3月最後の月曜日の夜。
ダラダラとベッドに寝転び、ぼんやりとまとめサイトを巡回していると壁のインターホンが鳴った。
やおら起き上がりやかましく鳴り響くチャイムを止めに受話器を上げると、聞き慣れた女の声が『よっ』と挨拶をしたので、俺は「おう」と返して受話器を置いた。
うんと背伸びをして壁掛け時計に目をやると、時刻は午後の10時過ぎ。
もうこんな時間か、と思いながら廊下に続く扉を開け、お腹をポリポリかきながらサンダルを踏んで玄関の扉を開けると、初春の夜風の中に驚いた顔が立っていた。
「おう、おかえり」
俺が早紀の目を見てそう言うと、早紀はうつむいて「ただいま」と一言呟き、おずおずと玄関の中に入ってきた。
「遅かったじゃん」と言いながら俺が玄関の鍵を閉めると、突然、早紀が俺の身体にそっと抱きついてきた。
静かな玄関の隅っこで、俺は片足でサンダルを踏んだまま、その身体を抱きしめ返した。
「どうしたの?」
そう問いながら撫でた黒髪は、洗いたてのシャンプーの香りがした。
何も答えないだろうな、と思いながらそのまま髪を撫で続ける。
すると、不意に早紀の頭が俺の胸から離れ、目を伏せた顔がためらうように俺にくちびるを寄せてきた。
なので、そのくちびるにちょんとくちびるを当て、早紀の顔を覗き込んでみる。
しかし早紀はずっと俺と目を合わせてくれないので、それを何度か繰り返していると、ついに何かを抗議するように早紀が大きく鼻息をついたので、そんな早紀を愛しく思った俺は改めてくちびるを重ねるなり思い切り早紀の中をかき回した。
すると早紀もそんな俺に負けないくらい、強引に俺の中に押し入ってきて、舌先を熱くかき回し始めた。
寒くて静かな玄関には、熱い水音と二人の吐息だけが響いていた。
早紀との出会いは、いや、再会は2年前の夏のことだった。
高校を卒業してすぐ入社した工具会社を3年半働いたのち突発的に辞めた俺は、とりあえずのつもりでコンビニバイトを始めた。
しかしなかなか再就職先が決まらないことに焦りながらも日銭を稼ぐためにダラダラとバイトを続けて1年が経とうとしていた頃、早紀と再会を果たしたのだ。
最初その姿を見た時は、単純に好みの顔してる子だな、と思った。
しょっちゅう来ることがわかってからは、その子が来た日は嬉しくなった。
その子が部屋着で来るようになってからは、意外と大きな胸のふくらみに否応なくドキドキしてしまった。
そして俺がお釣りを渡した時、ありがとうございます、と言って微笑んでくれた顔があまりにも可愛くて、その瞬間から俺は完全にその子を意識してしまった。
そんなある日、その子の公共料金の支払いを俺が担当した時に、そこに書いてある名前を見つけて、初めてその子が早紀なのだと発覚した。
『え。もしかして』と聞くと、やはりその子は倉嶋早紀だった。
俺が高校時代に付き合っていた元カノの、当時小◯生だった妹なのである。
再会してからは、すぐに仲良くなって、すぐに一晩を明かすことになった。
けれど、そのまま交際を申し込もうとすると、それは早紀の方から断られた。
その頃早紀は高校を卒業したての浪人生で、今は勉強しなきゃいけないから、というのがその理由だった。
なんだ。そういうことならしょうがない。
昔、見た時からしっかりしてる印象だったけど、やっぱりしっかりしてるんだな。
だけど普通の女の子だから、たんにエッチなことに興味があっただけだったんだな。
そう思って素直に早紀を応援することにして、『でも・・・良かったら友達になってください』と言う早紀の提案に大いに頷き、お互い友達同士として自分の生活に戻ることになった。
けれど2ヶ月も経たないうちに早紀はまたウチにやって来て、そのままエッチすることになった。
それからまた1ヶ月も経たないうちに俺ん家に来て、再びすぐさまエッチすることになった。
こんなに可愛くてスタイルもいい子とエッチできるのは嬉しい。けれどこの子、受験の方は大丈夫なのか。
