バイト先の先輩の娘さんとの、波乱万丈な恋物語・番外編19 借金大王

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マー坊とせっちゃん…「バカ夫婦」のエッチな体験談に何時も多数の続編希望のお声を頂き…激裏GATE-エロティカの数少ないバカ夫婦のファンの皆様には心から感謝致しております。m(__)mペコリ

相変わらず読みづらい、拙い乱文では有りますがバカ夫婦と子供達、そして彼等の友人達が織りなす人間模様をお楽しみ下さいませ。

尚、予めお断りしておきますが今回はマー坊とせっちゃんのエッチは無しで御座います。御了承下さいませ。

登場人物スペック

「誠人❝マー坊❞」→洋食レストランで働いている、仮性包茎でちっぱい好きなコックさん。せっちゃん命のクソ真面目な一穴主義者。

「節子❝せっちゃん❞」→22歳で4人目の赤ちゃんを妊娠した、輪姦被害経験の有るアニメ顔のちっぱい若妻。マー坊命のちょっぴりヤキモチ妬きな一棒主義者。

「鉄さん」→誠人が働く洋食レストランの先輩コックにして、節子の父親。厳つい強面で、仕事には滅茶苦茶厳しいが孫達にはジジバカ全開の根は良い人。

「真奈美」→誠人の腹違いの妹で、バカ夫婦行きつけの総合病院に就職した新米看護師。

・・・

「3…2…1…はいそこまで!」

慎也の声に緊張がほぐれた俺は…思わず床にへなへなへなとへたり込む。

此処は慎也の親父さんが経営しているスポーツジムの一角。

以前慎也に御願いしていた、「エッチの体力を付ける為のプログラム」の完全版を肌で実感する為に、早速お試し体験キャンペーンで鍛錬に勤しんでいた俺は…想像以上のキツイ負荷にダウンしていた。

「だらしねぇなぁ、誠人…言っとくけどコレ、まだ初歩の初歩だぞ!?」

「仕方がねぇだろ、慎也…中学、そして高校と、学校公認の帰宅部だったんだからよ」

「まぁいいさ誠人…ちょっくら身体をクールダウンさせてこいよ」

汗まみれの顔をスポーツタオルで拭い…水筒内のスポーツドリンクをちびちび飲み干していると。

「アレ!?誠人さん…ですよね…?」

と汗を拭いながら声を掛けてきたのは…メンバー一の食いしん坊である、「ローゼスのエロ担当」ことドラマーの慶子さん。

ライスおかわりは平常運転、ビフテキ定食を2人分平らげて「美味しいけど量が足んなーい」とボヤくのは、今や洋食レストランでは見慣れた光景だ。

閑話休題。

「はい、誠人、ですけど…え…慶子さん?」

「あの…誠人さん、此処でトレーニングされてるん…ですか?」

「えぇ…子育ては、体力勝負ですから…」

流石に「せっちゃんとのエッチの体力作り」とは言えない俺は…3人の子供達の子育てを引き合いに出してごまかしていた(苦笑)。

ちなみに子育ても洋食レストランで働くのとはまた違う体力を要するのだから…決して嘘は付いてはいない。

「私達バンドも結構体力勝負なところは有りますね〜。ライブにしても録音にしても、へばってなんかいられませんからね…」

バキバキに割れた腹筋に下手な男性以上に引き締まった二の腕、脂肪を削ぎ落とした太腿は文字通り、「女性アスリート」と言っても充分通用する肉体美。

それでいてタンクトップ越しにも分かる、文字通り「乳カーテン」としか言いようのない2つの豊か過ぎる膨らみを、慶子さんは以前「❝あれだけ食べても胸とお尻にしか脂肪がいかない体質が羨ましい❞って明日香や巴に言われた」との事。

