大学のサークルの後輩が結婚することになった。と言っても30歳を越えたいい男である。
久しぶりのひとり旅も良いものだと、杜の都仙台へと向かった。
披露宴は洒落たレストランで執り行われ、新郎側の先輩ということでスピーチまでさせられた。
オレもマリとのことをキッチリ考えなきゃならんな、とひな壇の2人を眺めていた。
2次会も終わり、サークルで可愛がっていた奴が、このあとせっかくだからブンチョウ行きましょう、と誘ってきた。
まだ、宵の口、ひとりホテルに帰っても飲みに行こうと考えていたところだ。
国分町、名前は耳にしていたが、どんなところなのか行ってもみたい。せっかく羽を伸ばせる機会である。
「センパイ、東京の銀座とか六本木でばかり遊んでんでしょ。それには負けるかもしれませんが、ブンチョウもなかなかおもしろいですから」
樋口というこの男、ひと昔前から馬があい、学生時代はよく連れ立って飲み歩いた。
あの頃は金もないから、居酒屋で酔いを回して月イチに池袋あたりの安キャバに行けば良い方だったが、今はヤツも大手ディベロッパーの仙台支店で羽振りが良さそうである。
「いい子いる店ありますから、そこ行きましょう」
はじめて訪れた国分町もなかなか大したものである。
通り沿いに飲食店ビルがズラリと立ち並んでいる。
それでもひと頃よりは、勢いが無くなったと樋口は言う。
通りから角を曲がったビルの店へ連れて行かれたが、なかなか凝ったつくりの店である。
「ここ、いつもきてるんです。へへ」樋口が照れ笑いする。
「いい店だな、落ち着いてて」
「ブンチョウはね、東北じゅうのかわいい子集まってくるんですよ」
「へぇーそうなのか、東京へ来ずに?」
「東京は別世界で怖すぎるからって……ここなら安心するみたいなんです。ま、ここでワンクッション置いて、東京へ行くコもいますけどね」
「ふーむ、なるほどね…」
樋口の高級銘柄の焼酎のボトルが運ばれてきた。
なにか別のモノを飲みたいが、女の子が来てからにするとして、焼酎に付き合う。
ふたりの女の子が黒服に伴われて席についた。樋口の指名している女はなかなかレベルが高い。オレに着いた女は、とびっきりの美人ではなく、どこか垢抜けないところがあるが、妙に男好きするタイプである。
「梨奈です、はじめまして」少しハスキーな声、経験上こういう女の子はエロい。
「今日は、大先輩が東京からやってきましたので、国分町を視察しに来ました」
樋口がグラスを持ってひとり乾杯をしようとしてる。女の子の飲み物はないが、オレもグラスを掲げる。
「おいおい、大先輩って……おかしいだろ、フツーにセンパイでいいだろよ」
「東京からなんですね…なんかひとめでわかりました。東京の匂いさせてたから」梨奈が言う。
「ナニ?その東京の匂いって……どんなのよ…とりあえず、みんなで飲もう」
メニューをもらい、値ごろなシャンパンとつまめるフードを頼む。
マリが戻り、オレの命の炎がともされた。マリのいない時間は禁欲、いや欲さえ湧かない日々を過ごしていた。
仙台行ってもワルいことしちゃダメよ、マリは笑いながら見送ってくれた。
ワルいこと……夜の女の子がいる店に足を向けると、ついそのワルいことをしたくなる気がフツフツと湧いてくる。飲みに出るという行為自体が久しぶりでもある。
樋口は自分の焼酎を口にして、女の子ふたりとオレのシャンパンはすぐに空いた。
すぐ次をオーダーする。
「都会の匂いって感じです……ちょっとだけ危険な感じで、オシャレな」
梨奈がシャンパンを飲み干して言う。客へのお世辞もよくトレーニングされてる。いい店だ。
「ハハハ、オレはただのサラリーマンだよ…ちっとも危険じゃない」
「いいえ、ただのサラリーマンじゃないでしょ、その時計、スーツ、カバン、靴……田舎だとね、どこかの社長サンにしか見えないから」
「……」
たしかに悪くない稼ぎを身の回りに投じてはいた。
スイスの腕時計、裏地まで選んで仕立てたスーツ、英国の老舗の鞄と靴。時計は仕方ないが、目立つのは嫌いで、ブランドロゴなどのないモノを選んでいたが、この女、意外に客を見る目を持っている。それにズバリそれを目の前の客に言ってくるのはどうなのだろう。おもしろい女の子だ。
樋口は、お気に入りの女の子と小声で何やら話しをしている。
女の子のいる店で男同士の会話などいらぬということだろう。
黒服が来て、梨奈さんとコールされたが、指名して、ここに居ろと制した。
はじめての街で飲み、はじめて席に付いた女、これも縁だろう。
それに新しい女とまたやり取りするのは面倒だ。
