「ねえ・・・ラブホは諦めてあそこ行かない?」
「ん?」
「あの夜景の綺麗な・・・」
「沖防波堤・・・・?」
「うん・・・」
この時目を赤くしながら首を縦に振る里帆の口からそんな提案を受けたまどかは、もうこれ以上彷徨うことも限界と感じていてそれを了解した。
それは行き場を失って市内を右往左往するブラックレビン204と言われるAE92の車中でのこと・・・。
このストーリーはシリーズ第37話の続編となり、それは女の娘がどんなところであのスイッチが入るのかを検証するために始めたデートでした。
それは普通のカップルが普通のデートを楽しんで・・・その終わりにラブホに行って女の娘のあのスイッチがキチンと入っているかを確かめることが目的でしたが、最後のラブホに入るまでの時間潰しをするため夜景を眺めていたところに入った無線連絡で脆くも崩れ去ったその後のデートプラン・・・。
そして急遽行うこととなったバイトにより、ラブホに入りそびれた二人が彷徨った挙句に再び夜景を眺める場所に舞い戻ったところからスタートします。
それは、無線連絡をもらう前に時間潰しをしていたあの場所。
しかし・・・その場所は時間が遅くななればなるほど「そういう輩」が集まって、各々のクルマの中で「よからぬ事」をするのが定番とされた「そういう場所」でした。
この物語は平成2年の北東北にある小さな臨港都市が舞台となっています。現代からすれば30年以上も前の昔話になってしまいますが、今では想像もできないそんな時代は、現代とちょっと違った価値観でものごとが動いていました。
そんなことでこの物語は現代と違った時代背景で展開されますので、その辺りも楽しんでもらえればと思います。
そんな時代は誰しも熱く、そして浮かれていた時代です。しかも、その季節はこれから夏休みが始まろうとしていて若者が何かを期待している・・・そんな季節。
そんな季節に浮かれている2人がその沖防波堤に到着したところから物語がスタートです。
でもその場所はいつも工事が行われており、大きなクレーンを含めた工事用車両や大きな岩みたいな砕石などがあちこちに置いてあって、一般車が入っていいのか悪いのか分からないグレーゾーンとなっていました。
でも・・・そこに行くとその入り口にある立ち入り禁止のバリケードがいつも脇に寄せられています。これは最初からそうなっているものなのか誰かがそうしたのかは分かりませんが、基本的に立ち入り禁止のそんな場所。
そんな場所にわざわざ出向いて若者がすることといえば・・・やはり「そんなこと」。
だから・・・この時提案を受けたまどかは気乗りしません。
何せその場所へ行けば何かが起きるのは必須・・・それは周りだったり自分達だったり・・・。
それは、女の娘だけでは決して足を踏み入れてはいけないくらいの危険な場所だと聞いていたから・・・。
でも、彷徨い続けるAE92の助手席に揺られ続けた里帆に思考能力は残っていません。
「そこで夜明かし・・・・しない?徹夜明けで見る朝日もオツなもんかも・・・」
目を赤くした里帆にそう提案されたまどかは運転するAE92を沖防波堤に走らせました。
そして到着した現地はやはり予想通りというか・・・
それは、所々工事中のその場所に何か決まり事でもあるかのように整然と駐車されたクルマたち・・・
しかもそれはどれも10メートル程度の間隔を空けて駐車されており、クルマによっては窓が真っ白に曇っているクルマも・・。
そんな異様な様子を横目にしばらく走らせ、工事用エリアのチューブライトが赤く点滅する脇に空スペースを見つけたまどかはそこにクルマを駐車させました。
その場所は目の前が港の内海となっていて遠くに見える夜景が水面に反射して幻想的な場所となっていました。
しかもそこは斜め右前に製鉄所が照らされた綺麗な夜景が広がっていて、左側すぐ脇には工事で使う消波ブロックが集積されています。
更には右側クルマ3〜4台程の間を開けたところにベージュ色のシルビアが海に対して斜めに駐車していて、そのシルビアを若干後ろから見るような位置関係・・・。
でも、そんな斜め後ろから見るシルビアには、どこか見覚えのあるようなステッカーが貼ってありました。しかも、その低音の効いた低周波を伴った排気音が窓越しに振動として伝わって来ています。
さらにそのはるか向こう側にある漁船の係留施設の照明に照らされて、本来見えないはずのスモークガラスの車内がシルエットとして浮かび上がっていました。
「隣のシルビアって、里帆ちゃんの右ストレートを股間に喰らった野郎のクルマだよ。」
「えっ?どれどれ・・・」
そう言いながら里帆はまどかの肩を掴んで身を乗り出してそのシルビアを覗き込みます。
「あっ・・・本当だ。ここにいるってことは・・・ナンパ・・・成功したんだね?」
「場所・・・移そうか?」
「この場所だってやっと見つけたよね?この先って工事中でこのクルマじゃ入っていけないんじゃ?」
「うん・・・そうだね。ここに来るまでにも結構ヤバイ段差があったりして・・・」
「ここで良いよ・・・」
「うん。」
「でもさ・・・あのシルビアなんだけど、なんか話が白熱してるみたい・・・」
その時そのシルビアの中で運転席のオトコが怒鳴っているような雰囲気がそのシルエットが見える状況を見て里帆が興奮気味にそう語っています。
「何・・・揉めてんだろう・・・?」
すると、そのオトコが落ち着いた雰囲気でタバコをふかし始め、運転席の窓の上に白い煙が陸地側へ流れているのが見えました。どうやらヤマセ(太平洋側から吹き込む冷たい風)が吹き込んできている模様です。
それまで何かが起きることを期待していた助手席の里帆が半ば残念そうに口を開きました。
「なんか・・・一段落しちゃったね。」
「うん。でも・・・嵐の前の静けさかも・・・」
すると今度は運転席の窓が全開になって、そのオトコが火の点いたままのタバコを外に投げ捨てたのが分かりました。しかも、スモークガラスが助手席側の窓1枚だけになったお陰でその車内が鮮明に・・・
「あっ・・・女の娘、ドアに寄りかかってオトコを避けてる?」
その時、まどかの眼にその助手席の窓に白っほい服の肩付近が押し付けられているのが見えました。
「うん。」
「なんか・・・ラブラブって感じじゃないね。あのオトコとオンナって距離が遠いって感じがする・・・なんでかな?」
「だって・・・街でナンパしてきた娘でしょ?いくらなんでも急にラブラブって感じにはならないって・・・」
「そうだよね・・・。でも、ここに来たって事は・・・シちゃうんでしょ?」
「中には僕たちみたいに健全に夜景を楽しもうとしてるのかもしれないし・・・」
「ねえ、夜景・・・だけで済ましちゃうの?」
「えっ?それって・・・あのシルビア?それとも・・・」
「バカ・・・」
里帆がそう言った瞬間シルビアの中では、その運転席のオトコが急に助手席の女の娘に覆いかぶさったかと思うといきなりその助手席が倒れました。それはいきなりという言葉がピッタリと当てはまる程突然の出来事・・・
「里帆ちゃん・・・押し倒しちゃったよ。」
その時身を乗り出してそれを見ながら唾を飲み込む里帆。
「それじゃ・・・始まるの?」
「そんな感じだね・・・」
そう答えたまどかの左手からはさらに唾を飲み込む音が・・・。
2人が凝視するそのシルビアの車内ではまさにコトが始まろうとしている雰囲気も・・・。
そして、そのオトコが助手席に乗り移ってその女の娘にまたがって何かをしようとしているようです。
でもその女の娘が胸の前で腕をクロスにしてそれをさせまいとしています。そこで目を凝らすとその助手席でそのオトコが服を脱がせようと頑張っている様子が・・・
でも・・・なぜかそれにすごく手間取っています。
「あの娘・・・なに難しい服着てんのかしら・・・セーラー服でもあるまいし・・・」
2年前まで現役の女子高生だった里帆は、自分が高校生の時着用していたセーラー服の脱ぎ着が面倒だったことを思い出してそう言っているものと思います。
過去に、当時2年生だった真琴とセーラー服の着衣セックスをして飛び散った液体で制服をパリパリにしてしまった経験のあるまどかは、その付属高のセーラー服だったとしたらとてもクルマの中じゃ脱がすことはできない・・・なんて思っていました。
でも・・・隣のそのクルマの中では現実にそういうことが行われていました。
もうまどかと里帆の目はそのシルビアの窓に映し出されるそのシルエットに釘付けです。
「あっ・・・脱がすの諦めて服・・・めくり上げた。」
「うん。今、下から手を入れて・・・・また何か手間取ってる・・・」
「ブラジャー外そうとしてるんじゃない?」
「あっ・・・今中から引き摺り出して放り捨てたのって・・・」
「ブラジャーだね。腕・・・どうやって抜いたんだろ?」
「そうだよね・・・ブラジャーの紐・・・」
「あっ、今度は服捲り上げて頭突っ込んでる・・・ん?女の娘が嫌がってる・・・どうして?」
「あっ・・・今オトコがスカートに右手突っ込んだのが見えた・・・」
「それでか・・・」
「でもさ・・・ここに来るってことはそういうことも含みってことなんでしょ?なんでここに来て嫌がってる訳?」
「そのオトコ・・・ムードも何も考えなくって、ムラムラ来ていきなり襲った・・・とか?」
「そんな感じだね・・・見て?今度は女の娘がオトコの顔を両手使って押し返してるよ・・・」
「うん・・・。どう見ても嫌がってるよね・・・」
「まだそんな雰囲気じゃない・・・ってのが、ここからでも分かるよね・・・」
「うん。とにかくあのオトコだけがヤリたくってどうしようもない・・・ってのだけはここからでも分かる。」
「助けてあげようか?」
「でも・・・ここのじゃ、それぞれのクルマの中は干渉しちゃいけないルールになってるって・・・」
「それって、クルマの中は治外法権?」
「それは大使館のクルマだって・・・」
「でも・・・ここでもそんな感じでしょ?」
「うん・・・部外者は手出し出来ないっていうのは一緒だけど・・・」
そんな会話の中そのシルビアを見ると、その助手席に横になった女の娘の膝下でそのオトコが天井に頭を支えた状態で前屈みになっていました。
そしてそんな苦しそうな状態でどこかについた左手で身体を支えつつ、右手だけで自分の下腹部辺りをゴソゴソそている様子が窺えます。
どうやらそのオトコは自分の履いているズボンのベルトを外しているようでした。
「あっ・・いよいよだね。」
隣の里帆が興味津々の表情でそう言っていますが、見ると今度はそのオトコがスカートの中に両手を突っ込みパンツを引き下げている様子が・・・
そしてそのオトコはそのまま身体を倒してその助手席にずり上がるように倒れ込みました。
でも様子が変です。
そのオトコが何度も身体を起こしては自分の股間の辺りを気にしていました。
「あのオトコ・・・何やってんの?コンドームでも着けてんの?」
見た感じではそうではなく、恐らく準備不足ためうまく挿入出来ない感じがします。
