はじめまして、自己紹介させていただきます。
自分は30代男で名前はコウ。
168センチ53キロの痩せ型、過去に写真から紹介してほしいと言われた事があったので顔はまぁ悪くはないと思います。
てか思いたい・・・。
相手の女の子については仮名ではありますが、後ほど紹介していきます。
長文ではありますが、退屈しのぎの一端となれればこれ幸いです・・・。
それでは、よろしくお願いいたします。
今から8年前のもうすぐ春を迎える頃。
風のように自由になりたい・・・とまあ、中二病ばりの思考の元、俺は大型自動二輪免許を取得してローンで新車のカワサキZX-14seを購入。
要介護よろしくとばかりに平日は出勤前にはにやけ面で愛馬を眺め、休日には早朝からミラーからカウルの隙間に至るまで丹念に磨いたり、近場から隣県まで一人で乗り回したりするのが休日の過ごし方になってました。
あれは納車から二ヶ月ほどたったある晴れた昼下がり・・・その日はツーリングとライディングの練習を兼ねて峠道を走っていた。
その峠道は新しい道路ができてから日曜日でもほとんど車の通行がなかった為、練習にはとても最適だった事もあり、ここ最近のお気に入りのスポットになっていた。
いつものように頂上付近のあぜ道にバイクを停め、人気もなく暑かったこともあり、上着のチャックからズボンのホックとチャックに至る所までも全開にし、涼を感じながらコーヒー飲んでタバコを吹かしながらぼーっと下界の街並みを眺めていた。
緑の木々が立ち並ぶ中、俺の立っている所から下り方向へ少し離れた場所に一ヶ所だけ色彩の合わない物が目につき視点を合わせた所、そこからとんでもないものが視界に飛び込んできた。
もう少し詳細を話すとその峠道はハングライダーと呼ばれる紙飛行機のような形状をした機体に人間が取っ手に掴まり機体に繋がれているベルトを腰に巻き、吊り下がった状態で大空を滑空する。
というスカイスポーツができる山でその空へ飛ぶために何ヶ所かに助走台が設置されてる。
まぁそれだけなら別に何という事はないけど、問題はその助走台の先端付近に女の子が一人佇んでいたという事。
どう見てもフライトを行う格好には見えず、何よりもあの紙飛行機のような機体どころか機材を運ぶ車両の影も形も見当たらない。
「・・・マジかよ?!」
焦った俺はまだ半分ほど残っていたコーヒーの缶を投げ捨てるように放り出し、慌ててその女の子の元へ駆け出していった。
(んとにマジ勘弁してくれよぉ・・・?!目の前で飛び降りでもされた後味わりーぞ!!)
そんなことを呟きながら女の子の近くまで来たが、さてどうしたものか・・・?
いきなり声を掛けるのは危険だと判断した俺は、ふとその助走台が木造であることに気がつき、踏み込んだ際に軋み音を奏でる事にピンと閃き、わざと大袈裟に踏み込んで音を立てながらゆっくり近づいた。
「?!」
その音に気がついた女の子が驚いたようにこちらを振り向いた。
「あ・・・」
(だるまさんがころんだ!)
俺の頭の中でそんなフレーズが流れ、俺は反射的に硬直してしまった。
女の子は俺を警戒して睨むような感じで俺を見ていた。
「あ・・・いや!あ・・・怪しい者じゃないです!!」
俺は両の手のひらを顔と同じくらいの位置に上げ、敵意はないとばかりにはにかんだ笑顔を見せた。
しかし・・・万が一の転倒によるリスクの軽減の為とはいえ、俺のその時の服装は漆黒のダブルレザージャケットにプロテクター入りのレザーパンツに安全靴のようなライディングブーツ。
さらに分かりやすくいえば
「ヒャッハー!!」
とか喚く輩が出演していて、それらがシリーズ化するくらい有名な某洋画の主人公さながらの出で立ちである・・・。
ただでさえこんな寂しい峠道で不意に人に出くわす事で不安が募りそうなものなのに、素性も事情を知らない者がこのような武装したような格好で、しかもヘラヘラした表情で話し掛けられれば警戒されるどころか
「お巡りさんこっちです!」
などといきなり警察に通報されてもおかしくはないだろう・・・。
一方の女の子は、前髪が長めのショートカットで吸い込まれそうな大きな瞳にバランスのとれた鼻筋に少しだけ薄い唇。
中性的なかっこかわいいボーイッシュな感じの可愛い系の女の子。
伸長は150から155センチ・・・くらいだろうか。
体重は不明だが、見た目やせ形、灰色っぽいスキニージーンズにトップが水色のパーカートレーナーに白いスニーカーっていうラフな感じ。
バストについてはマニアではないのでハッキリとはわかりませんがおそらくCくらい・・・かなと・・・。
(女は長髪だろ?!)
なんとも自分勝手な俺のその信念はその女の子を目の当たりにしてあっという間に覆された。
それでも元々可愛い系が好みである俺にとっては文句のつけようがないくらいタイプの女の子であり、その顔を見たときはほとんど一目惚れのような感覚だった。
「えっと、そこからだと何か特別なものでも見えるのかなぁって気になって・・・あ、俺はコウって言います!てかナンパとかそんなんじゃなくて・・・」
人助けの為に説得するつもりがモロタイプの女の子を口説くのに己を必死にアピールしてるが如くの自分に対し、
「・・・あいてる」
女の子は俺に返事をした。
「え?!あい・・・てる?!え・・・?」
パニックった俺には何がなんだかわからない・・・。
「・・・ズボンのチャック開いてる・・・」
「・・・はっ?!しまったぁ?!」
俺は下を向いた時チャックが全開の上、下着である柄パンが”社会の窓からこんにちは”とアピールしていた。
「ち、違うんだ!これ、さっき、暑かったから涼む為に開けただけっ、閉め忘れただけで露出の趣味とかは決してなくて、ちょっ、ゴメンなさい!!」
俺は半身をひるがえして慌ててチャックを上げようとするも、革パンツゆえ固くてなかなか上がらない。
それでもチャックを摘まむ指に持てる全て力と想いを込め、なんとか上げきり、そのまま振り返った時、女の子が俺の近くにいた。
「あ、あのっ・・・」
「・・・今日は止めときます」
(止める?何を?ハングライダーじゃなくて・・・?!それとも下見だったとか?)
口に出す言葉をあれこれ思考していたとき、
「・・・バイク、乗ってるんですか?」
女の子は遠くに停めてあるバイクを眺めながら俺に聞いてきた。
「う、うん。そこに停めてあるのがそう。その為にこの格好してたんだけどね!・・・っていってもまだ乗り始めたばかりでまだ慣れてないんだけど・・・」
「・・・一度、乗ってみたかったな・・・」
答え終わるかどうかの合間に女の子は呟くように言った。
「え・・・?あ・・・うん!ハクを付ける意味も込めて是非!乗ってあげて下さい!!へぇ、意外だなぁ!おねーさんも免許持ってたんですか!!」
妙なテンションで捲し立てるように話していると
「・・・あたし、免許持ってない」
バイクの方角を見ながら女の子は首を横に振った。
「あ・・・そうなんだ。いやなんていうか早とちりでしたねうん!あはは・・・」
はい撃沈・・・。
「・・・嫌じゃなかったら・・・後ろに乗せてほしいな・・・」
女の子は俺の方を振り向いた。
「・・・後ろ?ってそれは二人乗りしてくれって・・・こと?」
「うん・・・さっき友達とケンカ別れしちゃったから・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
(てか俺ヘルメット一個しか持ってねーし免許とって二ヶ月しか経ってないし二ケツは免許取って一年しなきゃダメだって教官がね・・・)
「・・・ダメ?」
「いいえ!全然オッケーです!!」
俺は今できる最高レベルの気取り顔に左手で作ったピースサインを添えて力強く快諾した。
「ありがと・・・」
女の子はちょっとだけ微笑んでんでくれたような気がした。
モロにタイプの女の子のお願い事を断る勇気など俺にはなく、例えそれが原因で警察に捕まって処分を受けようが名誉の負傷と甘んじて受けてやろうじゃないか。
その後、俺は女の子に後ろに乗車する為の簡単なレクチャーをした時に聞いてみた。
「あの、もしよかったら名前を教えてもらっていいかな?おねーさんって呼ぶのもなんかぎこちないし・・・」
「あっ、少女Aってのもなしで!」
「クスッ・・・あたし、綾(あや)って言います」
「綾ちゃんかー。良い名前だね!」
「そうかな・・・?あまり気にしたことないけど・・・」
綾は少しだけ笑ってくれたけど、未だ警戒してるようで返事が素っ気ない気がした。
まあ、当然といば当然かと・・・。
いくら信用してくれなんて言っても相手の事ほとんど知らないんだから・・・。
「じゃあ出発するね!綾ちゃん。ヘルメットキツいかもしれないけど大丈夫?」
「うん、大丈夫」
俺は慎重にバイクを動かし、来た道をゆっくり戻っていった。
途中、俺の背中に綾の胸が当たる事があったが安全の為、ボディープロテクターを着けていたのが仇となる・・・。
つまり綾のバストアタックはプロテクターに全て吸収されてしまい、俺の背中に伝わるのはグッジョブしてくれといわんばかりに押してくるゴツいプロテクター・・・。
(ツイてねぇ・・・)
そうこうしてるうちにあっという間にふもとに降りて、バス停の辺りで背中を軽く3回叩かれた。
この合図はレクチャーしたときに教えておいた事で、停車して欲しいときは背中を3回叩いてと言っておいたのだが教えなきゃ良かったかな・・・とまぁよからぬ事を思いながらもバス停近くにバイクを停めて綾を降ろした。
「あの、あたし今、あまりお金持ってなくて・・・」
綾は財布を取り出そうとしてた。
「いやいやいやいや!お金なんて要らないって!!そんなつもりで乗せたわけじゃないし、むしろ乗ってくれたのが何よりの報酬だから気にしないで!」
俺は両の手のひらを綾に向けながら慌てて断った。
「・・・優しいんですね」
綾は微笑みながら返事をした。
その顔を見たとき思わず口に出てしまった。
「あのっ、綾ちゃん?今度・・・ていうか来週の日曜にバイクでどっか行かない?!見返りとかお礼にとか、そんなんじゃなくて・・・その・・・ダメだったらダメで仕方ないんだけど・・・」
言っちまったよ・・・。
でも言わないで後悔するくらいなら言って断られた方がずっといい。
綾はちょっとビックリした顔をしてうつむいてしまった。
(・・・ダメか・・・)
「・・・いいですよ」
「えっと・・・いいですよって・・・どっちの・・・かな?」
「あ、ごめんなさい!オッケーって意味です」
綾は先程、俺が見せたオーケーのポーズを真似しながら表現してくれた。
違うのは首を少し傾けながらちょっとだけ恥ずかしがりながらはにかんだ笑顔・・・。
綾が見せてくれた笑顔に身体に強烈な寒気を受けた時のような衝撃が駆け巡った。
(俺・・・マジ・・・惚れた・・・)
「そ、それじゃ!どっか行きたいところのリクエストある?!」
綾に気づかれないよう平静を装いながら綾に問いかけた。
「・・・海が見たいな」
綾は少し考えてこう返事をした。
「了解!それじゃあ・・・」
その時、運悪くバスが来てしまった。
なんという不幸か・・・。
その時、綾は両腕でバッテンマークを作って乗る意思は無い旨をバスに伝えた。
バスは軽くクラションを鳴らしてそのまま通過してしまった。
「あ、綾ちゃん?いいの?!」
俺は走り去ってしまったバスを跡目に次のバスの通過時間を調べた。
「だってまだ決まってなかったから・・・」
綾はちょっとだけすねたような感じで応えた。
「そ、そうだね。えっと次のは・・・げっ!1時間30分後じゃん?!」
俺は独り言のようにバス停に向かって話していた。
「しょうがないよ。あたし待ってるから」
綾は諦めたような口調で俺に話し掛けた。
「・・・うーん・・・あっ!そうだ!」
俺はある妙案が浮かんだ。
「なに?」
綾は不思議がってる。
「綾ちゃん!必ず戻ってくるから30分ほどここで待っててくれる?!」
「えっ・・・?」
俺の言葉に綾は目を大きく見開いた。
(か、可愛い・・・)
思わずチューしたくなってしまいそうな衝動を理性と言う名の盾で弾き飛ばし、
「えと、戻ったら話すからここで待ってて!30分!30分で戻るから!!」
俺はグローブをはめ、ヘルメットをかぶりながら綾に伝えた。
「それじゃっ、行ってくるね!」
綾からの返事を聞かずして俺は飛び出していった。
(そうだよ!この手があったよ!無ければ調達すればいいんだ!!)