またまた閑話休題。

「それはそうと誠人さん…今日はお仕事お休みですか?」

「そうですよ」

「そうですか…あの、この後ローゼスのみんなで食事しながら今後の曲作りについて話し合うんです、宜しければ誠人さんも御一緒に…」

「すいません、俺も…夕方から話し合いが有るんです。越してきた親戚の方が❝大事な話が有る❞って…」

「そうでしたか、すいません…。あの誠人さん、私がジム通いをしている事は、ローゼスの他のメンバーにはナイショにしていて貰えますか?」

「はい、それは構いませんが…どうせなら、慎也にも口止め御願いした方が…」

「ん?誠人、俺がどうかしたか?」

「あ…慎也さんすいません!実は…」

・・・

「いらっしゃいませ!あ…先輩、大変御無沙汰しています!」

「マッキー、今晩は」

「いらっしゃいませ!どうぞこちらのお席に!」

「今晩は、千鶴子さん。お腹の赤ちゃんはお元気ですか?」

「ええ、お陰様で…。本当に元気が良い子で、しょっちゅうお腹を蹴飛ばしてまして…」

「おうっ、誠人さんいらっしゃい!今日はどうします!?」

「それじゃあ…旬のお魚を御願い出来ますか?」

「旬の魚…へいっ、それじゃあ若鮎なんてどうでしょうか!?」

「良いですね…それ御願いします!」

此処は以前、洋食レストランで働いていた「マッキー」こと正樹クンの父親、久徳さんが親方を務める割烹の店内。

夏休み前に新装オープンしたこのお店で、「重要な話が有ります」と言ってきた俺の親父の弟、直人叔父さんと待ち合わせをしていると言う訳だ。

「へいらっしゃい、お綺麗な別嬪さん!」

「あ…お兄様今晩は!」

「今晩は、真奈美ちゃん!」

「あの…失礼ですがお二人さんはお知り合いで?」

「お知り合いも何も…こちらは俺の腹違いの妹の真奈美ちゃんです」

「あの…どうも始めまして。私…誠人お兄様の、腹違いの妹の真奈美と申します…」

「真奈美さん、それでは以後お見知り置きを!何かリクエストは御座いますか!?」

「お兄様と同じ物を御願いします…」

「あ…誠人に真奈美ちゃん、待たせちゃって御免なさいね」

「いや…俺達もついさっき来たばっかりだぜ」

「お母様…本当に御無沙汰致しております…」

「良いのよ、真奈美ちゃん。看護師さんのお仕事は身体が資本、たまの休日はしっかり心身をリフレッシュさせないと…」

「あ…美佐代さんに真奈美ちゃん、それに誠人クン…言い出しっぺが皆さんをお待たせしてしまって本当に申し訳御座いません!」

「直人さん今晩は。大丈夫ですよ、自分達もついさっきこの店に来たばかりですから…」

「直人叔父様今晩は。新しい生活には、もうお慣れになられましたか?」

「ええ、お陰様で…あ、美佐代さん改めまして今晩は」

「それじゃあそちらのダンディーな御仁とお美しいマダム、何か御注文は御座いますか?」

・・・

「お邪魔致します…❝キノコあんかけ揚げ出し豆腐❞をお持ち致しました…」

「有難う御座います、千鶴子さん…」

「それで…直人叔父様。お話とは…」

「話と言うのは…兄のお墓の事です」

久徳さんと正樹クン達厨房スタッフが丹精込めて作り上げた、「若鮎の香草焼き」を始めとする和食と日本酒に舌鼓を打つ俺達に、直人さんが本題を切り出した。

「親父の、お墓…」

要は北関東に有る親父と真奈美ちゃんのお母様、そして父方の御先祖様のお骨を、こちらの霊園に改葬しようと言う事。

幸い墓石ごとお骨を受け入れてくれる霊園が有ったので、その費用の一部を負担して欲しいと言う訳だ。

「あの…伊知朗さんと華子さんは、なんと…」

「お二人共に賛成して下さいましたよ。❝御主人様は矢張り近しい方々がいらっしゃる所で眠らせてあげたい❞と…。それにお二人共、❝東京見物の良い名目になりますから❞とも…」

「うふふふふ…」

「分かりました…直人さん。今となっては俺に出来る親孝行は…こんな事位しか有りませんから…」

「誠人…」

「お兄様…」

「申し訳有りません、誠人クン。これから4人目の赤ちゃんが産まれると言う時に…」

「いえいえ…殆ど面識が無かったとは言え、身に余る遺産を相続した以上は、いくばくかのお金を出すのが常識かと思うんです…」

「ならば…直人叔父様。私も…お金をお出し致します」

「真奈美ちゃん…」

「本当に…良いの?真奈美ちゃん…」

「私は…生前、お父様に何一つ、親孝行出来ませんでした…せめて…せめてこんな時位…ううっ…」

「真奈美ちゃん…泣かないで…」

「お兄様…」

「誠人…」

…と、そこに。

お袋の携帯電話が、着信音を鳴らし始めた。

通話相手の通知を見てほんの一瞬だが、眉をひそめたお袋は直人さんに断りを入れると、着信ボタンを押して通話し始めた。

「はいもしもし…美佐代です。…幹雄、悪いけどこっちも今、大事な話の真っ最中なの。出来るだけ手短に頼むわね」

…とお袋の弟、幹雄叔父さんと通話するお袋の声色はゾッとする程冷淡で…まるで死体に自分語りをしている様な錯覚すら感じた。

「え?ええ?幹雄…アナタ、一体何考えてるの?」

お袋は独り言の様に呟くと席を立ち…カウンターで厨房スタッフや千鶴子さんに指示を出す久徳さんに「すいません…少々お騒がせしますが、御容赦下さい」と断りを入れ…女子トイレへと入室して行った。

「一体何だ?」と思いつつ、高野豆腐の含め煮に箸を伸ばした…次の瞬間。

「はあぁ!?幹雄、アンタそれ本っ気で言ってるの!?ふざけるのは顔だけにして、以前に貸したお金すら完済出来ていない人間に誰が追加融資するって言うのよ!」

「身内、身内って甘ったれないで!だいたい幹雄、あなた誠人とせっちゃんが結婚、出産した時何してくれたの?何してくれたの!?」

「あなたの言う❝助け合い❞って要するに、❝自分が困った時だけ何とかして貰おう❞って事でしょ!?甘ったれてんじゃないわよ、ブランド物の時計を売り飛ばすなり自分の小遣い減らすなり、お金を借りる前にやるべき事が有るでしょう!」

「兎に角!この事は今度、老人ホームに行った時にお父さんお母さんにチクらせて貰うからね!分かった!?切るわよ!」

女子トイレの個室からもハッキリと聞き取れたお袋の怒号にキョトンとした表情を見合わせ合う俺と真奈美ちゃん、それに直人さん。

「どうもお騒がせして…本当にすいませんでした…」

女子トイレの個室から出て来たお袋が、カウンターの久徳さんにお辞儀して詫びを入れると再び4人掛けのテーブル席に着席する。

「お袋。今の電話…幹雄叔父さん?」

「そう…幹雄から。お父さんのプールバーを閉めて始めたコンビニ、上手く行ってないらしいのね。それで私に❝金寄こせ❞って言ってきたのよ、以前に貸した100万すら未だ完済出来ていないって言うのに…」

「…え?お袋、今…❝寄こせ❞って言った?」

「…えぇ。❝お一人様の姉ちゃんが金を溜め込むくらいなら俺に寄こせ、その方が世のため人のためになる❞って…本っ当に❝ワケワカメ❞な言い草よ…」

「私の元クラスメートに、お父様が中華料理店を経営している麗花ちゃんと言う方がいらっしゃるのですが…❝相応の借金は経営のモチベーションになるが、分不相応な借金はその身を滅ぼす❞と、おっしゃっていました…」

「美佐代さん、今はコンビニエンスストアは過当競争状態ですからね…それこそ同じ系列同士でお客様を奪い合うケースも珍しくないらしいですね…」

「それに幹雄…よりによってせっちゃんを❝ウチのコンビニで働かせてやるから感謝しろ❞だって…幹雄がここまでバカとは思わなかったわ、全く!」

「皆さん…お話は聞かせて頂きましたよ…」

といつの間にか、久徳さんがカウンターから4人掛けのテーブル脇に立っている。

「身内ネタで恐縮ですが…息子の正樹にも嫁の千鶴子ちゃんにも…❝プロとしての意識を持って欲しい❞と、毎月キチンと給料を払っているんです。❝金を払った分、対価としてそれだけの技術と成果を見せろ❞と言う意味で…」

「親方…それが本来、有るべき経営の形です。よく❝家計が苦しいから❞と、旦那さんのお小遣いを減らす奥様がいらっしゃいますが、それは旦那さんのモチベーションを下げてしまう❝最悪の悪手❞です。それと同じで、従業員の給料を下げるのは…本当に最後の手段で有るべきなんです…」

「なるほど…」

「まぁ…せっちゃんに働きに来いと言ってる時点で…どれだけ懐具合がシンドいかお察し、ってところね」

「所謂…❝自転車操業❞って状態?」

「…でしょうね。まぁ❝金寄こせ❞って非常識な事言ってる時点で、逆にコッチは1円1銭たりとも渡す気は無いからね…」

「人様の身内にこんな事言うのもなんですが…その弟さん、❝人の上に立つ器では無かった❞って事でしょうな。❝人の上に立つ❞って事は即ち、❝人に嫌われる❞って事ですからね…」

「・・・」

「確かに…」

「兎に角…美佐代さん。その弟さんがまた集ってきましたら…私も味方になりますよ。もし今度連絡が有りましたら、❝帳簿と借金返済計画書を提出して❞と繰り返し要求して下さい。その上でお話し合いをされるのでしたら…私も同席させて頂きます」

