「まだバージン・・・だけどね。」
シリーズ第35話となる今回のストーリーは、私が前作の最後に交わした小学6年生である知恵ちゃんとの会話の最後に、そんな余計なことを付け加えてしまったことを後悔し頭を抱えているところから始まります。
時代は平成2年の初夏。未だバブル景気に浮かれている日本という国の東北の北のハズレの小さな臨港都市で大学4年生だった私が、その大学の附属高校で教育実習を受けていた時のストーリーとなります。
その時私にはバスガイド1年生の真琴という彼女がいましたが、訳あって学生の身分でありながらそんな彼女と正式に婚約していました。それで、その真琴が附属高校吹奏楽部の外部講師として就任したその日、私は吹奏楽部担当の教育実習生という立場で生まれて初めて吹奏楽の合奏を指揮することに・・・
そして、やっとのことでその指揮というものをやり終えた後、待ち構えていた小学生に半ば強制的にベンツに乗せられ、その挙句怪しげな事務所に連れて行かれた後から今回の物語はスタートします。
その連れて行かれた事務所では、待ち構えていた会長という人から私が教育実習を受けている高校の、ある女子生徒に関する身辺調査を依頼されていました。
それは、別に行われていた浮気の興信調査の中で浮上した女子生徒・・・
そしてその後、その会長から来たついでにその知恵ちゃんという小学生の宿題を見てほしいと頼まれ、その後その娘の部屋で頭を抱えるハメになるとは・・・
それは、オトナのオンナになりたいと懇願するその知恵ちゃんをどうにかこうにかなだめようとした結果それが失敗に終わり、結局自分の知っているテクニック総動員し、一般的にいうセックスというものを回避したギリギリの状態で満足してもらった後・・・
これを持ってオトナになったということになりかけた時、私の言った余計な一言・・・
「バージン・・・。」
それを聞いた知恵ちゃんが当然その言葉に噛み付きます。
「ちょっと待って。バージンってことは処女・・・ってことでしょ?ソレじゃセックスしてないってことでしょ?ソレってお子様のまんま・・・って事でしょ?」
「うっ・・・」
後悔先に立たずとはこのことです。その時言葉を失った私はなんと言って取り繕うか考えました。
さっき、やっとのことで納めたこの話題が振り出しに・・・でも、この娘が私の指で逝ってしまったのも紛れもない事実・・・。
そこで、この娘にいろんな性に関する情報を提供していて、この知恵ちゃんがリスペクトしている従姉妹のみづきお姉ちゃんを引き合いにすることにしました。
「知恵ちゃん。カレシからの一方的なセックスをされているみづきお姉ちゃんは、そのセックスは痛いだけであまり良くない・・・って言ってたんだよね。」
「うん。」
「知恵ちゃんはどうだった?」
「痛くない・・・っていうか、すごく良かった・・・」
「ソレって多分・・・みづきお姉ちゃんも経験してないオトナの領域に知恵ちゃんは入ってるってことだと思うんだ。」
「じゃ・・・みづきお姉ちゃんを追い抜いちゃった・・・ってこと?」
「だと・・・思う。オトナへの階段を一段飛ばしちゃってるけど、確実にその階段は昇ってると思う・・・。そしてその階段はもっともっと高いところまで続いていて・・・。それに、入れるだけがセックスじゃない・・・ってことも分かってほしい・・・」
「その一段飛ばしちゃった階段って・・・そこに戻ることってできるの?」
「うん、出来るさ・・・。一度昇った階段は昇り降り自由だからね。」
ん?・・・知恵ちゃんにセックスをしたと語るこの私はこの知恵ちゃんの初めてのオトコということになるんでしょうか?
でも、何も知らない知恵ちゃんを少しばかり私の色で染めてしまったのには違いはありませんが・・・。
ところで自分で言うのもなんですが・・・さっき知恵ちゃんにしたことって、元カノの理央直伝のテクニックです。
ソレはどういう順番で・・・どうすれば身体にスイッチが入って・・・どうすれば気持ち良くなれるのか・・・と言ったことについて女性目線でレクチャーされたモノ・・・
というのも、あおいの兄である理央の彼氏は自分妹であるあおいが自分の目の前で事故に巻き込まれたの目撃し、ソレ以降男性機能がダメになっていました。それ以降、挿入以外のセックスのやり方を二人で模索したと聞いています。
だからソレは物凄く実践的で為になるレクチャー・・・
でも・・・私の前で満足したものと思っていた知恵ちゃんが何か引っかかるものを感じていたようです。
「うん。でも・・・まどかは・・・・今ので終わったの?それでいいの?さっきオトコは精子を出して終わり・・・って言ってたよね?」
「うん・・・。僕はオトナだから・・・今は知恵ちゃんさえ満足してもらえれば・・・」
「じゃ・・さ・・・今度、その・・・まどかの精子っていうヤツ見せて欲しいんだけど・・・」
「それはセックスの最後にならないと見せられない・・・。」
「でも・・・オトコの人って今みたいなことすると精子がタンクいっぱいになって爆発するって聞いたよ。まどかは大丈夫なの?」
「う・・ん。爆発までは行かないけど・・・」
「じゃ、さあ・・・その・・・口で・・・出してあげようか?」
「ん?・・・知恵ちゃん!今・・・なんて・・・?」
「だから・・・口で・・・」
本日2回目です。そんなセリフを聞いたのは・・・
1回目は私が教育実習を受けている高校の吹奏楽部の部室。相手は私の彼女で正式に婚約したばかりの真琴・・・。しかも会社の制服姿で・・・でした。ちなみに真琴の会社は観光バス会社です。
その時は吹奏楽部の外部講師として正式に辞令を受けた後、授業が終わった生徒たちに部室のドアをガチャガチャされながらのものでしたが・・・
その時はしっかりと抜いて頂きました。
でも、今回は事情が違います。相手は小学生と来ています。これはチョット・・・
「ちょっと待った!口でするって事なんで知ってるの?」
「参考書・・・に書いてあった。」
これって・・・どんな参考書なのでしょうか?
もちろんそんな参考書なんて存在しないのは私も知ってはいます・・・
恐らくは中学生が読むようなグラビア付きでエッチは投稿なんかが記事として掲載されているような小さめの雑誌・・・
この時、私はこの知恵ちゃんという少女の性に関する情報源というのは従姉妹からのモノとその参考書なるモノと考えるのが妥当かと思いました。まっ、どちらにしても偏った情報ですが・・・
「知恵ちゃん。そういうことはもっともっとオトナの階段を昇った先でやることなんだ。今、ここでソレしちゃうと本当のオトナの女性にはなれない。」
「興味本位じゃダメ・・・ってこと?」
「うん。そのとおり。勉強もそうだけど、基本が分かんないうちから応用問題やっちゃうと訳が分かんなくなる・・・・そんな感じ。」
「そうだよね・・・何事も基本が大事。何事も基本を疎かにするとその先伸びないってお母さんがいつも言ってる。」
「だから・・・」
「じゃ、決めた!さっきみたいなこといっぱいしてからそういう事する。」
「だから・・・まだちょっと早いって・・・」
「でも初めてスルのは・・・まどかだって。まどかのじゃないと嫌だし・・・。」
「うん・・・でも、ソレは少なくとも知恵ちゃんのおっぱいが大きくなってからかな?」
「分かった・・・頑張る!」
「知恵ちゃんのその頑張り・・・応援するよ。」
この時私は、その知恵ちゃんが何をどう頑張るのか分からないまま応援していました。ただ、この知恵ちゃんと会うのはもうないだろうと思ってのことでしたが・・・
今後この子の家庭教師を引き受ける羽目になろうことなど考える由もありませんでした。
そして・・・一年の中で最も夕暮れの遅いこの季節の夕暮れが迫っていたそんな時間に、私と知恵ちゃんがパスタを茹出るためのお湯を沸かしていました。
「ピンポ〜ン・・・」
そんな時、そんな電子音を発したインターフォンの液晶が光っていました。
そしてそれに応えた知恵ちゃんとの会話で聞こえて来たのは何故か佐藤先生の声・・・
「あっ・・・佐藤です。」
「佐藤のおじいさん・・・。まどかを迎えに来たの?」
「うん・・・風谷君を返してもらいに来た・・・」
「まどかは返さないよ・・・。」
そう言う押し問答の中、なかなか玄関ドアを開けようとしない知恵ちゃんをやっとのことで宥め、今週中にもう一度勉強を見てあげるという約束をしてやっと解放してもらえる事に・・・
その、咄嗟に出たもう一度・・・ということが私の家庭教師としての第一歩になってしまうことになってしまうなんて、その時は思いも寄りませんでした。
そして佐藤先生と駐車場へ向かうエレベーターの中・・・
「風谷君・・・知恵ちゃんと親睦は図れたかい?」
「はい。知恵ちゃんの勉強が難しくって・・・。今時の小学生は関数とか、二次方程式ってモノやるんですね?」
「う・・ん。とうとうそこまで・・・。知恵ちゃんっていつもそんな難しい問題解きながらひたすらお母さんの帰り待ってるんだよね。」
「そりゃ・・・早くオトナになりたいっていうのも無理はありませんよね。」
「ん?何かあったのかい?」
「い・・いや・・知恵ちゃんがそんなこと言っていたな・・・って思いまして。」
「ところで風谷くん。なんで僕がここにいる?・・・って顔してるけど?」
「はい。どうして佐藤先生が遠藤事務所に出入りしてるのかが不思議です。」
「う〜ん・・・何から説明しようかな・・・。僕って先生になる前、建設会社勤めしてたのは以前話したよね。」
「はい。その話は伺っています。」
「その時の社長だったんだよね・・・あの会長が・・・。」
「えっ?今の社長って会長の息子って聞いてましたが、それじゃその今の社長ってその・・・先生の教え子だったんですか?もしかして・・・先生をぶん殴った・・・?」
「うん。そんな繋がり・・・」
「でも・・・それがなんで遠藤事務所と?」
「幸子さん・・・いや、遠藤さんって僕の後輩なんだ。法学部の・・・」
「そうなんですね。それで・・・」
「昔、会長が社長の頃いろいろ揉めた時期があって・・・その頃法律に詳しい人が必要になってね・・・」
「それで、昔勤めてた佐藤先生に話は来たってことですか?」
「うん。でも、僕は先生としてやっと軌道に乗って来て・・・それに僕には先生って呼んでくれる奥さんもいたし・・・」
「法律家も先生って呼ばれていますよね?それでも奥さんは先生って呼んで・・・」
「いや、僕は弁護士資格持ってないからね・・・そっちじゃ先生じゃないんだ。そんな時、学校の研修旅行で行った先で宿泊した近くの国分町で出逢っちゃったんだよね・・・二次会で行った店で・・・幸子さんに。」
「でも・・・歳も離れてるし、顔見知りって訳じゃないですよね?」
「それがさ・・・すごい偶然で・・・」
「あれ?二次会・・・?もしかしてその店って・・・?」
「僕もそうだったんだけど、法学部卒って就職に困るんだよね。それは彼女も同じで・・・それで彼女が働いてたのがキャバレーで・・・」
「キャバ・・・・嬢・・・ですか?」
「奨学金返せなくなっちゃって仕方なく・・・らしいんだけど・・・なんか勿体無いよね。」
この時私はこの日本という国の裏の部分を垣間見たような気がしました。
聞こえの良い「奨学金」という借金を学生に負わせるこの日本という国の現実。
そして、大学卒業後その返済のためにその知識を活かせないまま意図しない職業で働かなければならない学生(債務者)たち・・・私は幸いその借金(奨学金)を負っていませんでしたが・・・つくづく母さんには感謝です。
「そしてね・・・酒が進んでいく中、彼女が僕の大学の後輩だってことが分かってね。しかも偶然にも彼女の実家が僕の実家の近くだってことも・・・」
「それで紹介したんですね・・・あの会長に。」
「そうなんだけど・・・」
「まだなんかあるんですか?」
「その時・・・幸子さん・・・お腹に子供いたんだよね。」
「え?・・・それって・・・知恵ちゃん?」
「うん。その時5ヶ月だった・・・。」
「それじゃ幸子さん・・・結婚は?知恵ちゃんの父親って?」
「それがさ・・・幸子さんって結婚もしてないし・・・相手のことは全く喋らないし・・・口が固いっていうか・・・。」
「それじゃ・・・その相手のことは?」
「うん・・・それ以降僕は聞いてないし、今でも誰かは分からない。」
「それでもその時言っていたは・・・ある朝、100万円の入った封筒と置き手紙だけ残していなくなった・・・それだけ。」
「そしてその100万円はこの子のためにとっておくって・・・お腹さすりながら・・・」
「生活苦しいのに・・・それに手を付けず・・・ですか?」
「うん・・・その時お酒飲めないってことでクビになりそうだっても話しててね・・・そうだよね。何せ妊娠してちゃお酒なんてね。でも・・・その相手のこと今でも一切明かさない・・・さすが弁護士だよ、口が固いっていうか・・・」
「今、その幸子さんって、今・・・弁護士なんですか?」
「会長のところに来てからは後藤田さんのところに籍を置いて、最初は行政書士の資格取って建設(会長の建設会社)の事務手続きなんかやる一方、会社で起きる交通トラブルなんかの処理に当たってたみたいなんだよね。」
「そうですよね。あの会長のところ会社って、あんなたくさんのダンプ動かしてますもんね・・・。」
「うん・・・。それで事故とか違反とかの処理に当たっていた時、その社員が運転するダンプの起こした人身事故が訴訟沙汰になって・・・」
「裁判・・・ですか?」
「うん・・・一時停止を怠った軽自動車との事故だったんだけど、クルマの大きさが違うからね。でも、とうの幸子さんは行政書士の資格しか持ってないから直接相手方との交渉もできない。しかも被告となった社員の皮弁(弁護人)も出来ない。ただやれることはただその裁判に関する手続きだけ・・・」
「なんか・・・もどかしいですね。」
「そうなんだよね・・・弁護士にならないと出来ないことって結構あって・・・。」
「それで弁護士になった・・・・ってことですね。」
「うん。その裁判、結局負けちゃってね・・・。悔しかったんだろうね・・・。それから彼女猛勉強して弁護士の資格取って・・・」
「司法試験って・・・そんなに簡単に合格しないって聞いてますが・・・」
「彼女・・・まさに寝る暇も惜しんで勉強したんだよね。その時会長から連絡があって身体が心配だって聞かせられて・・・」
「その時知恵ちゃんって?」
「近くに住んでるお兄さんのところに預けてて・・・そこの従姉妹のお姉ちゃんが本当のお姉ちゃんみたいに面倒見ていてくれて・・・」
「あの部長・・・ですね。」
「うん。あの吹奏楽部の・・・」
「知恵ちゃんから聞いたんですが、知恵ちゃんがその従姉妹からマセた情報もらってるみたいで・・・」
「まっ・・・知恵ちゃんって小さい頃からおマセさんだったからね。小さい頃そんなだったから一人っ子って言うのが寂しいみたいで、今度は千鶴ちゃんにお姉ちゃんになって・・・って迫ってるって訳なんだよね・・・」
「だから・・・なんですね。自分のお母さんと後藤田のお父さんにさんに再婚を迫ってたのって・・・」
「でも・・・司法試験ってやっぱり甘いもんじゃなくって何回もその試験に落ちちゃったんだよね。」
「そうですよね・・・。コレばっかりは・・・」
「でも、そんな努力が身を結んで去年の試験でやっと合格したんだよね。それで最近になって事務所の名前が行政から司法に変わったんだよね。」
以前私がふたばと例のモーテルを利用した時、たまたま料金徴収に来たその幸子さんと再会した時渡された名刺には行政事務所という記載がありましたが、佐藤先生のその説明を聞いてそれは古い方の名刺であることを理解しました。
しかし、どうしても知恵ちゃんの父親というのが気にかかります。やはり司法試験の勉強とか、並行して続けている行政書士の業務が忙しく、消えてしまったという知恵ちゃんの父親を探せないでいるんでしょうか?
