バイト先の先輩の娘さんとの、波乱万丈な恋物語⑩ 家族になろうよ

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前回投稿した体験談第九弾に、またもや多数の続編希望のお声を頂き、このシリーズの愛読者の皆様には本当に感謝致しております。m(__)mペコリ

マー坊とせっちゃんの「バカップル」は果たして、平穏な日々を取り戻せるのか!?

尚、今回も話の内容上、エロ要素薄めです。御了承下さいませ。

登場人物スペック

誠人(マー坊)→レストランでアルバイトをしているちっぱい好きの高校三年生。仮性包茎で早漏、且つ未だに童貞。

節子(せっちゃん)→二次元アニメ顔の中二ちっぱい美少女。前々回のお話で理不尽に処女を奪われ、引きこもり中。

鉄さん→誠人のバイト先の先輩にして、節子の父親。厳つい強面で、仕事には滅茶苦茶厳しいが、根はいい人。

・・・

ディナータイムの修羅場を乗り切り、休憩室で寛ぐ俺に、鉄さんが声を掛けてきた。

「オイ、マー坊」

「鉄さん、何でしょうか?」

「悪いが、仕事が終わった後、少し残ってくれ。お前のお袋さん共々、大事な話が有るんだ」

「分かりました」

とそこへ、ウォーターサーバーのミネラルウォーターが注がれた紙コップを差し出す手。

「先輩、どうぞ」

❝ノブノブ❞こと年上の後輩、信彦だ。

「有難う」

と答えると、俺はミネラルウォーターで喉を潤す。

「今日はキツかった…」

「何言ってんの。コレがキツかったら、ランチタイムなんか❝この世の地獄❞だぜ」

「やっぱり三年も勤めてると、経験値が違いますね…」

「まぁ…何て言うのかな、言葉は悪いけど❝手の抜き方❞を自分なりに覚えてきた、って表現が一番近いかな?」

「そうですか。ところで…」

「ところで?」

「彼女さんをレイプした連中とは、その後どうなりました?」

「…この間話した示談の事か…俺の方は暴行傷害だから、さっさと示談交渉でケリつけたけど…せっちゃんの方は大モメに揉めてるみたいだな」

「なんで、ですか?」

「ココだけの話…」

俺は、声を細める。

「鉄さんが示談金による決着を、頑なに拒んでいるらしいんだ。❝服役して罪を償え、さもなくば勘当、絶縁しやがれ。金でケリを付けようなんざ、誠意の欠片も有りゃしねぇ❞って言って聞かないらしいんだ…」

「…先輩、福留孝介ってプロ野球選手、知ってます?」

「名前は聞いた事有るけど?」

「その福留が以前、契約更改の記者会見でこう言ったんですよ。❝誠意とは言葉でなく金額❞って…」

「なんだか…ミョーに説得力の有る言葉だな」

「娘さんを穢された鉄さんの気持ちは勿論分かりますけど、コレだけの大事になった以上、レイプ犯の方も失うモノは大きいですからね。家族の人達はもう、この街には住めないでしょうし…」

今回の俺とせっちゃんが遭遇してしまった❝リア充狩り事件❞は主犯格のタトゥー男が十件近くに及ぶ余罪を自供した事から連日、地元紙の社会面で報じられる程、近隣住民の耳目を集める一大事に発展していた。

タトゥー男によれば「兎に角リア充どもを破局させたかった」と言う、身勝手極まりない動機から社会人やJD・JKカップル、挙句の果てには中学生まで襲撃していたと言う。

「今の鉄さんに置き換えるならば、❝誠意とはお金でなく態度❞って訳だ…」

「俺も、コイツ等のやった事は許せません。仮に示談が成立しても間違い無く、重い厳罰が下ると思います。ですが、余り追い詰め過ぎると逆に❝窮鼠猫を噛む❞みたいな事にならないかなって…」