「多分・・・女の娘が濡れてない・・・」
まどかが里帆にそう答えた瞬間、今度はそのオトコが女の娘の両脚を肩に担ぎ上げました。するとその脚がバタバタと抵抗を試みる様子が分かります。
「なんか・・・まだ揉めてるみたい・・・」
「うん。あのオトコ、彼女がソノ気じゃないのが分かんないのかな・・・?」
するとそのオトコが身体を前に動かした瞬間、その肩に担がれた脚が再びバタバタ始めたのが分かりました。それは先ほどより激しく・・・
しかも、両手で頭を叩かれながらもそのオトコの腰が前後に動いている様子も・・・
「始まったね・・・」
「うん。始まった・・・」
その様子はまるで全開で走る蒸気機関車の如く凄いピストン運動・・・
もうこの頃になると女の娘の抵抗もなくなり、そのオトコがヤリたい放題となっている様子も・・・
「いや・・・すごいねあの腰の動き・・・」
「風谷もそうなの?」
「いくらなんでも・・・あれっていくらなんでも女の娘を考えた動きじゃないよね・・・」
「いきなりあんなにされたら・・・痛そう・・・」
するとそのクルマの中でしばらく動いていたものがピタリと止まったかと思うと、今度はまるで杭でも打ち込むようなゆっくりとした動きに変わって、最後にはそのオトコの身体が弓形になった状態で動きが止まりました。
「終わったね。」
「うん。」
そんなシルビアの車内では、運転席に戻ったオトコが再びタバコに火を点けたのが見えました。
「里帆ちゃんどう思う?終わった後ああやってタバコを吸うオトコって・・・」
その時、急に手を握られたまどかがチョット驚きながらその里帆の顔を見ると、それままさにスイッチの入ったオンナにの表情に・・・
「ゴメン・・・」
里帆は一言そう言うとまどかの手を引っ張り、更に身を乗り出して・・・まどかの両頬を両手で挟み込むようにしながらその顔を引き寄せキスを始めました。
「わたしも・・・」
そして一旦唇を離して隣のシルビアをチラッと見て、さらにそう付け加えると里帆はまどかの唇を貪るように吸い続けています。
この時里帆の中にあるスイッチが入ってしまったものと感じたまどかは、もう後戻りできないその雰囲気を察して覚悟を決めました。
すると、そんな覚悟を決めたまどかに覆いかぶさった里帆が、まどかの座っているシートの背もたれ脇にあるレバーを動かそうとしています。
「里帆ちゃん・・・そのレバーがどうした?」
「このレバー動かないんだけど!これってシート倒すレバーでしょ?夏帆の同僚でアシ代わりに使ってる彼氏のプレリュードにもコレと同じようなレバーが付いてたんだけど・・・」
とにかくこの時里帆は、まどかの上半身ごとシートを倒そうと試みているようです。
このシートのそんなレバーを勘違いしている里帆は、経緯はわかりませんがそんなアッシー君のクルマに乗ったことがあるようでした。
でも、このAE92にはまどかが前に乗っていたハチロクと同じRECAROという社外製のセミバケットシートが装着されています。このシートは前に倒すためのレバーこそ付いていますが、そもそも後ろへ倒すレバーが付いていません。
だから、後ろへ倒すときは角度調整用のダイヤルを永遠と回さないと倒れないという厄介なシートです。
その里帆が言っていたレバーとは、シートを前倒しすためのレバーを指していました。もちろんそれをいくら操作したところで後ろへは倒れませんが・・・
だからこのシートを装着する人はクルマの中で不埒なことをしない硬派な走り屋というのが相場でしたが・・・一方、プレリュードにはどういう訳が、運転席からすぐ手の届くところに助手席がワンタッチで後ろへ倒れるレバーが初めから装着されていました。
コレがまた、そういうことに使う輩にはやたら好評で・・・
この時覚悟を決めたまどかは、シートを一番後ろまでスライドさせ、シートを後ろへ倒すためにそのダイヤルをグリグリと回し続けました。しかも、体重が掛かるとそのダイヤルが回りにくいという条件の中で・・・
そして座っているシートの尻のすぐ右側にあるそのダイヤルを右手で回し続けるまどかに、そんなことなど関係のない里帆が鼻息を荒くして迫って来ています。そして、そのまどかに里帆が馬乗りになった時そのシートが何かに支えて倒れなくなっていました。
この時そのシートに支えていたモノとは、後部座席に置いたアルミ製のカメラケースです。
コレはカメラ本体が2台収まっている他レンズが何本も入ってる結構大きなものでした。しかも、動かないようにシートベルトで固定もされていました。
シート背もたれの角度は45〜50度くらいの角度でしょうか?シートを完全に倒してしまえばあまり外からはまり見えないそんなことが丸見えとなっています。
しかも隣のシルビアとは違ってこのAE92の窓はスモークなんて貼っていないので、少しでも明かりがあればそれは丸見えとなってしまいますが、幸いな事にここは防波堤の先端近くで真っ暗な場所・・・しかもこの場所は工事中で釣りも出来ず釣り人も皆無・・・
と・・・いうことで、通常であればこんな夜中に人なんていない場所なんですが・・・
でもスイッチの入ってしまった里帆にとっては、外から見えようが見えまいがそんなことは些細なことでしかないようでした。
でも・・・こうなってしまうとバケットシートに座った状態で何も出来ないものです。サイドサポートがバッチリ効いているので横の動きが制限されています。
でも、前後というか上下の動きは何とかなりそうな・・・
すると里帆が自らの背中に手を回して何かをした後、まどかの手を取って着ているブラウスの裾から手を入れて胸に当てました。そしてまどかの手の上から胸を揉むような仕草をして催促をします。
「ねえ・・・揉んで・・・」
そう言われたまどかは、ブラジャーの外れた小さめのその硬めの乳房を揉み下しました。通常であればそんな揉み方はしないであろう無茶苦茶な揉み方で・・・
すると今度は里帆が身体を上にずらしてまどかの後頭部に手を添えて、ブラウスをめくったその胸にまどかの顔を押し付けます。
その乳房にチョット上向きに付いている乳首は、揉まれていたこともあってビンビンに勃っていました。それにしゃぶりついて吸い上げると里帆が溜息混じりで息を飲み込みます。
「なんで・・・なんでこんなにいいの?この前、いくら吸われてもこんな感じじゃなかった・・・ねえ・・・なんで?」
まどかは左手で里帆の背中を押さえて、右手で片方の片方の乳房を揉みながらそれに答えます。
「この前と違うっていうことなら、コレがスイッチの入った状態なんだと思う・・・もう、こうなると最後まで行かないとそのスイッチをオフにすることは出来ない・・」
「いつ・・・いつスイッチが入ったの?なんで入ったの?」
「それは隣のシルビア・・・凄く不謹慎なんだけどあんなの見ちゃったから・・・」
「ねえ・・・もうそんな議論いいからコッチも・・・」
里帆はそう言ってまどかの話を遮ると、そう言いながら自らの腰を浮かしてまどかの手をスカートの中に誘導しました。
パンツの上から触ったソコは、すべすべのシルクの布地から滲み出たヌルヌルの液体で洪水状態です。さらに里帆はそんな状態を確認していたまどかの手を強く押し付けました。
「この前みたいに・・・この前みたいに触って・・・指入れていいから・・・そして、あの敏感なところも・・・」
気も絶え絶えにそういう里帆の言葉通りにまどかはパンツの中に指を入れて、たった今言われたように指を這わせました。
「んっ・・・んっ・・ねえ・・・凄くいい・・・コレがオンナってことなの?」
「うん。僕はオトコだからどんな感じかは分からないけど・・・」
「指・・・もっと中まで入れて・・・指二本にして・・・」
まどかはこの時右手中指だけで里帆のソコに這わせていた指に薬指を足して、改めてその熱くてヌルヌルしたそこの中に指を入れました。
「あっ・・・ソコ・・・ソコなの・・・」
「ん?・・・ここ?」
まどかが「ここ?」と言いながら優しく圧を掛けたその場所は俗にいうGスポット付近でした。でも、その時のまどかにそんな教養はありません。
ただ・・・里帆の身体の力の入り方を伺いながらその触り方に強弱をつけていただけのこと・・・
「なんで・・・なんで・・・もう・・・アソコの感覚が変になってる・・・。まるで麻酔にでもかけられたように自分のものじゃないみたいに・・・。」
その時まどかの指は締め付けられ、そして掌に少し硬いものが当たる感じを受けていました。それは女の娘が最も敏感な部分・・・それも一緒に刺激されている里帆の腰が痙攣でも起こしたかのようにビクビクして来ました。
そしてその指が不規則な動きでぎゅっと締め付けたれた状態で、その奥の恐らく子宮の入り口を優しく触った時です。
「ねえ・・・子宮が疼く・・・ってこういうことなの?」
「僕はオトコだから分からない。それってどんな感じ?」
「でも・・・子宮って言うよりはもっと下かな・・・?」
「それって子宮の入り口あたり?」
「そんな感じ・・・」
「それが里帆ちゃんの本当のスイッチなのかな?」
そう言いながらその部分を再び優しく押してみました。それは押すというよりは圧迫すると言った方が適切かもしれません。
「あっ・・・そ・・・ソコ・・・なんでそんなところが・・・」
しかし・・・今にもとろけそうな表情でソレを堪能していた里帆の表情が急に真顔に戻って、まどかの顔を見つめ一言・・・。
「スイッチ入った・・・」
すると里帆は急に身体を起こして助手席に戻り、今度はまどかのズボンのベルトを外しにかかります。
「もう・・・我慢できない。」
そしてまどかのズボンのベルトを外した里帆は、そう言いながら自らのパンツから片脚を引き抜くと再びまどかの上に覆いかぶさって来ました。
「ちょっと待って・・・今度は助手席で・・・」
ハンドルが非常に邪魔な運転席では動ける範囲が狭いうえ、半端にしか倒れないシートではどうしようもないと考えたまどかは、助手席を一番後ろまでスライドさせてシートを倒せば隣のシルビアみたいなことが出来るものと考えていました。
しかし・・・
助手席後ろの足元に置かれた里帆の大きな荷物が邪魔をしてシートが動かず、それを退けようとしても何かに引っかかってビクともしません。落ち着いてやれば何が引っかかっているのかもわかるとは思うのですが・・・
その時のまどかにそんな心の余裕はありませんでした。
そんな時ふと見た隣のシルビアの車内では、女の娘を後ろ向きにしたオトコが腰を振っている様子が見えました。よくもあんな窮屈な体勢でそんなことが出来るものです。
「ん?」
そしてそのシルビアから視線を外した瞬間、車内のルームミラーに何か動くものが映ったような感じを受けました。
「どうかしたの?」
後ろを振り返るまどかに対して里帆は不思議そうな感じでそう問いかけますが、まどかが肉眼で見たクルマの後方には何もありません。鳥か何か?また、気のせいだったのでしょうか?