「でもですよ・・・。忙しくって相手のことを探せないんだったら後藤田事務所で調べてもらえばすぐにでも・・・」
この時私は、行方不明者を探すなんてことは後藤田事務所に頼めばすぐに判明するものじゃないか?・・・と不思議に思っていました。
「多分、幸子さんはそんなの調べなくても知ってるんだと思う・・・知恵ちゃんの父親がどこの誰かって・・・。」
「そうなんですか?」
「うん・・・なんかそんな気がするんだ。」
そこまで話が進んだところでエレベーターを1階で乗り換え、さらに専用エレベーターで駐車場がある地下1階に到着しました。
その駐車場は比較的空いていて、人の出入りがないような雰囲気です。しかもチリひとつ落ちていないような清潔さ・・・。
そして、そんな違和感の中お互い無言のままその駐車場の奥まで歩いて行くとそこにありました・・・例のベンツが。
それでもう一台、その列に並んで駐車されていた佐藤先生のドミンゴの隣にその異様な存在感を放つガンメタリック色のスカイラインGTRも・・・。
当然クルマ好きの私は無条件にそのクルマを一周して眺めました。
しかし・・・R32型GTRと呼ばれるこのスカイラインは結構な改造車です。駐車場の蛍光灯に映るその輝きを放つ車体には太い18インチ扁平タイヤにツーピースホイールが履かされ、更にスレンレス製のマフラーなんかはこぶしがすっぽり入りそうな太さ・・・それに屋根の上にマグネットで着いている無線のアンテナ・・・
しかもフロントバンパー奥に見える巨大なインタークーラーまで・・・
ん?・・・そのインタークーラーの前に付いているこのクルマのナンバー・・・9315?
誰かがその数字の並びを言ってたような・・・
私が頭を傾げてそのナンバーを見ていた時ドミンゴのドアを開けながら佐藤先生が言いました。
「あっ・・・コレ、千鶴ちゃんのクルマなんだよね。正確に言うと後藤田事務所の社有車。」
「えっ?これってあの後藤田さんの?しかも社有車?」
「GTRがここにあるってことは・・・今日はお父さんのM5で出勤したみたいだね・・・」
「父さんのM5・・・?」
そのGTRの隣が空いていました。普段はその場所にそのM5が駐車されているようです。
「うん。BMWの525のヤツで結構大きいんだよね・・・」
そんなBMWの所有者があのゴルゴって・・・運転してる姿を見たら誰も近づけないような・・・・
私がそんなことを思っていると佐藤先生がソレに付け加えます。
「M5って運転が楽しいって千鶴ちゃんが・・・。ちょっとパワーが足りないって言ってたけど・・・」
まっ、このGTRに比べれば・・・の話だと思いますが・・・
「今日はBMWで病院に出勤って・・・でもGTRで出勤っていうのもさすがにどうかと・・」
「でも・・・千鶴ちゃんはいつもこのGTRで通勤してるんだけど・・・なんか最近病院の駐車場でイタズラされちゃったみたいで・・・」
ドミンゴに乗りかけていた佐藤先生がいつの間にか私の傍に来ていました。
ん?イタズラ?
私が疑問に思った時、そう言いながら佐藤先生がフロントタイヤの後ろ辺りを指さします。
何か足りないその辺り・・・
「あっ・・・確かこの辺りに赤っぽいバッチがついててそれにGTって書いてあったような・・・」
「うん。両側盗られちゃってて・・・。千鶴ちゃんが、恐らくRじゃないスカイラインに流用するんじゃないかって言ってたんだけど・・・」
全く姑息なヤツがいたもんです。当時、RじゃないスカイラインをGTーR風にするのが流行っていました。それは一見GTーRに見えるのですが・・・どことなく車幅が狭く迫力に欠けるGTーR・・・・。
極め付けはそのなんちゃってGTーRは5ナンバーです。ナンバーさえ見なければ騙されてしまいますが・・・恐らくそんなクルマに流用しようとして本物のバッチを盗ったと思われます。
そして私がドミンゴの助手席のドアに手を掛けた時でした。
「ちょっと待って・・・」
そう言いながら先程降りたエレベーターの方から、カツカツカツカツ・・・と足音を響かせながら女性が走って来るのが見えました。
「どうしたんだい?そんな血相で・・・」
佐藤先生がそう声を掛けたのは先ほどエレベーターの中で話題になったその本人である遠藤幸子さん・・・いや、遠藤弁護士でした。
タイトスカートの黒いスーツ姿に低めのヒールを履いたその女性の襟には弁護士バッチが光っています。
そんな女性と私は面識がありました。その最初はやはり銭湯での出来事です。ふたばがもらった高級なサンダルは、そもそも会長がこの幸子さんと言うこの女性へ贈ったプレゼント・・・。
しかも、その後ふたばと立ち寄ったモーテルを利用した後再会し、さらには別の日に社会勉強がしたいという舞衣さんを連れてそのモーテルを利用した時にも・・・
ちなみにそのふたばという女性は私と同じく教育実習を受けている元カノで下宿の娘となります。
また、舞衣さんはその教育実習を受けている高校の英語の先生で吹奏楽部の顧問となりますが、どういう訳か私の姉と舞衣さんの弟の結婚により義兄妹となってしまう29歳の女性でした。
その幸子さんという30代後半の女性はそんな私の女性関係を把握している人となります。
その幸子さんが息を切らせながら、ドミンゴの運転席に座る佐藤先生に尋ねました。
「ちょっと・・・その学生借りていい?」
・・・・ということで、私はドミンゴではなく滑らかに走るセルシオの助手席に乗っていました。
リモコンで自動シャッターを開けた幸子さんの運転するセルシオがマンションの駐車場から道路へ出て颯爽と走っています。
トヨタセルシオ・・・その当時、センチュリーを除いたトヨタ車最高峰のそのクルマ・・・。
V型8気筒4000ccのエンジンにエアーサスペンションを搭載するそのクルマは何もかもスムーズでした。
「もしかすると、先程乗せられたベンツより静かかも・・・」
そのセルシオに初めて乗った私の率直な感想がソレでした。クルマの内部も静かですが、何せクルマの外の音も聞こえないような今まで全く経験のないようなその静粛さ・・・
日本のクルマの技術が世界に追いついたと言うことの現れがそんなところに出ていたのかも知れません。
まっ・・・これは青天井の開発予算を組むことができたバブルというその時代だからこそ創ることの出来たクルマではないんでしょうか?