「確かに…おっ、もうすぐ休憩時間終わりだな。悪い、それじゃ厨房戻るわ」

と言うと俺は空になった紙コップを投げ捨て、厨房へと戻って行った。

「鉄さん、すいません。やる事、有りますか?」

「おう、丁度いいとこ来たな。このフライパンの焦げ付きを落としておいてくれ」

「…了解しました」

「んっ?どした?」

「いえ…正直、仕事している方が、気が紛れるなって…」

「…そうか。じゃあ、頼んだぞ」

俺は昔懐かしい亀の子束子を手に取ると、重曹をつけてゴシゴシと擦り出す。

…そして焦げ付きと格闘する事十分余り。

「鉄さん!この焦げ付き、どうします?」

「うーん…取り敢えず洗剤使ってみろ。それで駄目なら、金属束子だな」

「ハイ!」

俺は洗剤を束子につけて、再びゴシゴシと擦り出す。

そこへ。

「鉄さん!マー坊のお母様が来ましたよ!」

「随分早いな?」

「あの…ビーフシチュー定食注文入ってますが…どうします?」

ビーフシチュー定食は本来ならディナータイム限定のメニューで、閉店も近いこの時間に提供出来るメニューではないのだが…。

「割り増し料金込みでも構わねぇって言うんだったら注文受け付けるぞ。マー坊、ビーフシチュー作る準備しろ!」

「了解!」

と言うと俺は玉ねぎに人参とじゃがいも、それにマッシュルームを冷蔵庫から取り出し、野菜を切り分け始めた。

そして約一時間後。

「お待たせしました!」

と俺は出来立てアツアツのビーフシチューを、お袋が待つカウンター席へと運ぶ。

「誠人、無理言って御免なさいね。それでは…頂きます」

とお袋は手を合わせ、俺がメインで作ったビーフシチューを口に運ぶ。

「うわぁ…とっても美味しい!」

「お袋…どうぞごゆっくり」

と言い残し、俺は厨房へ戻る。

「…マー坊」

「はい…」

「…ご苦労だったな。事務所で待ってろ」

「分かりました」

俺は無人の事務所の照明を点け、来客用のソファーに座ってひたすら考え事をしていた。

「俺とせっちゃんは…コレから、どうなるんだろう…」

すると。

「…コチラです。どうぞ」

「すいません。それでは、お邪魔します…」

と声がしたかと思うと、ドアが開いて鉄さんとお袋が入室して来た。

そして二人は来客用のソファーに、向かい合わせに着席する。

「お忙しい所、本当に申し訳有りやせん」

「いえ、コチラこそ…それで、ご用件は…せっちゃんの事ですか?」

「お察しの通りでさぁ…」

「そちら様から自殺を図った、とお伺いしましたが…退院した後は、如何ですか?」

「マー坊が居る時はそれなりに落ち着いてるんですがね…マー坊が居なくなるとヒステリーを起こして泣き喚く、逆に無気力になって一日中部屋に引きこもり…兎に角、情緒不安定ってやつでさぁ」

「お医者さんには、かかったんですか?」

「お医者さん以前に❝男の人が怖い❞❝外に出たくない❞の一点張りでして…アッシら夫婦ももう、どうしたら良いのか分からねえ状態なんでさぁ…」

「それで…学校の方は?」

「へぇ…母ちゃん曰く、自殺未遂の原因となったいやらしい画像に関しては❝証拠が無い❞の一点張りで…この間、業を煮やして学校に怒鳴り込んですが❝暖簾に腕押し、柳に風❞で終わりでさぁ。そのくせ、❝このまま登校しないのならば、卒業試験を課すことも辞さない❞とか、ふざけた事をほざいてきまして…」

「レイプされた女の子に卒業試験を課すだなんて…最早❝学校主導のイジメ❞と言っていいですね。誠人がせっちゃんに、❝そんな学校、二度と登校しなくて良い❞って言ったのも納得出来ますね…」