そして片膝に白いシルクのパンツが纏わりついた状態で再び里帆がまどかにまたがろうとした時でした。
「ゴンッ・・・」
そんな鈍い音がしたかと思うと里帆が頭を抱え込んでいます。
「痛っ・・・ねえ、ずっと気になってたんだけどこのジャングルジムみたいなコレってなに?」
この時頭上のロールゲージに頭をぶつけた里帆は、今更ながら車内に張り巡らされているその黒いパイプを指差しています。
「うん・・・万が一クルマがひっくり返っちゃった時でも屋根が潰れないようにしてあるパイプなんだ。」
「コレ・・なんか柔らかいよ」
そう言いながら里帆はその頭上のパイプを突いています。
「それって鉄パイプだから頭ぶつけると痛いでしょ?だからウレタンパッドを巻いてあるんだ・・・」
「じゃ・・・コレって丈夫なんだ」
「うん。」
「じゃ・・・コレ掴んでいい?」
「なんで?」
まどかが疑問を投げかけた時里帆は、そのパイプを左手で掴んで右手は履いているスカートの中に手を伸ばし、まどかのカチカチに手を添え、まるでしゃがみ込むかのように体の位置を下げました。
その時、狭い車内で足のやり場に困った里帆は左足の膝を折り、右足を左右のシートの間から後部座席に伸ばすような変則的な体制で・・・
コレってなんていう体位なんでしょうか?でも、体面座位に近いそんな変な対位でもまどかのモノは里帆の胎内奥深く突き刺さっていますが・・・
「はあ・・・・んっ・・・んっ・・・はあ・・・」
里帆はまるで肺の中の全ての息を出し切るようなため息を吐きながら腰、片手で頭上のパイプを掴んでまるで片手懸垂でもするかのような体勢で、まるで胎内の何かを探すかのようにいろんな角度で腰を動かし始めました。。
「やっぱりオトコとオンナなんだね・・・わたしたち。」
この時まどかは、里帆が言ったその言葉を理解することができませんでした。里帆はオトコとオンナはどんな時でも対等でなければいけないと言っていました。それは仕事でも性行為においても・・・
でも・・・いくら対等な立場と言っても、オトコとオンナはどこまで行ってもオトコとオンナ・・・対等な立場であっても果たす役割は違います。
恐らくそんなところなんでしょう・・・
全くオトコというモノに対して経験がなく自信のなかった里帆が自らそういう経験をするために選んだのがこのまどかというオトコでした。
でも、ココまで来るとそんなことはどうでも良くなっているようで・・・
「あっ・・・ダメ・・・ソコは・・・」
息も絶え絶えにそう言いながら自らの腰を前後左右・・・そして深くしたり浅くしたりしていますが、まどかは自らの腰を上に突き上げたい気持ちをグッと堪えて一切腰を動かしていません。
以前、オンナが騎乗位になっている時は自分の感じるところを探している時であるので、跨られているオトコは動くべきではないと聞いていたまどかは、その教えの通り一才動きませんでした。
でも・・・締め付けられるたびにそれに釣られるように自分のアレがビクビクしますが・・・
この時の里帆はまるで自分の意志に関係なく責め立てられているかのように「ダメ・・・」を連発しています。
それは、自分自身で自分の感じるところを見つけたというのでしょうか?
「ねえ・・・頭の先から足の先まで自分じゃ無いみたいなんだけど・・・それに・・・」
「それに?」
「コレって・・・イキそうってことなの?」
「そうかも・・・」
「それじゃあさ・・・一緒に・・・」
「うん。先にイっちゃ恥ずかしいからずっと我慢してた・・・」
「それじゃ・・・それじゃ・・・いっしょに・・・・あっ・・あっ・・・」
そう言いながら里帆は声にならない声を出して天井を見上げています。間も無く里帆の目標点に達しそうな感じてした。
そして里帆が物凄い締めつけで、まるでまどかを離さないかのように締め付けてその全身が硬直しています。
そしてその里帆の痙攣する腰を掴みながら、まどかのモノの先端からまるで3尺玉の花火が打ち上げたれた等な感覚の元、ピンと伸ばしたまどかの足がブレーキペダルを踏んでしまいました。
「キャッ・・・えっ・・・後ろに誰かいる・・・」
里帆はそう言ったっきり力が抜けてその体重の全てがまどかに寄りかかっていました。
その時、突然光ったリヤスポイラーに装着されているハイマウントストップライプの強烈なLEDの光に照らされたものとは・・・
中学生の坊主頭が3コ・・・
でも驚いている里帆のアソコは今までにもない締め付けとなっていて、力が抜けてしまった里帆が覆いかぶさった状態ではそれを確かめる術がありません。
そしてその異変を確かめる為に、里帆が渾身の力で身体を起こした拍子に肘でハンドルのホーンボタンを押してしまいました。
突然そのホーンが深夜の防波堤に鳴り響きます。
でも・・・驚いたことに、その坊主頭の3人は逃げるどころかそれぞれに別れてクルマの周りから車内を覗き始めました。
この中学生と思われる3人組は哺乳類というものをよく知っているものだと思いました。
その哺乳類が最も無防備になる瞬間。それは・・・排便時と性行為中であることを。
すると里帆は乱れたブラウスを整え、まどかに抱きつくようにして2人がつながっていることろが見えないようにしてパワーウィンドーのスイッチを操作して窓を少し開けようとしましたが、押し方が悪く自動でその窓が全開に・・・
すると開き直った里帆がその3人組に抗議し始めました。
「なんなのアンタたち・・・覗きするためにはるばるこんな沖防波堤まで来たの?お子様は寝る時間だからオトナの邪魔してないで帰ったらどうなの?」
するとそう声を掛けられたその3人が何か話し始めました。
「ねえ・・・今、繋がってんの?」
その坊主頭の一人がそんな質問をして来ました。
「だったらどうなのよ!」
里帆は激怒しながらそう答えます。全くえらい邪魔が入ったものです。
「生・・・だよね?コンドームした様子がなかったから・・・」
「だったらどうなのよ!」
「妊娠しちゃうよ・・・いいの?」
「ほっといて!・・・全く、他人セックス覗いてそんなに楽しいの?」
「えっ?お姉ちゃんもアッチのクルマ覗いてたでしょ?」
「それはたまたまで・・・どうでもいいけどわたしたちは覗き目的でこんなところに来たんじゃない!」
そう抗議する里帆に対してその中学生は一歩も引きません。
そんな様子を目前にしながらも硬度は少しも萎えず、アソコに突き刺さったままのソレに里帆が中学生に何か言う度にアソコがギュッと締まる感覚が伝わって来ています。
それがまた気持ちが良いというか・・・逝ったばかりで敏感になっている先端がそんな状況になっていてまどかは困惑していました。
でもその困惑しているまどかの前で、その一歩も引かない中学生が反論します。
「こんなところでそんなことするのが悪いんだろ!どうせオマエたちも見て欲しくってこんなところで・・・」
「そ・・それで、アンタたち・・・いつから覗いてたの?」
「最初はアッチのクルマを覗いてたんだけど・・・ガラスが黒くて全然・・・。でも、このクルマは中が丸見え・・・それで・・・」
そんなやり取りをしながらも、なかなかクルマのの周りから離れないその3人組に手こずっていると、その様子を見ていた隣のシルビアの窓が開いてオトコが顔を出し何かを叫んでその3人に手招きし始めました。
その時驚いたことにそのオトコの肩にかけられた女の娘の脚にルーズソックスが・・・
・・・・ということは女子高生?
そしてそのオトコは、肩にかけたその脚を下に下ろしながらその3人組に声を掛けます。
「おい。そこの中坊・・・チョット来い。いいものくれてやっからソレもって帰れ・・・」
そう言われたその3人組がそのシルビアに近づいた瞬間、そのオトコが白いものを2つ投げつけました。
そしてソレを拾い上げたその坊主頭2人が嬉しそうに叫びます。
「コレ・・・ブラジャー・・・」
「こっちはパンツ・・・」
クシャクシャになったソレを頭上に掲げ喜ぶ2人に対して、ソレを手にできなかった残り1人が寂しそうでした。
そんな1人にそのシルビアのオトコが声をかけます。
「ワリ〜な、土産・・・2個しかないんだ。おっと・・・コレでイイんなら・・・」
そう言いながら手に持ってクルマの外に出したその長くて白いモノ・・・ソレは今の今まで女の娘が履いていた靴下・・・
そう・・・ソレはルーズソックス。
この時代、女子高生はみんなルーズソックスを履いていたと言っても過言ではありません。たとえ、学校で普通の靴下を履いていたとしても、下校時になるとそれがいつの間にかルーズソックスに変わっていた・・・そんな時代です。
更にそのオトコはその厨房を手招きして車内を覗かせました。
「コレ見てみろ・・・」
そのオトコの声と被って女の娘の悲鳴に近い声が被ります。
「イヤ・・・見ないで〜!」
そうです。このオトコは今の今まで性行為をしていたその相手の秘部をその坊主頭にご開帳しています。
「オ・・オレ・・オンナのオ○ンコ初めて見た〜!気持ち悪り〜・・・・」
そう叫びながら走り去った1人を追いかけるようにして残りの2人も続き、その3人組はやっと居なくなりました。
「あの助手席の女の娘・・・パンツとブラジャー取られちゃったよ。しかも靴下まで・・・・」
「うん・・・この後ノーパンノーブラでどうするんだろ・・・」
「どう考えてもあのオトコ・・・女の娘のこと考えてないね。本当にそんなオトコに引っ掛かっちゃったあの娘が可愛そう・・・」
「本当に信じらんない・・・。一瞬わたしたちを助けてもらって感謝した自分がバカだった・・・」
そう言いながら助手席に戻った里帆は、ポケットティッシュでアソコを吹いて先ほど外してしまったブラジャーのホックを付け直そうと格闘していましたが諦めたようです。
そして里帆が服の裾からソレを取り出して後部座席に投げ捨てた時、隣のシルビアのオトコが声を掛けてきました。
「おう・・・兄さん。黒のソアラって珍しいな・・・・」
このオトコ・・・AE92型レビンをソアラと勘違いしています。
当時、このレビンはミニソアラと揶揄されるほどそのシルエットが似ていました。だから、こんな月明かりもない真っ暗の中見える黒いレビンがソアラに見えたのでしょう・・・
この時まどかは、運転席の窓から身を乗り出すようにしてこのオトコの言葉を訂正しました。
「このクルマ・・・レビンですが・・・」
「えっ・・・レビン?ブラック・・・レビン・・・?あっ・・オマエ、あの時の・・・・」
そのオトコは豆鐵砲を食らった鳩のような顔をしています。でも、恐らくそのオトコは今・・・ノーパン。
すぐにクルマから降りて来れないことを察した里帆が窓から身を乗り出してそのオトコに声を掛けました。
「バ〜カ・・・・オマエなんてオンナの敵なんだよ。そんなにヤリたいんだったら彼女でも作って毎晩やればイイのに・・・」
「このアマー・・・あの時、オレのイチモツにパンチくれやがって・・・」
「あっ・・・ごめんね。彼女できないからこんなことしてるんだ・・・チョット同情しちゃう・・・」
するとそのオトコ助手席のドアを開けて車外に出て、車内からパンツとズボンを引っ張り出し始めました。後ろ向きで車内を弄る真っ暗の中に白く浮き出るそのオトコのケツがなんとも情けない・・・
そしてそのオトコの傍に白く浮き出るスカートが腰までずり上がった女の娘の脚・・・コレがなんともエロチックな・・・
「里帆ちゃん、逃げよう・・・」
こう言いながらまどかはギアをバックギアに入れてクルマを後退させ、向きを変えてさっき着た方向に向かおうとした瞬間ライトの灯りに照らされたシルビアのシートにいた女の娘が着ていたもの・・・
ソレは夏服のセーラー服・・・
しかもこの地方でセーラー服の高校といえば付属校のみ・・・。この高校はまどかが教育実習を受けていた高校で、しかも実習期間が終わった後も吹奏楽部の指導で出入りしている高校でした。
