「えっ?・・・そんなことするの?」
「うん。それじゃ膝立てて・・・ちょっとだけ脚開いてみようか?」
「なんか・・・ソコ・・・広げられると恥ずかしいんだけど・・・」
「電気・・・消す?」
「別にそんな気を遣わなくっても・・・」
「それじゃ、中まで見えちゃうけど・・・それでもいい?」
「今日はわたしの身体のことを知るっていうのが目的だから良いけどさ・・・なんでわたしばっかり素っ裸でアンタが服着てんのよ!」
「僕は今・・・一応先生役だから・・・」
「でも・・・それだと雰囲気出ないね・・・」
「これって一応保健体育の延長だから・・・仕方がないかな?」
「でも、どっちかというとなんかこれってなんか・・・小さい子供がやるお医者さんごっこじゃない?」
「言われてみればそうかも・・・」
「しかもこれって、子供じゃなくってオトナの・・・・そう考えるとなんかエロい」
「そうだね。何せ僕たちオトナ・・・だしね。」
そんな事で行われているオトナのお医者さんごっこは、女性の身体のどの部分がどんなふうに感じるのか?更には性感帯というものがどんなところに隠れているのかを調べるために行われていた。
でも・・・何か・・・その「何か」が変なのである。
それは、通常感じるはずの身体の部位の反応がイマイチということ・・・。
でも、そんなのは当たり前・・・。
本来であれば入るはずのあのスイッチが入っていないからである。
だから・・・これはただの診察に近いものが・・・
「じゃ、ここは・・・どう?」
「う〜ん・・・触られてるって感じはするけど・・・ちょっとくすぐったいかな・・・?」
「うん・・そう?じゃ、これはどうかな?」
「えっ?・・・そんなに顔近づけたら恥ずかしいんだけど・・。えっ?なんで足持ち上げるの?えっ?チョット今何したの?もしかして・・・舐めてる?」
「うん。目閉じたら何されてるか分かんないでしょ?ちゃんと見て!」
「だって・・・」
「じゃ・・・見なくてもいいからちゃんと感じて。」
「う・・うん。分かった・・・」
「じゃ・・・ここは?」
「あっ、ちょっと!いきなりソコ・・・?」
「あっ・・・ゴメン。そこって敏感なところだよね?」
「うん・・・。それは良いんだけど、わたしのソコってどう?」
「どう・・・って?すごく美味しいよ。」
そう言いながら「ソコ」から顔を離したその先生とされるオトコの唇と、今の今まで舐めていた部分とが粘液の糸で結ばれ一瞬キラリと光を反射している・・・
そんな状況でその女の娘が頬を赤らめてそれに答えた。
「バカ!そんな話じゃないの!」
「じゃ・・・どんな?」
「外見的なモノ!ようは見た目・・・」
「うん・・・」
「こんなにマジマジと人に見られるの・・・初めてなんだからね!」
「うん・・そうだね。ココをこんなふうに見るのはカレシか産婦人科の先生くらいだもんね。」
うん。確かにそうである。
「変じゃない?」
この時里帆というその娘は、自分を含めた経験の浅い女の娘のほとんどが不安に思っていることを質問した。
気持ち的に分からないでもないが・・・
「そう聞かれても・・・僕は婦人科の先生じゃ無いからね。」
「違うの!他の女の娘と比べて・・・の話!風谷ってコレまでいろんな女の娘のソコ見てきたんだろ?」
「うん。そんなに多くは無いけど・・・」
「で・・・どうなの?率直な感想が聞きたい・・・」
「それじゃ言うよ。落ち着いて聞いてね。」
「もしかして・・・黒ずんでたり、カタチ・・・変だったりする?」
「いや・・・黒ずんでるところか、サーモンピンクでしかも形が整ってて凄く可愛いよ。」
「可愛い・・・って言うな!」
「じゃ、なんて言えばいい?」
「キレイ?」
「すごく綺麗だよ。」
「オトコの人って、オンナのそこが黒ずんでたりすると幻滅するんでしょ?」
「里帆ちゃん。中にはそれを気にするオトコはいるかもしれない。でも・・・僕にとってはそんなのは全く関係ない。」
「いや、お前の意見は聞いていない。でも、一般的に黒いとヤリマンだって思われるって・・・・」
「黒ずむっていうのはその女の娘の体質と、そのカレシの前戯の仕方に原因があるような気がするけど・・・。」
「体質も関係するの?」
「うん。メラニンって聞いたことあるでしょ?」
「あのシミとかの原因の・・・?」
「体質的にシミが出来やすい娘のカレシがガシガシやっちゃったりすると摩擦で黒ずむって聞いたことあるし、妊娠したりすると黒くなりやすいって・・・」
「ん?・・・妊娠・・・?そういえばわたしこの前・・・生理遅れて焦ったんだからね!」
「ゴメン・・・あの時避妊していなかった・・・っていうより、里帆ちゃんが一方的に・・・」
「そうなんだけど・・・あんなにいっぱい出るなんて思ってなかったし・・・舞衣先生にもらったナプキンにべっとりピンクの精子が着いてて、その後も動くたびにヌルって出てきて・・・生理が始まった時みたいなイヤな感じだった。」
こればかりは女性でないと分からない感覚・・・
「うん。ソレってしばらく出るよね。前にそれでハチロクのシートがパリパリに・・・」
「誰のハナシよ!」
「えっ?それって・・・里帆ちゃんも知ってる娘・・・」
「ふ〜ん・・・睾丸握り潰されなくってよかったね。わたし知ってるよ・・・先輩の起こした睾丸握り潰し事件。」
「うん。そうだよね・・・コレって有名だよね。でも、握り潰されてたら里帆ちゃんとこうはならなかった・・・」
「潰されてもよかったんじゃない?わたしみたいな被害者が出なくって・・・」
「僕は良くない!」
「結局は、またわたしとヤリたいってことなんでしょ?」
「まっ、ソレもあるけど・・・オトコにとっちゃ死活問題だから・・・」
その睾丸握り潰し事件というのは、今保健体育の先生役をしているまどかの下宿の娘であるふたばが高校時代にやらかした事件。
それは里帆の母校のサッカー部のキャプテンが、隣の女子校に通うふたばの後輩を妊娠させたことを知らぬ存ぜずとしていた事件に腹を立てたふたばが、サッカー部員の見守る公衆の面前でそのキャプテンを素っ裸にしたうえ、その睾丸を握り潰したという未だ語り継がれる伝説的武勇伝・・・
ちなみにそのふたばは身長185cmで空手の有段者ということもあり、近くに寄って見下ろされるだけでも恐ろしい存在。
しかし・・・その後、今度はまどかがそのふたばを妊娠させてしまうという緊急事態が発生することになるのだが、その時は奇跡的に睾丸は無事だった・・・という肝を潰すような後日談も・・・
「わたしさ、その人と銭湯でバッタリあったことがあって・・・色白でびっくりしたことがあったの。しかもスタイルが良くて・・・出るとこ出てて、締まってるところはキュッ・・・と」
そのような裏事情を知らない里帆が興味本位に話を続ける。
「うん・・・そうだね・・・確かに色白だったしスタイルも・・・」
「バカ・・・風谷ってオトコは・・・女の娘を素っ裸にしておいて、その娘の前で他の娘のこと言う?全くデリカシーの無い・・・」
「でも・・・その話って里帆ちゃんが振ったハナシで・・・」
「でさ・・・そんな色白の人でも妊娠しちゃったら乳首も黒くなっちゃうんでしょ?」
この時まどかはドキッとした。
それは、この里帆が知らないはずの「ソノ」話を持ち出したからである。
それはふたばの成人式が終わった数ヶ月後、そのふたばが妊娠していることなど予想だにしていなかったまどかの元に、まどかの地元で看護婦をしている従姉妹の芽衣子姉さんからの連絡があったもの。
これは地元に残してきた彼女であるあおいを事故で失ってから約半年後に迎えたふたばの成人式の後の話・・・。
その成人式のために下宿に戻ってきたふたばから「1日だけでいいからカレシを演じてくれ」と頼まれ、ふたばの友達とダブルデートをしたが・・・
その夜、まどかは自分の彼女を失ってしまった反動もあってふたばとヤリまくってしまったというもの。
その芽衣子姉さんからの電話で知らされたのは、「あなたの下宿の娘さんがが街角で倒れて、搬送されてきた自分の勤務先の病院で流産した」・・・と。
この時自分の身分を話そうとしなかったふたばの手荷物を調べた芽衣子姉さんが見つけたもの・・・
それは、豊浜下宿の名簿とまどかの写真・・
そんなまどかの写真を持ち歩くふたばは、まどかの母校の隣の大学へ通っていました。そしてある朝大学へ向かう道すがら腹痛で倒れてしまって、たまたま居合わせた通行人によって近くの病院に担ぎ込まれた・・・というもの。
そしてその知らせを聞いて駆けつけた病院でふたばがまどかに見せたもの・・・それがまさに里帆のいう黒くなった乳首・・・。
この時、ふたばから自分の意志とは関係なしに母親へなる準備を始めていた自分の身体への戸惑いを聞いたまどかは、そのふたばにプロポーズをしたのだった。しかし・・・・
「今はお互いやる事がある。それに、卒業後地元へ帰ってしまうアンタについて行くことはできない・・・」
と・・・一人っ子であるふたばに断られていた。
その後、傷心のまどかとひょんなことで出逢ったのが、今まどかのフィアンセとなっている真琴ということになる。
今そんなことを思い出して少し動揺しているまどかだが、その時必死に平静を装って・・・
「心配ないよ・・・里帆ちゃんって身体のどこにもシミがないから・・・」
そう答えた。
「見てのとおり・・・わたしって不思議とシミがないんだよね。高校時代部活であんなに日焼けしてたんだけど・・・」
「ソレって体質的に黒ずまないってことだと思う。」
「うん・・・確かに日焼けの跡も残らないし・・」
「だから心配することはないと思うよ。でもさ・・・色もそうなんだけど、人がそれぞれ違った顔をしていてそれぞれに表情はあるように、女の娘のココの表情も人それぞれなんだよ。」
そう答えたまどかが過去に見てきた女性のアソコは数人・・・
その中で言えることは、身体の大きさとアソコの大きさは大体比例しているということであった。コレは、オトコで世界でもそんな感じであると中学生の時の彼女であった理央から聞いたことがあった。
因みに現在の理央の彼氏は身長180を超える大男・・・
そして、それと同じく身長185の大女であるふたばのアソコは切長で造りも大きいが、逆に身長148のまどかのフィアンセである真琴のソコは精密部品のような造りをしており、さらにその深さも比例していた。
ふたばは底なし、真琴は物凄く浅い・・・みたいな・・・。
コレは女性の神秘?・・・
そんな数人程度のソコしか見たことのないまどかが、さぞ沢山の女性のアソコを見てきて、さらに女性のソコが千差万別みたいなことを言ったことに里帆が驚きを隠せない。
半分ハッタリみたいなものであったが・・・
「えっ?そうなの?」
「うん。そうだよ。」
「オンナってさ・・・他の娘のソコをマジマジと見る機会なんてないからそんなの分かんないよ・・・」
「オトコ代表の僕が見るに、里帆ちゃんのソコってすごく綺麗だから・・・心配しないで。」
「え?本当に?」
「うん。でもオナニーの仕方が間違ってたり、無理矢理されちゃった娘なんかは見れば分かるくらいになるって聞いたことある。」
「それって一生モノでしょ?努力すれば戻るっていうシロモノじゃ無いでしょ?」
「うん・・・そう・・・だよね。」
この時まどかの脳裏に浮かんだのは、実姉である麻美子姉さんがレイプされていたところに出会した現場の映像。
その後、逆上したまどかがその犯人を全治6ヶ月にしてしまうまで殴り続け、最後には逆にそのまどかが留置所に入る羽目に・・
その麻美子姉さんのアソコが酷いことになっていたのだ。
それは長時間に及ぶ無理な行為により、見るも無惨な状況に・・・更にはその行為により子供を授かれない身体にも・・・
でも・・・麻美子姉さんの高校の時同級生だった舞衣さんの弟が「それでもいいから・・・」と全て受け入れたうえで求婚し、悩みに悩んだ姉さんがそれを受け入れた。本当にこの二人には幸せになってほしいと思うまどかではあったが・・・
そんなことで義姉となってしまった舞衣さんとの関係に少し悩む義弟がそこに居た。
「ん?・・・どうしたの?・・・オトコのひともそうなんでしょ?」
何も知らない里帆は、この時難しい顔をしていたまどかにそう声を掛け話を引き戻した。
「えっ?なんの話だっけ?」
「アレ・・・オトコのコレの形・・・」
その時の里帆の指先はまどかの股間を指していた。
「え・・あっ・・うん。そうだと思う・・・。オトコもまた人のをマジマジとは見ないから良くはわからないけど・・・」
「でも、舞衣先生が言ってたよ。」
「えっ?」
「オマエのは大きい方じゃ無い・・・って。」
そんなことを言っていた舞衣さんとの関係が「そんな関係」となっていて、ソレがまどかの悩みの種・・・
義理の兄妹となる前にそうなってしまったものではあるが・・・