とお袋は、静かな口調で憤る。

「そこで…ここからが本題です。無理な我儘は、百も承知でお願いします。どうか…どうかアッシ等と、同居しちゃあ頂けやせんでしょうか!」

と言うと鉄さんは、お袋に深々と頭を下げる。

「つまり…鉄さんのところに引っ越しして欲しい、そう言う事…ですか?」

と、俺が口を挟む。

「マー坊、そう言う事だ。お母様、無論、ただでとは言いません。引っ越し費用は半分、コチラが持たせて頂きます。どうか…」

「分かりました」

と、お袋が即答する。

「お袋…」

「ウチの馬鹿息子が人様のお役に立てると言うのならば、そのお話…喜んでお受け致します」

「…有難う御座います!」

と鉄さんは、再び深々と頭を下げる。

「それでは早速ですが、引っ越しは早い方が良いと思いやすが…」

「私も同意見です。そちらさえ良ければ、来週末にも…」

「そうですね…取り敢えず、今押し入れ代わりに使っている空き部屋が二つ有りやすんで、ソコの不用品を片付ければ寝るスペースは十分確保出来るかと…」

「それと…我が家の家電製品はどうします?」

「取り敢えず、使える物は持って来て下せぇ。コチラにもボチボチ寿命の近い電化製品が有るんで、使える物は使わさせて頂きます」

「それではすいません…コレから宜しくお願いしますね」

「とんでもねぇ!コチラこそ、宜しくお願いしまさぁ!」

・・・

「しかしまた…ラブコメみたいな話だな」

翌日。

俺は慎也に、鉄さん宅へと引っ越しが決まった旨を告げた。

「鉄さんも精神的に相当参ってたみたいだしな…以前だったら絶対にしない様なポカミスを幾つもやらかしてたし…」

「でも誠人。コレでせっちゃんと、ずっと側に居られるな?良いなぁ…」

と、羨望の眼差しを俺に送る。

慎也は高校ラグビーの県大会の活躍もあって、スポーツ推薦での大学進学がほぼ本決まり状態だったが、千夏は第一志望が女子大だと聞いていた。

つまり…このままでは、❝押し掛けボディーガード❞は、❝絵に描いた餅❞になってしまう。

閑話休題。

「あのさ。慎也、レイプされた女の子に寄り添う事がどれだけ大変な事か、分かって言ってんだよな?」

「…あぁ、分かってる。だからこそ、肩の力を抜いてリラックスしろよ。それより…」

「それより?」

「俺にも引っ越しの手伝い、させてくれねぇか?」

「…俺も今、同じ事言おうとしてた。それで報酬は…」

「ビフテキ定食二食でいいぞ」

「そんなので良いんだったら、宜しく頼むぜ!」

「それで?引っ越しは何時するんだ?」

「来週の日曜日。その日はバイト休んで引っ越しに集中しろ、って鉄さんに言われた」

「分かった」

・・・

「お前さぁ。引っ越しの手伝いに来たのか?それとも、邪魔しに来たのか?」

そして、引っ越し当日。

俺は慎也と共に、何故か引っ越しの手伝いに参加して来た千夏に思わず、嫌味を吐いていた。

「んー?勿論、お手伝いに決まってるじゃん!」

「その割には、俺の私物ばっかりチェックしてんじゃねーかよ」

「あのさ。万が一せっちゃんにエッチな本を見付けられて、幻滅されない様に気を遣ってあげてんのよ?」

「だから、エッチ本なんか無いっつーの。大体千夏。受験生が、こんな事してて良いのか?」

「受験生にだって、息抜きは必要なのよ。一日中机に向かってたら、気がおかしくなっちゃうわ」

「…へいへい」

最早千夏に何を言っても無駄だ、と判断した俺はがらんどうになった自室に掃除機を持ち込み、部屋に残された大量のホコリを吸い込み始めた。

「慎也クンに千夏ちゃん、本当に有難うね」