「直人さん…馬鹿な弟の為に、本当に申し訳有りません…」

「直人さん。お袋を、御願い致します…」

・・・

「せっちゃん、ただいまー」

そして直人さん、真奈美ちゃんと別れ、鉄さん宅に帰宅した俺とお袋。

「あ…誠人さん、お帰りなさい」

「どうしたの…せっちゃん?」

「沙知子が突然、ぐずり出したと思ったら、不思議な事を言い出して…」

「…沙知子が!?」

「あ〜!あ〜!ぶーぶーどっかん!ぶーぶーどっかん!ぶーぶーどっかん!(;@;)」

「ぶーぶー…どっかん?」

…と会話していると。

突然、「グワッシャーン!」と言う派手な衝突音と地震としか思えない激しい衝撃が、鉄さん宅を襲う。

「な…何今の!?」

「分からねえ…兎に角、外出てみよう!」

と言いつつ、玄関から表に出てみると。

フロントがグチャグチャに潰れたワンボックスカーが、横向きになって鉄さん宅のブロック塀に突っ込んでいるではないか。

恐らく、先ず鉄さん宅の角に有る電信柱に車が突っ込み、その勢いで横向きになった車がブロック塀に激突したのだろう。

もう結構な時間だと言うのに、派手な衝突音にご近所さんが何事だと表に出て来ている。

「ええっと…もしもし、お巡りさんですか?今自宅のブロック塀に車が突っ込んできまして…」

「おうっ、何だマー坊!こりゃ一体、どうしたんだぁ!?」

「あ…鉄さんお帰りなさい。すいません、お袋とせっちゃんとリビングでくっちゃべっていたら突然…」

「オイコラ…出て来いクソガキ共がぁ!」

と言う鉄さんの怒声に気圧されたのか…エアーバッグが作動したワンボックスカーから若者達が男女3人ずつ、すごすごと下車してくる。

「オイガキ共…どう落とし前をつける気だコラァ!」

「す…すいません…」

「❝ごめんなさい❞で済みゃあ警察は要らねえんだコラァ!具体的にどう責任取るか、その足りねぇ頭で考えやがれコノヤロー!」

「ご主人!気持ちは分かりますが、取り敢えず落ち着いて下さい!」

と、通報を受けてパトカーでやって来た若い警官が鉄さんをたしなめる。

「オイお前等、そもそも何で我が家に特攻したんだぁ?ああぁ!?」

「それは…」

…俺達が暮らしている住宅街の外れには…真奈美ちゃんが勤務している総合病院の旧病棟が有る。

廃墟と化したその旧病棟には俺が学生の頃から、オカルト的な噂話が絶えなかった。

中でも特に有名なのは…「4階の404号病室に当たる場所に不自然なデッドスペースが存在し、そこに何かを封じている」というもの。

俺が中学生の頃、龍達クラスメートとその廃病院に肝試しに行った事が有ったのだが…2階に上がって行こうとした途端、霊感0の自分ですら「ヤバい雰囲気」を感じ、結局みんなですごすごと引き返した事が有るくらい、近隣住民からは「絶対に近付いてはならない場所」として知られるヤバい心霊スポットだ。

その廃病院によりによって肝試しに侵入した結果…何処からともなく聞こえてくる、不気味な赤ちゃんの泣き声に追い回され…一刻も早く廃病院から離れる為にアクセル全開でワンボックスカーを走らせていた結果がこの事故と言う訳だ。