俺は適当な高校に行って、大学受験はしたことがないからその辺の塩梅は全くわからない。
だから早紀が『大丈夫だから』と言えば大丈夫なんだろうと思うし、『息抜きも必要だから』と言えば気兼ねなく早紀の身体を隅々までむさぼりまくった。
けれど結局、早紀はその年の受験に失敗してしまった。
そんなに頻繁に会っていたわけではなかったが、それでももしかしたら俺のせいなのでは、という確かな罪悪感を覚えた。
しかし早紀はそんな俺の顔を見て『いや、しゅんちゃんのせいじゃないから』と言って小さく笑った。
俺はその自己嫌悪にまみれた笑顔を見て、今年こそは大人として早紀の受験をきちんと応援しようと誓った。
だが。
だが、そうすることができなかったことが俺の心の弱さである。
早紀が二浪目に突入してからは月に一度くらい外で会ってご飯をおごってあげたのだが、その時見た早紀の身体は、会うたびに艶めかしく、いやらしい形なっていた。
初めて抱いた時よりも明らかに胸のふくらみは大きくなり、おしりは丸々と張り出して指先は長く細くなっている。
早紀自身もその自覚はあるようで、俺が思わずそのふくらみに目を落としてジッと見つめたりしてしまうと、急に無言になって髪を耳にかけ、しれっと谷間を深めたりする早紀の所作にどうしようもなく興奮してしまった。
そして這々の体で一人の自宅に帰ったあとは、早紀のことを思い出して何回も何回も一人でしてしまう日々だった。
しかしそんな日々も長くは続かず、結局、夏期講習が始まったくらいの時期から再び、会うたびにエッチをするようになった。
それは1ヶ月間しなかった時もあった。
けれど1日会えないだけですぐに会いたくなった時もあった。
そして週1回の息抜きという名目で毎週欠かさず会った時もあった。
やはり早紀は今年度の受験にも失敗してしまった。
そして俺も、今年に入った辺りから早紀の雰囲気を見て何となくそうなるような気がしていた。
『ねえ』
『ん?』
『わたしってダメなやつだよね』
2月の終わり、早紀がそんなことを言った日があった。
『なんでだよ』
『だってさ。しゅんちゃんは高校卒業してちゃんと働いてさ。今だってちゃんと働いて生活してるじゃん』
『・・・』
『わたしはさ。自分でやるって言ったことも全然できないし。・・・ましてや今年から働いてる自分の姿なんて全然想像つかないし』
早紀には言ってなかったが、実は、俺は今年から無職の生活をしていた。
時給アップのために昨年、2年間働いていたコンビニを辞め、9月から働き始めたホテルマンのバイトを年末いっぱいで辞めてしまったのだ。
年が明けてすぐの頃は、またすぐバイトなんて見つかるだろうと思って余裕ぶっこいていたのだが、せっかく辞めたホテルマンのバイト以上の給料の仕事を選り好みしていたら、面接にことごとく落ちてしまった。そしてそれは今月になっても続いているため、今は就職していた時の貯金を切り崩して生活をしている。
『・・・まじで?』
『まじで』
それを正直に話した直後、二人の間に大きな溝ができてしまった気がした。
しかし俺の心の中には確かに、その溝がどんどん拡がることを望んでいる自分がいた。
早紀は言った。
『ダメなやつじゃん』
『・・・そうだな』
もはや俺からこの関係を終わらせることはできなくなっていた。
こんなにも可愛くてタイプで、素直で優しくてダメでエッチな女の子を自分から手放すなんて到底無理な所業だと自覚していた。
不意に、ふふん、と早紀が笑ったので俺は驚いて振り向いた。
すると早紀はいつか見た自己嫌悪にまみれた笑顔を俺に向けて言った。
『じゃあ一緒じゃん』
『・・・』
『わたしたち、ダメなやつじゃん』
拡がった溝が急速に埋まっていくような気がした。
しかし本当は、拡がった溝の向こうから早紀が呼びかけてくれているだけなのだと思い直した。
『ねえ』
『うん?』
『今、何考えてるか当ててあげよっか』
『うん』
目を伏せていた早紀はチラリと俺を見るなり、再び目を伏せて言った。
『もう会わない方がいいと思ってるでしょ』