ベンツと同じレザーシートでありながらどこか手触りの違うそんなシートにもたれかかり、流れる商店街のネオンをぼんやり見ながらそんなことを考えていた私に運転している幸子さんが話しかけて来ました。
「あっ・・・今日はいろいろとごめんね。」
「いえ・・・いろいろと驚きましたけど・・・。頼まれた調査(1年6組の由香ちゃんという委員長の素行に関する調査)・・・早速明日から取り組みます。あと、これから何か手伝うことでもあるんですか?」
「うん。ちょっとね。ところでさ・・・。わたし、あなたのことなんて呼べばいい?」
「いや・・・普通に名字で・・・」
「でも、名字ってそっけなくない?みんなが呼んでるように・・・・エンちゃん?それとも・・・ドカ・・・ちゃん?」
「えっ?」
私の下の名前は円と書いてマドカと呼びます。それで通常はエンちゃん・・・って呼ばれていました。それでも親類はまーくんと呼んでいましたが・・・そのドカちゃんと言う呼び方をしていたのは今の今までただひとり。
それは私が高校生の時に付き合っていて、私が地元に置いて来たあおいが私を呼んていた時の呼び方・・・
でも・・・そのあおいは不慮の交通事故に巻き込まれてしまい、中学1年生の13歳という短い人生を終了させていました。
でも唯一、友人の織田がドカ・・・と呼んでいましたが、ちゃん付けでそう呼んでいたのはやはりあおいだけ・・・。
どうしてその呼び方をこの人が知っているのか・・・。
「ねえ・・・わたしもドカちゃんって呼んでいい?」
「いや・・・それは・・・でも、わたしも・・・ってことは・・・知ってるんですね。」
「うん・・・。悪いとは思ったけど調査ファイル見せてもらったわ。」
「どこまで知ってるんですか?」
「全部・・・。」
「えっ?・・・全部って言ってもいろいろ・・・」
「うん・・・あなたが経験した辛い過去も・・・・真面目を装ってるけどその反面、周りのオンナ達に片っ端から手を付けちゃうオンナったらしだっていうあなたの側面も・・・。」
「その最後の情報は間違ってますし・・・そもそもそれは余計です。」
「あら・・・オトコってその最後の部分が重要なのよ。オトコが生きていく上での最も重要なエネルギーの源・・・仕事や学業が充実しているオトコって、そっちのほうも充実してるってことよ・・・」
「まっ・・・そりゃそうですけど・・・僕は今のところ、どっちもまだまだ・・・」
「どちらかというと、あっちの方が充実しちゃってる感じ?」
「いや・・・それほどでも・・・」
「あら・・・褒めたつもりじゃなかったんだけど・・・。」
「あっ・・・そうですよね・・・」
「それでさ・・・。知恵のことなんだけど・・・」
「知恵ちゃん・・・どうかしました?」
「知恵の父親・・・気にならない?」
「そりゃ・・・でも、それって僕が立ち入れる話じゃないですし・・・」
「知恵の父親ってあの会長・・・って思ってるでしょ?」
「初めはそう思いました。」
「・・・ってことは、佐藤先生から聞いたのね?」
「はい・・・悪いとは思いましたが・・・」
「わたしさ・・・あの会長に拾われたの。いくら佐藤先生の口利きがあったとしても・・・拾われたと一緒。」
「拾われた・・・って、穏やかじゃないですね。」
「その時・・・わたしってその、拾ってくれた会長のオンナになっちゃうんだろうな・・・・って覚悟しながら会長の元に行ったの。」
「ソレでどうなっちゃたんですか?」
「アパートなんかが家電付きで準備してあって・・・これが妾(めかけ=愛人のこと)を囲う愛の巣になるんだな・・・って思って覚悟してたんだよね。」
「愛の巣・・・って・・・その言い方・・・」
「妊婦でもやれることはやろう・・・って思っていたんだけど・・・」
「ヤッパリそのアパートが愛の巣になっちゃったんですね・・・。あっ、すいません。そんな興味本位で聞いちゃって・・・」
「ところがさ・・・・いくら待ってもその会長が現れないの。」
「どうしたんですか?」
「それどころか、いつの間に後藤田事務所の事務員として正社員になってて・・・大きいお腹で働かせてもらってね。」
「会長は現れたんですか?」
「うん。現れたわよ・・・事務所の方に。そして会社で必要な許認可申請の手続きとか、ダンプが起こしちゃった事故とか、交通違反の行政処分の軽減交渉なんかやるように指示だけして・・・」
「アパートには現れたんですか?」
「全然・・・。でも、本当にありがたかった・・・こんなわたしにまともな生活をさせてくれるようにしてくれたあの東山会長・・・。そしてその会長に引き合わせてくれた佐藤先生・・・。」
「それまでは大変な思いしたんですよね。その・・・佐藤先生と偶然出会う前・・・」
「うん・・・。その時わたしのお腹には知恵がいて・・・。それでも生活しなきゃならないから働いてたの。」
「奨学金という名の借金返済・・・ですね。」
「うん・・・。そもそもわたしの家って裕福じゃなくって・・・それで奨学金借りて大学行ったんだけど・・・・卒業後に待ってたのはその奨学金っていう名の借金返済。」
「そんなに・・・・ですか?」
「法学部だから就職に困らないと思ったの。しかもそんな学歴だから給料もいいだろうって・・・」
「佐藤先生も言ってました・・・。その学歴が就職の足を引っ張ることもあるって・・・。」
「そうだよね。就職活動して思い知ったの・・・いくら法学部卒って言っても普通の学生と何ら変わらない。しかも、雇用するんだったらそんな学歴持ってて小難しい屁理屈こねられるより、文句も言わず扱いやすい学生の方がいいだろう・・・って。」
「そうですよね・・・。雇う方とすれば、何も文句言わず都合良く働いてくれる学生の方がいい・・・って。」
「そうなのよね・・・。就職って頭の良い学生から決まるんじゃなくって、要領のいい学生から決まっていくのが見えてきて・・・しかも体育会系の学生なんてすぐに決まっちゃうの。」
「すいません。実は僕も・・・」
「そうだよね。大手ゼネコンに地元の建設会社・・・あなた一体どれだけ内定もらってるの?」
「すいません・・・6〜7社ほど・・・」
「それはあなたが技術系の学生だから・・・だよね。それが法学部なんてなるとどこも振り向いてくれない・・・」
「そんなものなんですか?」
「それでもやっと見つけた小さな法律事務所に勤めてたんだけど、学歴に関係のないような雑用ばかりやらされて・・・これもまた給料が安くって、給料からアパート代と奨学金返済分を差し引くとそれでギリギリ・・・。」
「そんなに・・・ですか?」
「うん・・・そうよ。その時本当に後悔した・・・その奨学金で大学に通うことを考えた甘い自分を。」
「それでキャバレー・・・・」
「うん・・・そうなんだよね。仕方なく水商売のアルバイト始めたらそのお客から会社にそのアルバイトがバレて・・・クビ。その時本当に生活で足りない1〜2万がどうしても欲しかっただけだったのに・・・。」
「いきなりクビ・・・ですか?」
「うん・・・。アパートの隣に住んでいた娘に紹介された週1回、夜の1〜2時間だけのヘルプだったんだけど・・・まっ、事務所も信用落とせないからね。」
「ほかのアルバイトってなかったんですか?」
「そうだよね・・・でも、朝6時出勤で帰りがバラバラの時間で5時の時もあれば10時の時もある・・・しかも休日出勤も・・・。そうなればもう・・・そんな仕事しかなくって・・・」
「そんなに働いてそんなに給料が少ないって・・・」
「雇う方とすれば、その仕事自体が勉強・・・みたいな感覚だったのね。一応法律事務所だったし・・・」
「それじゃ・・・残業代はタダ働き・・・ってことですよね。それって法的に・・・」
「そうよね。法律家であるその会社がそれじゃダメよね・・・・本来・・・。」
「それじゃ・・・そんな会社に見切りつけて実家に帰ったりとかしなかったんですか?」
「でも、わたしってさ・・・大学進学を反対されてたのを振り切ってタンカ切って家出ちゃったんだよね。だから実家にも戻れない。それで今度は夜の商売が本業に・・・。」
「そんな過去があったんですね・・・大変なことばかりじゃないですか?」
「でもね・・・それでもいいことがあってね。そこに来たお客さんと恋仲になって、初めてオンナの幸せってものを教えてもらったの。」
「恋仲・・・ですか・・・」
「最初はたくさんのスタッフ引き連れて来店してたんだけど、そのうち一人で来るようになって、わたしを指名してくれるようになって高い酒ドンドン注文してくれて・・・。」
「高い酒って・・・ドンペリ・・・とか?」
「うん・・・そうね。それにフルーツ盛りとか・・・」
「なんかそれって高いんですよね?」
「うん・・そうよ・・。とてもあなたが働いているガソリンスタンドでのバイト代じゃ払えっこない金額・・・」
「そうですよね・・・」
「そんな彼って、私に気を遣って同伴とかもしてくれるようになってくれて私の給料も右肩上がり・・・。」
「そんなもんなんですか?」
「だって・・・お店の売り上げになるでしょ?」
「それじゃ・・・恋仲っていうより、都合のいいお客じゃないですか?」
「うん。確かに最初はそうだった・・・」
「それじゃ・・・」
「それまでオトコというものにとんと縁のなかったわたしが恋に落ちるのに時間は要らなかったわ・・・。」
「オトコに縁がなかったって・・・」
「そうよ・・・。学生の時は勉強頑張って・・・。卒業したら自分の生活頑張って・・・。」
「確かにそうですよね・・・。学生の時も就職してからも遊ぶ暇もなく・・」
「うん。と言うか、遊ぶ暇があったら六法全書読んでたほうが良いっていうか・・・」
「六法全書・・・?」
「だから・・・オトコなんて全くの初めて。そんなオンナがいきなり接客・・・だよ?世間知らずにも程があるって思わない?」
「それ・・・自分で言うんですね?」
「我ながら度胸があったっていうか・・・」
「でも、その人が初めてのオトコ・・・だったんですね・・・」
「うん。全くの・・・」
「でも・・・その人ってどんな人だったんですか?」
「その彼・・・40過ぎの人だったんだけど、初めて来たときにカメラがどうのとか、スタッフ配置が・・・なんて話してたから、その時街で撮影してるって噂のドラマのプロデューサーなんかかな?って思ってたんだよね。」
「そんな・・・感じだったんですね?」
「うん。全然気取ったところがなくって・・・そのうち一人ならウチに来ないか?って言ってくれて。その時わたし・・・何かにすがる思いでその彼のマンションに転がり込んだの。その夜が私のとってのオンナの始まり・・・」
「オンナの始まりって・・・その言い方ちょっと生々しい・・・」
「愛は盲目ってよく言ったものだよね。オトコなんて全く初めてだったからさ・・・もうその人しか見えなくなっちゃって・・・もう何もかも投げ捨てて・・・って感じかな?。」
「そうなら、いっそその人と一緒になればよかったんじゃないですか・・・?」
「でも・・・初めから知ってたの。その彼に奥さんがいたのを・・・。」
「えっ?初めから・・・ですか?」
「うん・・・。でも、その時何か支えが必要だったのね。それでちょっとだけ夫婦みたいな真似事して・・・俗に言う現地妻・・・ってヤツ。」
「それじゃ、その人のマンションで同棲みたいな生活だったんですか?」
「うん・・・自分のアパートは引き払ってなかったから半同棲って形だけど本当に幸せだった・・・新婚さんってこんな感じかな?なんてウキウキしちゃって・・・」
「新婚さん・・・って、どんな感じなんですか?」
「アレ?なんか事情聴取みたいなんだけど・・・」
「いや・・・ちょっと興味がありまして・・・」
「教えてあげようか?毎週2回の燃えるゴミの日に出す45リッターのゴミ袋の7〜8割がティッシュってところかな?」
「えっ・・・・そんなに?」
「うん・・・そうよ。しかも結構重量もあって・・・」
「えっ・・・そんな・・・」
「でも・・・そんな彼って初めから普通の人じゃないっては思ってたんだよね・・・。凄いやり手と言うか凄く頭が良くって、野心家でアッチも凄かった・・・。」
「やはり野心家だとアッチのほうも・・・?」
「もちろん。どちらも野心的・・・。しかも時間が思いっきり不規則なうえ、いくら疲れて帰って来てもコッチの身体が壊れちゃうくらい何度も何度も・・・なんだからね。」
「何度も・・・って、どれだけ野心家なんだか・・・」
「でも・・・その彼って、セックスというものが凄くうまかったの。」
「うまかった・・・って、つまりはテクニシャンってことですか?」
「まっ、それもあるけど・・・なんでそんな指遣いできるの?ってくらい上手くて・・・」
「そんなに・・・・ですか?」
「でも・・・セックスの本当のテクニックって指遣いだけじゃないの。」
「じゃ・・・舌・・・ですか?」
「それもあるけど・・・」
「じゃ、なんですか?」
「う〜ん・・・。言ってみれば、オンナの身体に眠っているメスという部分を呼び起こす何か・・・ってところかな?」
「メス・・・ってことは本能的な何か・・・っていうことですよね?」
「上手いこと言うわね。そう・・・それはオンナが誰しも持っているそんな部分。そしてその頃お店に出る回数を減らしてたんだけど、どういう訳かわたしを指名するお客さんが激増して・・・」
「どう言うことなんですか?」
「なんかお店の若い娘がわたしが凄く綺麗になったって言うの。しかもどこかエロっぽいとも・・・」
「それって、その彼がオンナという部分を引き出した・・・ってことですよね?」
「う・・・ん。そういうことになるのかな?」
「僕は以前からこのような議論を重ねてきた女性がいるんですか・・・その中で彼女が彼氏に染まって行くという過程で、何がその要因になっているのかがイマイチわからなくって・・・」
「色に染まる・・・って、いろんな解釈があるわね。」
「はい。その、色・・・というものはその彼氏のものだったり、そもそもその女性が持っているものだったり・・・それは永遠のテーマってことにしてるんですが・・・」
「その議論してる彼女って、あの背の高い方の彼女でしょ?」
「なんで分かるんですか?」
「だって・・・その背の高い方の彼女はあなたにゾッコン・・・っていう目じゃなかったし、左手薬指に指輪してたし・・だから冷静にそんなこと考えられるのかな?って思ってね。」
「そこまで見てたんですか?」
「そりゃ見るでしょ?今、そんな商売してるし・・・。でも、社会勉強に来たって言う年上の彼女の目は、あなたに完全に染まっちゃった目をしてた。」
「えっ?完全に・・・ですか?」
「何言ってんの!あなたがそうしたんでしょ!ちょっとは自覚しなさい!」
「そう・・・なんですね。」
「うん・・・。コレまでたくさんの色恋沙汰のトラブル解決して来たけど、その彼女・・・一番タチの悪い目をしてた。」
「そ・・・その、タチの悪い・・・・って、なんですか?」
「そうね・・・。有り体に言えば、その彼女がその男に一途・・・ってところかな?」
「一途・・・ってことは、周りが見えてないってことですですよね?」
「まっ・・・そう言うことね。でも、その彼女は結構・・・歳行ってそうだからその辺ある程度分別が付くというかコントロールがつくというか・・・」
「その彼女・・・今年で29って言ってました。」
「そうだよね・・・。でも、なんであんなに綺麗な様相してるのに結婚できなかったんだろうね?」
