俺は彼女とは部内恋愛している。(剣道部)
この前、彼女の使っていた胴が壊れてしまったので、武道館に置いてある胴を選んであげた。
そしたら、他の女子も胴が壊れたらしく、胴をさがしていた。
それを見た彼女が、自分が選んであげた胴をその女子にゆずってしまったのだ。
彼女に選んであげた防具が他の女子に使われてしまうと思うと、心が俺そうだった。
そもそも、俺の体育会系アレルギーのルーツは22年前。
半年で退部した剣道部時代に遡る。
時代劇が好きで、チャンバラを本格的にやりたくて入部した俺は、嫌というほど思い知らされた。
チャンバラと剣道は違うのだ。スポーツと部活は違うのだと。
俺の意志が弱かった、体力がなかった、といえばそれまでなのかもしれない。
しかしどうしても理解できなかったことがある。嫌な嫌な猛練習の直前、大嫌いだった1年先輩の女子が、何の気なしに言い放ったあの一言。
「ありがたく思え!」
恐らくは、剣道部その他の部活で代々使い古されてきた常套句で、敢闘精神を注入したいシチュエーション用の、とっておきの台詞だったのだろう。
入部後数ヶ月で初めて聞いたからな。
だが俺には解せなかった。
今も解せない。
ポジティヴに反応しなければならない理由が。
どこがありがたいもんかい。
心にもない嘘をついて、喜ぶフリをして大声で「はい!」と返事する。
嫌だろうと気乗りしなかろうと、下級生の俺にはそうする以外道はない。
拒めば竹刀でドツキ回されるんだよ。凶器の竹刀と先輩の特権で恐怖政治敷いてんだから。
私を「シゴキ」で高揚させようとして裏目に出た先輩は、それ以前から俺にだけ辛く当たってくる人だった。
俺がどんくさくて、剣道の基本技術である「絞り」を覚えられなかったことに対して、ずっとイラついていた。
「なんでそんなこともできひんねん!」が口癖で、
彼女の前で面の上から竹刀で何発も殴られたものだ。
剣道では相手を打ち据えるインパクトの瞬間、握り手である「束(つか)」を両手で引き絞る。
雑巾の縦絞りの要領で。
絞りの効いた打突音は「パン!」と乾いた音がする。
絞りが効いていない状態で振り下ろすと、「ズコン」という鈍い音と共に、竹刀の衝撃をまともに食らわせることになる。
俺はこれがなかなかできなくて、例の先輩は「お前の体で教えてやる」とばかり、竹刀を絞らずに私を殴っては罵声を浴びせるのが常だった。
他の先輩も顧問の教師も誰も止めに入らない。
何人か優しい先輩がいて、裏ではいろいろ慰めてくれたし、その厚意には感謝もしてるけど。
きっと表立っては言えないんだよね。ああいう育成方針が暗黙のルールなんだわ。