「何、ビフテキ定食の為ならエーンヤコーラ、ですよ(笑)」

「それに、良い受験勉強の息抜きになりましたし♡」

「お袋。コレで荷物は全部、だな?」

「…そうよ」

「どうしたんだ?お袋…」

「今まで狭い、狭いと思っていたこの家も、いざがらんどうになると結構広かったのね、って…」

「…そうだな」

俺が産まれて程なく、お袋はこのボロアパートに住み着き、そして…。

俺の成長を見守ってきてくれたこのボロアパートとも、今日でお別れかと思うと俺は一瞬、感傷的になっていた。

「それじゃ誠人。行きましょうか」

「…ああ」

そして俺は引っ越し業者のトラックに同乗して、せっちゃんのお家へ向かう。

「マー坊にお袋さん!お待ちしてましたぜ!」

有給を使って仕事を休んだ鉄さんが、玄関前で俺達親子を迎えてくれた。

「あの…せっちゃんは?」

「へへへ…節にはサプライズって事で、今日の事は黙ってたんでさぁ。よーし業者の皆さん、荷物の搬入お願いしますぜ!」

鉄さんの掛け声を合図に業者の方々が、俺達の生活用品をせっちゃんの家の中に次々と運び込んで行く。

「じゃあ、お袋と千夏は一階。俺と慎也は二階だな?」

「そうね。それじゃ、宜しく頼むわね」

当然、コレだけの引っ越しとなれば必然的に家の中は騒々しくなる。

その騒ぎがせっちゃんの耳に入らない筈は無い。

「あの…お父さん?コレ、一体何…?」

とせっちゃんが、パジャマ姿のまま部屋から這い出して来た。

「せっちゃん、今日は!」

「え…誠人さん!?なんで…なんで誠人さんが此処に居るの…?」

「今日から、このお家で一緒に暮らす事になったんだ。せっちゃん、コレから宜しくお願いします!」

「…え?」

せっちゃんは「何が何だか分からない」と言う感じで、クリクリっとした大きな瞳で俺を見つめる。

「おーい誠人!お前の机は此処で良いのか!?」

ラガーマンらしく腕力に物を言わせる慎也が、俺に部屋のレイアウトを確認する。

「そうだな、此処に置いてくれ。後洋服タンスはコッチだな。慎也、そっち持ってくれ!」

「おうっ!」

と声を掛けると男二人は洋服タンスを部屋の隅へと移動させる。

「あ、誠人さん…節にもお手伝いさせて…」

「せっちゃん、有難う。でもまずは…着替えた方が良くない?」

「・・・」

顔を真っ赤っ赤に染めたせっちゃんはそそくさと、自室へと戻って行った。

と、そこへ。

「あの…すいません。コレ…何ですか?」

玄関から明らかに戸惑った口調の、瑠璃子ちゃんの声が聞こえてくる。

「瑠璃子ちゃん、今日は。今日からせっちゃんのお家に、同居させてもらう事になったんだ。これから宜しくお願いしますね」

「え、そうなんですか!誠人さん、これから宜しくお願いしますね…」

「コチラこそ、宜しくお願いします。ところで瑠璃子ちゃん、そのハサミどうしたの?」

瑠璃子ちゃんの手には素人の自分でも分かる、理容ハサミが二つ握られている。

「あの…実は私、両親が美容師なんです。だから今日は、節の髪の毛を切ってあげようと思って来たんですけど…」

「そうなんだ…取り敢えず、邪魔になんないところへ避難しようか」

「あ…あ、そうですね」

「あ、瑠璃ちゃん…来てくれたんだ…」

俺はせっちゃんと瑠璃子ちゃんに、簡単に引っ越しの経緯を話す。

「・・・」

「そうだったんですか…」

「そう言う事。荷物の搬入も終わったみたいだし、瑠璃子ちゃん、せっちゃんの髪の毛切ってあげて?」

「はいっ、分かりました!それじゃすいません、コレから暫くお風呂場は男子禁制でお願いしまーす!」