俺はある場所を目指して高速でバイクを走らせていった。
「こんにちは!!」
10分ほどでその場所に到着したが、まったり走れば20分くらいかかる距離を半分の時間で来てしまった。
「おー!コウ君。いらっしゃい。あれ?バイクに何か問題あった?」
そこは俺がバイクを購入したショップで、店内には所狭しとバイクやパーツが並んでおり、奥のカウンターをはさんでオーナーの橋本さんがにこやかに出迎えてくれた。
実は今朝、バイクのオイル交換と挨拶がてら寄って行ったのたが・・・。
「いえ、全然!バイク自体は絶好調でして・・・あのっ!ジェットヘルメットはありますか?!」
俺は店内を見回しながらジェットヘルメットを探した。
「どしたん?ヘルメット壊しちゃったの?!それにコウ君ってフルフェイス派じゃなかったっけ?」
橋本さんはカウンターから身を乗り出しながら俺に訊ねた。
ジェットヘルメットというのは頭から耳、頬までを守るヘルメットのことで、フルフェイスと違い、顎の部分はつながっていないヘルメットの事。
「いえ!早急な用事でヘルメットが入り用になったんです!!」
俺はヘルメットコーナーにあるいくつかのヘルメットを手に取りながらサイズを調べた。
「これだ!・・・あの、これ下さい!」
俺が選んだ黒いジェットヘルメットは女の子が被るには硬そうなイメージだったが、他の店となるとかなりの距離があり、何より綾を待たせている以上、贅沢は言ってられない。
俺は橋本さんにジェットヘルメットが入った箱を手渡した。
「あのっ、今お金持ってなくて用事が済んだら必ずお支払しますので・・・」
「りょーかいりょーかい。次来てもらった時でいいよ。箱置いてく?」
橋本さんは快諾しながら箱を開けてくれた。
「ありがとうございます!助かります!」
俺は頭を下げながら橋本さんに感謝の意を伝えた。
「はいよぉ。あっ、ちょい待ち!コウ君」
ヘルメットを受け取って駆け出そうとした橋本さんが俺を引き止めた。
「え、なんすか?」
俺は慌てて振り返った。
「慌てちゃダメだよぉ、事故ったり捕まったりしたら待たせてる相手に迷惑かけちゃうからね?ただでさえコウ君のバイクは速いんだから。慌てて急ぐんじゃなくて落ち着いて迅速に!だよぉ」
橋本さんに諭されて俺は気付かされた。
所有バイク、ZX-14SEはノーマルありながら北米産フルパワー仕様であり、死ぬ気でアクセルを全開にすればわずか2秒で時速100km/hはゆうに超え、リミッター(速度抑制装置)が効いても時速300km/hを叩き出すモンスターマシンである。
(参考までに・・・一般乗用車で最高時速180km/h。日本最速のジェットコースターで時速172km/h。世界一最速のジェットコースターでも時速240km/h)
そんなバイクを相手に免許取り立てのコゾーが浮き足だった気持ちで乗っていられるほど甘い乗り物などではない。
「すみませんでした・・・」
俺は橋本さんに再び頭を下げた。
「深呼吸してからね。はい!いってらっしゃい!!」
橋本さんは笑顔で少し低音を利かせた口調で俺を送り出してくれた。
「・・・ふう・・・よし!」
俺はツケで買ったヘルメットをバイク本体のメットホルダーに装着しながら深呼吸を繰り返し、静かにアクセルを開けながら綾の元へと再び駆け出した。
行きの時より約5分ほど遅れて綾がいるバス停に近づいてきた。
「綾ちゃん!」
綾の姿を確認できたときは嬉しかった。
否応なしハンドルを握る手に力が入る。
綾も俺の姿を確認できたらしく、肩くらいの位置で手を振ってくれた。
対して俺は耐久レースにゴールした時のように左腕を大きく振ってそれに応えた。
「待たせちゃってごめんね!綾ちゃん」
「どこに行ってたの?」
綾は俺に訊ねた。
「えっと・・・はい、これ」
俺は綾の質問に答える前にジェットヘルメットを差し出した。
「えっ?!どうしたのこれ?!」
綾は驚いていた。
「ここで待ってるよりはいいと思って用意してきた。送ってくよ」
俺は綾にジェットヘルメットを持たせた。
「でも、悪いよぉ・・・」
綾は少し困った顔をしている。
「悪くないって!俺のせいでバス乗れなかったんだから!送らせてよ!」
「・・・ホントにいいの?」
綾は再び問いかける。
「いーからいーから!綾ちゃんと海に行こうツーリングの話もあるしさ!」
余裕をかましているようにみえるが実は必死だった・・・。
その時は付き合いたいというよりは友達になりたいという願望が強かったと思う。
俺は綾を後ろに乗せて走り、市内にある某有名百貨店内のフードコートに腰を落ち着け、詳しい日程や世間話に華を咲かせた。
その時に綾についてそれなりに得られた情報があった。
綾は地方都市の女◯高に通っていて今年で高◯三年生。
バレー部に所属していたらしいが訳ありで辞めたとの事。
(その時は辞めた理由はわからなかった)
前髪が長めのショートカットにしていたのはその為とは言ってたが、可愛いよと髪型を褒めた時はからかわないでと言いながらも満更ではなさそうな感じだった。
俺については実年齢伝えた所、年齢より若く見えますよなんて言われたが・・・正直不安であった。
高◯生から見ればオッサンと呼ばれても仕方がないであろう年齢だったが、綾はそういうのは気にしないし、それなら俺の事をコウちゃんと呼ぶ事にする、との事。
「そう呼んでもらえるなんて・・・感動したっ!!」
と言ったとある総理大臣のモノマネをわざと裏返った声で披露したところ、綾にとってはツボにはまったようで笑いを取ることができた。
とまぁ、そんな流れでお互いの携帯の番号とメールアドレスを交換することができ、その日は再会の約束をして別れた。
夕方の6時時くらいに再会の約束をして別れ、俺が帰宅したのが帰ってきたのが約一時間後くらい。
部屋で携帯を覗くと綾からメールが来ていた。
『今日はとても楽しかったです(音符絵文字)。ジュースご馳走さまでした。今度の日曜日楽しみにしています。』
綾幾度とメールを見返して今日あった出来事を何度も脳内再生し、にやけ面がなかなか治まらず、とても綾に見せられるような顔ではなかった。
『こちらこそとても貴重な時を過ごすことができました。日曜日は精一杯エスコートさせて頂きますのでよろしくお願いいたします。』
コウ綾に返信メールを送り、寝ようと思っても興奮冷めやらずで、この日はほとんど寝ることが出来なかった・・・。
日曜日・・・約束の時間は10時だったけど、俺は約束の時間より30分くらい前には綾との待ち合わせ場所に到着していた。
元々時間より早目の行動を心がけている性分だが、今回は更に研きがかかったような状態だ。
約束の10分前くらいに綾が来た。
当たり前だけど、想像と現実で見るのとではやはり歴然の差があり、胸の鼓動がだんだん早くなっていく。
これは恋の病というものであり、決して動悸などではない。
そしてこの日にある事件が起きるのですが、後ほどお話しします・・・。
「おはよ。綾ちゃん」
「おはよー!待った?」
綾は薄い水色のTシャツに白いジップパーカーを羽織りやや薄目の青色のジーンズにホワイトとピンクのスニーカー。
ピンクベージュっぽいやや大きめのボディーバックを肩に掛けていた。
俺にとって綾のその笑顔は太陽より眩しく俺はつい目を細めてしまう。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよ!」
俺は綾に悟られないようヘルメットを綾に手渡した。
「コウちゃん。これなに?」
綾は手にしたヘルメットに着いていた黒い物をながめながら問い掛けた。
「ん?ああ、それはインカムっていってバイクの運転中でもお互いに会話するための通信機だよ。走ってると大声でも聞こえなくなるからね」
「へえ・・・」
「それとこれが落下防止の為に使うタンデムベルト。まぁこれで完璧とまではいかないけど、何もないよりはマシかな」
「ふうん。色々あるんだね」
綾は素直に感心していた。
俺はこの日の為に数万円をはたいてインカムとタンデムベルトを購入。
ヘルメットと合わせて大体10人近い諭吉さんが散っていくことになった。
いつも一人で走っている、本来なら全くもって必要のないものではあるが、綾の為ならこの出費が惜しいなどとは全然思わなかった。
「綾ちゃん、聴こえる?」
俺は装着したヘルメットのマイクに息を軽く吹き掛け、同じくジェットヘルメットを被った綾に対し、蚊の鳴く程度の小声で応答のマイクテストを行った。
「わっ?!すごーい!コウちゃんの声がすっごい聞こえるよお!!」
「(ぶふっっ?!)」
この瞬間、俺はフルフェイスごと頭を抱え込んでしまい、悶絶しそうになった。
「コウちゃん?!どうしたの?!」
(・・・ぐっ・・・!?・・・はうぁっ?!)