「鉄さん。コレ…情けをかける必要…無くないですか?」

「…だな。おいみんな、取り敢えず家ん中入れやぁ!おうっ、お巡りさんも立会人として付いてきてくんなせぇ!」

そして鉄さん宅のリビングで若者達と氏名住所、そして連絡先をお巡りさん立ち会いの元で教え合う。

「まぁ…今日はもう時間が時間ですし、もっと突っ込んだ話し合いは後日…自分達が働いている洋食レストランで行いましょう。それで宜しいですね?」

「分かりました…」

「それから…警察に被害届を出させて頂くのと、知り合いの弁護士さんに相談させて頂きますので、御了承下さい」

「…分かりました」

・・・

「よーしタッチにと金、コレで外壁は全部だな?」

「ハイ、コレで全部です!ところで先輩…あの一件はどうなりました?」

「例の、事故の事?」

ハロウィン用のイルミネーションを洋食レストランの外壁に設置し終えた俺は、辰也クンの質問に返答し始めた。

「まだ完全には決着はついてはいないんだけど…取り敢えずブロック塀の修理費用と示談金は払って貰える事になった」

「それって…事故った車に乗ってた全員で、ですか?」

「…うん。鉄さんが、❝あの廃病院に行きさえしなければこんな事故は起きなかった、よってコレは車に乗ってた全員の連帯責任だぁー!❞って、言って聞かなくてね…」

「まぁ…あの廃病院に肝試しに行く時点で、同情の余地無しっすね」

「今回の一件で警察も、あの廃病院へのパトロールを強化するって言ってたからね。それと…本格的に立ち入り出来なくする為の策を、市役所と協議するらしいよ…」

「そうなんですか…あ、辰也さん、このジャックオーランタンは出入り口の方が良いですか?」

「そうだね、それじゃそっち持って!」

「せーのっ!」

…と、お店をハロウィン仕様に飾り付けていると。

「あの…すいません」

と、俺に声を掛けてきたのは…まさにあの日、鉄さん宅に特攻して来たワンボックスカーを運転していた大学生の兄ちゃん。

「ん…?あぁ、この間の、車を運転していた…」

「はい…その節は、本当に申し訳有りませんでした…」

と、兄ちゃんは深々と頭を下げて謝罪する。

「すいません…頭を上げて下さい。あの一件は弁護士さん立ち会いの元、公正証書化した示談書を取り交わす事で一応、決着が付きましたから…」

「あの…誠人さん、でしたか。その…自分を、此処で働かさせて頂けないでしょうか…」

「この…店で?」

「はい…両親に建て替えてもらったブロック塀の修理代と示談金を、返済する為に…」

「・・・」

「それに示談交渉の時に…食べさせて頂いたハンバーグ定食が本当に美味しくて…。それで自分も、❝こんな美味しい料理を作りたい❞と…」

「…すいません。履歴書は、御用意されてますか?」

「はい…」

「それじゃ…自分に付いてきて下さい。タッチにと金、悪いけど戻るまで此処を頼むね!」

「はい、分かりました!」

・・・

「❝健命❞…えぇと…済まねぇ、改めて…なんて読むんだい?」

「❝たける❞です」

「❝たける❞…よっしゃ、今からお前さんの渾名は❝けんめー❞だ!それじゃあタッチ、けんめーに店内の掃除の仕方を教えてやれ!」

「ハイ!分かりました!」

「それとマー坊。済まねぇがこの書類を、洋菓子屋さんの店長さんに届けてくれねぇかい?」

「ハイ、分かりました」

と言うと俺は洋食レストランの斜向いに有る、静さんの洋菓子店へと向かう。

「いらっしゃいませ…あ、誠人さん!ねーねーせっちゃん、愛しの旦那様の御来店だよー!」

実用性重視のパティシエ服を纏った樹里愛さんが、からかい半分で調理場に声を掛ける。

「あっ…誠人さん!」

「せっちゃん…悪いけどこの書類、店長の静さんに渡しておいて」

「ハイ分かりました、誠人さん♡」

「それじゃすいません、自分は仕込みが有るもので…」

「あの…誠人さん。ちょっとだけ…良いですか?」

「何ですか、樹里愛さん?出来れば、手短に…」

「あの…怜王の為にはやっぱり、両親が揃っていた方が良いんでしょうか?」

「それは…何とも言えないですね。❝居ない方が子の為になる親❞も居ますし…」

「怜王…最近、岳志さんにすっかり懐いてしまって…。七夕の時、❝れおにぱぱができますよおに❞って、短冊に書いていたくらいで…」

「・・・」

「この間も、西武ドームに野球の試合を見に連れて行って頂いたり…休日にはキャッチボールをして貰ったり…」

「それで…樹里愛さんは岳志さんをどう、思っていらっしゃるんですか?」

「やっぱり…私みたいな中卒のギャル崩れのシンママじゃあ、岳志さんに…」

「すいません、失礼しまーす!」

…と、そこに。

アイドルバンド「ドリームトレイン」のベーシスト、秋子さんが入店してきた。

「あ、秋子さんどうも今日は!今日は何をお求めでしょうか!?」

「あ、あの…すいません、このポスターを、お店に貼らせて頂いて宜しいでしょうか?」

「え…コレ、俺の母校…?」

「はい…公立高校の学園祭にお呼ばれ致しまして…そうだ誠人さん、誠人さんがお勤めしてる洋食レストランにもこのポスター、貼らせてもらって宜しいでしょうか!?」

「分かりました。店長の許可が下りたら貼らせてもらいます」

「うわあっ、有難う御座います!そうそう、商店街のハロウィン屋外ライブにも出演する事になりましたので、是非私達の演奏も聴きに来て下さいねっ!」

「分かりました」

「あ…え~とすいません。チョコレートシュークリームを10個御願い出来ますか?」

「それじゃあ自分もロシアケーキを御願いします」

「はい、少々お待ちをッ!」

・・・

「…にしても❝健命❞って、本当に珍しい名前だよね」

「確かに…初見で読めた人、誰も居ませんでした、今まで…」

「それで…キチンと祓ってもらったの?」

「ハイ、誠人さんに御紹介して頂いた祓い屋さんに…。❝アンタ、ガチでヤバかったぞい、放っておいたらこの私でなければ祓えない強力な霊に魂を乗っ取られていたからな❞と…」

「そう、だったのか…」

「えぇ…」

「おうっけんめー、今回の一件でちったぁ懲りたろう?ああいう❝心霊スポット❞にはなぁ、遊び半分で近付くもんじゃあねぇんだよ」

「勿論…です」

「分かりゃあ宜しい!おいマー坊、ぼちぼち賄い飯に取り掛かれや!」

「ハイ、分かりました!」

…と言いながら愛用の包丁にアルコールをスプレーし、まな板を水で濡らしていると。

「すいません、先輩!お客様ですよ!」

「俺に…客?誰だ、一体…」

と呟きながら厨房から顔を出して見ると。

立っていたのは「フレームアームズ・ガール」の源内あおを綺麗な黒髪にして、セーラー服を着せた様な美少女。

「あの…すいません、誠人さん…ですね?」

「ハイ、そうですが…」

「すいません…私を匿って下さいっ!」

「は…?匿うって、一体?」

「あ…御免なさい、自己紹介がまだでしたね。私…幹雄の娘の実咲と言います」

「実咲さん…」

「あの…実は…」

「すいません…此処で立ち話もアレですし、取り敢えずこちらに…」

と言いながら俺は実咲さんを事務所へと案内する。

「おや…誠人クン、その女の子は…?」

「自分の親戚に当たる…実咲さんです。何か訳有りみたいで、匿って欲しいと…」

「そうですか…なら、取り敢えず閉店まではこちらで…」

「…有難う御座います!」

「それじゃ店長!すいません、彼女を御願いします!」

「分かりました…誠人クン」

「それじゃすいません、厨房戻ります!」

・・・

「何ッスか、ソレ!」

「人様の親とは言え…ぶん殴ってやりたくなるクソ親っすね、全く!」

そして賄い飯を食べ終えた俺達厨房スタッフは…実咲さんの告白に思わず、怒りを露わにしていた。

要は実咲さんは幹雄叔父さんから…「女に学問は要らない、だから高校を卒業したらコンビニで働け」…と言われ、部活もアルバイトも許されず、帰宅後はひたすらコンビニでほぼ無給で働く日々。