昭和から平成にかけてのこの時代、女性の結婚は20代前半、出産は30まで・・・・という時代でした。しかも25を過ぎても結婚しない女性を「生き遅れ・・・」、30過ぎの出産を「高齢出産・・・」なんて呼んでいた時代です。
生き方が多様化した平成から令和にかけての現代では、そんな「生き遅れ」なんて言葉自体が死語となっていますが・・・
その時私は、以前舞衣さんがボヤいていたことを思い出していました。
「なんか・・・男が近づいて来なかったって言ってました。」
「そうだよね・・・あそこまで綺麗だとハードル高そうだもんね・・・」
「でも、唯一付き合った彼氏がいたそうなんですが・・・やはりイザって言う時ビビって・・・ダメだったそうです。」
「それじゃ・・・あなたその彼女の初めてのオトコになっちゃったってこと?」
「はい・・・不本意ながらそう言うことになります。」
「いや〜・・・重いの貰っちゃったね・・・」
「ヤッパリ・・・そうですよね。29歳・・・ですもんね。」
「そこなんだよね・・・さっきタチが悪いって言ったのは・・・」
「ソコ・・・と言いますよ?」
「通常、そういう女の娘をその男から無理に引き離そうとすると、その女の娘が頑なになっちゃって逆効果になっちゃうことがあるの。」
「それじゃ、僕の場合も・・・ですか?」
「一般的に彼女がそのままの恋愛感情を持ったままだと縁が切れるのを恐れるって言うか・・・離れるのが怖いってなるみたいなのね。」
「縁・・・ですか・・・。」
「でもさ・・・その彼女とあなたって、それぞれの兄妹の結婚で義兄妹になる訳でしょ?だから縁が切れることはない・・・義兄妹という関係で一生関係が切れることはないから良いけど・・・」
「それはそうですけど・・・」
「わたしの場合、知恵って存在があるからいくら音信不通な彼であっても縁が切れてはいない・・・・と思ってるの。だから逢えなくても寂しくない。」
「そうですよね・・・お互いの遺伝子を半分づつ受け継いだ子どもですもんね。」
「でも・・・そんな一途な目をした女の娘を男から引き離して縁を切らなければならない場合もあるの。」
「そう言うこともありますよね・・・・ダメ男に捕まっちゃった女の娘がその男がダメ男だってことに気づいていない時とかですよね・・・」
「オトコのほうは遊びかもしれないけど・・・そのオトコに染まっちゃった不幸な女の娘を引き離すのは結構厄介なの。」
「そうですね・・・厄介です。でも、そういう時はそのオトコを締め上げて本当のこと吐かせればいいんじゃないんですか?」
「それって強硬手段だね。最終手段はソコなんだけど・・・それだと今の今まで信じ切っていた男に裏切られたことになるから、その後オトコをっていう生き物を憎んだり男性不信に陥ることも少なくないの。」
「それじゃ・・・その女の娘の見る方向を変えてあげれば・・・」
「さすがだね。ヤッパリ・・・スケコマシのいうことは違うね。」
「ちょっと待ってください!僕は健全な普通の男子ですし、色男でもなんでもありません。」
「うん。だからそんな拗らせごとが発生した時に登場してもらうのがあなたのようなオトコ・・・って訳。」
「ソレって・・・間男・・・ってことですか?ちなみに僕はそんなことやったことありませんが・・・」
「うん。その女の娘の向いてる方向を変えるって言うか・・・彼氏に染められちゃった色に上塗りしてもらうって言うか・・・。」
「すいません。僕の中で彼女が彼氏の色に染められた色は一生変わらないのか?っていう疑問が残っていて、ソレもまた結論が出ていないんです。」
「つまり・・・一度カレシに染められちゃった色を変えられるか・・・?ってところかしら・・・」
「はい・・・その通りです。」
「結論から言うわ・・・。無理ね。」
「無理・・・なんですか?」
「一度染められた色っていうものは一生消えない。だって・・・経験しちゃってんだもん。いろんなこと・・・。そんな簡単に記憶・・・・いや、身体に刻まれたそんな体験って消せるはずない・・・」
「やはりそうですか・・・そんな気がしてはいたんですが・・・」
「これって夜のお店で働いていた時女の娘が言ってたんだけどさ・・・今まで何人もの男を経験してるけど、やっぱり最初の男ってヤツは忘れられないって・・・その後の男は忘れちゃってるけど、その最初ってモノは忘れられることが出来ないって言ってたんだよね。」
「やはりそうですか・・・」
「その時はふ〜ん・・・的に聞いてたけど・・・その後自分に起きたことを考えるとそれにも納得出来た。」
「それってどういう・・・?」
「だってそうじゃない?学校の講義じゃないんだよ・・・・。その触覚・嗅覚・快楽・・それが感情の昂りで敏感になっているところに受けた刺激だよ。それの一番最初だよ?忘れられるはずないでしょ?」
「そうですよね・・・。いい色に染まっているのならともかく、その女の娘が好んでいない色に染まってしまった場合・・・ソレじゃその色ってものは一生そのままでいいんでしょうか?」
「そうだよね。その色は変えられないけど上塗りなら・・・・。さっき言ったでしょ?間男の話・・・」
「あっ・・・女の娘の向いてる方向を変えるって話・・・」
「だから・・・どうしても経験の浅い女の娘って前のオトコを基準にオトコってものを見てるから、ソレより素晴らしい経験すると前の基準が霞んできちゃうってこと。」
「だから・・・間男・・・なんですね。」
「理解が早いね・・・ドカちゃん。」
「ソレで・・・・どうなんですか?遠藤さん本人の場合で言うとどうなんですか?その彼氏さんって言うか・・・知恵ちゃんの実の父親・・・」
「実はそれには後日談があって・・・コッチ来てからしばらくして、知恵にオッパイあげながら夜9時台のドラマ見てたら出てたの・・・その彼・・・」
「えっ・・・9時台ってゴールデンじゃないですか?」
「うん・・そうなの。本当にびっくり・・・」
「えっ?もしかして・・・役者・・・さん?そう言う人が知恵ちゃんの・・・・父親?」
「ええ・・・そうよ。今じゃ誰でも知ってる役者だけど、その時はまだまだ下積みで脇役だった・・・。」
「でも・・・下積みでも、脇役でも・・・ゴールデンですよ?」
「うん・・・。それでそのドラマのエンドロールを食い入るように見てたら最後の方に、どこかで聞いたことのある名前が出てたの・・・」
「それじゃ・・・知恵ちゃんの父親って・・・役者さん・・・。」
「そうだよね・・・。でも、よくよく考えてみたらその時彼の部屋に台本みたいのが置いてあって・・・。わたしが寝静まってから別の部屋で台本覚えてたのね・・・。いつもわたしグロッキーだったからそれも確認できず・・・」
「その役者さん・・・どれだけ体力あるんだか・・・」
「役者って体力勝負なところがあって、その彼いつもカラダ鍛えてた。でも・・・わたしの前では撮影のこととか、テレビの事なんて一言も喋らなかった・・・それだけ徹底してたのね。」
「ゴロ付き雑誌の記者なんてのもいますからね・・・」
「ん?今のわたし達みたいな?」
「そうかもしれません。」
「それでさ・・・知恵ってその彼の面影を凄く受け継いでるの。そのうえ頭の回転もいいし、演技なんてさせると女優さんみたいなの。」
「あっ・・・ソレ、何となく分かります!」
「ん?何かあったの?」
「い・・・いや・・・だから、何となく・・・」
「ソレでさ・・・今すぐにでも子役の養成所入れたいくらいなんだから。もう、わたしの娘にしておくのがもったいないくらい・・・。」
「もったいないって・・・。そのお母さんも今じゃ弁護士・・・。それでその人は知恵ちゃんの存在知ってるんでしょうか?」
「知らないと思う・・・。だって、妊娠に気づいたのがその人が東京に戻ってからだもん。連絡先も聞いてないし・・・」
「それでいいんですか?父親ですよ?」
「その日、珍しく彼のほうからわたしのアパートに泊まりに来たの。そしていつものようにわたしがグロッキーになっちゃって・・・朝起きたらその彼はもういなくなってた。置き手紙と茶封筒に入った帯封で巻かれた万札を残して・・・」
「その人のマンションは?」
「合鍵も合わなくなってたし、もぬけの殻・・・」
「突然・・・ですか?」
「いいの・・・。初めからそうなるんじゃないかなって思ってたからね。その時もう既に覚悟が出来てたっていうか意外にも悲しくなかったの。」
「覚悟・・・ですか・・・。」
「どちらかといえば、それまで彼に抱かれて眠った翌朝、目覚めたら彼がいなくなってたらどうしようっていう恐怖と戦っていたから、もうその恐怖から解放される・・・って思ったのね。」
「恐怖からの解放・・・ですか?。」
「・・・でもいいの。その彼との同棲生活は凄く幸せだった。もう一生分の幸せを先取りしたみたいに。それに一生分の男運使い果たしたみたいに。一瞬・・・ほんの一瞬だったけど。そういう自分にケジメをつけるために自分自身の責任を取ったの。」
「責任・・・って・・・?」
「彼がいなくなったその日、急に気持ちが悪くなってトイレで吐いちゃったの・・・。ソレがつわりの始まり・・・」
「妊娠しちゃってたんですね・・・」
「でもその時決めたの。彼が唯一残してくれたこのお腹の赤ちゃんをきちんと産んできちんと育てる・・・そしてこのお腹の子が、将来本当の父親に逢った時に恥ずかしい思いをしないように・・・って。」
「ソレが自分に対する責任の取り方だったんですね・・・」
「ねえ知ってる?わたしとその彼って他人だけど、その間に生まれた子供ってわたしにとってもその彼にとっても・・・他人じゃないでしょ?」
「遺伝子を半分ずつ受け継いていますもんね・・・・」
「そう・・・だから今でもその彼と縁が切れた訳じゃない。」
「そうですよね・・・いくら結婚したとしても血の繋がりのない他人ですもんね・・・」
「うん。逆に血が繋がっていたら結婚が出来ない・・・。あまり知られてないけど、これで悩んでるカップルも居るのよ・・・」
「兄妹・・・で、ですか?」
「うん。どう足掻いでもダメなものはダメなんだよね・・・法的にも生物学的にも・・・」
生物学的・・・その言葉を聞いて私の鼓動が速くなるのを感じていました。それは私の歳の離れた妹であるのどかの存在・・・そのことはどうしようもないこととして考えないようにはしていましたが・・・
「でもさ・・・その彼って未だに子供がいないだよね・・・」
私が幸子さんも知らないであろう(もしかすると知ってるかも・・・)そんなことと葛藤をしている時、そんな言葉から話を再開させました。
「ソレじゃ・・・その人の子供って、知恵ちゃんただ一人?」
「まっ、他で同じことをしてない可能性も無くはないけど・・・そうじゃなければ知恵がその彼の遺伝子を引き継いだ唯一の子供ってことになる。」
「と、いうことは?」
「知恵が彼の夫婦に取られちゃうって可能性が生じるの。だから逆に知られない方がいいのかもって思うんだ・・・」
「なんか複雑ですね・・・」
「でも・・・本当に知恵って父親の面影をよく引き継いでるんだよね・・・ビックリするくらい。」
「それで・・・今日、もすごく難しい問題集に取り組んでましたよ。」
「うん・・・。あれって学習塾の先生に頼んでやってもらってるヤツで・・・今は中学3年生の問題集・・・かな?」
「えっ?・・・・・それじゃ、高校受験対策・・・みたいな問題集ですか?」
「恐らく・・・。知恵って頭いいでしょ?だからこ難しい問題でもやらせておかないと興味本位で変な勉強始めちゃうっていうか・・・」
「それで・・・・」
「何?ヤッパリ知恵に迫られちゃった?」
「いや・・・」
「そうなんでしょ?」
「はい・・・」
「それで・・・手・・・出させられちゃった?」
「いや・・・手は出していません。」
「アッチも?」
「アッチも・・・です。」
「良く思いとどまったね・・・。出してもらっても良かったんだけど・・・」
「えっ?」
「だって・・・あなたが高校生の時彼女にしてたあおいさんと知恵って同い歳でしょ?」
「はい。そう・・・ですが・・・」
「この前さ・・・知恵の部屋で男子中学生向けのエロ本見つけたんだよね。」
「女の娘でもそんな雑誌読むんですか?それって小さめの・・・」
「うん。それって童貞たちの妄想を駆り立てるようなモノばかり掲載されてて・・・初体験だったり近親相姦だったり・・・読んでて気分が悪くなるようなものまで・・・」
「なんか分かるような気がします。」
「どこで手に入れたのか分かんないけど、ソレって18歳未満に販売出来るシロモノなんだよね・・・。」
そうです。その雑誌は書店の若者向け雑誌に紛れて陳列されていました。それはセブンティーンとかポップティーンとかの雑誌の傍・・・
「そうですよね・・・表面上はモザイクかけるようなヌード写真とかじゃなくって少年雑誌とかの巻頭を飾るようなグラビア的な写真ばかりなんですけど・・・その投稿欄的なコーナーに掲載されている記事は結構衝撃的って言うか・・・」
「ドカちゃんも読んだことあるわよね。」
「もちろん。中学生の時の愛読書でしたから・・・」
「でもソレって何年も前の話でしょ?」
「そうですが・・・」
「ソレから中身が変わってきたみたいで・・・その投稿らしき怪しい記事がメインになってきて・・・」
定期刊行雑誌とはそのようなモノだと聞かされていました。それは中学生の時彼女だった理央が現在受けている女性向けカー雑誌の取材。
その雑誌の発行部数が頭打ちとなった時たまたま小さく取り上げた理央の記事が人気となって、今ではその雑誌の巻頭部は全て理央のクルマ改造日記的な記事になっていました。
しかもその売り上げ部数の伸びが鈍化して来た途端、今度は新たな企画として過去に理央が組んだエンジンを搭載している私のハチロクのパワーチェックを実施したりして読者の目を引く努力をしています。
要は次から次へと新たな刺激を発信しないと読者が付いて来ないと判断してのことかと思いますが・・・。
そんなことなど永遠に続くはずがないと誰しも察しが付くところかと思います。恐らくそういう雑誌・・・改造ブームに翳りが見えた瞬間世の中から瞬殺されそうな・・・。
今ほど幸子さんが言ったその雑誌もそんな状況に陥っているものと思われます。次々と新たな刺激を掲載しなければならない自転車操業的なその雑誌・・・だから成人向けではないにも関わらずそんなヤラセっぽい記事まで掲載しているものかと思っています。
そんなことを考えつつ私は話を続けました。
「そうなんですか?どう考えても大人が中学生の興味を引くために書いているとしか思えないあの・・・?」
「そう・・・だからびっくり。そんなのが普通の世界だって思われちゃたまんないよね?」
「ソレがどんなモノか分かりませんが、興味本位でそれを実行してしまったら・・・と考えるとちょっと怖いです。」
「だからさ・・・知恵にそんな雑誌読む暇があるんだったらと思って難しめの問題集とかやらせ始めたら、あれよあれよというまに解いじゃうんだもん・・・面食らったわ。」
「そりゃ・・・面食らいますよね・・・」
「だったらと思って・・・今度は塾で難しい問題出してくれるように頼んで・・・」
ここで私は言葉を失いました。考えてみれば知恵ちゃんのやっていた問題集は、一般的に関数電卓のお世話になるレベルのもの・・・。
もはやソレって天才レベル・・・。
父親がゴールデンで放映されるようなドラマの役者で母親が弁護士・・・やはり、それぞれの遺伝子を半分づつ受け継ぐとそうなるのか・・・?