ヴーヴから飲みはじめて3本目になる。シャンパンのグレードが段々上がっている。シャンパンは飲み口がいいが、後始末に困る。酔いが回るのが遅れてやってくる。
「ウイスキーが飲みたい」
本腰を入れて飲みたくなったオレの兆候だ。
「あたしもお付き合いします」
梨奈が殊勝なことを言う。若い子はウイスキーを好まない。
国産のシングルモルトをオーダーする。飲み慣れた銘柄。ボトルを入れても樋口が後片付けしてくれるだろう。
「やっぱり、都会のオトナのヒトですね……」
「ウイスキー飲むのがオトナなのか?」
「ええ…あたしの中では、オトナが飲むモノです…」
スルッとグラスをあけていく梨奈。酒は強いようだが、目が少し潤んで色っぽい。マリ以外の女の色気を久しぶりに感じた。
「梨奈ちゃんはいくつだ?」
いくつに見えます?というオキマリの質問返しはなく、キッパリ24です、と教えてくれた。
そのまま、聞いてもないのに自己紹介トークがはじまり、オレへの質疑応答が続いた。
梨奈という源氏名は、ホントは里奈と書くんですよ、と教えてくれた。地元には多いという苗字は聞いたことのない武家のようなものだった。
みんな名前変えてるけど、あたしは、別の名前で呼ばれても気付かないから……マネジャーが字だけ変えようって付けてくれたという。
本名から生い立ちまで、明け透けと梨奈はオレに話してくれた。
秋田で生まれ大学で仙台に来てから6年、卒業して地元の百貨店に勤めているという。
ただし、所属は東京のアパレルで、一応そこの社員だというが、給料が雀の涙ほどで、夜のバイトをしなければ好きなモノも買えぬという。そのうち東京本社に移動したい、いや東京へ行きたいと願っていた。
「ヤダ、あたしなんでこんなみんな話しちゃったんだろ……聞き上手ですねー」
聞き上手もなにもない。ただ話しを聞いていただけだ。
「東京に来たいの?」
「やっぱ、夢ありますよ……」酔いのせいか、梨奈の言葉つかいも乱れてきた。
「いろんな欲があふれている街だよ」
「お金貯まると遊びに行ってます……渋谷とか、青山とか…東京はみんなオシャレ……ああ、この街のヒトになりたいって思うんです」
「そうか…東京ね……」
六本木の女たち。ほとんどは地方からの上京組である。マリもエリもそうだ。ミズキは東京組だが、彼女はクールに見えて情が濃いところがある。親しい間柄だけに対して心も肉体さえも許してくる。
地方から出て容姿に恵まれ、個性を活かして人気を得た女の子だけに許される六本木の舞台。
その上にはさらに銀座という大舞台もある。
「東京でもお飲みになってます?」梨奈が問いかける。
「むかしは飲んでたけど、最近はほとんど行かないな」
「どこで?……銀座……六本木?……新宿って感じはしないなぁ」
いい読みをしている。
「すごく遊び慣れてる感じします」
「遊び慣れてるというのは、ワルい男という意味だよ」
「ううん…遊び慣れてる男のヒトって……惹かれます……遊ばれてみたいっていうか……」
思わず吹き出してしまった。
「梨奈ちゃん、酔っ払ってきたな」
「なんで笑うんですか?結構マジメに話してたのに……」
子供扱いされたと思ったのか、梨奈は真顔で頬を膨らませる。
「センパイたちも盛り上がってますね…国分町を楽しんでいただけて嬉しいです」
樋口がグラスを持ってご機嫌の顔をしている。その手はお気に入りの腰に回っていた。
「センパイ、そろそろブンチョウ視察も終了にしますか?」
先程入れたウイスキーもボトル半分近く減っていた。
梨奈が酒の相手をしてくれるのが楽しくて、ついオレもいいペースで飲んでいた。
いい酔い心地である。ここには3時間はいただろう。
「美味いラーメン屋ありますから、そこでシメましょう」
会計はオレが支払った。樋口はここはダメです、東京に行った時はゴチになりますから、と言っていたが、シャンパンやウイスキーをオーダーしたのはオレである。キッチリ明細まで印字された請求金額は六本木の相場の半分ほどだった。充分飲んでリーズナブルに楽しめた。
「あたし12時で上がりなんです。もっとお話しできますか?」
梨奈が名刺の裏にケータイの番号を走り書いた。
番号教えてください、という梨奈にオレはケータイを取り出した。
「えっ!ガラケーですか?似合わない」笑われた。
スマホを使ったが、通話が面倒ですぐガラケーに戻した。
iPadを持ち歩いているから不便はない。
それにケータイそのものも旅へ出る時くらいしか持ち歩いていない。
ところ構わずかかってくる不躾な電話が苦手だ。
