ケンジに反論されて一瞬たじろいだ。
でも倉庫に持ち込んで読んだ、原っぱで拾ったコミック誌の絵を思い出した。
「ああ、たしかに”おまんこ”に”おちんちん”を入れてた。」
「な、そうだろ?」
おちんちんを入れられて女の人がつらそうにしてた絵を思い出した。おしっこの穴に無理に入れたから痛かったんじゃないか?
それにお尻の穴におちんちんを入れた絵もあった。ほかにお口におちんちんを入れたのもあったけど、今それは関係ないはずだ。
「わかった。おしっこの穴やうんちの穴におちんちんを入れるんだよ」
「?」
ケンジは納得してなかった。
「入るのか?」
ケンジはそう言ったが、本当に言いたいことはそういうことじゃないみたいだった。ぼくの答えが方向違いで、その返事につい引きずられたようだ。
「入ると思うよ。女のおしっこの穴は大きいだろ?うんちの穴も入りそうだし?」
適当な返事をした。ぼくはそのとき、たてすじ全体が女のおしっこの穴だと思っている。
「うーん・・・」
まだケンジは納得しない。話題がずれたと感じ、流れを戻そうとする。
「おまんこから赤ちゃんが生まれるって言ってたぞ?」
ぼくは不快になった。
「(なんなんだよ。そんな話、聞いたことない。それに、穴の数と何の関係がある?)」
最初は女の穴の数の話だったはずだ。
女の穴の数は、たてすじとうんちの穴の2つしかないのをはっきりこの目で見て知っている。
それなのに、おちんちんを入れるとか、赤ちゃんが生まれるとか、話が関係ないほうにずれていってる。なにが知りたいんだ?
言葉を出さずにいると、ケンジがだんだん自信ある態度に変わってきた。
「なあ、たしかペンタのうちに百科事典があったろ?それで調べてみよ?」
はっとした。
ケンジの冷静な態度に感心した。普段は雑だが、ケンジは理性的な面も持ち合わせていた。
「ああ、それはいいね」
パパの部屋に百科事典がある。たしかその中に”人体大図鑑”っていうのもあった。それでこの問題は解決するかも。
「(でも女の穴のことまで書いてあるのかな・・・)」
一抹の不安はあったが、ケンジといっしょにうちに向かった。
うちに帰ると、普段と変わらずパパもママも仕事でいなかった。妹はいたけど入れ替わりでせつこの家に遊びに行った。
パパの本棚から人体大図鑑を持ち出した。ケンジはパパの本棚を興味深そうに眺めていた。リビングでケンジといっしょに図鑑を開いた。
ページをめくっていくと、女の下腹部の断面図が、縦方向と横方向、あった。ほかにも赤ちゃんがお母さんの身体の中で大きくなる様子が描かれた絵もあった。
ケンジはそういう絵を食い入るように見ていた。ぼくは図鑑に覆いかぶさるケンジの頭が邪魔でよく見えなかった。複雑な曲線が何本も描かれていて、僕にはどれが穴なのか、よくわからなかった。
最初から女の穴は2つという結論を持っていたので、ケンジが納得さえしてくれればそれでよかった。百科事典を見せてあげることができる役立つ友達として、ケンジが納得するまで親切に手助けすればいいと思っていた。
「納得できた?」
ケンジはすごく納得できたみたいで、図鑑を見たことに感謝した。
「うん、ありがと。やっぱり3つだったな」
「(えっ?3つ??)」
ぼくはまた混乱した。
いまケンジはぼくの目の前で百科事典のいろんな断面図をまじめに集中して確認していた。それを見ていたので、ケンジが結論を間違えるはずがないと思った。
自信たっぷりなケンジの態度を前に、僕の自信は急速にしぼんだ。
もともと女の穴の数なんてテーマ、どうでもよかったのに・・・
そもそも本当に3つめの穴もあるのか、あるとしたらどこにあるのか、なんのためにあるのか、今まで見ていたおしっこが出るたてすじとうんちの穴の他にもう一つ穴があったのを見落としていたのか。
そういえば、おちんちんを入れるとか言ってたけど、コミック誌ではおしっこの穴(←これは誤解)やお尻の穴に入れていたし、なぜなのか。
わけがわからなくなった。
焦りを隠しつつも、満足げなケンジにお菓子とジュースをごちそうして、遊びの誘いは断って帰らせて、ぼくは人体大図鑑をもう一度開いた。そして穴が3つある前提でもう一度断面図を精査した。
複雑な曲線でわかりづらかったがそれらの図を総合すると、上から順に、尿道(おしっこの穴、読み方はわからなかった)、膣・産道(おまんこの穴=赤ちゃんが生まれる穴、これも読み方が分からなかった)、肛門(こうもん、うんちの穴)というように並んでいる、と結論付けた。
ところがそれが、現実の観察と一致しないのだ。
その晩もパパと妹とお風呂に入ったが、妹のたてすじとうんちの穴に注意して見ても、もう一つの穴は発見できなかった。
気づけない小さな穴が開いているのか、それとも大人になるにつれて穴が開いて毛も生えてくるのか、妄想した。謎だった。