それを見た里帆が驚いた様子でまどかの顔を見上げます。
「アレ・・・付属・・・だよね・・・」
「うん・・・恐らく。」
「それじゃ・・・あのオトコ未成年者をこんなところ連れてきてあんなことやっちゃったって事?」
「うん。コレって見つかったら捕まるヤツ・・・」
「とりあえず、そのオトコがまともじゃないってことが分かったから、そんなのに里帆ちゃんが捕まったら大変・・・」
「もし捕まったら・・・あのオトコに子孫が出来ないようにケリ付けるだけ・・・」
里帆は鼻息を荒くしてそんなことを言っていますが、捕まれば面倒臭くなることだけは確実・・・
そんな時は逃げるに限ります。・・・・ということでその埠頭を陸地方面にクルマをしばらく走らせ、その入り口付近に駐車されている大型ダンプの隙間にクルマを停車させライトを消したうえエンジンまで停止させていました。
そしてしばらくすると図太い排気音が近付いて来て目の前をそのシルビアが通過していきます。
その時車外に出てそのシルビアの赤いテールランプが見えなくまで見送った2人は顔を見合わせました。
「行ったね・・・」
「うん・・・面倒臭いことにならなくってよかった・・・」
「あのオトコっていつもあんな事してるのかな・・・?」
「うん・・・なんか最近女子高生がナンパされて一晩中連れ回されたうえ白浜(埠頭近くの海水浴場)に捨てられるってことがあったって聞いたことがあって・・・」
「えっ?そんなことが・・・でも、それに続きでもあるの?」
「うん・・・。そこで捨てられた女に娘が帰ろうとして道をトボトボ歩いてると、今度は違うオトコたちに拉致されて・・・」
「朝方そんな人気の無い海岸線の剣道歩いてたら拉致もされちゃうって!でも・・・拉致された後ってもしかして・・・」
「マワされちゃう・・・ってこと。」
「マワす・・・って、輪姦のことでしょ?」
「うん・・・」
「なんか恐ろしい・・・」
話がそこまで進みお互い無言となった時でした。
漁船のエンジン音に混じって遠くからエンジン音とタイヤのスキール音が聞こえて来ました。
「コレって・・・なんの音?」
この時里帆はその初めて聞いたその音に驚きを隠せません。
「今日は金曜の夜だし・・・・始まったんだね・・・」
「もう土曜になっちゃったけど・・・始まったって・・・何が?」
「うん・・・そんな夜はフェリー埠頭前の直線道路でゼロヨンが行われて・・・・」
この時代の週末の金曜日の真夜中にはこんな事が行われていました。
何もかも熱かったこの時代・・・
一方では輝く世界に羽ばたく為に自分の身体をオトナたちに捧げてしまう女の子達・・・
また一方では街で気軽にナンパされてとんでもないことになってしまった女子高生・・・
そしてフィアンセがいるにも関わらず不埒なことをしてしまっている大学生も・・・
まどかがその夜なにが行われているかを説明しようとした時、それに割って入るように無線機が鳴り出しました。
「ザッ・・ザザー。チャンネルチェック、チャンネルチェック・・・当該チャンネルお使いの・・・」
それは明らかにナベ将軍というコールネームの女性の声でした。でも、割り込むように入ってきたダミ声でかき消されます。
「ベベ〜ン。お姉ちゃん・・・ごめんなさいね〜。先に使ってますよ・・・・べべ〜ン。」
「ザッ、ザザー。あっ・・・お使いのようですね。出直しますんですいませんね。・・・では軍番3で再度・・・・」
その無線はそれを最後に途切れてしまいました。
それを聞いていた里帆は不思議そうな表情で無線機の表示部と運転しているまどかを交互に見ています。
「ねえ・・・。今の無線、何がどうなったの?今のべべ〜ンって言う津軽三味線みたいな音って何?」
「分かんないよね・・・。今のは使おうとしていた周波数に近いところをすでに使ってる人がいたってこと。つまりは混線・・・」
「それは分かった・・・なんとなく・・・。でも、次のべべ〜ンって何?」
「それはマイクの通話スイッチを押した時にそういう効果音が出るようにしてる人もいるってこと。トラックの運ちゃんに人気だよ。」
「トラック・・・?トラックって言うと、夏帆が仕事でよく使ってる業務無線とかアマチュア無線のイメージがあるんだけど・・・」
「業務無線は別として、電波法でアマチュア無線は業務通信ができないことになってる。それでパーソナルを使う人も・・・。現に僕も業務連絡に使ってるし。」
「あっ・・・だからアマチュア無線じゃないんだ・・・。でも、パーソナルの方ってあまり電波が飛ばないって聞いたことあるよ。」
「うん・・そこが問題なんだよね。中には出力上げる改造してる人もいるけど、それやっちゃうとクルマの中が電子レンジ状態になるってウワサで・・・」
「ヤバいね・・・電子レンジ。」
「それじゃパー線の軍番変えてくれないかな?表示部の右側にMのボタンがあって、それ押してから数字の3を押して・・・・」
「うん・・・こう?」
そこで里帆が言われたボタンを押すと液晶の数字の配列が変わり、すぐさま先程のナベ将軍の声が入ってきました。
そしてそれに応答するように言われた里帆がマイクを握って応えます。
「ピピッ・・・ザー。こちらガンモドキタマゴ・・・メリットファイブ。ナベ将軍さん取れますか・・・どうぞ。」
その時里帆は照れた様子で舌を出していました。
「あっ・・今のメリットファイブって・・・スキーに連れてってのセリフ・・・」
「うん。一度言ってみたかったんだよね。さっき風谷が言ってたのはご飯の5・・・だったでしょ?その時ピンときたんだ・・・」
「映画のはアマチュア無線だったけどね・・・全然オッケーだよ。マナーさえ守ればなんでもありなのがパー線のいいところだから・・・」
「そうだね、なんか楽しそう・・・」
「それじゃマイク貸して・・・」
そう言って里帆からマイクを受け取ったまどかがマイクを左手に持ったままエンジンを掛け、窓を閉めながらそのナベ将軍に問いかけます。
「ピピッ・・ザー。ナベ将軍さん・・・ずっと近くにいたんでしょ?いかがでしょうか。どうぞ。」
「ザッ・・・ザザー。勘がいいね。どうして分かった?どうぞ。」
「ピピッ・・ザー。だって・・・ずっとメリット5だったでしょ?こっちが移動してもすり切れ(電波が途切れること)ないし・・・。どうぞ。」
「ザッ・・ザザー。ごめんね。今日、あなた達のことずっとツケてた(尾行)んだよね。何やらかすか分かんないから・・・。」
「ピピッ・ザー。どこからツケてたんですか?なんでこのクルマってわかったんですか?どうぞ。」
「ザッ・・ザザー。ソレはひ・み・つ。なんかさ、助手席の彼女とコールネームがくっついちゃってんだけど・・・アッチもくっついちゃってんの?ザ〜。」
「ピピッ・ザー。冗談止してください。ずっと移動中だったんですから・・・ザ〜。」
「ザッ・・ザザ〜。まっ、クルマの中には違いないけど・・・ところでさ、コレから茶飲みに来ない??どうせ行く場所なくって、この辺フラフラしてるんでしょ?ザ〜。」
「ピピッ・ザ〜。近くには違いないですけど・・・ザ〜。」
「ザッ・・ザザ〜。それじゃさ・・・そこから出て二つ目シグナル左巻きの第3倉庫脇・・・喫茶みなみの駐車場だよ。どう?ザ〜。」
この時まどかは物凄い違和感を感じていました。
それはまるでその無線相手のナベ将軍がこちらの居場所を把握しているような・・・
今居る沖防波堤から港湾道路に出て2つ目の信号を左折したところにあるその「喫茶みなみ」というのは、度々尾行調査の時に打ち合わせで使わせてもらっている倉庫の俗称でした。
そこはちょっとした待合所的な場所で、連絡用の黒電話が備えあっていたほか、軽食を摂ったり仮眠できるソファーやシャワーまで備え付けてあったり・・・。
しかもその倉庫のすぐ裏手がゼロヨンのスタート地点となっていて、仕事でそこに詰めている時はその騒音に悩まされることも・・・
この時助手席の里帆が不思議そうな顔をしていました。それは、会話の内容が全く理解できていないという表情・・・
「里帆ちゃん。どうやらゼロヨン会場に呼び出されちゃったみたいなんだけど・・・いい?」
「ゼロヨン・・・って、フェリー埠頭の?」
「なんか詳しいね」
「だって・・・夕方あのシルビアの軽薄ヤローが、他の娘にフェリー埠頭のゼロヨンに行かないか・・・って声かけてて・・・」
「へ〜・・・今時ってゼロヨンをナンパの口実に使うヤツいるんだね・・・」
「女の娘を隣に乗せて走る・・・ってこと?」
「だろうね。もしその会場にこのシルビアがいたら、一丁勝負してみる?」
「えっ?このクルマで勝てるの?」
「まっ、向こうが1800ccでこっちが1600だから圧倒的にこっちが不利なんだけど・・・」
まどかはその無線でその会場に向かうことを告げ、そこへ向けAE92を走らせていました。
その無線交信を知らない人が聞いたら、「喫茶みなみで闇鍋をする・・・」という内容にはなりますが・・・
「喫茶みなみに着いたら本当にヤミナベしてたりして・・・だったらどうする?」
そういう質問をしてきた里帆に対してまどかはこう応えました。
「箸で掴んだものはどんなどんなものでも食ってやる・・・」と。
この時、里帆はこのまどかのセリフの意味が理解できませんでしたが、その言葉から何処か自信溢れる雰囲気を察していました。
つまりは「来るもの拒まずと」いう意味・・・。それは挑まれればその勝負は受けると言うものです。
そしてその待ち合わせ場所に向かう途中一度ゼロヨンが行われているスタート地点に近付いてみましたが、レース場と化しているそのスタート場所とその脇の待機場所である駐車場がすごい熱気を浴びていて、おびただしい数のギャラリーで溢れ返っていました。
もはやそれは無法地帯・・・
「なっ・・何?この異様な盛り上がりは・・・・?」
この時スタートしたシャコタンプレリュードの車体下部から時折火花が出ているのが見えていました。
「何?あの火花・・・」
「うん・・・車体と路面が接触して・・・」
「そんなに車高低いの?」
「うん・・・。だからあんなに火花が出てる・・・」
「それ・・・F1?」
この時代、テレビでF1のレースが盛んに放映されていました。そしてその象徴的な映像としてその火花がありました。
この時助手席の里帆は目の前で行われているゼロヨンとF1レースを重ね合わせそう驚いていますが、驚くのも無理はありません。それは週末深夜に行われるゼロヨンという非合法なフェスティバルなんですから・・・。
そんなところを通過して喫茶みなみの駐車場に到着すると、ナベ将軍こと後藤田さんのR32型ガンメタGTRが出迎えてれました。
それともう一台、その後藤田さんの同僚で同じ看護婦である小玉さんの黒いスープラ3000GT・・・それはリトラクタブルライトが特徴的な、しかもグループAのホロモゲーションモデルのターボAという限定500台の希少なクルマです。
GTRといいそのスープラといい・・・そのクルマはとても女性が所有するクルマとしてはあまりふさわしくないとは思いましたが・・・このギャップがどこかそそられるというか・・・
その2台が停められている場所は数棟の倉庫に挟まれていて、他のゼロヨンの観戦者から全く見えないロケーションとなっています。
するとどう言う訳か、防犯灯に照らされたGTRを前で後藤田さんと小玉さんが2〜3人の人に取り囲まれるようにしてインタビューを受けていて、別のカメラマンがそのGTRとスープラのエンジンフードを開けてエンジンの写真をバチバチ撮っていました。
そしてまどかがチョット離れたところにAE92を駐車しようとした時、そのインタビューをしていた人がコッチへと停めろと誘導をしています。