「……ああ、12時過ぎてまだ酔い潰れてなかったら、話しはできる」
「じゃ……あたし上がったら電話します……約束ですよ」
「……うん、酔い潰れてないことを願ってくれ」
シャンパン3本が効いていた。ウイスキーも後押ししてくれている。いやその前の結婚式ではビールやワイン、日本酒も出ていたっけ。
エレベーターを降りると、外の空気が東京とは違い冷え冷えとして心地良い。東北にいることを思い起こさせてくれた。
「さすがセンパイですね……はじめて来てアフターゲットして…むかしから上手かったですもんね」
樋口が肩を組んできた。気持ちいい酔いだ。
「オレはナニもしてないし、誘ってもいない」
「だから、上手いんですよ、女の子誘うの……」
むかしから、妙に夜の女に好かれることはあった。
仕事の接待で付き合ったソープの女の子に店終わりに待っててと言われたこともあった。
ソープでは何もしなくていい、身体を洗ってくれと頼んだ。
お客さん、ホント何もしなくていいの?と聞かれ、キミに魅力がないワケじゃないと弁解した。事実、そのあと、彼女のマンションではセックスに及んだ。24~5くらいの頃、横浜、伊勢佐木のソープ。
女のマンションは山下公園の近くで、大きな犬を飼っていた。それから半年くらいそこへ通った。人見知りするという犬は、なぜかオレには懐き、山下公園を散歩させたりした。
「自分なんか、アフター行こうって拝み倒してやっと付き合ってもらってますからね」
「なんでだろな」
「センパイはさあ、カゲあるんだ、影……なんか女の子がほっておけないミステリアスなとこ」
「影なんて誰でもあるだろう……ほら」
街灯にオレの影が映っているのを指す。
「それなら自分にもありますッ……」
酔いのせいか、樋口のいうラーメン屋は格段に美味かった。
「仙台は寿司はうまいけど、ラーメンはイマイチなんです。でもここはうまい」
そこでもビールを飲む。それまでの酔いがスッと覚めていくような気がする。
「センパイ…どうするんすか?さっきの梨奈…待ち合わせ行くんですか?自分はこれ食べたらクルマ拾いますよ」
「おまえは、アフターしないのか?ゴニョゴニョ話してたろ?」
「次の約束のことですよ、あの店、あの女にけっこう金落としてますからね…一回だけはやらしてくれたんですけど……2回目が……なかなか……」
「ま、がんばれ…」
さて、12時までまだ1時間もある。ホテルへ帰って眠ろうか。ん?オレはどこのホテルに泊まっていたっけ……。カードキーを探し財布にあるそれを樋口に見せた。
「このホテルはここから近いか?」
「駅のほう寄りですね、いいとこ泊まってますね、さすが高給トリ……」
せっかくのひとり旅、ブッキングサイトでこれはという名の知れた所を押さえた。
レイトチェックアウトの特典が付いていた。
「オレはここに帰ってもう寝る…」
「えっ……いいんですか?もったいない……」
結局そのラーメン屋でもビールを2本空けた。
通りに出ると、ひっきりなしにタクシーが通る。樋口と別れて車を拾いホテルへ向かった。
午後にチェックインして荷物をフロントへ預け、部屋に運んでくれるよう頼み、そのまま結婚式へ向かったから、部屋に入るのははじめてである。
なかなかシックで快適な部屋だ。ターンダウンしてある寝心地良さそうな大きなベッド。
ネクタイやシャツを剥ぎ取り、そこへ転がり込んだ。
シーツの冷たさが心地良く、そのまま眠りに落ちた。
深い眠りの底にいるのに、何かが呼び起こそうとしてくる。
身体は動かない。動きたくない。しかし音は鳴り止まない。無視すると音は止んだ。
しばらくすると、また呼び起こす音がする。電話、オレのケータイだ。
約束、梨奈と約束したんだ。少し意識が戻る。今度は音が止まない。
起き上がり、ケータイを探す。脱ぎ散らかした服、どこから音がしているのか。
立ち上がりスーツのポケットから音の主を取る。
番号だけの着信が点滅してる。
「はい……もしもし……」声がかすれた。
「やっと、出たぁ……もしかして……寝てたとか……?」
「……ああ…寝てた……」
「ひど~い……今、終わって電話したのに……ってか、どこ?どこのホテルなの?」
ホテルの名を言うと、いいとこ泊まってんねぇ、と樋口と同じことを言う。
「起きた?起きてるなら……あたしこれから行っていい?そこに……部屋番号は?」
カードキーの番号は憶えていたから告げる。
「すぐ行くから、起きててね……寝たら、あたし入れないんだから」
そういうと梨奈は電話を切った。
