「ゆっくり、丁寧な誘い」がはなむけの高級魚と胃袋を釣り上げた話

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前作を評価していただいた皆様に感謝します。

今回は「デリヘルのお気に入りの子に魔法をかけられた」から時間がさかのぼり、10年前から始まる自分自身のダークストーリーです。

自分の闇を超えていくために、ここに書き残します。

最後に、魔法使いの”あの子”が少し登場します。

10年前、日本が未曾有の自然災害に襲われ、出口を見出せなかった頃。

”中年”の始まりぐらいの年齢だった自分は、混乱と絶望の闇の中に落ちた。

その時はまだ婚約者だった優子との最後の交わり。

思い出したく無い記憶なのに、鮮明に覚えている。

10年前、秋の始め頃だった。

ひさしぶりに早く仕事が終わったので、1時間車を走らせて相手の家にむかった。

道中で車内にキンモクセイの香りが入り込んできた。

中途半端に掃除された、湿った匂いのする部屋に迎え入れられた。

装飾が過度で非機能的な家具、調度品が並んだ部屋。

飾り立てられているのに、組み合わせが気分を沈ませる部屋だった。

当時は気づかなかったが、今はわかる。

ラブホの雰囲気と似ていたのだ。

風呂をすすめられ、短時間で入った後で”お礼”と称して風呂掃除をした。

”お礼”ってのは嘘、単純に快適で無かったので修正する作業だった。

手を動かしながら、仕事が忙しいのだろうと想像していたが、真実はたぶん違う。

リビングの座卓で有名な地鶏の取り寄せで作ったという鍋をつついた。

この女の作る食事は、そういえば、いちから自分で作ったものはほぼ無かった。

手作り感を演出するが、出来合いのものを混ぜるだけの料理ばかり。

味が良いことを強調したが、それは知らない誰かが調整したものだ。

柑橘類やら、香辛料で素材の味を際立たせることをすすめる女だった。

当時は味音痴だったので従っていたが、素材が良い時には食材の本来の味を見失わせる愚行だ。

食後にリビングで興味のわかないTVドラマを見終わったところで、求められて行為を始めた。

ベッドではない場所が良い理由があったのだろうと、今は思う。

テキトウなルーティーンの後に、背後から重なった。

「もっと。強く…。奥に…。」

年齢と不似合いな甘ったるい、鼻にかかった声が途切れ途切れに求めた。

それは自分にむかっていたのだろうか。

肌の色は自分の方が白かった。

女の濃い肌色の背中と、メタボになり始めて弛緩した自分の腹部の白さが作る視界のコントラストは、不自然だった。

女の高く、鋭利なプライドが濃い肌色の腰をくびれさせており、そこを鷲掴みにして突き出すたびに、ウェーブしたダークブラウンの長い髪が背中で弾んだ。

お互いの表情は見ないまま、バウンドを、加速する。

甘ったる過ぎる声が、虫の鳴き声のように変化して、高まっているように感じた。

自分は頭の片隅で、中学生の時に夢中になった短距離走を思い出していた。

加速する自分に満足し、ゴールに近づくと周囲の熱を感じた短距離走。

スポーツライクに、新しい、強い刺激を求める交わりを繰り返していた。

その日もゴールテープを切るように、ラテックスで覆われた中にほとばしった。

息は上がっていたが、自分の体重をかけないように気をつけながら、空いた左手で人為的と感じるくびれを義務的に、抱え寄せた。

数秒。

自分が暖かい中から抜け出した時に、自分とずれたタイミングで女が頂点に達することが何度かあった。

その時も、抜け出すタイミングで達したと、かすれた甘い声がからみつくように言った。

こうして今、思い返しても全てのパーツが、一個たりとも噛み合っちゃいない。

当時の自分だけが、時間をかけてパーツを擦り合わせて、馴染ませていくのだと勘違いしていた。

名前の漢字を尋ねたときに、甘ったるい声で「やさしい子と書いて、優子」とか言ったことがあった。

そんなことを自ら進んで口に出す女。

あの最後の交わりを重ねた日、既に女は”人外の獣”であった。

自分以外のDNAを受け入れ済みであった。

2週間後に女の家に程近い公園に来るように、メールで連絡してきた。

要件はその場で伝えると。

仕事終わりにイライラしながら車で1時間走り、22時に近い時間に公園についた。

また、キンモクセイの香りがしていた。

近くに駐車場が無く、路上駐車した。

そこで何をするつもりか、自分には全くわからなかった。

先に待っていた女の表情は硬く、暗かった。

それまで知らない表情。

「季節遅れの花火でもしながら、ビールでも飲みたいんか?」と声をかけた。

首をふっただけだった。

ベンチに座るように促され、少し間があった後に甘ったるい声が、かぼそく、震えながら、しぼり出すように話始めた。

「妊娠してる。」

「父親はあなたと別の人。」

「あなたとの子どもじゃ無い。その人との方がうまくいく。」

「だから婚約を清算して。」

「終わりにして欲しい。」

下を向いて、罪悪感があるかのような、ポーズをとっていた。

(言い切った瞬間に、心の中ではガッツポーズしてたんじゃないかと、今は思います。)