まどかが誘導通りの場所に車を停めると、2人へのインタビューを見守っていた人が名刺を差し出しました。
その名刺には雑誌社名に加え「CAR女子改編集部」という肩書きと名前が書いてあります。
そして軽い挨拶を取り交わしているまどかと編集者のところへGTRの撮影を終えたカメラマンが近づいてその編集者に耳打ちしました。
「このAE92って・・・あの企画の?」
そういうカメラマンは理央の企画には携わっていなかった様子で、事情がよくわからない様子です。
「うん。企画の仕上げとして最後にあの赤黒ハチロクのエンジンに載せ替えて・・・」
「そのエンジンって、あの理央ちゃんが小林ボデー(雑誌ではRIO♡FACTRYとしか紹介されておらず、そこがどこなのかは明かされていません)で組み直したハチロクの・・・1万までブン回る4AG・・・ですよね?」
「そう・・・この前、埼玉のシャーシダイナモ(馬力を計測する機械)で200馬力叩き出した・・・それ・・・」
雑誌編集者とそのカメラマンとのそんな会話の「エンジン載せ替え」という言葉に反応したまどかがその編集者に問いかけました。
「僕の義父さんがすでに別のエンジンに載せ替えちゃったんですけど・・・」
それはまどかの義父さん・・・というよりは「その取り巻きと共に・・・」とでも言ったほうが良いかもしれません。
その作業は「RIO♡FACTRY」と称される小林ボデーの敷地にある別棟の小林自動車整備工場・・・
ここは舞衣さんの弟が営む一般車検整備をメインとする整備工場となります。
ここに義父さんと理央。それと舞衣さんの弟が土日に揃って行われたその作業は手慣れたものでした。
それはまるで大人の課外授業のよう・・・そんなまどかの義父さんは、言わば先生みたいな存在・・・。
「えっ?君の義父さんって・・・あの森山さん?」
「そうですが?どうかしました?」
まどかの母親は再婚していて、その森山さんという人はまどかの義父に当たる人です。でもまどかは父方の戸籍に残っており旧姓のままでしたので、親子でも苗字が違うということになっています。
雑誌の企画でエンジン関係について全面的に技術指導したのもその森山さん・・・
するとその編集者が焦った様子でAE92のエンジンフードを開け、そのエンジンを確認しています。
「ヤッパリ森山さんだよな・・・タダで終わるとは思ってなかったけど・・・」
「AE92の4AG(エンジン形式のこと)ってこんなでした?」
その時一緒に見ていたカメラマンがそう囁きました。そして、そのエンジンをカメラに収めようとしたカメラマンを制しその編集者がまどかに問いかけます。
「キミ。森山さんからこのエンジンのこと、なんか聞いてないか?」
「以前、研究所の耐久試験で廃棄になった次世代4AGを入手したってことは聞いてました。恐らくそのエンジンに載せ替えたってことぐらいしかわかりませんが・・・」
よく見ると、そのエンジンはハチロクのモノともAE92のモノとも違っています。その一番の違いがエンジンのプラグコードをカバーしているシルバーのカバーにTWINCAM20と表示されていたこと。
TWINCAM20・・・それは1気筒あたり5バルブという構造のエンジンとなり、そしてその4AGというエンジンの集大成ということになります。
しかもミッションが6速に変わっていたこともあって、それを目の当たりにした編集者は固まってしまっていました。
「ウワサに聞いてたこのエンジンって、もはやこのまま市販できるレベルの完成度・・・。知らない人が見たら市販車にしか見えない・・・。」
「義父さんって、いかにも改造してます・・・ってのが嫌いなもので・・・。本当はステッカーも貼りたくないって・・・。」
「そうだよな・・・スポンサーのロゴステッカーを貼ろうとした時、一番それに抵抗したのが森山さんだった・・・」
「そうなんです。前に僕がエンジンブローさせちゃったブルドッグ(雑誌の企画でまどかの乗っていたハチロクを取材するとなった時、それを引き取りに来たまどかの姉さんが代わりに置いて行ったクルマ。)なんて、メーカーが貼ったステッカー類も全部剥がしてありました。」
「そうなんだよね・・・なんか頑固っていうか・・・地味好きっていうか・・・やっぱりどこまで行っても研究者なんだよね・・・。」
「でも・・・その研究所の人間関係が嫌になって辞めちゃったんですけどね。」
その義父さんは、その時勤めていた研究所の同僚女性との結婚を考えていましたが・・・結局はその女性は職場の上司と不倫していた・・・というものでした。
それで嫌気の差したまどかの義父さんは、たまたま公募していた公務員の社会人経験枠で役人となり、全く畑違いな行政職として勤務していた時に建設業法の手続きをしていたまどかの母親と出逢った・・・という次第でした。
でも・・・そんな父親は根っからの研究者で、内燃機関やターボチャージャーなどの理論的な書物を片時も手離さない変わり者です。
「うん・・・なんか分かるな・・・森山さんって筋の通らないこと嫌いだもんね・・・」
「僕たちがこのAE92を公道テストする企画があるってことを森山さんに言った時、実はある有名ドライバーの普段使いのクルマとして一定期間乗ってもらってレポートしてもらうことが決まっていたんだ。」
「えっ?なんでそんな人を差し置いて僕のところになんて?」
「そうなんだよね。森山さん曰く、プロのドライバーともなれば言いたいことも言えなくなってしまうし、どうしても競技車両との比較してしまうこともある。このクルマはそういうところを目指したクルマじゃない・・・って叱られちゃって・・・」
「あの義父さんが人を叱るなんて・・・。でも、プロの方って言いたいこと言えないんですか?僕なんかと比較できないほどいろんな経験をしていろんなこと知っていると思うんですが?」
「うん。君もオトナになると分かると思うんだけど、オトナになるといろんなしがらみ・・・・ってものが出て来てね・・・」
「それってもしかして・・・・スポンサー?」
「うん。それもある。現に僕の雑誌にもいろんな広告主がいて、その広告主の機嫌取りも考えた記事も書くこともあって・・・」
「それじゃ・・・実際に感じたこととかあっても、ソレが広告主の気を損ねることとすれば・・・」
「もちろんそんなことは書けない。でも、読者も馬鹿じゃない。ウチの雑誌で広告主の機嫌をとった記事を見て着けたパーツがそれと違った場合、雑誌が嘘を並べているなんてことはすぐにバレてしまう・・・。だからウチの雑誌では広告主の機嫌を伺いつつ意見を入れることにしてるんだ。」
「それって・・・オトナの世界ですよね。でも実際、その雑誌の記事を見てパーツを買ったりするのはそんなことなんて全く関係のないヒトなんですけど・・・」
「それで、その次にこのクルマを託すのを麻美子さん(まどかの実姉)にしようかと思ったんだよね。」
「はい・・・僕もその方がいいと思います。何せ姉さんはクルマと対話ができる特殊能力があるって義父さんが言ってました。」
「でも、森山さんは君を押した・・・」
「なぜです?」
「麻美子さんはクルマに遠慮しちゃうってこと。つまりは、そのクルマの限界点を探る前に自分をそのクルマに合わせてしまうってことかな?」
「それのどこがいけないんですか?」
「客観的な意見を引き出すことができない・・・。ソレって運転の上手い人に多いんだけど、そういう人ってテストドライバーには向かなくって・・・」
前にまどかが義父から預かったブルドッグのエンジンをブローさせてしまったことがありました。
コレは義父が試行錯誤していたターボ制御の限界点を探っていた時、そのクルマの所有者である麻美子姉さんはいつも限界直前でアクセルを抜いてしまうからテストにならない・・・と、当時の義父は語っていました。
そのクルマを最も簡単にブローさせてしまったまどかでしたが、そのブローのさせ方というのが信号で停車してフルブーストで加速し直後にまた停車・・・というのを何回も繰り返し、結局タービンが焼き付いたというものです。
コレは研究する方からすればまさに理想的な実験結果・・・
そしてその時設置してあったデータロガーとまどかの証言からそのまどかの義父の研究は加速を見せた・・・ということがありました。
だから、まどかの義父はこのクルマをまどかに託したかったようです。(決して壊すのが目的ではないんですが・・・)
ちょっと脱線しましたが、この時編集者は頭の中で何かを整理したような表情をして口を開きました。
「あっ・・・キミに任せたいって言ってた森山さんの意図ってコレだったのか・・・」
そんな深刻そうな編集者の後ろでは先ほどのカメラマンと里帆がカメラ談義に花を咲かせていました。この二人にとってはクルマよりカメラの方が興味深いようです。
「いや〜・・・グループAのエンジン積んだR32を取材に来たらコレだもんな・・・。しかも、自分達の手がけたAE92に次世代4AGが搭載されていたとは、まさに灯台下暗し・・・」
今日この雑誌社の編集者自ら取出向いて来たの理由というのが、後藤田さんのGTRに搭載されているエンジンを取材するためでした。
そして、この街で週末行われているゼロヨンも・・・
その時、いつの間にか興味深そうにそのAE92のエンジンルームを覗き込んでいた小玉さんがボソッとつぶやきました。
「コレが森山さんの仕事なんだ・・・只者じゃないとは思ってたけど・・・。これって物凄いエンジンだと思うんだけど、それが全然わからないくらい見かけが質素・・・」
「えっ?義父さんのこと知ってるの?」
まどかが急にそんなことを言った小玉さんにそう尋ねました。
「うん。この前エンちゃん(まどかのこと)が入院してた時、早番開けて帰ろうとした時駐車場でレガシイから降りてきたおじさんが来て、このクルマ(スープラ)のこと根掘り葉掘り聞くわけよ。」
「それって義父さん・・・」
「それでエンジン特性とか最高出力とか・・・市販するのにどの部分で出力制御してるとかやたら詳しくって・・・」
「義父さんって静岡にある研究所に勤めてたって聞いてる・・・多分エンジンとかを開発する部署・・・」
「だよね・・・そうじゃなきゃ分かんないよこのクルマのパワーの出し方っていうか封印の解き方・・・それに弱点も。」
「それじゃ透子・・・また一段と速くなったわけ?」
「うん・・・。でも、その森山さんが言ってた・・・」
「なんて?」
「GTRはバケモノだって。それはパワーと耐久性を兼ね備えたエンジンだけじゃなくって、足回りから駆動系・・・何から何まで。金かければかけた分だけ速くなる・・・って。それにボディー剛性が素晴らしいって。」
ここで理央が溶接を勉強しながらその剛性に拘って仕上げたAE92をチラッと見ながらまどかが質問しました。
「ボディーってそんなに大事なんですか?」
「うん。いくらパワーがあってもどんな足回りが良くても、最後にそれを受け止めるのはボディーだから・・・」
「それじゃその剛性は高ければ高いほどいいってことですか?」
「それも違うの。剛性を持たせながらいかにしなやかな車体にするか・・・これがボディー造りの永遠のテーマかな?」
その時まどかは過去に義父から聞いた言葉を思い出しました。
「車体の強化も大事だが、あえて補強しない部分もある・・・」と。
これは車体にしなりを残しておかないと「ハンドリングがナーバスになりすぎる」とのことでのことでしたが・・・まどかは未だにそれを理解出来ずにいました。
「それじゃ、小玉さんのナナマルスープラはどんな補強をしてるんですか?」
「うん・・・主にリヤ周り。イメージ的にいうとリヤタイヤの前あたりを補強してる。ただでさえ重い車重が増えちゃったけど・・・。あっ・・・その分わたしがダイエットすれば良いだけだった・・・」
