バイト先の先輩の娘さんとの、波乱万丈な恋物語・番外編③ 見つめていたい

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激裏GATE-エロティカの数少ないマー坊とせっちゃんのファンの方々より早々に、数多くの続編希望のお声を頂き、感謝してもしきれない気持ちでいっぱいで御座います。m(__)mペコリ

マー坊とせっちゃん、そして美花子のバカ家族の成長?物語をお楽しみ下さいませ。

尚、今回のお話はマー坊とせっちゃんのエッチなお話は無しで御座います。御了承下さいませ。

登場人物スペック

誠人(マー坊)→レストランで働く、ちっぱい好きで仮性包茎のコックさん。せっちゃん命のクソ真面目な一穴主義者。

節子(せっちゃん)→16歳でお母さんになった、輪姦被害経験の有るアニメ顔のちっぱい幼妻。マー坊命のちょっぴりヤキモチ焼きな一棒主義者。

鉄さん→誠人が勤務するレストランの先輩コックにして、節子の父親。厳つい強面で、仕事には滅茶苦茶厳しいが、根は良い人。

・・・

「いらっしゃいませ…って慎也に千夏!相変わらずラブラブそうで、何よりだなぁ!」

「こんちは、誠人。ま、お前等夫婦のアツアツ振りには負けるけどな(笑)」

「誠人クン、久し振り!美花子ちゃんは元気してるー?」

「あぁ、滅茶苦茶元気だぜ。片言で❝おとーさん、おかーさん❞って喋りかけてくるのがメッチャ可愛くってね」

「えー、もうそんなに喋れる様になったの!」

「…まぁね。ところで御二人様で、宜しいでしょうか?」

「あ、鞠子ちゃんが後から来るから、三人ね」

前回のお話で、俺達家族に「幸せにしかなれない呪い」をかけやがった俺の中学時代のクラスメート、鞠子は実は、慎也・千夏のバカップルと同じ大学に進学していた。

鞠子が前回の同窓会の一件を、サークル仲間とお喋りしていたら偶然、それを聞き付けた千夏が、

「え…誠人クンって…もしかしてレストラン○☓で働いてる誠人クン?」

「そ、そうだけど…何でアンタ、誠人クンの事知ってんの?」

「知ってるも何も…アタシ、誠人クンと高校時代、クラスメートだったのよ?(鞠子は女子校に進学していて、高校時代の俺の事は全く知らなかった)」

てな調子で忽ち意気投合、と言う訳らしい。

「それじゃ、此方へどうぞー!」

と俺は慎也と千夏を、二人がけのテーブルを二つ組み合わせて作り上げた、臨時の四人がけのテーブルに案内する。

「それじゃ御注文が決まりましたら、お呼び下さいませー!」

と声を掛け、俺は厨房に戻ると手洗いとアルコール消毒をする。

「…オイ、マー坊。ちょっとだけ良いか?」

「何でしょう?鉄さん…」

「俺達料理人の本分は…何だと思う?」

「…上手く言えませんけど…お客様に❝また、この店の料理を食べたい❞、って思って貰える様な…美味しいお料理を、お出しする事だと思いますが…」

実は約二月前。

俺が働くレストランの斜向いに、よりによって競合店がオープンしたのだ。

その店は俺達の店と比較しても信じられない様な激安価格と、可愛いウエイトレスさんを売り物にして、俺達の店から確実に、お客様を奪い取っている。

幸い、常連さんの殆どは未だに、この店で食事をしてくれているのだが…

「フム…マー坊。オメェもたまには、中々良い事言うじゃあねぇか!」

「そ…そうですか?」

「俺達は結局…お客様がまた、この店に来たくなる様な料理を作るしかねぇ。どうやったら他所の店に勝てるか…を考えるのは、店長に任せときゃ良いんだよ」

「…ハイ」

「マー坊。今は余計な事は考えんで良い。ただひたすら、目の前の仕事に集中しろ。分かったな?」

「…ハイ」

「すいませーん!カツレツ定食二つにエビピラフ、注文入りましたー!」

「了解だ!マー坊、カツレツ定食は任せたぞ!」

「了解しました!それじゃトッシー、付け合せの千切りキャベツを刻んでおいて!」

「…分かりました!」

俺達厨房スタッフはテキパキと、注文された料理を作り上げていく。

そして、出来上がった料理を慎也と千夏のもとへと運んで行くと。

「慎也クンに千夏ちゃん、お待たせー!あっ…誠人クン、今日は!この間は、本当に有難うね!」

と、鞠子が臨時の四人がけのテーブルへとやって来た。

「…どういたしまして。それより御注文は、お決まりでしょうか?」

「この間食べたオムライス、お願い!」

「御注文は以上で宜しいでしょうか?」

「それでお願いします!」

俺は再び厨房に戻り、手洗いとアルコール消毒を行うと。

「オムライス一つ、注文入りましたー!」

と、元気良く告げる。

「了解!おいマー坊、今は俺達だけで大丈夫だからちょっと休憩してこい!」

「それじゃすいません、休憩入りまーす!」

・・・

「ハイ、お釣りとレシートになります。御来店、誠に有難う御座いましたー!」

「誠人クン、御馳走様でした!」

「それじゃ、ごちそうさまでしたー!」

「御馳走様!…あ、誠人…」

「ん?どした、慎也?」

「いや、その…千夏の事なんだけどよ…」

慎也の表情を見て、俺は何やらヤバそうな雰囲気を感じた俺は。

「此処で立ち話もアレだし…ちょっと外で話そう。すいません、ちょっと外出まーす!」

と俺は厨房に声を掛け、駐車場へと慎也を連れ出した。

「千夏が…どうかしたのか?」

「実を言うと千夏…言い寄られてるらしいんだ…」

「…え?誰に?」

「ウチの大学の教授。一日に何通もメールが着たり…ボディタッチされたり…」

「それって…❝単なるセクハラ❞じゃねぇか。それで…千夏は?」

「今のところは…そんなもんで済んでるみたいだけど…でも、不安なんだ。アイツの心が…俺から離れて行っちまうんじゃねえかって…」

「そんなもん、然るべきところに駆け込みゃあ終りじゃねーのか?」

「それがな…その教授、コンプライアンス課にバレない様に上手くやってんだ。こないだラリメールのコピーを、千夏の許可を貰って見せたんだけど、❝これだけじゃ証拠としては弱い❞って…」