水を飲みたい。冷蔵庫を開けるとミネラルウォーターのペットボトルが2本。
喉が鳴る美味さ。眠りと酔いの両方が引いていくようだった。
時計は0時半を回っている。ほんの1時間の眠り、酔いのせいで深い眠りを得た。
窓際の椅子に座ると、100万都市の夜景が望める。仙台も大都会だ。
椅子でそのまま眠りについてしまうが、ほんのしばらくしてドアチャイムが鳴らされた。
梨奈が来たようだ。
裸のまま、ショーツ一枚で、ドアを開けると、ファンクな女子大生のようなスタイルの梨奈がいた。
ダメージジーンズの度を越して横糸が規則的に裂けて脚がほとんど見えてる。
白いTシャツに黒のベストを重ねている。
「よかったぁ、起きててくれた……」
「起こされたから、起きたよ…」
「うわーいい部屋……ひとりで泊まるのもったいないぢゃん」
仕事の物言いは終わったらしい。
「ひとりでも2人でもおんなじだよ」
「ね、あたしも今日泊まっていい?」
「それは、困ったもんだな」
「Hなこと考えないでよ、あたし、ここ一度来てみたかったんだ…ね、いいでしょ…」
オレは梨奈をどうこうするというより、すぐにでも眠りたかった。
いろいろ話すのは面倒で、ベッドも広いから不都合はない。
梨奈とアフターの約束したのも事実だ。彼女の願いを承諾した。
やったァ、と言うなり梨奈はバスルームを見に行っている。
「ちょっと!ナニこのお風呂!サイコーぢゃん」
何がサイコーなのか、オレも見に行く。
バスタブの壁がガラス張りになっていて、夜景が一望できた。
「おお、いい風呂だな…知らなかった」
「えっ、お風呂も見てないの?何してたの…」
「さっき部屋に来て、ベッドに倒れた…」
「信じられない…」
部屋に戻ると、梨奈は甲斐甲斐しくオレの散らかっていたスーツやらをハンガーにかけてくれた。
「ホント、倒れてたんだ……飲み過ぎだよ」
「ああ、少し飲み過ぎたかもな、とにかくオレは寝る、あとは好きにしていいから…」
歯も磨いてなかったことに気づき、バスルームに行き、顔だけでも洗うことにする。
歯ブラシを使っていると、下着姿の梨奈が入って来た。黄色のTバックの上下お揃いで、
なかなかいいスタイル。男好きするのは顔だけではない。でも眠い。
「ね、お風呂使っていい?」
「どうぞ、オレは歯磨いて寝る」
梨奈はその場で下着を脱ぎ、全裸となってアメニティを物色している。
「あ、これ使ってもいい?」
バスジェルやいろいろなものを手にしている。
「いいよ、なんでも好きに使って」
「ね、一緒入んないの?」
オレがバスルームを出ようとすると、梨奈が声をかけた。
「はいんない。明日の朝、シャワー浴びる」
クローゼットの脇に、梨奈のダメージジーンズと服がキチンとたたまれて置いてある。案外几帳面で育ちもいいのだろう。
オレはベッドにふたたび潜り込み前後不覚の人となった。
気持ちのいい目覚めをむかえた。幸い二日酔いは免れたようだ。
時計は9時前を指しているから8時間近く爆睡をしたことになる。
久しぶりの長い眠りだった。
寝返りを打つと、女が寝ている。一瞬驚いたが、梨奈が昨夜訪ねて来たことを思い出した。
かなりオレは泥酔していた。なにかした記憶はないから、何もしなかったんだろう。
梨奈は無邪気な可愛い寝顔をしている。女は寝顔に本性があらわれると思うが、梨奈の顔は純粋無垢そのものだった。
彼女を起こさぬようにそっと起きて、ルームサービスのメニューを取り、ハウスフォンでオーダーテイカーに伝えた。
アフターの約束をして、それを反故にしたのに彼女はここまで来てくれた。せめて朝メシくらいはご馳走してやろう。
ほどなくドアチャイムが鳴り、ワゴンに料理が並べられてきた。
セッティング致しましょうか、というスタッフに連れが寝ているから、ここでいいとワゴンを受け取り、ベッドサイドへ静かに運んだ。
「梨奈ちゃん……起きて、朝ごはん届いたよ」
梨奈の額に、そっと手をあてると、おだやかに彼女は目を開けた。
「‥‥おはよ……よく寝たぁ」
「朝ごはん、あるから食べて、仕事は大丈夫?」
「……今日は休み…………じゃなきゃあれだけ飲まんよ」
「そうか、いっぱい飲んだもんな……オレも久しぶりに飲み過ぎた」
モソッと起きた梨奈は、ホテルのナイトウェアを身につけている。そのままトイレへ向かい、ガラガラとうがいをする音を立てていた。
部屋のカーテンを開けて外の景色を眺めると、街並みの遥か遠い先に黒い塊のような壁が連なりそこから先が全て塗り潰されていた。あれは何だろう……。
梨奈が戻り、ワゴンの上の料理を見て声を上げた。