それがコンビニの経営状態が悪くなってくるにつれて…「身体を売れ」的な発言が多くなり始め。

遂に昨日の夜…実咲さんの意思を無視して風俗業へ紹介されそうになった為、取り敢えずおぼろげに覚えていた、俺が働く洋食レストランに逃げ込んで来たと言う次第だ。

「自分の娘を風俗業にって…コレ、立派な犯罪っしょ!?」

「兎に角…当座のねぐらだが…」

「あの人なら…何とかなるかもしれません。後で連絡入れてみますね」

「あぁ…あの人か」

「あの…皆さん、私一人の為に何から何まで…本当に有難う御座います!」

「あの…すいません、実咲さん」

と、健命クンが実咲さんに声を掛ける。

「はい…何でしょう」

「あの…俺、○●大学に通ってるんですけど…満博って言う、お兄さんはいらっしゃいますか?」

「はい…確かに、○●大学に通う、満博と言う兄が居ますが…」

「やっぱり…」

「え?やっぱりって、一体…」

「此処でこんな事言うのも何なんですが…実はその満博、俺が所属しているサークルの会費を勝手に使い込んでまして…」

「…え!?」

「それで満博を問いただしたら…100万以上の借金抱えてまして…」

「はぁ!?」

「要は満博…悪いダチにキャバクラ通いを教えられて…すっかりお目当てのホステスさんに入れ込んでしまって。落とす為に結構なお金を貢いでいたんですよ」

「バカかソイツ…大学生の分際でキャバクラ通いだぁ!?冗談悪過ぎだぜぇ!?」

「そんな…」

「親が親なら、息子も息子ッスね…」

「兎に角。コイツは最早、俺達の手に負える案件じゃねぇ。マー坊、お前さんの知り合いの弁護士さんに機を見て相談してみろや」

「そうですね…分かりました、次の休みに電話相談してみますね」

「誠人さん…皆さん…有難う御座います…本当に、有難う御座います!」

「いえいえ…」

「コンビニを始めるまでは…頼り無いけど、優しかったお父さん…厳しい中に優しさが有ったお母さん…そして面白くって、頼り甲斐が有ったお兄ちゃん…」

「実咲さん…」

「それが…コンビニを始めてから全て消し飛んでしまって…ううっ、あの頃に帰りたい…ううっ、みんな笑顔でわいわいがやがやしていたあの頃に…」

「実咲さん…」

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜ん!」

「実咲ちゃん…」

「もう…嫌だ…お金なんか要らない!あの頃に…みんなで仲良く暮らしていたあの頃に戻りたいよぉー!」

「実咲さん…」

「実咲さん…なんで❝学びたい❞意欲の有る人がこんな悲惨な目に合わなきゃならないんすかぁ!?冗談じゃあないっすよ!」

「確かに、なぁ…」

・・・

「あっ…淑子さん!夜分遅く、本当に申し訳有りません!」

「いえいえ…真奈美ちゃんのお兄様の御願いですから…」

俺は夜遅くにも関わらず、洋食レストランに例のメタリックグリーンのベスパで駆け付けて来て頂いた、千夏の「セクハラ暴露作戦」、そして真奈美ちゃんが医大生だった頃に散々お世話になった「大学教授❝元❞婦人」の淑子さんに感謝の言葉を述べていた。

「それで…電話で言っていた女の子は…」

「こちらの…実咲さんです」

「どうも始めまして…。実咲と申します」

「実咲さん…ですね。詳しい事情は後でお伺いします、取り敢えずコレを被って貰えますか?」

と、相変わらず関西訛りの激しい標準語で語り掛けながら淑子さんは、収納スペースから予備のヘルメットを取り出すと実咲さんに差し出す。

「どうもすいません…」

「それでは行きますよ…あ、誠人さん…私に何か出来る事が有れば…力になりますので、遠慮なく声を掛けて下さいね…」

「有難う御座います!それではすいません、実咲さんを宜しく御願いします!」

「誠人さん…本当に有難う御座いました。すいません…失礼します」

そして2人乗りのベスパは独特なエンジン音を夜空に響かせながら、超高級マンション目指して走り去って行った。

「マー坊…」

「何でしょう?鉄さん…」

「もし…だぜ?真奈美ちゃんに借金が出来たとして…お前ならどうする?」

「真奈美ちゃんはまだ半人前とは言え…もう社会人ですからね。借金の額にもよりますけど、一応借用書を書いてもらって…」

「ふむ…御人好しだが、間違っちゃあいねぇやな。例え身内とは言え、ケジメは付けなきゃあならねぇからなぁ…」

「ええ、はい…」

「マー坊…前にも言ったが、❝一国一城の主❞ってのは想像以上に大変なんだ。自分だけじゃあない、従業員やお客様、仕入先にも❝責任❞を負わなきゃならねぇ大変な立場なんだ…」

「…はい」

「なぁ…マー坊。もしお前さんが独り立ちするその時は…残念だが資金援助は出来ねぇ。だがな…金以外の事だったら、幾らでも力になるからな!」

「鉄さん…何時になるかは分かりませんが…独り立ちするその時は、宜しく御願いします!」

「鉄さんすいません!ちょっと味見御願い出来ますか!?」

「おうっ、ちょっくら待ってろノブノブ!マー坊、厨房戻るぞぉ!」

「はいっ!」

・・・

「何よそれ…ガチの犯罪じゃないの、それ…」

そして次の休日。

淑子さん同伴で鉄さん宅を訪れた実咲さんは、俺と鉄さん御夫妻、そしてお袋に幹雄叔父さんのコンビニ経営の内情をぶち撒けていた。

せっちゃんはリビングの片隅で美花子と早矢斗、それに沙知子の面倒を見てくれている。

「おうっ、実咲ちゃん…」

「…はい」

「❝貧すれば鈍す❞って言葉は御存知ですかい?申し訳ねぇが実咲ちゃんの親父さんのコンビニは…言うなれば❝沈没寸前のタイタニック号❞だ。この際だ、いっその事ズバッと介錯してやって1からやり直す方が…」

「ですが父は…❝今更雇われる側に戻れるか❞と…結局父は、❝良い思いをしたかった❞と言うか、❝チヤホヤされたかった❞だけなんでしょうね…」

「アホやなぁ、そのお父さん…店長言うんは椅子に踏ん反り返っておるやけで、務まるもんじゃああらしまへん。❝お金にシビア❞やない人間には❝人を雇う❞資格はありまへんのや…」

口調こそ静かだが関西弁全開で、淑子さんは幹雄叔父さんを批判する。

「はい…」

「それで…幹雄叔父さんはお兄さんの事は…」

「まだ…知らないはずです。と言うか…敢えて❝見て見ぬ振りをしている❞のかも…父は何時も…❝満博が大学卒業するまでの我慢、満博が家業を継いでくれれば一発逆転も夢じゃない❞と…」

「はぁ…こらあきまへんわ。❝希望的観測に基づく楽観的な見通し❞言うんは…経営者、リーダー、指揮官が一番したらアカン事ですよってになぁ。さっき鉄さんが仰った様に…こらズバッと首を落として差し上げるべきでんな…」

「淑子さん…」

…と、そこで。

お袋の携帯電話が、着信音を鳴らし始めた。

「皆さん、すいません…幹雄からです」

と告げるとお袋は着信ボタンを押し、幹雄叔父さんと通話し始めた。

「もしもし。…は?実咲ちゃん?…居るわよ、此処に。はぁ?幹雄、誰がアンタのところに返すと思うの、実の娘を風俗落ちさせるような父親に?」

「…あのね、幹雄。もう40代にもなったおっさんが…実の娘に言っていい事と言ってはいけない事の区別すら、つかないの?ましてこんな悪い冗談…私だったら速攻縁切りものよ」

「だー・かー・らー!アンタみたいな父親のクズに実咲ちゃんを戻す気はこれっぽっちも無いって言ってんのよ!兎に角!電話越しじゃあ埒が明かないわ、この際…面と向かって直接話し合いましょ!」

「場所は誠人が働いてる洋食レストラン!時間は…7時から!それと…当日は知り合いの会計士さんに弁護士さん、それに実咲ちゃんを預かって頂いている方にも同席して貰うから。分かった!?後、店の帳簿と借金返済計画書も持って来る事!逃げんじゃないわよ、幹雄!それじゃあ切るわよ!」