「・・・」

「ボディタッチにしても、第三者の目が無い場所で巧みにやっちゃってるらしいんだわ。❝証拠を出せ❞って言われても、第三者の証言は望み薄、って訳だ…」

「・・・」

「誠人…こんなの、許されると思うか?ソイツ、何人もの女の子を食い散らかして、飽きたらポイをもう何年も繰り返してるらしいんだ!そんな奴に人を導く資格、有ると思うかぁ!?」

「…許せねぇな」

「…やっぱり?」

「あぁ…そんな真正の男の屑、許せる訳ねーだろーが…」

「良かった…」

「だがなぁ…ネックは❝証拠❞なんだよなぁ…」

「ソコなんだよな。それこそ水戸黄門の印籠じゃないけど、❝コレが目に入らぬかー!❞位の破壊力抜群の証拠が欲しいんだよなぁ…」

「…慎也。明日…千夏を、俺ん家に連れてきて来てくれないか?」

「…え?誠人の家に…?」

「あぁ。せっちゃんと千夏が中心になって、俺ん家で定期的に女子会をやってるだろ。その女子会メンバーにも…知恵を出して貰った方が早そうだと思ってな…」

「❝三人寄れば文殊の知恵❞って奴か…」

「❝船頭多くして船山に登る❞危険性も、否定は出来ねえけどな…けど、こういう時は…意見が多いに越した事はないだろうからな…」

「…うん、わかった。明日…千夏を連れて行くわ」

「慎也…頼む」

「誠人…」

「なんだ?」

「…本当に、有難うな」

「…俺はただ、アイツに作っちまった借りを返すだけさ…」

と俺はつい、ぶっきらぼうな口調で返答していた。

「・・・」

「それじゃ、慎也…俺は仕事に戻るぞ」

「わかった…じゃあな、誠人…」

「…あぁ」

・・・

「誠人クン、お邪魔しまーす!」

千夏の元気な挨拶と共に慎也、そして何故か二人にくっついて来た鞠子の三人が鉄さん宅に上がり込んで来た。

「あー、せっちゃん今日は!うわー、美花子ちゃん、また一回り大きくなったねー!」

「ばぶー、ばぶー」

千夏は元気そうに振る舞ってはいるが…昨日の慎也のカミングアウトを聞いた後では何処と無く、空元気そうな雰囲気は否めない。

「あら…また女子会のご新規さん?あ…どうも始めまして。アタシは誠人クンと慎也クン、それに千夏ちゃんが通ってた高校で、保健教師をしてる聖羅って言います。これから宜しくお願いしますね〜♡」