心配する綾のさらに大きな声が西遊記の悟空の頭を締め付ける緊箍児(きんこじ)のような作用をもたらし、さらに俺を窮地に立たせた。
インカムの説明をしたあの時にもっと詳細に説明をしなかった俺が悪かったのだが、いきなりの大声で応答され、インカムを通してさらに音量が増幅された爆音に近い音声が耳の中に一気になだれ込み、目や鼻から血が吹き出してしまいそうな感覚に襲われた。
「・・・コウちゃん?」
「・・・あ、綾ちゃん・・・?ちょっ、も、申し訳ないんだけど・・・もう少しだけ、声のボリューム下げてもらっていいかな・・・?聞こえすぎて・・・意識が・・・飛びそうに・・・辛い・・・」
俺は中腰の態勢のまま、右手でボリュームを下げるジェスチャーをしながら綾に訴えた。
「え・・・?あっ!ご、ごめんなさいっ!」
俺の小声で直訴した理由を綾はすぐに理解してもらえたようだが、俺の仕草にウケたらしく、照れ笑い気味に上目遣いで唇のすぐ下で手を合わせて少し舌を出しながら小声で謝った。
これが身内相手なら取っ組み合いになってもおかしくはないレベルであるが・・・。
(・・・か、可愛すぎる・・・!・・・辛いけど・・・幸せ・・・!)
俺は綾のその仕草に少しだけだけ興奮してしまい、再び鼻血が出そうな感覚に襲われた。
その後、俺は綾とツーリングを楽しんで途中、水族館に寄って回遊する魚を眺めていた。
「きれい・・・」
綾は回遊する魚の群れを眺めている。
「・・・しかしまぁ、こんだけ種類が違う魚が一緒なのに襲ったりいじめたりしないとかみんな仲が良いのかなぁ」
「・・・うん、そうだね・・・羨ましいな・・・」
綾は少し寂しそうに呟いた。
そして、その事件が起きたきっかけというのが水族館内のフードコートで休憩してる時だった。
俺は飲み物と軽食を買いに行き、綾をテーブルで座席の確保をしてもらいつつ待っててもらっていた。
オーダーをしていた時に背中越しに遠いであろう所から若い女達の大きめな声が耳に入ってきた。
「一人で水族館とかあり得なくね?!」
「ナンパ待ちとか?!ウケるんだけど!」
「ふふっ、そんなこと言っちゃ悪いよぉ!」
などといった誰かを談笑しながら中傷していかのような声だった。
(ちっ・・・綾ちゃんとデートしてんのにウゼー雑音をいれてんじゃねーぞボケが!)
出来上がったホットドッグにケチャップを掛けながら俺は呟いた。
トッピングを終えてトレーを抱え戻って来た時、綾の座っているテーブルの周りに3人の女が綾を囲っていた。
(ん?友達・・・かな・・・?)
いきなり俺が来てしまうと綾に恥ずかしがられそうだったので、少し遠巻きに綾の元へ向かっていったがどうも変な光景だった。
綾の表情が暗い。
友人との会話というより絡まれてそうな雰囲気・・・といった感じだろうか。
俺は素知らぬ感じを装い、綾の元へ向かう。
「お待たせー!」
「!?」
「やばっ」
「行こっ!」
突然の声と共に現れた俺を見て焦ったのか、バツが悪そうな表情を見せて女達はそそくさと逃げるように綾から離れていった。
(・・・俺ってそんなに怪しいですか・・・?)
「っと、なんか邪魔しちゃった・・・かな・・・?」
「えっ?!ううん!だ、大丈夫!!あ、い、いくらだった?!」
俺を見た綾が安堵したような表情をしていたが、財布を取り出そうとした手が震えていた。
「・・・綾ちゃん・・・何があった・・・?もしかして・・・さっきの輩に絡まれてたとか・・・?」
「・・・」
「んの野郎・・・!」
「っ!ダメっ!コウちゃん・・・!!」
相手を呼び止めようと動き出した俺に対し、綾は顔を上げ慌てて俺の手首を両手で掴み、首を横に激しく振っていたがすぐに下を向いてしまい、再び沈黙してしまった。
「・・・綾ちゃん、もしよかったら話してくれないかな?」
綾は俯いたまま、なかなか喋ろうとしなかった。
「・・・もしかしたら俺の事かな?もし綾ちゃんが迷惑だったらこのまま送ってくけど・・・」
「違います!そんな事ないです!!」
綾は声を荒げて否定した。
「・・・」
突然の気迫に押されてしまい、今度は俺が言葉を失ってしまった。
「・・・実は・・・あたし・・・いじめられてるの・・・」
「・・・は?・・・イジメられてる・・・?!」
今時イジメとかまだあんのかよ・・・?
(それじゃ、さっきの雑音は綾ちゃんへの・・・?!)
俺はこの瞬間、目頭が熱くなり沸々と怒りが込み上げてきた。
「・・・ヤンキーグループ?っていうのかな・・・あの子達、あたしと同じ学校の同級生なんだけど、先生がいない部活動中にコートで遊んでいたところをあたしが危ない事もあるからって注意したらケンカになっちゃったことがあって、それから目をつけられて・・・」
「そりゃおかしいでしょ?悪いのあっちじゃない?!」
俺は被害者であるはずの綾につい、詰め寄ってしまった。
「・・・でも、あっちはあたしの嘘の悪い噂とか陰口をみんなに言いふらしたり、あたしの身の回りの物・・・めちゃくちゃにされて捨てられたり・・・それだけじゃなくて・・・」
「じゃなくて・・・?!」
「同じ部員の・・・子たちにも・・・同じような・・・嫌がらせまで・・・してきたから・・・」
綾は途中で嗚咽で声を詰まらせた。
「だから・・・あたし・・・好きな・・・バレー部・・・辞めたの・・・」
「・・・綾ちゃん・・・」
「・・・それで・・・あたしから・・・みんなと・・・間・・・空けて・・・誰にも・・・相談できなくて・・・あの日も・・・友達と・・・じゃなくて・・・最初から・・・一人だったの・・・」
「・・・死んじゃおう・・・って・・・でも・・・怖くて・・・ずっと・・・あの場所にいて・・・」
「・・・でも・・・コウちゃんが・・・見つけて・・・くれて・・・構ってくれて・・・ホントは・・・嬉しくて・・・でも・・・」
「・・・どうして・・・?あの人達が・・・こんな・・・所にまで・・・」
「・・・もう・・・いやぁ・・・!あたし・・・このまま・・・死んじゃいたい・・・」
綾は涙声で独り言のように呟いた。
「・・・」
俺は込み上げる怒りを抑えるように深呼吸をしていた。
「ねぇ・・・コウちゃん・・・」
「なに?!どうした?!」
「もし・・・あたしが一緒に死んでって言ったらどうする・・・?」
「え・・・」
俺は正直どう答えていいのかわからなかった。
「・・・一緒に死んでくれるならあたしの事、コウちゃんの好きにしていいよって言ったら・・・?」
ヤケになった綾の台詞に俺の中で何かが音を立ててキレた・・・。
「・・・わかった・・・それじゃ、好きにさせてもらうとしようか・・・?」
俺は綾の手首を掴んだ。
「コウ・・・ちゃん?!」
「・・・行くよ・・・?綾・・・」
俺は初めて綾を呼び捨てし、不安そうな表情をした綾を黙ったまま、引っ張るように水族館を出て綾をバイクに乗せ走り出した。
「コ・・・コウちゃん・・・?」
「・・・綾・・・俺と一緒に死にたいって・・・そう言ってたね・・・?」
「・・・」
インカムからは綾の返事は聞こえてこない。
「・・・じゃあ・・・綾の望み通りにしてあげるよ!」
俺は数キロ走った先にある高速のインターチェンジへと入った。
「コウちゃん!?どこ行くの?!」
綾の怯えた声がインカムを通して伝わる。
「綾・・・最後だから言うよ・・・。俺ね、綾が笑ってくれたあの時から綾の事が好きになったんだ・・・」
「・・・えっ?!」
「・・・でも・・・もっと違う形で・・・言いたかったなぁ・・・」
俺はそのままETCレーンを通過し、合流地点から続く直線道路でハンドルをゆっくりと握り直し、アクセルを開け、徐々に加速した。
その命令に忠実に従うべく、スピードメーターの針が上がっていく。
「コウちゃん!やめて!恐いよ!!」
綾の大きく、そして怯えた声が聞こえる。
「・・・もうすぐ終わらせてあげるよ・・・綾・・・。もう一人じゃないから・・・俺も一緒に逝くから・・・もう、綾にこれ以上・・・辛い思いはさせないから・・・!」
溢れてくる涙をそのままに、俺はそのままアクセルを開け続けた。
今思えば、その時の俺は綾をいじめた女達への怒りとなげやりな綾の態度に頭に血が上ってた。
今ならやるべきことが違うだろと・・・そんなふざけた自分をボコボコにしてやりたい・・・。
スピードメーターの針は数秒で200の数値を軽く越えていた。
その時には綾の声はほとんど聞こえなくなっていた。
インカムはマイクから風切り音まで拾ってしまうので、速度を出しすぎると聞こえなくなってしまう。
その時、優しく、ゆっくりと背中を三回叩かれた。
「うっ?!」
俺は全身を襲った悪寒と共に反射的にアクセルを戻した。
綾が俺の背中を叩いた・・・という事は、綾はこのスピードの中で俺の体を掴んでいるはずの手を片手とはいえ離してしまっている状態だ。
「綾!手を離すな!掴まれ!綾!!」
俺は小声で叫ぶように綾に呼び掛け、タイヤがフルロックしないよう、ブレーキを掛け続けた・・・。
止まるまでの短いはずだった時間帯がとても長く感じられて・・・そんな中、パーキングエリアの入り口付近で無事にバイクを停車させることができた。
俺は震えていた。
恐かった・・・。
橋本さんが忠告してくれた言葉がとても痛かった・・・。
それよりも・・・
「・・・あ、綾ちゃん・・・大丈・・・」
「見ないで!!」
インカムを通して耳をつんざくような綾の大きな声。
(つっ・・・!!)