そんなことにショックを受けている私は、知恵ちゃんの母親であるこの幸子さんのやり方に感心する一方、そんな難しい問題を解くこととなった理由がそんな事だって知ったら知恵ちゃんが激怒するだろうなんても思っていました。
でも・・・そんな難しい問題を解きながらも、知恵ちゃんのそっちの興味は失われていないことをこの人は理解してるんでしょうか?
そう思いながら私はハンドルを握る幸子さんをチラッと見ました。
やはり母親です。その雰囲気が知恵ちゃんに良く似てます。私はその知恵ちゃんが似ているという父親の役者さんを知らないのでそう見えたのかもしれませんが・・・
そしてしばらく会話のないまま私の下宿に向いて走っているセルシオが郊外に差し掛かった時です。
「あなたって奨学金借りてないでしょ?」
「はい・・・」
「それって幸せなのよ・・・。家が裕福で。」
「家まで調べたんですか?」
もはや私は周りの誰も信用できなくなっていました。
「それはちょっとだけ・・・。その人を調べるのにはその人の生い立ちも重要でしょ?」
「そんなこと言って・・・。本当はどこまで・・・」
「うん・・・いいね。そうでなくっちゃ。」
「・・・と、言いますと?」
「あなたは人を信用しすぎなの。だから・・・仕事を引き受けてもらうために人を疑うことも覚えなきゃ・・・」
「それって・・・その身辺調査に関係あることですか?」
「調査している自分もどこかの誰かに調査されてるんじゃないかって思わないと墓穴掘ることにも繋がるからね・・・。それと・・・」
「まだなんかあるんですか?」
「ん・・・?わたしみたいになっちゃうってこと。」
「ソレって・・・?」
そう尋ねたことに対しての答えはありませんでした。代わりに帰って来たのが全く関係のない話で・・・
「あなたってカメラ・・・扱える?」
この時の幸子さんの声のトーンが今までとは違って聞こえました。
「はい・・・少しは・・・。」
「じゃ・・後ろにあるカメラ取ってみて・・・」
そう言われた私は後部座席に無造作に置かれたカメラを手に取りました。
「重っ・・・」
ソレはNikonと書かれた黒い一眼レフ・・・。しかも見るからに怪しいレンズの付いた・・・。
「ソレ・・・あげる。」
「えっ?くれる・・・ってことですか?」
「もちろん。それってわたしが前に使ってたヤツ・・・」
「でも・・・」
「もちろんタダじゃないわよ・・・。コレから手伝ってもらうことの代金・・・」
「手伝うって・・・今日言われた身辺調査のことですか?」
「それもあるけど・・・これはどちらかといえばわたしの個人的案件。だから事務所として給料は出せないってこと。」
「いいですよ・・・僕にできることがあれば・・・」
「じゃ、早速そのカメラの練習だと思って撮って欲しいものがあるの・・・。これから調査で色んなモノ・・・撮るでしょ?人の表情とか・・・その肌の高揚具合とか・・・後で証拠になるような臨場感のある写真って重要よ・・・。」
「あの・・・スッパ抜きの雑誌みたいなモノ・・・ですか?」
「うん。あれはそれの冴えたるモノだけど・・・実際にはもっと地味な作業。そんな大きいカメラで撮れるものってほとんどない感じなんだけど・・・張り込んで粘ってやっと撮れるかどうか・・・」
「そうですよね・・・。張り込んだとしても、その人の行動パターンとか分からないと中々・・・」
「素質あるわね・・・ドカちゃん。」
「ソレ・・・やめてください・・・」
幸子さんがそう言った時、ちょうど差し掛かった遠藤事務所の管理物件である施設にそのセルシオを乗り入れました。
「えっ・・・・ちょっと待ってください。こっ・・・・心の準備が・・・」
そこはハリボテの白いお城を模った例のモーテルでした。このモーテルはあの会長の建設会社が所有していて、遠藤事務所が管理を任されているという物件になっています。
その外見はコテージ風の戸建てになっていて、それぞれがビルトインガレージとなっていました。
私は過去に母さんとここに泊まって以降、いつの間にか私このモーテルの常連客になっていましたが・・・最近では舞衣さんと利用したばかりで、その中でも3号室と言うのがお気に入りの場所・・・。
私がそんなことを思っているとその幸子さんが運転するセルシオがその3号室の前で停車しました。そこは見慣れたはずの風景のはずなんですが・・・妙な胸騒ぎが私を襲います。
すると3号室から出てきた緑のエプロンを着けた清掃員と見られる中年女性が運転席のその幸子さんに一礼すると、駐車スペースに掲げてあった準備中のバリケードをどかしそのまま管理棟へ消えていきました。
そしてその直後そのセルシオはその駐車スペースに・・・当然私は助手席で固まったままです。
「ほら・・・行くよ。度胸決めな・・・」
そう言われながら私は手を引っ張られその3号室のドアを潜りました。
するとドアから入ったところで、なぜか幸子さんが振り返って急に立ち止まりました。しかし、先を急ごうとしていた私はその幸子さんにタックルするようにして押し倒す事態に・・・
この時私は仰向けに倒れる幸子さんに覆い被さる格好になっていました。
「さすがね・・・モーテルに入った途端にこれなんだもん・・・」
「いや・・・それは急に止まるから・・」
「あっ・・・ごめんね。コレ・・・見せたくて・・・」
そう言いながら幸子さんは仰向けになったままの格好で私の真後ろの玄関上の天井を指差しています。
「天井がどうかしましたか?」
「アレ・・・見えない?」
私が立ち上がって目を凝らすと天井にある換気口と思われるプラスチックの部品に直径1cmぐらいの黒い部品が付いていました。
「何です?・・・アレ?」
「ごめんね。アレ・・・カメラ・・・なの。防犯カメラ・・・。」
「えっ?」
「それじゃ・・・室内にも?」
「さすがに室内にはないんだけど・・・前に料金支払いでトラブルになったことがあって・・・それで料金を支払う玄関だけに設置したの。」
「もしかして踏み倒し・・・ですか?」
「そうなの。ここって、緊急時以外料金払わないと中からドアが開かない仕組みになってて・・・料金徴収の時外から開けるんだけど・・・料金徴収で揉めちゃっうことが続いた時があって・・・。」
「じゃ・・・映るのは料金支払いのところだけってことですね?」
「入退室の時だけ・・・。外から開けた時から約5分間だけ録画する仕組みになってて・・・」
「そうですよね・・・防犯のためですもんね。」
「そうよ・・・。その入退室の時間はそれで証明できるし・・・それに録音もしてるの。」
「録音・・・ですか?それじゃ、お客が利用している間中・・・」
「そんな音・・・録音してどうすんのよ?でも・・・本当はドア開けた後の5分間だけの録画設定だったんだけど・・・。」
「もしかして・・・」
「そうなの。利用目的として入室した時間と料金支払いの時間を映像に残して清算時の揉め事をなくす目的だったんだけど設定次第ではその間ずっと録画できることが分かって・・・。」
「それじゃ・・・」
「今・・ドカちゃんが疑ったような使い方も出来るってこと。」
「それってどんな時・・・・?」
「それじゃコレ・・・」
その時幸子さんは立ち上がってスカートの裾を直しながら私に手渡したのは軍手みたいな薄手の手袋と先程のカメラでした。
「えっ?・・・・・あの娘・・・・こんな・・・・」
玄関から少し進んだところのベッドルームの入り口で立ち止まった幸子さんが何か落胆したかのようにそう呟きました。
私がいつも利用しているその3号室のベッドのある部屋に手を引かれていった先に見たその光景は
・・・・目を疑いたくなるような惨状・・・・
ベッドの上にあるはずの布団類はゴチャゴチャにして隅に追いやられ、もはや枕なのか分からない無惨な形の枕しか残されていません、またシーツもあちこちシワが寄っていてあちこちに液体の滴った跡がありました。
それはパリパリに乾いたモノから白い澱粉質のものがはっきりと分かる半渇きのモノ、また少しベージュ色したものまで・・・
すると幸子さんは大きく深呼吸したかと思うと、持ってたバッグから番号のついたプラスチックのプレートを出していろんなところに置き始めました。
「ちょっと待ってて。コレ・・・後で活躍することになる重要な物証だから。」
「あ・・・あの・・・コレ・・・って?」
「ん?コレからすることは現場検証ってヤツ・・・聞いたことあるでしょ?」
「はい・・・。交通事故とかの後、現場を細かく調査するヤツですよね?」
「うん。それって現場と調書の整合性や合理性を確認するものだけど・・・コレって今やんなきゃ現場がなくなっちゃうでしょ?だから今やんなくちゃならないの。」
「そうですよね・・・現場を保存しておく訳にもいかないでしょうし・・・」
「それでこの状況・・・何に見える?何がどうなればこうなるか分かる?・・・ドカちゃん」
「はい・・・とても普通の使い方じゃない・・・言ってみれば・・・・」
私はこんな惨状を2回ほど目にしたことがありました。
ソレは・・・私の姉さんである麻美子姉さんのレイプ現場である姉さんの部屋・・・
その時急に心臓の鼓動が速く・・・激しくなって息が苦しくなって来たのが自分でも分かりました。
そして、カメラを首にぶら下げたまま呆然と立ちすくむ私を見た幸子さんが私のところまでまっすぐに歩いて来て私をそっと抱きしめました。
その幸子さんからはなんて言っていいのか分からない香水の香りが漂います。
「ゴメンね・・・。コレってあなたが一番見たくない光景よね・・・」
そう言いながら抱きしめたその手で背中を摩ります。
「知ってるんですね?姉さんのこと・・・」
「ゴメンね。ソレ・・・調査資料に全部記載されてて・・・。辛かったよね。本当だったらこんなの見たくなかったよね。」
「いや・・・僕のことなんてどうでも良いんです。本当に辛かったのは姉さんですから・・・」
「本当に辛かったよね・・・お姉さんも・・・そんな現場に出会したあなたも・・・。でも、あなたの世界の外でもこんなことが起きている・・・そういう事から目を逸らしてほしくないの。」
諭されるようにそう言う幸子さんの声にものすごく癒されました。そしていつの間にか息が苦しいのも収まっています。
すると幸子さんは私から一旦離れてその室内を見渡し私に告げました。
「じゃ・・・早速現場検証するよ。こういう状況見たことのあるあなたから見て、この状況ってどう説明する?」
「はい・・・コレってどう見てもレイプ・・・に近いものがあると思います。」
すると幸子さんはゴミ箱からくしゃくしゃになったティッシュを取り出し、さらにシーツを指差します。
「じゃ・・・コレとコレは?」
私が目を凝らすと、そこには赤い液体が滲んでいるのが分かりました。
「コレって・・・無理矢理挿入して・・・のモノ・・・ですかね・・・」
「そうね・・・どう見ても同意のうえ・・・って感じじゃないよね。」
そう言いながら今度はドレッサーにあったヘアブラシを手に取りソレを私に見えるように差し出します。
「見える?この髪って染めてないよね・・・ソレにその髪の艶・・・コレって若いってことだよね。ということは、遊んでる風の女の娘じゃない・・・と判断するのが妥当・・・」
さらにその脇に置いてあるコンドームを指差して私に尋ねます。
「何個あるか数えてみて・・・」
「はい・・・3個・・・あります。」
「ここにいつも何個置いてるか・・・あなたなら知ってるよね?」
「はい・・・3個・・・です。」
「ということはどういうこと?」
「避妊をしてないってことかと思います。もしくは持参か外出し・・・」
