女の世界は怖いって言いますけど、本当にそうなんですね。
私、これまで女子校だったし、さっぱりした女の子が多いところにずっと居たから、あんまり女のドロドロみたいなの体験してこなかったんです。だから、大学に入って本当にびっくりした。
大学の入学式ではたくさんの先輩方に勧誘を受けてとても嬉しかったんですが、中高時代にやっていた新体操を活かして何かやれたら……と思って、チアリーダーのサークルに入ることにしました。
入った当初は、新しい環境での新しい学びや友情に胸を躍らせていました。かわいいユニフォームを着て踊れることも、優しい先輩たちに指導してもらえることも、本当に嬉しかった。
でも……。私はちょっと目立ちすぎてしまったみたいで……。
発端は、野球部の永田先輩から声をかけられたことです。
2、3年の先輩たちから圧倒的人気を誇る永田先輩については、みんなの中である意味不可侵というか、争いになるから積極的にかかわらないようにしようという決まりがあったみたいです。
でもそんなこと私は知らなかったから……。
先輩に話しかけられたら、長いこと皆に見えるところで立ち話したりもしたし、遊びに誘われたら出かけていきました。
でも、その辺からみんなの様子がおかしくなってきて……。たまに私の練習着が汚されていたり、私にだけ練習の連絡が回ってこなくなったりしました。
日程変更を知らされておらず、たった1人で体育館にたたずんだ日のことは忘れられません。
どう考えても私は、何も悪いことはしていないのです。でも、理屈とか正論とかが効く人達ではないとわかっていたので、とにかく永田先輩が出る次の大会までは辛くても頑張ろうと、そう思っていました。
そして、大会当日。遅れた分も頑張って取り戻して、何とか楽屋入りすることが出来ました。
「みんな、もうユニフォーム着といてね!リハ今日ないから、すぐ本番だからね」
「はい!」
3年の先輩方が忙しなく動き回る中、私たち1年はさほどの準備もないので、ゆっくりと支度していました。
しかし……。
「あれっ、ない」
何故か、私のアンスコが見当たらないのです。さっきまで確かにそこにあったのに。
アンスコは、短いスカートで飛んだり跳ねたり足を上げたりして演技するチアにはかかせない、パンティの外側にはく下着です。それをなくして演技することはできません。
「え、ゆいちゃんアンスコ忘れちゃったの?」
隣の女の子がニヤッとして言いました。
「えーーかわいそう!チア狙いのおっさんもいっぱい来るのに」
また別の子が大きな声でそう言って、周りの子もこちらを見遣りました。
でも誰も、予備を貸してくれるとは言い出してくれません。
「あの、誰か予備を貸してくれない?」
勇気を出してそう言いましたが、誰一人名乗りをあげず、私は途方に暮れてしまいました。
今日の下着は白ですし、指定のアンスコは黒です。たった1人白は当然目立ちますし、何よりも私が、自分のパンティを晒して足を上げたりなんてできません。
「先輩、私、今日出られません」
ここまで必死に練習を詰んだ分残念でしたが、私は半泣きで先輩に訴えました。しかし……
「あのさ、アンスコ忘れたのはあんたの責任でしょ?それでフォーメーションが崩れたりするんだから許さないよ」
先輩は聞く耳を持ちませんでした。
このまま演技するなんてそんな……。チアのスカートは非常に短く、パンティを晒すことは必至です。
どうしたらいいのか……。苦しみ悩んでいるうちに、本番の時間になってしまいました。
「ゆいちゃん、これ貸してあげるよ」
「えっ!」
いつもさほど仲良くない女の子が、私の前にきて黒いものを差し出してくれました。
「あっありがとう!」
誰一人味方はいないと思っていたけれど、優しい子もいたんだ!と喜んで、手渡されたそれを開くと、それは……
「黒のパンティの方がまだ目立たないからさ。ヒモは取れやすいからきっちり結んでね」