「あっ・・・?!・・・お、お願い・・・あたしを・・・見ない・・・で・・・おね・・・がい・・・」
つい、といった感じだが、すぐにむせび泣く震えるような綾の小声が聞こえてくる。
その時、俺の尻部に生暖かい感触とある匂いが鼻をついた。
「・・・?」
バイクの持つ体液とはとてもかけ離れたその匂い・・・俺は跨がったまま自分の股関の辺りに目を当てた時、すぐにそれがなんなのかが理解できた。
それは尿、おしっこだった。
綾は恐怖のあまり失禁してした・・・。
漏れた尿がシートから滴り落ち、アスファルトを濡らし、その一部は高温になったマフラーに付着してはかき消すように瞬時に蒸発していくことを繰り返していた。
・・・お・・・俺・・・綾ちゃんにとんでもない事を・・・しちまった・・・。
それは失禁をさせた事だけでなく、自身の勝手な想いで綾を命の危険に晒してしまった事に俺は綾につられるようにむせび泣いた。
・・・謝っても・・・決して許されないことを・・・俺・・・俺は・・・。
ただ涙が止まらなかった。
俺は綾のプライドという名の服を引き裂き、綾の精神という名の身体を己の私欲で凌辱してしまったのだ・・・。
俺は今すぐにでも死んで綾に詫びて償いたかった。
上辺などではなく本心でそう思った。
「・・・コウちゃん・・・ゴメンね・・・」
互いのすすり泣く声をさえぎるように綾が言葉を発した。
「ふぇ・・・?」
俺はうまく発音ができてないようなややすっとんきょうな声で応えた。
「あたし・・・コウちゃんの大切なバイク・・・汚しちゃった・・・」
「い、いや!!・・・あ・・・謝るの・・・は俺だよ!あんな、ひどい・・・ことしたのに・・・!あーもう・・・!声・・・が出ねぇ!」
俺は嗚咽でうまく声が出せないことに苛立ちを感じる。
「あたし・・・最低な・・・女だよね・・・あんな酷いこと・・・言っちゃって・・・」
「綾ちゃん・・・もう・・・その話は・・・もうやめよう!・・・取りあえず・・・着替えとか・・・なんとか・・・しなくちゃ・・・!」
「・・・う・・・うん・・・」
たどたどしい口調だったが綾は聞き取れたようで、一言ではあったが返答してくれた。
俺は比較的ゆっくりと数キロほど高速道路を走り、インターを降りてすぐに近くにあるホテルへと入っていった。
「え・・・コウちゃん・・・?」
「ご、誤解しないでね!人目につかずに気兼ねなく着替えられる場所はここしか思い付かなかっただけだから!」
俺は必死に弁解をした。
疑われても仕方ないが、とにかく綾を気遣う事に夢中で下心の入り込むような余地は全くなかったのだ。
「う・・・うん、コウちゃん、ゴメンね・・・」
綾は申し訳なさそうな声を出していた。
俺はなるべく綾を見ないよう意識しながら部屋へ向かい、そのまま脱衣所に綾を一人で入室させ、俺は出口から静かにドアを閉じた。
「綾ちゃん。俺、今から外行って替えの服を用意してくるから少しだけ待っててくれる?心配しないで!必ず戻ってくるから!」
俺はドア越しに綾に話しかけた。
「え・・・?う・・・うん。・・・なるべく早く、帰ってきてね・・・」
綾は不安そうな声で応えた。
「それで頼みがあるんだけど・・・俺が玄関のドアを閉める音が聞こえたらすぐに鍵を閉めに来て欲しい。その音を確認したら行くから」
「それから戻った時は・・・ドアを連続で5回ノックをする。間を空けて3回・・・それが合図でいいかな?」
俺は少しでも綾の不安を取り除けるよう、細かく取り決めの説明をした。
「うん・・・ノック5回を・・・間を空けて・・・3回・・・」
その後、俺が玄関のドアを閉めた数秒後に鍵が閉まる音が響いた。
「・・・それじゃ、行ってくる!」
玄関越しに声を掛けた俺は徒歩で洋品店へ向かい、綾と俺が履くズボンとパンツを買った。
さすがにパンティーを買うには抵抗があったので、替わりに俺と同じ男物のボクサーブリーフを買った。
徒歩ではあったが、敷地内に止めたバイクの拭き上げも含めて20分ほどで綾の元へ戻ることができた。
「綾ちゃん。待たせてごめんね!」
合図のノックで鍵を開けてくれた綾が突然、俺の胸に身体を預けた。
「・・・ど、どうかした?!どこか痛い?!」
綾は俺の胸に顔をうずめたまま首を横にふった。
「・・・違うの・・・あたし・・・一人で・・・ずっと・・・怖かった・・・コウちゃん、戻ってきてくれるって・・・言ってくれたのに・・・」
綾の身体は降りしきる雨に怯える仔猫のように震えていた。
「綾ちゃん・・・」
綾はホテルに備えてある白いバスローブに身を包んでいた。
髪は洗ってなかったようだが、それでもすごく爽やかでとても心地のいいシャンプーの香りが俺の鼻腔をくすぐり、ほんの少しだけ覗かせた綾の透き通るような白い胸の谷間に俺は不思議と下卑た下心ではなく愛しさを感じていた。
「・・・綾ちゃん。さっきは本当にゴメンね・・・。俺、これからは・・・」
その時、俺の胃袋が空腹の限界を超え鳴り響いた。
「・・・コウちゃん?」
綾は俺の顔を目を見開いて俺を見ていた。
「い、いや、あのっ、これは生理現象てか・・・あ、あははは・・・」
俺は綾から離れ、左手でお腹を抑え、首を斜めに傾け、右の手のひらを綾に向けながら言い訳をした。
空腹でお腹が鳴っていたのは徒歩で買い物を済ませた時からだった。
あの時のいざこざで水族館で買ったホットドックやジュースは一口も手を付けずじまいの上、動き回っていたのが原因だろうが俺はとにかく焦った。
「コウちゃん、お腹空いたの・・・?」
無邪気な顔で綾は尋ねた。
「ぜ、全然大丈夫っ!大丈夫!うん!」
「・・・あたし、お弁当持ってきたんだけど・・・食べる・・・?」
「・・・え?お弁当・・・!?」
ビックリして俺は聞き返した。
「うん。こういうの初めてだから持ってきた方がいいかなって・・・」
綾は照れたような顔で答えた。
「食べていいの!?」
「うん。あたし、コウちゃんの分も作ってきたから・・・けど、あまり美味しくないかも・・・」
ものすごく嬉しかった。
俺は応接間にあるテーブルの上に綾から受け取ったお弁当箱を置き、胸を踊らせながら綾の作ってくれたお弁当を蓋を開けた。
卵焼きとウインナー、ミートボールに鶏の唐揚げ。
失礼ながら定番のお弁当だったけど俺にとってはとても素晴らしい絵画を眺めているような・・・そしてどっちか選べと言われたら例え数万のフルコースを出されても迷いなく綾の弁当を選ぶだろう。
「・・・無理しなくていいよ?」
綾は遠慮がちに言ってきたが俺にとって綾が作ってくれたお弁当は本当に美味しかった。
それは過酷な減量に耐え、試合を終えたボクサーが最初に口にした食事のような・・・。
そして特に唐揚げは大好物だったので、その旨をつい綾に口走ってしまった。
「唐揚げはお母さんから教えてもらったんだ。コウちゃん、唐揚げが好きなんだ?」
綾の口調はとても嬉しそうだった。
「うん、前に一ヶ月くらいお昼に唐揚げ弁当ばかり食べた事があったけど全然飽きないくらい」
「えー!?うそぉ?」
「いや、冗談抜きでマジ!」
「身体に悪いよそれ?!」
「うーん、俺、好きなものならずっと食べても飽きないっていうかまぁ、悪く言えば他のもの探すの面倒だからつい同じもの選んじゃうんだよね」
俺は好きなものは最後に食べる主義なので残った唐揚げを口に入れながら答えた。
「あたしのも食べる?」
綾はお弁当箱を向けた。
「でも綾ちゃんのがなくなっちゃうよ?」
「あたしは大丈夫。結構食べたし、それに今何もしてないから太っちゃう!」
「そうかなぁ、そんな事しなくても十分細いじゃない」
「えー!これでも気になる所あるんだよぉ?!」
「ほぉ?では、エッチ目線、もとい、紳士目線で判定してあげるからちょっと脱いでみようか?」
「あはは!てかぜっったいヤダ!コウちゃんのエッチ!」
ウケ笑いしながら綾は胸元を隠した。
「これは大変失礼を致しました。愚者の戯れ言と、どうかお許しくださいませ。綾様」
「うん!では許す!」
そんな面白おかしいやり取りをした後に俺と綾は着替えを済ませ、ホテルを後にしてそのまま綾を送っていった。
待ち合わせた場所に着いたとき俺はある不安に駆られていた。
いや、送っていく途中から・・・といった方が正しいかな。
綾との甘く楽しい時間はこれで終わるかもしれない・・・という不安が・・・。
「今日は色々あったけど・・・楽しかった」
バイクを降りた綾が俺にヘルメットを渡しながらにこやかな顔で今日の感想を述べた。
「いや、そんな・・・俺、あんなことしちゃって綾ちゃんにすごく申し訳ないっていうか・・・本当にゴメンね・・・」
対する俺は落ち込んだ顔で答えた。
(また逢いたい・・・)
そんな想いが頭の中を駆け巡ったけどなかなか口に出せなかった。
「・・・コウちゃん・・・」
「ん?!なに?」
「・・・コウちゃんはあたしのこと、好きだって言ってくれたけど・・・今でも好き・・・?」
「あ・・・も、もちろん!あの時はつい言っちゃった感じだったけど勢いとかじゃなくて本心だから!」
俺はヘルメットを外しながらしどろもどろに応えた。
「・・・コウちゃん・・・。あたしのこと、守ってくれる?」
綾は真剣な顔で問いかけた。
「・・・うん・・・俺は綾ちゃんを守るよ。全てをかけて守ってあげる!」
俺も真剣な顔で綾の問いかけに全力で応えた。
「・・・コウちゃん・・・」
綾は俺の名前を呟き、そのまま俺の唇に自分の唇を軽く合わせてきた。
その際、お互いの鼻が当たって上手くいかなかったが、確かに俺の唇には綾の唇の感触があった。
「あ、綾ちゃん・・・?!」
「・・・ありがとう。あたし、絶対に負けないから・・・!」
綾は目を潤ませて決心していた。
「・・・あたし、コウちゃんに・・・また逢いたいな・・・」
綾は伏し目がちに言った。
「お、俺も綾ちゃんにまた逢いたい!今度はちゃんと安全運転するから!」
「・・・ありがと。それじゃまた連絡するね」
「俺も連絡するから・・・!」
「うん・・・それじゃ、またね」
そう言って綾は振り返って歩いていった。
綾を守る!