と宣言すると、瑠璃子ちゃんはせっちゃんと共にお風呂場へと入って行った。

「へぇー、瑠璃子ちゃんかぁ…そうだ誠人クン!これからせっちゃん家で定期的に、女子会やって良いかな?」

「それを決めるのは鉄さんご夫妻。あくまで俺達は、ただの居候にすぎねぇからな」

「あらあら、良いじゃないですか。千夏さんとおっしゃいましたか、節を励ましてあげて下さいね」

と、せっちゃんのお母様が千夏に同調する。

「有難う御座います!」

「千夏…お前結局ただ騒ぎたい、だけじゃねーのか?」

「…かもね。だけどさぁ、こう言うところから、せっちゃんが社会復帰の第一歩を踏み出してくれたらなぁって、ね…」

「まぁ、それはともかくとして、だ。千夏、ソコの食器、片付けてくれ」

「はいはーい!」

「それじゃ誠人…コレから、ご近所さんに、引っ越しの御挨拶回りに行って来るわね」

「ああ…気を付けてな、お袋」

「誠人さん、お疲れ様。お友達の皆さんも、ちょっと一服しませんか?」

「お母様、すいません。それじゃ、お言葉に甘えさせて貰います」

俺達はせっちゃんのお母様が用意した、緑茶と羊羹に舌鼓を打つ。

「うーん…羊羹の甘さが、五臓六腑に沁み渡るぜ…」

「うわぁーっ、甘くて美味しい!」

「あ、羊羹…」

と、瑠璃子ちゃんに髪を切り揃えて貰ったせっちゃんが、談笑の輪に加わる。

「あ…せっちゃん。髪切り揃えて貰って、可愛くなったね」

「…誠人さん。久し振りに、アレしよ?」

「…アレ?此処で?」

「誠人さん。ハイ、ア〜ンして♡」

と俺の返答も聞かず、せっちゃんは羊羹を俺の口に向けてくる。

「ハイ、ア〜ン」

もぐもぐ。

「それじゃせっちゃん、ア〜ンして」

「ハイ、ア〜ン♡」

ぱくぱく。

「うふふ…」

「…あんだよ、千夏」

「やっと何時ものバカップル振りが戻って来たなー、って思ってね…」

「そうだな、千夏。やっぱりお前等の❝ハイ、ア~ン❞かねえと、何か物足りないよな」

「それじゃ、慎也クン。ア~ンして♡」

「ア、ア~ン…」

むしゃむしゃ。

「ち、千夏。ア~ンして…」

「ハイ、ア~ン♡」

かみかみ。

「なんだかんだ言ってお前等も、充分バカップルしてるじゃねーかよ」

「えへへ…」

「それじゃ、アナタ。今夜の晩御飯は、出前にしませんか?」

「悪くねぇな。おうみんな、何を食いたい?」

「お父さん。節、お寿司食べたいな…」

「お寿司?良いっすね!」

「良いんすか?慎也の胃袋じゃあ、最低三人分は食わないと満腹になりませんよ?」

「マー坊、細けえ事は言いっこ無しだ。良しっ母ちゃん、お寿司屋さんに電話入れてくれ!」

・・・

「誠人さん。コレは、此処で良いですか…?」

俺の新しい自室は、せっちゃんがお手伝いしてくれた事も有って、意外と早く片付いた。

「うん、そこで良いよ。コレで片付けは、殆ど終わりだな」

「誠人さん、お疲れ様でした」

と言うとせっちゃんは、俺の横に座る。

それはさながら、俺に懐いてくる小動物の様だ。

「やっぱり、誠人さんが近くに居ると節、何だかホッとするな…」

と言うとせっちゃんは自分の頭を、俺の肩に預けてくる。

その重みが何故か、とても心地良く感じられた。

「せっちゃんこそ、手伝ってくれて有難う。俺もせっちゃんが側に居てくれるだけで、生きる活力が湧いてくるんだ…」

「誠人さん…」

「せっちゃん…せっちゃんはただ生きて、そして俺の側に居てくれるだけで充分、❝生きている価値❞が有るんだよ…だからもう二度と、❝死にたい❞なんて、悲しい事は言わないで…約束だよ…」