このまどかというオトコ・・・女性に興味がありません的な顔をしておきながら全く節操のないヤローである。
「やっ・・・ヤッパリ・・・・そうなんだよね。何せ舞衣さんの元カレって身長高かったから・・・」
「でも・・・オマエのってカチカチなんだって?大きくてもフニャチンより全然硬い方がいいって・・・」
「ま・・まあ、そうだよね。」
アレについてそんなふうに言っていた舞衣さんの元カレ(交通機動隊の警察官)は、背も高くて今でいうイケメンであった。
でも、舞衣さんのナイスボディーを前にするとビビってしまって役勃たずになってしまった・・・という、そんな情けないカレシ・・・
「でも、オマエのって大きくは無いけど傘が開いてて・・・・それは凄いって言ってた。」
「うん・・・フニャチンよりは・・・」
「そんなのがわたしの中に入ったんだよ。痛くって当たり前・・・」
「ゴメン・・・痛かったでしょ?」
「うん・・・。すごく痛かった。無理矢理金属バットを捻り込まれたみたいに・・・メリメリって感じで入ってきて・・・」
「きっ・・金属バット?」
「それよりさ・・・今日風谷に触られたりさっきみたいにペロってされても興奮もしないし、感じたりもしないんだけど・・・そっちの方が大問題じゃない?」
「そうだね・・・保健体育の授業といえどあちこち触ってるよね・・・こんなふうに・・・」
「チョット・・・そんなこと言って触りたいだけじゃないの?オトコってコレだから・・・えっ?もしかしてわたしって・・・不感症?」
でも・・・そんなやり取りも、いたって真面目な保健体育の授業の一環・・・
もちろんその授業は学校の教室で行われることはない。
しかもそれはひとりの女の娘をひとりのオトナの女性にするための場所・・・。
そこはそんなオトナの保健室・・・と表現してもおかしくないオトナの男女の憩いの場・・・。
つまりここはラブホの一室。
そんな保健体育の授業は、まどかという大学4年生が以前里帆という女の娘の初めてというものを貰った翌朝、その里帆という二十歳の女の娘がまどかに抗議したのが事の発端であった。
「昨晩ヤッタお前とのセックスは痛いだけのセックスだった・・・だから、責任とってわたしをキチンとオンナにしろ・・・」
ということでそのまどかが先生となり、その生徒が二十歳の里帆というそんな場面・・・。
これはまどかがその「オンナにしろ・・・」という言葉を投げかけられた一月後の話である。
「・・・そうだよな。これじゃヤリ逃げになっちゃうし・・・。と言ってもこの女の娘を彼女にはできないし・・・。せめて、何処に出しても恥ずかしくないオトナのオンナにしてあげなくては・・・」
そんな・・・オトコにとって都合の良い解釈をしたのか単なる責任感からかは判りかねるが、その時まどかはいつも利用しているラブホでその女の娘の裸体の隅々を保健体育の授業と称して撫でるように触っているというそんな場面・・・。
でも、この時そのまどかは婚約中の身で本当はこんなことしてちゃダメなのは承知の上だったのだが・・・。
冒頭こんなところから始まる今回のストーリーは本編シリーズ第37話となり、前作第36話の後日談を綴った番外編となります。
なおこの物語は、現代から30年以上前の平成2年の北東北にある小さな臨港都市が舞台となっており、今とはちょっと違った時代背景となっておりますのでご了承ください。
そんな時代のそんな場面のそのまどかの前で全裸状態で横たわる里帆という女の娘には、今でいうインターン的に働いている職場に想いを寄せた先輩がいました。
その職場というのが、国道の維持管理などを行なっている役所となります。
その先輩は一戸という30前の体育会系男子で、里帆の高校の先輩に当たります。高校時代は県内屈指の野球の強豪校と言われる里帆の母校で正捕手を2年間勤めていて、卒業後はソフトボール部で同じく正捕手だったり里帆にアドバイスをくれていた・・・そんな間柄です。
話はそのオトナのお医者さんゴッコの約1ヶ月前に遡ります。
その時、里帆のインターン期間満了が迫っていた・・・そんな時です。。
そして里帆はそのインターン先の職場の先輩にいつ告白すべきか迷っていましたが、ある日職場の給湯室脇の男子トイレから聞こえてきたその先輩とその同僚の話をたまたま耳にした里帆は、その先輩が結構女性経験が豊富であることを知ります。
でも・・・そんな先輩に想いを告白しようとしている里帆自身は全くの生娘で男性経験など全くないズブの素人・・・。
そんな中、今まで男勝りで何事もオトコと対等でないと気が済まないそんな里帆が悩んでいた時、同じく生娘だった双子の姉の夏帆の朝帰りを見て驚いていました。
その仕草や表情が急に女っぽくなったと言うことに・・・。
昨日、その夏帆が長い間も想いを寄せていた大学生とやっとのことでデートまで漕ぎつけ、そしてその初めてのデートで初めての朝帰りしていました。
初めてのデートでいきなり朝帰りということは、すでに弄ばれていると言うことにはなりますが・・・。
でも・・・そんな夏帆の表情がオンナになってることを察知した妹の里帆は焦り始めます。
「捨てるもの早く捨てなきゃ」・・・と。
そんなモノは高校時代にみんな捨ててしまう事が常識だったそんな時代であったため、高校時代にソレを捨てそびれていた里帆の焦りが頂点に達していた・・・そんな時でした。
職場に母校で所属していたソフトボール部の監督からの一本の電話・・・
それは「郊外で計画している国道の拡幅工事を教育実習の題材としたいのでその概要を教えて欲しい」・・・と。
その監督は母校の工業科で土木計画というものを教えているということを在学中に聞いていたような・・・
そしてしばらくして、勤めている職場に現れたのがその懐かしい監督である佐藤先生でしたが、なぜか小判鮫のように一緒に来た教育実習生の学生がどこかで見たような気がして胸騒ぎを覚えます。
さらにその学生の胸の名札を見ると「風谷」と記されています。
ここで思い出しました。
「この顔この姿・・・それと姉の夏帆と並んで撮影されたその高くない身長・・・これは姉の夏帆が後生大事に手帳に挟んでいた写真のオトコ・・・うん。間違いない!」
そうです。里帆がそう見込んだこのオトコが、全くそういうことに縁がなく全くそういうことが初めてだった夏帆を弄んで捨てたあの憎っくき風谷(まどかのこと)でした。
「今晩ツラ・・・貸しな。連絡するから面の皮洗って待ってろ・・・」
その時里帆は、後でその風谷というオトコを呼び出して説教でもしてやろうと、そう伝えたのですが・・・仕事が終わってからソイツの下宿に連絡しても一向に連絡が着きません。
そして豪を煮やした里帆はその下宿へ向かいましたが・・・
その風谷という大学生の下宿のすぐ近くのアパートの駐車場で、白いスターレットから降りようとしていた高3の時の担任であった小林舞衣先生とバッタリ再会しました。
そして・・・いつの間にかその舞衣先生の部屋で、その舞衣先生の作るカクテルを飲んでベロンベロンに・・・
そのカクテルはこれから来る客人に出すために考えたというものらしく、帰りの代行代を出すから味見してほしいと言われ呑み始めたものです。
そこで酔っ払った里帆は自分か処女であること、そしてその処女という厄介なものはすぐにでも捨てたいと愚痴っていました。
自分の姉がオンナというものになってしまったように・・・同じように・・・自分も・・・
そこへどういう訳か現れたのが舞衣先生の待っていた客人・・・それが風谷でした。
この風谷というオトコが舞衣先生の義弟になっていることを知らなかった里帆は、その二人の会話から何処か親しげな感じをと言うよりは何やら怪しい感じを受けています。
その後、舞衣先生が考案したいろんなそのカクテルをみんなで試飲するうちに3人とも酔いが回って更にベロベロに・・・
そして、酔いつぶれてしまった風谷をイタズラし始めた舞衣先生が、オトナの授業と称して義弟のモノを口に含んだ後・・・・
その生徒である里帆も先生の指導の元、今の今までその先生が口に含んでいたまるでキノコの山のようなソレを見よう見真似で口に含んでいました。
舞衣先生が言うように・・・いろんなやり方で・・・
最後にはソレから勢いよく発射されたモノを喉で受け止め、訳もわからないまま飲んでいました。
そして・・・今度は舞衣先生が見守る中、いつの間にかその硬くなったモノを跨いで腰を下ろして・・・
「いっ・・・痛たっ・・・」
それが里帆にとってその初めての行為の初めての感覚でした。
スポーツ選手なんかは運動中に処女膜が破れてしまているから初めてでも痛くないというようなことが囁かれていましたが・・・
そんなのは・・・嘘でした。
しかもまだ・・・ほんの少ししか入っていない状況でこんなに痛いとは・・・
その時、里帆の大事なところにその先端が刺さった状態の「ソレ」が里帆の中でビクビクと反応し、さらに硬くなってきました。
すると今の今まで寝ていたはずのその風谷の目がぱっと開いて、自分と里帆が繋がっている部分を凝視しています。
「あっ・・・里帆ちゃん。ちょっと待った!動かないで・・・・。里帆ちゃんが・・・壊れちゃう・・・」
この時まどかはその行為が現実に起きているものなのか、また夢の中でのことなのか分からないまま呂律が回らない口調でそう言っているようでした。
「オマエは黙って!何が壊れるっていうんだ!」
この時里帆は、どこかこのオトコに気遣いをさせたようなことに腹が立ってさらに力を入れて腰を落として動き続け、そして最後にそのオトコの出した熱くて大量の白い液体を胎内に受け入れた・・・
ソレは気持ち良いとか、感じるとかそういうものとは一切無縁のただただ痛みに耐えたそんな体験・・・
これがこの小比類巻里帆という二十歳の女の娘の初体験です。
その後酔いが冷めてきた里帆は、血液混りのピンクの精液があちこちに着いてしまったベッドのシーツを取り替え、そしてそのベッド脇に舞衣先生が敷いてくれた客布団で不本意ながらもその初めてを捧げたオトコに抱きついて一夜を過ごしました。
この時処女を捨てた里帆はどういう訳か一人になるのがすごく不安になってしまっていて、何かにしがみついていないと自分が何処かへ行ってしまうような不安と戦っていました。
そして自分の額をまどかの頬にくっつけ続け、アソコがジンジン痛むのを我慢し一睡もできないまま朝が来た・・・という次第です。
すると朝方、突然隣のベッドで寝ていた舞衣先生が飛び起き、口を押さえながらトイレに向かいましたがトイレまで到達できなままキッチンの先あたりで吐いている音が・・・
・・・あれだけ呑めばそうもなるよね。
そう・・・昨日舞衣先生は里帆とまどかの行為を指導しながらいろんなカクテルを作っては呑んでいたのだから
その後、里帆は二日酔いの舞衣先生をベッドに残してまどかの作った朝食を食べていた時、どういう訳かまどかのその所作が気になって堪らなくなってる自分に気づいていました。
しかも目が合った瞬間、胸の鼓動が激しくなるというか・・・
「里帆ちゃん・・・昨日・・・大丈夫だった?」
里帆の目の前で茶碗を左手に持ったまどかにそう問いかけられた里帆は息が止まりそうになりながらも、やっとのことでソレに答えます。
「昨日オマエとヤったセックスは痛いだけだった。責任とってわたしをキチンとオンナにしろ!」
この時里帆は後悔していました。本当はこれだけで終わってしまうその関係が辛すぎて・・・いつまでも一緒に、いや少しでも長くそばにいてほしいだけだったのに・・・
それからおよそ1ヶ月後・・・
里帆は冒頭で触れたオトナの保健室でオトナの保健体育の授業を受けていました。
それはオトコとオンナの身体について学ぼうという至って健全な保健体育の授業・・・
でも、そこで里帆は終始違和感に包まれていました。
何せ自分が不感症では無いかと疑うくらいどこを触られても気持ち良くなれません。
言ってみれば自分でした方が何倍も気持ちいいというか・・・友達は痛いのは最初だけで、二度目からは良くなる・・・・と言っていたような・・・。
でも・・・実はこの風谷というオトコが下手なだけじゃ無いのか?・・・・と思う事しばしば。
そんな中、口で着けるというオトコが喜ぶコンドームの着け方から始まって、そのフェラチオのやり方からシックスナインという変なヤリ方まで教わっていますが、自分自身が気持ち良くなれないまま風谷だけは気持ち良さそうにしているのが妙に腹が立ちます。
そのシックスナインをしている時、里帆のフェラチオで気持ち良さそうにしている風谷に腹を立てた里帆は咥えているソレを一回ガブっと噛んで、更にはソイツの顔をお尻で潰してやりました。
すると意外にも苦しそうな声を上げた途端そのキノコの山の先端から勢いよく白い液体が発射され顔面で受けるハメに・・・
もしかしてコイツって・・・・Mなの?
