生徒会顧問の先生が不在だったので、職員室に相談に行った。掲示物の承認は、校長先生がしてくれることになった。
「校長先生が戻るまで、校長室で待ってて」
校長室の中でソファに座っていると、なんと妹が副校長先生に案内されて入ってきた。学習発表会の合唱のピアノ伴奏の件で校長先生から激励してもらうそうだ。
「ぺん太君と由美ちゃんは、優秀な兄妹ね。仲も良いし、本当、理想的だわ。校長先生が来るまでソファで待っててね。ジュース出してあげるわね」
副校長先生は、冷蔵庫からペットボトル、サイドボードからグラス2個を取り出し、ぼくたちのグラスにオレンジジュースを注いでくれた。
「どうぞ」
職員室に戻っていった。校長室のソファに、ぼくと妹の二人だけが残された。
校長室は静かだった。
実は、その日の朝、ぼくと妹は、目覚めのキスをいつもどおりにしていなかった。
パパが急に勤め先の研修でコンパスと分度器を使いたいとかで、朝っぱらからぼくたちの部屋に借りに来た。起きてすぐバタバタして、そのままいっしょにダイニングに朝ご飯を食べに行ったので、ルーチンの目覚めのキスができなかった。
朝ご飯を食べた後、部屋に戻ってキスをするにはしたけど、歯磨き粉の味が強くて、お互い満足できなかった。
朝、そんなふうだったので、学校で二人だけソファに座っている時間ができたことに、ぼくは運命的なものを感じた。
「ねえ、起きてすぐできなかったキス、今しようか」
ぼくはちょくちょく校長室に来る用事があって場慣れしていた。妹はめったに校長室に来ることがないので緊張していた
「えー、校長先生が来たらこわい」
「大丈夫だよ、ジュースを出してもらったときは、いつも10分以上、待たされるから」
「ほんと?」
「絶対大丈夫だから」
「じゃ、一瞬だけね」
並んで座っていたセーラー服の妹に上半身を近づけて、唇だけのキスをした。
ちゅっ
妹は緊張で少し固くなっていた。ぼくは妹の手を握った。妹の手が暖かかった。
「大丈夫、耳を澄ましていれば、入ってくる前に足音でわかるから」
妹の唇が少し緩んだので、舌を入れた。妹も舌先を合わせてくれた。
ちゅっ、ちゅるっ
無自覚に始めたキスだったが、いま、ぼくと妹は、校内で、しかも校長室でキスをしているということを意識した。
背徳感と優越感を覚え、校長先生が来たらすぐ止めなければならないスリルもあって興奮した。ますますキスに熱が入った。
ちゅぅ、ちゅるっ、れろっ
校長室の外の廊下から足音が聞こえた。
反射的にぼくと妹は身体を離して、正面を向いた。
心臓がちょっとドキドキする。
トントン
誰かがノックした。
「校長先生、いますかー」
「校長先生は、今いないわ。校長室の中で待ってる?」
ノックの音と呼びかける声を聞きながら隣の職員室から出てきた副校長先生が、校長室の前の廊下でその男子生徒に応対している。
「だったらいいです、後でまた来ます」
「こら、走っちゃだめよ」
男子生徒の足音は遠くなり、副校長先生も職員室に戻っていった。
また静かになった。
ドキドキは完全におさまっていなかったが、さっき突然キスを中断されて、また続きがしたくなった。
「ねっ、だいじょうぶだろ?」
「すっごく緊張したー」
「さっきの、続きしよ?」
「(うん)」
妹もぼくと同じ気持ちだったみたいで、ぼくと妹は舌を絡めて、本気のキスで唾液を交換し合った。
れろっ、ちゅるっ、
また足音が聞こえた。聞きなれた音だ。これは校長先生だ、間違いない。
「校長先生が来たよ」
妹に囁いてから、余裕をもって正面を向いた。
ガラガラ
副校長先生から事前に連絡を受けていたのか、激励する妹だけでなく、ぼくたち兄妹二人が校長室の中に待っているのを、校長先生は知っていたみたいだった。
「ごめん、ごめん、待たせちゃったね」
と言いながら入ってきた。
「おっ、兄妹、仲いいね。由美ちゃん、緊張してるのかな」
そう言われ、校長先生の視線の先を追って初めて、ぼくと妹がうっかり手をつないだままだったことに気づいた。