と聖羅先生が、禁煙パイポを咥えながら鞠子に呼び掛ける。

「あ…えーと、皆さん始めまして。アタシ…誠人クンの中学時代のクラスメートで、今は千夏の大学の同級生の鞠子って言います」

「えーと…改めまして、始めまして。私…誠人さんの奥さんの節子って言います」

「始めまして。私…節子さんのママ友の灯里って言います。この子は…私の息子の和誠です。以後、お見知り置きを…」

「あら、どうも始めまして。私…誠人の母の美佐代って言います。今日はわざわざ、遠路はるばるご苦労様です」

「皆さん…私達の為にわざわざ有難う御座います!」

「それで…要件って、何?千夏ちゃん…」

との聖羅先生の指摘に。

「あの…実は…」

と千夏は、自ら受けているセクハラ被害を告白し始めた。

自分に酔っているとしか思えない執拗なメール爆撃、人目の無いところでのボディタッチ、そして単位を出汁にした交際の誘い。

「いつまでもこんな風に私に言い寄り続けるのならば…いい加減、コンプライアンス課に言いつけますよ!」と言っても、

「俺の学内での信用は、そんなチクリでは簡単には揺るがないからね〜。無駄な抵抗はやめて…大人しく僕のモノになっちゃいなよ〜…」

と千夏を逆脅迫する始末。

「酷い…」

せっちゃんは思わず、ポツリと呟いていた。

「私も農大時代…そういうイヤらしい事を何回もされました。ですが…千夏さんが受けているセクハラは最早、刑事事件になっていい案件ですよ…」

と灯里さんも、静かな口調で憤る。

「要は…その、千夏ちゃんがセクハラされてる確実な証拠が欲しい訳なのね?…せっちゃん、悪いけど席を外してくれるかしら?」

「…?」

「今から話す事は…せっちゃんには少し、ヘビー過ぎるから…」

「…分かりました。美花子…お母さんとちょっと、おねんねしようね…」

「ばぶー…」

聖羅先生に促されて、せっちゃんは美花子をおんぶして、二階の寝室へと上がって行った。

「…それじゃ、千夏ちゃん。今から話す事は…リスクを伴う話よ。それは…覚悟してくれるかしら?」

「言いたい事は…何となく分かります。もしかして…ハニートラップを仕掛けろとか…」

「千夏ちゃん…頭の回転の早い女の子は…嫌いじゃないわ。セクハラの決定的な証拠を掴むには…多分、この方法しかないわよ。後は…千夏ちゃんの覚悟一つね」

「…分かりました」

「本当に良いのか?千夏…」

「…確かに下手したら、アタシもせっちゃんの二の舞になっちゃうかもしれない。でも…やるしか無いわ」

「え…?せっちゃんの二の舞って…」

との鞠子の問い掛けに、聖羅先生とお袋が横に首を振る仕草を見た鞠子は押し黙る。

「それと慎也クン…」

「何すか?聖羅先生…」

「決行当日は…千夏ちゃんの近くに居てあげて。千夏ちゃんを守ってあげられるのは…慎也クン、アナタしか居ないわ」

「…分かりました」

「それじゃ…証拠を記録する為のICレコーダーを買っておかないとな…」

「後はデジカメや使い捨てカメラで現場の写真も撮っておけば、より説得力が増すはずですよ」

「…分かりました。皆さん…本当に有難う御座います!」

「千夏ちゃん…」

「なんですか?お母様…」

「そのクズ教授に…ガツンと一発、❝正義の鉄槌❞をかましちゃいなさい!」

とのお袋の一言に。

「そんな男に…教授を名乗る資格は有りません!千夏さん、遠慮なくやっちゃって下さいね!」

と灯里さんも、千夏を後押しする。

「みんな…有難う、本当に有難う!」

「後、慎也クン…」

「…ハイ」

「怒りで憤っても、絶対に先に手を出しちゃ駄目よ」

と、聖羅先生が慎也に釘を刺す。

「…分かってます。分かってますが…」

「…慎也」

「何だ?誠人…」

「その…セクハラ暴露作戦に、俺も参加させてくれないか?証人は…一人でも多い方が良いだろう?」

「…すまねぇ、誠人」

「んな事気にすんなよ。それに慎也…」

「ん?」

「お前の暴走を止められるのは…多分、俺しかいないだろうからな…」

「誠人…有難う」

「それじゃ…みんな。作戦成功祈願の為に…水盃で乾杯しましょう!」

との聖羅先生の声に。

俺達出席者は、コップにから注がれたミネラルウォーターを飲み干していた。

・・・

「…良いんすか?鉄さん…」

「俺は喧嘩しに来たんじゃねーよ。あくまでも、❝大学の学食❞の味を探りに来てるだけ、だからな。わかるな、マー坊?」

「えぇ…」

そして、迎えたセクハラ暴露作戦当日。

俺は何故か、有給を利用して店を休んだ鉄さんと二人で、慎也と千夏、それに鞠子が通う大学に乗り込んでいた。

「…しかし、マー坊。大学のキャンパスってのは…無駄にただっ広いもんだなぁ」

「はぁ…」

とくっちゃべりながら。

俺と鉄さんは千夏が書いた地図を道しるべに、大学の学食へと歩いて行く。

「おーい、誠人!コッチだ、コッチ!」

との慎也の呼び声。

俺と鉄さんはそそくさと、学食へと潜り込む。

「誠人…」

「慎也…気にするこたあねーよ。それより…今日の学食のお勧めメニューは?」

「和食ならアジの開き定食に豚の生姜焼定食…洋食ならチーズインハンバーグ定食に牡蠣ソテー定食かな…」

「なら迷うこたぁねえやな、マー坊!アジの開き定食を頼むぜい!」

「え…?鉄さん、ソコはチーズインハンバーグ定食なんじゃ…」

「分かってねーなぁ、マー坊!日本人ならアジの開きの焼き加減一つで、その食堂の腕前が分かる様にならなきゃまだまだなんだよ!」

という鉄さんの謎理論に押し切られ、俺と鉄さんは千夏と鞠子、そして慎也が座るテーブルで、アジの開き定食を平らげながら作戦会議を始めた。

先ず、千夏が人気の少ない教室で件の教授を待つ。

そして、セクハラ行為の一部始終をICレコーダーで録音。

そしてチューなりおっぱいもみもみに及んだところで俺達がカメラ片手に乱入、鞠子が連れてきたコンプライアンス課の人間にセクハラの現場を披露する…という流れ。

「…御馳走様でした」

「御馳走様でした!おうマー坊、今時の若者にしちゃあ、随分とキレイに平らげたじゃあねーか!」

「…有難う御座います。それはそうと千夏…」

「何?誠人クン…」

「宜しく…頼むぞ」

「…うん」

「なぁ、千夏ちゃん。いいか、会話を録音する時は…ICレコーダーはおっぱいの谷間にしまうんだぞ?いいな?」

「て…鉄さん!」

「あ…マー坊、すまねぇ…」

「鉄さん…大丈夫ですよ。今の下ネタで…なんか、気持ちが吹っ切れました…」

「千夏…無理はしないでね…」

「鞠子、大丈夫だって!コレだけ強面の男性が三人もついていれば、絶対なんとかなるから!」

「何だか…複雑な言い草だなぁ…」

確かに俺自身、鉄さん程では無いが❝目付きが悪い❞自覚は有る。

そして愛嬌の有るブサメンな慎也に、如何にもな893顔の鉄さん。

文字通り「野獣」三人を引き連れて、「美女」千夏は颯爽と、校舎の中へと入って行く。

「いよいよだな」

「千夏…」

「何?慎也クン…」

「千夏…俺を信じろ。良いな」

「分かってる。慎也クン…」

千夏は迷いを振り払う様にコックリと力強く頷くと、無人の教室へと入って行き…。

暫くすると、教室内の様子を中継する為の送信機のスイッチが入れられ、千夏の声が慎也の手の中の受信機から聴こえてきた。

「えー、本日は晴天なり、本日は晴天なり。…慎也クン、聴こえてたらOKサインを作って下さい」

慎也は無言で右手の親指と人差し指でOKサインを作り、教室内の千夏に披露する。

「良かった…。なら慎也クンに誠人クン、怪しまれない様に教室から離れて下さい。後鞠子ちゃん、コンプライアンス課への対応宜しく。それでは今から…作戦を開始します」

俺達は千夏の居る教室から離れ、物陰で受信機のイヤホンに耳をそばだてる。

…すると、数分後。

男性の声が、イヤホンから漏れ出してきたではないか。

俺は鞠子に指をさし、コンプライアンス課への移動を促す。

「やぁ〜、千夏ちゃん。相変わらず可愛いねぇ〜」

「…どうも」

「ん〜、相変わらずおっきいおっぱいだね〜。本当に揉み応えが有りそうな、立派な巨乳だなぁ〜」

「…教授。本当に、止めて貰えませんか?こういう事…」

「…こういう事?いいじゃんいいじゃん、こういうスキンシップが無いと、大学生活にも張り合いってものが無くなっちゃうよ〜」

「…あ、あの、き、教授…い、いい加減にしてください…」

「うーん、このお尻の膨らみも堪んないなぁ〜…これ程触りがいの有るお尻は久し振りだねぇ〜…」

「教授…」

「ねぇ〜、千夏ちゃ〜ん。もし僕のセフレになってくれたら…その時は、足りない単位を穴埋めしてあげるよ〜。確か千夏ちゃん…第二外国語が危ないんじゃなかったっけぇ〜?」