「あっ・・・ゴメン。我慢できなくって・・・つい。目に入ってない?大丈夫?」
そう言いながら精子まみれの里帆の顔を見た粘膜まみれの風谷の表情は、一見心配そうな感じを装ってはいますがどこか嬉しそう・・・
全く腹の立つヤツ・・・。
こんなことがあってシャワーを浴びた後、仕切り直し・・・という段になってこの二人が口論となっていました。
ソレは、まどかが言ったこんな一言が発端・・・
「ソレじゃ・・・今度は普通のセックスって言うヤツをしてみようか?」
これにカチンときた里帆がそれに答えます。
「その普通・・・ってヤツって何よ?今ヤッてた事って異常なことなの?」
「い・・・いや・・・異常って事では無いんだけど・・・」
「ソレじゃあさ・・・アンタの言うその普通って言うヤツはどう普通なのか説明してよ。ソレって教科書にでも書いてある事なの?」
今、里帆がまどかに問いかけたことはまどかにとって人生二度目の質問でした。
ソレは以前、1年6組の優子ちゃんがレイプという行為によって処女を散らせてしまったうえ、そのオトコから色んなことを教え込まれた・・・と言う事件後の話です。
その時教育実習生だったまどかはその事件発生のキッカケの一環が自身にあるとされ、自宅療養しているその優子ちゃんの勉強が遅れないようにフォローするように学校から指示されていました。
そしてその優子ちゃんとの会話の中から優子ちゃんのセックスに対しての感覚が変になってしまっていることを知ったまどかが普通のセックスというものを知ってもらおうとした時、その優子ちゃんから問いかけられたことと同じ・・・。
その時困り果てたまどかは、そのセックスというものは二人で同じ目標点を目指し、その方法についてその二人がソレでいいと思えばソレが二人にとって普通・・・
しかも、その「普通」というものはカップルごとに異なっていて、しかもソレは経験するごとにその「普通」というモノのが更新されると結論付けていました。
そんなことで二度目の問い掛けに対してまどかはこう答えました。
「セックスの教科書ってものは存在すると思う・・・でもソレはその二人が作り上げて行くものだと思うんだ。でも、その二人が経験していないその先のページは真っ白のまま。」
「真っ白じゃ教科書にならないんじゃないの?」
「ソレでいいと思う。知らないことは知らないままにしておくのもいいんじゃないか?でも、その二人が歩んできたものが記されているその教科書には、その先の真っ白のページをどう描いていくのかのヒントがたくさん詰まっていると思う・・・」
「アンタ・・・馬鹿じゃないの?学校の先生じゃあるまいし・・・そんな綺麗ごと言って・・・」
「ソレでいいんだ。少なくとも僕って1ヶ月か前には高校で先生って呼ばれていたけどね。」
「そういえば・・・教育実習受けてたもんね。」
「うん・・・今思えば色々あって大変だった・・・。その直後に公務員試験控えていて、本当はそんなことしている暇はなかったんだけど・・・」
「アンタってさ、ゼネコンから何社も内定もらってるんだよね?そのうえ公務員試験が終わったってことは、ソレでこれからは大学にほとんど行かなくって卒論書いてりゃいいからお気軽なもんね?」
みなさんご存知のとおり昭和の後半から平成の初めの時代は俗に言う「バブル」と言う時代で、新卒の学生数に対して求人数が物凄く多い時代でした。
特に理系の学生は引くて数多で、土木を専攻していたまどかに至っては企業訪問に出向いたゼネコンで交通費に宿泊代にお土産代まで頂いて、さらに自分の下宿には本人より早く内定通知が届いていた・・・そんな時代です。
更に地元の建設会社に資料請求すれば、その資料に内定通知が添付されていたり・・・
極め付けは、公務員試験にぶつけるように組まれた日程でゼネコンの研修旅行が企画されたりしていました。その旅行は夜の部までセッティングされていて、過去に先輩から聞いた話ではその行程に風俗というものまで含まれていたとか・・・
コレは察しの通り公務員試験を受けさせないようにするためです。
そんなことでその時まどかは内定を沢山もらっていた・・・というバブル期の学生あるあるでしたが、そんなことで公務員試験を受けるにあたりまどかは数社内定を辞退していたりしました。
その時まどかは、初任給の差が倍以上となている公務員とゼネコンでのどちらを取るか本当に悩みましたが、まどかの母親の「こんな浮かれた時代は長く続かない・・・」の一言で公務員を取ったという次第です。
それが良かったかどうかはその後の時代が物語っていますが・・・
そういうことを経て半ば仕方なく受けた公務員試験でしたが、こうなった以上そこに進むしかないとまどかは考えていました。
「いや・・・研究室(今でいうゼミ)行かなきゃなんないし、公務員試験たって1次試験を受けただけでこれから2次試験を受けなきゃなんないし・・・」
実際貧乏性だったまどかは受けられるだけの講義は受けていましたので、結構忙しい理系学生という立場です。
「2次試験って面接と集団討論だけでしょ?」
「なんか詳しい・・・」
「前にアンタが公務員試験受けるって話してたからチョット調べてみたんだけど・・・」
「あと・・・吹奏楽部の面倒も長くなりそうだし・・・」
まどかは教育実習後も、外部講師として辞令を受けている自分のフィアンセ(真琴のこと)をサポートするという立ち位置でその部活動の指導にあたっていました。
そして未だに「まどか先生」と呼ばれていたりします。
「うん・・・でも、こんなところでこんな話・・・素っ裸の男女がする話じゃないね。」
「うん・・・こんな姿、とても生徒たちに見せらたもんじゃないし、なんか白けちゃったね。」
「うん。ソレにさ・・・今日、里帆ちゃんって全然感じなかったよね?」
「うん。全くそう・・・アンタばっかり感じて全く腹が立つ・・・」
「里帆ちゃんが感じなかったソレってどうしてか分かる?」
「全然・・・」
「ソレは里帆ちゃんの中にあるスイッチが入らなかったから・・・」
「スイッチ・・・って、もしかしてそっちの?」
「うん。そっちの・・・」
「ソレってどうやると入いる?」
「ソレは女の子が恋人と認めた彼氏しか入れることが出来ない秘密のスイッチがあって・・・僕じゃ入れることができない。」
「もしかすると、そのスイッチが入らないと性感帯とか分かんないってこと?」
「恐らく・・・それって、そういうことの最初のスイッチになるかと思う。だからすんなりとは入んない・・・」
「それじゃ・・・それなら今からアンタのこと恋人にする!・・・・だから、わたしの彼氏になってくれない?」
「い・・いや・・ソレは・・・」
「悪い話じゃ無いと思うんだけど?アンタ・・・ヤリたいこと出来るんだよ?なんでもOKだよ?ヤリたい放題だよ?」
「ヤリたい放題・・・って言われても・・・嬉しいけど・・・」
「わたし知ってるんだ・・・夏帆が言ってたんだけど二十歳くらいのオトコって毎日でも出さないと気が変になっちゃうって・・・もう一回出してあげようか?」
「そ・・・そりゃ嬉しいけど・・・で・・でも・・・」
「嫌だとは言わせないわよ。少なくともアンタはわたしの初めてをもらってるんだからね・・・」
「責任は感じてる・・・けど・・・」
「あっ・・・誤解しないでね。アンタをアンタの彼女から奪うってことじゃないの。その最初のスイッチ入れてさえもらえればいいの。」
「それは・・・それこそ本当の彼氏じゃなと・・・」
「じゃ・・・今週末まで彼氏でいてよ。やることやったらスパッと綺麗さっぱりアンタのことフッてあげるから・・・」
「ん?」
「なに?何難しい顔して・・・」
この時まどかは大学生になって初めての夏休みに下宿の娘であるふたばと夏休み限定で付き合ったことを思い出していました。
それは今の彼女である真琴と出会うずっと前の話・・・
その時まどかには地元に残してきた今は亡きあおいの存在があったため、ふたばと正式に付き合うことが出来ませんでした。
しかし諸般の事情により夏休みに帰郷できないまどかが、その時教習所や市民プールの監視のバイトで行動を共にしていたふたばから過去に拗らせてしまった「処女喪失」といものの経緯を教えられ、その「拗れ」というものをやり直すことに・・・
それは、過去にまどかが同級生の理央の処女喪失を拗らせてしまった苦い経験を持っていたから放って置けなくなってのこと・・・
そして夏休みの間だけ付き合うことになって・・・
その夏休みの間、若い男女がすることを燃え尽きるまでやり切って・・・
そしてその夏休みが終わりふたばが自分の通う大学に戻る前日、まどかはふたばにビンタを喰らってフラれた・・・
でもそれは初めからそうすると決めていた・・・というもの。
そんなことを思い出していたまどかを見た里帆は、まどかが真琴のことを心配してのことかと勘違いしていました。
「どうせアンタの彼女って仕事で今週末までダメでしょ?どうせ週末、部活以外にはなにもやることないくせに・・・」
高校の吹奏楽部に休みはありません。この時まどかは律儀にもそんな部活に付き合っていました。
「なぜ・・・マコちゃんが週末ダメだってこと知ってる?」
「アンタ忘れてるよ・・・夏帆の存在・・・」
「あっ・・・そうだよね。今度の仕事って夏帆ちゃんとマコ(真琴のこと。夏帆は同じバス会社に勤めるバスガイドの同僚)ちゃんがペアになって関西に行くって話だった・・・」
「うん。だからこの前実家に泊まった時も、夏帆って何かのノート見ながら暗記頑張ってた・・・」
「凄いよねバスガイドって・・・。全然知らない地方の案内までしちゃうんだから・・・」
「うん・・・」
その後その二人は、ラブホの残った休息時間が勿体無いというとって付けたような理由でまどかの言うごく一般的なセックスをしました。
それは里帆が受け身でしかもその受け身の里帆が全く感じない・・・というつまらないものでしたが、実はその時の里帆はそれなりに濡れていました。
そうです。この時里帆の心、はいつの間にかまどかに傾きつつありましたから・・・・
その後、週末に本当の恋人のようにデートして、食事をして、その後・・・恋人がすることをして、今日とどう違うのかを検証しよう・・・ということを約束してその日は終わりました。
そしてその週末・・・
里帆はまどかとの待ち合わせのため、大きな通りに面した街角のベンチに座っていました。
基本的にTシャツにデニムのジーンズというシンプルな格好しかしない里帆はこの日、何故か朝の着替えがいつもの倍以上の時間がかかって、生まれて初めてと言っても過言じゃないオシャレに取り組んでいました。
しかもコレまた生まれて初めて履く膝上15cmミニスカートは、姉の夏帆のモノをこっそり拝借したものとなっています。しかも初めて着ける下着は、友達が二十歳の誕生日のプレゼントとして買ってくれたシルクの勝負下着・・・
里帆はそのプレゼントを受け取った際に「こんなの誰がいつ着けるんだ?」と、その友達を問い詰めはていましたが・・・この時しっかりと着けています。
そして、先程まで勉強していた映像系の専門学校ではそんなおしゃれを友達に揶揄われたりしましたが、その時の里帆はそれも悪くないと思っていました。
でも、生足で膝を出すということがこんなに恥ずかしいものとは・・・
ということで、ベンチに座る里帆は大きな荷物を膝の上に乗せてその膝が見えないようにカモフラージュしていました。
高校のセーラー服でもそんなに短いスカートを履いた経験のない体育会系女子にとって、そのこと自体が未知の領域・・・
しかも、お泊まりまで想定したそのデートへ向けた荷物が半端ない量になっています。
それはまるで家出少女でもあるかのよう・・・
その時いつも背負っているリュックの中身とお泊まり用品を詰め込んだ大きな手提げを持って、待ち合わせの場所に30分も早く到着していました。
でも・・・里帆は今待ち合わせの場所をこの通りのここに選んだのを心底後悔しています。
それは初夏の西日がジリジリと照り付けること以外にも、もっと面倒くさいことになるからでした。
そこは・・・市内にある大学生たちのナンパの名所。
その名所と言われる場所は市街地をグルリと回るような3車線道路が一方通行になっていて、ソレっぽいクルマが獲物を見定めるがごとく定期的に巡回しているような場所です。
しかも週末と言う事もあってか、そんなクルマのナンパヤローにナンパされたい女の娘がウロウロしていて、その娘をナンパしようとするナンパヤローが運転するクルマが超低速で通過して行くと言う特殊な道路・・・。
そんな光景はナンパされたい女子高生や専門学校生の学校帰りの時間帯という比較的早い時間からスタートします。
待ち合わせの時間がそんな時間だったため、里帆は憎ったらしいアイツに恥をかかせようとしてこんな場所を待ち合わせ場所に選んでいました。
それはアイツの乗る軽自動車・・・
それはいろんな若い男女が行き交い、更には高級車でナンパを行うこの場所に白いアルトでしかも若い女性向けのそのクルマで現れることになるアイツに恥ずかしい思いをさせてやろうと・・・
しかも、そのショボいクルマに乗ってあげるという恩を着せるためだったのですが・・・その相手が30分近く遅刻しています。
「遅い!」
里帆は心の中でそう叫んでいましたが、里帆のそんな想いなど関係のないヤンキーのクルマがそんな道路を徘徊していて、道を歩く女の娘の歩調に合わせるように極低速で走らせるクルマの運転席の窓から直接声掛けを始めていました。
「ねえ・・・君ってこの前雑誌に載ってなかった?あの・・・読者モデルの・・・」
「いえ・・・人違いです。」
「ごめんね。じゃ、お詫びにお茶でも・・・」
「結構です。」
そんな若い男女の会話があちこちから聞こえています。
でも里帆は知っていました。
そんな声を掛けられた女の娘が自分の乗りたいクルマを値踏みしていることを・・・
ハイソカー全盛だったこの時代、白いマークⅡやらY30(セドリック・グロリア)に乗り飽きた女の娘がソアラやレパードに乗っているオトコにナンパされたい・・・という時代です。
もう・・・そうなってくると一般の大学生では太刀打ちできないような感じですが、世の中には居るもんです。
ドラ息子・・・という人種が。
そんな高級車を駆るドラ息子たちはオンナであれば誰でもいいというわけでもなく、逆に好みの女の娘を値踏みしている・・・そんな攻防が里帆の目の前で繰り広げられていました。
「待たせちゃった?あっ・・ゴメン。彼女と間違えちゃった。でも、僕の彼女より可愛いから君に乗り換えようかな?」
「乗り換えなくて結構です。今待ち合わせしてるんで・・・でも、カレシがなかなか来ないからチョットだけならいいですよ。(カレシって言ってもキープ君だし・・・そんなクルマはマークⅡだし・・・一度ソアラに乗ってみたかったんだよね・・・)」
と、言うふうな・・・
でも、こんなケースも・・・
「ねえ〜。君ってモデルでしょ?オレって女の娘がどんな娘かすぐに分かっちゃうんだよね〜。」
「ゴメンなさい・・・今、ヒトと待ち合わせなんで・・・」
「それって友達?女の娘?なんならその娘も一緒に俺のシルビアで今晩フェリー埠頭のゼロヨンでも・・・」
「いや、待ち合わせてるのはオトコです。しかもゼロヨンなんて興味ないし・・・」
「でも・・・そのオトコってカレシじゃないんだよね?」
「・・・・」
「パ・パン〜・・・」
その時でした。その、ナンパヤローが運転するベージュ色のシルビアの後ろから煽るようにベタ付けしたクルマから高級そうなクラクションが・・・
「あっ・・・パパが迎えに来たんで・・・ゴメンなさい・・・」
そう言ってその声を掛けられた女の娘が大きな荷物を抱えて白いベンツ目掛けて走って行きました。
「ちぇっ・・・パパって・・・エンコウかよ・・・」
・・・とか。
「ふ〜ん・・・あれがベンツホーンて言うヤツの本物なんだ・・・初めて聴いた・・・」
なんて思いながらベンツを見て、更にそのオトコの寂しそうな顔を見た時、里帆が不意にそのオトコと目を合わせてしまいます。
するとそのオトコは運転していたシルビアにハザードランプを点灯させ、土禁のクルマを降りてサンダル履きのその足を里帆に向け歩いて来ました。
「ヤバッ・・・こっちに来る・・・」
そう感じた里帆は身体を硬直させ身構えます。
そんなオトコは風谷と同年代のオトコで大学生風ですが
「頭の悪そうなヤツ・・・」
令和の現代で表現するならばアルファベット3文字で表現されるに等しいそんなDQNなオトコ・・・
そんなオトコが里帆の全身を舐めるように見ながら口を開きました。
「ねえねえ・・・君ってずっとこのベンチに腰掛けてたよね?可愛から気になってたんだよね・・・。もしかしてそういうの待ってんの?その辺の変なおっさんに買われちゃう前にオレが救っても良いかな?」
「そういうの・・・」とはどんなモノなんでしょうか?どんなモノでも関係のない里帆は、もちろんそんな軽薄な言葉に耳を貸しません。
「ゴメンなさい。別にそんなんじゃないし・・・もうすぐカレシが来ますんで・・・」
「それにしちゃカレシ・・・全然現れないけど?」
「・・・」
このオトコは里帆のことを「ナンパ待ち」もしくは「エンコー待ち」と勘違いしているのか?