最後はお袋が要求をほぼ一方的に伝える形で通話を終えると、お袋は携帯電話の電源を落とした。

「せっちゃん…御免なさいね。こんな話、本当にお腹の赤ちゃんの胎教に良くないのに…」

「お母様…」

「せっちゃん…美花子に早矢斗、それに沙知子は俺が見てるから。せっちゃんは…ベッドでゆっくり休んでて…」

「誠人さん、御免ね…すいません、それじゃ節、横になってきます…」

多少膨らみが目立ち始めたお腹を抱えて…せっちゃんは2階の寝室へと上がって行った。

「本当にすいません…私の身内の事に、此処まで巻き込んでしまって…」

「構やしねぇよ、実咲ちゃん。いずれはいつか…ケリを付けなきゃならねぇ事なんだろう?だったらさっさとケリ付けて、次に進むのが得策ってもんよぉ!」

「そうですよ…実咲さん。この際、貴女のお父さんにも、厳しい現実を直視して貰わなければなりません。自分の言っている事が如何に非現実的で非常識な、激甘過ぎる考えかを…」

「淑子さん…ううっ…」

「おねーたん、ないちゃだーめー。はい、みかこのはんかち!(・∀・)つ□」

「美花子ちゃん…」

「おねーたん、げんきだしてー。そうだおねーたん、みかことしりとりしよー!」

「尻取り…」

「それじゃあ…りんご!」

「ご…ゴムバンド!」

「ど…どあら!」

「らっきょう!」

「うりふたつ!」

「つ…鶴の恩返し!」

「し…し…しんぢゅく!」

「く…クライスラー!」

「ら…らっぱ!」

「え?美花子ちゃん、❝クライスラァ❞だから❝あ❞じゃないの?」

「あ…実咲さんすいません。音引きで終わった時は、その前の字から続けるのが我が家のルールなんです…」

「そうだったんですか…すいません。それじゃパイナップル!」

「るいじあなまま!」

「マルク!」

「くじら!」

「ら…楽天市場!」

「ば…?ば…ばりかん!」

「あー、美花子の負けだねー」

「えーんえーん、みかこまたしりとりまけたー、えーんえーん…」

「ほら美花子ちゃん、泣いちゃ駄目なんでしょ?ほら美花子ちゃん、実咲のハンカチだよ」

「ぐすっ、ぐすっ…おねーたんありがと…」

「おうっ、実咲ちゃん。そろそろ晩飯にしねぇかい?」

「すいません、皆さん…何から何まで、本当に…」

「構いませんよ、実咲さん」

「実咲さん。今は皆さんの御好意に甘えて、心を落ち着けて下さい…」

「有難う御座います…皆さん…」

・・・

「先輩!お母様がいらっしゃいましたよ!」

弱火にかけた寸胴鍋の前で、仕事用の懐中時計とにらめっこしていた俺は…信彦の呼び掛けに我に返る。

「分かった…ノブノブ。後ちょっとだから、コレだけ終わらさせてくれ」

「了解ッす!」

「…よしっ!すいません鉄さん、味見御願いします!」

「マー坊、器に盛り付けたら休憩だぁ!いいなあ!」

「誠人クン。代わりに私が厨房に入りますから、話し合いに加わってきなさい」

「鉄さん、店長…本当にすいません!それじゃお袋共々、話し合いに行ってきます!」

「あ…店長さん、どうも今晩は。すいません、多少お騒がせするかもしれませんが…御容赦下さいませ」

と言うと俺達親子は…実咲さんを同伴した淑子さんと直人さん、それに波平頭の弁護士さんが着席している6人掛けのテーブルに移動する。

「皆さん、我々の為に貴重な時間を割いて頂き、誠に有難う御座います…」

「いえいえ…」

「…にしても幹雄はんとやらはまだでっか?」

「…本当にすいません。我が父ながら、時間にルーズなところが有って…」

「…全く」

「いやいや姉ちゃん、遅くなっちゃって申し訳…ない…」

…と、そこへ。

ヘラヘラした表情で入店してきた幹雄叔父さんは…突き刺さる様な直人さんと淑子さん、波平頭の弁護士さんに実の娘の実咲さんの鋭い視線に気付いたのか、直ぐに表情を引き締め直す。

「どうも始めまして、幹雄さん。私、こういう者で御座います…」

と直人さんと弁護士さんが、名刺を幹雄叔父さんに手渡す。

「姉ちゃん…弁護士って…」

「・・・」

「幹雄はん…始めまして。私…実咲さんを預かってはる、大学教授元婦人の淑子と申します。以後、お見知り置きを…」

「あー…幹雄さん、とおっしゃいましたか。申し訳有りませんが、この話し合いは今から、全てICレコーダーで録音させて頂きます。御了承下さいませ…」

弁護士さんの宣言で幹雄叔父さんは漸く…自分が文字通り「完全アウェイ」の立場である事を悟った様だ。

「それでは幹雄さん、帳簿と借金返済計画書を御提出頂けますでしょうか…」

直人さんの感情を押し殺した声に…幹雄叔父さんは無言で帳簿の束とレポート用紙を数枚、直人さんに提出した。

その差し出された書類と帳簿に…直人さんは素早く目を通して行く。

「申し訳有りませんが幹雄さん…コレは最早、❝経営❞と呼ぶのもおごがまじい状態ですね。早急に店を畳む事が…❝損を少なくする❞唯一の手段です」

「…え?今…何て言いました?」

「もう一度だけ言います。幹雄さん、アナタのコンビニは最早、赤字を産み出すだけの不良債権です。早急に店を畳む事が…」

「ちょ…ちょっと待ってくれ!そこを何とかするのが、❝公認会計士❞の仕事じゃあ無いのかぁ!?」

「残念ですが…公認会計士は❝赤字を黒字に変える❞魔法使いでは有りません。経営状態を把握し、適切な助言をするのが我々公認会計士の本分です…」

「・・・」

「それにこの借金返済計画書ですが…ハッキリ申し上げて、お話になりません。❝万馬券❞や❝宝くじ❞を当てにしている時点で、目を通す価値も御座いません…」

「すいません…直人さん。その書類…お貸し頂いて宜しいでしょうか?」

「ハイ…美佐代さん」

俺はお袋共々…幹雄叔父さんが書いた「借金返済計画書」に目を通して行くうちに…リアルにめまいがする様な錯覚に陥っていた。

その内容と言えば…早い話が「ぼくがかんがえたさいきょうのしゃっきんへんさいけいかく」としか言いようが無い代物。

寧ろ、「40代のおっさんが良く、恥も外聞もなくこんな書類を提出出来たな」と、逆の意味で感心する位だ。

「幹雄…恥知らずも此処までくれば…大したものよ。実咲ちゃんを売り飛ばそうとか…」

「ね、姉ちゃん?」

「事情は…此処に来る前に、私の事務所で粗方聞かせて頂きましたよ。貴方がなさろうとした事は先ず…❝売春防止法❞と❝児童福祉法❞、それに❝人身売買罪❞に抵触する立派な犯罪行為ですね…」