「じゃさ・・・そのコンドームの脇にいつも何置いてあるか覚えてる?」
「ん?・・・そういえば・・・生理用ナプキン・・・」
「ソレ・・・ある?」
「ありません。」
「じゃ・・・決まりね。」
「えっ?何が決まりなんですか?」
「あなた・・・知らなかったの?常連さんなのに?」
「そのナプキンって・・・処女喪失の時のためじゃ・・・」
「まっ・・・ソレもあるけど・・・中にはヤッてる最中に生理になっちゃう娘もいるけどさ・・・。あっ、あなた女系の家系で育ってるよね?」
「はい・・・」
「それじゃさ・・・あなたに見てきた女性たちは自分の生理の管理くらいしてたでしょ?」
「はい・・・してました。手帳とかに付けて・・・」
「それで生理が来そうな時はナプキン持ち歩いていたでしょ?」
「はい。買いに行かされたこともいっぱいありました。」
「それじゃ、ここに置いてあるナプキンの意味は?」
「あっ・・・中出しされた精子が逆流して出ちゃう・・・から?」
「うん。やっと分かったようね・・・」
この時私は物凄く後悔していました。最近もそうですが、以前下宿の娘で元カノであるふたばとここに来た帰り、私の逆流したモノでお尻を濡らしたふたばが私の愛車であるハチロクの助手席の座面を濡らしてパリパリにしてしまった事・・・
しかも最近では吹奏楽部のこ顧問である舞衣さんが同じようになっていました。本当に後悔です。
「あら、そういえば・・・この前あなたがここに連れてきたあの長身の彼女(ふたばのこと)・・・大丈夫だった?」
この時幸子さんはふたばのことを長身の彼女と表現しましたが、それもそのはずその身長は186センチを誇ります。それは、私の目線を同じ高さに胸があると言うことになります。
私は以前そんなふたばとこの部屋を利用したときに思い切りふたばの体内奥深くに出し尽くしていました。それは、生理不順の治療に加え、教育実習と生理が被らないようにとピルを飲んでいると言うことを聞いていてのことでした。
「はい・・・大変だったと思います。どうしてこのナプキンの用途に気づかなかったんでしょうか?」
「その後・・・ちょっと年上の別な彼女(舞衣さんのこと)とも社会勉強と称して来てたでしょ?鏡張の部屋に・・・その時もあなた・・・コンドーム使わなかった。」
「えっ?・・・確認したんですか?」
そう言われた私は急に不安になっていました。ふたばはピルを飲んでいるとのことでしたが、舞衣さんとの時は全く避妊していません。
しかも生理が終わったのが2週間前だったというハイリスクな時期・・・でも、舞衣さんは気にするな的なことを言っていましたが・・・
終わってしまったことですので気にしないこととしてはいましたが・・・やはり気にはなります。
そんな時に出たコンドームを使わなかった件・・・
心の中で動揺している私をさておいて幸子さんの話が続きます。
「だって・・・国道の道路拡張で引っ掛かっちゃうでしょ?だからこの先どうするか利用実態調査してて・・・」
「あっ・・・そうですよね。前に聞き取りもされていましたし・・・」
舞衣さんとの前にふたばと訪れた時には料金割引に釣られ聞き取り調査にも応じていました。それは一組の大学生カップルの利用実体としての調査・・・
「そうよ・・・その時は道路拡張に伴う物件調査でその係員があちこちで建物の寸法測ってたりしてるし・・・吉川さんは管理棟でその人たちから聞き取りされてるし・・・わたしが代わりに色々やるハメになって・・・」
「そうなんですね・・・それであの時料金を取りに来たのがその吉川さんってひとじゃなくって・・・」
「でもさ・・・今、このゴミ箱のモノたちもあなた達がそうだったように精液混じりのモノを拭き取ったモノ・・・。とてもお腹とか背中に着いたモノを拭ったものじゃなかった。やはり触接局部を吹いたモノ・・・まあ、こっちのは精液と血液が混じっていたモノもあるけど・・・」
「ってことはやっぱり・・・レイプ?」
「そう見るのが妥当ね。とてもこの血液は生理とか初体験のものじゃない・・・。まっ・・・生理の時とか初体験でコレほどのことすればこんなもんじゃ済まない・・・寝具全取り替えなくらい・・・」
「そうですよね・・・初体験の時って、人それぞれですけど結構出血しちゃう娘・・・いますからね・・」
「あら・・・あなたって・・・そんなに・・・女の娘の初めて・・・もらっちゃってるの?」
「いや・・・その・・・姉さんが襲われた現場の・・・話です・・・。」
私が高校生の時遭遇した姉さんが襲われた現場はそんな感じでした。男性経験のない姉さんがいきなり襲われたんですからそれも無理がないと言うか・・・
その部屋は、その後姉さんが自分の部屋でありながら立ち入りを拒んだくらい凄惨なモノ・・・。それからしばらく私の部屋で姉さんと同じベッドて寝ていたのを思い出しました。
私がそんなことを考えていると、枕に擦れたようにして付着している血痕を見付けた幸子さんがソレを指差しています。
「これ(血痕のこと)がどうやれば枕に着くのか説明して・・・」
「う・・・ん。どうして血痕が・・・枕に・・・?」
その時私は思い出していました。
姉さんがレイプされていた時、私が見たその状況は姉さんが枕に顔を押し付けられるようにして後ろから突かれていた・・・そんな状況。
「あっ・・・分かりました。顔を押し当てた・・・?でもなんで血痕・・・?」
「恐らく殴られたか何かで、口・・・切っちゃったんだね。ソレで・・・」
「ソレで・・・って、その格好で後ろから・・・ってことですか?」
「うん・・・コレ見て」
そう言う幸子さんの指差す方を見るとお尻を突き出して膝をついたと思われる場所に、明らかに精液が滴った痕跡がシーツに残されています。
「・・・中に出されたってことだよね。」
幸子さんはため息混じりにそう言うと、小さな手帳に何かをメモしながら私に撮影するものを指示し始めました。
そんな私は幸子さんが置いた数字のプレートとその「証拠たるもの」を写真に納めて行きます。
私はその時そのカメラの使い方を教えてもらいながら撮影しましたが、どうも腕がだるく重いカメラでの撮影がかなりの重労働に・・・
そうです。私は吹奏楽部の部活で生まれて初めて「指揮」というものに取り組んだ結果その腕が既にパンパン・・・。
「もう・・・だらしないね。」
そう言いながら更にバッグから取り出したのは使い捨てカメラの「うつるんです」でした・・・。
「コレって尾行調査なんかに重宝するのよね。一眼レフはズームとかで綺麗に撮影できるけど機動性に欠けるっていうか・・・そのシャッター音が大きくって・・・」
「あ・・・ソレってシャッター音が・・・カチ・・・だけですもんね。」
「あと・・・フィルム使い切ってもどこでも買えるし・・・」
この時代小型のデジタルカメラというものは存在せず、ましてや携帯電話なんて言葉すらない時代です。小さいカメラをポケットカメラなんて呼んでいて、更にそのカメラに無意味なラジオなんかを付けて付加価値を付けていた・・・そんな時代でした。
そしてその室内を粗方撮影し終えると今度はバスルームへ・・・
私は幸子さんに続き足にビニール袋を履いてその浴室に入ったそこは、今さっき使ったばかりのように一面水滴で濡れていました。ちなみにその履いたビニールは、入浴時女性が髪を濡らさないように頭に被せるアレ・・・です。
そんな中幸子さんが排水口のカバーを開けて目を凝らしています。
「う・・・ん。コレって陰毛・・・だよね。柔らかそうだから女性の・・・」
「そ・・・剃れられた・・・ってことですか?」
「そこのゴミ箱見て・・・」
私はいつも置いてあるゴミ箱中を覗きました。ありました・・・使い終わったそのT字カミソリが・・・。
すると幸子さんが更にシェービングの入った缶を振っています。
「う・・・ん。こんなにいっぱい使っちゃって・・・全く・・・。」
と・・・いうことは、ここに連れ込まれた女性がレイプまがいのことをされたうえ、陰毛を剃られてしまったということに・・・。
「カチッ・・・ギッギッギッ・・・」というその使い捨てカメラで撮影するシャッター音とフィルムを巻き上げる音がバスルームに響きます。」
そして幸子さんがその排水口に詰まっていた毛髪とT字カミソリをビニール袋に入れて再びベッドルームに戻り、今度はゴミ箱から使用済みティッシュを摘み上げコレもまたビニール袋に入れていました。
そして幸子さんが内線電話で先程の清掃員を呼び戻し室内を清掃するように指示すると、その後私たちはクルマごと管理棟に移動しその裏口からその管理棟に入っていました。
私が生まれて初めて目にしたその建物の内部には、このモーテル入り口に設置してあるカメラのモニターと利用状況を表すランプ類がずらりと並んでいます。
そして、その隣に積み重なるように設置されステレオコンポ(現代では死語となっていますが・・)みたいな録画装置・・・
そして、その最後に今までモニターを監視していて、裏口から入ろうとしている幸子さんに気づき頭を下げるいつもの爺さんも・・・。
そこでその幸子さんに挨拶をする爺さんに幸子さんが私を紹介しました。
「吉川さん・・・こちら新人調査員の風谷君。大学生よ・・・」
先ほどもききましたが、いつも私がここを利用する時料金を徴収しに来るこの爺さんは吉川さんと言う名前だったようです。
「あっ・・・時々利用していただいてる・・・」
そう言いながらその吉川という爺さんが私を指差していました。
「はい・・・いつもお世話になってます。」
「いや驚いた・・・今日は・・・遠藤さんと一緒なもんで・・。いつも来る度違う女性と利用してるからどんな人かと思えば・・・」
「ねえ・・ドカちゃん。いつもご利用ありがとうございます。」
「いえ・・・それほどでも・・・」
と・・・その時です。
「ピン・・・ポン・・・・」
とアラームが鳴ったと思ったら先ほど見たモニターに一台のクルマが入って来るのが見えました。
「あっ・・・このクルマ・・・常連さん。」
そういう吉川さんの声に釣られるようにして見たモニターに映し出されるそのクルマの運転手はワイシャツに黒いネクタイをしていて、その助手席には白いブラウスを着た若い女性が乗っていました。
しかもこのクルマはドアに何かのロゴが表記されている白いライトバン・・
「このクルマって・・・・」
私がそこまで言いかけた時、同じモニターをそば見ていた幸子さんがポツリ・・・
「あれ・・・?隣町の住宅メーカーの営業車・・・」
すると、そのモニターの隣にある4と明示されたランプが点灯しました。
「ねえ・・・ドカちゃんコレ・・・」
そう言われた私が別のモニターに目を凝らすと、今ほど営業車を乗り付けた4号室の玄関内部が映し出されています。
それは4号室の玄関ドアを閉じた瞬間、すでにそこで初めてしまっている・・・・そんなオスとメスの姿。
そしてそのモニターの下に表示されている入室時間・・・
すると幸子さんは何かのボタンを押しました。すると流れて来たその場所の音声・・・
「・・・・係長・・・今日は契約取れたからって・・・もう・・・激しいんだから・・・」
「うん・・・そうだよ・・・契約の重要事項読み上げているときのノリコの脚・・・見てたら我慢できなくなって・・・」
そう言いながら既にその彼女のブラウスのボタンに手をかけています。
「もう・・係長ったら・・・今日はあぶない日ですからね!注意してくださいよ。」
「うん・・・今日はきちんと避妊するから・・・」
ん?今日は・・・?ということはいつもは中出し?