どちらにしても失礼な話ですが・・・でも、一般的にこの場所をウロウロしている若い娘はそんな目で見られているようでした。
でも、ここが大学生たちの陸釣り(ナンパ)の聖地と言われているところであることは周知の事実・・・
里帆は今ここで改めてこの場所を選定したことを後悔しながら、今、この軽薄ヤローに対して自分の口から咄嗟に出た言葉に驚いています。
「ん?・・・今わたし、この軽薄なこのヤローになんて答えた?」
「カレシ?」
「今わたしが待っているのはわたしのカレシなのか?」
「確かにヤル事はヤッタし・・・・今日の目的もソレ・・・なんだけど・・・」
そんな自問自答をしながら立ち上がって里帆はその付き纏うそのオトコを無視しながら立ち去ろうすると、なんとそのオトコが腕を掴んで凄んできました。
「どうせナンパ待ちなんだろう?こんな大きな手提げ持って・・・。人が優しく誘ってやってるのにその態度はなんなんだよ・・・ちょっと付き合え!」
「いや・・・!」
そういう男女の揉め事なんてここでは日常茶飯事・・・いや、この通りの風物詩・・・
そんなことで、いくら通行人が多くてもそんなことに関わり合いになりたくない雰囲気がありありと見えました。
「ちょっとやめてよ・・・」
この時わざと周囲に声が届くようそう叫びましたが・・・周りの人たちは遠巻きにして眺めているだけで助けてくれそうな雰囲気は微塵もありません。
里帆はこの時、鬱陶しいこのオトコを一発ぶん殴ってやろうとして空いた右手を握り拳にしていました。
そうしながらも、もう一度誰か助けてくれる人はいないものかと周囲を見回していた里帆の視界に黒いクルマが迫って来て、先ほど白いベンツが若い娘を拾って行ったその場所に停車しました
そしてその直後、先ほどの重厚なベンツの音とは違った高くて澄んだ音のクラクションが轟きました。
更にそのクルマはエンジンを2度ほど吹かして、その甲高い排気音が周囲のビル群に響き渡っています。
里帆はその音に驚いた一般の通行人が一斉に振り返るのを感じながら思いました。
その黒いクルマは誰がどう見ても普通のクルマじゃない・・・
地を這うくらいに下げられた黒い車体にガンメタリック色のホイール。そして屋根の真ん中にマグネットでくっついている無線のアンテナ・・
「うっ・・・なんだよ。このブラックレビンは・・・」
その時今の今まで里帆に付き纏っていたそのオトコが言うように、そのクルマはレビンというクルマのようです。
そして腕を掴んだそのオトコの手が緩んだ瞬間、里帆はその手を振り切ってその黒い車の影に逃げ込みました。
その里帆がしゃがんだその目線のトランクリッドには羽みたいなものが着いていて、その根元には「APEXーTWINCAM16」というゴールドの文字が見えます。
「ん?このクルマも・・・APEX?」
この時里帆は何かを思い出しながらその軽薄ヤローの動向を見守りました。
するとそのクルマの運転席のドアが開いて小柄の若者が降りて来て、そのクルマの後ろに身を潜める里帆に声を掛けます。
「ゴメン・・・遅れちゃった。部活でちょっとした揉め事があって・・・」
そのクルマを降りてそう声を掛けてきたのは、意外にもあの風谷でした。
冒頭でも触れましたがこの風谷というオトコは以前、市内にある理系大学の附属高校で教育実習を受けており、その時担当した吹奏楽部を実習期間が終わった後も指導しているというチョット変わり者です。
そんなオトコの姿を見た里帆はご立腹です。
それはその風谷が遅刻さえしなければ変なオトコに絡まれることはなかったんですから・・・
「オマエ・・・このクルマ・・・・」
そして、その遅刻と併せて予想外にカッコいいクルマで登場したことについても怒りが・・・
「訳あってこのクルマに乗ることになった・・・。」
実はこのクルマ・・・まどかの元カノである理央が女性向けカー雑誌である「女子改」という女性向け改造系走り屋の雑誌の企画で、車体の補強から手掛けたAE92(カローラレビンの前期モデル)でした。
しかも車体色が当時トヨタが国内で520台しか販売しなかった「ブラックレビン204」というモデルになり、その204というのは輸出専用ブラック塗装のカラーナンバーとなります。
これはどうでもいい話なんですが・・・
すでに出回っている後期モデルにブラックの外装色はが追加されてはいましたが、前期モデルではまずお目にかかれない希少なそのクルマ・・・
しかも、そのAE92には当時未発売だった時期モデルに搭載予定の5バルブヘッドの4AGエンジンが搭載されているというさらに特殊なそのクルマ・・・。
これは、義父が元の職場で耐久テストを終え廃棄されるそのエンジンを極秘に横流ししてもらった・・・(と、言うことをまどかは義父から聞かされていましたが、実は発売前のそのエンジンフィーリング等をモニターすると言う大役を任されていた・・・)というモノ・・・。
昨晩そのクルマをいきなり義父が乗ってきて「気づいたことあったらこのノートに書いておいてね・・・」とだけ言い残して、ハチロクの代車として1が月乗っていたアルトと引き換えに置いていったものです。
だから・・・まどかもこのクルマのことはあまり分かりませんが、ただひとつだけ言えることは、理央が雑誌社の企画で取材を受けながら丸裸の状態の車体から組み上げ直したクルマです。
それは理央自身のクルマを丸裸の状態にするところから始まって、車体各所の補強と各部品の取り付け、そしてソレに織り交ぜて行われたスペシャルパーツの紹介とその取り付け方法などを永遠と1年かけて行っていたモノ・・
そんな企画が人気となって掲載している雑誌の部数が伸び、雑誌へ広告を掲載している部品メーカーから部品供給を受けるようになっていました。
最終的に車体全体が最新のスペシャル品で固められた・・・そんなクルマ。
しかしそのクルマの完成後、まどかの義父が唯一ノーマルだったエンジンだけをこっそり別のモノに差し替えたことについては、雑誌社の編集担当も知りません。
そんなクルマに装着された部品たちは既に市販されているものだったり、これから市販化を予定しているものまでいろいろ・・・。
それで、それも含めて事情をよく知らないまどかにこのクルマに乗ってもらいモニターさせようという隠れた企画・・・
この時、今の今まで白いアルトで現れると思って待ち構えていた里帆にとっては、当然そんなクルマで現れたことが不思議でなりません。
「オ・・・オマエ・・・あの白いアルトはどうしたんだ?」
「うん。義父さんがいきなり現れて舞衣先生の実家(小林ボデーという自動車整備工場)に戻した・・・」
そうなんです。そもそもそのアルトは小林ボデーの代車・・・。
にも関わらずまどかの義父さんが面白がって改造してはいましたが・・・。
この時、まどかは自分の乗ってきたAE92の目前に駐車されているS13型と呼ばれるそのシルビアを見て思い出していました。
このクルマを過去2回振り切っていたことを。しかも里帆のいう、その見た目が女性仕様のアルトで・・・
でも・・・そんなアルトは俗に言う覆面ワークスと呼ばれる仕様で、外見以外はフルチューンという化け物でした。
つまりその外見女性仕様車のアルトの中身はアルトワークス・・・しかも競技仕様車そのもの・・・
しかもそれを義父が面白がってフルチューンして、その馬力は100馬力近くとなっていました。
しかも、大きなタービンを回すために生じるターボラグを打ち消すミスファイアリングシステムという装置まで搭載していて、そのうえ車重600Kgを切る軽量の車体・・・
そりゃもう暴力的でした・・・その外見はその辺の初心者が乗ってる普通のアルトでしたから、そのギャップがまだ面白いというか・・・
でも・・・全開走行時に、ごく普通のそんなアルトに千切られたクルマのドライバーの自尊心はズタズタ・・・
そんなクルマでした。
そんな自尊心がズタズタになったオトコのシルビアには太いマフラーが装着され、改造メーカ系のステッカーが山ほど貼ってあって走り屋を醸し出す感じでしたが・・・まどかは知っていました。
このシルビアはQsというグレードで(ターボでないモデル)あることを・・・。
しかも、ノンターボにも関わらず装着されているそのズ太いマフラーがパワーを喰っていることも・・・。
イメージ的に排気効率が良さそうな太い口径のマフラーを装着するとパワーが出そうな感じですが、それはターボ車に限ったことであって、太すぎる口径の排気管をノンターボ車に装着するとトルクが出ず、高回転まで回して一瞬ノーマルを上回るパワーが出るというものです。
だから一瞬のパワーを得るためにその他の回転域を犠牲にしている・・・そんな残念なクルマ。
一方、現在理央の手元にあるまどかのAE86に搭載されているAE92の後期型エンジンは1万回転まで回る仕様となっていますが、意図的に細めの特殊な口径の排気管を使用しており、さらにはサブサイレンサー内部で更にその口径を絞っているものとなっています。
これはそのAE86を手掛けた義父さんが流体力学を研究したものと、元の職場である自動車研究施設でエンジン耐久テストをしている同僚からの情報で造ったオリジナルのものとなっていました。
しかも、今まどかが預かっている理央が手掛けたAE92のマフラーも意図的に細い排気管が使用され、高回転で甲高い気持ちのいいサウンドを奏でるものとなっています。
これは、後に大手マフラーメーカから車検対応マフラーとして発売されるものの試作品となっていて、雑誌の企画に賛同した企業からの提供品となっていました。
後に、ノンターボのクルマに大口径のマフラーを装着してもパワーが出ず、逆に乗りにくいモノになってしまうことが浸透してそのようなものは出回らなくなりましたが、平成初期のその時代はマフラーのパイプの太さが速さの代名詞みたいになっていました。
マフラーに関しての能書きが少し長くなりましたが話を元に戻します。
里帆を迎えに来たまどかは、そのシルビアのヤローを完全無視して乗ってきたAE92のドアを開け里帆を助手席に乗るように促しました。
でも、予想通りというが・・・・当然完全無視を決められたそのヤローが騒ぎ始めました。
「なんなんだよ・・・急に現れて俺のオンナ拐って・・・」
そんな様子を近くに駐車していた沢山のタクシー運転手が窓を開けて聞き耳を立てています。
「里帆ちゃん・・・。こんなヤツいいから行こ・・・」
その時一瞬助手席に乗り込もうとした里帆が、何かを忘れたがごとく立ち上がって言いました。
「ちょっと待って!わたしもオトナだからちょっと挨拶してくる・・・」
そう言い残した里帆は荷物を後にそのオトコに向かって歩いて行きました。
そこでまどかは気付きます。里帆の右手が握り拳になっていたことを・・・
「里帆ちゃんヤメ・・・」
まどかがそこまで言いかけた時、その軽薄ヤローが股間を押さえながら両膝をついて歩道の平板ブロックに倒れ込みました。
「うっ、ううう・・・」
しかも最後にはそう唸りながら土下座をしたような格好に・・・
「じゃっ・・・行こうか・・・静かになったし・・・」
そう言いながら助手席に乗り込んだ里帆の表情は晴々としていました。
