の満天星空を眺めていました。
眼前に冬の大三角形が見事に輝いていました。
たまにはこういう風呂の入り方もいいな。そんな事を思いながら、呑みかけのお茶をチビリチビリと飲みながら、自然の造形を眺めておりました。
星空を眺めていましたが、どのくらい時間が経ったでしょうか…。
「お邪魔致します。」
不意に私の耳にそんな言葉が響いてきました。
「え?」
慌てて、その声が聞こえてきた方向を見てみますと、白い長めのスポーツタオルで前を隠しながら湯船に入ってくる20代中盤から後半位の女性でした。
肩より少し長めの髪をゴムで後ろで縛り、お団子を作っているような感じの女性でした。
「あ、こ、こんばんは。」
私は、今日は独り占めの状態だと思っていたので、四肢を伸ばして湯船に浸かっていたものですから、不意の女性出現に慌てて体勢を整えます。
「すみません。誰も入ってこないと思っていたのですから、だらしない格好していました。」
慌てて口から出てきた言葉はこれだけでした。
その女性は、クスリとちょっと微笑んでいましたので、こっちもやたら恥ずかしくなってしまいました。
「あれ?日帰りですか?」
こう尋ねると、その女性は、体の前を隠していたタオルをうまく外して、私と同じように湯船の縁へ置きながら、湯船に浸かりました。
「ええ。そうです。」
さっきの車の音って、通過したものと感じていたのですが、ひょっとすると、それが彼女だったのかなと思っていました。
でも、こんな時間に日帰りなんて…とも思っていました。
「こんな時間に日帰りですか?」
私は、自分の疑問をそのままぶつけてみますと、
「ええ。私、近所に住んでいるんです。たまにこの温泉利用させてもらっているんです。今日はちょっと仕事の帰りが遅かったので、断られるかなって思っていたのですけれど、ここのご主人が、一人特別客が入っているから、その彼が上がる前迄だったらいいよって言ってくれたんです。」
なるほど…と思いました。なにせ、ここのオヤジさんは、綺麗な女性にはてんで弱いので、このお嬢さんにもいいところ見せたんだろうなとこの時思っていました。
「あの…、もう出ちゃいますか?」
その女性は、私にそう尋ねてきました。
「いえいえいえ。私も、今ちょっと前に入って来たばかりですよ。私がこの風呂に来たら、2時間ぐらいは浸かっていますから。」
そんな事を言いながら、笑ってみました。
「ええ!そんなに長く浸かっているんですか?」
彼女も笑みを浮かべながら、あははと声を出して笑っていました。
これまでは、いきなりの女性の登場で、慌ててしまっていたのですが、こうして落ち着いてみてみると、このあたりでは人目を引くような感じの綺麗な子でした。オレンジの庭園灯が水面で乱反射し、また、湯の揺らぎもあるので、はっきりとは見えないのではありますが、それでも、素晴らしい躰をしているなと思ってしまいました。
「ここの温泉って大好きですよ。お湯凄くいいですよね。」
「ええ。そうなんです。俺もここが大好きで、車で一時間も走ってここに来るのですよ。」
なんて所から始まり、2人で色々な話をしました。
先程、自販機で買った飲み物の一本がお茶でしたので、それを彼女に渡しもしました。
「本当はね?空気も澄んで星が綺麗だから、星見酒みたいな感じなら、尚いいのですけれどね。」
なんて、言いながら。
暫く話を続けておりましたら、彼女が、「ふぅ~。私ちょっと熱くなってきました。」
と言ったかと思うと、いきなり湯から上がり、湯船の縁に腰掛けました。
その時の眼前の光景に私は自分の目を疑います。
だって…どこを隠すでもなく、すっと立ち上がり、湯船に腰掛けたのですから、当然です。
流石に、その後には、置いていたタオルを股間の上に載せて、漆黒の毛を隠しはしましたが、胸は全く隠さずにいるのです。