「み…実咲…お、お前…お父さんが可哀相とは思わないのか?お父さんを助ける為に…」

「幹雄はん…アンタ、自分で何言わはってるか分かってまんのか?」

と、そこで。

沈黙を守っていた淑子さんが、いきなり関西弁全開で幹雄叔父さんに語り掛ける。

「父親を助ける為に我が娘に身を売れとか…アンタ、何時の時代の話してますんや?」

「そ…そうだ…満博さえ大学を卒業してくれれば…満博が自分の跡を継いでくれれば一発逆転間違い無しなんだ!」

「甘ったれた事ほざくのも大概にしなはれや。❝希望的観測に基づく楽観的見通し❞言うんは、人の上に立つ者が絶対したらアカン事ですよってになぁ?」

「し、しかし…」

「しかし…何ですのん?」

「俺に今更…❝雇われる側に戻れ❞と言うんですか?それだけはまっぴら御免だ!俺は…仕事の成果がキチンと評価される自営業で勝負したいんだ!」

「せやからそれが、❝甘ったれた考え❞言うてまんのや。実咲さんに伺いましたわ、身内やから言うてタダ働きさせてたらしいでんなぁ?身内をコキ使わな回らん自営業なんぞ、評価にも値しまへんわ…」

「・・・」

「大体幹雄はん。アンタ…自慢の倅はんが大学で何やらかしたんか、知りまへんのんかぁ?」

「え…?満博が…?」

「オイ、けんめー!彼を連れて来てくれ!」

「了解しました!」

返答した健命クンが事務所から連行して来たのは…しょんぼりした表情の茶髪の兄ちゃん。

「幹雄さん…この満博は、俺が所属しているサークルの活動費用を使い込んでいたんです。それも…キャバクラにですよ」

「本…当か、満博…?」

「コレが…その証拠です」

と言いながら健命クンは…コック服のポケットからしわくちゃになった、キャバクラの領収書を数枚取り出す。

「・・・」

「親父…すまない…」

「お父さん…」

「幹雄はん…言うなれば今のあんさんは❝血も涙もない鬼❞になる一歩手前や。せやけどなぁ…今やったらまだ…❝人間として❞誇り高く死ねますわ」

「鬼…ですか、淑子さん…」

「幹雄はん…どっちか選びなはれ…❝人間として死ぬ❞か、❝鬼として首をちょん切られる❞か…」

「ううっ…ううっ…」

「親父…」

「お父さん…」

「う…ううっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」

突如として奇声を挙げた幹雄叔父さんはへなへなへなと…床に手を付いてへたり込む。

「お父さん…どうして…どうしてこうなっちゃったの…」

幹雄叔父さんに駆け寄った実咲さんが…独り言の様に虚ろに呟く。

「実咲さん…」

「お父さん…コンビニなんかやんなければ…昔みたいに家族4人、細やかだけど平凡に暮らせていたのに…」

「実咲ちゃん…」

「なのに…なのに、コンビニを始めてから、お父さんは淑子さんが言う様に…❝血も涙もない鬼❞になっちゃった…」

「実咲…」

「私…本当にお父さんを尊敬していたんだよ…ちょっと御人好しで頼りないところは有ったけれど、何よりも私達家族を大切にしてくれていたお父さんを…」

「・・・」

「だけど…だけど今のお父さんは…自分の事と、売り上げの事しか考えていない、文字通り❝血も涙もない鬼❞だよ…お父さん…」

「実咲ちゃん…」

「もう…諦めようよ、お父さん…❝ほんの数年だったけど、良い夢を観させてもらった❞…そう思えば良いじゃない、お父さん…」

「実咲…」

「実咲ちゃん…見事な介錯っぷりですわ。幹雄はん、どうやら…諦めついたみたいどすなぁ…」

「あ…あぁ…はい…」

「そう致しましたら…精算手続きは私の会計事務所と、こちらの弁護士さんの法律事務所が仕切らさせて頂きます…宜しいでしょうか?」

「…はい、分かりました…」

「幹雄…」

「幹雄叔父さん…」

「あぁ…俺の、夢の城…」

「幹雄はん…結局幹雄はんは、❝人の上に立つ人間やなかった❞ちゅう事ですやろな。❝授業料❞と呼ぶには余りにも高過ぎる出費やったけど…これで何かを学んだ思えば、無駄な出費にはなりまへんえ…」

「淑子さん…」

「ううっ…ううう…」

「…親父。俺がこんな事言うのもアレだけどさ…金ならまた汗水垂らして働けばいいじゃん!」

「満博…」

「親父…俺、大学辞めて働く。取り敢えず…サークルのお金を返済したら、稼ぎの幾らかは親父に渡すから…」

「お兄ちゃん…」

「満博…済まない…本当に…それに実咲…済まなかった、本当に済まなかった…」

「…やめて、お父さん。お父さんのその土下座に…どれほどの価値が有るって言うの?」

「実咲ちゃん…!」

「借金で心がおかしくなっていたとは言え…勝手に風俗嬢にさせられそうになったコッチの身にもなってよ!もう私…お父さんの事、父親としては見られないよぉ!」

「実咲ちゃん…」

「お父さん…悪いけど、アタシ…暫くお父さんと距離を置こうと思う。もう一回、❝父親❞として向き合える様になるまで…。それが5年後になるのか、10年後なのか、それとも…お父さんのお葬式の時になるのかは、分からないけど…」