俺は素直な気持ちで早紀のうつむいた前髪を見つめながら応えた。
『そうだな』
それから早紀は、俺に送られることもなく夜明けの町を一人で帰った。
しかしそれから1ヶ月も経っていない昨夜の午後10時過ぎ。『会いたい』と一つ連絡をよこすなり早紀は再び俺の家に来てしまったのである。
この堕落した生活の終止符を、いったいどちらが打つのだろうか。
火曜日の午前4時頃。トイレに起きた俺は暗い部屋の壁にもたれて、寝乱れた早紀の細い足首を見つめながら、ずっとそんなことを考えていた。
閉じたまぶたに眩しさを感じて、大きく息を吐きながら寝返りを打った。
ぼんやりとまぶたを開くと見慣れた白壁。
ベッドに伸ばした左腕には一人分のスペースが空いていた。
そこに寝ていたはずの人影を探して横たわる身体をぐるりと回す。
するとベッドサイドにもたれて携帯を眺めている早紀の横顔がそこにあったので、俺は安心して毛布を抱き寄せた。
「起きたの?」
俺が目をパチパチさせながらそう聞くと、早紀はチラリと俺を見るなり再び携帯に目を落として応えた。
「んー。今さっき」
「あ、そう」
眠気の浅瀬にたゆたいながら、俺は早紀の姿を眺めた。
肩まで伸びた黒髪をバレッタで留めて、真っ白なうなじではほやほやとした産毛が陽光を浴びて煌めいている。
薄く開いたくちびるの上から落ちる視線は真剣そのもので、その長いまつ毛の先にいったい何を見つめているのだろうか。
うなじの上に直接、部屋着の灰色パーカーを着ているようで、甘く開かれたジッパーから覗く胸元の白さは否応なく悩ましい。
そしてそのパーカーの裾から伸びるムチムチと張りつめた太ももは、女の子座りの形に丸く折れ曲り、カーテンの隙間から落ちる細い陽光が横断するふくらはぎや太ももの表面は、しっとりと光を吸収して放出するようにほんのりと輝いていた。
やおら起き上がった俺は、早紀の華奢な背中をやんわりと抱きしめて言った。
「おはよー」
すると早紀は鼻息でちょっと笑って、小さな左手で俺の左腕に触れながら応えた。
「おはよー。・・・てかもう1時過ぎとるけどね」
「え。そうなん?」
早紀の黒髪に鼻先を埋めると、シャンプーの香りの中に少しだけ汗の匂いが混じっていた。
すると瞬時、昨晩の早紀の乱れた黒髪と眉間にしわ寄せて喘ぐ早紀の喉の白さが脳裏を駆け去り、不意に股間に熱を帯びていくのを感じた。
「そうよ。どんだけ寝るんよって感じよね、わたしら」
ははは、と笑う早紀の左耳にそろりと鼻先を降ろすと、「んー!」と抗議の喉声を出した早紀の頭が俺の鼻先から離れようとしてやんわり傾げた。
「そうやなー。俺たち寝過ぎだよなー」
とヒソヒソ声で応えながら鼻先で早紀の左耳の形を確かめ始めると、早紀は何度も喉声で抗議し、俺の両腕を離そうと左手にやんわり力を込めた。
けれどしばらく鼻先や舌先を使ってその左耳の形に没頭していると、気付けば抗議の喉声は色味を帯びた鼻声に変わっていた。
「ねーえー」
早紀が深く長い呼吸の中から俺を呼びかける声が聞こえた。
「んー?」
「・・・どーしたとー?」
「んー」と意味のない相槌を打った俺は、そのまま左耳に集中し続けた。
「・・・またしたくなっちゃったとー?」
「んー」
絶えず左耳を探検していた俺は、左耳だけでは飽き足らず、抱きしめていた右腕を離してその指先で早紀の右耳を探検し始めた。
すると不意に、早紀のくちびるの隙間から低い喉声が飛び出し、それを追いかけるようにさざなみのような吐息が熱く静かに漏れ始めた。
「ねーえーって」
「んー」
「まだお昼だよー」
「んー」
「だめだよー」
「んー」
「んんんー・・・」
左手で抱きしめた早紀の右肩をやんわりと撫でると、早紀は両手で俺の左腕をしっかりと握りしめてくれた。
その手のひらはまるで俺の腕の表面に吸い付くようにしっとりと滑らかで、俺のあいつはいち早くそれに触れて欲しいと言わんばかりに首を高く伸ばし始めた。
「早紀」
俺がそっと名前を呼ぶと、早紀の身体がビクッと跳ねた。