「…もういい加減にして下さい、教授!私には慎也クンって言う、れっきとした彼氏が居るんです!もういい加減、こういうセクハラは止めて貰えませんか!?」

「…だからこそ燃えるんだよ、千夏ちゃ〜ん」

「…は?」

「僕はねぇ…彼氏持ちの女の子を落とすのが大好きでねぇ…彼氏に操を立ててた女の子を…僕のビッグマグナムで淫乱な肉便器に仕立て上げるのがたまらなく大好きなんだよぉ〜」

千夏と教授の会話を盗聴している慎也の顔は、怒りで真っ赤に染まっている。

「…慎也。落ち着け」

「分かってる…」

見ると慎也の右手は怒りで固く握りしめられ…今にも受信機を握り潰しそうだ。

「教授…止めて下さい…止めて下さい!これ以上イヤらしい事をするなら…人を呼びますよ!」

「ん〜?人を呼んで、どうするのかなぁ〜?もしかして…僕との情熱的なセックスを、みんなに見て欲しいのかなぁ〜?あ〜そういう事なら…遠慮は要らないよねぇ〜」

「なんで…なんでそうなるんですか、教授!」

「大丈夫…さっき教室のドアに、内鍵を掛けたからねぇ〜。一仕事終えるまで、そうそう気付かれる事は無いはずだからねぇ〜」

「…助けて!慎也クン、助けてー!」

「無駄だよ、無駄…此処でいくら喚いたところで…助けなんか来る訳ないよ〜ん」

「止めて下さい!教授!」

「…もう我慢出来ねえ!慎也、行こう!」

「おうっ!」

俺達二人は千夏が教授と二人っきりの、教室のドアをノックする。

「千夏、千夏!居るんだろ!?居るならノックし返してくれ!」

すると。

内側から確かに一回、ドアを叩く音が聞こえた。

「おい、この教室の鍵は!?」

「管理室に有るけど…どんなに急いでも10分は掛かるぞ!」

「なら仕方ねぇ…非常事態だ、このドアぶっ壊すぞ!」

という俺の声と同時に、慎也は教室の引き戸に肩からタックルをぶちかましていた。

流石現役のラガーマン、金属製の引き戸が僅かに凹む。

「俺も手伝うぜ!」

と言うと今度は、二人がかりでドアに体当たり。

コレを何回か繰り返すうちに、引き戸が歪んで指を差し入れられる位の隙間が作り出された。

すると。

「おい、何やってんだ!」

の声に振り向くと、鞠子が背広姿の男性を二人伴っている。

多分彼等がコンプライアンス課の人間なのだろう。

「この教室の中で、女の子がセクハラされてるんです!」

「…な、なんだって!?」

そこへ。

「おい、マー坊!コレ使え!」

一体何処から調達してきたのか、鉄さんが細めの鉄パイプを二本、ドアの隙間にやや強引に捩じ込む。

「よーし、みんな!行くぞー!」

俺達は野次馬諸氏に協力を仰ぎ、梃子の原理を利用してドアをこじ開けようとする。

「せーの!せーの!せーのーっ!」

何回か目の試みで、メキメキメキメキッと言う嫌な響きと共に内鍵が壊れ、レールから外れた引き戸が派手な音を伴って廊下ヘ勢いよく倒れる。

はあはあと息荒く汗を拭う俺達の目に飛び込んできたのは…おっぱい丸出し、パンツ丸見えで教室の机の上に押し倒された千夏と、ズボンを下ろして❝自称❞ビッグマグナムをさらけ出している教授の姿だった。

その場に居合わせた人間は皆、文字通り「(д)°°」の顔文字状態。

俺と慎也、そして鉄さんと、野次馬諸氏もポカーン。

千夏も、鞠子も、そして教授もコンプライアンス課の人達もポカーン。

…が。

正気を取り戻すのは、コチラが早かった。

俺達はポケットに忍ばせていた、デジカメと使い捨てカメラで千夏と教授の痴態をカシャカシャと撮影する。

「ま…待て!待て!ち…違う!こ…コレは嵌められたんだぁ!」

と喚き散らす教授に。

「それは…我々が判断する事です。取り敢えず教授、コチラヘ…」

とコンプライアンス課の人間が教授を連行して行く。

「それと皆さんも…落ち着きましたらコチラヘ…」

「う…うっ、ううっ…ううう…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーん!!!」

その言葉に緊張の糸が切れたのか、千夏はおっぱいもパンツも全く隠さず号泣し始めた。

「ちょっと…みんな!コレは…見せ物じゃあ無いのよっ!」

ひたすら泣き続ける千夏を鞠子が遮り、千夏の裸身が野次馬から見えない様にすると。

「千夏…良く頑張ったね…」

「鞠子…怖かった…本当に怖かったよ…」

「千夏…御免!怖い思いをさせちゃって…本当に御免!」

「あ…慎也クン…慎也クーン!うわあぁぁぁーん!」

と号泣する千夏に、慎也は床に打ち捨てられたブラジャーを手渡す。

俺は着ていたジャケットを脱ぐと、巨乳から目を逸らしつつ千夏に掛けてあげると。

「千夏…あのクソ教授との第二ラウンド開始だ。あの良く回る三枚舌を、取り敢えず黙らせないとな…」

「誠人クン…」

・・・

「だから!私はこの娘に嵌められたんだ!」

此処は、校舎内の会議室。

コンプライアンス課の職員に連行された教授、そして同行を求められた俺達一同は、それぞれの言い分を主張し合っていた。

「では教授。あくまでもコレは…この千夏さんに誘惑されたと?」

「その通りだ!私は無実だ!」

「あの…すいません」

「何でしょう?千夏さん…」

「コレを…聞いて下さい…」

千夏はスカートのポケットからICレコーダーを取り出すと、教授とのやり取りの一部始終を記録した録音を再生し始めた。

…と、そこで会議室のドアがノックされる。

「…どうぞ、お入り下さい」

の声に促されて入室して来たのは、一見優しそうな表情だが、かなりきつい目付きのおば様と、如何にも人が良さそうな波平頭のおじさんの二人連れ。

「どうも始めまして。私…○○教授婦人の淑子と申します」

とおば様は、素人の自分が聞いてもかなり関西なまりの激しい標準語でコンプライアンス課の人達、そして俺達に一礼する。

「あ…皆様始めまして。私は、こういう者で御座います」

と、波平頭のおじさんがテーブルに差し出した名刺には、「●●弁護士会所属、☆★法律事務所代表☆★」と記されている。

(弁護士さんを連れてくるなんて…この人、何が目的だ…?)