その時の自分の頭は、怒りを通り越して冷めていて、”そこは清算じゃなくて解消って言うんだ、馬鹿”と思っていた。

感情が停止した瞬間だった。

お互いの両親に会って、報告して、指輪を買っていただけだった。

仕事関係者にはいつ伝えるかって話が、途中で止まっていた。

その先のいろいろに踏み込んでいないことが幸いだったと、今は思う。

両親への説明はお互い自分の両親だけに別々に済ませる、損害賠償とかする気は無い、指輪はそれぞれ処分することを自分が主導して決めてしまった。

最後に女がもう1回しぼり出すように、小さく「もうここには来ないで欲しい。」と言って、帰っていった。

そこから、どうやって自分の家に帰ったかは、全く記憶にない。

家のリビングで焼酎を飲んだ。

たぶん、それがまずかった。

女に電話して、いつから別の男と関わっていたかだけ、聞き出そうと思ってしまった。

たぶん、明け方に近い時間。

最初のコールには出なかった。

2回目のコールに出た。

「こんな時間に電話するのおかしいでしょ。」

「電話もやめて。」

強い口調で言い切って、電話は切れた。

次の日、明らかな二日酔いで出勤したところ、当時の上司に呼び出された。

女は同じ会社の別営業所勤務だった。

その営業所のトップから上司に、自分がストーカー行為をしているので処罰して、ストーカー行為をやめさせるように連絡が入っていた。

「向こうには謹慎処分にしたと伝えるが、俺は何もしない。」

「3日間有給をとれ。」

そのまま帰宅した。帰宅後に濃い酒を飲むことは上司に禁じられ、さらに終業後に上司自ら家に確認しに来ると言われた。

家でぼんやりしつつ、女と関連するものを1個ずつ処分するしかやることが無かった。

夕方、家にやってきた上司は手際よく野菜スープを作りながら、自分も元妻に浮気された経験者であること、離婚後に精神的にやられていたこと、数年前に今の奥様と再婚できたことをぽつぽつ話した。

聞きながら、泣きそうな気分になったが、一方で心が動かない感じがした。

出来上がったスープを食べながら、次の週末は上司と一緒に海で船釣りをし、その後に魚料理を教えられることが決められてしまった。

3日の有給休暇は釣りと料理の準備をするスケジュールで埋められてしまった。

最初はキス釣りで、キスの天ぷら。

翌週はアジ釣りで、アジの刺身・なめろう。

カワハギ、カレイ、イナダ(ブリの子供)と釣り・料理のハードルは徐々に上がっていった。

釣り、料理のどっちかがイマイチだった時は、翌週も同じ釣り、料理を繰り返す。

そして、秋から冬に差し掛かる頃、ターゲットがアマダイになった。

漢字では甘鯛、独特の顔付きであるが、高級魚で食味は最高である。

釣りの難易度はやや高い。

上司の教えは「丁寧に、ゆっくりと誘うんだ。」、つまり針についたエサをじわりじわり動かせとの指示。

魚が食いついてこなくても、ひたすらにゆっくり、丁寧にやれと。

アマダイ釣りと自分の相性は初回から良く、中型サイズ4尾をしとめた。

難儀だったのは、その料理。

今までに触れたことの無い、水分含有量の豊富な、柔らかすぎる特殊な身質。

ぼろぼろになった身しかとれなかったが、その味覚は極上だった。

そこから、単独でもアマダイ釣りに出撃し、釣り・料理を上達させることに没頭する日々が始まった。

釣りのための道具以外はどうでもよくなって、衣類はmontbell、ユニクロにほぼほぼ入れ替わった。

料理に関しては、徐々に厳選して良い道具をそろえたが、問題となったのはキッチン。

魚をさばきつつ、並行して調理ができるスペースがキッチンに必要でした。

物件情報を眺め続ける日々が続き、現在の住居にたどりついた時には4年が経過していました。

転居の際に、前の賃貸住宅で使用していた家具類は全て処分しました。

すっからかんの新居で本当に必要なものだけを購入していきました。

完成した自分の居場所は、あの”湿った匂いのする部屋”と完全に対局に位置する環境でした。

時間の経過とともにエロスを求める感情もむくむくと回復しましたが、恋愛のステップは自分にとって、あの闇を思い出させるトリガーでしかありませんでした。

エロスを求めるエネルギーは、風俗の世界に向かう逃避行動を後押ししていきました。

お手軽だったのが、デリヘルの世界。

ラブホに出かけて交わりを重ねましたが、装飾が過度で非機能的な家具・調度品が並んだ部屋はどこか暗い気持ちにさせられて困りました。

そしてあの感染症が蔓延し、デリヘルを利用する生活が一旦停止したのでした。

そして、時間は前作でワープさせた時につながります。

色白、清楚系、身長は中ぐらい、肩までの黒髪ストレートヘアに柔和な顔立ちのあの子を何度か家に招いた後です。

感染症が蔓延していた時期は釣りも控えていました。

季節は秋の終盤、アマダイ釣りのシーズンが始まっていました。

あの子と会った翌日に、久しぶりにアマダイ釣りに出かけました。

忘れていた、ゆっくり、丁寧な魚を誘うアクション。

その次にあの子を家に招いた日、ニッコリしながら「上手になった。」と言われました。

ゆっくり、丁寧なアクションに反応したようです。

魔法が発動する前日、自分はまた釣りに出かけていました。

アマダイには食味の上位互換種がいて、名はシロアマダイ。

生息数が少なく、なかなか手に入らない魚。

その日は何故か、小さなシロアマダイを1尾手にいれました。

あの子をねぎらう、はなむけの食材にしました。

前日、丁寧な仕込みをして、素材を生かす最小限の味付けで2品を用意しました。

翌日、FMラジオが流れる部屋にあの子は、「ただいまっ」て言いながらすごい勢いで部屋に入ってきました。

お互い顔を見合わせて、大爆笑。

魔法を発動させた後、落ち着いた時のあの子の言葉は「胃袋はつかまれてた。」でした。

闇の中で知らず知らずに磨き上げられた技は、少しだけ届いていたようでした。

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