「えっ!」
思わず、私の口から、驚きの一言が飛び出しました。
D…いや、Eカップくらいはあるかな?乳輪も乳首もメラニン色素の沈着が少なく、乳房も真球に近い素晴らしいお乳をしておりました。しかもその先端部は、重力には負けておらず天に向ってツンと突き出ているのです。
お尻も、ハイウエストなのでしょう。とてもカッコイイ形をしておりました。
ルックスといい、この躰といい、益々こんな田舎にこんな子がいるなんて。とそんな思いに頭の中が支配されて行きました。
「こういう時でもないと、こんなに大胆に混浴のお風呂なんて入れませんよね?」
まるで、私の心の中を察知されたかの如くのセリフが聞こえてきたのです。
正直、かなり呆気に取られていたのではありますが、一生懸命自分の心を落ち着かせ、平静を保っているふりをしながら、私も答えます。
「まあ、それが、ここの混浴の醍醐味ですよね。お風呂って裸になって当たり前の場所だから、下手に隠したり、逆にじろじろ見たりとかっていうのは風呂に対する冒とくですからね。」
何て言ってみます。どの口がこんな事を言えるのでしょうか…
でも、彼女も、私にはどうやら、不信感は持たなかったようで、何度か、湯に浸かったり出て半身浴したりということをお互いに繰り返し、その間も胸や股間を隠すことはせずに、極めて自然体で湯浴みを楽しみました。
楽しく話をしておりましたので、すっかり時間が経つのを忘れていた私でしたが、ふと腕時計を見ると、23時を回っておりました。
「ああ、もう11時過ぎている!」
流石の私も、この時間はヤバいです。明日ももちろん仕事がありますし、なにせ、自宅に戻るまで1時間は運転しないといけないのです。
「ああ。すみません。とても楽しいお話でしたので、私もすっかり時のたつのを忘れてしまいした。それでは、私はこれでお暇しますので、10分くらい経ってから出てもらえませんか?ここのご主人との約束でもありますから。」
そう言いだしました。
私にも時間がないのですが、この素敵な時間が終わりを告げてしまう事もとても残念だったのです。でも、仕方がないことです。
「わかりました。それじゃあ、私は、10分くらい浸かってから出ますね。今日は楽しい時間を有難うございました。」
「いえいえ、こちらこそ、楽しいお話いっぱい聞かせてもらいました。もしも、またお会いする事がありましたら、宜しくお願いします。忘れられなければですが…」
この時彼女は、ちょっとだけ寂しい表情を浮かべたような、そんな気がしました。
彼女は、立ち上がると、湯船の縁に置いていたタオルを持つと、軽く私に会釈をしてそのまま女性の湯船へと移動していきました。勿論、胸も股間も隠すことなくです。
彼女の姿が岩に隠れて見えなくなるまで、私は彼女の姿を目で追っていました。
素晴らしい胸の膨らみ、かっこよく上がったお尻…そんな女性が、こんな田舎で…
私は、再びタオルを枕にして星空を眺めました。
でも、今度は星空なんて見ていなかったかもしれません。彼女の素晴らしい裸体…そればかりが私の瞼に残っておりました。
瞼に浮かんでいたのですから、目は瞑っていたのでしょう。
そろそろ、10分は経ったかな?妄想から、我に返り、腕時計を見ると、23時20分を回っていました。どうも、15分は軽く淫靡な瞑想をしていたようです。
私は、慌てて湯船から上がり、男湯を通って、脱衣場へと行きました。
急いで服を着て、母屋に戻ります。
母屋の中は真っ暗でした。こんな時間です。オヤジさんたちももう寝ているのでしょう。一応、宿からオヤジさんたちが暮らしている家に繋がるドアのノブをゆっくりと回してみましたが、やはり鍵がかかっています。
もう寝てしまっているのでしょう。
そのため、玄関に行き、暗闇の中で、自分の靴を探し、宿の扉を開こうとしましたが…