早紀はそれからたっぷりと時間を置いて、震える吐息の中で「なに?」と聞き返した。
その声色は次の言葉を知っていた。だから俺は安心して早紀を誘った。
「しよっか」
抑えるように上下していた早紀の胸が大きく上下し始めた。
噛み殺すために震えていた早紀の呼吸が荒く深く乱れてきた。
抱きしめる左腕を握った早紀の両手に強く力がこもり始めた。
瞬時、早紀の真っ赤な頬と潤んだ瞳を見たかと思うと次の瞬間には細腕で頭を抱き寄せられ、俺は滴る水音の世界に溺れ落ちていた。
肩で息をしながらベッドから起き上がった俺は、カーテンの隙間から滲む群青だけを頼りに早紀のおへそに散らばった4回目の情熱をティッシュで拭き取った。
そしてそれを一つにまとめてフローリングに捨てるなり、ドサリとベッドに倒れ込んだ。
室内はすでに電気が必要なほど暗くなっていた。
いったい今は何時だろう。けれど壁掛け時計に目をやるのも億劫なほど息は乱れ、視界はクラクラと歪んでいた。
なので、ふとまぶたを閉じて呼吸を整えることに専念した。
しばしまぶたの中の世界を見ていると、室内を充たす規則的な呼吸の中に、早紀の息遣いを感じた。
するとそれだけで、またもや全身の血液がお腹の下に集まっていくのを感じた。
だけどさすがにまた襲うのは野蛮過ぎる。深く長く伸びていく呼吸の中から現れた理性が俺にそう呼びかけた気がした。
なので俺は左手で早紀の右手を探して、それを早紀のお腹の上に見つけるなり二人の腰の間でキュッと握りしめた。
すると早紀の呼吸がふふっ、と笑って、その右手は俺の左手に指を絡めてキュッと握り返してくれた。
早紀は言った。
「ヤバいね」
「うん?」
「もう夜だよ」
「そうだな」
「ははは、今日エッチしかしてないじゃん」
「そうだな」
ふーう、と大きな息を吐いた早紀は身体を横向けて俺の左肩に顔を寄せ、左腕を俺の胸の上に置いた。
「今日、ご飯も食べとらんやん」
「起きてすぐ始めたもんな」
「そうだよ。起きたと思ったらすぐしゅんちゃんが襲って来るんやもん」
「はあ?違うやろ。強引にキスしてきたのは早紀の方やろ」
「はあー?違うし。それはしゅんちゃんがわたしにエッチなことしてきたけんやろー!」
「いやいやそれは、起きたら早紀が俺のそばにおったけんやろ」
「はあ?なんなんそれー!意味わからんし!」
ふん、と鼻を鳴らした早紀はそれから何も言わなくなった。
けれど、ほどなくすると俺の左肩に顔を埋めてきた早紀は、俺の胸に乗せた左手を上下して俺の身体のあちらこちらを触り始めた。
そして不意に、その細い手首が俺の屹立した股間に引っかかると、その形や硬さを確かめるのように手のひらで揉み込んだりグッと握ったりを始めた。
「ねー」
「んー」
「まだし足りんとー?」
「んー。・・・そういう聞き方されたら多分、永遠にし足りんわ」
「なんなんそれ」
早紀にやんわりと急所を預けている心地良さに浸っていると、早紀はボソリと言葉を続けた。
「・・・じゃあ石川さんにしてもらったらー」
「・・・え、何で急にそいつの名前が出て来ると?」
「別にー」
心なしか股間を包む早紀の手のひらが乱暴になった気がした。
俺は言った。
「早紀こそさー。隼人君とまだ続いとるんやろー」
「んふふふふ、懐かしい名前出すねー」
「そうやろー」
「んー」と相槌を打つなり、早紀の手のひらが俺のあいつから離れてしまった。
なので何だか寂しい気持ちになった俺は、今度は逆に俺が早紀のあそこを触ってあげようと思い、やんわりと早紀の方に身体を倒して右手を早紀の太ももの間に持って行った。
すると先にそこに居た早紀の左手にコツンと右手がぶつかった。
びっくりした俺はそのまま聞いた。
「え、触っとったと?」
「んー、まあ。・・・いや、まだ濡れてるかなと思って」
そう言うと早紀は、再び左手を俺の身体の上に乗せた。
俺は聞いた。
「濡れとった?」
「さあ。どーやろ」
先客が居なくなったので俺は、それじゃ失礼して早紀の太ももの間に右手で触れた。