私がそんなことを考えてるとそんな会話が終わりを告げその女性の声が聞こえてきました。
「それじゃ・・・汗かいちゃったから先にシャワー浴びちゃっていいですか?それに今日は記念日ですから、係長がしたいっていうパイパンになってあげても良いですよ。」
「じゃ・・・早速・・・・」
そう話ながら二人はその画面から消えていきました。
「見た?」
幸子さんはそんなモニターに釘付けとなっている私にそう声を掛けました。
「はい・・・でも、あれって・・・」
「うん・・・大方上司と新入社員ってところね。」
「それって・・・不倫・・・ですよね。」
「うん・・恐らく。でも、その係長が独身とかバツイチってこともあるから一概にはいえないけど・・・でも仕事中にコレってとても褒められたものじゃないね。」
「でも・・・契約取れたんだし大目に見てあげましょうよ・・・」
「あれ?ドカちゃん・・・寛大だね・・・」
「何かを達成した後って気分が高揚するじゃないですか?その気持ち分かるような気がするんです・・・。でも、その係長ってひとが独身だってことが前提ですけど・・・」
「でもさ・・・今時のモーテルは不倫のオアシス・・・。まっ・・・そんな不倫でもして貰わなくっちゃこんなモーテル・・・とっくに潰れちゃってるけどね。」
「なんか・・・複雑です・・・」
そんな話をしていると、傍で何かモニターの切り替えをしていた吉川さんがモニター脇に置いてあったというか、幸子さんに渡すために既に準備してあったテープを手に取り幸子さんに手渡しました。
「ありがとう。手間取らせちゃって・・・」
そしてその後再びクルマが入って来た事を知らせるアラームが鳴り、更にはチェックアウトを告げる電話にその吉川さんが対応し始めていました。
「結構繁盛してるじゃないですか?」
「時間も時間だし・・・コレからの時間帯は時間との勝負・・・。あとコレからハウス(清掃とベッドメーキング)さんのパートがもう一人来て・・・」
その時聞いたのは、普段は住み込みでこの施設を管理している吉川夫妻と、日中それを手伝う長男の嫁が主力メンバーとして働いていて、更に夕方から翌朝まではパートとして雇っている訳ありの女性2人で回しているとのことでした。
しかもその吉川さんのお孫さんが私が教育実習を受けている付属校で吹奏楽部に所属しているという偶然が重なります。
そしてその長男の嫁というのは、その娘の授業料のためにパートという形で勤めているとのことでした。それもそのはず・・・その付属校の授業料は結構高額・・・
そんなことを幸子さんに聞かされながらその管理棟の別棟にある倉庫みたいな部屋に連れていまれました。
その部屋はリネン(寝具など)類が所狭しと積んであって、そしてその部屋の一番奥の棚に重ねられている透明な蓋つき衣装ケース・・・更にはその部屋の隅に置いてあるビデオデッキとモニターが・・・。
いつも利用しているこのモーテルの裏側がこんなふうになっているとは・・・
私がそんなことを思っていると、幸子さんがそのモニターの前で振り返り私を見つめながら口を開きました。
「あなたに見てもらいたいものがあるの・・・」
「その前に、コレって・・・なんですか?」
そこで、私はまず最初に誰もが疑問に思うそのこのたくさんのケースの正体を尋ねました。
「うん・・コレってさっきの映像を録画したヤツ。出入り口監視のモノと併せて全部屋分を全て半年分保管してある。」
「そんなに・・・ですか?」
「うん。一応ね・・・時々警察も観に来ることもあって・・・」
「あっ・・・未成年の案件とかですね?」
「それだけじゃないけどね。」
よく見るとそのケースには1月・・・2月・・・と月数が分かるように紙が貼られていて、それが昨年12月からのものであることが分かりました。
今は6月・・・ということは、来月になればあの12月のものは廃棄なのか?
そんなことを考えていた私を見ながら、その幸子さんが先ほど吉川さんから手渡されたテープをデッキに差し込んでいます。
「さっき吉川さんにもらったコレ・・・なんだけど、今さっきわたしとあなたで調査した・・・その現場・・・。」
「もしかして・・・録画仕立てのモノですか?」
「うん・・・録画したばかりのホヤホヤのヤツ。コレを見ればさっき調査したあの3号室で何が行われていたかが分かる・・・でも、玄関の映像と音声だけなんだけどね。」
「えっ?・・・ソレじゃ・・・音声がずっと録音されている状態?」
「うん。うまく録音されてるのか分からないけど・・・。」
「ソレやるの初めてなんですか?」
「そうなんだよね。それまでは録画が指定時間で停止する仕組みは変えられないって思ってたから・・・」
「でも、そうじゃなかった・・・」
「それで、前にこのクルマが入ったら録画の自動停止を解除して録画した状態にしておいてって吉川さんに頼んでおいたんだけど・・・今日そのクルマが入ったっていう連絡受けてね。」
「それじゃ・・・前から目星つけてたってことですか?それって誰・・・」
その問い掛けに答えないまま幸子さんがそこに置いてある再生用デッキの再生ボタンを押しました。
するとそのデッキからモーター音が聞こえ、そしてそのテープが再生されモニターには録画された画像が・・・
最初乱れていた画像が徐々に鮮明なものに変わって来たその場面は先ほど見た不倫カップルのものと同じ玄関のアングル・・・
そしてそこに現れたのはオトコが半ば強引に若い女性の手を引っ張って入室した状況からでした。
ソレは一瞬で、その後ろ姿もきちんと見えない状況でしたが、その音声だけははっきりと聞こえます。
「ねえちょっと・・・ユウヤ・・・今日はそんな気分じゃないの・・・」
「オマエ・・・ここまで来てまだそんなこと言ってのかよ!どうせ、さっき言ってた先生のこと好きになったんだろ・・・」
「違うよ・・・なんでそんなこと言うの?」
「オマエの部活って先生も含めてオンナだけだって言ってただろ・・・なんでオトコが混じってんだよ・・・」
ん?部活?・・・それじゃこの彼女は高校生?しかも、この声どこかで聞いたことのあるような?
「だって・・・教育実習で吹奏楽部担当って言うから・・・」
ん?・・・教育実習?・・・吹奏楽部?悪い予感が・・・
「ソレでお前・・・」
「キャッ・・・・ちょっとやめてよ・・・」
「いいからケツ出せ・・・」
「いやだって・・・」
「いいから・・・」
「ちょっとまだそんな気分じゃないし・・・ちょっと待って・・・そんなことしたらパンツのゴム伸びちゃう・・・」
この時想像できたのはそのオトコがその彼女をベッドにうつ伏せにしてパンツを強引に引き下げているような状況・・・
「あっ・・・痛っ!・・・ちょっと・・・痛いよ・・まだ濡れてない・・」
そして、そんな悲痛な声と被るように聞こえてきたのが腰を打ち付けるパンパンパン・・・と言う例の音。
「その玄関の床しか写ってないそのモニターを見ながら幸子さんがポツリと言いました。」
「コレって・・・どう考えても同意の上じゃないよね・・・?」
その通りです。この男女が入室してからまだ時間がそんなに経っていません。それはどう考えてもなんの準備も前戯もない・・・オトコの一方的な行為。そんな状況を想像しながら私が答えます。
「はい・・・そうだと思います。姉さんが恋人同士でもレイプってものはあり得るって言ってました。」
そしてそんな会話をしているうちに、そのモニターのスピーカーからオトコの唸るような声が聞こえてきました。
「うっ・・・出る・・・」
「えっ?・・・ちょっと・・・スカートに掛けないで・・・」
ん?スカート?・・・ということはやはり後ろ向きにしてスカートを捲った状態で・・・なのか?
「じゃ・・・このまま逝くぞ・・・」
そんな会話が進む中、そのパンパン・・というテンポがだんだん速くなって行きます。
「えっ・・・やだ・・・」
「う・・うう・・・うっ・・・うっ・・・・はあ・・・」
「えっ・・・中に・・・出しちゃったの?1回目の精子・・・・」
ソレって知恵ちゃんから聞いた話ですが、その1回目の精子さえ中に出さなければ妊娠しないというモノは従姉妹のみづき姉さんがカレシから教えられたという避妊法と同じです。
もちろんそんなのは避妊でもなんでもありません。でも、その一回目を外に出せば2回目からは中に出しても妊娠しない・・・なんて、オトコにとって都合の良い情報をこのカレシもこの娘に教え込んでいるようでした。
それは、性に関する正しい情報が分からないままオトコの言う都合のいい情報を鵜呑みにしてしまっているという悲しい現実です。それだけこの娘が疑いを持たずこのオトコを信じ切ってしまっている素直な性格ともいえますが・・・
にも関わらずこのカレシ・・・逆ギレ・・・してます。
「お前がごちゃごちゃ言うから・・・もしこれでデキたら・・・お前が言う先生のせいだからな。」
えっ?センセイ?・・・・でもなんでこの場にいないその先生が原因に?
「どうしよう・・・赤ちゃん出来ちゃう・・・・」
今度は震えるようにそういう女の子に向かってそのユウヤというオトコが命令口調で告げました。
「そんなすぐに妊娠なんてする訳ないんだよ・・・後で風呂場でコーラ突っ込んで洗えばいいんだよ・・・。」
「何・・・コーラって?」
私はこの時、当時都市伝説のように噂されていたその方法を本当にやるヤツがいるんだ・・・と少しばかり感心していました。
そんなオトコが嘘八百な説明を始めます。
「コーラ避妊方って聞いたことあるだろ?コーラの酸で精子を殺すってヤツ・・・ソレ、みんな結構やてるヤツで・・・オマエ考えすぎなんだよ・・・」
今時こんなヤツ・・・いるもんです。でも、そんなウソデタラメで丸め込もうとするオトコもオトコですが、それに疑いを持たず信じてしまう彼女・・・。
馬鹿正直とはこんなことなんでしょうか?この彼女・・・普段はすごく真面目な娘だとは思いますが、それに漬け込むオトコは現代でいうゲス野郎以外の何者でもありません。
「その前にコレ・・・掃除しろ。」
「今日はこれで終わってくれる?」
「ソレはお前の番張り次第・・・」
ここでも出ています。そのゲス具合が・・・
「うん・・・分かった・・・でも、ちょっと拭かせて・・・ユウヤの・・・出てきちゃってる・・・。あっ・・・ちょっと血が滲んじゃってる・・・
「まだまだオレのモノが馴染んでないってことだな・・・オレのはちょっとデカイからな・・・」
いや・・・・ソレはアンタが無理矢理ヤッタ結果だろう・・・と私はその玄関の床しか映っていないそのモニターに心の中でツッコミを入れていました。
そしてそんな会話に後に続くのは、その女の娘がオトコのモノをシャぶっているそんないやらしい音と時々オトコが発する声にならない荒い息遣い・・・。
すると突然「うっ・・・」と言うオトコの声がしたかと思うと少し遅れて「ムームー・・・ゲホゲホ・・・・」と、その女の娘が咳き込んでいる様子がありありと伝わってきました。
「ユウヤ・・・もう・・・やめようよ・・・こんなこと・・・」
「ダメだ。オレ・・・まだまだ全然おさまらねえ・・・服・・・脱げ・・・」
「もう・・・いいでしょ?おさまらないんだったらもう一回口でしてあげるから・・・」
「オレにいちいち指図すんじゃねえ・・・」
その直後「パチン・・・」という何かを叩く音と「キャッ」という悲鳴が同時に聞こえました。
どうやらそのカレシ・・・自分の彼女を平手打ちにしたようです。
それを私と一緒に見ていた幸子さんが私に尋ねました。
「コレって最低よね・・・どう思う?ドカちゃん・・・オトコとして。」
「はい・・・僕も同じです。人として最低です。世の中にこんなことするオトコないるなんて・・・同じ男として責任感じます。」
「あなたに責任感じてもらわなくてもいいから・・・コレ・・・どうにかしてやりたいよね・・・」
「同感です。」
そんな会話の間も、その玄関の床しか映っていないそのモニターのスピーカーから音声が延々と流れ続けます。
すると突然何か布地が擦れたような音が聞こえたと同時に女の娘の叫び声が聞こえました。
「いや・・・やめて・・・ユウヤ待って。ブラウスのボタンちぎれちゃう・・・お母さんに叱られちゃう・・・」
「じゃ・・・自分から脱げ・・・初めからそうすりゃいいのに・・・」
恐らくなかなか服を脱ごうとしない女の娘に対して業を煮やしたそのオトコが手を出したのかと思われます。
すると音声が途切れたように静かになったかと思うと聞こえてきたのはベッドの軋む音とそのパンパンパン・・・という例の音・・・そして
「オレのがお前の奥まで入ってるのがわかるだろう?」
「ちょっと痛い・・・・」
「ちょっとくらい我慢しろ・・・」
「でも・・・痛くって・・・」
「オマエ・・・ゆるくなってきてるんじゃねえか?もっと本気で締めろって・・・」
そんな最低なやり取りが聞き取れます。
「ねえドカちゃん。あなたってアダルトビデオって見たことあるよね。」
「はい。当然・・・」
「それって何してるか映像で見てるからいいけど・・・コレって音声だけだから実際どうなってるか分かんないよね・・・。上なのか下なのか・・・それとももっと変な格好なのか・・・」
「・・・そうですよね。でも、その変な格好・・・って?どんな・・・?」」
「分かんないってことは、後で再現・・・してみる・・・?」
「・・・そうですよね。・・・えっ?」
私はそのパンパン・・・という音しか聞こえないそのモニターを見つめながら固まっていました。
「今・・・なんかヤラシイこと考えてたでしょ?」
「い・・・いや・・・。僕はあまりその変な格好ってものは経験がないもので・・・」
「わたしはあるわよ。よく言うでしょ?セックスの体位が四十八手あるってこと。」
「いや・・・聞いたことはありますけど・・・」
「わたしはヤッことあるわよ・・・その四十八手って言うヤツ全て。」
「全て・・・ですか?」
「もちろん。しかも裏表全て・・・」
「それって裏表があるんですか?」
「そうよ・・・試してみる?」
「いや・・・遠慮します。」
私は何か勘違いしていたようです。今、私がしていることがあくまで調査。でも・・・四十八手と言うのはさておいて、その再現というのはどのようなものなんでしょうか?