「誠人さん…有難う…」

俺達バカップルは顔を近付けると、どちらからともなく唇を重ね合った。

「ねーねー、誠人さん。今夜は…このまま添い寝して良いかな?」

「・・・」

俺はマジで、返答に詰まっていた。

双方の親公認の仲とは言え、いきなり新婚初夜の様なシチュエーションは矢張りマズい。

だからといって、せっちゃんのお願いを無下に断るのも躊躇われる。

「どうしたの?誠人さん…」

「せっちゃん…俺、正直、戸惑ってる。いくら親公認の仲とは言え、いきなりこんな事して良いのかな、って…」

「うふふ…照れてる誠人さん、すっごく可愛い♡」

「コラッ!年上の人を、からかうんじゃありません!」

と言うと俺は、せっちゃんの頭を拳骨で殴る仕草をする。

「イタッ!」

と、せっちゃんもおどける仕草。

その可愛らしい仕草に、俺は思わず。

「アハハ…」

「うふふ…」

と何時の間にか俺達バカップルは、御互いに笑い合っていた。

「ちょっと、節ー?いつまで誠人さんのお部屋にお邪魔してるのー?」

と、せっちゃんのお母様の声が、ドア越しに聞こえてくる。

「誠人さん、御免ね…それじゃ、バイバイ」

「せっちゃん…お休みなさい」

・・・

それから約一月をかけて。

新生活の様々なルールが、作られていった。

「朝は麦飯に赤味噌、夜は銀シャリに白味噌」

「休日の食事は男性陣が作る事」

「女性陣の入浴中は男性陣は自室待機」

「土曜日の晩御飯はカレーライス」

「誰かの誕生日には必ず、イチゴショートケーキを購入すべし」

…等々。

そしてまた、新しい朝が来た。

「御早う御座います!」

詰め襟の制服に着替えてリビングに降りてきた俺は、鉄さん夫妻とせっちゃんに朝の挨拶をする。

「マー坊、おはようさん!」

「誠人さん、御早う御座います」

「誠人さん、おはよーございます!今日の朝御飯…節が作ったんだよ♡」

と、キティちゃんがプリントされた可愛らしいエプロンを身に着けたせっちゃんが微笑む。

「そりゃあ期待大だなぁ」

「でも、誠人さん。節、この麦飯の匂い、未だに慣れないな…」

「なーに、こんなもん一年も経てばすっかり慣れるって!」

「なぁ、節。麦飯は栄養価抜群で、しかも食物繊維豊富なんだ。便秘や美容にも効果絶大なんだぞ?」

「え…そうなんだ…」

そこへお袋もリビングに降りてくる。

「御早う御座います。あら、今日の朝御飯はせっちゃんの担当?」

「お早うございます!あ、誠人さん、もうすぐお弁当出来ますから、もうちょっと待って下さいね?」

「うん、期待して待ってるよ」

「あら…せっちゃん、随分元気を取り戻したわね?やっぱりせっちゃんは、明るく元気でなくっちゃ、ね」

「だって…誠人さんが居ると、何時の間にか気分がウキウキしてきちゃうんです…」

とせっちゃんは、はにかむ様に頬を染める。

「うふふ…若いって素晴らしいわねー」

「おい、節!惚気けるのは後回しにして、さっさとマー坊の弁当作っちまえ!こんなんじゃ、何時まで経っても朝飯に有り付けねぇぞ!」

と、鉄さんがせっちゃんを叱責するが。

その表情には何処か、安堵すら感じられる。

「よーしっ、と…はいっ、誠人さん!今日のお弁当一丁上がりですっ!」

とせっちゃんは俺に手作り弁当を手渡す。

俺は弁当箱を風呂敷で包み、愛用の肩掛けカバンにしまい込む。

「それじゃあ…頂きます!」

「頂きます!」

と五人は手を合わせ、せっちゃんお手製の朝食を食べ始める。

「あら…赤味噌にキャベツって、意外と合うのね…」

「美佐代さんお手製の浅漬けも、中々美味しいですよ…」

「有難う御座います」

「うん…節、中々腕を上げたじゃあねーか」

「お父さん、有難う!」

「せっちゃん…こんな美味い朝飯有難う。俺、今日一日エンジン全開で頑張っちゃうよ!」

「マー坊。エンジン全開は結構だが、バイトまで余力は残しとけよ?」

「鉄さん、分かってますよ。俺だって、もうそこまで馬鹿じゃ有りませんから」

「それより誠人さん。おかわりはどうします?」

「すいません。もう一杯、お願いします」

と、ワイワイと談笑しながら、俺達は朝食を平らげる。

「それじゃせっちゃん、洗い物お願いします」

「ハイッ!それじゃ誠人さんにお母様、行ってらっしゃ~い!」

「せっちゃん、行って来ます!」

「それじゃせっちゃん、行って来るわね」

と俺達親子は、勤務先と高校へとそれぞれ出勤・登校していった。

「うふふ…せっちゃんも以前と比べたら、とっても元気になったわね」

「そうだな…お袋。あんなに楽しく朝飯食べてると、❝今日も一日頑張ろう❞って、やる気が湧いてくるんだよな」

「後は…せっちゃんが十六歳になるのを待つだけね」

「え?なんで十六歳なんだ?」

「あら、知らなかったの?女性は、満年齢で十六歳になれば、結婚出来るのよ?」

「・・・」

俺は茹でダコの様に、顔を真っ赤っ赤に赤らめる。

「誠人…何顔を真っ赤っ赤にしてるのよ?」

「お…お袋が、変な事言うからだろっ!」

「あら…誠人、せっちゃんと一緒に居たくないの?」

「だーかーらー!」

「もう…誠人もまだまだおこちゃまなんだから…」

「・・・」

「だけど、誠人。結婚って言うのは、恋人の時とはまた違う❝責任❞が伴うのよ。今までみたいに❝好き❞って感情だけではやっていけないわ。その覚悟は出来てる?」

「…言いたい事はなんとなく分かる」

「そのへん、せっちゃんと一回きちんとお話した方が良いかもね。どういう家庭を作りたいのか、赤ちゃんは何人欲しいのか…」

「あ、赤ちゃん…」

「そう。誠人もせっちゃんも、二人の愛の結晶たる赤ちゃんは欲しいでしょっ?」

「…俺が父親になるなんて…正直、全然実感が沸かないな」

「そりゃあそうでしょ。アタシだって誠人がお腹に宿って初めて、❝自分が母親になったんだ❞って実感したんだから」

「そうか…」

「まぁ、今から結婚生活の事を考えるのは決して早くは無いと思うけど…あんまり深刻にならないでね。困ったら周りのみんなを頼れば良いだけなんだから。鉄さんご夫妻に慎也くん、千夏ちゃんや瑠璃子ちゃん…」

「有難う、お袋」

「それじゃ、誠人。気を付けてね」

「お袋こそ、気を付けてな」

そして一人きりになった俺は、せっちゃんとの将来を考えながら、新しい通学路を歩き続ける。

(確かに…せっちゃんや赤ちゃんを食べさせて行く為にはそれなりのお金が必要だし…となると今のレストランで働くのが吉なのか…うーん…)