俺は拳を握り締め、綾と同じようにある決心をした・・・。
次の日、俺は仮病を使って有休を取り、ある場所へ来ていた。
午後3時を過ぎたくらいに、その場所からまばらに制服に身を包んだ女の子達が出てきた。
そう、ある場所というのは綾の通っている学校・・・。
俺は正門と道路を挟んだ反対側の路肩に停めた状態のバイクに寄りかかってじっとしていた。
通りがかりにの女子◯生達はチラチラと俺を見てきた。
いつもなら得意気になってそうだが今はそれどころではない。
俺は携帯を取り出し、ディスプレイの番号を確認して電話をかけた。
「・・・もしもし?」
「綾ちゃん?学校終わった?」
「コウちゃん?!あ、うん。今終わったとこだけど・・・」
「俺ね。今、綾ちゃんの学校の正門のところにいるんだ。すぐに来て欲しい・・・」
「えっ!?学校の正門?!どうし・・・」
(・・・あれは?!)
俺は電子音と共に俺は綾の問いかけを途中に通話を終了した。
俺の視界に昨日、綾を罵倒したあの三人組の女達の姿が映っていた。
(間違いねぇ!俺ぁ、忘れちゃいねーぞ・・・?)
あの時の怒りが再燃してきたが、俺はぐっとこらえて怒りを矛に納めた。
3人組の女達は俺を覚えていなかったようで、チラ見した程度でそのまま去ろうとしていた。
「・・・ねぇ、そこの三人組のおねえちゃん達ぃ!」
俺は大きな声で呼び止めた。
3人組の女達はもちろんその場にいた全員が俺に注目した。
「そこの学校のバック抱えてる2人と・・・それと黒のリュックと背負った、そう!3人組のおねえちゃん達だ!」
「俺のこと、覚えてるかい?!昨日の水族館の件も含めて話しておきたいことがあるからそこで待っててよ」
指名された女達は俺を思い出したようで青く顔色を変え、互いに顔をあわせていた。
「ちっと告白しときたいだけだから聞いてくれるだけでいい!すぐ終わる!」
女達は身構え、俺への警戒心を露わに出してきた。
呼び止めたのは3人組の女達だけだったのだが、なぜかその場に居合わせた女子◯生達は誰一人動こうとはしなかった。
恐らくこれから起きるイベントに興味が沸いたのだろう。
そこには奇妙な空間が出来上がり、俺は再びバイクに寄りかかり沈黙のまま、3人が逃げ出す事のないよう目を光らせつつ綾を待っていた。
ほどなくして俺は正門の方角からこちらへ一人走ってくる女の子に気がついた。
綾だ。
「おーい、綾!ここだよ!!」
俺は綾に頭上で手を振って綾を呼び寄せ、女達は駆けつける綾と俺を交互に見るような素振りを見せた。
「コウちゃん!?え!?なんで!?どうしたの!?」
息を切らしながら綾は俺に質問をぶつけてきたが、俺は何も言わずに右手で綾を抱き寄せた。
「コ、コウちゃん?!」
「綾ちゃん・・・このまま、少しだけ我慢して・・・」
俺は綾に囁くように伝え、女達へ再び話しかけた。
「待たせたね!おねえちゃん達!・・・俺はこの綾に心底惚れてるコウっいう者だ!俺にとって綾はかけがえのない大事な女だ!ガチで命かけてでも守りぬく覚悟でさぁ!」
その時、周りから冷やかしに近い歓声が沸き上がった。
俺はその歓声が静まる時まで沈黙を保った。
「声援、ありがとう!もうすぐ終わるから、あと少しだけ!みんなにも証人として聞いておいて欲しい!」
(今思えば警察を呼ばれても仕方ないかと・・・スゲー事したなと自分でも驚いている・・・)
「今後!綾にまた何かしでかすような事があれば俺は綾を守るために手段は選ばねーぞ?」
女達はただ黙って聞いているしかなかったようだ。
「もちろん!綾に何事もなければ俺からおねえちゃん達に会うことも・・・待ち伏せするといった行為は一切しない!」
「話はそれだけだ!それじゃ!おねえちゃん達!ごきげんよう!!」
「それと・・・俺のワガママに付き合ってくれた皆さん!ご静聴くださいまして・・・ありがとうこざいました!」
舞台俳優ばりの声で俺はおねえちゃん達と女子◯生の方々に自分の意思を感謝の意を伝えた後、歓声と拍手の中、俺は綾を見つめた。
「綾ちゃん、とりあえずだけど・・・これで・・・いいかな・・・?」
綾はその瞳に涙を浮かべながら静かに頷いた。
「・・・行こう・・・綾ちゃん。送ってくよ」
俺は綾を後ろに乗せ、周囲の視線と歓声を浴びながらその場を後にした。
「・・・綾ちゃん・・・その・・・勝手なことしてゴメンね・・・」
「・・・うん・・・」
綾からの返事はとてもか細かった。
その時、俺は激しく後悔してした。
(お前さぁ、その後先考えない性格はどうにかならないのかな?!)
呆れ果てた顔をしたもう一人の俺が頭を描きながら今の俺を責めている感じがした。
これで綾にフラれても自業自得というもの。
相手を泣かせたり傷つけるしかできないならお前に恋愛をする資格などないと。
俺は綾への想いを届け続ける事をほぼ諦めてかけていた・・・。
「・・・コウちゃん、その信号を右に曲がって・・・」
自問自答をしている最中(さなか)、綾が俺に指示を出した。
「えっ?!あっ、うん!ここね!」
俺はややもたつきながら右折した。
「・・・そこから2つ目の信号を・・・」
綾は数回ほど俺に道順の指定をした。
俺自身、この辺りの土地勘と言えば大通りを通過する事がほとんどなので裏道については曖昧な箇所があったこともあり、俺は特に気にせずに綾の指示に従った。
車の通行がほとんどない寂しい通りを走行中、俺は綾から背中を3回、軽く叩かれた。
「どうかした?綾ちゃん?」
バイクを路肩に停車し、俺は綾に問い掛けた。
「・・・」
綾は無言で俺のお腹の辺りを手のひらで2回軽く叩いた。
「ん?」
俺は自分の腹部を見た時、綾は左手で右の方向を小さく指差していた。
俺は立ちゴケ防止に備えてサイドスタンドを掛け、ハンドルから両手を離しながら上体を起こし、やや見上げるような仕草で綾の指を指した方角に視界を移した。
「・・・え・・・?綾・・・ちゃん・・・?」
「・・・学校の部活動で校外ジョギングしてた時に見かけてすごい綺麗だなぁって・・・」
視界の先には4階か5階ほどのやや白っぽいレンガ調の壁で覆われた綺麗な建物があり、入り口のすぐ隣にある噴水の中央には水に浸っている石碑があり、その中心部にはその建物の名称が刻まれていた。
「えっと・・・これって・・・なんて言うか俗に言うラブホテ・・・」
言葉途中に綾は俺の腰を回した腕をややきつく締め付け、俺の背中にヘルメットを押し付けた。
・・・それ以上、女の口から言わせないで・・・と言いたそうに・・・。
「・・・」
俺はあえて沈黙を保ったままサイドスタンドを上げ、ホテルの敷地内へと入っていった。
ホテルの一室へと入り、俺の後ろに付いていた綾は部屋の中心部である応接間で小さな声で俺を呼びかける。
「・・・コウちゃん・・・」
「・・・ん?」
「・・・コウちゃんってホントお人好し・・・なんだね!」
「・・・」
「あたしなんかの為に・・・こんなにムキになっちゃってさぁ・・・そこまでして・・・あたしとしたいなら・・・今すぐここでしたらいいじゃない!!」
「お、俺はそんなつもりじゃ・・・!!」
俺は突然の綾の言葉にただ焦るしかなかった。
「・・・あたし、コウちゃんの事なんか・・・!ちょっとイジワルで少しだけエッチで凄く・・・強引で怖い人で・・・嫌い・・・・・・大っ嫌い・・・!!」
「あ・・・」
綾はややヒステリックな口調で俺を否定する台詞を浴びせた。
俺はただ茫然自失となり、頭が真っ白になった。
淡い期待は儚く消えた。
それは同時に心が折れた瞬間でもあった。
止めどなく押し寄せる喪失感の中、俺は空を見上げるように顔を上げ、涙を見せないよう綾に背を向け、そして涙が出ないよう、目を閉じながら綾に告げた。
「・・・そうだよね・・・あんなことされてさ・・・すっげー迷惑だったよね・・・」
「・・・でも、心配しないで・・・俺、フラれたからってヤケになって綾ちゃんを今ここで・・・ううん、この先、綾ちゃんを傷つけたり悲しませたり・・・付きまとうような事は絶対にしないから・・・」
「・・・こんな俺でも、少しは綾ちゃんの役に立てたかな・・・?」
「・・・最後に・・・短い間だったけど・・・俺にとって綾ちゃんと出逢えた事は本当に楽し・・・」
「・・・でもっ!!」
綾は大声で俺の言葉途中で割り込んできた。
「・・・でも・・・こんなあたしなんかに凄く・・・優しくしてくれて・・・いっぱい・・・笑顔を見せてくれて・・・一緒に・・・泣いてくれて・・・あたしのご飯を・・・美味しいって・・・言ってくれて・・・一生懸命・・・あたしを守ってくれて・・・」
俺は振り返って綾を見た。
とても強い目力でありながらも、その目元からは頬にかけて一筋の涙が流れていた。
「・・・あたし・・・やっぱりコウちゃんの事・・・嫌いになんてなれないよぉ!」
「あたしは・・・コウちゃんの事が好き・・・。好きなの・・・!もう、わけわからないくらい大好きなの・・・!!」
「でも・・・いっぱい迷惑かけて・・・すごく困らせて・・・あんな酷い事を言ったあたしなんかの為に身体まで張ってくれたコウちゃんに・・・あたしみたいな女が釣り合うわけが・・・んっ?!」
俺は右手の人差し指と親指で綾の顎を上げ、自身の唇で綾の唇をふさぎ、綾の台詞を強引に奪った。
数秒後に俺は綾の唇から自身の唇を離し、驚いた表情を見せる綾に告げる。
「・・・綾・・・俺は今から綾を抱く・・・!投げやりな綾へのお仕置きだ・・・」
俺は綾を抱きしめ、頭をそっと撫でながら耳元で囁いた。
「・・・綾を辱(はずか)しめて・・・それをネタに呼び出して・・・傍に置いて・・・もう二度と自分を追い詰めるような事をさせないくらい・・・脅してやる・・・!!」
「・・・だから俺は今のキスも含めて・・・絶対に謝らない・・・たとえ泣いて嫌がっても・・・絶対に・・・やめないから・・・!」
「・・・無理矢理襲ったりする人が・・・そんな優しくしたり・・・言ったりなんかしないよぉ・・・!」
綾は俺から離れ、じっと俺の顔を見つめる。
「・・・無理矢理抱く気なんてないくせに・・・!コウちゃんの嘘つき・・・!」
綾は怒ったような瞳で俺の目を見つめながら話した。
「う・・・いや・・・その・・・」
綾に見透かされてしまった俺は言葉を詰まらせてしまった。