「ナニこれ!こういうの一度食べてみたかったんだ!ありがとう」
「よかった、いいから食べよう」
「昨日、アフターで何かたべよ、って思っててスッポかされたから、おなかペコペコ。なにこのオレンジジュース!もうオレンジそのまんま!このパンケーキもスゴイ美味しい!」
何が好みがわからないから、数種類のメニューをチョイスして梨奈の要らぬモノをオレが食べた。
「ね、いっつもこんなの食べてんの?」
「いや、いつもは納豆と鮭だな」
「へー、奥さんいるんだ?指輪してないけど……」
「奥さんはいない、それらしき予定のひとはいる。それに指輪は嫌いだ」
「ふーん……やっぱ、東京のオトコだわ~」自分の言った言葉に梨奈は笑ってる。
「なぁ、あそこの景色の黒いトコってナニ?ずっーと黒い壁みたいになってるとこ」
梨奈が窓の景色に目を向けた。
「……ああ……あれはね……津波のあと……あそこまで津波きてみんなツブれちゃったの…」
オレは愕然とした。街並みが続く遥か先の黒い壁、それが津波の、あの3.11の時の残骸だとは……。
あれから、数年しか経っていないが、いまだにその爪痕があんなに明確に残されているとは。この地は確実に自然の猛威を受けていたことに今更ながら気付かされた。
「あたしはちょうど、春休みで秋田に帰っていたから、なにもなかったけど、大学のコで……亡くなったコもいた……」
「それからだよ……あ、人間って突然死ぬんだ、って思うようになったの」
いきなり真摯な話題になった。
「ウチのね、おばあちゃんが言ってたけど、生きてるうちが花、ホントあたしもそう思った…」
「そうか、東北はいろいろあったもんな」
「ね、あたしとホテル泊まってさ、なぁんにもしなかったヒトって…はじめてだよ…」
なんの照れもなく梨奈が言う。
「ゆうべは飲み過ぎたし、そんな気はなかった」
「あたしの裸みても?」
「……オレは見たのか?」
裸、見たような気もするが、よく憶えていない。
「もうッ…….歯磨いてるとこに裸で乗り込んだぢゃん……けっこうショックだったんだ……東京のオトコにはあたしは魅力ないのかって……」
「いや、……」言葉が出てこない。
「いや、梨奈ちゃんは魅力的だよ。オレが酔い過ぎてただけだ」
「いまはシラフ?」
「ああ、もうスッキリ」
「んじゃ、食べたらしよ……ね」
まるでゲームでもしようと誘ってるようだった。
朝食を食べ終えると、梨奈はナイトウェアを剥いだ。
カタチのいい乳房が露わになる。下は何も着けていない。濃い陰毛がフサフサとしている。
「ね、きて……」
ベッドボードに寄りかかりオレを見ている。
「生きてるうちが花」梨奈の言葉が頭に浮かんだ。生を謳歌する、性をも楽しまなくては。
梨奈に寄り添って唇を合わせる。彼女が飲んでいたオレンジジュースの味がする。
「……もう……ホントに……じらすんだから………」
そんな気は全くなかったが、これから焦らしてやる。
梨奈は思いのほか、舌を絡めて吸い付いてくる。上になっていたオレがいつのまにか下にされて、梨奈はオレの首筋から乳首まで舐め回してきた。
「ああ、オトコのヒトの汗の匂いする……」
「あ、オレ風呂入ってない、昨日」
「……いいの……あたしがキレーにしたげる」
マジか……その言葉でオレもスイッチが入った。
梨奈は言葉通り念入りにオレの隅々まで舐めてくる。ハスキーな声の女はスケベだという統計値にプラスの加点がされた。
出来上がった勃起に、クンクンと鼻を擦り付けている梨奈。
「……いい………たまんない……」自分のクリトリスをさすっている。
「梨奈ちゃんはエッチなんだな」
「そうよ、あたしエロエロなの……でも、あの店で働いて1年だけど、お客さんとこうなるの、はじめてだよ……誰とでもしてるワケぢゃないからね」
じゃなんで…オレと?と聞きたかったが、野暮なのでやめた。歳は違えど男と女。感覚が合致した。それだけのことだ。
マリより3つ4つ歳下のコ。この世代で3~4歳の差は大きい。だが、「女」として一人前のテクニックを駆使してくる。地方のコほどセックスに長けているというがまさにそれだ。
脚を上げられ、梨奈の舌はオレの肛門まで這ってきた。風呂に入ってないというのに、知ってるだろ。肛門の周りを舌が舐って、舌先を中に捩じ込もうとしてる。これはたまらない。
昨日、出掛けに用を足してからシャワーを浴びたが、時間も経ってケツの匂いもしているはずなのに、躊躇なく舌を挿れてくる。
「ここ、いいでしょ?」梨奈はサディストなのか?それとも尻が感じるから相手にもしてるのか?
