全ての始まりはトイレから聞こえてきた嬌声でした

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俺の高校の旧校舎には男女共用のトイレがあった。数十年前に建てられた校舎だったので和式しかなく、そもそもあまり使われない特別教室棟の端にあったので男女共に使う人はあまりいなかった。

秋頃だったと思う。その日の放課後、俺は昼間に物理室に置いてきてしまったであろうメガネケースを探しに旧校舎に来ていた。

秋の日は釣瓶落としとはよく言ったもので、16時過ぎだというのに旧校舎は薄暗く、静まり返っており、不気味な様子だった。

早々にメガネケースを見つけた俺はさっさと帰ろうと物理室を出た。すると、誰かの苦悶するような声が聞こえた。

声の出処は例のトイレだった。最初は誰かが腹痛で篭ってるのか、はたまた泣いてるのかと思って近付いて行ったのだが、トイレまで来ると嬌声であることが分かった。

そうとなればやることは一つ、声の主を突き止めることだ。俺はそーっとトイレの中に入った。中は電気が点いておらず、30cm四方程の磨りガラスの窓から差し込む夕日で淡い橙色に染まっていた。

俺は音を立てないように細心の注意を払って扉の閉まっている個室の隣の個室に扉を閉めずに隠れた。

その後も嬌声は絶えることなく続いていた。覗きたいのはやまやまだったが、このトイレはたまにしか掃除がされないようなトイレなので、顔を床に近付けるなんてことはしたくない。

やがて声の主の呼吸が荒くなり、指の動きも早めたのだろうか、くちゅくちゅという音もはっきりと聞こえてくるようになった。

どうやら絶頂が近いようだが、このままでは顔を見ることができない。絶頂を間近で聞けないのは惜しいが、背に腹はかえられない。

俺はトイレの外で声の主が出てくるのを待ち、さも偶然居合わせたかのように廊下で合流することにした。

物理室はトイレから旧校舎の出口までの途中にあり、2つの距離は6、7m程だったので、俺は物理室で待つことにした。

やがてトイレを推薦する音が微かに聞こえ、女子生徒のローファーが硬い廊下をコツコツと歩く音が近付いてきた。

俺は、どうかブスやデブではありませんようにと祈りながら物理室を出た。

「あっ、Kくん」

「ん、Sさん?」

白々しく声のする方へ顔を向けると、そこに居たのは同じクラスのSさんだった。勝った。完全に勝った。

Sさんはマドンナという程ではないが、部活に打ち込む活発なタイプで、しっかり者ぶっているが、少し天然でいつもバタバタしているという性格が男子からそこそこ人気な女子だ。

なによりも、顔が清原果耶に似ていて俺のドタイプだった。こんなに可愛いのに学校のトイレでオナニーするような変態だったのかという驚きを俺は必死に隠した。

「何してたの?」

「昼間に物理室にメガネケース忘れちゃったから取りに来たんだよ」

「そうなんだね、見つかった?」

「ほら、お陰様で笑」

「何もしてないよ笑」

「ああ、そうか笑」

「Sさんは?」

「あ、うん、私も……昼間にトイレにハンカチ忘れちゃってね、ほら!」

彼女はポケットからハンカチを引っ張り出した。すると同時にポケットからペンのような物が落ちた。

「あっ」

俺は足元に転がってきたそのペンのような物を拾い上げて彼女に返した。

「はい」

「ありがと、じゃあ私、急いでるから行くね」

「うん、気をつけてー」

彼女は軽く手を振ると廊下を走っていった。

彼女が落としたペンは心做しか少し湿っていたように感じた。

それがハンカチの水分ではなく、彼女がペンを洗わなければいけなかった理由があったのだということを俺は後に知ることとなる。

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