そうです。この時里帆はそのヤローの前で履いているサンダルの紐を直すふりをして前屈みになって、その胸元を覗き込もうとしたそのヤローの股間に全身の力を込めた右ストレートをお見舞いしたものでした。
またその力を込めたパンチを繰り出した姿がカッコいいこと・・・
その瞬間、周囲の響めきと拍手が・・・。
その後・・・
市街地を離れたそのブラックレビン204という名のAE92は、デートの定番コースである海沿いへ向かう県道を走っていました。
「なあ、風谷。なんで遅刻したんだよ!お陰であんなオトコに絡まれて・・・」
「ごめん・・・今日の部活でちょっとしたメンバーの差し替えがあって・・・ちょっと・・・」
「あの吹奏楽コンクールの?」
「うん。地区大会が終わってコレから県大会に進むんだけど、チョットトランペットパートが弱くって・・・」
「それで?」
「トランペットの大会メンバーって6人いるんだけど、その中で唯一1年生だった娘を野球応援のBチームに行くように言ったんだよね。」
「それって、大会メンバー落ちってこと?」
「そうじゃないんだ。その娘って吉川さんっていう娘で、高校来て初めてトランペット触った初心者なんだけど、中学まで軟式テニスをしてて肺活量が半端じゃないんだ・・・」
「金管楽器って肺活量が重要だよね。でもいいじゃん・・・肺活量が半端なくって。」
「お爺ちゃんに買ってもらった自前のトランペットを常に持ち歩いていて家でも練習してて上達が半端ないっていうか・・・」
「でも・・・トランペットなんて家で吹いたら近所迷惑・・・」
「それはラッパの先にミュート付けて対策して、それでメキメキと腕上げて・・・しかも肺活量がソレだから音も芯の通った良い音奏でるんだ。」
「じゃ・・・問題ないでしょ?ソレでなんでメンバー落ちなの?」
「残念だけど、合奏になると自信のない音になっちゃうんだよね・・・個人練ではいい音奏でるのに、合奏になると自分の奏でる音色に自信が持てないみたいで遠慮しちゃって・・・」
「ソレで野球応援で自信付けろ・・・・と?」
「うん・・・。コレって舞衣さんからの提案だったんだけど、とうの舞衣(小林舞衣先生:吹奏楽部顧問でまどかの義姉)さんが体調不良で部活出れなくって僕が代わりに伝えたんだけど・・・」
「あっ・・外部講師のアンタの彼女も仕事だしね・・・。ソレ・・・アンタが伝えたんだ・・・」
「うん・・・僕の言い方も悪かったのかも・・・」
「ソレでその彼女が納得いかない・・・と」
「うん・・・。」
「そうだよね・・・地区大会では1軍だったのに、コレから本戦迎えるって時に2軍落ち・・・」
「でも舞衣さんの思惑としては、野球応援で自信が付いたらすぐにでも大会メンバーに引き戻すみたいだったんだけど・・・。」
「でも・・・初心者で、しかもソレから何ヶ月も経たないで大会メンバーなんて凄くない?」
「うん。だから凄いんだ・・・4月には譜面も読めなかった娘がソレだよ・・・」
「それって本人に努力以上にセンスの賜物だよね?」
「うん。コレって吹奏楽部の下剋上って言われるヤツで、毎年の風物詩って聞いてる。でもコレっていい風潮で、決して上級生も安泰ではないって・・・。しかも、下級生虐めてる暇があったら練習しろっていう伝統で・・・」
「そりゃ強い訳だ・・・。大体は、才能のある1年が入ってくると上級生がソレを潰しにかかるもんね。」
「ん?里帆ちゃんのいたソフトボール部も?」
「ソレはわたしの代でやめさせた。それまでは結構あったんだけど・・・」
「だから強くなった・・・と・」
「うん。」
「でも・・・その吉川さんって、どういう訳か前から僕に対しての風当たりが強いっていうか・・・」
「なんかあったの?」
「この前なんか、部活中マコちゃんと今後の練習スケジュールの確認をしていて時、彼女とイチャイチャするなって抗議されて・・・。」
「まっ、分かる気はする。いくら事務的な会話しかしていなくても、自分たちを指導する外部講師の先生と養育実習の時の先生だった風谷が一緒にいれば・・・しかも婚約してるしね。」
「だから気は付けてたんだけど・・・」
「風谷のこと好きだったんじゃない・・・?ねっ・・・まどかせ・ん・せ・い!」
「揶揄わないでよ!えっ?・・・まさか・・・ね。」
この部活に関する話が終わった後、走るクルマからしばらく車窓を眺めていた里帆が何かを思い出したかのように急に尋ねました。
「ところでさ・・・その部活から直接来た割には、偉くいいクルマに乗ってたんじゃないの?どこで借りて来たのさ・・・」
その時里帆は、未だにこんな新車みたいなクルマは絶対に借り物であると思い込んでいました。
「借り物ってことじゃないんだけど・・・」
「だったら・・・親に買ってもらった・・・とか?」
「う〜ん・・・正確にいうと僕の地元の友達のクルマ・・・なんだよね。」
「ほら、やっぱり借り物・・・」
その会話をした時ちょうど停まった信号脇にコンビニがあったため、まどかは駐車場にクルマを入れそのコンビニで飲み物をとカー雑誌を買ってきました。
「あっ・・・コレ・・・わたしの好きなヤツ・・・。どうしてわたしの好みの飲み物知ってる訳?」
「ん?なんとなく・・・かな?」
この時まどかは、最近発売されたばかりで新人タレントがCMで宣伝している紅茶のペットボトルを渡していました。
こんな時、超の付くほどの女系のオンナだらけの中で育った経験が生かされます。
このまどかというオトコ・・・特に何も取り柄はありませんが、こんな時のこんな些細なことが得意・・・。
「コレ見て。」
そして買ってきたカー雑誌を開いてそれを里帆に見せました。
まずその「CAR女子改」という雑誌を手に取った里帆はその表紙を見て驚いています。それは今自分の乗っているクルマそのものが映し出されていたことに・・・
「えっ・・・コレって・・・このクルマ?」
そう言い残すといきなりクルマから飛び降りてその雑誌とクルマの外観を見比べ、クルマを1周した里帆が運転席のところでジタンダを踏んでいます。
「それじゃさ・・・ここに貼ってあるRIO♡FACTORYっていうステッカーってホンモノ?」
「うん。だってそのステッカーって非売品だもん。」
その小さいチェリーレッドカラーのステッカーは、賛同メーカーのロゴと共にドアミラーの下にこじんまりと貼ってあるものです。
そのステッカーと雑誌の写真を見比べながら里帆が再度質問を始めました。
「じゃこの雑誌のこのクルマと一緒に写ってるRIOって娘、もしかしてオマエの・・・同級生?」
「うん・・・中学生の時付き合ってた・・・」
「そんな雑誌に載ってるモデルみたいな娘が雑誌の企画て造ったクルマに乗っていいのか?」
そんな雑誌に映っている理央は、ピンクのつなぎを着ていて髪をポニーテールにしていました。
写真映えがするというか・・・その姿はアイドル顔負け・・・。
「うん・・・それでその企画に一枚噛んでる僕の義父さんがしばらくこのクルマに乗れ・・・って置いていった。もう、僕も訳がわからない・・・」
「もしかして・・・雑誌にこのクルマと一緒に写ってるAE86っていう赤黒のクルマって風谷のクルマだよな?トランクのところにAPEXって書いてある。夏帆が風谷のクルマはハチロクのアペックスって言ってたから・・・」
そんな雑誌には過去に理央が携わったハチロクのエンジン乗せ替え作業の写真なんかも紹介されています。
「うん。夏帆ちゃんと初めて出会った時、夏帆ちゃんはこのクルマのことAPEXって呼んでたな・・・。でもそれって単なるグレード名なんだよね。ちなみにそのハチロクって、名義上僕の姉さんのクルマで・・・」
まどかがその赤黒ハチロクを姉から受け継いだのには悲しい理由がありました。
それはまどかが高校3年生の時に起きたレイプ事件・・・
その被害者であった麻美子姉さんは事件後失踪してしまい、残された手紙に「レビンを頼む・・・」というような事が記してあったというものでした。
その後1年以上日本各地を放浪し続けたその姉が、どういう訳か従姉妹の芽衣子姉さんが勤めていた地方の病院で看護助手をしていて、そこへバイク事故で救急搬送されたまどかと再会を果たした・・・という後日談もあります。
そんな理由でまどかが乗っていたそのハチロクについて里帆が話を続けます。
「夏帆がハチロク・・ハチロクってうるさかったそのクルマってお前の姉さんのだったのか・・・」
「うん。そのハチロクって、今その雑誌に書いてあるRIO♡FACTORYっていう秘密の整備工場に預けてあって、コレからそのエンジンを理央が組み直すってことになってるらしいんだ。」
「で・・・その秘密の整備工場って・・・?」
「うん。小林先生の実家・・・」
「えっ・・・・と、言うことはオマエの義姉の小林先生とその実家の整備工場が全部つながってる?」
「うん。しかもその整備工場の嫁っていうのが僕の姉さんで・・・」
「まだ・・・何かあんのかよ?」
「僕の母さんが再婚した義父さんの元職場が静岡にあって、このクルマに積んでいるエンジンなんかを研究開発してる部署だった・・・ってこと。しかも、カーショップの一人娘だった理央にエンジンの知識を教えた張本人・・・」
「なんだ?その繋がり・・・」
「うん。それで・・・僕一人が蚊帳の外みたいなんだよね・・・」
「でもさ・・・こうやってこのクルマ乗れって言ってくれるって事は満更蚊帳の外でもないって事かもよ・・・」
「ん?」
「ここ見て?」
この時、まどかに渡されたカー雑誌のページを開いた里帆が、ある記事を指差しています。
その記事とは・・・
「このブラックレビン・・・まもなく公道テスト開始!」
そのように記されていました。
「えっ?と・・・いうことは、その公道テストというのが僕の役割?」
「そうみたいね。」
この時まどかは初めて知りました。いろんなクルマに乗る度に自分の義父さんに伝える運転フィーリングが的を得ていて、それを義父さんが認めていたと言うことを・・・
そして、今回はその義父さんを介してその感想が協賛各社に伝えられことも。
その後・・・
二人はカップルのデートコースとしては定番の海岸線を一通りドライブして・・・展望台に行ったり岩場でカニを捕まえたり、波でズボンの裾を濡らしてしまったりしながらまるで本物のカップルのようにしていました。
そして、夕ご飯を食べるレストランに入る頃には手を繋ぐようにまでに・・・
実は・・・このレストラン。里帆の双子の姉である夏帆とも来た事のある若い女性に人気のレストランです。
こんなところのチョイスも女系で育った成果かと・・・
以前の夏帆との時はその後夜景の見える山の山頂に行きましたが、その後バスガイドの女子寮の門限に間に合わないと告白され・・・その後行き場を失って、女人禁制であるまどかの下宿でこっそり一夜を過ごしたという経緯もありました。
でも、今回は夕食後港の沖防波堤からの夜景を見た後、例のラブホに宿泊するという至ってシンプルな予定なので時間的にも余裕があります。
しかし・・・その後、そんな目論見は脆くも崩れ去る事になるのですが、その時の二人にはそんなことなど知る由もありません。