あれれ?鍵がかかっている。
さっき、あの女性が出て行ったのだから、当然この鍵は開いていると思っていたのですが、きちんと施錠されていたのです。
あのオヤジ、あの子が帰る時分までは起きていたんだなと思いました。それなのに、俺が帰る時には宿の中は真っ暗。唯一の灯りになる筈であった自販機すらコードを抜いていますので、ついていません。これが、あのオヤジのカワイ子ちゃんと俺との差なんだなと半分頭に来ていました。
私は、扉の内鍵を開けて、外に出ました。
そして、外から鈴付きのカギをカギ穴に差し込み、扉の施錠をします。
一応鍵がきちんとかかっているか、扉を動かして、施錠の確認をしました。勿論大丈夫です。
その後、宿の入口の横のオヤジさんたちの住居があるドアに行き、約束通りそのドアの郵便受けに鍵を差し込みました。
チリリンという音が鳴って、そのカギが玄関の床に落ちたのが確認できました。
どうせ、起きていて、この鍵を取りに来るのだろうと思い、暫くそこで待っていましたが、誰も来る様子がなかったのです。そのうちに私も寒くなってしまったので、そのまま車に乗って帰宅しました。
数日後です。
再び、その温泉宿に行った時に、私はオヤジさんに先日の私に対する仕打ちに対しての異議申し立てを行いました。
「お!アツキ君。今回はあんまり日を開けずに来たねえ。」
「きたよ。オヤジさんに文句言いたいんだから。」
「は?何だよ文句って。」
目をパチクリしながら不思議な表情で俺を見ています。
「この間さ。あの、オヤジさんの家の郵便受けに鍵入れて帰った日。」
「おお。あれ、お前何時までここにいた?」
「11時半くらいかな?でさ、何で、俺が帰る時に宿の中真っ暗にしていたのさ?女の人とえらい違いじゃないの?」
「は?当たり前だろ。客はお前しかいなかったんだし、泊り客だっていなかったんだから、電気止めるに決まっているじゃないか。」
「いや、それはわかるって。でも、あれでしょう?俺の前に出て行った女の子が帰る時には、きちんとオヤジさん見送ったのでしょうよ。」
「は?女の子って何の話よ?」
「なーに、とぼけてんのさ。俺が出てくる前に女の子出てきたでしょう?」
「お前こそ何言ってんだよ。あの日は、泊り客もいないし、日帰り客だって、お前しかいなかったじゃないか。」
「は?近所に住んでいるっていう、20代半ばくらいの女の子来たじゃないか。2時間くらい、俺と一緒に風呂に入っていたんだよ?」
「お前よ?キツネか何かに化かされたんじゃねえのか?あの日はお前の後には誰も来ていないって。俺、あの日はお前が風呂に行ってから、宿の電気全部消して、入り口のカギ閉めてすぐ寝たんだから。多分、9時頃にはもう布団の中に入っていたぞ?」
「え…まじ?」
「それによ。近所ってどこまでが近所っていうのか知らんけれどよ?ここいらに、20代中盤の女の子なんていねえぞ?少なくとも、ここいらの近所でこの風呂に入りに来る奴らで、そんな年齢の女の子なんていないって。」
「え…?」
「お前、俺を驚かそうとして、そんな話をしてんのか?」
そっか…よくわかんないけれど、だから、俺が帰る時には、宿が真っ暗だったのか。
そう言えば、あの子が女湯の湯船に消えていくところまでは見ていたけれど、女性の脱衣室の電気はついていたか?ついたか?(ついていない気がする…ついた気がしない…)
脱衣室から母屋に続く木道を歩いていたのを俺は見たか?(見ていない…)
母屋に入っていく彼女を見たか?少なくとも音は聞いたか?(見ていない…聞いていない)
なぜ、宿のカギがかかっていたの?(わからない…)
じゃあ、あの子は誰??????
とにかく不思議な体験でした。
勿論、その後もその彼女に会う事はありませんでした。
でもさ…そのせいでさ、今まで君を忘れることが出来ないでいるよ。