「・・・あたし・・・これでコウちゃんに襲われて・・・ここでいっぱい酷いことされても・・・仕方がないって・・・思ってた・・・」
「・・・でもコウちゃんは絶対にそんな事しない人だから・・・だからわざと嫌われることして・・・嫌われても・・・コウちゃんに愛情がなくても・・・こんなあたしでも・・・抱いてくれるなら・・・それでもいいって・・・思ってた」
「それなのに・・・こんなあたしの為に・・・ズルいよぉ・・・コウちゃん・・・」
「ご、ごめん・・・」
綾は右手人差し指で俺の唇を塞いだ。
「・・・謝らないって・・・!言ってたでしょ?!」
「・・・う、うん・・・」
「・・・それじゃ、お仕置きね・・・!責任を取ってあたしを・・・コウちゃんの・・・ちゃんとした彼女にすること!」
「え・・・?!それって・・・」
「そっ、それからっ・・・!」
綾はその時、顔を俯かせながら途切れ途切れ告白をする。
「・・・もし、コウちゃんが・・・嫌じゃなかったら・・・あ、あたしの・・・はじめてを・・・もらって・・・ほしいの・・・」
その瞬間、俺は綾をきつく抱き締め、再び自分の唇で綾の唇を合わせた。
先程の優しい接吻などではなくむさぼるように綾の唇を求めた。
綾もまた同じように俺の首に腕を回し俺の唇を求めた。
その欲求は互いの舌を絡ませるまで昇華していき、唾液を互いの口の中へ送り込む。
俺はいとおしく綾の唾液を喉の奥へと送り込んだ。
「待って・・・コウちゃん・・・」
綾は俺の胸を優しく押した。
「綾・・・?」
「・・・お風呂に入りたい・・・コウちゃんの為に、この身体を・・・綺麗にしたいの・・・お願い・・・」
綾は潤んだ瞳で哀願するように俺に伝えた。
「うん・・・ここで待ってるよ・・・」
「ううん、来て・・・」
綾は俺の手を引いてバスルーム前へ向かった。
「ここでちょっと待ってて・・・」
綾はバスルーム内に一人入っていった。
「・・・入ってきて・・・」
数分後に綾が俺を呼んだ。
俺は脱衣場に足を踏み入れた時、綾はお風呂場へ続くドアから顔だけを出していた。
「もう少しだけ、そこで待ってて・・・」
恥じらいながら綾は言った。
「うん・・・ゆっくりでいいよ・・・」
俺は綾を気遣いの言葉を掛けた。
「・・・ありがと・・・」
綾は照れ笑いをしてお風呂場へ入っていき、間もなくシャワーの噴射音が木霊(こだま)した。
俺はふと、側にある脱衣篭に目を当てた。
脱衣篭には綺麗に畳まれた綾の学校の制服、その隣には綾の着けていた淡いブルーの横縞ストライプ柄のブラジャーとパンティー。
当然といえば当然だが綾は今、一糸まとわぬ姿でお風呂場にいるのだ。
この時、俺の陰茎はすでに怒張していた。
正直なところ、こんなものを綾の前に出すのはためらいがあったが、その反面、綾がこれを見たとき、どんな反応をするのだろうか・・・?
露出狂ってこんな気持ちなのか・・・?!
まぁ、もっとも赤の他人相手にそんなことは絶対にやりたくないが・・・そんな道徳観と背徳感が俺の中で葛藤を繰り広げていた。
「コウちゃん・・・入ってきて・・・」
「うん、今、行く・・・」
俺は綾からの呼び掛けに優しい口調で応え、緊張感という強制ギプスに絡まれながら着衣を脱いだ。
パンツを脱いだ時、(ふぃー、やっと解放されたぜ)といわんばかりに陰茎が勢いよく飛び出した。
俺の身体の一部でありながらもはや意志の疎通など完全にシカトし、まるで別の生き物と化したそれは今か今かと獲物を求めるかのようにひくつかせていた。
情けなく、かつお見苦しい限りの話だが、俺の脱いだパンツはこいつのヨダレのようなカウパー(我慢汁)でベタついていた。
俺は備え付けのティッシュでパンツを拭き取り、もう一つあった脱衣籠に着ていた服と共に置き、相変わらずいきり立っている陰茎を手で隠すようにしてお風呂場へと入っていった。
綾は俺に気を遣ってくれたのか、自身の恥じらいによるものかはわからなかったけど、俺に背を向けて湯船に浸かっていた。
湯けむりから見えた綾の白いうなじに桃源郷に迷い混んだかのような錯覚に見舞われた。
「お、俺も身体洗うね!」
俺もまた綾に背を向け、ジャグジーのレバーを下げ、タオルに液体状のボディーソープを掛け、丹念に身体を洗う。
その後、シャンプーをしていた時、綾の手が俺の背中に触れた。
「わっ?!ど、どうしたの?!」
ビックリした俺は洗髪している手を離し、綾に気づかれないようさりげなく陰茎を隠し、首を回して振り向いたがシャンプーの泡が目の周辺にまで付着してしまっているので目が開けられない。
「コウちゃんの背中・・・とてもあったかい・・・」
綾は俺の背中に頬を付けながら話した。
俺は綾を心配する傍ら、迫り来る快楽には抗えず、欲望を精液に変換させ、綾の小さな口に注ぎ続けた。
そして俺の陰茎から吐き出されていた精液はその勢いを衰えさせていき、やがて小さなひくつきと共に終焉を迎えた。
「・・・ぷ・・・ふ・・・ん・・・」
綾は頬を膨らましたような状態でゆっくりと俺の陰茎から自身の唇を閉じるような要領で離していった。
「・・・んっ・・・ん・・・」
綾の喉を鳴らす小さな音が聞こえた。
「・・・はっ!はっ!はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
綾は唇に指をあてながら早い呼吸を繰り返していたが、やがてゆっくりとした呼吸へと変わる。
「・・・ん・・・すごく・・・いっぱい、出るんだね・・・」
綾は口から漏れた精液を自分の指先で拭い、それを唇から口内へと運び入れた。
「・・・コウちゃんがあたしの為に出してくれたものだから・・・」
綾は無垢な笑顔で残った精液を改めて飲み干した。
俺は沈黙で振り返り、風呂場のドア、脱衣所のドアを開け放った後、綾を抱き抱えた。
「コウちゃん?!」
「綾・・・。次は俺が綾を気持ち良くさせてあげる・・・」
俺は綾を抱き抱えたまま寝室のベッドまでの数メートルの距離を歩き、綾をベッドの上へ優しく下ろした。
「・・・あたし、重くなかった?」
綾は両手を股の間に挟み、乙女座りの体勢でちょっとだけ困ったような表情で聞いた。
「ううん、全然・・・」
俺は綾の両の二の腕に手を添えるように掴み、自身の唇を綾の唇に合わせた。
「・・・ん・・・」
すぐに互いの舌を絡め合い、それは数十秒続いた。
「・・・はぁ・・・コウちゃんはあたしと違ってキスもすごく、上手なんだね・・・」
「・・・そんなことないよ。ただ・・・綾の為に一生懸命なだけだよ・・・」
俺はゆっくりと綾を仰向けに寝かし、左の乳房にある小さい桃色の乳首を、そしてそれを囲う乳輪を全てを覆いかぶせるように口に含み、尖った乳首を舌の先でもてあそぶように転がし、右手で残りの乳房を下から撫で上げるように愛撫した。
「・・・あ・・・んっ・・・くぅ・・・んっ・・・」
綾は目を細めて静かに吐息を漏らす。
そして俺は膝下に移動し、綾の両膝の内側に手を掛け、押し上げるように開脚させた。
「きゃっ!・・・やっ、コウちゃん?!」
俺は目と鼻の先ほどの距離で綾の女陰を見つめた。
それはビラとも呼ばれる小陰唇はほととんど見られず、大陰唇はしっかりと閉ざされた蛤(ハマグリ)のような形をしていた。
そしてそのスジからはキラキラとした綾の愛液が滴っていた。
「やぁ・・・恥ずかしいよぉ・・・」
綾は両手で女陰を隠してしまったが、俺はその手をどかす代わりに綾に顔のすぐ目の前へと自分の顔を近づけ、話し掛ける。
「綾・・・俺ね、これから綾にすごくいやらしい事をしちゃうんだけど・・・」
「・・・綾は俺に任せて欲しい・・・綾は自分の感じるままに・・・思うままに乱れて欲しい・・・」
「それから・・・俺にしてもらいたい事も遠慮なく言って欲しい・・・俺も大好きな綾にいっぱい気持ち良くなってもらいたいから・・・」
「・・・うん」
綾はゆっくりと撫でるように女陰を隠す手を退いた。
俺は改めて綾の女陰へと向き直り、ワレメにキスをし、舌を這わせた。
「やっ!?・・・コウちゃん・・・?!そこ、きたな・・・やっ、あっ!あん・・・あぁ・・・」
それ以上の言葉を遮るよう、俺は人差し指と親指で大陰唇のワレメを左右に拡げ、愛液によって艶がでた小陰唇を舌を使って上下左右に舐め回した。
「あっ?!んああん!あん、あっあっ、んっ、んん!あっ」
「あっ、あんっ!コウ・・・ちゃん・・・すご・・・あっ!・・・上手・・・すぎ・・・るぅ!・・・エッチな・・・声が・・・ああん!・・・でちゃ・・・う・・・あ・・・あん・・・」
そのまま舌を這わせ、大きく広げた小陰唇から続く膣穴に舌を押し入れる。
そこから溢れ出る俺にとって甘美な汁を・・・愛液を飲み干しながら時に激しく・・・時にゆっくりといやらしい音を立てながら吸い込みながら綾の膣穴の中で舌で弧を描くように大きく舐め回した。
「あ、あっ!・・・ああん!・・・そ、それ・・・もっと・・・気持ち・・・あん・・・いいよぉ・・・んっ・・・コウちゃん・・・も・・・もっと・・・舐・・・めて・・・くだ・・・さい・・・いっぱい・・・して・・・あたしの・・・エッチな・・・ところ・・・コウちゃん・・・舌で・・・ペロペロ・・・してぇ・・・!あ、ああん!」
綾のおねだりに俺は忠実に従い、綾の女陰を舐め続けた。
そして本丸である陰核・・・クリトリスに舌を絡ませる。
「ふぁっ?!・・・な、何っ!・・・やっ、きゃん!ああん・・・!!」
綾は身体をびくつかせ両手を俺の頭に添えた。
「ちょっ・・・ま、待っ・・・それ、あっ、あんっ!ああ・・・!!」
「やっ!お、オシッコ・・・ああん!で、でちゃうぅ!きゃっ、ふにゃあああ!!」
俺は陰核を吸い込みながら左手で大陰唇を広げ、右手の人差し指と中指で小陰唇を小刻みに動かした。
「やっ、やっ、やっ、だめっ!だめっ!待って!コウちゃん!・・・でちゃ・・・うう!ふぁ・・・んん!・・・きゃん!・・・やっ・・・やああぁ!!」
綾は潮を吹いた。
俺は大きく開いた口で愛液を受け止めた。
吹き出た愛液をそのまま喉を通過させた。
それはほとんど無味だった。
感度が高まると何とかいう物質が酸味を抑える、なんて記事を読んだことがあったが、それの事かな・・・?