そうしているうちにオトコの叫ぶような声がそのスピーカーから聞こえてきました。
「オマエ・・・まだ分かんねえのかよ?じゃ・・やっぱりその先生のことが好きだっていうのかよ・・・オレのこと忘れられねえカラダにしてやる・・・オレなしじゃ生きられないカラダにしてやる・・・」
そんな叫びに続いて聞こえたのが女の娘の泣くような悲痛な叫び・・・
「ちょっと待って!痛いから・・・もう・・・いや・・・なんでこうなの?最初は優しかったのに・・・最近じゃ会うたびこんなことばかり・・」
「うるせえ・・・ちょっと来い!」
「いや・・ちょっと髪・・・引っ張んないで・・痛い・・」
そんな声の後バスルームのドアの開閉音が聞こえ、「ザー・・・」というシャワーの音に混じって「コレに座れ・・・」とか「なんでそんなことするの・・・?」なんていう女の娘の声が混じります。
ん?座るモノ?このバスルームの中にある座るモノといえば・・・アレしかありません。ソレはあの芸術的な造形をしているゴールド色の・・・・そう、あのスケベ椅子・・・。
先ほど現場を調べた結果ではそのオトコが女性の陰毛を剃った形跡がありました。
恐らく今はそんな状況かと・・・。
そしてしばらくして急にバスルームの扉が開いた音がしたかと思うと冷蔵庫の「パフッ・・カラカラ・・・」という閉まる音と「シュポッ」という音が聞こえました。
「コレって・・・そのオトコ、コーラ瓶の栓・・・抜いたね。」
今まで私と一緒にそのモニターを見ていた幸子さんがそう呟きました。
このホテルに設置してある冷蔵庫には各種飲み物が冷やされていました。ソレはチェックアウト時に自己申請で精算する仕組みとなっていましたが、その精算時の数百円の金額で揉めることもあると聞かされていました。
あと、現代ではペットボトルに置き換わってしまったその飲み物のほとんどが瓶のものとなっていましたが、コレはゴミを減らすためだとも聞かされています。
そんなコーラの瓶を持ってバスルームに戻ったこのオトコの目的は、アレ・・・しか考えられませんでした。
「えっ?・・・・ソレってさっきの・・・コーラ避妊・・・」
その音の後はバスルームの扉が半開きになったままの状態なのか音声がハッキリ聞こえるようになっています。
「ちょっと・・・ソレ・・・」
「見ての通り、さっき言ったコーラ・・・」
「ちょっと・・・本当にやるの?」
「いいから膝ついてケツ出せ・・・」
「コレでいい?」
「イヤッ・・・冷たっ・・・ちょっとそんな奥まで入れないで・・・なんかすごくお腹が冷たく・・・あっ、沁みるんだけど・・・ちょっと痛い・・・」
「おっ・・・お前のソコからコーラの泡が吹き出して・・・・」
オトコはそんなことを言いながら笑っています。
「痛いからシャワーで流させて・・・・」
痛いはずです。女性のデリケートな膣の中にそんなモノ入れられたら・・・。しかもその膣は子宮や子宮頚管、更にはその先の卵巣まで繋がった内臓の一部です。そんなところに避妊と称してコーラを流し込むなんて・・・
そんな会話の後にオトコはひとりベッドに戻って、備え付けのエロビデオを見始めたようでした。
モニターのスピーカーからはそんなビデオの濡場の音声が伝わって来ていましたが、その間シャワーで流している音も永遠と続きます。
そんな音がしばらく続いた後、急にそのシャワーの音が止まったかと思うと、扉が開いた音と同時にオトコの声で「拭け・・・」という音声が入ってきました。
恐らくそのオトコが女の娘にバスタオルを渡して身体を拭くように指示した模様です。
その間もエロビデオの音声がまるでBGMのように流れていました。
「オマエって変態だよな・・・マン毛無くってツルツルだよ。しかもそのツルツルマ○コにコーラ瓶突っ込んでよ・・・。ソレじゃもう、まともなお嫁に行けねえな。」
「でも・・・コレって・・・ユウヤがそうしたんじゃない・・・」
すると突然「キャッ・・・」当音声とともに「ドサッ・・・」っていう音が入ってきました。
「ちょっとユウヤ・・やめて・・・痛い・・・そんなところにキスマークなんて・・・いや・・・おねがい・・・見えるところには付けないで・・・家に帰れなくなっちゃう・・・」
今度はそのユウヤというオトコがその娘の身体中にキスマークをつけ始めたようです。
「これで浮気なんて絶対できねえよ・・・マン毛剃ってて、身体中キスマークだらけの変態女・・・誰が抱く・・・つうの!」
「いや・・・・もう・・・いや・・・別れたい・・・もう・・・こんなの・・・・」
「こんなの・・・がどうした!もう一回言ってみろ!」
ここでそのオトコが再びキレたようです。
「だって・・・この頃会うたび私たちこんなことしかしてない・・・前の優しいユウヤはどこ行ったの?わたしと付き合ってるのはこのカラダだけが目的なの?・・・・もう限界・・・終わりにしたい・・・こんなこと・・・わたしたちもう・・・別れ・・」
そしてその娘が我慢の限界に達し懇願するような声でそう言った直後でした。
「パチン・・・」
あろうことか再びそのユウヤというオトコが平手打ちをしたようです。
「もう一回言ってみろ・・・。オレの愛が分かんねえのか?オマエを誰にも渡したくねえ・・っていうオレの気持ちがよ・・・」
「ユウヤ・・・ごめん・・・」
するとそこから急に静かになって何かヒソヒソ話す声が聞こえたと思うと・・・
「え〜こんな変な格好するの?」
「これとおんなじ格好で・・・」
このオトコは、どうやら流し続けているエロビデオと同じことをこの娘にやらせようとしているようです。
「どんなことやってんだろうね・・・」
私の隣でその床しか映ってないモニターと見ながら幸子さんがそう呟いています。
「ちょっと分かんないです・・・。」
「そうだよね・・・後でそのエロビデオ検証しなきゃなんないよね。あっ・・・そうだ。後で今日部屋に置いてるビデオ渡すから、ソレレポートにまとめておいて。」
「えっ?ソレは・・・」
「これも調査の一環!」
「はい・・・了解です。」
そしてそのどんなことをしているのか想像もできない状態がしばらく続いた中、しばらくすると荒い息遣い・・・そして女性の喘ぎ声らしきものが聞こえて来ました。
「やっとオレのモノに合って来たみたいだな・・・そうだろ、気持ちいいだろ・・・オマエこの後ろからヤられるのが気持ちいいんだよな?・・・言ってみろ」
「うん・・・気持ちいいよ・・ユウヤ・・・好き・・・わたし・・・そのグリグリするのもいい・・・」
しばらくヒソヒソとしか聞こえなかったスピーカーからそんな音声が流れて来ました。
「あらあら・・・グリグリしながら仲直りしちゃったよ・・・このふたり・・・。」
「しちゃいましたね・・・」
「やっぱりケンカの後の仲直りのセックスって燃えるようね。どう思う?ドカちゃん・・・」
「どう?って聞かれても・・・。でも燃えるかどうかはさておいて、コレって俗に言うダメオトコ・・・ってヤツですね。その場だけを取り繕うのには長けているように見えますが・・・」
「うん・・・。やっぱり・・・百戦錬磨のオトコのいうことは違うね。」
「ちょっとやめてくださいよ・・・」
「でも、この娘・・・ダメオンナになっちゃったね・・・本当にバカなんだから・・・こんなオトコに引っかかちゃって・・・。」
「女の娘って・・・初めて経験した彼氏を基準にしてその後の男の価値観を決めると僕は思ってます。そうすると、この娘は今後オトコというもので苦労しそうな気がします。」
「やっぱりそう思う?さすが経験豊富なオトコのいうことは違うね・・・」
「だからソレ・・・やめてください!でも、この娘って・・・・知り合いか何かなんですか?」
「あっ・・・みづきのこと?この娘って兄貴のところの二女なんだよね・・・」
「えっ?・・・・ということは・・・遠藤美月さん?」
「うん・・・わたしの姪っ子・・・」
「すると・・・今まで僕が聴いていた・・・コレ・・・・って、あの部長だったんですか?」
「そうよ・・・言ってなかった?」
「知りませんでした。でも、どこかで聞いた声のような気がしましたが・・・」
すると今まではっきりと音声が聞こえなかったそのモニターのスピーカーからオトコの荒げた声が聞こえて来ました。
「そのマドカってヤツ・・・オレの前に連れて来い!オレの方が良いってことわからせてやるから・・・」
「あら・・・どうする?・・・ドカちゃんあなた・・・このオトコに召喚されちゃったみたいだよ・・・」
「えっ?そんな・・・」
そしてその後、そのビデオに料金を払うそのオトコの映像が映っていました。そのオトコは現代でいうチャラ男という風貌で、見れば大体どんなヤツか分かりそうですが・・・。
まあ・・・その腰ばきのズボンのみっともないこと・・・
でも、今まで部活一辺倒だったその部長にはそんな男を見分ける力がなかったようです。
本当に心配です。こんなチャラ男に染められてしまった部長・・・今後どうなってしまうんでしょうか?
そんな心配をしている私に対してその幸子さんが言いました。
「わたしってさ・・・こんなカップル別れさせる相談にも乗ることがあるんだよね。それって後藤田さんと組んでのことなんだけど・・・」
「後藤田さん・・・って?もしかすると、あの眉毛のないスキンヘッドたちも登場することになるんですか?」
「まっ、場合によるけどね・・・。そうなるとみんな俳優みたいなんだよね。時々手伝ってもらってるあの千鶴ちゃんも高校演劇で全国行ってるくらいだから・・・」
「えっ?あの後藤田さんも一枚噛んでる?」
「そうよ・・・もう女優さんみたい。でも・・・このみづきの件は時間との勝負ね。取り返しの付かないことになる前になんとかしなきゃ・・・。」
「そうですよね。あのままじゃいつ妊娠しても・・・」
「もう・・・してるかもしれないし・・・」
「えっ?それじゃ・・・」
「うん。そう・・・優生保護法でいう堕胎できる時期って限られるから・・・」
「堕胎・・・って・・・そこまで考えてるんですか?」
「そうだよ。何せ一発で妊娠させちゃうこともあるでしょ・・・ねえ、ドカちゃん。」
「えっ・・・ふたばとのことまで調べてあるんですか?」
「だから・・・全部調べてるって!」
「もう・・・観念しました。どうにでもしてください。」
「やっと分かったみたいだね。まあ今回のはわたしの個人案件だし、あなたに活躍してもらえれば良いみたいね・・・ド・カ・ちゃん。」
「えっ?何か寒気がするんですけど・・・」
「この世界に足・・・突っ込んじゃったってことで諦めてね。」
今回のストーリーはここまでとなります。最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
本作品は平成2年を舞台に描いていますが、そんな30年前このようなラブホテルのことを一般的にモーテル(モーターホテル)と呼んでいました。そんなホテルには決まって料金徴収に来る爺さんがいたものです。
さらに映像のデジタル技術が全く進んでいなかったそんな時代のビデオ媒体といえばテープしかありませんでした。その保管方法も結構面倒で、せっかく再生しようとしてもテープがデッキ内で絡まってしまったりと何かと大変な時代・・・
この物語は、そんな時代にまどかが歩んだ青春の1ページに誇大表現と妄想を加味したフィクション話として読んでいただければ幸いです。
まことまどか