そして・・・そのレストランでちょっと奮発した料理を平らげた後、フェリー埠頭の近くにある沖防波堤にクルマで乗り入れ夜景を眺めていました。
予定ではこの場所で夜景を観ながら時間を潰して、宿泊料金に切り替わる22時を目処にラブホへ滑り込む予定としています。
「ねえ・・・ここから見える灯りって何かの工場だよね。」
「うん。あれって製鉄所になってて、溶鉱炉を止めることが出来ないから3交代で24時間稼働してる・・・」
「だからあんなに灯りが・・・」
「うん。そんな灯りを見るためにカップルがここに集結している・・・」
ここに来る時に見たいろんなクルマたちはみんな海釣りにでも来ているものと考えていた里帆は、ここでやっと気づきます。
「えっ?ココって・・・そういう場所・・・?」
「いや、いくらなんでも・・・こんな時間からは・・・・」
「チョット・・・隣のクルマシート倒れて・・・窓が曇って・・・」
「うん。曇ってるし、揺れてるね。しかもこんな時間から・・・我慢できなかったのかな?」
「まっ、女子寮みたいに門限あるところだと今から初めておかないと・・・ん?揺れてるってことは・・・・?」
「そうだね。頑張ってるってことだね。」
「が・・頑張ってるって?アレでそんなにクルマが揺れるの?」
「うん。あのクルマは足回りの強化が必要かも・・・」
「その目的のために?でも、揺れた方が都合がいいかも・・・。」
そう言いながら見たそのクルマの揺れがすごい事になっていました。
「でも、ここに来た・・・って事はみんなああいう事になるんでしょ?」
「いや・・・僕たちみたいに健全に綺麗な夜景を楽しもうとしている若者もいると思うけど・・・」
まどかがそこまで話すと助手席の里帆が黙り込んでしまいました。
「ん?里帆ちゃん?どうかした?」
「じゃ・・・オマエ・・・わたしとシたくないのか?」
「ここでは・・ね。だって、このバケットシートじゃ身動き取れないし・・・」
「バカ・・・」
そんな時でした。
「ザ、ザザ〜。・・チャンネルチェック・チャンネルチェック・・・当該チャンネルお使いの局長さんいらっしゃいますか?・・・ザ〜・・」
助手席に座る里帆の膝元からそんな音声が聞こえてきました。
そして続けて・・・
「いらっしゃらないようですのでチャンネルお借りして開局しますよ〜。こちらナベ将軍。ガンモドキ・・・ガンモドキさん取れますか?・・・ザ〜・・・」
そんな・・・誰かが誰かを呼ぶ音声も続きます。
「あちゃ・・・こんな時に・・・」
その時運転席のまどかが頭を抱えてそう呟いていました。
「ん?どうした?」
「里帆ちゃん。ちょっと・・・邪魔が入っちゃったみたいで・・・」
まどかが里帆にそう答えた時、さらにそのガンモドキという人物を呼ぶ若い女性の音声が・・・
「里帆ちゃんゴメン・・・。グローブボックスにパー線のマイクあるから取ってくれないかな?」
「ん?・・・パー・・・セン・・・?」
「うん。パー線っていうのはパーソナル無線っていう無線のことなんだけど・・・。アマチュア無線みたいな免許が要らなくって届出さえすれば使える無線なんだけよね・・・」
昭和の末期に普及したパーソナル無線は、その後の携帯電話の普及まで結構重宝される存在でした。
そして令和になった現代では電波法改正によりその無線自体の運用もできなくなっています。
そしてその通信に重要なアンテナですが、それ自体が感度に直結するモノですので、この時AE92の屋根の真ん中に着けられていたアンテナは結構長いモノ・・・
しかし・・・それがラブホ出入り口のヒラヒラ引っ掛かるという厄介なモノでもありました。
そんな長いアンテナに気づいた里帆が何かを思い出したかのように口を開きます。
「あっ・・・それで屋根のアンテナ・・・」
「うん。感度上げるのに結構長いのが着いてる・・・」
そんな会話をしながら里帆が目の前のグローブボックスを開けると、訳のわからない小さなメーターがいくつも付いていて、さらに蓋の裏にくっ付いたような薄い無線機のオレンジ色に光る小さな表示部にたくさんの数字が並んでいました。
「この数字が・・・・さっき言ってたチャンネル・・・ってヤツ?」
「うん。その表示は仲間内で決めている軍番ってヤツで何種類か使い分けるんだ。でも、先に使っている人がいれば違う軍番を使うって手筈になってる」
「ところでこんな無線機・・・何に使ってるの?」
「実は今、興信所でバイトしてて・・・事務連絡とか尾行とかで使うんだよね。」
「興信所?だから後部座席にカメラケース・・・?」
写真撮影の専門学校に通う里帆は、このクルマに乗り込む際に自分の荷物を後部座席に置いたときそのアルミケースの存在を見逃しませんでした。
「ザッ・・ザザ〜。コラ・・・まだ初めてないんだろ・・・ガンモドキ・・・ザ〜・・」
そういう会話の側で、そのパー線と言われる無線機の向こう側の女性の声が徐々に荒げて来ているのが感じ取れます。
「始める・・・・って?・・・えっ?」
里帆は何かに驚たように顔を赤くしてグローブボックスからその無線のマイクを取り出して、どう掴んでいいのか分からないマイクをまどかに渡そうとしましたが、いつの間にかマイクの通話ボタンを押していたようです。
「マイクってこれ?この脇にあるボタンって・・・あっ・・・なんかランプ点いてる・・」
その瞬間そのマイクから「ピピッ、ザ〜・・・」と聞こえます。
里帆はその手に取ったマイクの握り方がわからず、手のひらで通話ボタンを押したままにしていました。
「ごめん・・・握り方わかんなくって・・・ん?コレってなに?」
「うん。それを触ると感度が良くなって・・・」
「こう?」
「あっ・・ちょっとやりすぎかな?」
「ゴメン・・・加減がわからなくって・・・」
ちなみに里帆が触っていたのはマイクに付いている感度調整ボタン・・・
「うん。初めてだからわかんないよね・・・・コレは・・・こうやって・・・握るんだよ・・・」
この時まどかは里帆の手を取ってマイクの握り方を教えていました。
「それで・・・どうやって通信するの?」
「今、マイクから聞こえたピピ・・って音が通話開始のサインなんだよね・・・」
「えっ?・・・・。もしかして、この会話ダダ漏れ・・?」
その時里帆は、まるで腫れ物にでも触るかのようにそのマイクをまどかに渡します。するとそのマイクから息の荒い声が聞こえて来ました。
「ザッ・・ザザ〜。コラ・・・ガンモドキ!オマエ、もう始めてたのか?彼女にナニ握らせてるんだよ!答えてみろ!まったくお前って奴は・・・ザ〜。」
「ピピッ、ザ〜・・・はい・・・こちらガンモドキ。メリットは・・・ご飯の5です。ナベ将軍さん・・何か大きな勘違いされてるようですが・・・ところで、なんかありましたか?どうぞ。」
「ザッ・・ザザ〜。オマエ・・・取り込み中悪いが、今からエリーゼに向かえるか?・・・ザ〜・・」
「ピピッ・・・ザ〜・・・はい。今、取り込んでいませんし・・・沖防(沖防波堤のこと)ですので大丈夫です。どうぞ。」
「ザッ・・ザザ〜。さっきマルビ(尾行班)から例のクラウンがエリーゼに入ったとの連絡があって、そのクラウンが出て来たところをお前のNikonで押さえて欲しい・・・ザ〜・・・」
「ねえ・・なになに?そのクラウンって?エリーゼ?ナベ将軍?ガンモドキって何?」
まどかとその無線の相手方とのやり取りを助手席で聞いていた里帆は訳もわからずパニックになっていました。
するとまどかはその無線の相手先にちょっと待ってくれるように断りを入れ、事の顛末を里帆に説明します。
「まず最初に無線の相手のナベ将軍なんだけど・・・」
「うん。若い女の人って事だけは分かる。」
「興信所の所長の娘で、尾行調査の計画なんかを担当している人なんだよね。ちなみに本業は看護婦さん。」
「えっ?看護婦さん?」
「この前僕が入院した時の担当だった・・・。なんか看護婦さんって情報通なんだよね・・・。」
「そんな人が・・・?。それじゃガンモドキって?」
「それは・・・僕のコールネーム・・・」
「えっ?」
助手席の里帆は一瞬驚いた表情を見せましたが・・・あとは腹を抱えて笑っています。
「まさかとは思ったけど・・・オマエがガンモドキ・・・」
「うん。いつの間にかそういうふうになっちゃって・・・。あと他に、チクワ大臣とかハンペン大名っていうコールネームの人もいるんだよね。」
「なんかそれって・・・鍋?」
「うん。」
「なんでオマエのネームがガンモドキなん?」
「そのメンバーで時々鍋を突くことがあるらしくって・・・好きな具材がそのままネームになってる。それで好きな具材聞かれて・・・咄嗟に出たのがガンモドキってヤツ。」
「う〜ん・・・わたしだったら・・・煮タマゴ・・・かな?」
「分かった。何かあったら煮タマゴって呼ぶから・・・」
「なんか変だね。」
「まっ・・・最初はそんなもんだよ・・・」
「おでんの具か・・・あっ!・・・だからそれを仕切ってるのがナベ将軍・・・って訳だ!」
「うん。」
「それじゃ、クラウンとエリーゼは?」
「クラウンってのはマルタイの一人なんだけど・・経緯はわからないけどそういう名前になってる。」
「マルタイって・・・調査対象・・・ってことだよね?」
「詳しいね。」
「うん。この前警察潜入番組でそんなこと言ってたから・・・」
「あと、エリーゼっていうのは駅裏にあるラブホの事。」
「えっ?そこってそんな名前じゃ・・・」
「うん。無線っていろんな人がモニターしてるから、誰に聞かれてもいいように隠語を使ってるんだ。」
「なんか覚えるの大変そう・・・」
「でもそんなのも楽しいよ・・・」
「ザッ・・・ザザ〜。こちらナベ将軍。ガンモドキさんお話終わりましたか〜・・・どうぞ。」
「ピピッ・・・ザ〜。こちらガンモドキ。今、隣の煮タマゴさんとの話は終わりました。どうぞ。」
「ザッ・・・ザザ〜。それじゃこれからエリーゼに向かってマルタイの写真お願いできますか?いつものやり方でいいんで・・・どうぞ。」
「ピピッ・・・ザ〜。いや、暗いんで自信ありませんが・・・というか、そんな大きなヤマ当方に任せていいんでしょうか?・・・どうぞ。」
この時の「ヤマ」とは、尾行調査に薄々気づいたその「マルタイ」がなかなか尻尾を出さず、尾行方法を変え泳がせたこの日の夜にオンナを連れてラブホに入ったのを確認した・・・というもの。
そして恐らくこれを逃したら、今後決定的な証拠は押さえられない・・・そんな重要案件でした。
無線の相手先であるナベ将軍に向かってまどかが「自信がない」と答えた時でした。助手席の里帆がマイクをよこせとゼスチャーを始めています。
そしてまどかが握っていたマイクを奪い取った里帆が右手に持ったマイクを口元に構えてボタンを親指で押しました。
「ピピッ・・・ザ〜。こちらガンモドキ脇の煮タマゴです。それ、わたしにやらせてもらえませんか?」
「ザッ・・・ザザ〜。こちらナベ将軍。ところで煮タマゴさんって?・・・・・誰?ガンモドキさん・・・どうぞ。」
「ピピッ・・・ザ〜。こちらガンモドキ。煮タマゴさんの腕ならバッチリだと思います。・・・いいでしょうか?・・・どうぞ。」
ん?里帆の好きなおでんの具材がタマゴで、そんな里帆はカメラマンの卵・・・と言うことになるんでしょうか?