などと考えていると。

「お早う、誠人!一足早い新婚生活、楽しんでるか?」

と慎也が軽口を叩く。

「おはよー、慎也…その言葉、もう耳にタコが出来る位聞き飽きたぜ…」

「俺とせっちゃんが同居を始めた」事は忽ち高校のビッグニュースとして全校生徒や先生方の知る所となり、俺は毎日クラスメートから冷やかしの言葉を浴びせられていた。

「バカップルめ、祝ってやる」

「お前ら早く結婚しろ」

「此処に教会を建てよう」

「地球温暖化の元凶め」

「神父さんコッチです」

「新婚さんいらっしゃーい」

「末永く爆発しろ」

…等々。

閑話休題。

「誠人、せっちゃんのご両親とは上手くやれてるか?」

「ああ。鉄さんも奥様も、とっても良くしてくれてるよ。居候にここまでしてもらうなんて、本当に申し訳無い位だぜ…」

「なら結構」

「ところで慎也。お前、自分が父親になった時の事、想像した事有るか?」

「へっ?ち、父親?」

「ああ…スパイダーマンのピーター・パーカーだったっけ?❝大いなる力には、大いなる責任が伴う❞って言うじゃねーか。結婚にだって当然、❝大好き❞だけじゃ済まされない責任が伴う訳だろ?」

「…まぁな。奥さんに子供、結婚すれば自分一人だけの人生じゃ無くなる訳だからな」

「俺…正直、怖いんだ。❝俺には、せっちゃんの人生を、背負って行く資格が有るのか?❞ってよ…」

「それは俺も同じだぜ。❝俺みたいな男が、本当に千夏の恋人で良いのか?❞ってさ…」

「なんだ…漠然とした不安を抱えてるのは、俺だけじゃなかった、って事か…」

「まぁ誠人、肩の力を抜いて気楽に行こうぜ。人生ってのは結局、❝なる様にしかならない❞んだからよ」

「…そうだな」

俺達二人は校門から、教室へと歩いて行った。

…そして、昼休み。

「うわぁ…正に新婚さんそのものだなぁ」

麦飯の上には桜そぼろでデカデカと、ハートマークが形作られていた。

「ラブラブ振りもここまでくると、むしろ清々しい位だな」

「…まぁな。慎也、食うか?」

「言っておくけど、❝ハイ、ア~ン❞は勘弁な」

「誰が男相手にするかよ」

「うわぁーっ、可愛い〜い♡ねーねー誠人クン、少しだけ貰って良いかな?」

「…少しだけだぞ、千夏」

千夏は自分の箸で、桜そぼろの乗った麦飯を摘むと。

「慎也クン、ア~ンして♡」

「ア、ア~ン…」

むしゃむしゃ。

すると慎也は、自分の弁当箱のタコさんウインナーを摘み上げ。

「ち、千夏…ア、ア~ンして?」

「ハイ、ア~ン♡」

もぐもぐ。

中庭で弁当を食べている他の生徒達は、慎也と千夏の❝美女と野獣バカップル❞を、羨望半分、呆れ半分と言った感じで眺めていた。

「お前等もすっかり、❝バカップル❞免許皆伝だな(笑)」

「ま、誠人クンとせっちゃんには負けるけど♡」

「はいはい。ところで千夏。大学入試は…一週間後か」

「そうね。やるべき事はやったし、後は体調管理だけね」

「それで、千夏。もし第一志望の女子大に合格したら…」

「合格しても、行かない」

「え!?なんでだよ!?」

「大体あの女子大は、親の見栄で無理矢理受験させられた様なものだもん。それにアタシには、やりたい事が有るの…」

「千夏のやりたい事って…」

「アタシは保育士になって、子供に携わる仕事に就きたいの。勿論、大変な仕事だってのは百も承知よ。だけど、一度切りの人生、やりたい事をやってみたいのよ、アタシは!」

「千夏。やれるところまで、頑張ってみろよ!」

「慎也クン…」

「千夏がそうしたいんだったら、俺は全力で千夏をサポートしてやるから心配するな。何が出来るかは兎も角として…な」

「ぷぷっ…」

「どうした?何がおかしいんだ?」

「そう言う無鉄砲なのに楽観的なところが慎也クンらしいな、って…」

「そ…そうか?」

「う、うん…」

「…お前等さぁ。惚気けてる暇があったら、さっさと昼飯食っちまえよ」

「あ…そ、そうだな」

「そ…そうだね…」

・・・

「今日は!すいません、店長はいらっしゃいますか?」

「事務所に居るぜ、マー坊!」

「ハイ、分かりました!」

白衣に着替えた俺は、レストランの事務所に一直線。

「店長、失礼します!」

「…どうぞ、お入りなさい」

俺は店長に促されるままに、事務所に入室する。

「誠人クン。今日は…何か御用ですか?」

「店長、お願いが有ります。コレからも…この店で、働かせて頂けないでしょうか!」

「やっと、決心が着きましたか…」

「…はい」

「良いでしょう、四月からは正式な店舗スタッフとして、このお店で働いて貰います。ただし…アルバイトではなくなる以上、より高度な技術、そして高い意識を持って貰いますよ、誠人クン」