俺はふと思った。
思っていたより量は少なく、ちょっとだけ残念な気持ちがあったが初めてだとこんな感じなのだろうか?
俺は口内に残る綾の愛液の余韻を味わっていた。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
綾は震えるように小刻みに身体を動かし、焦点が合わず虚ろなその瞳からは涙が出ていた。
ため息とも言える吐息を漏らしながら、綾は泣き疲れて眠る子供のように静かに瞼(まぶた)を閉じた。
「・・・ゆっくり休んで・・・。綾・・・」
聞こえる事はないであろう言葉と共に俺は綾の頬に軽く唇を当て、火照ったその頬に右手を添え、親指で優しく撫でながら静かにその寝顔を飽くことなく見守った。
20分ほど経過した頃、綾はゆっくり瞳を開き、じっと俺の顔を見つめていた。
「・・・ん・・・コウちゃん・・・あ・・・あたし・・・?」
この時、ホテルにチェックインしたのが3時50分頃。
フリータイムでの入室だったので時間にはまだ余裕はあった。
「起きた?はい、これ」
俺は冷蔵庫に備えてあったペットボトルのスポーツドリンクの蓋を開け、綾に手渡した。
「あ・・・ありがと・・・」
綾はゆっくりと一口、二口と口に含みながら飲み、静かな吐息を吐き、俺に尋ねた。
「あたし・・・寝ちゃってたの・・・?」
「・・・まぁ、寝ちゃってたっていうよりイッた事でほとんど失神しちゃった感じ・・・っていうのかな?」
「・・・あたしね・・・コウちゃんにしてもらって、もの凄く気持ち良くなって・・・頭が真っ白になっちゃってから何も覚えてなくて・・・」
「あ・・・」
「ん?どうかした?」
綾は思い出したように俺に尋ねた。
「・・・ねえ・・・コウちゃん・・・」
「・・・何?」
「・・・あたしは・・・コウちゃんに・・・最後まで・・・してあげられたの・・・?」
「・・・ううん、そのあとすぐに休ませてあげたから、最後まではしてないよ・・・」
「・・・そうなんだ・・・ごめんね・・・」
綾は最後までしてあげられなかった事に対し、少しだけ涙を浮かべて申し訳なさそうに謝った。
「・・・気にしないで。俺も綾にしてもらって凄く気持ちよかったんだよ・・・」
「それに・・・綾の大切な初めては・・・とりあえず今日の所は綾の門限もあるし、何よりも初めての経験で身体がびっくりしちゃっただろうから改めて・・・それで、その瞬間(とき)はお互いしっかり意識した状態で・・・ねっ?」
俺は微笑みながら綾に伝えた。
「うー・・・」
綾は俺を抱き締めた。
「・・・コウちゃんはどこまで優しいんだよぉ。どれだけあたしにコウちゃんの事を夢中にさせる気なのよぉ!?」
泣き笑いで綾は言った。
「・・・そうだなぁ・・・例えば、バファ○ンみたいに半分は優しさで出来てる・・・とか・・・?」
「残りは、それがなくちゃいられなくなるくらい依存症になっちゃいそうな強い成分でできてる、みたいな・・・?!・・・なぁんてね・・・」
そして俺は綾の頭に頬を充てながら告白した。
「・・・でもねぇ、綾。こう見えても俺だってそんな甘え上手な綾にもくびったけなんだよ・・・?」
「・・・もう・・・!・・・コウちゃんのイジワル!・・・でも、好き!・・・大好き!!」
俺はうつむいて、恥じらいつつ話し掛けた。
「・・・俺さぁ、やってみたかったプレーがあるんだよね・・・?一人相手だとその相手にはキツいし、綾には刺激が強すぎるから、絶対にできないんだけど・・・」
「全然オッケー!あたしらもそういうの嫌いじゃないからさぁ!」
「ホテルとか行っちゃう?!」
「・・・その必要はないよ・・・ここでもできるから・・・」
「えー?もしかして露出プレーとか!?」
「コウさんノリノリじゃん!」
俺はそこで顔をあげ、照れ笑いを見せた。
「・・・俺ね、実は放置プレイと羞恥プレイていうのが好みでさ・・・どうもSっ気があるみたいなんだよね・・・」
「じゃあリクエストしてみてよ?」
「・・・まず、おねぇちゃん達は悪ノリして居残りされたまんま女子◯生の役で・・・」
「俺が先生役で携帯で呼び出される形で出掛けちゃうんだけど・・・」
「その呼び出した相手ってのがとても好きな娘だったもんだから、残してる事をつい忘れちゃってそのまま放置しちゃうってシチュエーションなんだ・・・どう?」
「・・・はぁ!?」
「てかワケわからないんだけど!?」
意味を理解した女達二人は俺に詰め寄ってきたがそれを俺は逆手に取り、告げた。
「ワケわからなかったかな?上手く説明できなかったみたいだね。それじゃ、お互いノリノリってことで実践してしみようか?」
バイクに股がろうとしたふりをしながら、俺はふと思い出すような素振りを見せながら話をした。
「あっ、そうそう。この件で綾に仕返ししてやろうとか思い付いても実行するのはやめた方がいいよ?」
「てか何がしたいんですか?!」
訝しげに問い掛けるギャル系を半ば無視するように、俺はバイクに取り付けてある数ヶ所のレンズを指差しながら説明した。
「これね、ドライブレコーダーって言ってリアルタイムで道路交通とか風景の変化といった状況を録画し続ける機械でね、万が一の時の為の証拠としてその実力を発揮してくれるんだけど・・・」
「これをおねえちゃん達がバイクの話をした辺りからバイク本体の電源入れてレコーダーをREC状態にしたんだ。当然今のやり取りも録画されてる。おねえちゃん達の大胆発言といった音声もバッチリね!」
「もし・・・綾に何かあればこの内容をネットにアップさせる・・・まあ、顔くらいはモザイク処理してあげるけど、俺が見た感じそこまで綺麗な娘は見当たらなかったし、声ですぐバレちゃうかもね・・・?」
「ちょっ・・・!何よそれ!?」
「まぁ、聞いてよ。その内容に三人がかりで誘惑したのにあしらわれた憐れな女子◯生達の一部始終・・・なんてベタなタイトルだけど、あえてストレートに表現すればみんな観てくれるかな?」
「そんな羞恥プレイで恥ずかしがるであろうおねえちゃん達の姿を堪能してほくそ笑む俺・・・Sっ気あるっていったのはその為だよ。でもまぁ、恥ずかしい思いをするのは一人だけじゃないからまだいいと思うけど・・・?」
女達は少し後退りをし、怯えたような目で俺を見つめた。
「・・・でもね、俺はこんな綺麗なおねえちゃん達にこんな事するのって本当は不本意なんだよ・・・?」
「・・・でも綾を守るためには手段は選ばねーなんて、宣言しちゃったからさ・・・」
俺は返答を待たずに続けた。
「綾に何事もなければ・・・ってことも言ったから、綾に何もしでかさなければ俺はおねえちゃん達に一切関わる気はないし、何も要求もしないし指一本触れる事すらしない。これは約束するよ・・・」
俺は今度こそバイクに股がり、支度を始めながら告げた。
「それじゃ、ごきげんよう・・・」
「ま、待ってください!」
セルを回していた俺を引き留める声が聞こえた。
「・・・」
俺は黙ったまま首だけを声の方向に向けた。
「・・・あの・・・ごめんなさい!」
声を掛けたのはマイだった。
マイは深く頭を下げ、俺に謝罪の言葉を述べた。
「あ、あたし、コウさんの事が気になってるってのは本当で、あんなことあったから、みんなと、その、一人じゃ不安で・・・」
「・・・」
「水族館はあたし達がアルバイトしてて・・・それで綾ちゃんん見掛けて・・・つい、魔がさして・・・その・・・」
「マイは悪くないです!あたし達が悪ノリしちゃったから・・・でもそこまで怒るなんて思ってもなかったから・・・!」
マイに続いてフォローするように言葉を被せてきた。
「・・・もう、怒ってないよ。綾も気にしてないと言ってくれたし・・・さっきの誘惑が俺を騙すための茶番劇だったとしてもね・・・」
俺は呆れたような仕草で答えた。
「・・・そんな・・・?!ち、ちがっ・・・っ、ふえぇ・・・」
「・・・?!」
俺の台詞に突然、マイが泣き出してしまい、俺は動けなくなってしまった。
「コウさん!それ!酷くない!?」
おねえちゃんが俺に当たる。
「マイはねぇ!コウさんの事ホントに好きなんだよ!!」
(・・・酷い・・・?)