そう言いながら笑う小玉さんの横顔からは、そこまで考えてこのスープラに向き合っているとは微塵も感じられない・・・
後藤田さんもそうだが、女性って恐ろしい・・・
その後そんなクルマ談義が一段落し、二人に対する取材が終わった時スープラを所有する小玉さんが後藤田さんに声をかけました。
「千鶴・・・邪魔が入る前にひと勝負・・・どう?」
「そうね・・・透子がそう言うんだったら・・・」
この時、その「邪魔」と言うものが気になったまどかが尋ねます。
「なんですか?その邪魔って?」
「あと30分くらいで検問が始まるんだよね。あっ、それに今日は陸運支局がやってきて臨検もやるんだよね・・そうするとその場で違法改造の切符切られたり、最悪の場合クルマの使用禁止命令出されたり・・・」
「ヤバいですね・・・」
「うん。本当にヤバイヤツいっぱいいるよね・・・何台摘発されるのかな・・・恐らくもうその検問の準備が始まってるんだとは思うんだけど・・・」
そんな臨検は、年数回実施される陸運支局の検査官立会いの元不法改造車を摘発するという大々的な検問です。
小玉さんが遠くを見ながら言ったその言い振りからすると、警察の予定などは既に把握している様子・・・
「じゃ・・・勝負の後は流れ解散になるんですか?」
「違う。ひと勝負したら、あえてこの2台でその臨検に挑むの。」
「大丈夫なんですか?」
「うん。何せパワーは出してるけど・・・見た目違法な改造はしてないから・・・マフラー騒音だって保安基準内だし。」
「もしかして・・・?」
「うん。臨検も取材の予定に入ってる・・・」
そう言って改めて見せられたR32とスープラのエンジンルーム・・・。そんな2台のエンジンはエアクリーナーまで純正という一見ノーマルに見えるような徹底ぶり。
これは、外見ノーマルに拘るまどかの義父さんとどこか通づる改造手法です。
でも・・・R32の方はグループA車両のエンジンをストリート向けにデチューンしたものであり、逆にスープラの方はそもそもメーカーがグループA参戦のために造られたターボAというグレードのため、初めからメーカー純正のスペシャル品となっていました。
しかもそのスープラは市販のために出力を落としカタログ値で270馬力となっていましたが、義父さんのアドバイスで排気系を交換したうえコンピューターをリセッティングすることにより400馬力オーバーを叩き出したとのことですが・・・。
以前、その隣に並ぶGTRも400馬力だと聞いていましたので、この2台のどちらが速いのか・・・・すごく気になります。
この時代、自分のクルマの出力を500馬力や600馬力と名乗るものも多数いましたが、実際には300馬力も出ていれば良い方でした。
シルビアでそこまでしてやるのに百万単位の金額がかかるのに対して、GTRはブーストを少し弄るだけでそれをいとも簡単に超えてしまいます。そうなると結果的に新車のGTRを始めから買った方がいい・・と、いうことになります。
それだけGTRというクルマは凄いクルマでした。
でもこの2台の改造メニューが吸排気系を全て交換したうえ、エンジンを制御するコンピュータまでスペシャル品となっていました。
しかも本来ステンレスのパイプが光る吸気パイプまでも艶消しの黒塗装処理がされノーマルと見分けが付かなくなっています。それでボンネットを開けただけではどんな改造がされているか分からないこの2台・・・これじゃ臨検が怖くないという次第です。
そしてその臨検について後で聞いたのは、後藤田さんの同僚看護婦の小玉さんが実は警察署交通課の課長と内通していて、その取り締まり予定などが手に取るように分かるとのこと・・・
その詳しい内容は教えてもらえませんでしたが・・・交通課長を呼び捨てにしていたことから、それを教えてもらった瞬間その何かから抜け出せなくなりそうな予感を抱いたまどかはそれ以上尋ねませんでした。
でも、その二人の関係は、もしかして・・・・?
まっ、知らないことは知らないままにしておくのもアリかと・・・。
その時、先ほど興味本位でゼロヨン会場に出向いていた里帆とカメラマンが戻って来ました。
「里帆ちゃん・・・どうだった?」
「うん・・・まさにお祭りだね。それでさ・・・いたよ、あのナンパ野郎のシルビア・・・」
「助手席に誰か乗ってた?」
「うん。アレ・・・やっぱりセーラー服だね。」
「えっ・・・こんな夜遅くに・・・」
「そんな娘いっぱい居たよ・・・」
この「ゼロヨン」というものが盛んだったその時代はそんな感じでした。
女子高生から大学生・・・また、金にモノを言わせ改造したクルマを持ち込むショップ関係者や社会人まで・・・
そんな人たちがそのゼロヨンというモノを観戦したり競ったり、またはクルマの改造談義に花を咲かせたり・・・
一部には警察がそれを黙認しているという話題にもなっていましたが、警察に寄せられる苦情件数が一定数になると臨検が行われるとのことでした。
まさにその臨検がその日行われようとしています。
そんなことを知らないゼロヨン参加者がヒートアップする中、後藤田さんのR32GTRと小玉さんのスープラが連なってそのスタート地点に向かって行きました。
その様子を後ろについて走らせるAE92から見ていたまどかでしたが、その雰囲気がその2台の登場で一変したのが分かりました。
「えっ・・なに?何が起きたの?」
助手席で里帆がそう驚くのも無理がありません。その2台がゆっくりと走行する先々でその2台のための道が開けられています。
そしてその注目度が半端ないというか・・・
通常であればそのスタート地点に並ぶまでの間に順番待ちしなければならないところを、すんなりとその2台がそのスタート地点である押しボタン式信号の横断歩道の停止線まで進みました。
そのスタート地点では一番左の第一通行帯にGTR、その右側一車線置いて中央分離帯側の第三通行帯にスープラが待機しそのスタートを待ちます。
これは間違いなく今晩のメインイベント・・・そう言っても過言じゃないほどの周囲の雰囲気が盛り上がり・・・
そんな様子をスタート地点手前の路肩に駐車したAE92の中から眺めるまどかと里帆。
そんな二人を含めた数百の眼差しが集中する中、そのスタート係が信号の押しボタンを押して信号を赤にしました。
そのゼロヨン会場となるのはフェリー埠頭近くの港湾道路です。海上コンテナを運搬するセミトレーラーが多く通行するために造られた中央分離帯のある片側3車線の直線道路となっており、そのスタート地点は押しボタン式信号のある横断歩道とされていました。
「ザッ・ザザ・・盛り上がってるね・・・ザ〜」
「ザザッ・・う〜ん・・・いいねこの盛り上がり。でも、なんかこの前より路面が悪い感じがするんだけど・・・ザ〜」
「ザッ・ザザ・・あれ?GTRはそんなの関係ないんじゃなかったの?ザ〜」
「ザザッ・・そうね。今日、フルブースト掛けちゃうけど・・・覚悟できてる?ザ〜」
「ザッ・ザザ・・受けて立つわよ。こっちもフルブースト掛けるわよ・・・多分400(馬力)超えるけど・・・ザ〜」
「ザザッ・・そんなんで前に進むの?その辺がFR(フロントエンジンリヤ駆動)の限界じゃないの?ザ〜」
「ザッ・ザザ・・見てらっしゃい・・・今回色々やって来たから・・・。あっ・・そろそろね。ザ〜」
「ザザッ・・うん。それじゃゴールで・・・ザ〜」
まどかのAE92のパー線がそんな二人の交信を傍受していました。
そんな中、信号が青に変わろうとしています。そこからスタートまでの数秒・・・そこでそのスタートを待ち侘びる群衆がさらにヒートアップします。
そしてそれに合わせるようにその2台がアクセルを煽り、その並んだ2台のマフラーが火が吹く様子もそれに拍車をかけます。
そして歩行者用信号が点滅を始め、一瞬その周りの群衆が静まり返ったのを見計らったようにそれが赤に変わって・・・
一瞬間を置いた後クルマ用信号が青に変わった瞬間、その並んだ2台のテールが沈んだかと思うと物凄い排気音とタイヤのスキール音が重なる中・・・
まるで弾かれるようにスタートしたGTRに対して、その隣のスープラが左右にテールを揺らしながらそのスタート地点から走り去りました。そこに残るのは2台が残した白煙のみ・・・
そしてその白煙の向こうに見えるその2台のテールランプが小さくなる中、マフラーから出されるバックファイヤーのオレンジの光が時折光ります。
その時の白い煙といい、そのゴムの焼けた匂いといい・・・それは他のクルマと全く違う別物。
「一瞬でいなくなっちゃった・・・ここから見てると勝敗って分かんないね。」
「うん・・・でも、左車線の丸いブレーキランプが一瞬はやく点灯したからGTRの勝ち・・・だね。」
「でも・・・一瞬の差だった。」
「うん。直列6気筒2600ccのツインターボのGTRと直列6気筒3000ccのシングルターボのスープラ・・・たとえ同じ馬力だとしても4WDとFRじゃ圧倒的に4WDのGTRが有利なんだけど、あの二人の眼はどちらもそんなこと考えてる眼じゃなかった・・・」
ソレにひと世代前のスープラでGTRにあそこまで付いて行けること次第も驚きです。不利なクルマであそこまで付いていけるとは・・・
「ノーマルのGTRが全く歯の立たないあの(後藤田さんの)GTRもバケモノだが、そのGTRに僅差で付いていくあのスープラもやっばりバケモノである。」
ギャラリーのそんな会話が聞こえてくる中、目を丸くしている里帆がまどかを見つめ口を開きます。
「うん。凄い本気度・・・。でも、ゼロヨンって・・・クルマっていいよね。オトコもオンナもなくって・・・」
そういう里帆はオトコがオンナを見下すということが大嫌いな女の娘でした。ソレは性的なことも含め全て・・・
「うん。ここ(ゼロヨン会場)じゃオトコっもオンナも関係なく、速い人がリスペクトされる世界・・・」
そんな中、里帆の目の前のルームミラーに引っ掛けてあった無線のマイクから、再びその二人の交信が聞こえてきました。
「ザッ・・ザザ〜。ねえ・・聞こえる?ザ〜」
「ザザッ・・聞こえるよ・・やっぱりGTRって凄いね。いや〜パワーもそうなんだけど、GTRのアテーサ(4WDのシステムのこと)ってやっぱり凄い!ケツ振ってもグイグイ前に出るんだから・・・ザ〜」
「ザッ・・ザザ〜。もう・・・今回、スープラのどこに手を入れたの?速くてビックリ。振り切れなくって凄く焦ったよ。ザ〜」
「ザザッ・・それは良いんだけど車内がもう臭くって・・・クラッチかな?ザ〜」
「ザッ・・ザザ〜。それ、多分わたしのほう・・・クルマが四駆(四輪駆動)だからさ、パワー上げるとモロにクラッチに負担がかかるんだよね。ちょっと本気になり過ぎちゃった・・・・ザ〜」
その時、その会話を聞いていた里帆がまどかに問いかけました。
「ねえ・・四駆のクルマって雪道に強いっていうイメージがあるんだけど・・・そもそもなんでGTRって四駆なの?」
「簡単に言えば、有り余るパワーを受け止めて速く走らせるために必要だった・・・ってところかな?」
GTRのアテーサというAWDシステムは一般的にアクティブトルクスプリット式4WDと呼ばれるものでした。これは4WDの先駆者であるスバルが開発したものの、当時営業不振に喘いでいたスバルが会社継続のためにその技術を日産に売った・・・なんて噂されていたものでした。
これまで四駆のクルマは曲がらない・・・というのが定説でしたが、この時代発売された4WDの代表格である日産のGTRとスバルのレガシイというクルマがこの定説を覆したと言っても過言ではありませんでした。
そんな素晴らしいものであればどんなクルマにも・・・と思うのが普通ですが、この時の里帆もそう思ったようです。
「ソレじゃ・・・なんでスープラは四駆じゃないの?」