そんなことはさておいて、話は駅裏に移動したAE92の車内から再開します。
その後、エリーゼと呼ばれているラブボの出入り口が左側に見えるチョット離れた有料駐車場に里帆とまどかの乗った黒いAE92が駐車していました。
さらにナベ将軍こと後藤田さんに撮影許可をもらった里帆がAE92の助手席の窓から、カメラの長いレンズを窓枠に引っ掛けるように固定した状態で、そのレンズをエリーゼの出入り口に向けて構えています。
「ねえ・・・いつもこんなことしてんの?」
その時里帆は長いレンズのついたNikonの一眼レフのファインダーを覗きながらそう尋ねました。
その時、運転席から体を捻るようにして双眼鏡で同じ所を見ていたまどかがそれに答えます。
「うん・・・。いつもってことじゃないんだけど・・・。僕の場合すれ違い側に、うつるんです(当時大流行の使い捨てカメラ)で撮ることが多いかな?」
「それって、ファインダー見ながらってことじゃないから・・・・どこ撮ってるか分かんないでしょ?」
「そうなんだけど・・・どういう訳か狙ったところが写ってるんだよね。」
「わたしは無理。そんなどこ撮ってるか分かんない撮り方なんてフィルムがもったいない・・・」
この平成初期の時代にはデジタルカメラなんてものは存在しません。だからカメラで撮影するとなるとその都度フィルムを買うのがあたりまえの時代・・・
しかもそのフィルムがそこそこいい値段をしていて、さらにはソレを現像するのも結構な値段がした・・・という時代です。
「でも、フィルムは経費で買えるから・・・・」
まどかがそこまで言いかけた時、里帆が怒ったような口調でまどかの言葉を遮りました。
「違う!わたしが言いたいのはそんなことじゃない!」
「と・・・言うと?」
「オマエっていつもこんな盗撮みたいなことしてんのか・・・って聞いてんの!」
「盗撮って言えばそうなるかもしれない。でもコレが僕のバイトだし、言われたらその通りにするしか・・・」
「でもさ・・・それがいくら仕事って言っても、それって結局他人のプライバシーを暴くってことでしょ?」
「うん。でも、いくら暴いたところで後ろめたい事がなければ全然問題ないと思うんだけど・・・」
「それって・・・恨まれたりしない?」
「恨まれることもあると思う。でも・・・」
「でも・・・何よ!」
「間違ったことはしてないと思う。調べた結果何も出なくて、結局依頼者の思い過ごしってことも結構あるし・・・」
「それじゃその何もない人っては、逆に身の潔白が証明された・・・ってこと?」
「うん。中には言われもない疑いをかけられている人っているみたいで・・・」
「ほとんどは浮気関係なんでしょ?」
「うん。結局はそうなんだけど、それなりの立場の人ってそのことでいろんな利権が動いたりするからね・・・」
「なんかその先は法律家でもないと立ち入れない所?」
「うん。現にこの仕事もある法律事務所から出されている案件で・・・」
「なんか複雑・・」
この時エリーゼの出入り口に動きがありました。
「あっ・・・チョット待って。今出て来たのがマルタイ。」
この時、まどかが覗いていた双眼鏡にマルタイの姿が確認できました。そのマルタイはラブホの出口で周囲の様子を如何っています。
でも、物陰に隠れるように駐車している黒いクルマからレンズを向けられているとは気づいていないようです。
「うん。シャッター切るところ指示して。」
すると、そんな様子を超望遠レンズで捉えている里帆がそう言って身構えました。
「あのマルタイ・・・一人でラブボからで出て一旦向こうに行ってから戻って来て、次に彼女がラブホから出て来たところで合流してこっちに歩いてくるから、その一部始終をコマ送り的に撮ってほしい・・・」
「うん・・・了解。」
そのあと里帆は約1から2秒おきにシャッターを切って行きます。
その間、ほぼ無音の車内に聞こえるのがシャッターの音・・・それに続いてフィルムを巻き上げるモーターの音だけ・・。そしてそんな場面に時より聞こえて来るのが近くにある駅舎の列車案内アナウンス。
「ねえ・・・なんでそのマルタイがあっち行ってからこっち来るって知ってるの?」
「うん・・・内定調査済みだからね。もうマルタイの行動パターンはお見通し・・・ってことかな?」
「それじゃこんな写真いらないんじゃ?」
「でも・・・調査結果をまとめて、それを依頼者に報告するというところまでが仕事だから・・・」
「それじゃ・・・コレって最後の仕上げってこと?」
「うん。この案件はここまでで9割方調査は終わっていて、このラブホから出てくる所を押さえれば・・・・」
そしてその二人が歩いてきたところで別のレンズを付けたカメラと交換して、再びそのカメラのファインダーを覗いた里帆が息を飲んでいます。
「えっ・・・?チョット待って・・・なぎ?・・・・渚?」
この時里帆は再びシャッターを切り始めながら焦ったような声でそう囁きました。
「渚・・・・って?」
「今ラブホから出てきて合流したオンナは・・・わたしの高校の同級生で、同じ部活(ソフトボール部)でセンターだった娘・・・。」
「えっ?なんでそんな娘が・・・?」
「確か・・・今、どこかの小さな芸能事務所に所属してて、最近ようやくアシスタントなんかでテレビに出るようになったんだよね・・・。あっそうだ。高校卒業したら表舞台で輝きたいって言ってたかな?」
「その渚って娘・・・そういうところとか交友関係なんかも調査されてるはずなんだよね。」
「それじゃ、別のところでこんなふうに写真とか撮られちゃったり・・・尾行なんてされちゃってる訳?」
「・・・・」
「そうなんでしょ?」
「うん。恐らく家とか家族構成・・・それに職場なんかも調査済み・・・でも、ソフトボール部だったってことは知らなかった・・・」
「コレってどう見ても不倫でしょ?その不倫ってところが調査対象になってるの?」
「それもあるけど・・・」
「こんなのが分かっちゃったら、渚・・・クビになっちゃう・・・。」
里帆はそう言いながらもシャッターを切り続けています。
「クビはないと思う・・・コレってある意味、業界では常態化してるって言うか・・・黙認してるって言うか・・・」
「でも渚・・・なんで・・・あんな中年と・・・ん?あれっ?」
「里帆ちゃん。気づいた?」
「あの中年って・・・どっかで見たことある。」
「そうだよね。あのクラウンって言われてるオトコって、元プロ野球選手で今じゃいろんな局でテレビに出てる・・・その本人なんだよね・・・。」
「なんでそんな人がこんな地方でこんなことしてるの?」
「前に、グルメ番組の取材でこの街の食品センターでロケした時、今一緒にいる渚って娘がアシスタントとして携わったのがきっかけだって聞いてる・・・」
「あっ・・・知ってる!渚があのオトコの案内役やってたヤツ・・・・それ観たことある!」
「それって確か半年くらい前の番組で・・・」
「それじゃ・・・その後、あの人が渚を気に入ってたびたび呼び出してる・・・とか?」
「うん。それもあるけど・・・」
「あと何があるの?」
「その逆というか・・・」
「逆・・・・って?」
「枕営業・・・って言葉知ってるよね?」
「うん。カラダの代償に何かを得るっていう・・・」
「僕は詳しく分からないけど、そのオトコってそういうのが芸能コンサルタント会社を営んでて・・・いろんな企画をテレビ局に持ち込んでるってハナシなんだ。」
「それとこれとは関係がないんじゃ?」
「その企画っていうのがキャスティングの案まで決めた状態で提出されるんだけど、そのキャスティングで行われる事前オーディションっていうのがその・・・」
「枕・・・?」
「うん。その事前オーディションで人数絞った状態で局に上げて、その案で制作が検討された場合次に行われるのが第0次オーディション・・・」
「そこでも?」
「うん。次に行われるのが一般公募を経て正式に集まったタレントなんかを交えて行われる1次オーディションなんだけど、0次オーディションは1次オーディションの事前選考も兼ねているから、実際に行われる1次オーディションって本当に形だけのもの・・・」
「じゃ、実際には第0次で決まる・・・ってこと?」
「そう聞いてる・・・。ウワサじゃ、それはタレントやモデル、声優だったり・・・」
「えっ?百歩譲ってそうやって日の目見れればいいけど・・・日の目見れない娘は・・・」
「生身の身体を弄ばれて終わっちゃう・・・ってことになるのかな?」
「それってひどくない?しかも、弄んでる業界の人たちって本気でその娘をデビューさせようとなんて思ってないんじゃ・・」
「でも、そういう道を進まないと、日の目見れないって割り切ってる娘たちも多いって・・・」
「それじゃ、渚もそういう娘の一人ってことなの?」
「里帆ちゃん。夕方僕が里帆ちゃんに買ってあげた紅茶のCMって知ってるよね?」
「うん。今話題の新人だってこと・・・」
「どうやらその新人もそうやって日の目を見たひとりみたいなんだよね・・・」
「えっ?あの・・・・清楚系・・・・が?」
「うん。あんな可愛い娘でもそこまでしないと這い上がれない・・・そんな厳しい世界がその世界みたいなんだ。」
「じゃ・・・みんなソレを覚悟で表舞台を目指してるってこと?」
「僕が今、そんな情報ばかり扱ってるからみんなそんな感じってなってるかもしれないけど・・・実際には正攻法で売れているタレントとかも沢山いるとは思う・・・」
「うん・・・わたしもそう思いたい・・・。でも、渚ってそうじゃない方法で這い上がろうとしているけど、ソレってどんな世界なの?」
「その世界っていうのは僕にとって全くわからない闇の世界・・・。でも、あのマルタイがどこでどんなことやってるっていう詳しい話は東京の調査会社が調査している案件で・・・。」
「じゃ・・・こんな田舎で調査してるコレって?」
「今僕たちがやっているのは、そこから依頼を受けた法律事務所が行なっている単なる実態調査・・・。」
「そこから出された仕事を興信所がやってるってことだよね?ってことはコレって下請け?ん?孫請ってこと?」
「まっ、そんなところだから・・・それ以上詳しいことは分からない。」
「でも・・・渚も枕営業してるってことは把握してるんだよね?」
「それで仕事を得ているわけだから・・・状況証拠でそういうことになる。」
「でも・・・それのどこがいけないの?生命保険の勧誘でもそんなことがあるって噂を聞いたことあるし、ある意味どこの世界でもそんなハナシ転がってると思うんだけど・・・」
里帆がそう言っていますが・・・ある意味、それもそうなんです。
現に過去に建設業を営んでいたまどかの母親も会社が存亡の危機の時、融資をネタに銀行の支店長に度々呼び出され身体を預けてそれで乗り切った・・・なんてこともありました。
結局はそれも枕営業・・・でも、今回のケースは少し話が違います。
「いや・・・それが・・・」
そんなことでその時まどかが煮えきらない様子です。
「それがどうしたのよ!煮え切らないわね!」
そんな会話の中、道路を歩いてくるその二人が段々と近づいて来ました。
そこで里帆が窓からカメラを引っ込めて平静を装い始めましたが・・・近づいてくる二人を横目で追いながらもその会話が続きます。
「うん・・・今歩いてくるあのオトコって、そういう日の目を見れない新人タレントの娘を取りまとめてオーディションを受けさせるって名目で他社のコンサルタント会社に紹介しているって役・・・・なんだよね。」
「それじゃ・・・その枕営業の仲介をしてるってこと?」
「恐らく・・・。あと、別案件でモデルを紹介してる娘も調査中で・・・」
「でも、なんで渚まで調査対象になってるの?何か悪いことしてるの?」
「う・・・ん。その枕営業の女の娘を取りまとめてそのオトコに紹介してるってところが・・・」
「えっ?それじゃ渚がそういう斡旋を・・・・?」
「うん。今までの調査結果じゃそうなってる・・・・。しかもその事前オーディションっていう名目で、ソレがパーティー形式で行われていて、その女の娘たちがそのパーティーの後に足代として現金を受け取ってるんだ。」
「パーティーってことは会費が発生するでしょ?それっていくらぐらい?」
「モノにもよるけど、オトコの会費が1人10万から20万って聞いてる。中には40万ってのも・・・」
「それでその足代は?」
「安い時で3から4万・・・・高いと20万超えることもあるらしい・・・」
「それって顔を売ってるんじゃなくって・・・身体を売ってるってこと?しかもお金なんか受け取っちゃっるって、それって・・・?」
「ソレはあくまで交通費であって身体を提供した対価じゃない・・・」
「対価を受け取ってないってことは・・・?」
「その分、その女の娘たちが消耗してるってことなんじゃないかな・・・」
「それって・・・身体?それとも心?」
「両方・・・だと思う。でも、結局お金が絡まくてもオトコどもがそんな女の娘の生身の身体を消耗させていることには違いはないけど・・・・でもそれって世間的には黒だったとしても、法律的には限りなくグレー・・・」
「そう・・・だよね。未成年でもなければ警察も動けないと思うし・・・」
「ソコ・・・なんだ。そもそもそれに未成年者が関係しているってところから調査が始まったみたいで・・・」
「そうなるよね・・・そういう世界だもんね・・・。でも未成年者が絡んでくるとなると・・・」
「ヤバいね・・・格好のワイドショーネタ・・・」
「でもさ、そんなこと調査依頼している人の目的って何?何をどうしたいの?」
「結局・・・テレビを制作する会社も株式の営利企業なんだよね。自分の関連するところでそういうことが行われている・・・なんてことが公になるとそれが株価に直結するから、それは避けたいってこと。」
「うん・・・企業イメージって大事だよね。ワイドショーになんかに取り上げられたら、たちまち評判ガタ落ち・・・」
「特に、企業っていうのは最低限法令遵守というイメージを崩ちゃいけない。」
「それじゃ・・・それが自分の会社と関係するのかしないのか調べるため?」
「恐らく・・・」
「・・・っていうことは、その会社と関連がないという調査結果になった場合・・・」