店長は穏やかなのに、何故か凄みの効いた口調で俺に語りかけてくる。

それはあたかも、「一人の料理人として生きて行く覚悟」を、俺に問うているかのように感じられた。

「分かってます…俺はもう、一人じゃ有りませんから」

「ほっほっほ…ついでに、節子ちゃんの人生を背負って行く覚悟も出来ましたか…誠人クン」

「え、あ、は、は、はい…」

「誠人クン。❝吐いた唾は飲めない❞と言う言葉が有ります。大人の男として生きて行く以上、まずは自分の発言には、充分注意する事です。下手に発した一言が巡り巡って、重大な事案を招く事にもなりかねませんからね…」

「分かりました。以後…注意します」

「まぁ、それは兎も角として…四月のこの店恒例のお花見は、誠人クンの店舗スタッフ登用歓迎会を兼ねて行う事にしましょう」

「えっ…良いんですか!?」

「構いませんよ。こう言う宴は、口実が多ければ多いほど、盛り上がるものです」

「…有難う御座います!」

「それでは誠人クン。コレからも、頼みますよ」

「分かりました!それでは、失礼します!」

そして俺は手洗いとアルコール消毒をして、厨房へと入って行く。

「マー坊…やっと、決心が着いたか!」

「ハイ…鉄さん、コレからもご指導ご鞭撻、宜しくお願いします!」

「先輩!コレからも、頼みますよ!」

「先輩の皆さん、そしてノブノブ…コレからも、宜しくお願いします!」

「マー坊、コチラこそ宜しく頼むぞ!それじゃ早速だが、カツレツ作るから付け合せのポテト揚げてくれ!」

「了解!」

「それが終わったら、コッチの千切りキャベツな!」

「ハイッ!」

・・・

そして午後九時半過ぎ。

俺は鉄さんの家へと帰宅する。

「只今帰りましたー」

「誠人さん、おかえりなさい♡ねーねー、ご飯?お風呂?それとも…ワ・タ・シ?」

「せ、せっちゃん(汗)…ご、ご飯は食べてきたから…お風呂に入りたいな」

「あー、ざーんねーん…今、お母様が入浴中なんだ…ほらほら誠人さん、早くお部屋行こう♡」

とせっちゃんは俺の手を取って、二階の自室ヘと俺を引っ張り込む。

「せっちゃん…」

「どうしたの?誠人さん…」

「とても大事な話が有るんだ。お、俺…四月からも、あのレストランで働き続ける事にしたから…」

「ほ…本当?」

「…うん。四月からはアルバイトじゃなくて、正式な店舗スタッフだよ」

「でも…どうして?」

「少しでも…少しでも、せっちゃんと一緒に居たいから…」

「…有難う」

「え…」

「誠人さん…本当に…有難う…節…とっても嬉しいよぅ…」

俺達バカップルは互いの瞳を見詰め合い…

そして、互いの唇を貪り合った。

唐突に、自室のドアがノックされるまで。

「誠人、お帰りなさい…今お風呂空いたから、さっさと入っちゃいなさい」

「分かったよ、お袋。それじゃ、お休みなさい」

「誠人、お休み」

「あー、誠人さん…背中、流してあげようか?」

「え、えっ!?そ、それは流石にまずいよっ!」

「えー、なんでー?」

「だってお母様もまだ起きてる訳だし、万が一鉄さんにこんな所見付かったら、問答無用で家、追い出されかねないし…やっぱりこういう行為は、二人っきりの時に、するもんだと思うよ…?」

「…分かったよ。それじゃあ、節と誠人さんが、二人っきりになったらその時に、背中流してあげるねっ♡」

「…うん」

「誠人さん…」

と言うとせっちゃんは、右手の小指を俺の目の前に差し出す。

俺もせっちゃんの目の前に右手の小指を差し出すと、小指同士を絡め合い。

「♪指切りげんまん、嘘付いたら針千本飲ーます!指切った!」

と、約束を交わし合う。

「それじゃせっちゃん、お風呂入ってくるね。それと…せっちゃん、お休みなさい」

「うん…誠人さん、お休みなさい♡」

・・・

こうして、俺達バカップルは。

少しずつ、生きる意欲を取り戻して行ったのであった。

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