俺は教授婦人の真意を測りかねていた…が、その意図は、直ぐに明らかになった。

「おぉ…僕の為にわざわざ弁護士さんを連れてきてくれるなんて…我が妻ながらグッジョブだ!」

「アンタ…何寝惚けた事言うとんのや?」

と教授婦人は関西弁全開。

どうやらこの人、頭に血が上ると口調が関西弁に切り替わる体質の様だ。

「取り敢えず…コレ見てぇな」

と教授婦人はブランド物のバッグから分厚い書類の束を、ICレコーダーの会話が再生されているテーブルに突き出す。

「・・・」

無言で書類を取り上げた教授の顔は、書類を読み進めるに連れて、みるみる真っ青になっていった。

「コレやねんけど…どーゆー事なんか、アンタの口から説明してくれまへんかなぁ?」

「こ…コレは…」

「コレは何ですのん?」

「い、いやぁ…他人の空似って、本当に有る事なんだなぁ〜」

「アンタ…人おちょくるんも大概にせえよ、あぁ?」

「だって僕、この日、教授会だったじゃ〜ん」

「…アンタ、そんなに痛い目見たいんか、あああああぁ!?」

と叫ぶや否や。

教授婦人は教授の元に詰め寄ったかと思いきや、目にも留まらぬスピードで往復ビンタを何発もぶちかましていた。

「ええ加減にせんかい、このスケコマシ!アンタがこの大学の女の子にセクハラしとるだけやない、ウチの娘達の家庭教師の女の子にも手ぇ出しとるんは興信所使うてとっくに承知しとるんじゃぁ!」

「❝旦那や彼氏以外との付き合いも大切❞やぁ!?アンタの言う事が現実になったら、日本の婚姻制度は文字通り破綻するわ、んな事認められるかいなこんヴォケナスぅ!」

「おんどれみたいな粗チンと脳みそが直接繋がっとる、しかも男女関係を破壊する寝取りセックスの事しか頭にない猿野郎とは、もう金輪際同じ空気吸いたないわ、このスカポンタン!もうお別れや、お別れ!」

教授婦人は教授のワイシャツの胸ぐらを引っ掴んで、上記の言葉を文字通り、マシンガンの様に教授の顔に唾を吐き散らしながら喚き捲くる。

その有様を見た俺達…そして周囲の人間はただ呆然と、その光景を見つめるしかなかった。

下手に止めに入ったら、文字通り教授婦人にどつかれかねないド迫力だったからだ。

「ま…待ってくれ、淑子…」

「何を待つんじゃ、アホンダラァ!ウチの娘達が、おんどれの毒牙に掛かってからじゃ遅いんじゃこのヤリチン!」

「それになぁ!将来娘達が結婚する時…❝お父さんは、彼氏持ちの女性を寝取るのが趣味のクソ野郎です❞なんて知られたら、どないするんやこんバカタレ!」

「そないな娘達を不幸にしかせえへんアホ親父やったら!ハナから居らん方が遥かに娘達の幸せに繋がるわぁ、こんの全身性器野郎!」

まるで活火山から放出されるマグマの如くに、教授婦人はキッつい言葉を教授にマシンガントークで叩き付ける。

「さて…教授。教授婦人は貴方に離婚を要求しており…尚且、不貞の原因は貴方に有ります。よって、教授婦人は…貴方に慰謝料を請求する権利が有ります」

と、此処まで存在が空気だった波平頭の弁護士さんが、「俺のターン」と言わんばかりに教授に捲し立てる。

「慰謝料…?」

「…当たり前やろが」

「弁護士さん!本当なら、僕が慰謝料を頂きたい位だ!僕は結婚して以来、コイツの暴力に悩まされて来たんです!」

「…あのな。ウチはアンタと結婚してから…アンタに手ぇ挙げた事も確かに有ったわ。せやけどなぁ…それとコレとは話が別じゃ、こんのヤル事しか頭にないアホ者があぁぁぁー!」

と叫びながら、教授婦人は教授を壁に叩き付ける様に、胸ぐらを引っ掴んだ右手を突き放す。

「取り敢えず…今回の一件は非常に悪質度が高いと言う事で、先ず教授婦人に慰謝料1000万円を一括。それと娘さん達の親権は教授婦人、加えて財産分与は一切無し、且つ二度と教授婦人と娘さん達に関わらない、コレでお願い致します」

教授は文字通り、「何もかもオワタ」と言う死んだ目で、教授婦人と弁護士さんを見つめるだけだった。

「…教授。まだ、我々の話は終わっていません。続きは、別室で…」

コンプライアンス課の人達が椅子から立ち上がると、テーブルに置かれたICレコーダーとデジカメ、使い捨てカメラを回収して教授を文字通り「捕獲された宇宙人」の様な感じで別室へと連行して行く。

「千夏さん…此等はセクハラの証拠として、暫くお借りさせて頂きます。では、失礼します…」

「あぁそうや…一つ言い忘れとったわ。えぇか…慰謝料支払う相手は、ウチ一人だけじゃああらへんからな。その薄汚い雁首…しっかり洗って待ってろやあぁぁぁぁ!」

と教授婦人は、部屋から連れ出される教授に、捨て台詞を吐き出すと。

つかつかと、千夏のもとに歩み寄る。

「千夏さん、とおっしゃいましたか。この度は、ウチの主人の破廉恥極まりない行為で非常に不愉快な思いをさせてしまい…本当に申し訳有りませんでした…」

と言うと教授婦人はなんと、千夏の目の前で土下座し始めた。

さっきまで教授に強烈過ぎる悪口雑言を捲し立てていた猛女振りは何処へやら、その姿は正に、一人のしおらしい女性だった。

「あ、あの…奥様…す、すいません、お顔をお上げになって下さい…」

千夏は戸惑いながら、教授婦人に声を掛ける。

「千夏さん…本当に…本当に申し訳有りませんでした…」

「奥様…奥様は何も悪くないですから…」

「主人は…昔から❝人のものを欲しがる❞悪癖が有りまして…私との結婚も、所謂❝略奪婚❞の様なものでして…」

「そんな…」

「私と結婚して暫くは…悪癖も収まっていたのですが、娘が大きくなるに連れて、また悪癖が顔を出しまして…やはり人間の本質は…簡単には変わらないものですね…」

「そう、だったんですか…」

「千夏さん。今回の一件で受けた心の傷は…決してお金で癒やされる事が無いのは、百も承知しています。ですが…私達に出来る事と言えば…お金をお渡しする事くらいしか、出来ません…」