酷いというならお前らのやってきた事が綾に対してどれだけ辛い想いをさせたのかわかっているのかと・・・怒鳴り散らしたい衝動に駆られたが・・・己の感情をぶつけるような愚行に対し綾はそんなことを望んではいないだろうと・・・思いとどまった。
「・・・あたし・・・ホントに・・・コウさんの・・・こと・・・」
俺は泣きじゃくるマイに話し掛けた。
「・・・最初からそういう形で話をしてくれたなら、俺も疑心暗鬼で食って掛かったりしなかったよ・・・」
「・・・それに・・・俺は恋愛に対しては真っ直ぐでいたいから・・・マイちゃんときちんとお話しするよ・・・」
「・・・それと、おねえちゃん達にも話したい事があるから・・・今だけ静観しててほしい・・・口を挟むことがあれば話は終わり・・・俺はすぐにここから消える・・・」
「・・・う、うん・・・」
俺の願い事に二人は頷き、じっとしていた。
俺はバイクの電源を落とし、車体に対し、右側ではなく、左側から降りた。
これで俺、バイクを挟んでマイがいる。
という状態になった。
「・・・マイちゃん。俺ね、マイちゃんが俺に好意を持っててくれたって事については純粋に嬉しいって思ってる・・・決して嘘じゃない・・・」
「・・・」
マイは俯いたまま特に返事はなかったが、俺は話を続けた。
「・・・俺は綾に隠し事をしたり、騙したりしたくないから・・・マイちゃんとはお付き合いはできないんだ・・・」
「・・・たとえ友達としてもね・・・綾を不安にさせたり、心配を掛けさせたくないから・・・」
「もし、俺がマイちゃんとお付き合いしてたら綾と同じくらいの想いで接する」
「・・・マイちゃんにも・・・俺が綾を想うくらいの・・・きっとマイちゃんを大事に想ってくれる人が現れるはずだから・・・」
「・・・マイちゃんがその時に後悔しない為にも・・・もっと自分を大事にしてほしい・・・」
俺はドライブレコーダーに装着されているSDカードを取り出した。
「・・・マイちゃん、俺はマイちゃんの気持ちには応えることはできないけど・・・これは俺ができるマイちゃんに対する最大の礼儀だと思ってる・・・」
俺はSDカードを両手の指先に持ちかえ、力を込めてへし折った。
「あ・・・」
マイを含め二人も似たような反応を示した。
「・・・マイちゃん・・・右の手のひらを出してくれる?」
マイはおずおずと手を出した。
「・・・これでこのカードは二度と使い物にならない。今の動画も全部消えたから心配しないで・・・証拠としてこのカードはマイちゃんの手で処分してほしい・・・」
俺は添えるようにSDカードをマイの手のひらに置き、二人のおねえちゃん達に顔を向けた。
「・・・もし、これでも納得ができなかったら、これからは綾じゃなく俺を責めて欲しい・・・俺にできることなら言うことは聞く・・・」
「・・・俺はどうしても綾を守りたい。俺にとって大事な人だから・・・・・・お願いします・・・」
俺は頭を下げ、二人に告げた。
「・・・あ、あたしたちこれからも何もしませんからっ!!」
二人は開き直った口調で答えた。
「・・・ありがとう・・・」
俺は微笑みながら感謝の意を伝えた。
「・・・じゃあ、俺、時間だからもう行くね。これからも俺からは会うことはないけど、おねえちゃん達も、マイちゃんも元気でね・・・」
俺がヘルメットを被り、グローブをはめていたとき、
「・・・あたし、そんなの嫌!!」
俺が視線だけを向けたとき、再び泣いているマイの姿があった。
「・・・あたし!これでさよならなんて絶対に嫌!あたし、コウさんのこと諦めたくない!!」
諦めたくない!!
その言葉の前後に俺はバイクのセルを回しつつアクセルを煽り、咆哮を奏でる事でその声をかき消した。
マイは台詞と共に俺の胸に飛び込もうとしたようだが、あえて左側へと降りた俺の前にはその巨体で近づく者を阻み、咆哮という威嚇により相手を怯ませるZX-14seを前にマイは後退り、ただ立ちすくんでいるしかなかった。
その隙に俺はさりげなく、そして素早くバイクに股がり、マイと二人に対し会釈をし、首を軽くかしげながら右手でバイバイと軽く手を振った。
あえて陽気に振る舞うことで、マイの今の台詞を最初から何も聞こえてなかったように・・・。
「・・・あたしバイクで行きたいな・・・それならコウちゃんにずっとギュッてできるから・・・」
「・・・じゃあ、休憩しながらまったり行こうか?」
「うん!オッケー!!」
綾は俺と初めて逢った日に見せてくれた首を少し傾けながらながらはにかんだあの仕草を見せてくれた。
その笑顔に俺は再び電撃を受けた衝撃にかられた。
「どうしたの?コウちゃん?」
「え・・・?あっ、いや、何でもないよ!そ、それよりさっき言ってた方法なんだけど・・・もしよかったら2人きりの時にしてあげよっか・・・?」
「え、ホント!?うん!なんかドキドキしてきたぁ!」
(俺の方はバクバクしてるけどね・・・)
綾と過ごすこの時間がずっと続きますように・・・。
俺はその想いを願いへと代えた・・・。
あれから年月が過ぎ、これはごく最近のお話・・・。
俺は綾と初めて出会ったあの峠道の場所、助走台のやや先端付近に立っていた。
綾と初めて逢って以来、来たから・・・8年ぶり・・・かな。
変わった事といえば今立っている助走台が手直しされた事くらいで、そこから見渡す風景はずっと変わらない光景。
俺は綾との思い出を思い返していた・・・。
綾と初めて出会った事。
綾と初めてバイクに乗った事。
一緒に笑って、泣いて、ちょっとだけケンカして・・・初めて2人だけの夜を過ごして・・・初めて2人だけの朝を迎えて・・・その時に見た朝日は綺麗だったなぁ・・・。
そういえば・・・あの日、どうして泣いてたのかはその時はわからなかった・・・。
でも・・・理由がわかって俺が言った台詞にさらに泣かせちゃったっけ・・・。
その時の台詞は今でも記憶の片隅に残ってる・・・。
(「コウちゃん・・・ありがとう・・・」)
俺を呼ぶ・・・綾の声・・・。
現実へ戻った俺は振り返り、来た道を戻っていく。
西日からの光が台を照らし、俺の目をかすめてくる。
「眩し・・・」
すぐ目の前に髪の長い、女性のシルエットが見える。
「コウさん!怖くなかったぁ?!」
「・・・ううん、大丈夫だったよ・・・」
「どうかしたの?」
「あ、いや、お腹空いたからかな・・・つい、ぼーっとしちゃった。じゃ、行こっか」
「うん!」
俺は訳ありで車で来ていた。
少し前に車は乗り換えたけど、愛馬であるZX-14seは今でも乗ってる。
とても思い入れのあるバイクだし、俺が最初で最後のオーナーでいるつもりだ。
「ねぇ、コウさん?今度、コウさんのバイクに乗りたいなぁ・・・?」
「・・・そうだな。いつまでも考えても仕方ないし、じゃあ今度の休みの日に一緒にバイクで出掛けるか・・・」
「やったぁ!コウさんのバイク乗るの初めて!」
俺は前を向きながら微笑んだ。
「そういえば、お腹空いたって言ってたけどコウさんは何食べたい?」
「んー?・・・鶏の唐揚げ」
「えー!またぁ?!コウさんいつもそれだね!」
「大好物だからね・・・」
「そっかぁ!」
俺は少し微笑み、沈黙のまま、ハンドルを握り続けた。
「・・・すー、すー・・・」
俺の耳に静かな寝息の音が入ってきた。
「・・・ゆっくり休んで・・・」
(そういえばあの時も同じこと言ったっけ・・・)
俺は再び沈黙を保った。
「・・・ん・・・あたし・・・寝ちゃってたの?」
「起きた?はい、これ」
俺はペットボトルの飲料水を手渡した。
「んー・・・?」
「どうしかした?」
「なんだろう・・・?前にも同じことがあったような気がする・・・」
「そう?」
俺は前を向いたまま答えた。
「・・・ふあぁ、おはよ・・・あっ、お母さん起きたの!僕も今起きたんだよ!コウさんはずっと起きてたけどね!」
「てか運転中の俺が寝てたらマズイでしょう?」
「眞紘(まひろ)はコウちゃんの事、コウさんって呼ぶのがクセになっちゃったね」
「お父さんって教えた時にあたしが普段コウちゃんって呼んでたから混ざっちゃったみたい」
「ふっ・・・俺は気に入ってるよ。お父さんって呼ばれるより友達みたいな親子になりたかったから」
「なっ、眞紘!」
「うん!コウさんはコウさんだもん!」
眞紘は元気よく返事をしてくれた。
「そうそう!お母さん!僕が今度バイクに乗せてってお願いしたら今度の休みにコウさんがバイクに乗せてくれるって!」
「えー!?大丈夫なの?あなたがまだ小さいからってコウちゃんいつ頃に乗せるかずっと考えてたんだよ?!」
「いや、そろそろ大丈夫かなって思ってね」
俺は眞紘を横目で見ながら答えた。
「お母さんだってずっとコウさんのバイク乗ってたっていってたじゃん!」
「それはそうだけど・・・」
「大丈夫だよ。安全運転するからさ」
「・・・うん、わかった・・・」
「じゃあ、ヘルメットのサイズ合わせるのに髪切っとかないとな」
俺は眞紘の頭を撫でた。
「あたしも髪、切ろうかなぁ、今まで何となく切りそびれちゃったから・・・けっこう伸びちゃった」
「え?!お母さん、髪短かったの!?」
「そうよぉ!コウちゃんも可愛いって言ってくれたんだからぁ!」
「俺が・・・?!言ったっけ・・・?」
「ひどぉい!あたしと最初に会った日に可愛いって言ってくれたじゃん!」
「そういや、言ったかも・・・」
俺はふと思い出した。
「あっ!そういえばコウさんね!お母さんの作った唐揚げ食べたいんだって!」
「え?!あたしの?」
「うん、俺、綾の作ってくれた唐揚げが一番の大好物だからね!」
「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ今日はコウちゃんの為にいっぱい作ってあげる!」
「マジ!やった!」
「あー!コウさんズルい!」
「ふっ・・・悔しかったらお前もこんな嫁さん見つけるんだなぁ?」
「じゃあ・・・眞紘にはオムライス作ってあげる!」
「やったぁ!」
「ええ!?なんだよそれぇ!」
息子とガチで張り合う大人げない俺がいた。
「心配しなくてもコウちゃんにもちゃんと作ってあげるよぉ!」
綾は笑いながら言った。
「綾。じゃあ食材の買い出しは・・・いつものスーパーでいいかな?」
「うん!オッケー!」
(・・・あ・・・まだドキドキしてる・・・)