「実咲さん…それがエエと思いますわ。実咲さん自身…一度自分を見つめ直す時間が必要みたいですからなぁ…」

「実咲…」

「それに…幹雄はん。許すか、許さないかを決めるのは実咲ちゃん自身ですわ。土下座する位やったら…取り敢えず、汗水垂らして働きなはれ。話はそれからですわ」

「・・・」

「…幹雄はん。実咲ちゃんは引き続き…ウチがマンションで下宿させますよってに。宜しおすなぁ?」

「分かりました…淑子さん…」

「お父さん…アタシ、本当にお父さんを尊敬していたんだよ。本当に…本当に…」

「実咲ちゃん…」

・・・

「おっ、誠人か!?娘さん…すっかり大きくなったなぁ!」

「あっ…先生!御無沙汰しています!」

「ねーねー、おとーたん!このおぢたん…だあれ?」

「この人はね…お父さんが高校生だった時に御世話になった先生だよ」

「せんせぇ、どぉも!そのせつはおとーたんがおせわになりまちた!」

「み…美花子!」

「あ…節子さん、ですか?お気になさらず…」

此処は俺の母校の学園祭。

せっちゃんと子供達は歩クンのクラスの模擬店で、俺が3年生の時の担任の先生に声を掛けられていた。

クラスメートと先生は、俺とせっちゃんが遭遇してしまったあの「忌まわしい出来事」を知ってからは…聖羅先生共々メンタル面で俺をサポートしてくれたのだ。

「にしても…誠人が3人の子供の父親かぁ…道理で、俺が歳を取る訳だわ…」

「アレですね…せっちゃん、4月に赤ちゃんを出産しますんで…もうすぐ4人の子供の父親ですね…」

「せんせぇ、せんせぇ!こんどうまれてくるあかちゃんねぇ…みかこ、い〜っぱいかわいがってあげるんだよ!(・∀・)」

「はやともいっぱいかわいがる〜(・”・)」

「さちこ…おねえちゃん…(・@・)」

「先輩に奥様…すいません、長らくお待たせ致しました!」

と言いながら歩クンは、塩ダレ焼きそばを俺達バカ夫婦に配膳する。

「それじゃすいません…頂きます!」

「頂きます!」

ぱくぱく、もぐもぐ。

「美味しい!」

「本当だ…凄え美味い!」

「有難う御座います!」

「美花子…早矢斗…食べる?」

「うんっ!」

「はやと、やきそばたべたい!」

「それじゃ、ちょっと待ってね…ほら美花子、ハイどうぞ」

「わーいわーい、しおだれやきそばおいちい〜♡」

「ほら早矢斗…焼きそばどうぞ!」

「おいしー!」

「先輩…そして皆さん、有難う御座います!」

「ところで誠人。聖羅先生の結婚式だけど…」

「この間…自分の家でやってる女子会の時に報告が有りました。来年の6月に式を挙げる事に決まったと…」

「らしいな…誠人は勿論、出席するんだろう?」

「勿論ですよ。せっちゃんの❝あの一件❞では本当に、御世話になりましたから…」

「そうですね…聖羅先生には本当に、感謝しています…」

「おっ、やっぱり来てたか❝バカップル❞のお二人さん!」

…と、そこへ。

腕を組んでラブラブっぷりをアピールする、慎也と千夏の「美女と野獣」カップルが模擬店に入店して来た。

「あ…先生!どうも、御無沙汰してます!」

「おっ、慎也に千夏!お前達も、結婚するんだってなぁ!?」

「ハイ…」

「有難う御座います…」

「それで…式とかは…」

「まだ…本決まりでは無いんですけど、誠人が働いてる洋食レストランで式を挙げようかと…」

「今流行りの❝レストランウェディング❞ってアレか…」

「はい…誠人クンとせっちゃんの結婚式に出席して…❝アタシも、こんな心温まる結婚式したいなあ❞って…」

「本当に良いんだな、お二人さん?店のキャパ考えたら…本当に出席者厳選する事になるぜ?」

「アタシ達は…家の見栄の為に式を挙げる訳じゃ無いから。二人の旅立ちって言うか…その、上手く言えないけど、❝新生活の船出をみんなに見て欲しい❞って感じかな…」

「…確かにな。結婚式がゴールじゃ無い、寧ろスタートだからな。ま、慎也と千夏だったら大丈夫とは思うけどな…」

「あっ…先輩!どうも今日は!」

「節子サーン、誠人サーン!ドーモ、御無沙汰してマース!」

…と、そこへ。

辰也クンと紗里依ちゃんの「バカップル」が、お手々を繋いで模擬店に御来店。

「アッ、センセー!ドーモ御久し振りデース!」

「おっ、紗里依ちゃん元気そうだなぁ!どうだ、アニメーターの勉強は順調か!?」

「オカゲサマデー!コノ調子なら、都内のアニメスタジオにシューショク決まりそうデース!」

「そうか…そりゃ良かったな!おい辰也、紗里依ちゃんをしっかり支えてやれよっ!」

「勿論です!紗里依ちゃんと俺と…二人三脚でお互い、支え合って頑張っていきます!」

「辰也クン…♡」

「先輩すいません!塩ダレ焼きそばお待たせしましたっ!」

「有難う。それじゃ…頂きます!」

「イタダキマース!…Oh、メッチャ美味しいデース!」

「本当!俺が作った焼きそばより、美味しいかもしれない!」

「辰也クン…ハ〜イ、ア〜ンシテ…♡」

「はい、ア〜ン…」

「辰也クン…美味しい?」

「勿論。それじゃ紗里依ちゃん、ア〜ンして?」

「ハイ、ア〜ン♡」

「あらあら、お若いお二人さん…見せ付けてくれますなぁ…」

聞き覚えの有る関西訛りに振り返ってみると…実咲ちゃんを同伴した淑子さんが立っているではないか。

辰也クンと紗里依ちゃんはバツが悪そうに…顔を真っ赤っ赤にして俯向いてしまった。

「奥様、御無沙汰しています!」

「誠人さん、どうも今日は!その節は、大変御世話になりました!」

「いえいえ、自分はただ直人叔父さんと弁護士さんを紹介しただけですから…」

「でも、そのお二人を御紹介して頂かなかったら…」

「すいません、塩ダレ焼きそばお待たせ致しました!」

「それではすいません…頂きます」

「…美味しい」

「…本当ですか?有難う御座います、それもこれもみな、先輩からお借りしたレシピのお陰です」

「いや…偉いのはレシピを作った自分じゃない。レシピ通りにメニューを作り上げた調理スタッフのみんなだよ」

「そんな…もったいない言葉を有難う御座います!」

「お知らせ致します。間もなく、体育館にて行われる❝ドリームトレインライブ❞午後の部が開演致します。御興味の有る方々は是非、体育館に足をお運び下さいませ。繰り返します…」

「え…もうそんな時間!?」

「誠人さん…早く体育館行こっ♡」

「先輩方…御来店頂き、本当に有難う御座いました!」

「あっ、と金…コレは俺からのチップね。コレは打ち上げなり反省会なりに…好きに使ってね」

と言いながら俺は…諭吉先生を歩クンに握らせる。

「それじゃみんな、体育館行こう!」

「ですね、誠人さん…」

「誠人サーン、節子サーン!紗里依もライブ、行くデース!」

「淑子さん!私もライブ、行ってきます!」

「実咲ちゃん。私もライブに参戦しますよ」

「え…奥様!?」

「誠人さん…何か不具合でも?SHOW−YAやプリンセス・プリンセスを聞いて青春に過ごした自分にライブに参戦する資格は無い、とでも?」

「いえいえ、そんな…」

「うわぁ…奥様、すっごく若々しいですね!」

「みかこ、らいぶさんせんする〜p(・∀・)」

「はやともらいぶさんせん〜p(・”・)」

「さちこ…らいぶ…ヽ(・@・)」

「よっしゃ、美花子、早矢斗、沙知子…体育館にライブ聞きに行こう!」

「先輩…気を付けて行ってらっしゃいませ!」

・・・

こうして。

幹雄叔父さんのコンビニ経営騒動は、「万事目出度し」とは言えない形で…幕が降りたのであった。

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