「……ああ、ケツは好きだ…」
「ね、やっぱ、お尻好きだと思った……」
なぜバレてる?酔ってて何か言ったのか……シモネタ言った記憶はないが。
完全にケツ穴に舌がめり込んでいる。穿るように舐め回されてる。梨奈という女の性嗜好がわかる舐め方だ。オレも好きなことをしよう。
梨奈の舌が抜けた隙に起き上がった。
「な、オレが尻好きだってなんでわかった?」
「……だって、店で女の子通ると、背中からお尻の方ばかり見てたぢゃない……あ、このヒトお尻好きなんだって…‥.すぐわかった……だって……あたしもお尻するのも、されるのも好きだから…」
「そ、そっか、そんなオレ、ケツ見てたか……じゃあしょうがないな………」
梨奈は今、聞き捨てならないことをサラッと口にした。お尻が好き。するのもされるのも、と。
樋口の馴染みの店で、たまたま席に座った女、なんの縁か、同じベッドで一晩寝て、その女が尻が感じるという。この奇遇に感謝だ。
梨奈をうつ伏せにして、オレにした事と同じ愛撫をしていく。もっとゆっくり、もっとじっくりと、じらしながら舌でうなじから肩を手を上げさせて脇の下を確認するように舐め上げていく。
横向きにして乳房の周りをそっと触れながら、舌先を乳首のトップに触れさせる。あっ、と梨奈が声を上げる。思った通りの感受性豊かなコだ。
ごく薄い茶色の乳首は小さく愛らしい。そこを舌と前歯で押さえつけながら、梨奈が好きだという尻の溝から谷間に指を這わせていき、肛門の窄まりを捉えてやる。
ヒッ、と小さく頭をビクンとさせる梨奈。いい反応だ。
乳首から口を離して背中から臀部のラインを追っていく。
舌がどこへ向かおうとしているのか、梨奈はわかっているように小刻みに肢体を震わせている。
若い尻、何かスポーツをしていたのであろう、張りのある双丘だ。
ほんのり汗ばんできている尻肉をおもむろに割って中の窄まりを露わにする。
乳首と同じ色した小さな肛門が顔を覗かせる。皺の数は少ないが、ムギュッと頑なに口を閉じている。可愛いケツの穴だ。見られてるのが恥ずかしいとヒクヒクと呼吸をしている。
「ヤダ……恥ずかしい……」
「恥ずかしいからいいんだろ?」
「………」
ふっーと息を吐きかけると、それにキュッと応えてくる。
皺が伸びるほど拡げて鼻を近づけてみたが、なんの匂いもしなかった。ちょっと残念だったが、舌をそっとあてがってみる。
「あっ!……」一際大きな声を梨奈はあげた。ホント好きなんだ、ケツが。いいコだな。それじゃ遠慮なく味見させてもらう。オレはそっと触れていた舌を尖らせて梨奈の肛門の中に捻じ込んで中でローリングさせた。
「ヒッ!…………はぁぁ……」
温かい腸壁は微かな苦味がする。いい肛門の味だ。少し緩んだところで舌を抜き指先を代わりに差し込む。
「ああ、……お尻……」
若い肛門。締め付けが厳しいが、オレの指をなんとか飲み込もうと努力してるのがわかる。もう尻の味を知っているのか、どおりで男好きする顔をしていると思った。尻の味を知った女は色気が倍増する。これもオレの持論だ。
指を抜いてはまた舐め上げてやる。中を掻き回していた、その指先はさすがに香ばしい匂いを放っている。
そうこのケツの匂いが、嗅ぎたかったんだよ。スケベな女のケツの匂い。ほらオレのは絶好調に勃起してる。
「………お尻ダメぇ……いれて……もうッ……いれてぇぇ」
あいにくワセリンなど持ち合わせていない。まさか後輩の結婚式にワセリンなど持っていこうとは思いもしない。もう少しだけ、括約筋をほぐしてやろう。
「ダメ……ね、…….入れて……」
「入れてやるから、待ってろ、オレのを濡らしてくれ」
ベッドに立ち梨奈に勃起を咥えさせる。
「いっぱい濡らして痛くないようにしなきゃ」
これから自分の肛門に入る勃起を梨奈は丁寧に唾を塗し舐めている。上から手を伸ばして梨奈の肛門に指をこじ入れて、少しでもほぐしてやる。
「ンンッ……ンンッン」
尻を穿るたびに梨奈は嗚咽を洩らす。
「……シュゴイ……硬い……もう大丈夫ッ…‥.きて…オネガイ」
まだダメだ。もう少し舐めてろ。ケツの穴掻き回してやるから……。
「ダメダメ……そんなされたら……あ、イッチャウ……」
指で掻き回していたら、梨奈が1回目の気持ち良さをむかえてしまった。途端に括約筋のバリアも緩んだ。いい頃合いだ。四つん這いの梨奈の後ろに周り、狙いを定めて勃起を沈めていく。
小さな孔は、抵抗もせず、赤い亀頭をスルッと飲み込んだ。
「きたぁ……」ガクンと梨奈が反応した。
アナルセックスは女が受け入れる姿勢がありさえすれば、すぐ馴染む。その逆なら全く動きもままならない。そこでムリをすると、女は苦痛だけを覚え尻を開かなくなる。
これなら問題なく動かせそうだ。
可愛い尻のド真ん中に残酷にも勃起が突き刺さっている。まるで何かの刑罰を与えているように見えるが、梨奈は快感の喜びを声に出している。