「奥様…」

「…千夏さん。実際に取れるかは別として、吹っ掛けるだけなら1000万でも1億でも可能です。しかも今回の案件は非常に悪質ですから、相場以上の額を受け取れるはずですよ」

「弁護士さん…」

「千夏さん…本当に、申し訳有りませんでした…御詫びと言ってはなんですが、困った事が有りましたら、何でも頼ってきて下さいね…」

…そして後日。

教授は大学より、無期限の出勤停止処分が下り…つまり、実質的なクビとなった。

そして教授婦人とは、上記の条件を丸呑みする形で離婚成立。

加えて、千夏を始めとするセクハラ被害者の皆様には…相場の倍近い慰謝料が支払われたと聞いた。

コレには…既に大学を卒業、もしくは退学された方や、セクハラを苦に自殺された御遺族の方々への支払いも含まれていたそうで、慰謝料総額は実に、宝くじの一等賞金に匹敵する位の額になったらしい。

教授は自らの欲望を制御出来なかったばかりに、文字通り地位も名誉もねぐらも財産も…全て失った、と言う訳だ。

この顛末を聞いた俺と慎也、そして千夏と鞠子は…思わず、

「ざまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁwww」

と絶叫していた。

そしてこのセクハラの一件は、「これにて一件落着」…となった、と誰もが思っていた。

少なくとも…この時点では。

・・・

「店長…書き込み終わりました。すいませんが…最終チェックお願いします」

「ハイ、分かりました…誠人くん、ご苦労様でした」

テレビの取材は一切拒否、「ミ●ュランガイド?食べ●グ?なにそれ美味しいの?」と言う立場を取り続けてきた店長は、競合店との対抗策として遅まきながらホームページを立ち上げ、お店で取り扱っている野菜やお肉が如何に安全で美味しいかを積極的にアピール。

加えて、厨房スタッフが週替りで近況を報告する「リレーコラム」を始め、ネット民の方々にお店を知ってもらう努力をしている。

今週の「リレーコラム」は俺の番と言う事で…取り敢えず無難に、美花子の育児記録を書き綴ってみた、と言う次第。

「それじゃ店長…厨房戻ります!」

「誠人くん…年末と言う事で色々大変でしょうが…もうひと踏ん張りですよ」

「分かりました!」

と言うと俺は手洗いとアルコール消毒をして厨房に戻る。

「おうマー坊、ちょうど良いところにきた!コレ食ってくれねえか?」

俺は鉄さんに促されるままに、手渡された鶏肉を口に放り込む。

「うーん、何て言ったらいいんでしょうか…昨日試食したのに比べると、感動みたいなものが乏しいですねぇ…」

「感動…っすか?先輩…」

「うん…上手く言えないですけど、❝あぁ、決して安くないお金を払って、予約した甲斐が有った❞って感じさせる要素が乏しく感じるんですよね…」

競合店への対抗策はもう一つ。

クリスマスイブに、❝完全予約受注生産❞の❝一羽丸ごとローストチキン❞を売り出す事になったのだ。

一葉先生を頂く料金設定ながら、かなりの数の予約注文を頂き、俺達厨房スタッフは全てのお客様を満足させる味付けを目指し、連日閉店間近まで試作を繰り返していた。

「それじゃマー坊…具体的にはどうする?」

「昨日使った蜂蜜はコレでしたっけ?もう少し塗り付ける量を増やして…」

等と議論を交わしていると。

店長が、厨房にひょっこりと顔を出す。

「あー…誠人くん。慎也くんから、お電話ですよ」

「慎也から…ですか?分かりました」

と言うと俺は再び事務所に戻り、電話の受話器を取る。

「もしもし…お待たせしました」

「あ、もしもし?誠人…こんな時間に本当にすまねぇ」

「何か有ったのか?慎也…」

「…アイツが、現れたんだ。千夏が住んでるアパートに…」

「アイツって…まさか…」

「その…まさかだよ。あの元教授が…千夏のアパートの周りを彷徨いているらしいんだ…」

「マジかよ…」

「…マジだ。それに昨日だけで…100件近い着信が有ったらしいんだ…」

「分からねえな…ヒマ人の考える事は…。で…千夏は?」

「今のところは、俺がアパートから大学まで付き添ってやってる。取り敢えず…俺と一緒の時は手出しはしてこないけど…」

「慎也…確かお前、ラグビー部の寮生活だったよな?そんな生活してたら…お前が壊れちまうぞ」

「分かってる。誠人…アイツのストーカー行為を止めさせる為に、何をしたら良いと思う?」

「あの日…教授婦人が連れてきた弁護士さんに相談してみたらいいんじゃないのか?確かストーカー行為を止めさせる為の❝接近禁止命令❞って有ったよな?それを実行出来ないか相談してみろよ…」