「そもそもGTRの一世代前のクルマだし、レース向けに造ったクルマじゃない。・・・ソレに当時のトヨタにそんな4WDの技術もなかった。」
「でも年式にあまり差はないでしょ?」
「うん。でも・・・レースの世界はものすごい速さで技術が進んでいて1年先なんて別世界なんだよね。ソレで開発が追いつかないトヨタが急拵えでグループA向けに準備したのがあの限定モデルのスープラ・・・」
「あっ・・・だから、あのスープラのドアにTURBO-Aって書いてあったんだ!」
「うん。あの車はトヨタがグループAに参戦させるためのモデルとして急拵えしたヤツ・・・」
「じゃ、GTRは?」
「あのGTRは、クルマを開発していた段階からグループA参戦を意識してて、その本気度が違うってこと・・・かな?」
当時、先代のR31型スカイラインでグループAに参戦していた日産はGTS-RというグループA向けのモデルで参戦していましたが、当時のグループAでどうしても勝てなかったのがフォードのシエラコスワースというクルマでした。
そんな常勝シエラの牙城を崩すためだけに開発されていたのがR32型スカイラインです。
このモデルのスカイラインは初めからGTRというグループA参戦を想定したモデルを開発していて、他メーカーがラインナップの一部に限定的にホットモデルを設定していたのに対してそのGTRというモデル自体がレースのベースモデルであると言えます。
ただ・・・その参戦したGTRが強過ぎて「GTRでないとグループAでは勝てない・・・」ということになってしまい、最終的にGTRのワンメークレスとなってしまって、レースのカテゴリー自体を崩壊させてしまったというくらいR32型GTRは伝説的に強いクルマでした。
これはそのGTRが転説的な連戦連勝を遂げて行く直前の話です。その時なぜかグループA向けに開発していたエンジンを搭載していた後藤田さんのGTRはまさに羊の皮を被った狼でした。
「それじゃ急拵えのスープラとは違うってこと?」
そんなことなどつゆ知らない里帆がそう思うのも無理はありません。その強さが世界的に認められるのはこの数年後なんですから・・・
「うん。日産がレースで勝つための全てを投入したと言っても過言じゃない・・・」
基本的に日産のクルマをあまり好まないまどかでしたが、その開発経緯を義父から聞いたことのあったまどかは日産が本気でそのレースに取り組んでいる姿勢だけは好意的に思っていました。
「そんなクルマ、市販車として売っちゃっていいの?」
「グループAというレースは市販車ベースが基本になっててるから、そのベースが重要ってこと。それにそういうクルマの出力を落とした状態で市販してるからちょっとやそっとじゃ壊れない。それがGTRの魅力かな?」
「じゃ、スープラは?」
「うん。そもそもレースを意識したクルマじゃないからグループA参戦するための特別な装備が必要になっちゃったんだよね・・・。しかも、そのモデルとして最低限の台数を販売しなきゃならないから500台限定で販売した・・・それがTURBO-Aってこと。」
「ふ〜ん・・・」
その時代、外見が全く市販車の状態で行われていたグループAというレースは、車好きにとって目の離せないレースでした。
何せ自分たちの乗っている身近なクルマが死闘を繰り広げているんですから・・・
そんな会話をしているとゴール地点からその2台が対向車線を使って戻ってきていました。
「ザッ・・ザザ〜。ガンモドキ・・・うしろで見ててどうだった?ザ〜。」
対向車線に見える二人のクルマのライトが近づくのをぼんやり見ていたまどかに対してその無線が急に問いかけます。
「ピピッ・・ザ〜。見てましたよ・・・・二人とも本気でしたよね。そんな殺気が観客全てを圧倒してましたよ。ザ〜。」
「ザザッ・・・ザ〜。それは良いけど、ガンモドキモも誰かと勝負しなよ。適当なの見つけてさ・・・いっぱいいたでしょシビックとかシルビアとか・・・ザ~。」
そんな無線交信をしながらまどかは気付きました。今のGTRとスープラの勝負以降、スタート地点にクルマが並ばないことに・・・
やはり気が引けます。
あんな迫力・・・見せ付けられるとそれに続く勇気が・・・
「チョット・・・そこのブラックレビンの人・・・」
その時、急にスタート地点にいた人からそう声が掛かりました。
「何か?」
「やる人がいなくなって寂しいから一本走ってくれないか?」
「良いですけど・・・」
「今一台連れてくるからチョット待ってて・・・」
そう言われたまどかが道路路肩でハザードを点滅させたまま待っていると、そのクルマの後ろに誘導されてきたクルマが停車しました。
そんな様子をルームミラーで確認していたまどかに対して助手席の里帆が囁きます。
「なんか羨ましい・・・。この世界ってオンナもオトコもないんだよね。全く・・・オンナ見下してクルマでナンパしていたあの軽薄ヤローに聴かせてやりたいね。」
「うん。全くだよ・・・」
まどかがそう言いながら後ろに停車したクルマを見ると、どこかで見たことのあるプロジェクター式ヘッドライト・・・
「ん?シルビア?」
まどかのその車名に反応して振り返った助手席の里帆が驚いたような声で言いました。
「ゲッ・・チョット・・・後ろのクルマから降りたオトコってあの軽薄野郎・・・」
「えっ?こんなところで・・・また?」
「もう最悪・・・」
まどかが助手席でそう言って頭を抱える里帆を見た瞬間、その里帆が座る助手席の窓の外から車内を覗き込む見覚えのあるその顔と目が合いました。
「おい、夕方・・・いや、さっきも世話になったな。ちょっとケツ貸せや・・・」
クルマの外からそう声をかけてきたのはたった今里帆が言ったナンパヤロー・・。
「アンタバカ?こういう時は顔貸せ・・・じゃないの?バカみたい!」
「ケツで良いんだよ。オマエの顔なんて見たくないんだよ!」
「でも、あの時キンタマ潰れたんじゃないの?このオカマ野郎・・・」
「なに?チョット出てこい!」
そのナンパヤローがAE92のドアノブに手をかけ里帆を車外に引き摺り出そうとしたそのオトコに対し、運転席のまどかが叫びました。
「今スタート係に誘導されてきたんだろ!ここでケンカふっかけてどうすんだよ!ここはゼロヨン会場だ。拳使った勝負じゃなくって、勝負ならゼロヨンで付けたらどうなんだ?」
この時まどかは、生まれて初めて他人に勝負というものを吹っかけました。
「それじゃ、コース決めようや・・・」
「最初はグーッ、ジャンケンホイッ・・・」
これはゼロヨン名物のコース決めのジャンケン。
それは、2台並走するその道路は左側の第一通行帯が大型車通行の影響で路面が荒れているため、コンディションの良い第三通行帯を走行する権利を得るためのもの。
通常それはスタートの待機中に済ませておくものですが・・・
この時、この日のメインイベント直後に競うものがいなかったため、スタート係によって急遽指名されたまどかとそのシルビアヤローがジャンケンしています。
「おい・・・オレが勝ったらお前のオンナもらうからな!」
「なんだよそれ!」
「あのオンナ・・・ダチ呼んで、ボロボロになるまでヤリまくってやる・・・」
「ゼロヨンの勝負にオンナなんて賭けねえよ!」
「オマエ、負けるのがそんなに怖いのか?」
「こっちが勝つからそんなの関係ない!」
「それじゃオマエが勝ったらオレのオンナ・・クレてやるからそれで良いだろ?使用済みだけどよ・・・」
「今の・・・忘れんじゃねえぞ!」
この時まどかは、生まれてから最も汚い言葉でその軽薄野郎に言葉を返しました。
その時そんな事など知る由のない里帆は、AE92の後ろに停車しているシルビアの助手席に座る女子高生と何か会話を交わして来て、ジャンケンに負け路面の悪い第一通行帯のスタート場所へ移動したまどかの隣へ戻って来ました。
そして助手席でシートベルトを締めながらシルビアの女子高生との話の内容を話し始めました。
「なんか・・・部活でムシャクシャしてた時あのオトコにドライブ行かないかって誘われたんだって。」
「うん。そんな感じだよね。」
「それでドライブの後、せっかくだから最後にご飯食べようってことになって・・・」
「それで?」
「食事誘ってくれたんだから奢ってくれるんだと思ったんだって。」
「うん。なんか悪い予感が・・・」
「でも会計の時、あのオトコが自分の分しか払わなかった・・・」
「それじゃ・・・食事代身体で払えってこと?」
「うん。その会計では仕方がないってことでお金出してくれたんだけど、それでココ来る前に沖防波堤で・・・・」
「それで、さっきのアレ・・・」
「初めてだったんだって。」
「ヤッパリ・・・」
「うん・・・。かわいそうだよね、まだ1年生だって。しかもわたしの後輩。」
「それじゃ・・・付属・・・?」
「うん・・・」
「でも、さっきそのオトコが言ってたんだ・・・。」
「なんて?」
「沖防波堤で雰囲気良くなったから1発ヤったんだけど・・・終わったらビービー泣きやがって・・・・って」
「それで?」
「これだから処女は面倒臭せえ・・・って。」
「最低・・・。」
「最低だよな・・・その初めて・・・っていうのは一生のうちでたった一回のことだっていうのに・・・」
「全くその通りだよ。でも仕方なかったんだって。」
「ん?どうして?」
「その娘が言ってたんだけど・・・奢ってもらうってことはそういうことなんだろうって。だからヤるのは当然だよな・・・って言ってそれも仕方がないかもって覚悟決めたんだって。」
「だからって・・・」
「でもやっぱり無理やりされるのは怖かったって・・・。しかもその前に今晩一晩付き合ってもらうってことで、家に友達の家に泊まるって電話させられたって。」
「ところで・・・避妊・・・してたのかな・・・?」
「わからないって。でも・・・終わった後ティッシュで拭いたらピンクの液体がいっぱい出てきたって・・・」
「それじゃ中に・・・」
「それに、シート汚れちゃったってことで殴られたって・・・それでお尻に新聞紙敷いてた・・・」」
「本当に最低なヤツ・・・負けられないね。」
「うん。」
「里帆ちゃん・・・この勝負の前に里帆ちゃんに謝らなければならないことが・・・」
この時まどかは、お互いのクルマの助手席に座るお互いの女の娘が賭けの対象になっていることを伝えようとしましたが、その時スタート係がクルマを誘導し始めてそれを言いそびれてしまっていました。
この時、そんな事など全く知らないナベ将軍から無線が入ります。
「ザッ・・ザザ〜。いよいよガンモドキやるのね?ザ〜。」
「ピピッ・・ザ〜。やります。コイツには負けたくないんで・・・ザ〜。」
「ザッ・・ザザ〜。左側車線って路面悪いからあんまり無理するんじゃないよ。相手の方が排気量大きいんだから負けても恥ずかしくないから・・・ザ〜。」
その時ちくわ大臣こと小玉さんが無線に割って入ってきました。
「ザザッ・・そのエンジン1万まで回るよ。森山さんが言ってた・・・今組んでるエンジンは1万まで回せるって。しかも可変バルブタイミングが付いてるから思いっきり高回転型のカムシャフトで行ける・・・って。ザ〜。」
「ピピッ・・ザー。ありがとうございます。タコメーター9000回転までしかありませんが、レブリミッターが効くところまで回してみます・・・・ザ〜。」
「ザザッ・・負けんなよ・・・オマエ森山さんの義息子なんだから・・・ザ〜。」
「ピピッ・・ザ〜。負けません。負けられません。コイツにだけは・・・ザ〜。」
そうしてそのスタート地点に停めたその2台の位置をスタート係が微調整し押しボタンを押しました。
このゼロヨンコースは、「ゼロヨン」という割にはそんな400mという距離はないものの、実際走らせるとゆうに速度が三桁に乗るくらいの直線道路です。言ってみれば「ゼロヨンもどき」と言ってところでしょうか?