梨奈の肛門に入れていた指先を嗅ぐ。可愛い尻のスケベな残り香……。それを嗅ぎながら尻を犯すのはなによりたまらない。自分の尻の匂いを嗅がれながら、ますます硬くなったモノを突かれて、梨奈は声にならない息を洩らしていた。いい尻だよ、梨奈……。旅でオマエに会えて良かった。
「ンンッ……また………イ…イっちゃう……」
そんなにいいか?ケツ感じるか?梨奈?いいコだ……。オレは突きを速めてやる。
「ダメぇぇ~……お尻ィィ……おかしくなるゥー………」
さすがに何度目か忘れたが、梨奈が動かなくなったからいったん勃起を抜く。
抜く時にカリの抵抗を感じたのか、梨奈がビクンと動いた。
梨奈の脇に寝て髪を撫でてやると、ソロソロとオレの勃起に向きを変えて舐め出した。
自分の肛門に入っていたモノに唾液を塗して、さらに再戦を望んでいる。
目の前に梨奈の小さなプッシーと肛門が濡れて光っていたから、オレもその両方を舐め回してやった。プッシーは鉄を舐めたような味がした。
肛門はすっかりほぐれている。
梨奈はオレの上に尻を落としてきた。勃起を捕まえて自分で位置を確認している。
アナル好きな女が好む体位だ。自分の好きなように動かせる。勃起がヌルい感触に包まれて、梨奈は口を寄せてきた。
「ね、すごくいい……お尻で……こんないいの……」
そう言い腰を上下に前後に揺らし、場所を探している。
汗で髪が額に貼り付いているのがセクシーだ。
「フンッ………あっあっこれ……‥これ」
前後に腰を擦るようにしていた梨奈がまた唇を合わせてきた。さっきより舌を深く絡めてくる。
「フグッ………ア……」
梨奈の舌がオレの舌を捕らえて止まった。また気持ちよくなったようだ。
早漏な梨奈ちゃん……。可愛い過ぎるから、追い討ちかけてやる。下からそのまま突き上げて腰を進めた。
「ああッ……ああッ………」
梨奈が否定するように首を振る。
何を否定してるんだ?気持ちよくなることは肯定しかないよ……オレも気持ちよくなるから……もう少しで………。
顔を顰めてオレを見る梨奈。困った顔をしてる。もっと困らせてやろう……その顔見るとサディスティックになる……ほらオレの勃起……梨奈の肛門の中で暴れてるだろ……オマエのケツの穴気持ちいいってよ……スケベな匂いさせてる肛門に熱いヤツぶちまけてやるから待ってろ………ああ……いい……。
「梨奈!オレもイク…」
舌を出してやると梨奈はしっかり受け止めてオレの舌を吸い取ってくれた。舌と射精がタイミングよく同時に梨奈の中に入っていった。
梨奈は苦痛に耐えるような顔をしている。快楽と苦痛の表情は同じだ、と何かの本で読んだ記憶がある。たぶんオレも苦痛の表情をしていただろう。
勃起が縮んで抜けるまで、オレたちは貼り付いたままでいた。
抜けたのを感じて、梨奈の尻をティッシュで拭ってやると、それだけでも梨奈は反応した。
緩んだ肛門から精子が滲んで来ていた。あの若いキツキツの肛門が、ふやけて婆さんの唇みたいに見えた。
「先にシャワー浴びてるよ」
梨奈に言い残してバスルームに向かう。
梨奈が昨夜バスを使った後に元に戻したのだろう、バスマットやタオルがきれいに干されてあった。なかなか気の利く女だ。
頭を洗い終えたころ、梨奈もバスルームに入って来た。少し照れくさそうにしてるのが可愛い。
「うわーここから見ても、サイコーの景色……ここがジブン家のお風呂だったら…一生風呂から出ないわ」
「そんなことないよ……毎日なら厭きるし…たまにだからいいんだよ」
「そうかなあ……でも……あのエッチはあきないと思う……」
「エッチは毎日でもいいけどな」
「どっちも気持ちいいのはおんなじだけどな……」
上手く説明してやれなかった。見事な眺望、心地よいが、眺望欲なんてものはない。性への欲は日を重ねると湧いてくる。いい景色は心を潤わせてはくれる。だがしかし今、目の前の景色の一番奥には、津波の爪痕、絶望の悲しみさえ残ったままである。
梨奈はオレのペニスを洗いながら、悪いチンコだ、こいつと話しかけている。
先にオレがシャワーを終えて出た。朝食の残りのポットのコーヒーを飲む。まだ冷めてはいない。
帰りの新幹線はいつでも良かった。夜まで東京に戻ればいい。明日は休日、なんならもう一泊したって構わない。
梨奈と共にどこか温泉でもしけ込むか、と思ったが、彼女は明日は仕事だろうし、なによりマリへの言い訳を繕うのが面倒だ。アイツに嘘はつけないし、すぐ見破られる。
仙台のキャバで、たまたま席に着いた女とベッドをともにして、温泉まで行って来たなどと正直に言えるものではない。やはり今日帰るのが無難だ。ゆきずりの女だった梨奈が名残惜しくなっていたのかもしれない。
梨奈が髪を整え、メイクも終えてバスローブを纏って出てきた。