なんと、彼女が渡してくれたのは、黒の紐パンティでした。唖然として彼女を見ると、なんだか申し訳なさそうにこっちを見て、何も言わず去ってしまいました。
しかし驚きはしましたが、確かに白よりは黒の方がまだ動きやすいかもしれません……。私は急いで着替え、紐をこれでもかとギュウギュウに結びました。
しかし、サテンのツルツルしたヒモは心許なく、なんだか強く結ぶほどに緩んでいくような感覚がします。
(泣くな、私)
こんな屈辱は生まれて初めてです。しかし、大好きな永田先輩も頑張っているのだから、私が泣く訳にはいきません。
「ファイッオーー!!」
円陣を組んだ掛け声が終わり、私たちは持ち場に移動しました。
その移動中も、カメコと呼ばれる人達がこっちにカメラを向けてきました。思わずスカートを抑えましたが、隣の女の子にたしなめられ、仕方なく手を離しました。そう、チアは集団で魅せるものですから、ただ1人でも違う動きはできないのです。
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アップテンポの音楽がかかり、いよいよ私たちので番です。ニコニコと笑いながらまず腕を上げ、ぽんぽんをリズミカルに振っていきます。
カシャカシャっ
下の方からカメラのシャッター音が聞こえます。しかし、私のパンティは黒なので、そんなに目立たないはずです。きっと気づかれないでしょう。
しかし、大きく脚をあげるときはさすがに恥ずかしいです。ここでシャッター音はどんどん激しくなります。
紐パンティはくい込みやすく、秘部の横にグイグイと入り込みます。しかもなんだか薄い生地なので不安ですが、もう仕方ありません。
その後、大技を決めるべく空中に浮く先輩をささえるため、素早く移動します。
しかしその時、
スルッ
と、腰のあたりに違和感がありました。
もしや、紐が……。でも、あんなにギュウギュウに結んだのです、きっと大丈夫。
私は義務を全うすべく、持ち場について大技を完成させました。
「おい、あの子やばいよ」
「生パンだって生パン」
「さっき脚めっちゃ上げてた!これ見ろよ」
何か、男性の大声が聞こえます。まさか、私のことでしょうか。下着を晒して踊っていることが、気づかれてしまったのでしょうか。
サァッと胸の奥に冷たい風か吹くようなここちです。
「えっこれやばくね!?解けてる!」
!!!!!
まさかそんな……!
驚いて身動ぎをすると、恥丘のあたりに、風が触れたような気がしました。私はもう半錯乱状態でした。
身体は硬直しています、これでもし少しでも動いたら、私の誰にも見せたことの無い大事なところが、全部、全部撮られてしまう、見られてしまう。
「ちょっと何してるの!」
先輩の声でハッとしました。みんな、新しいフォーメーションに入るために移動しています。私は置いていかれていました。
しかし、ほんの少しでも動いたらもう……。
私は泣きそうになりながら、片手で紐を何とか結ぼうとしましたが、もうなんともなりません。
しかも最後は……全員でラインダンスをするのです。
(出来るわけない)
私は必死に足を内に向け、また片手で必死に紐を結びなおそうとしながら移動していました。
すると、持ち場に着く前に、不恰好でしたがなんとか紐が止まったのです。こんなにほっとしたことは人生で無いかもしれません。これで、一番大切なところは守られました。
音楽がいよいよ盛り上がり、カメコたちもカメラを準備します。
そして
「はいっ!」
先輩と掛け声で、全員が勢いよく足をあげます。カメラのシャッター音とフラッシュが凄まじく降りかかります。
肩で息をしながらお辞儀をしている最中、また紐が緩んできました。しかし、もう安心です。私が誇らしい顔で、スタンドを去るべく歩き出したその時……
ガッ
「え?」
前の子に強く肩を押され、私は尻もちをつきました。
カシャカシャカシャカシャッ
何が起こったのか分からず、ただぼーっとしている