「うん…そうだな。明日にでも…電話入れてみるよ。誠人、有難う」

「何、気にすんな。それじゃ慎也…千夏を守ってやれよな」

「…勿論だ。有難う、誠人…それじゃな」

と言うと、通話が途切れた。

俺は溜息を大きく吐き出すと、事務所を出てもう一度厨房へ戻ろうとすると。

「誠人くん…何か有ったんですね?」

と、店長が俺を呼び止める。

俺はセクハラ暴露作戦からの事を、店長に打ち明けると。

「そうでしたか…その千夏さんが万が一、外出中にストーカーに遭遇したら…ウチの店に逃げ込む様に言ってあげなさい」

「良いんですか?店長…」

「…えぇ。ウチのスタッフは皆、修羅場慣れした人達ばかりですし…」

と言うと店長は、「面白くなってきた」と言わんばかりに不敵な笑顔を浮かべていた。

・・・

そして迎えたクリスマスイブ。

俺達厨房スタッフは通常業務に加えて、ローストチキン作りにてんやわんや。

しかし、そんな目の回る様な忙しさも、お客様の満足そうな笑顔を見ると、忽ち働くモチベーションへと変化していく。

「いらっしゃいませ!…あ、奥様、御無沙汰しております」

フルフェイスのヘルメットを左腕に抱えて入店して来たのは、あの大学教授❝元❞婦人。

「あ…どうも今日は。誠人さんとおっしゃいましたか、予約していたローストチキンを受け取りに参りました…」

「えーとすいません、予約した際にお渡しした半券はお持ちでしょうか?」

「ハイお待ちを…アラ?アラ?何処に行ったのかしら…すいません、ちょっと娘に電話してきます」

と言うと元婦人は携帯電話で娘さんと通話すると。

「本当にごめんなさい…その半券、家に有ったそうです。今から取りに戻りますので…少々お待ち下さいね」

と言うと元婦人はヘルメットを被り直し、メタリックグリーンのベスパに跨がると、独特なエンジン音を響かせながら家へと引き返して行った。

「お気をつけてー!…うわっ、日が暮れるに連れて寒くなってきたなぁ…」

すると。

「オイマー坊!お前に電話だぞ!」

「ハイ、少々お待ちを!」

俺は手洗いとアルコール消毒をして厨房に入り、厨房内の電話の受話器を取る。

「ハイもしもし…お電話変わりました」

「ま、誠人!アイツに…アイツにつけられてる!」

「慎也、落ち着け!今、何処に居るんだ!?」

「駅の南口から市民公園側の脇道。取り敢えず、今は茂みの陰に身を潜めてる…」

「慎也クン…怖い…」

「慎也!千夏と一緒に、俺の店に来い!」

「…良いのか?誠人…」

「構わねぇ!店の中に入っちまえばコッチのもんだ!気付かれないうちに、早く!」

「誠人…済まない。それじゃ、お前の店に行かせてもらうぜ!」

「あぁ…出来るだけ、早く来いよ!」

と言うと、俺は受話器を戻す。

「マー坊…この間言ってたストーカーか!?」

「多分、そうです」

「オイ、手の空いてる人間は戦闘準備だ!卑劣なストーカーから、慎也クンと千夏ちゃんを守り切るぞ!」

「了解!」

と言うや否や、手の空いた先輩方はモップやT字箒、オモチャの刀等を手に勝手口から外へ出て、店の周りに目を配る。

…暫くして。

手を取り合った慎也と千夏が、息も絶え絶えと言った感じで出入り口へと走って来る。

千夏は兎も角、ラガーマンの慎也が此処まで荒い息を吐いていると言う事は恐らく、相当長い距離を突っ走って来たのだろう。

「慎也!千夏!早く店の中に!」

と俺が叫んだ次の瞬間。

錆びた金属バットを手にした、みずぼらしい格好の男が…千夏目掛けて突進しての来た。

フケだらけの髪はボサボサ、薄汚れたコートからは形容し難い悪臭がプンプンと漂い、千夏を見つめるその目は…ヤバい感じで逝ってしまっている。

あの騒動の際は「軽薄そうだがそれなりにダンディーなおっさん」と言う印象だったが…今の印象はただ一言「やべーやつ」以外の表現が思い浮かばない。

「人間…ほんの数ヶ月で此処まで見た目が変わるのか」とか考えていると。

「てめぇのせいで、俺ぁ何もかも失ったんだぁ!殺してやる…殺してから犯しまくってやるぅ!」

と叫びながら金属バットを振り回し、及び腰の先輩方を威嚇する元教授。

「千夏…早く店に入れ!」

と、慎也が叫んだ次の瞬間。

振り回される金属バットを上手く掻い潜り、見事なタックルが元教授に炸裂。

そのまま駐車場に押し倒された元教授のマウントを取ると、慎也はプロレスで言う「ピンフォール」の体制で押さえ付ける。

「離れろこの野郎!あの女共々俺を嵌めやがってぇ!ふざけんな!てめぇ等のせいで…俺は全てを失ったんだぁー!」

「うるせぇセクハラ野郎!てめぇの自業自得を人のせいにすんじゃねーよ!」

「お前達さえ居なけりゃあ…お前達さえ居なけりゃあー!」

と叫ぶと元教授は、やぶれかぶれの目潰しを慎也の顔面に放つ。

「うわっ!…あ、あぁっ!」

幸いにも、慎也は咄嗟に瞼を閉じて目の怪我は免れたが、一瞬だけ押さえ付ける力が緩んだところで慎也の縛めから脱した元教授は再び金属バットを拾い上げ、ガラス扉の出入り口から侵入を試みる。