昼間のメイクした顔は可愛いらしい。夜の店のメイクの棘は消えて健康的な若い女の子になっている。
「あ、コーヒー…あたしも飲みたい」
「朝の残りを飲んでただけだから、ほとんど残ってない。頼めばすぐ持って来てくれるよ」
メニューを見せると、うわっ高いッ!ウチの店よりボッタクリぢゃん…なんでコーヒーが1300円もするの?ウーロン茶1200円だって……と絶句してメニューを眺めてる。
「もしかして、この朝ご飯……ひとり1万円くらいかかってる?食べたモノみたらそのくらいなんだけど……」
「東京ならもっと高くなる。いいから好きなモノ頼んで」
「いい、せめて冷蔵庫にする」
オレもコーヒーが飲みたい。ハウスフォンで、コーヒーをポットでとオーダーをした。
冷蔵庫も高ぇなぁと言いながら、梨奈はミネラルウォーターを取ると、ベッドに座り、朝食の残りのメロンをつまんでいる。
「何時の新幹線で帰るの?」
「時間は決めてない…今日中に帰ればいい」
「じゃ最終なんかでもいいの?」
「ダメじゃないけど、夕方には帰りたい」
「なんかね、昨日…お店で話してる時、もっといろいろ話したいと思ってたの…」
「今、話せばいい」
「エッチしたら、ぜんぶ忘れちゃった……」
思い出したら、電話を……と言いかけたが、言葉を飲んだ。
「ね、あたしが東京に遊びに行ったら……」
梨奈もその先の言葉を続けなかったから、東京来たらメシくらいご馳走してあげる、と付け加えてやった。
「うん……連絡する…ちゃんと時間みて連絡する……これから夕方まで仙台案内してあげたいけど、見るとこないんだよね。松島まで行くのは遠いし……」
「気にしなくていい。テキトーに帰るから」
一夜の恋どころか、朝起きてからの数時間の恋にオレは名残りを感じていた。
身体の相性がいいとその異性を強く引き合う。
レイトチェックアウトは16時までだから、昼メシを食べて別れることにしよう。
半分微睡みながら部屋で時間をやり過ごし、午後の2時過ぎにホテルを出た。
梨奈のファンクなスタイルには、不釣り合いなオレの姿だった。
スーツはガーメントバックにしまい、ポロシャツに薄手のカーディガンを羽織っているが、若い女の子とは別の場所に区分けされてしまう感じが否めない。
その不釣り合いな即席カップルは梨奈のオススメの牛タン屋に入って、遅い昼食をとった。
牛タンもテールスープも名物なのにすこぶる美味しかった。
梨奈がホームまで見送ると言ったが、どんな顔をすればいいか迷い、改札口でいいと断った。
土産売り場を覗いて、ね、これ仙台の名物お菓子、これあたし買ってあげる、と言ったがそれも断った。
旅先で抱いた女が買ってくれたモノをマリに渡すほど、オレの神経が鍛えられていない。
梨奈もその辺を察したのか、あっさり菓子を見るのをやめて別のコーナーをみていたが、レジに並んで何かを買っていた。店員が小袋を梨奈に渡したのを見た。
新幹線改札口の手前で、それじゃまたな、とオレは言ってしまったが、またはあるのだろうか。
「ね、これならいいでしょ…持ってて…」
と先ほどの小袋を手渡された。小さな硬いモノが中に入っている。
「なにこれ?」
「仙台のお土産……あとで見てね」と笑ってる。
「あたし、もう同じ年のオトコとエッチできない……」耳元で梨奈が囁いた。
「梨奈が教えてあげたら、いいさ、オトコもすぐおぼえる」オレも耳元に囁き返した。
「ね、こっち来て……すぐ終わるから…」
梨奈が柱の影にオレを引っ張り、顔を寄せてキスを求めてきた。
軽くチュッと音を立てて一瞬の出来事だった。
「それじゃ……」
改札を抜けて一度振り返ると、梨奈は満面の笑みで手を振っている。
いいオトコみつけて幸せになれよ、と彼女の行く末を願っていた。
ホームの売店にはマリの好みそうな土産はなかった。
酔い潰れて寝て起きて帰ってきた、そういえば土産はいらない。
安物のウイスキーの小瓶と柿の種、ミネラルウォーターだけ買って新幹線へ乗り込んだ。
2時間、ほんの、いっ時で東京へ到着するとのこと。意外に近い場所なのを改めて知る。
オレは、なにかの口実をつくって、また梨奈に会いに来たりするのだろうか……。
ウイスキーを飲みながら、良からぬ思いを巡らしていた。
ワンナイト…‥いや、正確にはハーフディの恋、恋とさえ呼べない淡いモノだったが……。
カーディガンのポケットの梨奈がくれた小袋に触れた。
テープを外すと中から小さなコケシのストラップが出てきた。
赤い組紐に鈴が付いて小さなコケシが愛らしい。
どことなく梨奈の顔に似てるように見えてくる。
ファンクな外観には似つかわしくない気の利く女だった。
さてどこに付けようか、迷ったが、本来の目的通りケータイに取り付けた。
振るとチリンと小気味よく音を立ててコケシが揺れた。
「仙台にあたしがいたこと……忘れないでね…」
まるで、コケシがそう言ってるようだった。