「それで調査終了ってことに・・・」
「それって、そういうことをなくそうっていう正義感でやってる感じじゃないのね・・・」
「うん。他人の重箱の角を突いて、それが薮蛇にならないとも限らないし・・・」
「藪蛇・・・ね〜・・・」
そんな話題に夢中になっている二人のすぐ前にその二人が近づいてきました。
「悲しいけど・・・そんな世界・・えっ、あっ、ごめん・・・・」
そこまで話をしたところでいきなりまどかが里帆に覆いかぶさりキスを始めました。
「じっとしてて・・・このまま二人をやり過ごそう・・・。今、渚って娘と目が・・・」
まどかはそのままの状態で里帆にそう囁きました。
「うん。今、渚チラチラがこっち見てる。あっ・・・マルタイの人と目が合っちゃった・・・」
「落ち着いて・・・・そのまま・・・そのまま・・・」
そしてそんな状況の中、そのマルタイとその腕に絡みつくようにして、渚という女性が駐車場に駐車している黒いクルマの中で若い男女がキスをしているのを横目で見ながら歩いて行きます。
そしてしばらくすると里帆は覆いかぶさっているまどかを押し退け、助手席のドアを勢いよく開けて飛び出して行きました。
「待って!里帆ちゃん・・・」
そんなまどかの声に耳を貸さず、里帆は過ぎ去った二人の後ろ姿を追いかけて行きました。
里穂が履いているサンダルの音と、まどかのスニーカー足音が重なるようにネオン街のビルに反響しています。
そしてちょうど防犯灯の下で、その渚という娘の肩を引っ張るようにして里帆が叫びました。
「渚・・・何やってんの?コレってどう見ても普通の恋愛じゃないよね?」
すると声をかけられた渚という娘が振り返って一緒に歩いていた中年男性から離れて驚いた表情で立ち止まりました。
「あっ・・キャプテン(里帆はソフトボール部でキャプテンでした)だったんだ・・・。声掛けたってことは興信所じゃなさそうね。最近ツケられてたから少し警戒したけど・・・。」
「渚・・・アンタ、こんなところで何やってんの・・・?」
「キャプテン・・・いや、里帆には関係ないでしょ?わたしが何しようとも・・・。アンタこそあんなクルマの中で何してたのさ・・・」
「そっ・・・それは・・・」
その時、渚という娘が里帆の後ろにいるまどかをまるで値踏みでもするかのように見ています。
「ふ〜ん・・・・大学生捕まえたんだ・・・だから県外ナンバーだったのね・・・クルマ」
「それがどうしたのよ!」
「里帆はさ・・・自分のカレシが大学生だから健全だと思ってるかもしれないけど、男女の仲に健全も不健全もないの!」
「そっ・・・それは・・・」
「言っておくけど、わたしのカレ・・・不倫じゃないからね・・・離婚してるし・・・調停中だけど。」
「いや・・・そういうのじゃなくって・・・」
「そうもこうもないの!第一もう里帆はキャプテンでもないし、わたしもオトナなんだよ。部活じゃないんだから部外者は口突っ込まないで・・・」
「渚・・・アンタ、コレでいいの?そんなことしてていいの?アンタ・・・輝きたいって言ってたのは嘘なの?」
「里帆・・・アンタには分からない・・・。わたしが輝くためにどんな苦労をしているかってこと・・・」
「・・・・・」
「里帆・・・アンタはいいよね。高校の時双子でバッテリー組んで東北大会でノーノー(ノーヒットノーラン)やって、テレビや新聞で大きく取り上げられて・・・。」
「それは・・・」
「この前見たよ・・・夏帆が仕事中にやった人命救助で表彰受けたってニュース・・・。バスガイドっていいよね煌びやかな職業で・・・」
「それとこれとは・・・」
「覚えてる?わたし・・わたしあのノーノーの試合でノーヒットだったんだよ。しかもエラーまでやらかして・・・」
「でも・・・」
「それで試合の後、夏帆(里帆の双子の姉でピッチャー)の胴上げに一人混ざれなかったんだ・・・。羨ましかった・・・その時わたし以外のメンバー全員が輝いてて・・・」
「違うの・・・」
「何が違うっていうの?もう、わたしにかまわないで・・・それじゃ・・・」
最後にその渚という娘がそう吐き捨てて隣の中年男性に一言二言何か言うと、今度はその中年男性が里帆の前に出て名刺を差し出しました。
「ボクね、こう言うモノなんだけど・・・君、CMに出てみる気はないかい?」
いきなりそう言われた里帆は言葉を失っています。
「今、スポーツ用品の案件が入っていてね・・・クライアント側から新人探してくれって頼まれてて・・・」
すると、そう問いかけられた里帆を差し置いてそばにいた渚という娘が当然抗議を始めました。
「わたしがいるでしょうが!?なんでわたしを差し置いて・・・」
「君じゃダメなんだ。クライアントが望んでいるのは全くの素人・・・ってこと。」
「わたしも似たようなモノじゃ・・・」
「この娘は君みたいに髪も染めてないしピアスも開けてない。そしてどこかズレたそのファッションといい・・・オトコ知らないっていえばそれで通っちゃう感じで・・・・」
「でも、里帆って街中の駐車場に停めたクルマの中であんな事・・・」
「うん・・・でも慣れた感じじゃなかった。そうされながらも冷静に僕たちを見てたじゃないか。」
この中年・・・やはり只者ではありませんでした。
彼女と談笑しながらも周囲を観察しているその鋭い眼・・・。もしかするとまどか達が興信活動をしていたのもお見通しだったのかもしれません。
するとその中年がその渚という娘を見つめて変なことを言い出しました。
「それじゃ東京に出てくれば良い・・・この娘と一緒に。会社近くのマンションに1部屋あるからそこで暮らせば良い・・・」
ん?・・・ということは、この中年男性はこの二人をまとめて愛人として囲う・・・ということなんでしょうか?
その時それまで黙って二人のやりとりを聞いていた里帆が思い口を開きました。
「興味ありませんので・・・そんな世界。田舎娘で結構・・・ファッションがズレててもそれも結構・・・つい最近オトコ知ったっていうのもそれはそれで結構・・・。わたしはそういう世界に全く興味ありませんので・・・」
するとそう問いかけられた中年男性ではなく、その隣の渚という娘がそれに答えます。
「わたしはそういう世界の人間なの。チャンスがあれば何が何でも掴んでやるし、そのためにはなんでもやる・・・そういう人間なの。もうチャンスというボールが飛んできたら何が何でも飛びついて捕ってやる・・・あの時みたいなエラーなんて二度とやらない・・・ソレじゃ・・・」
息を切らせながらそう語った渚はその中年男性の耳元で何か耳打ちをして、再び腕に絡まるようにして再び歩き始めました。
すると直立不動で立ちすくんでいた里帆が叫びます。
「違うの。渚が飛びついてエラーにした球・・・・渚が飛びつかなければヒットになってた。飛びついてくれなきゃノーノーは達成されなかった・・・。その時誰も気づいてなかったけれど、ピッチャーの夏帆は渚にすごく感謝してた・・・」
「それって慰め?少なくともアンタが輝いていたのは、結局それが最後だったよね?悪いけどわたしはコレから輝くから・・・」
「渚・・・わたしは輝かなくってもいい・・・。でも、渚は少なくとも自分を大切にして・・・」
その時、元キャッチャーである里帆のその大きなその声が人通りの少ない駅裏のビルに反響しています。
そして・・・最後の里帆の叫びに対してその渚という娘は何も反応せず中年男性と共に繁華街に消えて行きました。
すると里帆は踵を返すように振り返って息を切らすようにしてまどかの腕を引っ張って駐車場のAE92に乗り込み、運転席に座るまどかに問い掛けます。
「でも・・・あの関係って平等じゃないと思うんだけど、どう思う?」
「うん・・・。相手が物凄い年上だったり、社会的にそれなりの立場だったとすれば絶対的に平等にはなれないと思う・・・」
「それじゃ・・・いつまで経ってもお互いに平等な立場にはなれないってこと?」
「それは金銭的だったり社会的な事だと思うんだ。でも、男女の仲ってそれだけじゃないでしょ?」
「それって社会的には平等じゃないけど、別なところで立場が逆転・・・ってところ?」
「うん。一つの例で言えば・・・昼と立場と夜の立場が逆転・・・とか。」
「それで相殺される・・・ってこと?・・・。ソレってSとかMとか女王様とか?」
「う、うん・・・。そういう世界があるのも否定できないけど、そればかりじゃない・・・と思う。」
「なんかオトコとオンナって複雑・・・」
「うん・・・それがオトコとオンナ・・・。」
その後まどかは例の無線で業務報告をして、この後撮影したフィルムを指定の現像所に届ければ業務終了・・・と、なった時です。
繁華街から歩いて来るカップルがやたら楽しそうな会話をしながら歩いてきました。
でも、里帆はそのカップルのオトコに見覚えがあるようです。
「えっ・・・先輩?」
駐車場に停められたブラックレビンの前を楽しそうに歩くそんなオトコとオンナ・・・
しかもそのオトコは明らかに里帆より年下の未成年の腰に手を添え、どこかへ誘う・・・そんな雰囲気。
それは里帆がインターン先の役所で好きになってしまった一戸さん本人でした。
その一戸さんと10も離れたその茶髪の女の娘・・・どんな関係なんでしょうか?
しかも、そんな疑問を持った矢先にその2人が向かったのは先ほどのラブホの玄関・・・
そしてその2人が建物に消えた瞬間、里帆が震える声で囁きました。
「一戸先輩って、あんな若いのが良いんだ・・・。あの娘からすればわたしなんてすでにおばさん・・・」
二十歳の里帆がそういうくらい若い娘をラブホに連れ込んだその人は役人・・・。役人といえばお堅いイメージでしたが・・・。
この時息を呑みながら小さく震えている里帆が小声で呟きます。
「どこでもいいから走らせて・・・・どうでもいいからここから離れたい・・・」
この時里帆はRECARO製のバケットシートに深く身を沈め、そう言いながらシートベルトをしていました。
「うん分かった。とにかくここから離れよう・・・。」
そう言いながら有料駐車場からクルマを出したまどかは、市街地に向けてAE92を加速させました。その時のAE92の甲高い排気音が、商店街のシャッターに反響しているのが聞こえています。
この時まどかはその愕然とした里帆の気持ちを汲んで、今後一切そのことには触れないことにして話題を変えました。
「さっき里帆ちゃんが撮ってくれた大事なフィルム、現像に回さなきゃ・・・」
「えっ?こんな夜遅くに写真屋さん?」
「うん。すでに事務所が手配してくれてて、その店の裏口まで届ければ・・・」
「それって・・・わたしの撮った写真が世に出る・・・ってことになっちゃうの?」
「それはないと思う。ゴシップ誌に載せるために撮った写真じゃないし・・・」
「でも、そんな会社に持って行けばお金になる写真でしょ?」
「そうかもしれない。でも、僕たち調査員は守秘義務を守らなきゃ・・・」
「あれ?いつの間にかわたしも調査員ってことになってる?」
「うん。しかも、腕の立つ撮影班として・・・」
「チョットやってみようかな・・・」
そんな話をしながら少し走ったところで着いたのが、街外れにある比較的大きな写真店でした。
「えっ?ここって・・・・」
「うん。普段普通の人が現像を頼む普通の店だね。」
「違うの・・・。この店って夏帆のカレシの実家の支店・・・」
「えっ?このカメラのタキサワって・・・あの滝沢の実家関係?」
「うん。この前夏帆がそう言ってた・・・」
「でも、ヤツの実家って北海道じゃ・・・・?」
「うん。本店は北海道だけど、直営店舗が東日本に何店舗もあって、フランチャイズも含めると・・・・」
「じゃ・・・アイツって何者?御曹司?」
「うん。そういうことになるのかな・・・?あっ、そういえば毎年どこかの外国へ行って世界遺産とか歴史的土木構造物の写真撮影旅行してるって言ってたかな・・・?今年はスイス鉄道がどうのこうのって夏帆が・・・」
そんな滝沢は、まどかと同じ学部に属しており土木関係の勉強をしています。
でも、そんな滝沢から土木構造物の写真を撮るにはその構造や思想が分からないとその本質を捉えることが出来ない・・・と聞かせられたことがあり、一応は納得していましたが・・・。
今ここで、御曹司の何たるかを思い知らされた感じがしてなりませんでした。
そしてその写真店にフィルムを託した後、本日宿泊するラブホを探しましたが・・・・
深夜23時を回った金曜の夜のラブホはどこも満室でした。
大学近くのラブホ街やちょっと郊外のラブホ街を隈なく探しましたがどこも満室で、同じようにラブホを探しているクルマとアチコチで出くわす始末・・・
どこに行ってもそのラブホの入り口には「満」の赤い灯りが・・・
「コレって・・・ラブホ難民?」
まどかの気が焦ります。
そしてラブホを探し回っていて疲れてきた頃、ちょっとした店のネオンもラブホの看板に見えて来る始末。
このまま途方に暮れてしまうんでしょうか?
しかも里帆は実家暮らしですし、まどかは女人禁制の下宿です。しかもそんな下宿では今晩飲み会が行われていて、そんなところへこっそり連れ込むこともできません。
日付変更線を越えようとしているこの二人、この先どこへ向かえばいいのやら・・・
話が長くなってしまいましたので、そんな2人が放浪するところで後日談の前編を終わりたいと思います。後編では、ただでは終わらない翌日までの2人の行動を描いていきたいと思いますので、お時間がありましたらお付き合いください。
なお作中、里帆の同級生が枕営業をしている・・・という場面がありましたが、それは当時聞いた噂話を全く想像で文書化したのものですのでフィクションとなります。また、その他表現の仕方でご気分を害された方がおられましたらお詫び申し上げます。
前回投稿から時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。本作品の校正中に発生しました激甚災害対応のため執筆活動が休止していたものですから・・・(ちょっと言い訳です)
最後に・・今回も4万字超えの拙い物語を最後までお読みいただきましてありがとうございました。心から感謝申し上げます。
まことまどか