あれは確か、社会科の授業のとき。
僕らは先生の指示で班を作ることになったのだが、偶然もう1人が風邪かインフルエンザかで休んでいた時期で、僕は明里って名前の女子と2人きりになった。
明里は学年でも可愛い部類の顔で、男子からの人気も高い。それに加えて、はっきり言うと僕のタイプだった。
だから2人きりという状況はすごく嬉しかったけど、それと同じくらい緊張しちゃって、授業中は殆どまともに会話できなかった。
けれど、机の奥の方にあったマーカーを取ろうとした時、腕で消しゴムを落としてしまったんだ。ここまではなんてことない話だったんだけど、消しゴムが落ちた先が問題だった。
それは明里のスカートの、それも丁度脚の付け根あたりに乗っかっていた。
「あのさ、消しゴム取ってもらえる?」
どうしようかと暫し悩んだあと、流石に許可を取ってでもそういうとこに触るのは気が引けたので、直接ではなく明里自身に取ってもらうことにした。
明里は一度作業を中断して僕の方を、それから僕が見ている方に視線をやった。
すると、あぁと納得したように頷き、
「自分で取ったら?」
と言い出した。
「え、いや?それは流石に……」
予想外の反応に思わず言葉が濁る。
「だからぁ、取っていいよって言ってるじゃん。ちょっとくらいなら触っちゃってもいいから、ね?」
「へ?触る?」
「うん、触っていいよ。君だけ特別に」
言ってる意味がわからない。
それにそもそも明里がこんな人だったとは思わなかった。じっと僕の目を見つめて、こんな破廉恥な言葉を囁くなんて。
「それにほら、うちの班人数少ないから手休めてる時間ないよ?」
明里の目の動きを追うように周囲を見渡す。確かに他の班は着々と作業を進めていて、今すぐにでも再開しないと次の授業が始まる前までに間に合うかすら怪しい。それに一瞬だったが、先生が無駄話をしているこっちを睨んでいるように見えた。
「それじゃあ…遠慮なく」
仕方なしにと僕は彼女のスカートへと手を伸ばした。それを見て明里の口角は更に上がる。あぁ、明里が僕のイメージからどんどんかけ離れてしまう。
なるべく明里には触れないよう、僕は消しゴムの側面だけを摘んで持ち上げようと努めた。
まずは親指を手前側にあてがう。そして次は人差し指を反対側へ回し、掴むだけ。
けれど、慎重になりすぎた僕は一瞬誤って指先で明里のスカートを引っ掻いてしまった。
「んっ」
悪戯か、それとも本物かはわからない。けれど、確かに僕の耳には明里の喘ぎ声のようなものが届いたし、顔をしかめる瞬間も目撃した。
これはまずい、とそれからは慌てて消しゴムを回収し、すぐさま謝ろうとした。だが、それより先に明里は先程までの笑みを取り戻し、僕の耳元で小さく呟いた。
「……エッチ。」
それから明里は何事もなかったかのように作業へと移っていった。本当に全部が幻だったかのように。
それでも僕は、明里が見せたあの一瞬を、そしてその後のあの言葉を確かに覚えている。それに、僕の耳は今も蒸発しそうなくらいに熱いままなのだから。