「オイ!まだシャッターは閉まらねぇのか!?」

「後少し、後少しです!」

見ると、信彦が閉店時に下ろす防犯用の金属製シャッターを下ろしているところだった。

「畜生、この野郎!この野郎!この野郎ー!!!」

元教授は金属バットで何度もシャッターをぶっ叩くが…金属製のシャッターはびくともしない。

その代わり…とてつもなく不愉快な打撃音は駐車場のみならず近隣の住宅まで響き渡り、何事かと野次馬達が群がってくる。

…と、その時。

独特なエンジン音と共に、メタリックグリーンのベスパがレストランの駐車場に引き返してきた。

「何事ですの、コレは!?」

「見ての通りです!」

俺は、そう返答するのが精一杯だった。

「…あ?」

「オンドレは…何処まで恥を上塗りすりゃあ気が済むんじゃあ、このアホンダラぁー!」

と叫ぶと元婦人は、脱いだばかりのフルフェイスヘルメットで、元教授の横っ面を手加減無しで殴打する。

「パコーン!」と言う凄まじい音と共に元教授は思わず、頬骨辺りを抑え込んでうずくまる。

「あぁ?なんや、この金属バットは…喧嘩に獲物を持ち込むんかぁ?なら遠慮は要らんわなぁ…コッチも獲物、使わさせて貰うからなぁー!!!」

と叫ぶや否や。

何と元婦人は、フルフェイスヘルメットで元教授の頭を殴打し始めた。

「ひっ…ひえっ!頼む!やめて…許してくれぇー!」

「何が❝許してくれ❞やぁ、このアホ者!んな事言うくらいやったらなぁ…ハナっからストーカーなんざすな、スットコドッコイのボケナスー!!!」

…と。

遠くから、パトカーのサイレンが聴こえてきた。

恐らく店内に逃げ込んだ千夏、若しくは野次馬の人達が通報したのだろう。

「ひっ…ひえっ、ひえぇぇぇ!」

さっきまでの殺意は何処へやら、情けない悲鳴を挙げながら元教授が、駐車場から逃走して行った…次の瞬間。

ギャギャーッ、ドドォーン!と言う、一際大きな衝突音が。

駐車場から道路へ出て見ると、フロントが凹んだワゴン車と、ガードレールにもたれ掛かった、血塗れの元教授。

状況から察するに、T字路から出てきたワゴン車が突然飛び出して来た元教授を避け切れず、撥ねてしまったのだろう。

当然、店は大混乱の極地。

現場検証に事情聴取と、とても営業どころではない。

「店長さん…私の元主人がこの様な騒動を引き起こし…本当に申し訳有りませんでした」

元婦人は店長に人目も憚らず、土下座して御詫びしている。

「あぁ、奥様…お顔をお上げになって下さい。奥様は何も悪く有りませんから…」

「それより…奥様。ローストチキンの半券は、お持ちになりましたか?」

「…え?あぁ、すっかり忘れてました…ハイ、コチラです」

「今品物をお持ちしますので…少々お待ち下さいね」

と言うと俺は、本日最後に焼き上がったローストチキンを箱詰めして、元婦人の元へと運んで行く。

「御注文の品物、お待たせ致しました」

「あ、有難う御座います…しかし、この時間ではもう…」

「…御心配無く。企業秘密なので詳しくは話せませんが…冷めても美味しく召し上がれる工夫を色々して有りますから…」

…とそこへ。

慎也と千夏が、疲れ切った表情で店から駐車場に出て来た。

「誠人…本当に済まなかった…」

「誠人クン…折角の稼ぎ時をパーにしちゃって…本当に御免なさい!」

「何でお前達が謝るんだよ…悪いのはあの元教授だろう?」

「誠人…」

「慎也、千夏…何も言うな。お前達が無事で…本当に良かったよ…」

「誠人クン…」

「コレでせっちゃんの時の、貸し借りはチャラだよな」

「チャラ?冗談じゃないよ、誠人クン…アタシ、誠人クンにそれ以上の大きな貸しを作っちゃった…」

「千夏…お前がそう思ってるなら…」

「…何?」

「お前達が幸せになる事で…貸しを返してくれよな…」

と言うと俺は、店内へと戻って行った。

・・・

元教授は低速で撥ねられた為か、一命を取り留めはしたが…右腕以外は動かせない状態に。

そのまま、何処かの施設へと入所した…とだけ、人づてに聞いた。

波平頭の弁護士さんは、「この状態では…二度と、千夏さんに付きまとう事は不可能でしょうが…」と言いながらも、所轄の警察署に「接近禁止措置」を要請し、受理されたと言う。

何はともあれ。

千夏のセクハラ騒動は…九割のメシウマと、一割の後味の悪さで幕を閉じた。

そして迎えた、美花子の一歳の誕生日。

残念ながら俺はシフトの関係で、厨房で包丁を振るっていた。

…と、そこへ。

「マー坊!お客さんだぞ!」

との、先輩の声。

「分かりました!すぐ行きます!」

と返答して、俺は出入り口へと向かう。

「あ、誠人さん…娘さんのお誕生日、御目出度う御座います」

そこに居たのは…あの教授元婦人と、超美人の娘さん三人。

「え…何で美花子の誕生日を…?」

「実はあの人とお母さんが離婚してから…私達の家庭教師として、千夏さんに勉強を教えて貰っていたんです」

「千夏さんとの雑談の中で、度々…誠人さんが話題に上がってまして…若くしてお父さんとして、頑張っているって…」

「それで今日が、娘さんのお誕生日とお伺いしまして…お母さんと私達三人で、プレゼントを用意したんです。是非…受け取って下さい!」

と三人の娘さん達は半透明のビニール袋を四つ、俺に手渡す。

「あ…その、どうもすいません…見ず知らずの赤の他人の皆様に、此処までして頂くなんて…」

「あ、あの…クリスマスのローストチキン…とっても美味しかったですよ!」

「あんな美味しいローストチキン…初めてでした!」

「コレは…ローストチキンのお返しだと思って、受け取って下さい!」

「…本当に有難う御座います!」

と言いながらビニール袋を開けてみると…。

新品のベビー服が、大量に詰まっているではないか。

「あ、あの…皆さん、本当に有難う御座います!」

「気にしないで下さい、誠人さん!」

「コレから外食する時は…このお店でさせて貰いますね!」

「誠人さん…美味しいお料理を、お願いします!」

「皆さん…有難う御座います!それで…四人様で、宜しいでしょうか?」

「あぁ、そうですね…すいません、四人でお願い致します」

「それでは、こちらへどうぞー!」

と俺は、教授元婦人と娘さん達を四人がけのテーブルに誘導すると。

「御注文が決まりましたら、お呼び下さいませー!」

と声を掛け、厨房に舞い戻る。

「オイ、マー坊…❝災い転じて福となす❞じゃあねぇが…上手い事、新規の常連さんを呼び込んだじゃねーか!」

「い、いや…こ、コレは偶然ですよ…」

「…いや、マー坊。例え偶然だったにせよ、あそこまでご新規さんの信頼を勝ち取るのは…お前の人徳の為せる技だぜぇ!」

「あ…有難う御座います!」

・・・

この日。

俺は、教授の元婦人と言う、何物にも代えがたい御得意様からの、信頼を勝取ったのであった。

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