でもスタートとして設定されている場所は押しボタン式の信号のついた横断歩道があって、さらにゴールにも横断歩道があるといったコース環境となっています。そんなことから仮にスタート係が居なくても信号が青になったタイミングでスタート出来る場所となっていました。
ゼロヨン参加者が多くなると信号関係なしにスタート係が両車の前方に立ち、両手を使ってカウントダウンをしてスタートさせるのですが、メインとなる勝負にはその信号が使われていました。
でも・・・今はお祭りの真っ最中です。そのスタートを仕切るスタート係がその雰囲気を盛り上げています。
「コレからAE92とS13がヤリマ〜ス・・・」
そんなスタート係の掛け声に応えるように何百という観客がいろんな掛け声をかける中、静かに信号が赤に変わります。
そしてまどかのAE92の右一車線開けた右側では、その軽薄野郎のシルビアがエンジンを吹かし初めて、その状態でレブリミッターが効いていました。
「吹かしすぎだって・・・エンジンが可愛そうだろ・・・」
そう囁きながらまどかがそのシルビアを見た時、窓の開いた助手席に小さく座るその娘と目が合いました。
「えっ?吉川・・・さん?」
それは、教育実習が終わった後も外部講師の真琴と共に指導を続けていた吹奏楽部のトランペットの1年生・・・
「里帆ちゃん・・・さっき、あの娘・・・部活でムシャクシャって・・・・?
「うん。そう言ってた・・・」
「全部僕のせいだ・・・。」
「えっ・・・何が?」
この時まどかは里帆の質問には答えずスタートに備えてアクセルを踏んでエンジン回転3500回転に固定してタイミングを伺います。
「里帆ちゃん・・・里帆ちゃんのこと・・・アイツに渡さないから・・・」
「えっ?」
「僕が負けたら里帆ちゃんがアイツに取られちゃうってこと・・・ゴメン・・・成り行きでそうなった・・・」
「良いわよ・・・。だって負けないんでしょ?」
そうこうしている間に歩行者用信号の青が点滅し赤に変わりました。
「いくよ里帆ちゃん・・・」
そう言ってクルマ用の信号が青に変わる間合いを測っていた時でした。
「キュキュッ・・・・」
スタート地点のあちこちでカメラのフラッシュが焚かれる中、一瞬タイヤのスキール音が聞こえた瞬間隣のシルビアがフライング気味にスタートしていました。
ソレは絶妙なスタート・・・
この時それに釣られるようにAE92をスタートさせたまどかでしたが、路面状況が予想以上に悪くトルクステア(ハンドルが左右に取られること)半端ではありません。
しかも、焦ってクラッチを繋いだこともありホイールスピンも起こしていまします。
「ゴメン・・・里帆ちゃん。」
そう言いながらまどかは一杯まで踏んだアクセルを戻すかどうかか迷いましたが、アクセルを踏んだ右足がそれを許しません。
そんな中、ホイールスピンをしながらもその加速が増して行きます。
後で聞いた話によると、このAE92にはLSD(リミデッドスリップデフ)が装着されていたそうです。
そしてあっという間にタコメーターがレッドゾーンまで振り切れ、その針が表示のある9000回転の先のメーターハウジングの壁にぶつかり、一瞬エンジンが息継ぎをしました。レブリミッターが効いたようです。
そしてギアを2速に入れて再びアクセルを全開にするとタコメーターの針が8000回転程にしか落ちません。しかもそこからパワーが急に盛り上がるこの感覚・・・これって赤黒ハチロクの4AGと同じ感覚です。
でも・・・中回転からトルクの盛り上がるこのエンジン特性はハチロク以上にトルクがありパワーが伸びるます。これは可変バルブタイミング機構がなせる技なのか?
トヨタの1600ccのエンジンはこれまでホンダのV-TECエンジンの後塵を浴びて来ました。それに待ったを掛けるべく開発されたその1気筒あたり5バルブのこの4AG・・・
このエンジン・・・速いはずです。まどかの義父は耐久試験用のそのエンジンをエンジンを組み直す際に、レースで使用されることを前提にしたセッティングとしていたのですから・・・。
ちなみにホンダのV-TECエンジンは高速カムと低速カムを2段階に切り替えるという機構で、それが切り替わるタイミングが体験できてとてもアグレッシブな性格です。これに対してトヨタのコレはそれを無段階に変化させる画期的なモノでした。
しかし、その無段階に切り替わるというものは体感しずらく、それはどこかつまらないものとなってはいます。
これは非常に残念な点ではありますが・・・
でも・・・VVTと名付けられたその機構はその後30年に渡り改良を続け、現代のガソリン車に広く用いられる程の画期的かつ実用的なものとなっていました。
本来は全ての回転域で適切なバルブタイミングとすべく開発されたものでしたが、まどかの義父は思い切り高回転型としたエンジンのスカスカとなってしまった中速トルクを補うものとしてソレを使っています。
一方シルビアの方はノーマルエンジンの吸排気系だけを交換した仕様になっていて、排気抵抗軽減のみを考えた太いマフラーによって排気の脈動効果が得られず、思ったほどの加速が得られないというクルマでした。
ちなみにここで言う脈動効果とは、エンジンで燃焼した排気ガスを引き出す効果のことを指します。
脈動効果というものがないと、ただエンジンが回っているだけでパワーのないエンジンとなります。しかもそのシルビアは吸気系も効率のみを考えた社外品に交換され多量の吸気に対しての燃料が制御できず、理想的な燃焼効率とは程遠いものとなっていたようです。
エンジンについてのうんちくはさておいて・・・アクセル全開でシルビアを追いかけるAE92に話を戻します。
そんなちょっと残念なシルビアを追いかけるまどかのAE92でしたが、スタート直後こそあった一車身程の差が詰まって行き、ギアを4速に入れる頃にはスピードメーターが3桁の大台に乗っていました。
でもそんな時まどかの中で何か違和感が・・・
「速度警告アラームが鳴らない・・・」
そうです。まどかが今まで乗っていたハチロクは110Km/hでキンコン・・・。(直前に乗っていたアルトは90Km/hでビーと鳴ってましたが・・・)という速度警告が鳴っていましたが・・・このクルマはそれがありません。
そのアラームを鳴らなくしてしまったのか、そもそも鳴らないモノなのか?なんて余計なことを考えているうちに右前方を走るシルビアとの差がどんどん縮まっていました。
実はこのAE92の6速ミッションは2速から4速がクロスレシオ(それぞれのギア比が接近していること)しており、加速時にパワーバンドを外さないようなセッティングとなっています。(ちなみに4速ギアがノーマル車両の3速同等のギア比)
そして、ギアの4速が吹き切れる前には完全に抜き去って・・・・コレまたフラッシュが焚かれる中ゴール地点に到着しました。
その後、中央分離帯の切れ目でUターンしたところでハザードを点灯させ路肩に駐車したその2台のそれぞれのドライバーがクルマを降りて、その2台の間で約束の履行をするはずでしたが・・・
「おい、オマエの92・・・エンジン・・・何かやってるだろ?エンジン見せてみろ!」
開口一番その軽薄なオトコがそう言って掴みかかってきました。
まどかがそういう抗議を受けボンネットを開けます。
「なっ・・何だよコレ?ダチのレビンと全然違う・・・。どうでも良いけど、このエンジンヘッドカバーのTWINCAM20ってなんだよ・・・」
「うん・・・コレって次期型モデルに載るエンジン・・・みたいで・・・」
「それに・・・なんだよこのクルマ・・・コレってあの雑誌の・・・?」
「うん・・・それそのモノ・・・」
その時でした。里帆が助手席のドアを開けて半身を乗り出してまどかに声をかけました。
「ねえ・・・何かヤバイことになってきたって。」
そういう里帆の口元には室内からロール状のコードが全部伸び切った状態で例のマイクが握られています。
そしてそのマイクで2〜3やり取りした後再び声をかけます。
「なんか生活安全課の車両が偵察に来たって・・・未成年者連れ回してる輩を検挙するって・・・。だからここにいる全員が検問の対象だって・・・」
するとその話を聞いた軽薄ヤローの挙動が急に怪しくなったのが分かりました。
「あっ・・・そうだった。オレの負けだからオレのオンナくれてやるから・・・」
そう言い残すとその軽薄ヤローが自分のシルビアに戻り、助手席からまるで引き摺り出すという表現のようなやり方でセーラー服の女子高生を引っ張り出しました。
後ろから両脇を抱えられるようにして引き摺り出されている女子高生の上着が捲れ上がりヘソが見えています。
その時、その娘がお尻に敷いていた新聞紙が何枚か風で飛んで行きましたが、残った一枚が濡れた状態でお尻に張り付いていました。
それを見たまどかと里帆は驚きを隠せません。
その女子高生の姿というものが、上下ぐちゃぐちゃのセーラー服に片足だけ履いたルーズソックス。しかも・・・内腿には周囲の照明をキラキラと反射し何かの液体が流れ落ちるのが見えます。
しかも・・・靴を履いていません。
まどかはその女子高生の前に駆け寄ってその軽薄ヤローに尋ねます。
「お前・・・さっきこの娘のブラジャーとパンツ・・・それと靴下を中学生にくれてやったよな?」
するとその問いに応えたのはその軽薄ヤローではなく、その乱れた出立ちの女子高生でした。
その女子高生はお尻に張り付いている新聞紙を剥がしてそれをグチャグチャに丸めソレを道路路肩に投げ捨てると、大きく深呼吸してまどかの顔を睨み付けながらその質問に答えました。
「今、ノーパンノーブラですけど・・・何か?」
その答えを聞いたまどかは固まりました。部活中何かと反抗的な態度を取ってきたこの娘がなぜこの後に及んでまでそんな態度を取るのかと・・・
先ほどクルマの中であんなひどいことをされたうえ、覗き目的の中学生に下着をお土産として提供されてしまったというのに・・・
この時まどかは、指導している吹奏楽部で自分が受け入れられていないことを悟り立ち尽くすことしかできませんでした。
今回の物語はここまでとなります。最後までお読みいただきましてありがとうございました。
実はこの物語は後編として完結させる予定でしたが、話が長過ぎますので中編として話をまとめさせていただきました。
この番外編は後編としてもう一話ありますのでよろしくお願い致します。
まことまどか